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2009年6月 4日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・2

ちょっと捻りを効かせた、聴いているジャズ者の方々が、「これ、何て言うアルバム」って、ジャケットを見に来るような、そんなアルバムを、ジャズ喫茶では流したい。ジャズ者の皆さんが、買うのに躊躇う、手に入れるのに悩む、でも、実のところ、ジャズとしてなかなかの内容のアルバム。そんなアルバムを、ジャズ喫茶で流したい。

このアルバムも、もし僕がジャズ喫茶のマスターだったら、さりげなく流したいアルバムの一枚である。 Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)の『Tidal Wave』(写真左)。

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)とは、1938年シカゴ生まれのピアニスト。大学時代は、なんと医学を専攻。並行して、作曲と音楽理論を学んだという、ジャズ界の知的エリート。流石に、リーダー・アルバムなどは僅少、かなり寡作なジャズ・ピアニストです。

でもって、そんな寡作な、精神科医と掛け持ちのジャズ・ピアニストが、なぜ、ジャズ者の世界の中で、名前を留め続けることが出来るのか。それは、彼の端正で硬質でダイナミックなピアノにある。

一聴した時は誰だか判らない。でも、聞き終えた後、何故か心に残る。これが、デニー・ザイトリンのピアノの特徴。何故だか詳しいことは判らないんだけどね。本当に、何故か心に残る、ザイトリンのピアノ。

そのザイトリンが、1983年に残したアルバム。パーソネルは、Charlie Haden (b), Denny Zeitlin (p), John Abercrombie (g), Peter Donald (ds)。特に、John Abercrombieとのコラボが素晴らしい。
 

Tidal_wave

 
唯一ソロによる演奏の「Billie's Bounce」で、ザイトリンのピアノの特徴が判る。端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、ぎりぎりフリーキーな、それでいて、ジャズの伝統の範囲内にしっかりと留まった理知的な演奏。この知的、理知的という部分が、ザイトリンのピアノ最大の特徴。

John Abercrombieのギターは、エフェクトを「ガッツリ」効かせた、捻じれに捻れた、プログレッシブなジャズ・ギター。暴力的な感じではあるが、実は繊細なフレーズの積み重ねが実に素晴らしく、John Abercrombieって、こんなに機微を心得た、陰影、起伏溢れるギタリストだったのか、と感動を覚える位の素晴らしい演奏です。

その変幻自在、プログレッシブなギターを支える、ザイトリンの伝統的で端正で硬質でダイナミックなピアノ。加えて、Charlie Hadenのタイトで重量感のあるベースが支える。そして、Peter Donaldのフリーなドラミングが、他のメンバーの演奏により自由を与え続ける。

このアルバムって、相当水準が高いと思います。1983年、フュージョンの時代が去った、ジャズの「踊り場」の時代。そんな時代に、この高水準な純ジャズの存在。いや〜、ジャズって、本当に懐の深い音楽ジャンルだと、改めて感心することしきり。

こんなアルバムの演奏が、ジャズ喫茶のスピーカーから「さり気なく」流れている。そんな仮想のジャズ喫茶を想像するだけで、なんだかドキドキしてしまいます。もし、このアルバムの存在を知らない頃だったら、僕は、絶対にマスターに思わず訊きにいきますね。「あの〜、このアルバム、誰の何て言うアルバムですか?」。
 
 
 
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