正統派「洒落た70年代フラナガン」
ジャズのアルバム・コレクターをやっていると、時々「あれ、これって良いんじゃない」と思うアルバムに出くわすことがある。そんなアルバムって、必ず、今までほとんど見たことも聴いたこともないアルバムである。しかも、かなり有名なジャズ・ミュージシャンがリーダーを張っていたりする。
今回出くわしたのが、Tommy Flanagan(トミー・フラナガン)の『Tommy Flanagan Plays the Music of Harold Arlen』(写真左)。Tommy Flanaganが、ベースの名手George Mraz、ドラムのConnie Kayと組んだ「Harold Arlen集」。
全編に渡って、フラナガンのピアノが一番活きるフォーマットであるピアノ・トリオ中心の構成が、とにかく「良い」。ラストの1曲のみヘレン・メリルがボーカルでゲストで参加。これがまた、伴奏のフラナガンの真髄に触れることが出来て「良い」。選曲はタイトル通り、Harold Arlenの表スタンダード曲、隠れスタンダード曲がズラリと9曲。選曲からして「洒落ている」。
1950〜60年代、ピアノの名手の一人でありながら、なぜがリーダー作に恵まれず、脇役の名手、脇役名盤請負人などと変なレッテルを貼られていた。しかし、1970年代後半から、enjaレーベル中心にリーダー作をコンスタントにリリースすることになる。この『Tommy Flanagan Plays the Music of Harold Arlen』も1978年の作品。
ピアノ・トリオの美味しいところが「てんこ盛り」。燻銀とはまさに、このアルバムのフラナガンのピアノのことを言うんだろう。ドライブ感溢れる割に出しゃばらず、じっくりと聴かせるピアノはどれも絶品の極みである。
そのフラナガンの洒落て小粋でドライブ感溢れるバップ・ピアノはもとより、ムラーツのベースは重戦車のようにブンブン鳴り響き、ドラムのケイは丁々発止と職人芸的ドラミングを次々に叩き出す。収録されたどの曲もどの曲も、とにかくジャズ・ピアノ・トリオの美味しいところが「てんこ盛り」。これぞ、ジャズ・ピアノ・トリオのひとつ、と言って良い洒脱な演奏。
こんなアルバムがあるなんて知らなかった。このレコードの原盤は今はなき「トリオ・レコード」であるらしい。確かに「トリオ・レコード」って良いアルバム、結構、出していたっけ。今になって、こんな形で再会できるなんて。しかし、他の「トリオ・レコード」が出していたアルバムってどうなったんだろう。まとめて再発をして欲しいなあ。
世間ではフラナガンのベストと言うと『OVERSEAS』を挙げることがほとんどだが、僕はそうは思わない。トミフラのベストは、『ECLYPSO』やこのアルバムのようにベースにGEORGE MRAZを迎えたアルバムにあると思っている。ここでもMRAZとの相性は抜群である。ドラムのケイとの相性も、少なくとも『OVERSEAS』のエルビン・ジョーンズよりは良い。ケイのドラミングの方が、上手くフラナガンのピアノを浮き出させているのが良く判る。素晴らしい職人技。
冒頭の「BETWEEN THE DEVIL AND THE DEEP BLUE SEA」で、もう耳はこのアルバムの虜。後は「推して知るべし」。良いアルバムです。最後の1曲に、「ニューヨークの溜息」ヘレン・メリルがボーカルとして参加しているのも嬉しいですね。「伴奏のフラナガン」の真髄がじっくりと聴けます。
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