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2018年10月12日 (金曜日)

完全復活の狼煙『Inside Out』

キース・ジャレットのリーダー作の聴き直しは続く。1998年、闘病の末、慢性疲労症候群から復活したキース。その頃、リリースした盤はさすがにイマイチだったが、1999年7月のライブ録音『Whisper Not』で完全復活を感じさせてくれた。少しだけ単調に展開してしまう部分はあったが、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事であった。

そして、次がこのライブ盤である。Keith Jarrett『Inside Out』(写真左)。2000年7月26 & 28日、ロンドンの「Royal Festival Hall」でのライブ録音。改めて、パーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」である。この盤は全編78分のCD1枚ものである。

このライブ盤でのキースのパフォーマンスは申し分無い。リリカルで力強いタッチ、イマージネーション溢れるアドリブ・パフォーマンス、緩急自在のチェンジ・オブ・ペース。そして、復帰後、明らかに新しい個性である「ライトなスイング感」。昔の様に、社交ダンスを踊る様な「意識したスイング感」では無い。シンプルに自然に揺らぐ「平常心的なスイング感」。
 

Inside_out  

 
そして、特筆すべきは「スリリング感」。寄らば切れそうな、ハッと息を吞むような、カジュアルなスリリング感。決して、この「スリリング感」についてはキースは売り物にしていない。しかし、この盤で聴いて取れる様に、スダンターズのスリリング感は痛快である。アドリブ・パフォーマンスについては予測不可能。予測不可能を前提に印象的なアドリブ・パフォーマンスが展開される。

収録されたどの曲でも、この新たな個性を体験することが出来る。ほとんどフリーに近い自由度の高いアドリブ・パフォーマンスが見事。僕はこの盤で、キースの完全復活を確信した。他の二人、ベースのピーコック、ドラムのデジョネットも見事。親分のキースが完全復活〜絶好調である。二人のリズム隊も飛ばしに飛ばしまくる。久し振りの三者一体となった、即興性に富んだインタープレイである。

この『Inside Out』は、即興演奏の展開に重きを置いて演奏されているように感じる。それでも、先の『Whisper Not』で感じた「シンプルで判り易い」部分はこの盤でも継承されている。確かに、闘病後、キースは変わったと思う。このアルバムで重きを置いた「即興演奏の展開」についても、とてもシンプルで判り易い。爽快感すら感じるほどのシンプル度。シンプルなキースは凄みが増す。

 
 

東日本大震災から7年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2018年10月11日 (木曜日)

病気からの復活を示す記録である

1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活したんだが、その頃のソロ・ピアノが『The Melody at Night, with You』(2014年3月30日のブログ)。これはキースの宅録のアルバム化であったが、かなり内省的でシンプルな展開。どれもがスローなテンポで終始しており、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂う感じで、どうにもこれが「復活作」なのか、と訝しく思ったものだ。

そこに出たのが、先日ご紹介した『Whisper Not』(2018年10月5日のブログ)。このスタンダーズ・トリオのライブ盤は素晴らしい出来だった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。これが、慢性疲労症候群という難病と闘った人の復帰後の演奏なのか、とビックリした。キースは本当に病気だったのか、と疑いたくなるような爽快な内容だった。

と、この復帰後ソロ作とスタンダーズ作との差がなかなか腹に落ちなかったのだが、そこにこの盤が登場した。Keith Jarrett『After The Fall』(写真左)。1998年11月の録音。先にご紹介した『Whisper Not』の9ヶ月ほど前のライブ録音になる。恐らく、闘病後復帰の程無い時期では無いかと思われる。復帰作とされるソロ・ピアノ盤『The Melody at Night, with You』の数ヶ月後のライブ・パフォーマンスなのではないか。このライブ盤のお陰で、やっぱりキースは重い病気と闘ってきたんだ、と確信することが出来た。

