『Evening With Herbie Hancock & Chick Corea』
ジャズを聴き始めの頃は、ジャズ盤の良し悪しもなかなか判らない。そんな時、ジャズ界のビッグ・ネーム同士のコラボ盤となれば、とりあえず飛びついてみたりする。そして、その内容が良ければ、何となく、ジャズがちょっとだけ判った気分になって嬉しくなる。
ハービー・ハンコックとチック・コリアのデュオが、僕にとって「そんなアルバム」の一枚だった。1978年の録音である。ハービーのV.S.O.P.クインテット結成をきっかけに、純ジャズ復古の動きが始まった頃ではあるが、それにしても、かなり唐突なチックとのピアノ・デュオによる競演であった。
そのライブの様子を収録した盤のひとつが『Evening With Herbie Hancock & Chick Corea』(写真左)。このLP2枚組は、CBSソニーからのリリース。つまり、ハービー陣営からのリリースである。実はもう一つ、ハービー・ハンコックとチック・コリアのデュオのライブ盤がある。ポリドールからのリリース。つまり、チック陣営からのリリースである。
この『Evening With Herbie Hancock & Chick Corea』は、CBSソニーからのリリースなので、ハービー陣営からのリリース。つまりは、ハービーがメインに据えられたライブの音源を中心に収録されていると考えるのが普通。つまり、ハービーのピアノが全面に出る、ハービーのピアノの出来が良いものを中心に選んでいると考えるのが普通。
確かに、このデュオ・ライブ盤、ハービーとチックのピアノ・プレイが素晴らしい。このデュオ盤のリリース当時、ジャズ・ピアニストは、こんなに上手いんだと感心した。ピアノと言えば、クラシック・ピアノしか知らなかった僕は、この二人のデュオ・プレイには度肝を抜かれた。上手い。とにかく上手い。しかも、クラシックよりも自由で力強い。しかも、素晴らしい程のテンションの高さ。これがジャズ・ピアニストの実力か、と本当に心から感服した。
そりゃ〜そうだ。チック・コリアはジュリアード学院出身。ハービー・ハンコックは、7歳でピアノレッスンを始め、11歳でシカゴ交響楽団と共演した程の天才ピアノ奏者である。両者共に、ジャズを志すこと無しに、クラシックを目指せば、やはりそれなりのピアニストになっていただろう。
収録曲を並べると以下の通り。リリース当時、LP2枚組だった。
【ディスク:1】
1. Someday My Prince Will Come
2. Liza (All The Clouds'll Roll Away)
3. Button Up
【ディスク:2】
1. Introduction Of Herbie Hancock By Chick Corea
2. February Moment
3. Maiden Voyage
4. La Fiesta
なかなかの選曲である。ロマンティシズム溢れる「Someday My Prince Will Come」を現代音楽風に、硬調かつフリー調で展開しつつ、しっかりと原曲の旋律の良さを惹き立たせるアレンジはハービーの功績だろうか。しかし、硬調かつフリー調で展開するところは、絶対にチックやな。
2曲目の「Liza」は楽しさ溢れるデュオ演奏。お互いの力量が類い希なレベルであるからこそ展開出来る、ピアノ・デュオ。唯一無二、類い希なピアノ・デュオであることを、この「Liza」を聴くことにより再認識する。
ハービーのオリジナル名曲「Maiden Voyage(処女航海)」がラス前を飾る。これも、ピアノ2台を前提にして、実に良くアレンジされている。その優れたアレンジの上に、ハービーとチックが、各々のテクニックを駆使して、インプロビゼーションを展開しまくる。ここでも、しっかりと原曲の旋律の良さを惹き立たせるアレンジが見事。
極めつけは、チックの大名曲「La Fiesta(ラ・フィエスタ)」。僕はこの曲が大好きで、と言うか、心から心酔している。この曲が演奏され収録されていたら、どんな盤でも愛聴盤になってしまう。そんな「大のお気に入り」曲である。これが、まあ、ハービーとチックが素晴らしいデュオ演奏で、ガッシガッシとインプロビゼーションを展開していく。
全体的に内容も良く、二人のテクニックも抜群、初競演ツアー時のライブ演奏の収録とあって、二人の演奏のテンションも抜群。収録曲のアレンジも良く、演奏そのものも判り易く、ジャズ者初心者の方々にも安心してお勧めできる、ジャズ・ピアノのデュオ盤です。
えっ、ハービーとチック、どちらのピアノに軍配が上がるのかって。そんな野暮なことは言いませんよ。どちらも、それぞれのジャズ・ピアニストとしての特質を良く表現しています。双方、甲乙付け難い盤が、このCBSソニーからの『Evening With Herbie Hancock & Chick Corea』です。
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