ピアノ・トリオの代表的名盤・16 『Alexander Trio Live!』
大変久しぶりに「ピアノ・トリオの代表的名盤」シリーズ。今年の6月6日以来の復活。第16回目である。
今年の夏は酷暑でしたからね。この酷暑が去るまで、ピアノ・トリオを落ち着いて愛でる時間がなかなか無かったような気がします。それと「ピアノ・トリオの代表的名盤」としては、前の15回シリーズで、まず第一グループとしての「ピアノ・トリオの代表的名盤」は押さえることができたのではないか、ということで、暫く、次の展開についての仕込みをしていました。
この「ピアノ・トリオの代表的名盤」シリーズは、ジャズ者初心者の方々が、ピアノ・トリオが良いのですが、松和のマスターとして、お勧めのピアノ・トリオとして、どんなトリオがありますか、との質問が多く、その質問の回答として答えていた「ピアノ・トリオのアルバム」をブログ記事として書き留めていったものです。
ジャズ者ベテランの方には、この「ピアノ・トリオの代表的名盤」のアルバム選択に異論のある向きもあると思いますが、主旨としては前述の様な主旨なので、ジャズ喫茶のマスターとして、趣味性が希薄な部分は平にご容赦を・・・(笑)。
さて、今回は、Monty Alexander『Montreux Alexander Trio Live!』をご紹介しましょう。Monty Alexanderは「モンティ・アレキサンダー」と読みます。Monty Alexander は1944年ジャマイカ生まれで、首都 Kingstonで富裕な層に育ったそうです。アルバム・ジャケットで見て取れる風貌は、まるで「ジョージ・ルーカス」(笑)。なかなか貴公子然としていますが、当時は1976年。今では白髪の良く似合うオッチャン(写真右)ですが、いやはや、貫禄がつきましたなあ(笑)。
モンティのジャズ・ピアニストのスタイルとしては オスカー・ピーターソンの直系に位置されています。テクニック抜群、力強いタッチ、スケールの大きい弾きっぷり、下世話な位判り易い展開。確かにピーターソン直系ですね。さしずめ「細めのピーターソン」といったところでしょうか。とにかく、鑑賞に耐えるレベルですが、笑える位にピアノを弾きまくります。恐らく、ピアノ・トリオの代表的名盤を輩出したピアニストの中では、かなりの饒舌の部類、というか、一番饒舌ではないかと思います。
このライブ盤は、1976年6月、スイスのモントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルで録音されたライヴ盤です。ちなみにパーソネルは、Monty Alexander (p), John Clayton (b), Jeff Hamilton (ds)。実に渋いリズムセクションのサポートをバックに、モンティが、ライブならではの、ご機嫌すぎるくらいの「大スウィング大会」を展開しています。
冒頭の「Nite Mist Blues」が、まず渋い。いきなり「饒舌なモンティ」でガツンとやられます(笑)。力強いタッチ、スケールの大きい弾きっぷりが感じられて、この曲の冒頭30秒のピアノを聴けば「ああ、これはモンティやなあ」と判るくらい、相当にモンティらしい弾きっぷりが見事です。バックのクレイトンのベースはブンブン唸り、ハミルトンのドラミングは実に趣味の良い叩きっぷり。間の取り方が抜群で、モンティの饒舌なフレーズが耳に付くことはありません。かえって、モンティの個性が浮かび上がってきます。
次の「Feelings」は、この主旋律を聴いて、これはハイ・ファイ・セットの「フィーリング」ではないのか、と思う方は私と同世代です(笑)。もともとこれは、ブラジルのシンガーソングライター・モーリス・アルバート(Morris Albert)が1975年にリリースしたシングル曲のカバーですが、翌年のモントゥルー・ジャズ・フェスティヴァルという大舞台で、いきなり、このちょっと俗っぽい旋律を持つポップス曲のカバーを演奏するなんて、下世話な位判り易い展開を旨とするモンティの面目躍如と言えるでしょう(笑)。
この「下世話な位判り易い展開を旨とするモンティ」については、ラストの「Battle Hymn Of The Republic」。邦題は「リパブリック賛歌」。この曲の主旋律を聴けば、なんだこりゃーと思ってしまいますよね。日本では「ごんべさんのあかちゃん」などと歌われた世界的に有名な曲なんですが、そこはさすがにモンティ、素晴らしいテクニックとドライブ感、そしてスケールの大きい弾きっぷりで、ライブ演奏らしい、とても楽しい演奏に仕上がっています。
ハイライトは、アルバム3曲目からの3連発、「Satin Doll」「Work Song」「Drown In My Tears」。この3曲は絶対に「聴き」です。この3曲にこそ、モンティの個性がギッシリ詰まっていて、この3曲を聴けば、モンティの天賦の才をしっかりと感じ取る事ができます。単に「下世話な位判り易い展開を旨とする」だけではないことが良く判る(笑)。しっかりしたテクニックに裏付けられたドライブ感とファンキーで、そこはなとなく漂うカリビアンな歌心は、モンティの最大の個性です。
モンティを単なるテクニック偏重型の饒舌なピアニストとして見るには、ちょっと視野が狭すぎるかと。僕は、このピアニストの持つ「独特のドライブ感」と「間の取り方」、そして、「乾いたファンキーさ」の中にそこはなとなく漂う「カリビアンな歌心」に、他には無い唯一無二の個性を感じます。
良いアルバムです。このライブ盤でのモンティを「上限レベルの饒舌」として、他のアルバムにも耳を傾けるのが良いかと思います。意外と耳当たりがポップで、心にポジティブなノリが欲しい時に、ピッタリのピアニストかと思います。
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