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2009年3月10日 (火曜日)

サックスを唄うように奏でる 『Gettin' Around』

昨日、コルトレーンの話をした。コルトレーンは、とにかくレコーディングというレコーディングに、「実験、チャレンジ、鍛錬」を持ち込むことが常なミュージシャンだった。

しかも、テクニック的にも才能のあるミュージシャンだったので、それはそれは、めくるめく「超絶技巧」な世界が展開される。なるほど、若手サックス・ミュージシャンが、こぞって目標とし、こぞってコピる訳だ。

しかしながら、サックスの音色は人間の肉声にとても近く、さまざまな感情を表現できる楽器だと言う。そういう意味では、中〜高音域中心の「超絶技巧」の世界は、サックスの本質から少し外れているのかもしれない。

逆に、テナー・サックスを唄う様に奏でるミュージシャンというのは、サックスの王道を歩いているのかもしれない。「唄う様に」テナー・サックスを奏でるミュージシャンの代表格の一人に、Dexter Gordon(デクスター・ゴードン・愛称デックス)がいる。

今日、久しぶりに、デックスの『Gettin' Around』(写真左)を聴く。ブルーノートの4204番。1965年5月28、29日の録音。いやはや、実に素敵なジャケットだ。このジャケット・デザインだけで、その内容は約束されたようなもの(笑)。
 

Gettin_around

 
渡欧中の1965年に、一時帰国して録音した盤。パーソネルは、Dexter Gordon (ts) Bobby Hutcherson (vib) Barry Harris (p) Bob Cranshaw (b) Billy Higgins (ds) 。冒頭の「Manha de Carnaval(邦題:黒いオルフェ)」は「定番中の定番」の名演。Bobby Hutcherson(ボビー・ハッチャーソン)のヴァイブが効いていて、実に洒落た雰囲気が心地良い。

デックスのテナーは、茫洋とした響き。しかし、聴き進めていくと実に味わい深いことに気がついて、知らず知らずのうちに「はまっていく」。テクニック的にも大雑把なようで「実は繊細」。デックスのテナーを聴いていると、サックスの音色は人間の肉声にとても近いということを実感する。ほんとに、唄うようにテナーを吹くのだ。

「Manha de Carnaval」「Who Can I Turn To (When Nobody Needs Me)」「Shiny Stockings」など、ちょっとポップな選曲で、ややもすれば俗っぽくなってしまいそうなのだが、このメンバーで、しかも、ブルーノートで収録すれば、絶対に俗っぽくならない。実に心地良い、実に聴いていて心地良い、極上のムード・ジャズが展開されます。

朝、通勤途中で聴くも良し。帰宅して、晩ご飯を終えて、バーボン片手にゆったりとした気分で聴くも良し。良いものは何時聴いても良い。デックスの木訥とした、それでいて包容力のある、心地良い響きのテナーを聴いて、今日の心の疲れが一気に吹っ飛んでいくのであった。
 
 
 
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