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2018年8月 7日 (火曜日)

ジャズ・トレンドの分水嶺

1980年代のハードバップ回帰、いわゆる「ネオ・ハードバップ」のムーヴメントを捉えて、帝王マイルスは「昔のジャズを焼き直して、何が面白いのか」とバッサリ切り捨てたのを覚えている。「過去の音楽を再びやるなんて、俺には考えられない。常に自分がクールと思う新しい音を追求する」。この革新性こそ、ジャズなんだな、と心底感心したことを覚えている(俺の音をジャズと呼ぶな、と帝王に怒られそうだが・笑)。

確かに、1980年代の「純ジャズ復古」のムーブメント以来、過去の音のトレンドの焼き直し、深化はあったが、新しいクールな何か、がジャズに現れ出でたか、と問えば、答えは「ノー」。もはや、ジャズは深化はするが進化はしない、のでは無いかと思っていたら、この5年ほど前から、そんな「新しいクールな何か」がジャズに現れ出で始めた。

ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンを中心とするムーブメントである。ジャズがメインなんだが、R&B、ロック、ヒップホップ、レゲエ、ブルースまで様々なジャンルを融合、ボイスやノイズを新しいソロ楽器の様に扱い、ボーカルに意味を持たせて「スピリチュアル」な響きを前面に押し出す。そして、一番特徴的なのは「リズム&ビート」の扱い。従来のジャズの基本要素だった「スインギーなオフ・ビート」は全く見向きもせず、最終的にビートを排除。
 

Keyon_harrold_the_mugician  

 
これを僕は「リズム&ビートのモード化」と呼んでいるが、拡がりと緩やかな抑揚をベースとしたビートが特徴。その上に、緩やかで音を選び間を活かした、落ち着いたアドリブ・フレーズが展開される。今までのモダン・ジャズの「正反対」なアプローチの数々。2010年を越えて、やっと「新しいクールな何か」がジャズに現れ出で始めた。

Keyon Harrold『The Mugician』(写真左)。2017年10月のリリース。新世代のジャズ・トランペッター、キーヨン・ハロルドの最新アルバム。いや〜、クールである。まさに、「新しいクールな何か」がこのアルバムに詰まっている。ジャズがベースではあるが、リズム&ビートがジャズでは全く無い。全く新しいクールなリズム&ビート。全く新しい響きのモーダルなトランペット。

従来のジャジーなリズム&ビートからの脱却。新しいクールな響きのモーダルなフレーズ。ジャズではあるが、今までのジャズでは全く無い。ボイスやノイズをもジャズに取り込み、融合する。やっと、ジャズに「新しいクールな何か」が現れ出で始めた。従来のモダン・ジャズと、これからの「ネオ・モダン・ジャズ」。意外と2010年辺りが、ジャズのトレンドの分水嶺になっていくのかも知れない。

 
 

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2018年5月16日 (水曜日)

リピダルの先進的なエレ・ジャズ

暑くも無く寒くも無い。この5月の過ごしやすい季節は、ハードなジャズを聴くのに最適な季節である。まあ、今年の5月の意外と天気が悪く、天気が回復すると途端に夏日と暑くなる。過ごしやすい、というにはちょっと、という感じなのだが、それでも夏や冬の気候に比べたら、圧倒的に過ごしやすい。

この過ごしやすい季節によく聴くジャズのひとつが「ECMレーベル」のアルバム達。夏には暑さを我慢して聴くにはハードなフリー・ジャズや、真冬に聴くと更に寒さを感じる様な、静謐なニュー・ジャズなど、傾聴するに結構ハードな盤が多いレーベルである「ECMレーベル」。このレーベルのアルバムを聴くのは、過ごしやすい季節、初夏そして秋が一番なのだ。

Terje Rypdal『What Comes After』(写真左)。1973年8月の録音。ECMの1031番。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, fl), Erik Niord Larsen (oboe, English horn), Barre Phillips (b), Sveinung Hovensjø (el-b), Jon Christensen (perc, organ)。ノルウェー出身のギタリスト兼作曲家、テリエ・リピダルのリーダー作である。リピダルのギターは、ジャズを中心にロックから現代音楽まで、その表現については幅が広い。
 

What_comes_after

 
特に、幽玄なフレーズを用いた「’ニュー・ジャズ」の音が得意で、ファンクネスは皆無であり、ブルージーな要素は微弱。そういう意味では、リピダルのギターは欧州独特のものだと言える。ギターのパッションな音色の特性を活かしたフリーな表現も得意としており、それまでの4ビート中心のジャズとは明らかに一線を画している。この盤では、そんなリピダルのギターを前面に押し出した「エレ・ジャズ」が展開される。

