コルトレーンの『Giant Steps』
コルトレーンは、とにかくレコーディングというレコーディングに「実験、チャレンジ、鍛錬」を持ち込むことが常なミュージシャンだった。意外と「聴き手」の立場に立って制作されたアルバムは、ほとんど無いと言って良い。
その最たる例が、このアルバムだろう。アトランティックに移籍して、初の単独リーダー作『Giant Steps』(写真左)である。このアルバムほど、コルトレーンの「実験、チャレンジ、鍛錬」を感じることの出来るアルバムは無い。
ジャズのアドリブの基本となる、というか音楽演奏の基本となるコードチェンジを極限まで押し進めた、きわめて、かなり、というか、超絶技巧のレベルを地でいく「メカニカルな演奏」。一小節ごとに繰り広げた、目眩くコード・チェンジの世界。こんなの普通じゃ演奏出来ない。
コルトレーンは、きっと自己中心的な男だったに違いない(笑)。この目眩くコード・チェンジの世界のコルトレーンの自作曲。そりゃ〜、自分が作った曲だから、練習するのも自由自在。研鑽を積んで、この目眩くコード・チェンジの世界を完璧に吹き切ることができるのは、コルトレーンにとって当たり前のこと。
でもね。それを、いきなりスタジオに集めた、バック・ミュージシャン達に強いるのはどうかと思うんだけど(笑)。サイドメンとして名を連ねるTommy Flanagan (p) Paul Chambers (b) Art Taylor (ds)。特に、ピアノのTommy Flanagan、ベースのPaul Chambersの苦労はいかばかりか、と・・・(笑)。最初に楽譜を見た時、ビックリしただろうな。でも、きっとコルトレーンらしい、とも思ったんだろうな。
突然呼ばれて、この呆れかえるような、コート・チェンジの嵐、シーツ・オブ・サウンドと呼ばれる音譜の高速羅列。上へ下への音程の上げ下げ。超絶技巧の世界。これを、いきなり「僕と一緒にやってよ、僕と同じ演奏レベルで・・・」というんだから、コルトレーンは、かなり「自己中心」である。
まあ、それがコルトレーンらしいと言えば、コルトレーンらしい。だから、呼ばれたミュージシャン達はチャレンジしたんだろう。つまりは、コルトレーンは、実にミュージシャンらしいミュージシャンだったんだろう。コルトレーンは純粋に音楽を極めることしか考えていなかったんだろう。常に「実験、チャレンジ、鍛錬」である。
僕がジャズ初心者時代、この『Giant Steps』の評論で、「コルトレーンはこの難しい曲を完璧に吹き切っているのに、ピアノのフラナガンは、相当に苦戦している。ベースのチェンバースもだ。流石である。コルトレーンの才能は傑出していたのだ」というのがあった。
アホかいな。自作曲を完璧に吹き切れるのは当たり前だろうが。自分でも吹けないものを自分で書かないだろう。しかも、だ。これだけ複雑な曲を、いきなり見せられて、今から上手く演奏して、って言われても、これだけ複雑な曲を、おいそれ、いきなり演奏できる訳が無い。
という観点で考えると、逆に、ピアノのフラナガン、ベースのチェンバースの演奏技術というのは、実に優れているということだ。いきなり見て、良くここまで演奏し切っているもんだ。特に、ピアノのフラガナンは相当に困ったはずだ。テナーの運指とピアノの運指は全く違う。コルトレーンにとっては、まずまず易しくても、ピアノのフラナガンにとっては、かなり困難だったはず。フラガナンは素晴らしいテクニックと感性の持ち主だった、ということが、このアルバムで証明されている。
コルトレーンはこのアルバムで懲りたのだろうか、反省したのだろうか。ジャズのアドリブの基本となる、というか音楽演奏の基本となるコードチェンジを極限まで押し進めた、きわめて、かなり、というか、超絶技巧のレベルを地でいく「メカニカルな演奏」を強いるアルバムを作っていない。自らが研鑽を積んでやっとできたことを、他の、その楽譜を初めて見たミュージシャンが、自分と同等のレベルとして、演奏出来るはずがない。
コルトレーンってナルシスト、若しくは、自尊心の強い、タカビーな演奏家だったのかもしれない。この『Giant Steps』では、コルトレーンだけが目立っている。コルトレーンだけが傑出している。バック・ミュージシャンは苦闘している。でも、今、振り返ってみると、確かに、コルトレーンの演奏技術は凄い。努力の天才である。でも、それ以上に、バック・ミュージシャンとして苦闘した、ピアノのフラナガン、ベースのチェンバースの演奏技術と才能、センスに感嘆するのだ。本当に、よく「ついていっている」。
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