 
After_the_fall
 

さて、このライブ盤、録音が良く無い。ECMレーベルの録音とは思えない。音の周りにうっすら霧がかかったような、音の輪郭がハッキリしない、ノッペリとしたメリハリの無い録音。ピーコックのベースは躍動感に欠け、ディジョネットのドラムは切れ味に欠ける。これではスタンダーズの演奏の全てが悪いという印象になってしまうので、録音が良く無いことを念頭に置きながら、キースのパフォーマンスを確認することが必要になる。

その録音の悪さを割り引いても、このライブ盤のキースの演奏はまだまだ本調子では無い。『The Melody at Night, with You』に通じる、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂うほど内省的で、指回しも明らかに切れ味が不足している。アドリブ展開もイマージネーションと閃きが不足気味で、キース独特の手癖でごまかしてしまうような、ちょっと平凡なフレーズも見え隠れする。これはどう聴いても、このライブでのキースは本調子では無い。まだまだ復調していない。逆に7ヶ月後の『Whisper Not』の素晴らしさが際立つ。

なぜ、今年の3月になって、『Whisper Not』のリリース後、18年経った今にこのライブ音源をアルバム化した理由が判らない。コルトレーンの名曲「Moment's Notice」などはもうヨレヨレ。まだまだ長いアドリブ展開は難しい時期だったようである。ジャズ者である我々に、闘病後に奇跡的復活を遂げた「人間キース」を感じて欲しかったのだろうか。僕はこの盤を「キースの病気からの復活を示すドキュメンタリー」と捉えている。

 
 

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2018年10月 7日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・73

ECMレーベルは「ニュージャズの代表的レーベル」である。1969年に設立以来、拠点はノルウェーのオスロ。北欧ジャズの拠点でもある。ECMレーベルは、ジャズについては「典型的な欧州ジャズ」を旨とする。そんなECMレーベルであるが、ECMレーベルお抱えの、ECMレーベルの音を代表するミュージシャンがいる。ピアノについては、パッと僕の頭の中に浮かぶのは「スティーヴ・キューン(Steve Kuhn)」。

この人のピアノを初めて聴いたのは『Ecstasy』というアルバム。もちろん、ECMレーベルからのリリース。1974年の録音なんだが、この人のピアノには驚いた。米国ジャズを中心に聴いてきた耳には「ジャズっぽくない」。どちらかというと、クラシック・ピアノに近い。リリカルそして耽美的。ファンクネスは皆無。即興演奏としてのフレーズの取り回しはクラシック風。それでいてビートはしっかりと聴いていて、演奏全体の雰囲気はやっぱり「ジャズ」。

このキューンのピアノはリリカルそのもので、一聴すればキューンのピアノと判るくらい。そんなリリカルなピアノに、ECMレーベルの録音で独特の深いエコーがかかって、独特のピアノ・ミュージックが創造される。1974年から1981年まで、間を置いて、1995年から現在に至るまで、ECMレーベルとの付き合いは続いている。ECMレーベルお抱えのピアニストの一人といって良いだろう。
 

Trance

 
Steve Kuhn『Trance』(写真)。1974年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (ac-p, el-p, vo), Steve Swallow (el-b), Jack DeJohnette (ds), Sue Evans (perc) 。パーカッション入りのピアノ・トリオである。スワローはエレクトリック・ベースを使用している。ECMらしい組合せとして、ドラムにジャック・デジョネットが参加している。

アコピもエレピも全く差が無い。どちらもリリカルで耽美的。独特の「間」が静謐感を感じさせるが、演奏全体に穏やかな躍動感がある。スワローのベースはエレベであるが、エレベの特性をよく活かしたベースラインが特徴的。ブンブンと胴鳴りするだけがジャズ・ベースで無いことを改めて感じる。デジョネットのドラミングが素晴らしい。繊細で響きの美しいデジョネットのドラミングは特筆もの。キューンのピアノにぴったりと寄り添う。

