2023年7月 1日 (土曜日)

北欧ジャズの「ジャズ・ロック」

欧州のジャズ・レーベルの老舗、ECMレーベル。アルバムのリーダーを張るミュージシャンは、米国ジャズとはかなり異なる。

大きく分けて、北欧、ドイツ、イタリア、東欧、最近ではイスラエル。レーベルの音のカラーとして、耽美的でリリカル、現代音楽的でスピリチュアルな「統一された音志向」があるので、米国ジャズを踏襲した音志向の欧州ミュージシャンが選ばれることは無い。

北欧ジャズは、明らかにECMレーベルの音志向にぴったり合致する音の個性を持っていて、ECMレーベルからかなりの数のリーダー作をリリースしている。スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドと偏り無く、リーダー人材を発掘し、ECMらしい音志向のリーダー作をリリースしている。

逆に、8ビートが主体のリズム&ビートの効いたクロスオーバー・ジャズやジャズ・ロックはほとんど無いのが、これまた、北欧ジャズの個性と言えば個性。

Arild Andersen『Clouds in My Head』(写真)。1975年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Arild Andersen (b), Knut Riisnæs (ts, ss, fl), Jon Balke (p), Pål Thowsen (ds)。リーダーは、ノルウェー出身のベーシスト、アリルド・アンデルセン。残りの3人も全員ノルウェー出身。オール・ノルウェーの1管フロントのカルテット編成。

僕は今まで、このアルバムを聴いたことが無かった。今回、ECMのリリースで、北欧ノルウェー出身のカルテットの演奏なので、さぞかし、北欧ジャズっぽい、耽美的で透明感溢れる、リリカルで静的なモード・ジャズが展開されるのだろう、と予想して聴き始めたら、思わず仰け反った。
 

Arild-andersenclouds-in-my-head

 
北欧ジャズっぽさが希薄。といって、ファンクネスは皆無。ビートは8ビートが入っている。これって、クロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロック志向の音作りではないか。

よくよく聴くと、出てくるフレーズは、明るくはあるが耽美的でリリカル、テナーの音などはスッと伸びた透明感溢れる音色で、リーダーのアンデルセンのベースはソリッドで切れ味抜群。

ジョン・バルケのピアノは、躍動感溢れ、ビートが効いてはいるがリリカルで透明度高く硬質なタッチ。ポール・トーセンのドラムは、自由度と柔軟度の高い拡がりのあるリズム&ビートを叩き出す。この4人の出す音って、基本は北欧ジャズであることが判る。

この盤、北欧ジャズを基本としたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロックだと感じる。アップテンポの4ビートの演奏などは、米国ジャズの新主流派を彷彿とさせるのだが、ファンクネス皆無、北欧ジャズの個性を宿した楽器の音が、米国ジャズとは絶対的に「一線を画している」ところが興味深い。

ECMには似合わない、タイトなリズム&ビートの効いたクロスオーバー・ジャズ、若しくはジャズ・ロック、そして、米国ジャズの新主流派的な音世界。

しかしながら、この北欧ジャズの個性を宿した楽器の音と演奏の雰囲気が、辛うじてこの盤をECM盤として成立させている。きっと、アイヒヤーはしぶしぶリリースしたんじゃないかな。でも、良い内容、良い雰囲気の好盤だと思います。
 
 

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2023年6月30日 (金曜日)

クラシック・オケとジャズロック

ECMレコードのアルバムがお気に入り。ジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、ニュー・ジャズ&欧州ジャズの担い手として、我が国でもECMブームが沸き起こっていた。

といっても、ECMのアルバムについては、明らかに「好き嫌い」が分かれる。米国ジャズ、特に東海岸ジャズが絶対とする「東海岸ジャズ者」の方々からは「ECMはジャズでは無い」と毛嫌いされていた。まあ、大凡、硬派なジャズ喫茶ではECMのレコードをリクエストするのには相当な勇気がいった。米国が本場のジャズについては、米国ジャズが絶対で、欧州ジャズはジャズでは無い、とされていた。

