唯一無二な、過激な個性
1960年代中盤〜後半にかけて、ジャズ界は、ジャズのスタイルは大きく複雑多岐に変革した。
ポップな要素を強く求める聴き手に迎合した「ファンキー・ジャズ」が隆盛を極め、そこから「ソウル・ジャズ」へと発展する。逆に、ジャズに芸術性を求め、あくまでハードバップからの伝統的な展開を求める向きには「モード・ジャズ」、ジャズにネイティブでエモーショナルな感情を求める向きには「フリー・ジャズ」。
僕は、ジャズのど真ん中を踏襲する「モード・ジャズ」が一番感覚に合う。マイルスのギリギリ伝統的なマナーに留まった、ほどんどフリー・ジャズと言って良い位の「モード・ジャズ」が一番好きである。そして、マイルスに同じく、ギリギリ伝統的なマナーに留まってはいるが、マイルスとは違って、ほとんどアブストラクトで個性的な演奏を展開するエリック・ドルフィーも大好きである。まあ、マイルスは、ドルフィーが大嫌いだったみたいだが・・・。
確かに、エリック・ドルフィーのアルトもフルートもアブストラクトの極致である。おおよそ、クラシックな協調和音的な音程からは大きく逸脱した、それでいて、きっちりと正調な旋律の展開は維持している、という実に捻くれた、実に変わった個性的な演奏スタイルである。
どうやれば、これだけ正調な旋律を維持しながら、なにか法則でもあるかのように、きっちりと音程を外しながら演奏できるのか、理解に苦しむのであるが、ドルフィーはそれをいとも簡単に、当たり前の様に、アルトをフルートを吹き進めていく。
今日聴いたアルバムが、エリック・ドルフィーの『Berlin Concerts』(写真左)。1961年8月30日の録音。場所は当然ベルリンは"Club Jazz Salon"での録音。ちなみにパーソネルは、Benny Bailey (tp) Eric Dolphy (as, bcl) Pepsi Auer (p) Jamil Nasser (b) Buster Smith (ds)。
1961年のライブ演奏とは思えない位の、相当にアブストラクトな演奏である。これだけアブストラクトな演奏が出来るミュージシャンは、当時、ドルフィーの他にはいなかっただろう。
ほとんどフリー・ジャズと言っても良い位なんだが、正調な旋律を維持しながら、なにか法則でもあるかのように、きっちりと音程を外しながらの演奏は、しっかりと「モード・ジャズ」を踏襲しており、しっかりとジャズの伝統的演奏スタイルを維持しているところが、これまたユニークなのだ。
クラシックな協調和音的な音程からフラットに外れた音色は、ジャキー・マクリーンを彷彿とさせるが、マクリーンよりもドルフィーの方が外れ方が大きい。それでいて、正調な旋律を維持しているのだから、ドルフィーって、どういう音感をしていたんだろう。これだけ、フラットに音程を外しながら、さも当たり前の様に、高速に旋律を吹き上げて行く、ドルフィーの音感は凄い。これはもう天才のなせる技である。コルトレーンをもってして、歯が立たなかったことも容易に理解できる。
そして、ドルフィーのフルートも凄い。正調にフルートを吹く雰囲気は、実に正統なフルートを、実に野太く吹き上げて行く。ドルフィーほど、フルートを野太く吹き上げるミュージシャンを僕は知らない。そして、エモーショナルな展開については、その強烈に吹き上げる音は、ほとんど肉声に近い。というか、これはもう、フルートを通した肉声だろう。素晴らしくエモーショナルなドルフィーのフルート。これはもっともっと評価されても良い。
良いアルバムです。確か、LP時代は2枚組だった記憶があります。よって、結構盛りだくさんでボリューム一杯という内容ですが、決して、耳にもたれることもなく、決して、聴き飽きることもない。ドルフィーの個性が満載で、ドルフィーの入門盤としても最適な一枚だと思います。
ジャズ者初心者の方々には、このドルフィーのクラシックな協調和音的な音程から、フラットに外れた音色を受け入れられるかどうかが鍵だろう。フラットに外れ続けてはいるが、正調な旋律をしっかり維持しているところを感じ取れるかどうかがポイント。
意外とすんなり受け入れられるか、受け入れるのに結構時間がかかるか、のどちらかでしょう。あいまいに雰囲気だけで、その「好き嫌い」を適当に判別できるほど、ドルフィーは安くはありませんぞ(笑)。ドルフィーには、真剣に相対して下さい。
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