美しきフラグメンツ・3
マイルス・ディヴィスが、黒人ボクサー、ジャック・ジョンソンをテーマとした映画のサントラのコンプリートBOX。9月8日以来、今日は3回目。『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』のお話しを・・・。
『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』は、『ジャック・ジョンソン』のハイライト、冒頭を飾る「ライトオフ」のセッションの記録である。ちなみに、その内容は以下の通り。
1. Right Off (Take 10)
2. Right Off (Take 10A)
3. Right Off (Take 11)
4. Right Off (Take 12)
5. Yesternow (Take 16)
6. Yesternow (New Take 4)
7. Honky Tonk (Take 2)
8. Honky Tonk (Take 5)"
この「ライトオフ(Right Off)」は、マイルス流ロックというか、マイルス流プログレというか、マイルスでしか為し得ない、ロック・ビートをベースにした、コンテンポラリーなジャズである。誰が何と言おうが、この「ライトオフ」は「ジャズ」である。
この「ライトオフ」のフラグメンツ、どれもが素晴らしい演奏ばかり。かなりの水準である。やれベースがどうの、ギターがどうの、というが、自分で楽器を人前で演奏した経験のある人間であれば、そんな無責任な評論は絶対にしない。それほど、高度なジャム・セッションの記録が、この『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』に詰まっている。
「Yesternow」も幽玄な雰囲気で、実にプログレッシブで良いし、「Honky Tonk」は斬新なビートと変則展開による実にユニークな演奏。この2曲も捨てがたい魅力があるが、やはりこの『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』では「Right Off」が圧倒的存在感である。
マイルスは新しい「何か」を追求し、それを手に入れるには、スタジオ・セッションを重視した。スタジオ・セッションの中で、メンバーに指示をし、メンバーにチャレンジをさせ、自らも新しい音を、新しい「何か」を追求した。マイルスが指示をし、試行錯誤して、欲しいものを手に入れる。そんな時、マイルスは、スタジオにこもり、スタジオ・ライブでその「欲しいもの」を追求した。
そのことが如実に理解出来る『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』である。そのセッション・トラックを聴いても、「ライトオフ」をモチーフとする演奏は、どれもが素晴らしい。これだけのハイテクで、テンション高く、インプロのイマージネーションの高い演奏はなかなか無い。今のバンドでも、これだけの高水準なライブを現出することの出来るバンドは少ない。
この『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』を聴けば、マイルスは徹頭徹尾、自分好みの「ビートとリズム」を追求していたことが良く判る。マイルスの、ほぼイメージ通りの「ビートとリズム」を手に入れることで、その「ビートとリズム」に乗っかることで、マイルスを初めとするフロントの楽器隊が、今までにないイマージネーションの下で、新しいインプロビゼーションが繰り広げられる可能性が高まっていく。
とにかく、『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』のフラグメンツでのマイルスのソロは圧倒的である。自分のイメージ通りの「ビートとリズム」をバックに、マイルスならではの、自由な演奏、マイルス流のフリーな演奏が繰り広げられる。これを聴けば、当時、ジャズ界を席巻していたフリーは、単なる感情によるインプロビゼーションの垂れ流しだったことが良く判る。
マイルス・バンドの限り無くフリーキーな演奏は、マイルス好みの「ビートとリズム」に秩序を保たれ、決して感情に流されない、場当たり的なフレーズを垂れ流さない、必要最低限の秩序を保った、限りなくフリーに近い、それでいて、理路整然でコンテンポラリーなジャズ演奏が、この『The Complete Jack Johnson Sessions [Disc 3]』で繰り広げられている。
とにかく、凄い演奏だと思う。今のジャズ界で、これだけの秩序ある、それでいて限りなくフリーな演奏は、なかなかお目にかかれない、というかお耳にかかれない(笑)。マイルス者を自認する松和のマスターとしては、これはもう「脱帽」である。
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