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2009年10月25日 (日曜日)

Beatles『Revolver』はモノラル

昨夕からの雨が今朝まで続いて、そのまま一日中、鉛色の雲がドンヨリの千葉県北西部地方。そして、今朝は気温がグッと冷え込んだ。9時の時点で13度(!)である。う〜ん、いよいよ、晩秋である。この鉛色の空は晩秋ならでは。心淋しい季節である。あまり良い思い出の無い季節である。

藤棚に 君去りし後 枯葉舞う
 
さて、BeatlesのリマスターCDの話題を。今日は『Revolver』(写真左)である。この『Revolver』って、僕は先のアルバム『Rubber Soul』と対をなすアルバムだと思っている。

『Rubber Soul』は、R&R、R&Bを根底に、リズム/ビートを重視し、曲/詩ともに「今までにないもの」を追求した、「ビートルズ流ロックンロール」の側面を前面に押し出したアルバムだと思っている。ビートルズの『Rubber Soul』までの歌の内容はR&R、R&Bを根底にしているので、「愛だ恋だ、好きだ嫌いだ、振った振られた、やるぞいくぞ」が中心。『Rubber Soul』で特徴的なのは「私小説的な独白もの」が散見されること。いずれも実生活の感覚に基づいたものだ。しかも、ライブで演奏できることが前提となっている。当然、親分的なリーダー的な存在は「ジョン」。

『Revolver』は、ライブ活動を休止して、スタジオに閉じこもって、好きなだけ時間を使ってレコーディングができるという環境になって、当時、流行りだした「前衛的」な音楽を追究した、「プログレッシブ・ビートルズ」の側面を前面に押し出したアルバムだと理解している。前衛的なので、どんな歌を歌ってもいいし、ライブでの演奏を前提としないので、好きなだけスタジオワークを駆使しても良い。前衛的といっても漠然としているので、当面、当時流行始めていた「サイケディック」がターゲットになる。

前衛的、ヲタク的なスタジオワーク、サイケディック、どんな歌を歌っても良い、となると、当然、この世界って、ポールが大好きな世界である。ポールが「ハイ、ハイ、ハイ」と手を思いっきり挙げたんだと思う。ジョンは現実的なミュージシャンなので、この妄想的な音世界にはあまり興味はない。ということで、ジョンは、会社で言うと「会長職」に身を引いて、実際のビートルズの音作りの運営を司る「社長」的立場をポールに跡目を継がせてやらせてみる、という環境の変化の第一弾がこの『Revolver』。そんな感じがする。

でも、さすがはジョンで、決して、全面的にポールの好きなようにはさせない(笑)。『Revolver』の最初のレコーディングで、かのサイケディック・ロックの金字塔的名曲「Tomorrow Never Knows」をやられらんだから、ポールもたまらない。加えて、サイケ路線の佳作として「I'm Only Sleeping」もある。ちょっと、手加減して、『Rubber Soul』の音世界にサイケの雰囲気をまぶしたような「And Your Bird Can Sing」もある。

これにはポールもたまらない。ジョン、話が違うやん。全面的に僕に任せてくれたんとちゃうん、となって、ポールは「どんな歌を歌っても良い」というところに引きこもる。そこで「Yellow Submarine」「Good Day Sunshine」という、絶対に脳天気なポールにしか書けない名曲がぞろぞろ出てきて、空想世界の様な浮遊感漂う名曲「Here, There and Everywhere」が輩出されたのだから、ポールも天才である。でも、これらの曲って、どう聴いても「サイケデリック」じゃないよな〜。でも、潜水艦をテーマにした曲を作るなんていう発想は斬新で凄いと思う。

Beatles_revolver

さて、そんなこんなの『Revolver』。そんな「プログレッシブ・ビートルズ」の側面を、実に良く表現してくれているのが、今回、初CD化のモノラル・バージョンである。僕は『Revolver』については、従来のステレオ・バージョンしか聴いたことがない。しかも、この『Revolver』のステレオ・ミックスは、ビートルズ、ジョージ・マーティンどちらも全く関与していない。ものの本によると、全曲で3日間しかかけられていない。