一聴すると「エレ・マイルス」かな、と感じるんだが、決定的な違いは「ファンクネスの有無」。あまりビートを強調しない、ファンクネス皆無な即興演奏をメインとした音世界は、独特なエコーも伴って、実にECMレーベルらしい。ジャズ、プログレ、クラシック、現代音楽と様々な音楽の要素を織り交ぜて、自由度の高いエレ・ジャズが展開される。今のジャズのトレンドで言うと、クールな「スピリチュアル・ジャズ」な雰囲気も濃厚。

ベースの音も生々しくて魅力的。この盤で聴かれるベースは、自由度が高く、ややサイケデリックな要素も見え隠れする、本場米国には無い、欧州独特、ECM独特のベースの音。リピダルの「エレ・ジャズ」の世界は他の「エレ・ジャズ」とは全く異なり、個性的である。そういう意味では、もう少し評価が高くても良いのではと思う。プログレッシブなエレ・ジャズの好盤。 

 
 

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2018年3月26日 (月曜日)

日本人による「ジャズで踊る盤」

元来、1960年代から、日本のジャズはなかなかの線を行っている。穐吉敏子や渡辺貞夫らがいち早く、バークリー音楽院に留学し、ジャズ演奏のノウハウを日本に持ち帰ったことが一番大きい理由だが、その頃、日本では戦後、あこがれの米国の環境に追いつくべく、クラシック中心に楽器演奏についての環境が急速に整いつつあったこともある。

今でも、ジャズの演奏については、日本の水準は西洋諸国と比肩するレベルを維持しており、毎月、なかなかの内容のジャズ盤がコンスタントにリリースされている。逆に、こんなに多くのジャズ盤がリリースされていて、はたして今の日本にそれだけの需要はあるのかしらん、と不安になるくらいである。

松浦俊夫グループ『LOVEPLAYDANCE』(写真左)。2018年3月のリリース。発売ホヤホヤのアルバムである。世界規模での活躍を続けるDJ松浦俊夫(写真右)、初の自己名義作品。 宣伝の触れ込みは「自身のDJキャリアにおけるマイルストーン的ナンバーをカバーしたアルバム」。ん〜? 松浦俊夫の役割と言えば、そうか、コンダクター、もしくはプロデューサーなのか、なるほど。
 

Love_play_dance  

 
立ち上がりから暫くは「エレ・マイルス」の様な音が続く。これが良い。エレ・マイルスというと、ノスタルジックな雰囲気が漂うのだが、この盤での演奏はそうはならない。しっかりと今の音を紡いでいる。とにかくリズム&ビートの響きが新しい。音の展開も決して1970年代では無い。明確に「ジャズでクールに踊る」という音作り。クラブ・ジャズの真骨頂である。

5曲目「KITTY BEY」の様に、サイケデリックの様なアブストラクトな展開がユニークなエレ・ジャズもある。8曲目の「AT LES」の様に、ユーロリズミックなエレ・ジャズもある。いづれも「ジャズでクールに踊る」ということを前提とした演奏で、さすが、DJ松浦俊夫のコンダクト&プロデュースである。

今回の楽曲はすべてロンドン録音で、英国のミュージシャンを起用している。録音された音の響きや楽器の音が米国でもなければ欧州でも無い。不思議な音やなあ、と思っていたが、なるほど英国のミュージシャンでロンドン録音なのね。妙に納得しました。スウィンギン・ロンドンの聖地で、明確に「ジャズでクールに踊る」という盤をコンダクト&プロデュース。これが日本人の手によるジャズ盤なのか、と思い切り感心した次第。日本のジャズのレベルは明らかに高い。

 
 

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2018年3月12日 (月曜日)

クロスオーバー・ジャズの深化形

ジャズはどんどん深化している。今から30〜40年前に流行ったクロスオーバー・ジャズやジャズ・ファンクが、今の感覚と今のテクノロジーを駆使して、新しく生まれ変わったりする。こういうのを聴くと、ジャズは深化してるな〜、って感じるし、ジャズって裾野が広いなあ、と改めて思ったりする。

Todd Clouser, John Medeski, JT Bates『You the Brave : Live at Icehouse』(写真左)。これが、凄いライブ盤なんですよ。2017年7月24日、ミネソタ州ミネアポリスでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Todd Clouser (g, vo), John Medeski (key), JT Bates (ds)。ギター+キーボード+ドラムのトリオ編成。

