『At Fillmore: Live at the Fillmore East』
LP時代とCD時代との大きな違いは「収録時間」。LPは片面25分程度が限界。CDは連続70分程度の収録が可能。この連続収録時間の差が一番活きるのがライブ音源。
CDの圧倒的な連続収録時間は、長尺ライブ音源の収録に影響を及ぼした。極端に言えば、連続70分のライブがそっくりそのまま収録できる。ハードバップのジャムセッションでも長いものは10分程度あるが、それが7本収録可能。エレクトリック・ジャズのライブだった長いものは10分程度あるが、これも同様。このCDで伸びた飛躍的な連続収録時間は、マイルス・ディヴィスのライブ音源にも好影響を及ぼし、ノーカットのライブ音源がCD時代になって、リリースされるようになったのは周知の通り。
逆にLP時代は、エレクトリック・マイルスのライブをそのまま収録することは可能ではあるが、LP片面を消費する。LP時代は基本的に2枚組が販売の限度なので、4〜8曲程度しか収録できない。しかも、ライブ音源は、当然、冗長な部分なども含まれるので、ライブのハイライトの全てが収録されないリスクもある。LP時代、長尺のライブ音源を収録することは、基本的に出来なかった。
ここに、マイルス・ディヴィス(Miles Davis)の『At Fillmore: Live at the Fillmore East』(写真左)というアルバムがある。エレクトリック・マイルスのライブ音源を収録したLP2枚組のアルバムである。このアルバムは、LP時代のLPの収録時間の制約を受けて、プロデューサーのテオ・マセロが知恵を捻りに捻った、英知の結晶の様なライブ盤である。
収録されたライブ音源の収録時間を見ると、これはどう見ても、ライブ音源の「継ぎ接ぎ」=「コラージュ」である。プロデューサーのテオ・マセロが、ライブ音源から、マイルスの格好良い部分、マイルスの演奏の素晴らしい部分、ライブ演奏のクールな部分を切り取って、それぞれのライブ開催日毎に編集した、プロデューサーのテオ・マセロの努力と才能の結晶である。
時は1970年。ビートルズを切っ掛けとして、ロックの台頭激しく、マイルスとしても、ロックを凌駕するエレクトリック・ジャズをもって、ロック・ファンの若者に目に物見せてやる、って、やる気満々だった訳で、ジャズ・ライブの冗長な部分を切り捨てて、ライブ音源の「継ぎ接ぎ」=「コラージュ」をしてまで、エレクトリック・マイルスの真髄をアルバムで見せつけたかった。そんな野望が見え隠れする素晴らしい「エレ・マイルス」のコラージュである。ちなみに収録曲と収録時間は次の通り。
【Disc One】
Wednesday Miles (17 June 1970)
1. "Directions" (Joe Zawinul) (2:29)
2. "Bitches Brew" (0:53)
3. "The Mask" (1:35)
4. "It's About That Time" (8:12)
5. "Bitches Brew/The Theme" (10:55)
Thursday Miles (18 June 1970)
6. "Directions" (Joe Zawinul) (9:01)
7. "The Mask" (9:50)
8. "It's About That Time" (11:22)
【Disc Two】
Friday Miles (19 June 1970)
1. "It's About That Time" (9:01)
2. "I Fall in Love Too Easily" (Jule Styne, Sammy Cahn) (2:00)
3. "Sanctuary" (Wayne Shorter) (3:44)
4. "Bitches Brew/The Theme" (13:09)
Saturday Miles (20 June 1970)
5. "It's About That Time" (3:43)
6. "I Fall in Love Too Easily" (Jule Styne, Sammy Cahn) (0:54)
7. "Sanctuary" (Wayne Shorter) (2:49)
8. "Bitches Brew" (6:57)
9. "Willie Nelson/The Theme" (7:57)
マイルスの格好良い部分、マイルスの演奏の素晴らしい部分、ライブ演奏のクールな部分ばかりを切り取って、コラージュしたので、そのテンションたるや凄まじいものがあり、LP2枚分を一気に聴き通すとドッと疲れる。そして、テンション高いマイルスのペットが、様々な音色で、常に鳴り響いているので、とにかく「賑やか」(笑)。精神的にテンション低い時に聴くと、ちょっと辛いかも(笑)。
良い意味でも悪い意味でも、ライブ音源の「継ぎ接ぎ」=「コラージュ」なので、記録性・真実性に欠けますが、エレクトリック・マイルスを垣間見るには絶好の、「エレ・マイルス」のショーケースの様なライブ盤です。マイルスを全面に押し出した分、サックスのグロスマン(Steve Grossman)が割を食っていますが、当時のLPの収録時間を考えれば、それはそれで仕方が無いでしょう。でも、グロスマン、このライブLP2枚組を初めて聴いた時はビックリしただろうな(笑)。
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