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2010年3月22日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・9 『My Fair Lady』

「ピアノ・トリオの代表的名盤」シリーズの9回目。何も、ジャズの巨匠・ビッグネームの類だけが、優れたピアノ・トリオ盤を作る訳ではない。

ピアノ・トリオの代表的名盤について「これ1枚」というものを挙げたら、ジャズ・ピアニストの「のべ人数」はかなりの数になる。ジャズの巨匠・ビッグネームの類は、この「ピアノ・トリオの代表的名盤」を複数枚、若しくはコンスタントにリリース出来るところに、他のピアニストに比べて、巨匠・ビッグネームとして区別される所以だろう。

今日は、巨匠・ビッグネームの類では無いが、「これ一枚」というケース、特に、今回は「聴き易く、判り易く、楽しみ易い」ピアノ・トリオ盤の代表的名盤を挙げてみたい。Shelly Manne & His Friends『Modern Jazz Performances Of Songs From My Fair Lady』(写真左)。原題ですまして書いているが、邦題でいうと、シェリー・マン&ヒズ・フレンズ 『マイ・フェア・レディ』である。

ちなみに、パーソネルは、Shelly Manne (ds・写真右), André Previn (p), Leroy Vinnegar (b)。1956年8月の録音である。ピアノのアンドレ・プレヴィンは、クラシックの世界で、現代を代表する指揮者&ピアニストの1人。ジャズ・ピアノのテクニック・資質にも優れ、クラシックとジャズの「二足のわらじ」を履いている。打ちつけるような硬質のタッチと透明感のある繊細なタッチの、激しい2面性が特徴。

ドラムを担当するシェリー・マンは、米国西海岸ジャズを代表するドラマー。その多才なテクニックとに西海岸独特な「タイトで乾いたビート」が特徴。ベースのルロイ・ヴィネガーは、西海岸ジャズの中核的存在。多数のセッションを残している、質実剛健かつ安心確実なベーシスト。そんな3人が残した『マイ・フェア・レディ』。実に「聴き易く、判り易く、楽しみ易い」ピアノ・トリオ盤に仕上がっている。
 

Shellym_myfairlady

 
プレヴィンのピアノは黒人ピアニストによく見られる「癖と粘り」が無く、クラシック・ピアニスト出身者独特の「端正で破綻のない正確なテクニック」が良い効果を出している。彼の打ちつけるような硬質のタッチと透明感のある繊細なタッチの2面性が、実に効果的に響く。そして、要所要所のアドリブ、ブレイク、チェンジ・オブ・ペースが非常に良く出来ている。予め譜面に落としていたのではないのか、と思われるほど、アルバムに収録されている演奏は良く出来ている。アレンジの勝利。

「マイ・フェア・レディ」の楽曲はミュージカルなので、ブルース感覚とファンキーな感覚とは無縁で、どちらかと言えば、クラシックやポップ・ストリングスに近い感覚があるんだが、そういう意味でもプラヴィンのピアノの採用は正解だった。加えて、白人中心の西海岸ジャズの「クール・ジャズを発展させたようなスタイル」を踏襲した、シェリー・マンの「タイトで乾いたビート」、そして、ちょっと派手目のトリオ演奏を底で支える、縁の下の力持ち的ベーシスト、ルロイ・ヴィネガーの採用も大正解。

1. 教会に間に合うように行ってくれ
2. 君住む街角
3. 彼女の顔に馴れてきた
4. そうなったら素敵
5. アスコット・ガヴォット
6. ショウ・ミー
7. ちょっぴり幸せ
8. 一晩中踊れたら

映画「マイ・フェア・レディ」に親しんだ方なら、思わずニンマリしてしまいそうな選曲も大正解。西海岸ジャズ独特の洗練されたアレンジと演奏テクニックをベースに、どの曲、どの演奏も実に「聴き易く、判り易く、楽しみ易い」出来に仕上がっている。

良く雑誌などで「お馴染みのミュージカル『マイ・フェア・レディ』の名曲をピアノ・トリオで綴ったジャズ史上屈指のベスト・セラー・アルバム」と宣伝されるが、成る程と思わせる内容に、僕は、ジャズ初心者の時代から、このアルバムには痺れっぱなし。

何度聴いても良い。聴く度に新しい発見もあって、企画モノと片付けるのは「以ての外」、「聴き易く、判り易く、楽しみ易い」ピアノ・トリオ演奏として、代表的名盤に挙げたいですね。それにしても、このアルバム、ジャズ史上に残るヒットの代表的一枚として挙げられることが多いが、再発、再発で、結局どれくらい売れたんだろう?
 
 
 
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