しかし、である。僕はECMレコードのアルバムがお気に入り。もともとクラシック音楽もいろいろ聴いていて、クラシック音楽の雰囲気が漂う、端正な欧州ジャズについては違和感が無い。ロックではプログレ小僧だったので、ニュー・ジャズの類については、プログレっぽくて違和感を感じない。そういうところから、ECMレコードのアルバムに違和感が無く、良いものは良い、の精神で、ECMのアルバムについては、延々と50年弱、聴き続けていることになる。

そんなECMのアルバムをカタログ番号順に聴き始めて、早5年。ECM1001〜1100番までの「ECM1000番台」のアルバムについては、明らかに現代音楽な内容のアルバムを除いて、ほぼ聴き終えた。ほぼ、というのは、3枚ほど入手出来ないでいたアルバムがあった。が最近、やっとのことで音源を確保することが出来た。あと3枚、しっかりと聴いた。3枚とも初聴きである。

Gary Burton Quartet『Seven Songs for Quartet and Chamber Orchestra』(写真左)。1973年12月、ハンブルグでの録音。ECMの1040番。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Mick Goodrick (g), Steve Swallow (b), Ted Seibs (ds), NDR Symphony Orchestra conducted by Michael Gibbs。
 

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当時のゲイリー・バートンのカルテットに、NDRのオーケストラがバックに就く布陣。クラシック・オーケストラの演奏を伴奏に、ゲイリー・バートンのヴァイブをメインとするジャズ・カルテットの演奏が展開される、如何にもニュー・ジャズっぽい、クラシックにも精通するECMレーベルのアルバムらしい内容。

クラシック・オーケストラの伴奏も、なかなかのもので、ありがちな米国ジャズの取って付けたような、チープなクラシック・オーケストラでは決して無い。オーケストラだけでも十分に聴ける。

そんな充実したクラシック・オケをバックに、まずは、ゲイリー・バートンのヴァイブがソロで乱舞する。バートンのヴァイブは、いかにもECMのニュー・ジャズっぽい雰囲気満載。バックのオケの伴奏に乗って、映えに映える。良い雰囲気、いかにも欧州ジャズ。

曲が進むにつれて、バートンのソロから、バートンのカルテットの演奏に展開していく。これがなかなかのもので、当時のバートン・カルテットの個性である、アーシーでジャズロック風のフレーズ、ゴスペルっぽい米国ルーツ・ミュージック風のフレーズが漂ってきて、クラシックな雰囲気が強かった出だしからすると、一気にニュー・ジャズっぽい、バートンお得意のアーシーなジャズロック風のフレーズが実に格好良い。

欧州っぽいクラシック・オケと米国ルーツ・ミュージックとジャズロックの融合音楽。いかにもECMらしい取り合わせ。聴く前は、クラシック・オケをバックにしたバートン・カルテットってなあ、と敬遠気味だったのだが、聴いてみると意外と良い。やはり「聴かず嫌い」は良く無いなあ、と改めて思った次第。意外性のあるECM好盤です。
 
 

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2023年6月 3日 (土曜日)

ポール・モチアン・トリビュート

ポール・モチアンと言えば、ビル・エヴァンス、キース・ジャレットとの共演の印象が強くて、正統派スインギーな純ジャズ系のドラマーというイメージがある。

そんなモチアンとECMというのは、ちょっと違和感があるのだが、モチアンって、現代音楽っぽい前衛的なジャズや、スピリチュアルなジャズが得意だったりするので、モチアンとECMって、そういう面で相性が良かったのだろう。

ポール・モチアンとECMとの関係は、1970年代、ECMレーベルが活動を始めた頃から、1981年まで、5枚のリーダー作を残している。そして、一旦、ECMを離れるが、21世紀に入って、2004年に『I Have the Room Above Her』を録音して、ECMにカムバック。亡くなる2年前にも『Lost in a Dream』を録音している。

Jakob Bro & Joe Lovano『Once Around The Room - A Tribute To Paul Motian』(写真左)。2021年11月、コペンハーゲンでの録音。ちなみにパーソネルは、Jakob Bro (g), Joe Lovano (ts, Tarogato), Larry Grenadier, Thomas Morgan, Anders Christensen (b), Joey Baron, Jorge Rossy (ds)。