冒頭の「Whereas Her Money From」を聴いて、思わずぶっ飛ぶ。ヘビーなギター、うねるオルガン、強烈なファンク・ビート。テンポはゆったりしているが、ヘビーなエレ・ファンク。これって、マイルスやん。1970年代前半の強烈なファンク・ビートをベースにしたエレ・マイルスをゆったりとしたテンポに落とした様な音。僕達にとっては「どこかで聴いた音」。思わず、聴き込み体勢に入る。
 

You_the_brave  

 
すると、5曲目の「You Call When You Want Something」の様に、情緒的で官能的、加えて、バラード調で哀愁感漂う印象的な演奏もある。8曲目には「Amazing Grace」のカヴァーまでしている。こんな情緒的で印象的なエレギとキーボードの演奏を聴いていると、まるで、1970年代のプログレッシブ・ロックを聴いている様だ。

ジャズとプログレとの共存。有りそうで今まで無かった、ジャズとプログレとの「融合」。新しい感覚、新しい音世界。クロスオーバー・ジャズの深化形であり、新たな「フュージョン・ジャズ」の拡がりである。そうそう、クルーザーのボーカルは、まさに「今」である。ラップの様でもあり、語りの様でもあり、明らかに新しいジャズ・ボーカルの形である。

とにかく、1970年代のエレ・ファンク、クロスオーバー・ジャズ、プログレッシブ・ロックな要素が混ざり合った、今までに無い音世界である。リズム&ビートも重量級で、ジャズの軽快なスイング感など全く無い、あるのは重量級のファンクネス。反面、情緒的で官能的、加えて、バラード調で哀愁感漂う印象的な演奏をアンチテーゼにして、このライブ盤は全く飽きが来ない。隠れ好盤。

 
 

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2018年3月 9日 (金曜日)

ウルマーのジャズ・ファンク盤

1970年代後半、僕がジャズを聴き始めた頃は、ジャズの世界は「フュージョン・ブーム」真っ只中。FMのジャズの番組も、かかる演奏は基本的にクロスオーバー・ジャズからフュージョン・ジャズがメインだった。深夜帯の僅かな番組だけが、純ジャズをかけていたなあ。これがまた、聴く耳にグッとくるんだよなあ。懐かしいなあ。

当時、貧乏学生にとって、FMは貴重な音源で、夜な夜なエアチェックしていて、翌日、小型のカセットテレコをカバンに入れて、小さなヘッドフォンで聴いて歩いていた。そう、まだ「ウォークマン」が出現する前の時代のことである(笑)。そんなFMエアチェック時代の1980年に入ってからのこと。突如、ステレオを通じて、ヘッドフォンに思いっきりジャズ・ファンクなエレ・ジャズが耳に飛び込んで来た。

James Blood Ulmer『Are You Glad to Be In America?』(写真)である。1980年のリリース。オーネット・コールマンのバック・バンド出身の ギタリストで「ハーモロディック理論」に影響されたジャズ・ファンク。ジャズ界のジミヘンと言われるJames Blood Ulmer=ジェームス・ブラッド・ウルマーのジャズ・ファンク盤。
 

Are_you_glad_to_be_in_america  

 
それはそれは凄まじいギターである。ハードではあるが、しっかりとファンクネスがドップリ染み込んでいて、リズム&ビートが効きまくっていて、グルーヴ感が半端無い。 オーネット・コールマンのバック・バンド出身のギタリストではあるが、音の雰囲気は、これって「エレクトリック・マイルス」である。エレクトリック・マイルスから、おどろおどろしい、ダークなファンクネスを差し引いて、あっけらかんとしたファンクネスを残したような音世界。

この「脳天気」なエレ・ジャズなところが、ジェームス・ブラッド・ウルマーの真骨頂。誰かが表現した「鉈で薪をガシガシ割っていくような」エレギは爽快感満点。混沌としたエレ・ジャズだけど、ビートがしっかりしているので、破綻したり拠れたりすることは無い。整然とキッチリとグルーヴする。躍動感溢れ、耳に心地良い。これもジャズ、である。

ウルマーのウネウネしたギターに、アリのブリブリなベース、さらにマレイの官能的なホーンが絡んで来て、呪術的なダブル・ドラムが乱入し渾然一体となり、1980年の頃は、これってフリー・ジャズなのかなんなのか、何となく隔靴掻痒な感があったのですが、これはもう、現代でいう、躍動感溢れスリリングな「スピリチュアル・ジャズ」です。 いや〜、今の耳にも爽快に響きます。

