Chick & Burton, 名刺代わりの一枚
Chick Corea & Gary Burton が初めて顔を合わせたデュオ・レコーディング。1972年11月6日、オスロ、タレント・スタジオで録音。プロデューサーは当然、マンフレート・アイヒャー。
7月21日のブログ(左をクリック)で語った『Crystal Silence』。双方の持ち曲から、デュオ演奏に見合った曲を持ち寄り、録音したデュオ・アルバム。これがまあ、素晴らしい内容のアルバムになり、セールスも好調だった。特に、当の本人達が「いけるんちゃう、俺たち」と直感したと思われる。
その当の本人達の「いけるんとちゃう、俺たち」の思いでリリースされたアルバムが『Duet』(写真左)。但し、Chick & Burtonのデュオのファースト・アルバム『Crystal Silence』は、1972年11月の録音。このChick & Burtonのデュオのセカンド・アルバム『Duet』は、1978年10月だから、約6年のインターバルを経ての、かなりのインターバルを経てのセカンド・アルバムである。
ファースト・アルバムの好評かつ好調なセールスで味を占めれば、間髪入れずに次のアルバム、ということになるんだが、そうならないところが、Chick & Burtonのデュオの、ピュアにアーティステックなところ。決して、商業主義には走らない。ECMのマンフレート・アイヒャーも同様。安易に商業主義に走らない。だから、Chick Coreaは大のお気に入りだし、Gary Burtonも大好きだし、ECMレーベルにも一目置いている。
当の本人達が「いけるんちゃう、俺たち」からこそ、安易に次のアルバムを製作してはならない、と自戒したのだろう。それほど、Chick & Burtonのデュオは、双方にとって難易度が高く、二人のデュオにピッタリ合った楽曲を取り揃えるのが大変だったのだろう。安易にジャズ・スタンダードに走らなかった二人の矜持にも頭が下がる思いだ。
このアルバムは、Chick & Burtonが6年の歳月を経て、満を持して、デュオを再結成し再録音に臨むことが事前に十分に判っていた録音である。6年前に『Crystal Silence』のセッションで、双方の特質、共にデュオ演奏をすることに関する特質を十分理解した上で、臨んだ録音セッションである。と言うことで、今回は、Chick & Burtonのデュオの特質を十分理解した上での、Chick & Burtonのデュオに相応しい曲が用意されている。ちなみに収録曲と作曲者は以下の通り。
1. Duet Suite (Chick Corea)
2. Children's Song # 15 (Chick Corea)
3. Children's Song # 2 (Chick Corea)
4. Children's Song # 5 (Chick Corea)
5. Children's Song # 6 (Chick Corea)
6. Radio (Steve Swallow)
7. Song To Gayle (Chick Corea)
8. Never (Steve Swallow)
9. La Fiesta (Chick Corea)
チックは、Chick & Burtonのデュオの為に書き下ろしたものと過去の自作曲の中から、Chick & Burtonのデュオに相応しい楽曲をセレクトし、バートンは、スティーブ・スワローの楽曲から、Chick & Burtonのデュオに相応しい楽曲をセレクトしている。当然、このアルバムの内容はずば抜けている。Chick & Burtonのデュオの代表的名盤、と僕は位置づけている。Chick & Burtonのデュオの「名刺代わりの一枚」である。
どの曲も素晴らしい内容。ギッシリと密度の濃い、デュオ演奏の成果。プラスの面だけを積み上げ、Chick & Burtonのデュオのマイナス面が全く見えない、全く中だるみやミスマッチな側面が無い、つけいる隙のない、ごく当たり前の様に演奏された、それでいて、唯一無二なジャズのデュオ・セッションの最高の成果のひとつ。どの曲も凄まじく内容の濃く深い、純粋なまでにアーティステックな内容に、心から脱帽である。
極めつけは、ラストの「La Fiesta」。Return to Foreverの名演で有名なチックのオリジナル曲だが、このアルバムでの演奏が、ベスト・バージョンではないだろうか。まるで、Chick & Burtonのデュオの為に書き下ろした楽曲であるような錯覚に陥ってしまうほど。スパニッシュでアーティスティックな楽曲が、Chick & Burtonのデュオに最適である。
とにかく、チックの硬質な切れ味鋭いピアノとバートンの叙情的かつ情熱的な4本マレットのヴァイヴとの相性がバッチリ。スリリングかつ疾走感抜群。ジャズのデュオがこれほどまでにアーティステックな響きを表現できるとは、なんだか「ジャズの奇跡」を追体験するような、一期一会な内容。このChick & Burtonのデュオ・バージョンは、僕の大のお気に入りで、ジャズ者初心者の頃、初めて耳にして以来、何百回聴いたが判らないほど、数多く聴いた、ヘビーローテーションな演奏。
聴けば判る。このアルバムは、ジャズ者初心者の方にお勧めの一枚です。チック・コリアのピアノの特徴とゲイリー・バートンのヴァイヴの特徴が手に取るように判り、ジャズのフォーマットの芸術的側面が体感できる、実に優れた内容の名盤だと思います。聴けば判る。とにかく、素晴らしい内容のデュオアルバムです。
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