2011年に惜しまれながら鬼籍に入った、多くの名盤に携わった偉大なジャズ・ドラマー、ポール・モチアンのレガシーをトリビュートする作品。いかにも、未だ硬派なメインストリーム・ジャズ専門のレーベル、ECMらしい企画盤である。
 

Jakob-bro-joe-lovanoonce-around-the-room

 
さて、このトリビュート盤、フロント楽器として、デンマーク出身の異能のギタリスト、ヤコブ・ブロと、ベテラン・サックス・プレイヤーのジョー・ロヴァーノ。リズム隊は、ベーシストが3人、ドラマーが2人、曲ごとに編成を変えながらの録音になっている。

演奏はインテリジェンス溢れる、陰影と音の「間」に富んだ即興演奏。静的でクリスタル、クールな熱気溢れるECMらしい即興演奏。

ヤコブのギターは内省的で静的な、墨絵の様な拡がりと陰影を持った音で印象的。ロヴァーノのテナーは、力感&情感溢れるストレートでクールな吹きっぷり。静のヤコブのギターと、動のロヴァーノのテナーとの対比がとても美しい。

ベースとドラムのリズム隊は、曲毎に交代して担当しているが、出てくるリズム&ビートの雰囲気は、明らかに「ポール・モチアン」。モチアンのドラミングって、機微、抑制、音色のバラエティーに熟練しているんだが、そんな達人的なリズム&ビートをしっかりと再現しつつ、それぞれの個性もしっかり反映する。なかなかに優れたリズム隊の面々。

ポール・モチアンって、ジャズ・ドラミングにおける、一流のスタイリストの1人やったんやなあ、と改めて感心する。そして、さすがはECM、ポール・モチアンのソロ・リーダー作の個性と特徴である「現代音楽っぽい前衛的なジャズ」や「スピリチュアルなジャズ」をしっかりと再現し、ECMジャズとして完結させている。
 
 

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2023年4月15日 (土曜日)

キット・ダウンズと再び出会う

21世紀のECMレーベルに録音するミュージシャンは「多国籍」。以前は北欧、ドイツ、イタリアがメインだった様に記憶するが、21世紀に入ってからは、範囲を拡げて、イギリス、東欧、中近東、そして、ジャズの本家、米国出身の若手〜中堅ミュージシャンの録音を積極的に推し進める様になった。

Kit Downes『Dreamlife of Debris』(写真左)。2018年11月、英ウェストヨークシャーのハダースフィールド大学「St. Paul's Hall」でのライヴ録音。ECMの2632番。

ちなみにパーソネルは、Kit Downes (p, org), Tom Challenger (ts), Stian Westerhus (g), Lucy Railton (cello), Sebastian Rochford (ds)。ピアノ&オルガンのキット・ダウンズがリーダーの、チェロ、ギター入り、ドラムのみ、ベースレスの変則クインテット編成。

Kit Downes(キット・ダウンズ)は、英国のジャズおよびクラシックの作曲家、ピアニスト&オルガニスト。 1986年5月生まれなので、今年で37歳になる中堅ジャズマン。英国では、ピアニストのジョン・テイラーが、1970年代以降、ポスト・バップなニュー・ジャズ志向のモーダルなピアノを展開したが、ダウンズはこの「ポスト・バップなニュー・ジャズ志向」のピアニストの1人になる。

英国のジャズと言えば、メインストリーム志向の純ジャズについては、ビ・バップ至上主義が長く続いて、どちらかと言えば、旧来のジャズの枠に留まった中間派ジャズを中心に発展した様に思う。しかし、21世紀に入って、急速にポスト・バップ志向、ニュー・ジャズ志向の展開が出てきて、ダウンズの様に、英国ジャズの枠を越えて、グローバル化に走るジャズマンも出てきた。
 

Kit-downesdreamlife-of-debris

 
さて、この『Dreamlife of Debris』であるが、出てくる音は、従来の「英国ジャズ」の雰囲気は皆無。ECMジャズ志向の耽美的でリリカル、透明度が高く、音の拡がりと間を活かしたニュー・ジャズな音志向が強く出ている。