 
 

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2018年2月19日 (月曜日)

ECMレーベルの「異色盤」です

欧州ジャズ・レーベルの雄、ECMレーベルは懐の深いレーベルである。硬派なモード・ジャズやフリー・ジャズがメインではあるが、ファンクなエレ・ジャズや耳当たりの良いフュージョン・ジャズもカタログに含まれている。まあ、それらもきっちりと「ECMの音」には仕立て上げられてはいるんだけれど・・・。

Julian Priester『Love, Love』(写真左)。1974年の作品。実にECMレーベルらしいアルバム・ジャケットを見れば、この盤も硬派なモード・ジャズやフリー・ジャズなんだろうなあ、と想像するんだが、これが全く「違う」。しかし、である。38年前、この盤を初めて聴いた時、僕は「Julian Priester」というジャズメンを知らなかった。

Julian Priester=ジュリアン・プリースターは、アンダーレイテッドで、マニアックな人だけが知っているトロンボーン奏者。ハービー・ハンコックのファンク・グループで注目を集め、以降はビッグバンドを中心に活動。80年代以降はデイブ・ホランドのグループで活躍しているとのこと。1935年生まれなので、今年で83歳になる。
 

Lovelove

 
さて、この『Love, Love』という盤、長尺の曲が2曲のみの収録。LP時代のA面に「Prologue/Love, Love」、B面に「Images/Eternal Worlds/Epilogue」。その演奏を聴けば思わず「これって、エレ・マイルスやん」と思ってしまう。欧州独特の硬質で透明感のある、しなやかなファンク・ビートに乗りながら、エレクトリックなジャズが展開される。

ここでトランペットが入ると明らかに「エレ・マイルス」の模倣になるのだが、ここは代わりにシンセサイザーを上手く活用して、マイルスのエレクトリック・ファンクの影響を強く感じさせてはいるが、決して模倣に走らない、個性的な「欧州のエレ・ファンク」な音を聴かせてくれます。

時々、フリーキーな展開になるんですが、このフリーキーな雰囲気が欧州独特の雰囲気で、やはりこのエレ・ファンクはECMレーベルの音なんだなあ、と感心してしまいます。 クロスオーバー・ジャズな展開もあって、この盤はECMレーベルの中では、やはり異色盤です。でも、僕はこの「欧州のエレ・マイルス」な盤、お気に入りです。

 
 

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2018年1月24日 (水曜日)

井上銘の「リーダー作第3弾」

雑誌「ジャズライフ」のディスク・グランプリ、「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を細かにチェックしていて、久し振りにこのギタリストのリーダー作を雑誌で見た。井上 銘(May Inoue)である。彼のデビュー盤の『First Train』を聴いて、これは将来、楽しみなギタリストやなあ、という印象を持ったのが、2011年のこと。

それから、2013年に、セカンド盤の『Waiting For Sunrise』をリリース。それから、昨年の2017年まで、リーダー作が途絶えている。6年間で2枚のリーダー作はあまりに少なすぎる。でも、Twitterを見ている限り、元気にプレイしているみたいで、なかなかリーダー作をリリースする機会に恵まれないだけか、とちょっと安心はしていた。

で、「ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー」で、昨年、3枚目のリーダー作をリリースしていたことに気がついた。ほんま、知らんかった。その3枚目のリーダー盤とは、井上 銘『STEREO CHAMP』(写真左)。ちなみにパーソネルは、井上 銘 (g), 類家 心平 (tp), 渡辺 ショータ(key,p),  山本 連 (b), 福森 康 (ds)。
 

Stereo_champ_1

 
内容的には、ずばり「エレ・マイルス」。類家のトランペットが、ちょっとマイルスのトランペットに似ていて、バックのリズム&ビートが「エレ・マイルス」を想起させる。曲によっては、明らかに「ウェザー・リポート」を想起させる。エレギが活躍する「エレ・マイルス」もしくは「ウェザー・リポート」。いわゆる「エレクトリック・ジャズ」好きには「ツボ」な内容である。

しかし、このリーダー盤で、リーダーの井上はエレギを弾きまくる訳では無い。どちらかと言えば、バッキングに回って、フロントの類家のトランペットの惹き立て役に回っている感じなのだ。確かに、類家のトランペットが目立っている。というか目立ちすぎの様な感じがする。エレギとトランペット、フロントを分け合うには、音の線が細い分、エレギはちょっと分が悪い。