ちなみに、モノラル・ミックスは、ビートルズのメンバーとジョージ・マーティンが相当関与し、相当の時間をかけている。このアルバムからは、レコーディング後、直ぐにモノラル・ミックスが作られ、メンバーがそのサウンドを即チェックし、意見を反映し、また別のミックスを作り、といった、実に手の込んだ、実に丁寧なミックス作業がなされている、とのことなのだ。でも、実際に、モノラル・ミックスの音を聴いていないんだから、それがどうなのか、理解できないでいた。

が、今回、このモノラル・ミックスの音を聴いて、ハッキリ一言「ぶっ飛んだ」。まず、ぶっ飛んだのが、ラストの「Tomorrow Never Knows」。テープ・ループのボリュームをメンバーがそれぞれ手動で上げ下げしたというが、ステレオ・ミックスでは「は?」って感じだったのが、このモノラル・ミックスの音の揺れはなんだ。縦に、前後に揺れるのだ。これぞ「サイケディック」。凄いミックスだ。この「Tomorrow Never Knows」1曲だけでも、モノラル・ミックスのCDを手に入れる価値がある。

今まで聴いてきた、ステレオ・ミックスって何だったのか、なんだかちょっと、ステレオ・ミックスに軽い怒りすら感じた、今回の衝撃の「リマスター・モノラル・ミックス」のCDの数々ではあるが、この『Revolver』について、一番その「軽い怒り」を感じたなあ(笑)。

ステレオ・ミックスの音は、前衛的な、サイケディックな「プログレッシブ・ビートルズ」を感じるには音が薄い。ステレオに対応して、音を左右に振り分けるには、まだまだ楽器の数が、音数が足らないのだ(当然、モノラル・ミックスを前提としているので)。それを無理矢理左右に振り分けているのと、レコーディング後、直ぐにモノラル・ミックスを作り、それを何度も繰り返して、同じ曲でかなりの数のモノラル・ミックスが出来ていたので、そのモノラル・ミックスの最終バージョンをステレオに正確に移植することができなかったのが主な理由だろう。

これは、後に、ジョージ・マーティン御大でも、修復不可能だったのだろうと思われる。ちなみに、87年版リマスター時に、『Rubber Soul』は、ジョージ・マーティン御大自らがステレオ・ミックスをやり直しているが、『Revolver』は、当時ササッと作成されたステレオ・ミックスをそのまま使用している。

とにかく『Revolver』の真髄を感じるには、絶対にモノラル・ミックスである。そのモノラル・ミックスの音を前提に、ステレオ・ミックスの音を聴いて、その違いを楽しむ、というのが、最高の楽しみ方だろう。エンジニアのジェフ・エメリックは自伝に「Revolverは、絶対にモノラル・ミックスを聴くべきだ。それだけ、メンバーがミックスに時間と労力を注いでいる」とあったが、今回の「リマスター・モノラル・ミックス」のCDを聴いて至極納得。

『Revolver』のモノラル・ミックスを聴いて、前作『Rubber Soul』との継続性を感じる。表裏一体、対となった『Rubber Soul』と『Revolver』。ビートルズの音楽性の「表と裏」、もしくは「左と右」とでも表現したらよいのだろうか。不謹慎ではあるが、手っ取り早くビートルズを感じるには、この『Rubber Soul』と『Revolver』の2枚を必ず対にしつつ、連続して聴くことをお勧めしたい。

ちなみに、ジョン寄りのファンは『Rubber Soul』、ポール寄りのファンは『Revolver』に好みが分かれるんじゃないかなあ。昔からこの2枚を聴いていると、『Rubber Soul』=ジョン、『Revolver』=ポール、って感じがするんだよなあ(笑)。
  
  
  
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