真のフュージョン、真の異種交流
なかなか平年通りの気温に戻らず、なんだか寒いなあ、と思っていたのが一週間前。今日は打って変わって、なんだか夏日の我が千葉県北西部地方。この劇的な気温上昇に身体がついていけずに、なんだか体調が麗しくない松和のマスターです。
しかしながら、この初夏の気候を感じると、必ずトレイに載るアルバムがある。 古澤良治郎 and リー・オスカーの『あのころ』(写真左)。リー・オスカーのハーモニカ、古澤良治郎のドラムス、大口純一郎のピアノ、渡辺香津美と大出元信のギター、高橋知己のサックス、そして川端民生(故人)のベース。
フュージョンとは「融合」という意味。当初は「クロスオーバー」と呼ばれた。当初は、ジャズとロックの融合。8ビートの導入がその「肝」だった。それから、「融合」という意味は複雑さを究め、ロックとジャズの「融合」という単純な意味合いでは無くなった。ちなみに我が日本では、最終的には、ジャズからみて「異種格闘技的」なコラボ・ミュージック、コラボ・セッションを「フュージョン」と呼ぶようになった。
確かに、当時(1970年代後半〜80年代初頭)、日本でのフュージョン・シーンには、特筆すべき「融合」つまりは「異種格闘技的」コラボ・ミュージック、コラボ・セッションが多々花開いた。日本こそが「フュージョン」の本質的意味をいち早く理解した、素晴らしい音環境であったことを物語っている。
その代表的一枚が、この『あのころ』であると僕は信じて止まない。リー・オスカーのハーモニカは決してジャズでは無い。古澤良治郎とて、純ジャズ的なドラマーでは無い。大口純一郎のピアノとて、純ジャズとした聴けば物足りなく、大出元信のギターは中途半端、川端民生(故人)のベースとて、純ジャズ、メインストリームとは言い難い、ほのぼのとした茫洋さを醸し出してる。このアルバムのメンバーで、メインストリーム・ジャズの演奏家と言い切れるのは、渡辺香津美のみである。
でも、冒頭の「いま・春?」を聴いて欲しい。このほのぼのとした、弾むようなテンポは十分にジャジーな雰囲気を醸し出している。そこに入ってくるリー・オスカーのハーモニカも実にジャジー。この曲、この演奏は絶対に純ジャズでは無いが、全体に流れる、ほのぼのとした明るいファンキーな雰囲気はジャジー以外の何者でも無い。
2曲目の「ブギ・マン・リヴス・イン・TOKYO」は、現代的なファンキー・ジャズである。決して、純ジャズでは無い。でも、この曲は絶対にファンキー・ジャズである。それも、実にユニークで実にクールな「ファンキー・ジャズ」。確信は無いんだが、理屈は付けることは出来ないんだが、この「ファンクネス」は米国人には出せないと思う。日本人、アジア人しか出せない「ファンクネス」。その後押しをしてくれているのが、ハーモニカのリー・オスカーだという事実。
3曲目の「カナ・カナ 」、続く「キョン」、そして、5曲目の「ソング・フォー・マージョリー」と、純ッジャズでは無いが、実にジャジーな、それでいて当時流行の「フュージョン」というジャンルの括りで片づけてしまいたくない、唯一無二、個性溢れる「フュージョン・ジャズ」が繰り広げられている。
そして、ラストの「あのころ」。このジャジーで哀愁溢れる、そこはかとなくファンキーで、そこはかとなくポップな、このジャンル不明な、言い換えると、絵に描いた様な「融合」的な音楽はなんと表現したら良いのだろう。ビートはリズムは「ジャジー」。でも、テーマは「ポップ」。展開は判りやすい「プログレ」でもあり、インプロのシンプルさは「フュージョン」。このラストの「あのころ」にこそ、このアルバムの奇跡的な存在意義を、体験的に感じることが出来る。
このアルバムは、フュージョン時代の奇跡、言い換えいると、良い意味での「突然変異」である。このアルバムこそが、当時の「フュージョン・ミュージック」の「あるべき姿」を表現してくれている。このアルバムの演奏こそが、真の「フュージョン・ミュージック」と言える。少なくとも、僕はそう言い切りたい。
僕はこのアルバムをLP時代から昨年奇跡的にCD再発されるまで、何百回聴いたか判らない、僕の人生の中でのエバーグリーンな一枚。フュージョン・ジャズの成果の一枚だと信じて止まない。ちなみに、かの「故・松田優作」氏も愛した1枚でもある。ジャケット・デザインもほのぼのとして秀逸。大向こうを張った内容ではないが、着実地道、けだしフュージョン名盤である。
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