ジャズにおける「ペンの力」
今日は東京だけ天気が悪かったのか? 昼間から蕭々と降る雨。そして、ちょっと寒い。まあ、朝、家を出て会社に着けば、外出が無い限り、空調の効いた部屋の中で温々と過ごしているんだけどね。
今日は、久し振りにマイルス・デイビスの「クールの誕生」を聴いて会社を往復。ちょっと、「ペンの力」を借りたジャズが聴きたくなったのだ。事前にアレンジされ、譜面が用意され、その譜面を基に「ジャズ」を演奏する。クラシックの様なアプローチ。即興演奏が命の「ジャズ」の世界にも、クラシックの様なアプローチの「ジャズ」がある。
時は、1948〜1950年。当時のジャズ界は「ビ・バップ」の全盛期。演奏のテクニック、スピード、展開、インスピレーションを競う「ビ・バップ」。その頃、ビ・バップは、その演奏がテクニックとスピード優先、演奏者同士の競い合いに終始し、その最先端の演奏は、単純に、音楽として、鑑賞に堪えるものではなくなっていた。そのテクニックを愛でる「アクロバティック」なマニア向けになりつつあった。
当時、マイルス・デイビスはどう考えたか。「これでは大衆音楽としてのジャズは駄目になる」と思ったのか。いやいや、彼はきっと「人と同じ事をやっていても駄目だ。人のやってないことをやらないと生き残れない」と考えたか、いやいやいや、「こんな騒々しい演奏では、女は口説けない」と考えたに違いない。そうだ、マイルス。いいぞ(笑)。
反ビ・バップの「新しいムーブメント」を創造しようとする新鮮な心意気。このアルバムの根底に流れているコンセプト。ギル・エヴァンスやジェリー・マリガンら、有能なアレンジャーの「ペン」の下、バリトン・サックスやフレンチ・ホルン、チューバを含む9重奏団の演奏を録音した。ビ・バップの熱いアドリブ合戦に対比して、「クール」と称された本作。ジャズにおける「ペンの力」を示した最初の作品だと僕は思う。
構成やアレンジを重視する関係上、プレーヤー個々の自発性が犠牲にされている。これはジャズでない、と良く言われることもうなずける。でも、アレンジされた「ペンの力」の下での「ジャズ」でも、このアルバムを聴くと、十分に「ジャズ」しているのが判る。譜面通り演奏されていても、ところどころピッチが狂っていたり、タイミングが合ってなかったり、クラシックではあり得ない、演奏家の個性と即興性が優先される「ジャズ」ならではの「譜面を使った演奏」。
しっかりアレンジされ、演奏の進行も規定されているのだが、じっくり聴いていると、この「クール」のコンセプトを通過して、ビ・バップはハード・バップに移行したんだ、と納得できる。1954年2月21日、バードランドでの歴史的な夜に、突如として、ハード・バップが世に出た訳ではない。
マイルス、コニッツそしてマリガンは熱い演奏を繰り広げているし、しっかりアレンジされている関係上、楽器のハーモニーが素晴らしくて、なかなかのオーケストラ・サウンドです。結構、聴き易い「ジャズ」になっていますので、ジャズの初心者の方にも聴きやすく、上記の様な背景を踏まえながら、「ジャズ」の雰囲気を感じるには、良いアルバムだと思います。
ジャズにおける「ペンの力」。振り返って、聴き返してみると、結構、興味深く、楽しく聴けたりして、これはこれで「あり」かな、と思ったりします。
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