晩秋の夜長に染みわたる・・・
寒くなった。まだ11月の中旬なんだが、今年は寒くなるのが早い。夜が来るのも早くなった。もう夕方の6時で真っ暗である。寒くて暗い、実に淋しい晩秋である。
しかし、僕はこの晩秋の季節が意外に好きだ。とても物寂しいんだが、心が穏やかで、音楽を聴くのに、本を読むのに、感覚が他の季節より、研ぎ澄まされているようで、音楽や本の感動がすんなり心に滑り込んでくる。この「すんなり」滑り込んでくる感覚は、この晩秋の季節ならではのもの。
そんな僕にとっての「晩秋」にピッタリのアルバムが何十枚かある。そんな何十枚かの中の、とびきりのジャズ・アルバムの一枚が、Bill Evans & Jim Hallの『Undercurrent』(写真左)。現代ジャズ・ピアノの発祥・ビル・エヴァンスとギターの職人・ジム・ホールの二人のコラボレーション・アルバムである。
このアルバムについては、様々なジャズ紹介本や入門本で採りあげられ、その内容については語られ尽くされた感があるので、ここでは細かくは述べないが、このデュオ・セッションの内容は奇跡に近い内容が詰まっている。
ピアノとギターは非常に良く似た楽器である。単音のみならず和音もでる。アルペジオも出来る。弦を掻きむしることもできるし、和音を連続して弾くことで、リズム楽器としての機能を果たすことも出来る。音のスケールも良く似通っている。つまり、ピアノとギターはあまりに似通っているので、デュオでコラボすると、音がぶつかるのだ。
ジャズの世界では、楽譜の無い、インプロビゼーションが中心の演奏であるが故、ピアノとギターのデュオは数少ない。クラシックは楽譜があるので、作曲し、楽譜に落とす段階で、ピアノとギターの音の衝突は事前回避できる。よって、クラシックの世界では、ピアノとギターのコラボはある。
しかし、ジャズは再現性の無い、インプロビゼーションの世界。よっぽど、お互いの音の出し方の癖や好みなどを知り尽くし、お互いのテクニックが抜きんでていないと、必ずと言って良いほど音がぶつかる。音がぶつかると聴いていて違和感を感じる。演奏している方だって、音がぶつかると、とっても気持ちが悪い。
しかし、このアルバムでは、このピアノとギターの音のぶつかりが見事なほど回避されている。といって、エバンスとホールは、ある一定期間、演奏活動を共にして、ギグを繰り返し、デュオの感覚を積み上げていった訳では無い。1962年4月24日に「Sound Makers」というスタジオで顔を合わせて、いきなりこの難度の高いデュオ演奏にチャレンジした。
奇跡的な演奏は、冒頭の「My Funny Valentine」。この演奏のテンポの速さは異常である。この速いテンポの中で、エバンスとホールは、限りなくテンション高く、呆れかえるほどの高度なテクニックを駆使し、他の追従を決して許さない、凄まじい内容のデュオ演奏を繰り広げる。何度も言う。このテンポの速さは異常である。故に、この「My Funny Valentine」は、ジャズのインプロビゼーションの中で、ピアノとギターのデュオ演奏として、史上最高の傑作として君臨している。
2曲目以降は、さすがに、スローテンポからミドルテンポの演奏に終始しているが、今度は、このスローテンポからミドルテンポの演奏の中で、お互いに「絶妙の間」を活かした、非常にスリリングでありながら、余裕のある、唯一無二の、優しく荘厳な内容のデュオ演奏を繰り広げる。決して、音が変にぶつかることは、ここでも「無い」。例えば、5曲目の「Skating In Central Park」なぞ、絶品中の絶品。絶妙の間、柔らかな絡み、そして心地良い響きのユニゾン&ハーモニー。
緩急の妙。アレンジの妙。このBill Evans & Jim Hallの『Undercurrent』は、冒頭の高速テンポの奇跡的なデュオ演奏「My Funny Valentine」で「歴史的な名盤」となった。そして、2曲目以降のスローテンポからミドルテンポの優しく荘厳な内容のデュオ演奏によって「ジャズ者達の愛聴盤」となった。
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