とは言え、井上のエレギは随所に光るものがある。このリーダー盤では、ギタリストというよりは、演奏全体を組み立て展開する、いわゆる「プロデューサー」的な、総合的なジャズメンとしての魅力の方が前面に出ている。エレギ+キーボード・トリオの組合せでやって欲しいなあ。井上のエレギは「ウェザー・リポート」的雰囲気の演奏が合っている様な感じがする。

 
 

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2017年12月28日 (木曜日)

日本人によるエレ・ファンク

菊地雅章の『Susto』は「耳に優しい」エレ・マイルスであり、「聴き易い」エレ・ファンクであった。エレ・マイルスからファンクネスを抜いて、混沌としたグルーブを再整理し、重量級のリズム&ビートを軽量にし、ジャジーで複雑なフレーズをポップで判り易くした様な音世界。

実は、この『Susto』と対になる、『Susto』と同様に「耳に優しい」エレ・マイルスであり、「聴き易い」エレ・ファンクであるアルバムがある。『Susto』の次作であるこの盤。菊地雅章『One Way Traveller』(写真左)。1980年11月の録音。1982年のリリース。僕は社会人ほやほやで、このアルバムは『Susto』と併せて良く聴いた。

ちなみにパーソネルは、菊地雅章 (key), 日野皓正 (cor), Sam Morrison (ss), Steve Grossman (ss,ts), Hassan Jenkins (b), Gass Farkon (g), Billy Paterson (g), James Mason (g), Butch Campbell (g), Marlon Graves (g), Ronald Drayton (g), Richie Morales (ds), Victor Jones (ds), Aiyb Dieng (per), Airto Moreira (per), Alyrio Lima (per)。ほとんど、前作『Susto』と同じメンバー。
 

Oneway_traveller

 
というのも、この『One Way Traveller』と『Susto』とは録音日が同じ。そりゃ〜メンバーは同じだな〜。アルバムに詰まっている音世界は『Susto』と同じ。エレ・マイルスよりも、整然としていて見通しが良い。エレ・マイルスは、混沌としたところがあり、耳に過度の刺激になる「毒」の要素がところどころに漂っているのだが、『One Way Traveller』は健康的である。

もちろん、ファンクネスは希薄である。音とリズムの洪水ではあるのだが、すっきりとしていて聴き易いエレ・ファンクである。菊地雅章のキーボードも判り易く個性的。シンセの使い方も非常に健全である。日野皓正のトランペットは明らかにマイルス風で、これはちょっとなあ、と苦笑い。

『One Way Traveller』は『Susto』の後に続けて聴くのが一番。『Susto』では印象的なキーボードはフェンダー・ローズ。この『One Way Traveller』での印象的なキーボードはシンセサイザー。菊地のキーボード・ワークは素晴らしい。しかし、これだけのメンバーを集めて、演奏させてみて、このファンクネスの希薄さは面白い。日本人のエレ・ファンクやなあ、と妙に納得する。

 
 

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2017年12月27日 (水曜日)

日本人によるエレ・マイルス

我々は音楽のプロでは無い。プロでも無い我々が、プロの創り出す音を悪く評することはマナーに反する、と常々自戒している。では、音楽のプロはプロの創り出す音を悪く評しても良いのか。それも違うだろう。プロはプロ同士、相手の成果に対しては敬意を払うべきだろう。悪く評したければ言葉にしなければ良い。相手を悪く評する言葉は決して発信せず、自分の心の中にしまっておけば良い。

僕はこの人が雑誌などで語る、他のジャズメンのアルバムやパフォーマンスをケチョンケチョンにこき下ろす記事を何度も目にし、かなりの嫌悪感を覚え、この人の創作する音楽さえも避けてしまうようになった。歯に衣を着せない物言いは良いのだが、あまりに他のジャズメンを悪く評し過ぎで、それが活字となって残るのだから始末が悪い。

しかし、この盤だけは良く聴いた。菊地雅章『Susto(ススト)』(写真左)。1980年の録音。ちなみにパーソネルは、菊地雅章 (key,synth), 日野皓正 (cor,bolivian flute), Steve Grossman (ss,ts), Dave Liebman (ss,ts,a-fl), Richie Morales (ds), Yahya Sediq (ds), Hassan Jenkins (b), James Mason (g), Marlon Graves (g), Barry Finnerty (g), Alyrio Lima (per), Aiyb Dieng (conga), Sam Morrison (wind driver), Ario Moreira (per), Ed Walsh (synth prog)。しかし、よくこれだけのメンバーを集めたものだ。
 

