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2010年5月 6日 (木曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・12 『This Here』

僕が初めて「ファンキー・ジャズ」に触れたのは、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャースの『Moanin'』。タイトル曲の「Moanin'」の、コテコテなファンキーさときたら、それはもう、心から素晴らしい、と思いましたね〜。

で、その「Moanin'」、これって、曲時代が「ファンキー」なんですよね。この曲は、誰がどう演奏したって「ファンキー」に聴こえる。この作曲者は、Bobby Timmons(ボビー・ティモンズ)。

1935年12月、牧師の息子として生まれる。1956年にケニー・ドーハムが率いるジャズ・プロフェッツのメンバーとなる。世界的に名を揚げたのは、アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズのメンバーとしてである。その時書いた名曲が「Moanin'」。そして、1974年3月、肝硬変のため没。38歳の若さであった。

僕は、このボビー・ティモンズのピアノは、ジャズ・ピアニストの中で一番「こてこて」ファンキーなフレーズを紡ぎ出す名手だと思っている。独特の1オクターブ和音の3連符奏法、そして、フレーズの最初の音を「ガ〜ン」とアタック良く叩くことで、リズムセクションのオフ・ビートに乗せて、湧き出るように紡ぎ出てくる「こてこて」ファンキーなノリ。

そんなティモンズの「こてこて」ファンキーなピアノが聴けるのが、『This Here Is Bobby Timmons』(写真左)。ボビー・ティモンズの初リーダーアルバムである。2曲目に、先に紹介した「Moanin'」が収録されている。キャノンボール・アダレイとのライブで有名な「This Here」は、アルバムの冒頭を飾る。

このアルバムは、さすがに彼の初リーダー作だけあって、ティモンズの本質を如実に表している。彼は2つの顔を持つ。「こてこて」ファンキーなピアノとパウエルライクなビ・バップなピアノ。ティモンズのピアノはそんな2面性の融合が「個性」である。
 

Timmons_this_here

 
この『This Here Is Bobby Timmons』でも、その2面性が楽しめる。「This Here」「Moanin'」「Dat Dere」「Joy Ride」の彼の自作曲では、「こてこて」ファンキーなティモンズのピアノが心ゆくまで楽しめる。独特の1オクターブ和音の3連符奏法、そして、フレーズの最初の音を「ガ〜ン」とアタック良く叩く「こてこて」ファンキーなノリ。黒さをじっくり押さえて、独特な奏法で、ファンキーさを醸し出す彼のピアノ・テクニックは「唯一無二」である。

そして、自作曲以外のスタンダード曲では、パウエルライクなビ・バップなピアノが楽しめる。というか、スタンダードを奏でるティモンズのピアノは、パウエル派なバップ・ピアノ奏法そのものである。しかも、テクニックは確かなもの。

とりわけ、3曲目の「Lush Life」、7曲目の「My Funny Valentine」でのティモンズの演奏は、彼は、完璧なパウエル派であるという「個性」を露わにしている。それにしても、テクニックは確か、そんな確かなテクニックの中で、パウエルとは似つかぬ「ファンキーさ」を表現している「個性」は、やはりティモンズならではのものである。

ティモンズの「こてこて」ファンキーなピアノは、「俗っぽい」として敬遠される向きもある。しかし、音楽に「俗っぽさ」とか「芸術的」とか、何か明らかに、志の高低を決めるものがあるのだろうか。無いよな。僕は、このティモンズの「こてこて」ファンキーなピアノは、ジャズの歴史の中で唯一無二なものだと思っている。

ピアノ・トリオという最少人数で、これだけの「こてこて」ファンキーさを表現できるって、凄いピアノだと思います。ピアニストとしてのテクニックの確かさと、作曲・編曲の抜きん出た才能。この2つが兼ね備わっていないと表現できない芸当ではないかと。このティモンズの初リーダー作を聴くだけで、ティモンズが只者では無かったことが判ります。38歳の若さで亡くなったのが惜しまれます。
 
 
 
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