ピアノはリリカル、ファンクネスは皆無、音の透明度が高い欧州ジャズ志向の純ジャズ・ピアノが、変幻自在、硬軟自在に、音のエコーと拡がりと間を活かして、時に耽美的に、時にスピリチュアルに変化していく様には、思わず真剣に聴き耳を立てたりする。

このクインテット演奏でユニークなのは、ダウンズ自身が弾くオルガンの音とルーシー・レイルトンの奏でるチェロの音。このオルガンとチェロの音自体が、ECMジャズのニュー・ジャズ志向を増幅し、このオルガンとチェロの音の拡がりが、ECMジャズ志向の音世界に不思議な変化を醸し出す。

特にオルガンの音は、ECMジャズにとっては「不意打ち」に近いイメージなんだが、これはこれで良い感じ。ECMジャズにオルガン、これ「目から鱗」です。

どこか「アンビエント・ミュージック」を彷彿とするフレーズも満載で、ECMジャズの美意識そのものの音世界は結構、癖になる。当然、即興演奏がメインとなった展開で、クールで静的な展開ではあるが、時にフリーに展開する部分もあり、丁々発止とインタープレイを展開する部分もあり、欧州ジャズの秀作として、しっかりと楽しめる内容になっている。

これも「ジャズ」である。21世紀に入って、ジャズの裾野はどんどん広がっていく。
 
 

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2023年4月14日 (金曜日)

ステファノ・バターリアを知る

春の陽気には、ECMレーベルの音が良く似合う。欧州ジャズ独特の黄昏時の様な、クールな「寂寞感」。ECMの音にはその欧州ジャズ独特の「寂寞感」が、独特のエコーを纏って、しっかりと「ある」。特にマイナー調なフレーズでは、その「寂寞感」は増幅される。その増幅された「寂寞感」は、静的なスピリチュアル・ジャズとして、ECMの音に反映される。

Stefano Battaglia Trio『In The Morning - Music of Alec Wilder』(写真左)。2014年4月, 伊トリノでの録音。ECMの2429番。ちなみにパーソネルは、Stefano Battaglia (p), Salvatore Maiore (b), Roberto Dani (ds)。イタリア出身のピアニスト、ステファノ・バターリアがリーダーのピアノ・トリオ編成。

ステファノ・バターリアはイタリアのジャズ・ピアニスト。1965年、イタリアのミラノの生まれ。今年で58歳になるベテランの域に入った、実績のあるジャズ・ピアニストである。初リーダー作は1987年。2003年からECMレーベルをメインに活動している。

ベースのサルヴァトーレ・マイオーレは、イタリアのサルデーニャ州出身、1965年生まれ。ドラムのロベルト・ダニは、イタリアのヴィチェンツァ出身、1969年生まれ。

このステファノ・バターリアのトリオは全員イタリア出身。純イタリアのピアノ・トリオである。純イタリアのピアノ・トリオが、イタリアのジャズ・レーベルでは無く、ECMレーベルに録音を残す。ジャズのボーダーレス化をここでも感じる。
 

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この盤のタイトルには副題で「Music of Alec Wilder」とある。そう、この盤は米国の作曲家アレック・ワイルダー(Alec Wilder、1907-1980)のトリビュート盤である。このワイルダーは、米国のポップス曲、クラシックの室内楽やオペラ等の作曲家とのこと。実は僕は知らなかった。それでも、聴いてみると印象的なフレーズがてんこ盛りで、パターリアがアルバムの企画対象として採用した訳が良く判る。

イタリア・ジャズのピアノは、結構、ジャズとして伝統的な音作りがメインで、欧州ジャズの中でも、耽美的ではあるが、意外と骨太で粘りがある。が、バターリアのピアノはその傾向が無い。透明度が高く、スッキリとした音で耽美的、かつリリカル。どこか、キース・ジャレットを想起するが、キースほど難解では無い。スッキリ判り易い、耽美的で透明度の高いモーダルなフレーズが、パターリアのピアノの個性である。

そんなパターリアのピアノが「ECMレーベルの音の個性」にジャストフィットしているのが、とても良く判る。耽美的で透明度の高い、静的スピリチュアルなピアノ。テクニックは抜群で、様々な即興演奏のパターンを披露し、ニュー・ジャズ志向のモーダルな演奏を展開する。ゆったりとしたビートに乗って、音が漂う、印象的な「浮遊感」。そして、魅力的な「音の間」。バリエーション豊かな、静的スピリチュアルな即興演奏。

