若かりし頃のアルバムは・・・
一流のジャズ・ミュージシャンというのは、とにかく、若い頃から天才、秀才の類の輩ばかりで、凡百なミュージシャンは、知らない間に駆逐されていく。
そして、一流のジャズ・ミュージシャンは、必ずと言っていいほど「個性」というものも持ち合わせている。その「個性」というものは、若い頃から変わらない。「栴檀は双葉より芳し」。一流の、名を留めるジャズ・ミュージシャン達は、初リーダー作を始めとして、若かりし頃のアルバムは、そのジャズ・ミュージシャンの「個性」を強烈に感じることが出来る。
今日久しぶりに聴いた、Kenny Drew (ケニー・ドリュー)の『Kenny Drew Trio』(写真左)を聴いて、そのことを改めて強く思う。1956年9月の録音。パーソネルは、Kenny Drew (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)。
冒頭の「Caravan」を聴いて思う。ドリューは、この初リーダー・トリオ作にて、一流ジャズ・ミュージシャンの仲間入りである。彼の個性が煌めいている。明らかに、バド・パウエルの影響は色濃い。でも、バドと違うのは、バドの場合、どんなロマンティックな曲を演奏しても、厳しさというか、ストイックというか、切れ味ある尖ったテンションが溢れているが、ドリューはそうではない。
切れ味あるテンションはあるが、そんなテンションの中に、ほのかに優しさというか、丸さというか、ロマンチックな雰囲気がそこはかとなく感じるところが、ドリューの「個性」。そこ「個性」を「甘い」と評価するか、「ロマンティシズム」という「個性」と評価するかで、ドリューの評価は分かれる。
改めて、冒頭の「Caravan」。とにかく、超絶技巧なテクニックで弾きまくる、弾きまくる。バックのチェンバース=フィリー・ジョーを向こうに回して、ガンガンに弾きまくる。んだけど、音の雰囲気に、そこはかとなく、丸さというか「優雅」という雰囲気が見え隠れする。これが、このシビアな「Caravan」という曲を、上手く聴きやすくしている。
その丸さというか「優雅」という雰囲気を強く感じることができるのが、3曲目の「Ruby, My Dear」と、6曲目の「When You Wish Upon a Star」。手癖は明らかにバド・パウエルなんだが、バドの手癖に比べて、かなり丸くて優雅。職人芸的なビ・バップ的ピアノ・トリオが、シビアであるが、ポップス的な優雅な雰囲気芳るピアノ・トリオに変わりつつある。しかし、時代は1956年、ハード・バップ全盛時代に入ったばかり。ちょっと早すぎたか。
1970年代以降、メロディアスかつ優しいタッチで、ヨーロッパ及び日本で人気を博した訳だが、これって、別にドリューは宗旨替えした訳じゃあない。既に、初リーダー作を録音する頃から、その丸くて優雅な所(=メロディアスかつ優しいタッチ)は、明快にあったんだよな。
しかし、1956年の頃は、ハード・バップ全盛期。その丸くて優雅、ロマンティックでやや聴き易いドリューのピアノは、結論として「受けなかった」。そして、彼はヨーロッパに渡る。ヨーロッパに渡った後の大活躍は、ジャズ・ファンの多くが知るところ。
この『Kenny Drew Trio』でのドリューのピアノは、ちょっと早かった。でも、1970年代以降、再評価されて良かったよな〜。ドリューは幸運なミュージシャンであった。
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