欧州のフリー・ジャズ・ピアノ
フリー・ジャズといえば、サックスが多い。音が肉声に近くて訴求力があること、そして、吹奏楽器として、長時間吹きづ付けることが出来ることが挙げられる。例えば、トランペットなどは、長時間吹くのには向かない吹奏楽器なので、フリー・ジャズの担い手にトランペッターはいない。
逆にジャズ・ピアノで完全フリーなピアノって意外と少ない。長時間引き続ける可能性が高いので、完全に体力勝負となること、激情に駆られるままフリーにピアノを弾くと、ピアノって打楽器の特性もあるので、喧しくて音楽として聴くことが出来なくなること、左手と右手、二つの音を出す方法があるので、一つの音で片付くサックスより、演奏難度が高いこと、それが障壁となって、フリー・ジャズなピアニストは数が少ないのだろう。
フリー・ジャズなピアノを弾くには、現代音楽や近代クラシックの無調、不協和音前提のフレーズに精通していること、そして、プロのクラシック・ピアニストに匹敵する演奏テクニックを保有していること、そして、長時間、ピアノを弾き続ける「演奏体力」があること。そんな要素が必須となる。これはなかなか「いない」。
フリー・ジャズをメインにしているジャズ・ピアニストと言われてパッと思い浮かぶのは、米国ではセシル・テイラー。我が国では山下洋輔。そして、欧州ドイツではシュリッペンバッハ。その3人くらいしか、思い浮かばない。山下洋輔、シュリッペンバッハは、欧州フリー・ジャズのメッカ、Enjaレーベル所属だったし、セシル・テイラーもどちらかと言えば欧州ジャズ寄りだったから、フリー・ジャズなピアノは欧州ジャズに偏っている、と言える。
Alexander von Schlippenbach『Payan』(写真)。1972年2月4日の録音。ENJAの2012番。ちなみにパーソネルは、Alexander von Schlippenbach (p) オンリー。欧州フリー・ジャズ・ピアノの鬼才、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハのソロ・ピアノ盤になる。
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ(1938年〜 )は、ドイツのジャズ・ピアニスト、作曲家。ベルリン生まれ。8歳でピアノを始め、ケルンでベルント・アロイス・ツィンマーマンに作曲を学んだ。勉学中、マンフレート・ショーフと共同演奏を始める。以降、欧州のフリー・ジャズ界における多くの重要な音楽家と共演歴を持つ。1994年、アルベルト・マンゲルスドルフ賞を受賞。今年で85歳になるレジェンド。
このソロ盤では、現代音楽や近代クラシックの無調、不協和音を下敷きにした、テクニック溢れる、即興演奏な弾き回しが素晴らしい。完全フリーなピアノ演奏でありながら五月蠅くないし、不協和音も耳に付かない。音楽として聴くことが出来る無調なフレーズや不協和音について事前にしっかり理解していて、その範疇で完全フリーなピアノ演奏を聴かせてくれる様なのだ。
セシル・テイラーも山下洋輔もそうだったのだが、完全フリーな演奏でありながら、五月蠅くないし、耳に付かない。加えて、シュリッペンバッハのフリーなピアノは、近代クラシックな響きが演奏の底にあり、現代音楽の前衛な展開が即興演奏の中に織り込まれている様で、意外と理路整然としていることろが独特の個性だと思う。
終始フリー・フォーム、明確なテーマもコード進行も無いインプロの連続なのだが、どこか理路整然としている即興演奏として耳に響く様は、聴いていて実に興味深い。欧州ドイツのフリー・ジャズなソロ・ピアノ。フリー・ジャズの範疇での希少価値として、一聴の価値はあるだろう。僕はとても興味深く聴くことが出来ました。
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