マイオーレのベース、ダニのドラムも、パターリアのピアノの音の個性にしっかり追従し、パターリアのピアノを引き立て、音の個性を増幅する。この硬軟自在、緩急自在、変幻自在のリズム隊、その能力はかなり高い。

ECMレーベルでのピアノ・トリオ盤と言えば、キースの「スタンダーズ・トリオ」が直ぐに浮かんで、その後が続かないのだが、このパターリア・トリオの音は、キースの「スタンダーズ・トリオ」に匹敵する、内容の濃い音だと思う。静的スピリチュアルでモーダルな音が実に芳しい。
 
 
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2023年4月12日 (水曜日)

トランペッターのアヴィシャイ

21世紀に入ってからずっとECMジャズの快進撃が続いている。一時、現代音楽や現代クラシックの融合に傾倒して、即興演奏がメインではあるが、モダン・ジャズとはちょっと距離ができはじめた時期もあった。が、21世紀に入ってから、米国出身の実績あるジャズマンや中近東や東欧のジャズマンをリーダーとして登用したり、以前より、純「欧州」にこだわらない音作りになって以降、逆に新しいジャズの要素が強く出るようになって、ECMは現代ジャズを牽引する重要なジャズ・レーベルのひとつに返り咲いている。

Avishai Cohen『Into The Silence』(写真左)。2015年7月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Bill McHenry (ts), Yonathan Avishai (p), Eric Revis (b), Nasheet Waits (ds)。イスラエル・テルアビブのトランペッター、アヴィシャイ・コーエンがリーダーのフロント2管のクインテット編成。

ECM独特のエコーのかかったトランペットの音を聴いて、思わず「マイルス・デイヴィス」を想起した。スッと伸びた、やや「ひしゃいだ」様な、ブリリアントでクールな音色。ミッドなテンポで囁くように語りかける様な吹き回し。拡がりと奥行きと伸びのあるモーダルなフレーズ。アヴィシャイのトランペットは、マイルスのトランペットを、クラシックっぽく整えて欧州ジャズ化した様な音なのだ。これが実に「染み入る」。

演奏の基本はモード。モード・ジャズのECM版、欧州ジャズをベースにしたモード・ジャズ。リズム&ビートは柔軟。時々、スピリチュアルな響きも出てくる。欧州ジャズの下でのモード・ジャズなので、ファンクネスは皆無。フレーズのここかしこに、エスニックな雰囲気が漂う。いわゆる「イスラエル・ジャズ」の特質もしっかりと反映されている。
 

Avishai-coheninto-the-silence

 
共演のメンバーも皆、好演。特に印象に残るのは、ヨナタン・アヴィシャイのピアノ。モーダルなピアノで、音を拡げていく様なアルペジオな弾き回しは、どこか「ハービー・ハンコック」を、現代音楽的な硬質なフレーズを繰り出すところは「チック・コリア」を想起する。が、物真似では全く無い。ヨナタンのモーダルなピアノは、いかにも欧州ジャズらしくファンクネス皆無、マイナー調な哀愁感がドップリ漂う個性的な音。

ナシート・ウェイツのリズム・キープでなく煽るようにフィルをつぎつぎ入れてくる手数多いドラミングは、まるで「トニー・ウィリアムス」。欧州ジャズよろしくクールで透明度の高いトニー、といった風情の、クールで情感溢れる多弁なドラミングはとても印象的。演奏全体のリズム&ビートを取り回し、キープし、演奏全体の「底」をサポートするのは、エリック・レヴィスのベース。これまだ、このレヴィスのベースを聴いていると「ロン・カーター」を想起するのだ。

テナー・サックスのビル・マッケンリーはモーダルなテナーで、欧州ジャズ的なフレーズを吹き上げる。クールでモーダルで、時々エスニックなフレーズは、フロント管の相棒、アヴィシャイのトランペットの「影」の様に、アヴィシャイのトランペットを引き立て、魅力を増幅する。アヴィシャイのトラペットを良く理解したフロント管の相棒である。

