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2010年8月27日 (金曜日)

トリオにおけるベーシストの重要性

ピアノ・トリオについては、ビル・エバンスによって、ピアノ、ベース、ドラムの3者が対等な立場でのインタープレイが実現した。それまでは、主役はピアノ、ベースとドラムは「ビートとリズム」の供給に徹するというアンバランスなものだった。そして、時代が進むにつれ、インプロビゼーションのパターンは「モードとコード、そしてフリー」に収斂される。

ハード・バップ時代は「コード」の時代。「コード」を和音で叩くことによって、ビートとリズムは供給される。コードの世界では、ピアノは自らが「旋律とビートとリズム」の3役を一気にこなすことが出来るので、ベースとドラムに「ビートとリズム」を任せて、ピアノは、ひたすら右手中心に「旋律」の部分を担った。このスタイルのピアノ・トリオを確立したのが「バド・パウエル」。

そして、マイルス・ディヴィスを中心に「モード」奏法が生み出され、その「モード」奏法の確立に一役買ったのが「ビル・エバンス」。その「モード」奏法を「コード」奏法に織り交ぜて、ピアノ、ベース、ドラムの3者が対等な立場でのインタープレイを確立した。

特に、「モード」奏法で旋律を展開していく場合、「ビート」の供給が重要になる。「リズム」は演奏全体のスピードを制御し、「ビート」は演奏全体の流れを、演奏全体の道筋を示していく。「モード」奏法の場合、「ビート」をしっかりと供給してくれないと、演奏全体の流れに乗り遅れ、旋律展開の方向が定まらなくなる。そういう意味で、現代のピアノ・トリオでは、「ビート」の供給の担い手、ベーシストの重要性が、以前にも増して、クローズアップされてきている。

例えば、このChick Corea『Chillin' in Chelan』(写真左)を聴くと、この「ベーシストの重要性」が実感できる。このアルバムは、チックのボックスセット「Five Trios Series」の3枚目。ちなみに、パーソネルは、Chick Corea (p), Christian McBride (b), Jeff Ballard (ds) 。ワシントン州のジュラン・セラーズ・ワイナリーという場所でのライブ盤。

「セロニアス・モンクに捧ぐ」と副題にあるけれど、モンク絡みの曲は2曲だけ。他にはチックのオリジナルをはじめ、色々やっている。でも、どの曲も「セロニアス・モンクの語法」を漂わせながら、そこかしこに聴かれる、実に端正で美しい「モード」と「ほぼフリー」な展開が実に素晴らしい。
 

Chick_chillin_in_chelan

 
特に「モード」な展開と「ほぼフリー」な展開の部分をじっくり聴くと、マクブライドのベースが実に効いていることが良く判る。硬軟自在、緩急自在、ウォーキング・ベースからボウイングまで、ベースのあらゆるテクニックを駆使しつつ、しっかりとチックのピアノのインプロビゼーションを支えるマクブライドのベースは実に素晴らしい。この信頼感抜群のマクブライドのベースをバックに、チックは何時になく、イマージネーション溢れるインプロビゼーションを展開する。

もちろん、ジェフ・バラードのドラミングも秀逸。これもマクブライドのベースのお陰か。このピアノ・トリオでは、ある部分、マクブライドのベースがイニシアチブを取っている。マクブライドのリードの下、ジェフ・バラードがリズムを供給し、チックがテーマを奏でる。でも、チックがインプロビゼーションの展開に入ると、イニシアチブはチックに移る。今度はチックのリードの下で、マクブライドのベースがそれに呼応し、ジェフ・バラードがリズムを供給する。

この3者の組合せの特徴が良く出ているのが、8曲目の「Walkin'」。ファンキーで、もろハードバップな名曲が、実に新鮮な響きで演奏されていく。チックはあまりファンキーな曲はチョイスしないんだが、この「Walkin'」は良い感じ。現代のハード・バップはかくあるべし、って感じで、完全にコンテンポラリーなジャズで弾き進められる。実にクール。

このチックの『Chillin' in Chelan』を聴く度に、ピアノ・トリオにおけるベーシストの重要性について考える。チックのピアノには、マクブライドのベースがよく似合う。それが証拠に、他にも幾度も共演し、CDとなった演奏は、どれもが名演となっている。そして、マクブライドのベースには、ジェフ・バラードのドラムがよく似合う。

ピアノ、ベース、ドラムの3者が対等な立場でのインタープレイという内容では無いが、実に相性の良い3人のピアノ・トリオの佳作です。ピアノ・トリオにおけるベーシストの重要性を実感できる、良いアルバムだと思います。
   
 
 
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