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2010年9月19日 (日曜日)

キング・クリムゾン『暗黒の世界』

先週、顔を真っ青に塗った「ブルーマン」達が、ビートの効いた音楽にのって、様々なパフォーマンスを展開するブルーマン・グループの公演に行ってきた。バックのビートにのった、パルシブなロックな演奏が芝らしく、懐かしさも覚える。そして、その懐かしさの中から、ふとキング・クリムゾンを思い出した。

さて、今日は日曜日。70年代ロックを題材にしたブログの日。今日は、パルシブで、ビートに乗った、パーカッシブなロックな演奏。として、キング・クリムゾンの『暗黒の世界(原題:Starless and Bible Black)』(写真)。

前作『太陽と戦慄(原題:Larks' Tongues in Aspic)』から、ジェイミー・ミューアが抜けて4人になったキング・クリムゾンが、ライヴ録音とスタジオ録音を巧みに融合させた1974年発表作品。

ジェイミー・ムーアの繊細でダイナミックな、創造性溢れるパーカッションが無くなった分、ビル・ブラッフォードのポリリズム溢れるドラミングとジョン・ウェットンの重量級豊かなベースが全面に押し出て、実に硬派でソリッドなビート溢れる演奏が聴ける。

前作の『太陽と戦慄』は、ビートを全面に押し出しつつ、繊細かつダイナミックなパーカッションの世界が、実にきめ細やかなニュアンスを添え、そのパーカッシブな世界がシンプルなビートの世界にリズムの彩りを添えて、性別で例えるなら、実に「女性的な」かつ「太陽的」な内容が特徴のアルバムだと僕は認識している。

前作の原題の直訳は「アスピックの中の雲雀の舌」、または「大蛇に呑まれた雲雀のさえずり」。パーカッション中心のポジティブなダイナミズムの中に、避けることの出来ない、運命的な「繊細さ・儚さ」が見え隠れする。

Starless_and_bibleblack

逆に、この『暗黒の世界』は、ビートを全面に押し出しているのは前作同様だが、ポリリズミックなドラムと重量感溢れるベースが中心となった、実に無骨でヘビーメタリックな世界が究極のダイナミズムを供給し、ハイテクニックかつ切れ味抜群のギターとバイオリンが縦横無尽に即興演奏を展開しまくる。

原題の直訳は「星のない聖なる闇」という感じか。その無骨かつ重心の低い音は静的な雰囲気を醸しだし、ダイナミックな演奏である程に「夜の静寂、深夜の静寂」を感じる。性別に例えるなら、実に「男性的な」かつ「月的」な内容が特徴のアルバムだと僕は認識している。

そんな「夜の静寂、深夜の静寂」をビンビンに感じる事が出来る本作のハイライト曲が「突破口」。ビル・ブラッフォードのポリリズム溢れるドラミングとジョン・ウェットンの重量級豊かなベースがバックでうねる中、フリップがギター・テクニックの限りを尽くし、もはや人間業とは思えない即興演奏を展開。ビンビンに張りまくるテンション。

実に無骨で、実に禁欲的な、ビート感溢れる即興演奏。当時のロックの世界で、ここまでテンション高く、ここまでハイテクニックに即興演奏が展開できるのは、キング・クリムゾンだけだったろう。とにかく、凄いテンション、凄いテクニック、凄い重量級のビートである。アルバム1枚聴き終えた後、グッタリと疲れるくらいの凄まじさである。冒頭を飾る「偉大なる詐欺師」の凶暴かつ高テンション、そして疾走感溢れる演奏は、今でも圧倒されるばかり。4曲目の「夜を支配する人」のメロトロンを活用したダイナミズム+ロマンティシズムも凄まじいばかり。

1970年代キング・クリムゾンのアルバムの中で、なぜか、ちょっと地味な位置付けに置かれているアルバムですが、1980年代のキング・クリムゾンを理解する上では、非常に重要な内容を持つ「キー・アルバム」だと思います。前作『太陽と戦慄』、そしてこの『暗黒の世界』は、対で聴かれるべき、評価されるべきアルバムで、ロバート・フィリップ率いるキング・クリムソンを聴き進める上で、絶対に避けることの出来無い2枚です。
 
 
 
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コメント

高校生の時に聴いて衝撃を受けました.このアルバムの演奏が即興演奏を中心としたものとは知りませんでした.今は年を取ったので,気合を入れて聴かないと,クリムゾンの音楽に飲み込まれてしまいます.このアルバムや「レッド」での彼らの内的な衝動がいまでもよくわかっていません.彼らはどうしてここまで緊張状態にあったのでしょうか?

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