現代のECMレーベルらしい音作りになっていて、欧州ジャズ、ECMジャズにおける「モード・ジャズ」といった、今までのECMレーベルに無い演奏内容が実にユニークかつ素晴らしい。この盤を聴いていて、21世紀に入って「ジャズのグローバル化&ボーダーレス化」が進んでいることを改めて実感した次第。良い内容のアルバムです。
 
 

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2023年4月 3日 (月曜日)

タウナーのソロ・ギターの新盤

マンフレート・アイヒャーが1969年に設立した「ECM(Edition of Contemporary Music)」。欧州ジャズの老舗レーベルであり、1970年代以降、21世紀に入って今日に至るまで、西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」を発信し続けている。

アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」を反映した、限りなく静謐で豊かなエコーを湛えた録音が個性。レーベルのジャズの演奏志向としては、4ビートのスインギーな従来のジャズとは無縁。即興演奏をメインとした、現代音楽から静的なスピリチュアル・ジャズの影響が色濃い「ニュー・ジャズ」。

Ralph Towner『At First Light』(写真左)。2022年2月、オスロでの録音。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (g) のみ。プロデュースはマンフレート・アイヒャー。ECMレーベルと共に歩み続けて、およそ50年。今年83歳になる米国のプログレッシヴなギタリスト、ラルフ・タウナーの最新ソロ・アルバムになる。
 

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凛とした透明度の高い、切れ味の良い音。フレーズは躍動感溢れ、限りなくリリカルで耽美的でメロディアス。そんなタウナーのギターが「ECMエコー」と呼ばれる印象的な深いエコーを纏って鳴り響く。タウナーのギターは明らかに「ECMレーベルの音」を具現化している。そんなタウナーのギターをこの最新のソロ盤で再確認することが出来る。

ホーギー・カーマイケルの 「リトル・オールド・レディ」、ジュール・スタインの 「メイク・サムワン・ハッピー」、人気のスタンダード曲「ダニー・ボーイ」など、選曲も小粋で聴き応えがある。タウナーの自作曲も内容は濃い。それにしても、タウナーのギターはブレが無い。かの初期の名盤『Diary』から約50年。タウナーのギターの個性はまったく変わらない。それでいて、マンネリに陥らないところが素晴らしい。高い演奏力と表現力の賜物だろう。お得意の12弦ギターのストロークも透明度高く躍動感抜群。

タウナー本人いわく、ジョージ・ガーシュウィン、ジョン・コルトレーン、ジョン・ダウランド、ビル・エヴァンスなどからの影響を受けている、というが、このソロ・パフォーマンスを聴いていて、それも至極納得。そして、ECMのお抱えギタリストらしく、出てくる音は「ECMの音」そのもの。そんなタウナーのギターが堪能出来る好盤である。
 
 

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2023年3月16日 (木曜日)

ラヴァの硬派な「純ジャズ」

2日ほどお休みをいただきましたが、本日、ブログ再開です。

さて、久々にイタリアン・ジャズのお話しを。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァである。1972年に初リーダー作をリリースしている。約50年間、イタリアン・ジャズの第一線を走ってきた。1939年の生まれなので、今年で84歳。イタリアン・ジャズのレジェンド中のレジェンドである。

Enrico Rava Quartet『Ah』(写真)。1979年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Franco D'Andrea (p), Giovanni Tommaso (b), Bruce Ditmas (ds)。エンリコ・ラヴァのトランペット1管がフロントの「ワンホーン・カルテット」な編成。ラヴァのトランペットの本質と個性がとても良く判る編成での演奏になる。

まず、ラヴァのトランペットの素姓の良さを強く感じる。輝く様にブリリアントなトランペットの響き。スッと伸びるロングトーン。切れ味の良い高速パッセージ。とにかくラヴァのトランペットの音は美しい。そして、流麗なアドリブ・フレーズを吹き切るテクニックの高さ。音の「質」は、米国ジャズのトランペットの様な「ファンクネス」は希薄。クラシック音楽の端正で粒立ちの良い響きを踏襲している様で、それが「欧州ジャズ」特有の「質」なんだろう。
 