演奏のイメージとしては「ジャズ・ロック」で、フレーズの展開など、モードをベースとしながらもクラシックな要素も効果的に織り交ぜ、ECMレーベルのニュージャズ的雰囲気が色濃い。明らかに、それまでのハードバップやモードジャズとは異なる、新しいイメージのジャズ。1970年代のECMレーベルのリリースする盤には、そんな新しい響きの「ニュージャズ」が沢山あった。このキューンの『Trance』もそんな中の一枚。好盤です。

 
 

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2018年9月15日 (土曜日)

典型的なECMの音とジャケット

ECMレーベルのアルバムをカタログ番号順に聞き直していると、ECMって本当に音の傾向に統一感があって、暫く聴いていると「これって、ECMの音やね〜」すぐに判る。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」が、この「音」にも反映されている。

The Gary Burton Quintet with Eberhard Weber『Ring』(写真左)。1974年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Michael Goodrick (g), Pat Metheny (g), Steve Swallow (b-g), Eberhard Weber (b), Bob Moses (perc)。ジャケットに書かれている様に、バートンのカルテットにベースのウェーバーが客演した形。

しかし、このパーソネルを見渡すと、当時、ECMレーベルで活躍していたミュージシャン揃い。特に、ゲイリー・バートン(写真右)のヴァイブの音は透明度が高く切れ味が良く、クラシカルな響きを持つもので、ECMレーベルの音の傾向にピッタリとフィットする、典型的なECMの音である。この盤においても、このバートンのヴァイブの音がアルバム全体の音の傾向を決定付けている。
 

Ring  

 
ギターの音を聴いていると、このくすんだ、少し捻れた特徴のある音はパット・メセニーだと直ぐ判る。このパットのギターの音が不思議とバートンのヴァイブと抜群に相性が良いのだから面白い。まったく違和感の無い、まったく同化した様な相性の良い音の組合せ。明らかに米国ジャズの音とは異なる、欧州独特の音の響きが芳しい。

客演のウェーバーのベースの音が興味深い。粘りの無い、強靱で弾けるような、堅実で重心の低い音。欧州系のアコベの音って、とっても綺麗な音なんですよね。とにかくピッチがしっかりと合っている。ベースについては、特にこれは大切なことだと思っていて、ピッチの合っていないベースの音を長く聴いていると気持ちが悪くなる(笑)。ウェーバーの音は「良い」。

音と相まって、ECMレーベルらしいのが「ジャケット・デザイン」。この現代の印象画の様なイメージはECMレーベル初期のものに多い。このデザインは米国ジャズにはほとんど見られない。というか、ECMレーベル独特と言えるかな。
 
この『Ring』という盤、音そして、ジャケット・デザイン共々、ECMレーベル初期を代表する好盤と言えるでしょう。ECMの音ってどんなの? と問われたら、この盤をかける確率が高い好盤です。

 
 

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2018年8月 4日 (土曜日)

意外と無名な盤だけど好盤です

今年の夏は酷暑である。とにかく蒸し暑い。通勤の往き帰り、特に最寄りの駅から自宅までの徒歩が辛い。加えて、最寄りの駅から会社までの徒歩が辛い。汗だくだくになる。家に帰り着いて、就寝前のひととき、エアコンの効いた涼しい部屋の中で、ゆったりとした気分で聴くECMレーベルの諸作は格別なものがある。

極力、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音をベースにした、欧州ジャズのお手本の様なECMレーベルの諸作。酷暑の夏、エアコンの効いた部屋の中で聴くECMレーベルのアルバムは、非常に心地良い。確かに、夏の夜はECMレーベルのアルバムを選ぶことが多い。

Jan Garbarek-Bobo Stenson Quartet『Witch-Tai-To』(写真左)。1973年11月27日の録音。ECM 1041番。ちなみにパーソネルは、Jan Garbarek (ts, ss), Bobo Stenson (p), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。ECMレーベルのお抱えリズム・セクション、ボボ・ステンソン・トリオをバックに、これもECMレーベルの看板サックス奏者、ヤン・ガルバレク、フロント1管のカルテット構成。
 

