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2010年2月10日 (水曜日)

企画盤と言って侮る無かれ 『A Tribute to Miles』

企画盤だからと言って、端から「作られたジャズなんて聴く気も起こらない」と憤る先輩評論家諸氏がいたりする。確かに以前、企画盤には、その内容がよろしくないものが多かったのも事実。でも、どんなアルバムだって、ちゃんと聴いてみなければ判らないでしょう、というのが僕の持論。

確かに、最初、このアルバムの情報を見た時は「胡散臭かった」。マイルスに繋がりの深いメンバーが、題材もマイルスに縁のあるものを選んで演奏し、その演奏を御大に捧げた盤なので、余計に「胡散臭かった」。よって、恥ずかしながら、発売された時には、購入を控えた経緯がある。しかし、前にも書いたように、ちゃんと聴いてみなければ判らないでしょう、ということで、大いに自分の行動を反省し、ちゃんと聴いてみました。

で、これがなかなかの内容なんですね。アルバムのタイトルは『A Tribute to Miles』(写真左)。パーソネルは、Wallace Roney (tp), Wayne Shorter (ts, ss), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。1992年9月の録音。

う〜ん、これは絵に描いたような、企画盤的人選ですよね。 Wayne Shorter (ts, ss), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) って、1960年代、マイルスの黄金のクインテットのバック・メンバーではないですか。トランペットは、マイルスの代わりに、マイルスを敬愛し、マイルスのコピーを自認するウォレス・ルーニー。これも絵に描いたような企画盤的人選(笑)。

でも、企画盤であるが故に「作られたジャズなんて聴く気も起こらない」の一言で評価するのは明らかな間違いな、なかなかに優れた内容に、ちょっと軽い驚きを感じる。

とにかく、演奏メンバー全員が溌剌と、イマージネーション豊かに演奏を繰り広げている。企画盤でありがちな、表面を撫でるような演奏では決してない。マイルスのモード演奏の思想を、現在の、メンバーの最大のテクニックとイマージネーションを持って演奏表現する。そんな気概と、そんな強迫観念を感じる演奏である。
 

Tribute_to_miles

 
「強迫観念」とはどういうこと、と思われる方々がおられるでしょうが、この「マイルスに縁のあるものを選んで演奏し、その演奏を御大に捧げた」演奏において、表面を撫でるような演奏に終始したら、マイルスが何て言うのか、想像しただけで、このアルバムの参加メンバーは「ゾッと」するのではないだろうか。マイルス御大に叱られぬよう、駄目出しされぬよう、しっかりとハード・バップし、しっかりとモード・ジャズし、加えて、最新のジャズ演奏の要素をしっかり加えないと、マイルス御大は満足すまい。

そんな、マイルス門下生ならではの強いテンションと強迫観念の中で、メンバーそれぞれが、マイルス配下のいた時よりも、遙かにグレードアップしたモード・ジャズを聴かせている。マイルスがこの演奏を聴いたら思うだろう。なんだ俺とやっていた時よりテンションが高いじゃないか。でも、イマージネーションはまだまだだけれどな、なんて声が聞こえてきそう(笑)。

マイルスは辛口だからなあ。でも、このアルバム『Tribute to Miles』は良い内容だと思います。メンバーそれぞれがハイテンションの下、現時点で、自らの最高の演奏を展開するよう心がけていることが手に取るように判ります。

特に、ジャズ初心者の方々に、マイルスの考える「モード・ジャズ」って、どんな雰囲気なのか、それが実に判りやすい形で表現された、実に格好のサンプル的内容のアルバムです。それから、1960年代、マイルスの黄金のクインテットのバック・メンバーって、どれだけ凄かったのか、非常に良く判る演奏内容です。ハービーもショーターも、そして、ロンもトニーも素晴らしいです。

そして、マイルスの息子的存在である、ルーニーも溌剌としていて、ペットの音もブリリアント。マイルスのペットを明るく溌剌としたような音は、正にルーニーの個性と言っても良いでしょう。このアルバムでのルーニーのペットは立派だと思います。マイルスのコピーなどという揶揄に負けず、どんどんこの路線で、ガンガン行って欲しいと思っているんですが・・・。ルーニー頑張れ(笑)。    
 
 
 
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