Enrico-rava-quartetah

 
演奏の基本は「欧州モダン」。しかし、アドリブ展開に入ると、限りなく自由度の高いモーダルな展開から、フリーにスピリチュアルに大胆に展開し、アブストラクトにブレイクダウンする。と思いきや、統制の取れた構築力の高いアンサンブルで疾走する。1979年というフュージョン・ジャズ全盛時代に、こんなバリバリ硬派でモダンな「ニュー・ジャズ」が演奏されていいたとは。さすがにECMレーベルである。

イタリア出身のジョヴァンニ・トマッソのベース、米国出身のブルース・ディトマスのドラムもラヴァに負けずとも劣らない、限りなく自由度の高いモーダルな展開から、フリーにスピリチュアルに大胆に展開にガッチリ追従し、柔軟に応対する。このリズム隊のレベルの高さも、このラヴァ盤の内容充実に大いに貢献している。

実にECMらしい、欧州モダンらしいニュー・ジャズがてんこ盛り。実はこの盤、ECMレーベルからのリリースでありながら、プロデューサーがマンフレート・アイヒャーではなく、トーマス・ストウサンド(Thomas Stöwsand)で、その結果、ECMの「ニュー・ジャズ」というよりは、ECMレーベルの中では、ちょっと異色の「メンストリーム系の純ジャズ」の雰囲気が濃厚になっている。ガッシガシ硬派な欧州系の純ジャズです。
 
 

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2023年3月 5日 (日曜日)

ラヴァとハーシュのデュオ新盤

イタリア・ジャズも隆盛を維持して久しい。レジェンド級のベテランから、若手新人まで、コンスタントに好盤をリリースし続けている。聴き比べると意外と良く判るが、イタリア・ジャズにはイタリア・ジャズなりの独特の雰囲気があって「統一感」がある。マイナー調でクラシック風のモーダルなフレーズが個性的。

Enrico Rava & Fred Hersch『The Song Is You』(写真左)。2021年11月、スイスのルガーノでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (flgh), Fred Hersch (p)。イタリア・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァと、リリカルで耽美的なピアノ詩人のフレッド・ハーシュ、2人のみの「デュオ演奏」。

エンリコ・ラヴァはイタリア・ジャズの至宝。1972年に初リーダー作をリリース、今年84歳、レジェンド級の大ベテランである。1975年にECMでの初リーダー作をリリース、1986年の『Volver』で一旦ECMを離れるが、2003年、『Easy Living』でECMにカムバック。以降、2〜3年に1枚のペースで、ECMからリーダー作をリリースしている。

ラヴァは、ピアニストとのデュオがお気に入りらしく、5〜6人の第一線級のジャズ・ピアニストとのデュオ・アルバムを録音している。ラヴァのトランペットは、イタリア・ジャズらしく、哀愁感漂うマイナー調をメインに、流麗でブリリアントで、端正なクラシック風のモーダルなフレーズが身上。

心ゆくまでトランペットを吹き上げるには、ベースやドラムのいないピアノとのデュオが一番なんだろう。ピアノは打楽器の要素も備えていて、リズム&ビートとベースラインはピアノ一台でまかおうと思えば、まかなえるのだ。今回は、ハーシュのリリカルで耽美的なピアノに合わせたのか、ラヴァは、音の丸い、柔らかで暖かな音色のフリューゲルホーンを吹いている。
 

Enrico-rava-fred-herschthe-song-is-you1  

 
フレッド・ハーシュは、米国オハイオ州シンシナティ生まれ。今年55歳の中堅ピアニスト。初リーダー作が1985年。結構な枚数のリーダー作をリリースしているが、所属レーベルは定着せず、マイナーレーベルからのリリースがほとんど。

また、1984年にHIVウイルスに感染、2008年にはウイルスが脳に転移し2ヶ月間の昏睡状態に陥っている。そんな大病の影響もあって、我が国には、ハーシュの情報はほとんど入って来なかった。

1990年代の終わりに、Palmettoレーベルにほぼ定着したが、それでも我が国で、ハーシュの名前が流通しだしたのは、つい最近のこと。今回、このラヴァとのデュオで、ECMレーベルでの初録音になる。

