モンク体験の好盤 『Thelonious Monk Quintet』
モンクは、ジャズ界で一番、ユニークな存在である。その容貌もそうであるが、とにかく、モンクのピアノはユニーク。といって、奇をてらった「際物」では無い。しっかりと理屈が伴っているんだが、その音を聴くと、ジャズ初心者の頃は「面白い」と思うか、「なんやこれ」と顔をしかめるか、のどちらかである。
モンクのピアノは、西洋音楽、つまりクラシックの音楽理論、演奏方法の対極にあるような演奏で、和音の作り方、フレーズの作り方、タイム感覚、どれもがクラシック音楽の頭では到底理解できない、クラシック音楽の頭で聴くと、実に摩訶不思議なものである。
でも、そんなクラシック音楽の頭では理解できないユニークな演奏方法ではあるが、モンクはモンクなりに理屈が伴っているから、モンクの音世界はアーティスティックなのだ。
そんな摩訶不思議で、クラシック音楽をはじめとする西洋音楽の常識では理解できない、モンクの音世界である。他のミュージシャンからすると、共演するのが、困難もしくは苦痛を伴うものではないのかと想像する。あのモンクの音世界の中で、ジャムるって、相当にテクニックがあって、音に対する反射神経が良くないと、モンクのインプロビゼーションにはついて行けないような気がする。
そんな想像を現実のものとして、僕たちに聴かせてくれるアルバムがある。モンクの『Thelonious Monk Quintet』(写真左)である。モンクのリーダー作なのだが、このディスクは2つの異なる日付に、異なるメンバーで録音されている。
前半は、「ウィ・シー」から「ハッケンサック」まではフランク・フォスター(ts)、レイ・コープランド(tp)、カーリー・ラッセル(b)、アート・ブレイキー(ds)のメンバーで、1954年5月の録音。後半は、「レッツ・コール・ジス」と「シンク・オブ・ワン」(take2とtake1)はソニー・ロリンズ(ts)、ジュリアス・ワトキンス(frh)、パーシー・ヒース(b)、ウィリー・ジョーンズ(ds)のメンバーで、1953年11月の録音。
このアルバムほど、前半と後半で、出来不出来の差が激しいアルバムも、なかなかお耳にかかれない。モンクの音世界に適応するかしないかで、天国と地獄ほどの差が出ることを、このアルバムは教えてくれる。
前半の1954年の録音は、なかなかの出来。さすがに、ドラムにアート・ブレイキー、ベースにカーリー・ラッセルを配しているだけあって、モンク独特のインプロビゼーションに、しっかりと反応し、効果的にバッキングしている。リズム・セクションがしっかりしていると、モンクもしっかりと弾きまくる。そして、そのユニークなバッキングの中で、フロント楽器がハード・バップよろしく吹きまくる。
フロントはありきたりのハード・バップ的ブロウでも良い。モンクのピアノを含めたリズム・セクションがユニークで唯一無二なものなんだが、フロントとしては、吹きやすいビートを間の手を入れてくれるので、フロントは結構活き活きと吹き進める。そして、フロントが普通であればあるほど、モンクを含めたリズム・セクションは、そのユニークさが際だつ。
逆に、後半の1953年の演奏は、ちょっとな〜、って感じの内容。パーシー・ヒース(b)、ウィリー・ジョーンズ(ds)が、全くもって「イケてない」。特にドラムは悲惨。モンクも仕方なく、演奏速度をスローダウンして、全体のバランスを取るという非常事態。名手パーシー・ヒースも戸惑いを隠せない。
ベースとドラムのリズム・セクションがズッ転けると、モンクもズッ転ける。当然、フロントもズッ転ける。負のスパイラルである。ソニー・ロリンズは元気無く、ジュリアス・ワトキンスは不完全燃焼の極み。どうして「レッツ・コール・ジス」と「シンク・オブ・ワン」(take2とtake1)の3曲がリリースされたのかが不思議なくらい「イケてない」演奏である。
このアルバムの後半の演奏を聴くと、モンクって難しいんだなあ、と納得する。やっぱり、モンクの音世界の中で、ジャムるって、相当にテクニックがあって、音に対する反射神経が良くないと、モンクのインプロビゼーションにはついて行けないんやね〜。
モンクの演奏のユニークさと、モンクの音世界の中でジャムる難しさ。その両方を体験できるアルバムが、この『Thelonious Monk Quintet』。このアルバムで、モンクの特異性を体験して、次のアルバムに進んで下さい(笑)。
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