Chick Corea Elektric Band
エレクトリック・ジャズと言えば、1に「マイルス」、2に「チック」、3,4が無くて、5に「ザビヌル」というのが僕の信条。あれ〜、ハービーがいない、と言われそうだが、ハービー・ハンコックは、エレクトリック・ジャズをトレンドでクールなものとして捉えていたところが「選に漏れた」理由。
しかしながら、マイルスの薫陶を受けて、エレクトリック・ジャズの範疇で、マイルス・スクールの優等生だったのは、チック・コリアとハービー・ハンコックの二人だろう。マイルスも、この二人については認めていたように思う。チックはビートと歌心を重視し、ハービーはトレンドでクールなものとして捉えた。これは、どちらもマイルスの薫陶の成せる技である。
そんなチック・コリアの面目躍如たる、1980年代最大の成果が「Chick Corea Elektric Band」である。ちなみに、バンド名のスペルの「elektric」はミススペルではない。これが正しい。チックが、ベースのジョン・パティトゥッチ、ドラムのデイヴ・ウェックルという精鋭と出会って結成したエレクトリック・バンドである。
ファースト・アルバムは、バンド名のまま、ズバリ『Chick Corea Elektric Band』(写真左)。1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、以下の通り。
Chick Corea - keyboards, Synthesizer Programming
John Patitucci - Electric and Acoustic Basses
Dave Weckl - Acoustic and Electric Drums, Percussion
Scott Henderson - Guitar (Appears on "King Cockroach")
Carlos Rios - Guitar (Also appears on "Side Walk", "Cool Weasel Boogie" and "Elektric City")
このChick Corea Elektric Band、当初はキーボード、ベース、ドラムのトリオ編成でやりたかったらしい。この話は、また後日語りたいが、さすがに、複数のキーボードをライブで操るのはしんどい。よって、ファースト・アルバム収録時にギターを加えた、カルテット構成にしたらしい。旋律部分の役割分担をギターとすることによって、演奏全体がスムーズに流れるようになっている。
この『Chick Corea Elektric Band』は、リリースと同時に手に入れた。但し、当時、このアルバムを聴くまでは、「エレクトリック・バンド」と言われても、1970年代のチックのエレクトリック・キーボードの演奏を散々聴いて来ただけに、「また、1970年代のエレクトリック・チックのリバイバルかいな」と思いつつ、チック者である僕としては、チックの成果は「なんでも通し」なので、実のところ、ワクワクしながら、CDのスタート・ボタンを押した。
スピーカーから出てきた音に「驚愕」した。なんやこれは。バンド名がズバリ「エレクトリック・バンド」なので、フュージョン・チックは、耳当たりの良い、メロディアスな演奏を想像していたのだが、とんでもない。バリバリ硬派なエレクトリック・ジャズが耳に飛び込んできた。そして、なによりも、チックのエレクトリック・キーボードの使い方と、紡ぎ出すフレーズのセンス、ユニゾンとハーモニーの作り方、インプロビゼーションの色彩豊かな音色、変幻自在のピッチ。チックのキーボード奏者としての知識とセンスに、ただただ「すげーっ」と脱帽である。
収録されたどの曲も「格好良い」。コンポーザー&アレンジャーとしての才も豊かなチック・コリアの面目躍如といえる曲作り。おきまりのスパニッシュ・タッチの4曲目「Got A Match?」は、アルバム収録曲中のハイライトのひとつ。超絶技巧なスパニッシュ・タッチの演奏は、第2期RTFをも凌駕する内容。もう悶絶かつ、ひっくり返りそうな演奏である。
デイブ・ウェックルの奔放なドラムは、独特のリズム&ビートを叩きだしている。オフ・ビートというよりは、パルシブなドラミングは、エレクトリック・バンドの演奏を単にジャズの範疇に留まらせない。ロックと良い位に、ストイックなジャジーなビートが、実に尖っている。
ジョン・パティトゥッチの、超絶技巧で緻密なエレクトリック・ベースも凄い。エレベといえば、ジャコ・パストリアスで決まり、という雰囲気のところに、パティトゥッチがガツンときた。ジャコとはアプローチが全く異なる、それでいてメロディアスで歌うようなベース・ライン。まだまだ、ジャズの世界でエレベは「のりしろ」があると思った。
リリース当時は、なぜかジャズ者の中では評判は良くなかった。が、今の耳で聴いても、その凄まじい印象は変わらない。このアルバムを超える、エレクトリック・ジャズなアルバムは、なかなか出てこないのが現状である。1986年当時は先進的過ぎる内容だったんだろう。僕は、1970年代、プログレとエレ・マイルスで鍛えられていたので違和感はなかったが、フュージョンなソフト&メロウな演奏に耳馴れた方々には、かなりきつい演奏だったに違いない。
それほど、この『Chick Corea Elektric Band』は、硬派な、硬派すぎるほど硬派なエレクトリック・ジャズである。ゆめゆめ、チックのファンタジックな世界をイメージして聴こうとするなかれ、である(笑)。
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