ハーシュのピアノは耽美的でリリカル。米国のピアニストでありながら、ファンクネスは限りなく希薄。どちらかといえば、欧州ジャズのピアノに近い響きを有していて、そういう点でも、今回のECMでの録音は、ハーシュのピアノの個性にピッタリである。

さて、アルバムの内容であるが、2人のオリジナル曲も良いが、やはり、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジェローム・カーン&オスカー・ハマースタインII世、そして、セロニアス・モンクのスタンダード曲でのデュオ演奏が白眉。ECMレーベルの音作りに即した「リリカルで耽美的、透明度が高く、端正でスピリチュアルな」ニュー・ジャズ志向のデュオ演奏が素晴らしい。

ラヴァのリリカルで耽美的で流麗なニュー・ジャズ志向のフリューゲルホーンは意外に珍しいのでは無いか。でも、とても良い。どの曲でも、ラヴァのフリューゲルホーンは朗々と暖かく、ブリリアントに柔軟に鳴り響く。そして、ハーシュのピアノは、ラストの「Round Midnight」のソロ演奏に収束される。独り対位法をちりばめながら、鍵盤をフル活用して、ダイナミックに、モンクの名曲を弾き上げる。

近年で白眉の出来のフリューゲルホーンとピアノの「デュオ演奏」。即興演奏の妙もふんだんに聴くことが出来て、音の展開の美しいことこの上無い。良いアルバムです。
 
 

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2023年1月19日 (木曜日)

禅問答の様なピアノ・トリオ

ピーター・アースキン(Peter Erskine)と言えば、伝説のエレジャズ・バンド「Weather Report」の黄金期のドラマーなので、フュージョン・ジャズ畑のドラマーという先入観があるんだが、どうして、硬派なメインストリーム系の純ジャズで叩かせても、相当の腕前を持っていることが判る。

Peter Erskine featuring John Taylor and Palle Danielsson『Juni』(写真左)。1997年7月、オスロの「Rainbow Studio」での録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Peter Erskine (ds), John Taylor (p), Palle Danielsson (b)。ドラマーのピーター・アースキンがリーダーのピアノ・トリオ編成。

ピアノにジョン・テイラーが座る。ジョン・テイラーのピアノは昔から好きで、当ブログではあまり記事にしないが、ちょくちょくとその名を思い出しては聴いている「お気に入りのピアニスト」の一人である。そこにスウェーデン出身のベーシスト、パレ・ダニエルソンがいる。英国のピアニストと北欧のベーシスト、そして、アースキンは米国のドラマー。録音はECM。ということで、出てくる音は、ECM印の欧州ジャズ・トリオな音。
 

Peter-erskinefeaturing-john-taylorand-pa

 
水墨画を見る様なトリオ演奏である。「侘び寂び」を忍ばせつつ、硬質でクリスタルで深いエコーを伴って、幽玄な拡がりをもって、力強く漂う楽器の音。ビートをしっかり効かせた、限りなく自由度の高いモーダルな展開。禅問答の様な、集中してお互いの音に耳を傾けながら、打てば響く響いては打つ、一体感溢れる高度なインタープレイ。現代音楽に通じる前衛的なタッチでフリーの如く迫る即興演奏。

独特の響きを湛えたピアノ・トリオ演奏である。北欧ジャズ風ではあるが、北欧ジャズほど流麗でリリカルでは無い。ジョン・テイラーのタッチはどこかバップ、そして、前衛風。アースキンのドラムは柔軟度が高く、ポリリズミックなドラミングは変幻自在であり硬軟自在。ダニエルソンのベースは、しっかりと安定したビートを効かせて、バンド全体の自由度の高いインプロを破綻させることは無い。

「禅問答の様なトリオ」と形容されるこのピアノ・トリオ、その特徴と個性がこの盤に溢れている。現代ジャズにおける、ニュー・ジャズな響きを宿したピアノ・トリオとして「ピカイチ」の出来だろう。あまり話題に上らないピアノ・トリオだが、ECMで4枚のアルバムをリリースしていて、どれもが秀逸な出来。もっと注目されてもいいピアノ・トリオのパフォーマンスである。
 
 

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