改めてバド・パウエルを想う
ビル・エバンスのリーダー作の聴き返しをしていると、時々、バド・パウエルが聴きたくなる。ビル・エバンスのジャズ・ピアノを理解するには、バド・パウエルのビ・バップ・ピアノは避けて通れない。
バド・パウエル、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらによって確立された「ビ・バップ」スタイルのジャズを、ジャズ・ピアノの分野に定着させ、「モダン・ジャズピアノの祖」と呼ばれる(Wikipediaより)。
ビ・バップは「テクニックとインプロビゼーションの閃き」を競う、演奏する側からのアプローチ。特に、フロント楽器、サックス、トランペットが中心で、旋律を奏でることが出来るピアノもフロント楽器としては、ビ・バップの中で花形楽器の一つであった。そのビ・バップのピアノの最高峰が「バド・パウエル」。
クラシック・ピアノの対極にある、譜面の無い、再現性の無い、意図的なフレーズの起伏、意図な抑揚の無い世界。感性と直感の世界。しかも、もともとジャズの大事な要素であった「楽しむための音楽、ダンスのための音楽」を全く排除した、演奏テクニックとインプロビゼーションの閃きだけを全面に押し出した「ストイックな音世界」。
バド・パウエルの『Jazz Giant』(写真左)を聴いて欲しい。アルバムの内容については、2009年5月2日のブログ(左をクリック)を参照されたい。このアルバムはバド・パウエルの、否、ビ・バップの「ピアノ・トリオ」の最高峰の演奏を聴くことが出来る。
頭の「Tempus Fugue-It」を聴けば判る。叙情性、ロマンティシズムを全く排除した、ただただ、演奏テクニックとインプロビゼーションの閃きだけを全面に押し出した、ストイックな、高テンションな演奏のみを追求する世界。そのストイックで硬質な叩き付けるようなタッチは「暴力的」ですらある。とにかく、テクニック至上主義、ビ・バップの世界がここにある。
ドラムは正確なリズムで、バドの右手のハイテクニックな世界を支え、ベースは、バドが右手のハイテクニックに集中する為に、左手のベースラインを的確にサポートする。つまり、ドラムとベースは、ビ・バップ・ピアノの最高峰、バド・パウエルの演奏を惹き立たせる為だけにのみ存在する。
硬質なフレーズ、叩き付けるような「暴力的な」タッチ。ロマンティシズムを排除した、テクニックのみを追求した、あくまでも、どこまでも「ストイックな世界」。
そんな世界の中で、ふと「ロマンティシズムな香り」がそこはかと漂う、バドのピアノソロをフューチャーした、4曲目の「I'll Keep Lvoing You」。ここでのバドは「浪漫の塊」。バラードをソロで弾かせた時のバドは、時折「浪漫」な雰囲気を蔓延させる。ストイックな世界の中で、ポッカリと和やかな日だまりの様な「浪漫」な世界。これが、バドの「狡いところ」(笑)。この「浪漫」な雰囲気が不意にやって来て、バドに「やられる」。
バドの世界、ビ・バップ・ピアノの世界は、クラシック・ピアノと完全に対極にある世界。また、ビル・エバンスの様に、聴かせるジャズ・ピアノとは全く対極にある、インタープレイをベースに演奏テクニックを展開するピアノとは全く対極にあるジャズ・ピアノ。ピアノの和音の響きとベースのラインとの「バランスで展開するピアノ」とは全く対極にあるジャズ・ピアノ。
ビル・エバンスを、ジャズの歴史と共に、ジャズの演奏スタイルと共に理解するには、バド・パウエルの「ビ・バップ・ピアノ」は避けて通れない。ビル・エバンスのスタイルとは、全くの対極にあるバド・パウエルの演奏スタイル。ビル・エバンスを理解するには、バド・パウエルは避けて通れない。
そんなバド・パウエルのビ・バップ・ピアノ。手っ取り早く体験するには『Jazz Giant』が一番のお勧め。ちょっと音は悪いけど気にしない。なんとなくレトロではあるが、なかなかシンプルで小粋なジャケットデザインと共に、ジャズ者の皆さん全員に一度は手にして頂きたい、というか避けて通ってはいけない、ジャズ・ピアノの名盤中の名盤です。
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