Witchitaito

 
ヤン・ガルバレクの透明度溢れる、クリスタルで硬質な、切れ味の良く伸びの良いサックスが素晴らしい。ガルバレクのサックスの音が鳴り響くだけで、その音世界は「ECMレーベルの音世界」に染まる。ガルバレクのサックスは硬軟自在、伸びの良い柔軟なフレーズを繰り出していく。特にその「飛翔感」は彼独特の個性。これが非常に涼しげで「清涼感」抜群。

バックのボボ・ステンセンのピアノ、パレ・ダニエルソンのベース、ヤン・クリステンセンのドラム、このECMお抱えのリズム・セクションの音も実に印象的。ガルバレクと同様に、透明度溢れる、リリカルで硬質なステンセンのピアノ。これがガルバレクのサックスと実に相性が良い。絵に描いた様なECMレーベルの音。清涼感抜群、間の静謐感を活かした、独特のアドリブ・フレーズ。

ダニエルソンのベースは重量感溢れ、弦の響きが心地良い。クリステンセンのドラムは堅実かつ多彩。正確でタイトなリズム&ビートを叩き出す。このECMお抱えのカルテットの繰り出すフレーズのインスピレーションとバリエーションは特筆もの。ファンクネス皆無な、間を活かしたオフビート。欧州ジャズの典型的な音世界がこのアルバムに詰まっている。意外と無名なアルバムだが好盤である。

 
 

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2018年7月24日 (火曜日)

こんなアルバムあったんや・101

ECMレーベルは、創立者マンフレート・アイヒャーが、自らが選んだ「今日的」な音楽を記録し世に問うべく、1969年に立ち上げたレーベル。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。そんな中に、現代音楽風のこってこてフリーな盤あり、民俗音楽的なワールド・ミュージック風な盤あり、これってジャズなん、と思わず首を傾げるものもある。それでも、しっかりとECMの音楽になっているのだから素晴らしい。

例えばこの盤。Collin Walcott『Cloud Dance』(写真)。初めて聴いた時、思わず喫茶店の椅子から転げ落ちた(笑)。ジャケットを見ると、明らかにECMレーベルらしい素晴らしいデザインで、これはどんな音が詰まっているのか、とワクワクしながら聴き耳を立てていると、いきなり出てくる「捻れて伸びた弦の音」。これって「シタール」やん。

この盤、1975年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Collin Walcott (sitar, tabla), John Abercrombie (g), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。リーダーのCollin Walcott=コリン・ウォルコットは、米国のジャズ奏者。ラビ・シャンカールに師事してシタールを習得、シタール&タブラ奏者として活躍。1972年結成されたオレゴンのオリジナル・メンバーとして有名。しかしながら、1984年、ツアー中に交通事故にて客死。享年39歳であった。
 

Cloud_dance_1

 
シタールがジャズの楽器になるとは思わなかった。これが「なる」のである。が、シタール単独ではジャズは辛い。音が切れ味良くダラダラ伸びるので、フレーズのメリハリが付きにくい。シタール1本でジャズは辛いやろう、と思って聴いていたら、ちょっと捻れた個性的なエレギが入ってくる。これが絶妙。シタールとエレギ、音の性格が正反対の弦楽器を合わせることで、紡ぎ出すフレーズが立体的かつ明確になる。これは「目からうろこ」であった。

この捻れギターは聴いたことがある。アバークロンビーである。そして、ドラムは切れ味の良いモーダルなポリリズム。これはデジョネット。そして、重低音を響かせつつ、堅実なフレーズ展開で演奏の底を支えるベース、これはホランド。いや〜、当時のECMレーベルを支えるエレギ+リズム・セクションで、ウォルコットのシタール&タブラを盛り立てる。この優れたバックに恵まれ、このシタールがリーダーの盤は、インド音楽風には決してならない。ジャズに軸足をしっかりと残している。