Susto_1

 
この盤の音世界は、一言で言うと「1970年前後のエレ・マイルス=マイルスのエレ・ファンク」である。しかも、エレ・マイルスからファンクネスを抜いて、混沌としたグルーブを再整理し、重量級のリズム&ビートを軽量にし、ジャジーで複雑なフレーズをポップで判り易くした様な音世界。とにかく聴き易い。ジャズ初心者にとっては、本家本元のエレ・マイルスは「聴くと疲れる」。しかし、この盤のライトなエレ・マイルスは聴き易かった。若い頃、ジャズ者初心者の頃、この盤は聴いた。

面白いのは、米国ジャズメンが中心なのにファンクネスが希薄なこと。リズムも軽量級になること。これは日本人リーダーの指示だったのか、それとも日本人リーダーだから、それにジャズメン達が自発的にそのイメージに合わせたのか。しかし、力作ではある。収録された4曲、いずれの出来は良い。特に印象的なのは、リズム&ビートで一気に聴かせる「Circle/Line」、前奏のローズの音が印象的なエレクトリックなレゲエ・ジャズ「Gumbo」。

「Susto(ススト)」 とは、ポルトガル語で”驚き”という意味。今の耳で聴いても、1980年にこういうエレ・マイルスの再構築イメージの好盤が日本人の手で創作されていたとは素晴らしいことである。アルバム全体に心地良い迫力とテンションがあって、それでいてスッキリとしてポップ。ちなみに、菊地雅章が、Fender Rhodes Pianoを弾きまくっているアルバムとしては、この『Susto』が最後の作品とのこと。この盤はローズの音を愛でるに適した好盤でもある。

 
 

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2017年8月23日 (水曜日)

Miles Reimaginedな好盤・2

マイルスの成果を振り返り再評価するジャズ本に『MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』がある。このジャズ本って、今の時代を前提に、マイルスの音世界のフォロワーについて検討・検証しているところが実に参考になる。昔の盤のみならず、最近リリースされた盤にもスポットを当てているので、実に有り難い。

そんな「Miles Reimagined」なジャズ本で興味を持った盤の一つが、Perigeo『Abbiamo tutti un blues da piangere』(写真左)。この盤は1973年のリリース。イタリアのバンド、Perigeo=ペリジェオと読む。当時、ジャズ畑で活動していたメンバー達によって、1971年にローマで結成されたグループである。邦題は「感涙のブルース」だったらしい。酷いなあ。

聴いてみると実に面白い音世界である。マイルスのフォロワーというか、エレ・マイルスの影響をモロに受けている部分が聴いてとれる。というか、ブルージーなジャズ・ロックぽいフュージョン・プログレという雰囲気。リターン・トゥ・フォーエヴァーやマハヴィシュヌ・オーケストラをロック寄りにして俗っぽくしたフレーズが出てくる出てくる。
 

Abbiamo_tutti_un_blues_da_piangere

 
はたまた、中期ソフト・マシーンのシンプルではあるが、イマージネーション豊かなハイテクな演奏が出てきたり、どっしりとした重量感を感じさせながらの鬼気迫るスリリングな、ちょっとフリーキーな展開には、そこはかとなく「キング・クリムゾン」の様なイメージが漂ったりする。マイナー調のインプロで盛り上がる様は、ジャズロックというよりは「プログレ」。

プログレッシブ・ロックっぽいジャズ・ロック。リフと即興が印象的なハイテクかつ叙情的なエレジャズ。バンド全体の演奏力は高く、アルバム一枚を一気に聴き切ってしまう。アバンギャルドな展開も散りばめられていて、そういう面ではロックでは無く「ジャズ」寄り。こんな面白いエレ・ジャズロックな盤が、1973年にイタリアで生まれていたなんて、僕は知らなかった。

アルバム・ジャケットもプログレ風で秀逸。ジャケットだけみれば「プログレ」、出てくる音は「ジャズ・ロック」という落差が面白い。さすがはイタリア、欧州のジャズ〜ロックの音世界である。ジャズとロックの境界が実に曖昧。そんな「曖昧」ならではの音の成果。ロックでは「プログレ者」の方々、ジャズでは「エレジャズ者」の方々にお勧めの一枚です。

 
 

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