AORの「伊達男」・その1
僕が密かに、AORの「伊達男」と呼んでいる男がいる。その男の名前を言う前に、AORとはなんぞや、という問いに答えておく。日本で「AOR」とは、「Adult Oriented Rock(大人が心を向けたロック)」の略と解釈される。まあ、大人向けのロックということですか。1970年代後半から1980年代にかけて流行しました。
さて、AORの「伊達男」とは、ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs・写真右)のこと。ボズ・スキャッグスは、オハイオ州出身の米国ミュージシャン。AORサウンドを代表するシンガー。R&B色が濃い泥臭い音楽を中心に、サンフランシスコを拠点に活動していたが、ちっとも売れなかった。しかし、1976年、突如、大幅なイメージ・チェンジを断行、ソフィスティケートされた『シルクディグリーズ』(写真左)というアルバムを出して、一躍、AORの代表格になった。
「ウィアー・オール・アローン(二人だけ)」という曲は、実に良い曲である。この曲を初めて聴いた時、良い曲だなあ、と感じ入ったのを覚えている。1976年のことである。この「ウィアー・オール・アローン」をLPのB面のラストに収録した、「AORの名盤」と誉れ高いアルバムが『シルク・ディグリーズ』。
この『シルク・ディグリーズ』というアルバム、確かに良く出来ている。まず、ボズ・スキャッグスの声が、太く丸くて、少しくぐもっていて、ソフトな声なので、この声を活かすには、ポップで、ソフィストケートされた雰囲気が必要。
そのソフィストケートされた雰囲気を出すのにはどうしたらいいか、ロック・ファンのみならず、一般の人々にアピールするにはどうしたらいいか、FMで取り上げられてバンバン、オンエアされるにはどうしたらいいか、を考え抜いて考え抜いて、このアルバムにある「秀逸なアレンジ」が生まれたんだろう、と思う。
とにかく、アレンジが素晴らしいんですね。ブラスの使い方、女性コーラスの使い方、弦の使い方、エレピの使い方、どれもが、後のAORアルバムに応用され尽くした、数々の「定番アレンジ」がてんこ盛り。良いステレオ装置で、じっくりと聴き返すと、ほんと、良くできたアレンジに感じ入ってしまう。
でも、この『シルク・ディグリーズ』、ブラスと弦、女性コーラスを大々的に前面に押し出したおかげで、ロックのアルバムというよりは、ちょっと硬派なアメリカン・ポップ的な雰囲気になってしまって、ロック・ファンからすると、ソフト&メロウな世界へ行き過ぎた感じは否めない。
でも、それがかえって、ロック・ファンというマニアックな世界から飛び出して、一般の人々にも十分にアピールし、当時としては爆発的に売れた。AORの初期の代表的なアルバムになり、ボズ・スキャッグスの代表盤となった。
最後に「ウィアー・オール・アローン」という曲なんだが、曲としてはとても良く出来ているんだが、この曲だけはアレンジがいただけない。弦が、あからさまに出過ぎていて、どうしても、なんだかチープな感じがしてならない。
この「ウィアー・オール・アローン」を聴く度に、ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」を思い出す。弦を入れたら良いってもんじゃない。弦の入れ方ひとつで、曲の印象はガラリと変わる。この「ウィアー・オール・アローン」って、良い曲なのになあ〜。弦の入れ方だけがいただけなくて、この『シルク・ディグリーズ』、僕の中では佳作どまりなのである。
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