このシタールの音を初めて聴いた時、ジョージ・ハリソンを思い出した。シタールの音は個性が強烈なので、シタールが鳴ると、その音世界は明らかに「インド音楽風」になる。しかし、このECM盤はそうはならない。ウォルコットはシタールの音を熟知しつつ、ジャズとして成立する様な、エレギとのユニゾン&ハーモニーを前提とした「考慮したフレーズ」を繰り出している。異色盤ではあるが、内容は見事。ECMレーベルらしい「こんなアルバムあったんや」盤である。

 
 

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2018年7月 5日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・123

ECMレーベルは実にユニークなレーベル。1969年の設立。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。ビ・バップやハードバップの影響を全く感じさせない、ポスト・モダンな「ニュー・ジャズ」を録音し、アルバムをリリースする。

Terje Rypdal『Whenever I Seem To Be Far Away』(写真左)。1974年の作品。ECMの1045番。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g), Sveinung Hovensjø (b), Pete Knutsen (mellotron, el-p), Odd Ulleberg (French horn), Jon Christensen (per)。ギター、キーボードにベースとドラムがリズム&ビートを担うカルテット構成にフレンチ・ホルンとシンフォニーが絡む。

リーダーでギター担当のテリエ・リピダルはノルウェーのギタリスト兼作曲家。ビ・バップやハードバップの影響が皆無な、ニュー・ジャズを聴かせてくれる。ギター・プレイのメインは「アブストラクト&フリー」。判り易いフレーズを繰り出す、従来のジャズ・ギターとは正反対の内容。明快に「欧州ジャズ」な雰囲気をバッチリ聴かせてくれる。
 

Whenever_i_seem_to_be_far_away  

 
しかし、このアルバムはそんなリピダルの個性を越えた、実にユニークな内容に思わず耳をそばだてる。聴けば判るのだが、これって「プログレッシブ・ロック」。3曲目「Whenever I seem to be far away」では、クラリネットやオーボエ、弦楽アンサンブルが絡んでくる辺り、そして、暴力的でもある、流麗で高テクニックなエレギと合わせて、まるで「キング・クリムゾン」である。

1曲目の「Silver Bird is Heading for the Sun」では、メロトロンが大活躍。ジャズにメロトロン。これにはビックリするやら、嬉しいやら。ここまでくると、リピダル、明らかに当時の「プログレッシブ・ロック」を意識しているに違いない。しかしながら、プログレをやっても、アドリブの展開などは複雑かつ高テクニックで、その演奏内容は明らかにジャズ。

プログレッシブ・ジャズロックというか、プログレッシブ・フュージョンな内容は、1970年代のプログレ者からすると、実に興味深い。テリエ・リピダルのギターも相当に「エグい」。「アブストラクト&フリー」に行こうとするところを押しとどめ、限りなくフリーに近い、複雑にメロディアスなフレーズを連発していて聴き応えがある。内藤忠行の手になる、美しいジャケット写真も素晴らしい。明らかにECMレーベルらしい内容。好盤である。

 
 

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2018年6月15日 (金曜日)

ECMでの「ジャズ・ファンク」

1970年代のECMレーベルのアルバムはどれを取っても「ECMの音」が詰まっていて面白い。欧州の香りのする、透明度の高い、エッジの立った音で、限りなく自由度の高いモーダルな演奏、限りなくフリーに近いニュー・ジャズな演奏。ファンクネスは限りなく抑制され、ファンクネスが漂っても限りなく乾いている。明らかに、米国ジャズに相対する「欧州のジャズ」の音世界。

Bennie Maupin『The Jewel In the Lotus』(写真左)。1974年の作品。ECMの1043番。ちなみにパーソネルは、Bennie Maupin (sax, fl, b-cl, vo, glockenspiel), Herbie Hancock (key, p), Buster Williams (b), Billy Hart, Freddie Waits (ds, marimba), Bill Summers (perc), Charles Sullivan (tp)。ダブル・ドラムのセプテット構成。

ジャケットが酷い。ECMらしからぬ酷さ。蓮の花の真ん中にモウピンの横顔。誰のデザインなのか。しかし、このジャケットのイメージを見れば、スピリチュアル・ジャズな内容なのか、と想像する。とくれば、自由度の高いブロウがメインのコッテコテのフリー・ジャズなのか、と思う。ECMだからこそ、それがあり得る。心してCDプレイヤーのスタートボタンを押す。
 

The_jewel_in_the_lotus  

 
フリー・ジャズな演奏がくるか、と身構えていたら肩すかしを食らう。淡いファンク的なビートの上での浮遊感溢れる「印象派の絵画の様な」演奏。ファンク的なビートでも乾いているから、粘ることは無い。爽やかなファンク。ひたすら浮遊する感じのフレーズが続いて「水彩画を見るが如く」である。フロントのモウピンのテナーが印象的なソロを吹きまくることも無い。 

ふとパーソネルを見れば、ハービー・ハンコックが参加している。ECMにハービー、違和感満載である(笑)。そう、この水彩画を見るが如くの管楽器とキーボードの音の重なりは、ハービーの「Speak Like a Child」であり、淡いファンク的なビートの上での浮遊感は「Mwandishiバンド」。欧州の、ECMレーベルでの「ジャズ・ファンク」である。

熱い混沌としたフリー・ジャズでは無い。自由度は限りなく高いが、しっかりと規律を持った、ジャズ・ファンク志向のニュー・ジャズ。浮遊感溢れるリードとブラスとのユニゾン、宝石のように美しく散らばる珠玉のピアノ、そして、メンバー全員による荘厳なアンサンブル。何となく最初は面食らうが、聴き進めるにつれ、とても美しいニュー・ジャズなフレーズに耳を奪われる。不思議な魅力を持った「異色のECM盤」である。

 
 

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2018年5月30日 (水曜日)

パット・メセニーの正式初録音盤

パット・メセニー(Pat Metheny)のサイドメン参加のアルバムを聴き進めている。メセニーと言えば、今や、押しも押されぬ現代ジャズ・ギターのレジェンドである。1970年代以降の「ニュー・ジャズ」の範疇でのエレクトリック・ギターは第一人者のポジションを維持している。スインギーな4ビート・ジャズとは全く対極のニュージャズの寵児であるメセニー。

そんなメセニーについては、サイドメン参加に回った時のプレイの方が、メセニーのエレギの特性を強く感じることが出来るのでは無いか、という仮説の下に、パット・メセニーのサイドメン参加のアルバムを聴き始めた。これが、どうも当たりみたいで、サイドメンのプレイの方が、リーダーの音のイメージという「規制」がの下で個性を表出しなければならない、という条件下で、メセニーの個性が強くでるみたいなのだ。

Gary Burton Quintet with Eberhard Weber『Ring』(写真左)。1974年7月の録音。ECMの1051番。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Michael Goodrick (g), Pat Metheny (g, el-12-string g), Steve Swallow (b), Eberhard Weber (b), Bob Moses (ds, perc)。パット・メセニーが、録音アルバムに名を連ねた、最初の正式盤である。
 

Ring

 
メセニーの師匠格であるゲイリー・バートン。バートンの慧眼恐るべしである。1970年代前半、当時、ニュー・ジャズの推進者であたゲイリー・バートン。彼の音楽性に対して、パット・メセニーのエレギはピッタリの存在だったことがこの盤を聴いて良く判る。メロディアスでフォーキーなソロから、怜悧でクールなフリー・インプロビゼーションまで、メセニーの持つ「ギターの個性」が、このバートンのイメージする音世界にピッタリなのだ。

ダブル・ベースにダブル・ギター。編成からして規格外である。この盤でのメセニーのギターについても「規格外」。恐らく、当時、過去を振り返っても、聴いたことの無いエレギの音とインプロビゼーションだったと推察する。バートンのヴァイブのバックで、シャープにウネウネ蠢くエレギの音は明らかにメセニーである。

この頃のバートンの音世界は「クロスオーバー・ジャズの最後期」の音。メセニーはちょっと歪んで捻れたエレギをウネウネ弾きまくる。とは言え、メセニーの後の個性はまだまだ。とにかく、当時のトレンドのエレギを必死で弾いている、という面持ちが微笑ましい。音の個性の確立はもっと後になるが、その萌芽はこの盤でしっかりと感じ取れる。まだ、あまり個性が目立たない、貴重な若き日のメセニーのパフォーマンスである。

 
 

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2018年5月22日 (火曜日)

究極のヨーロピアン・カルテット

1970年代のキース・ジャレット。アメリカン・カルテットとヨーロピアン・カルテットの平行活動。この2つの対照的なカルテットの音が実に面白い。キースはどちらのカルテットでも、そのパフォーマンスは変わらない。結果として、テナー・マンの音の個性がバンド全体の音の個性を決定付けている。アメリカン・カルテットのテナーは「デューイ・レッドマン」。ヨーロピアン・カルテットのテナーは「ヤン・ガルバレク」。

素直でエモーショナルな、音的には明らかに欧州的でクール、ファンクネス皆無の流麗かつ透明度の高いガルバレクのテナーが、キースの「ヨーロピアン・カルテット」の音作りの鍵を握っている。ガルバレクのテナーの音がスッと入ってくるだけで、そのカルテットの演奏は「ヨーロピアン・カルテット」の音の雰囲気に包まれる。

これがキースにとって良かったのか、悪かったのか。ナルシストで自己顕示欲の強いキースである。自分より目立つ、バンドの音を決定付けるテナー・マンの存在。最初の頃は、キース自身はソロ・ピアノも平行してやっていたので、ソロ・パフォーマンスについては、テナーに一歩譲る余裕があったかもしれない。でも、テナー・マンの人気が上がってくると、ちょっとなあ、って気分になったんやないかなあ。
 

Sleeper

 
Keith Jarrett『Sleeper』(写真左)。1979年4月16日、東京は中野サンプラザでのライブ録音。改めてパーソネルは、Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (ts, ss), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。所謂「ヨーロピアン・カルテット」な4人である。2012年7月、約33年の時を経て、突如、リリースされたライブ音源である。この音源、何故、お蔵入りしていたのか。暫くの間、不思議で仕方が無かった。

最近思うに、ガルバレクのテナーがあまりに素晴らしく、主従が逆転した様な演奏が多いことが原因ではないか、と睨んでいる。思わず「ヤン・ガルバレク・カルテット」かと思う位の内容。当時、キースはまだ34歳の若さ。この主従が逆転した様なカルテット演奏は、世に出したくなかったのかもしれない。それほどまでに、このライブ音源でのガルバレクのテナーは素晴らしい。ベースのダニエルソンも、ドラムのクリステンセンも、ガルバレクを鼓舞する様にビートを刻む。

ゴスペル風のアーシーな展開、モーダルで自由度の高い、時々フリーキーな演奏。素晴らしい内容である。演奏の整い方、楽曲の構成、想像性豊かなアドリブ・ソロ、どれをとっても、ヨーロピアン・カルテットの録音成果の中で、この『Sleeper』が頭1つ抜きん出ている。ヨーロピアン・カルテットの代表盤。ガルバレクが目立つ、これがまた、キースのヨーロピアン・カルテットの良き個性のひとつでもある。好ライブ盤である。愛でられたい。

 
 

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