2019年8月14日 (水曜日)

実にECMらしいエレ・ジャズ

久し振りのECMレーベル。カタログ順の聴き直しも、はや66枚目。最近はCDの外国盤も入手し易くなったし、有料ダウンロード・サイトのジャズ盤のストックも充実度を増している。特に、ECMレーベルのカタログを Apple Musicに開放してくれたのは有り難かった。ECMレーベルの総帥マンフレート・アイヒャーに敬意を表したい。

Eberhard Weber『Yellow Fields』(写真左)。ECM1066番。1975年9月の録音。 ちなみにパーソネルは、Eberhard Weber (b), Charlie Mariano (ss, shehnai, nagaswaram), Rainer Brüninghaus (p, syn), Jon Christensen (ds)。いかにもECMレーベルらしいラインナップである。ドイツ出身が2人、米国出身が1人、ノルウェー出身が1人という多国籍構成。
 
リーダーのエバーハルト・ウェーバーはベーシスト。彼のリーダー作はどれもが当時の「ニュー・ジャズ」。いかにも欧州らしい、ゆったりとした音の広がりと堅実かつ印象的なリズム&ビートをベースに、ECMレーベルらしいエレクトリック・ジャズを展開してくれる。米国のエレクトリック・ジャズの様にファンクに傾倒することも無く、激情に走ることも無い。
 
  
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淡々と穏やかで印象的なビートと透明度の高い音色で、様々な印象の音世界を創り出していく。全曲エバーハルト・ウェーバーの作曲なのも特徴。スタンダード曲などは絶対にやらない。さすがドイツ出身のジャズマンらしく、全体のサウンドは破綻が無く、まとまりがとても良い。非常にきっちりとしている。大阪弁で言うと「シュッとしている」(笑)。
 
ホーンの伸びのある音、素敵やなあ、と思って、誰かしらと名前を確かめてみたら、なんと「チャーリー・マリアーノ」。穐吉敏子さんの元夫君でもあったアルト・サックス奏者。この盤では、ソプラノ・サックスとインドのシェーナイというリード楽器、そして、ナーダスワラムという南インドの二重葦の管楽器を使用している。これが効果的。欧州らしい典雅で透明度の高いエレ・ジャズに、ワールド・ミュージック的なヒューマンな響きを添えている。
 
ウェーバーのベースも重心が低く、的確なベースラインと躍動的なビートを供給していて、実に聴き応えがある。クリステンセンのドラムは切れ味良く透明度の高いドラミング。そんなリズム隊をバックに、ブリューニングハウスのピアノとシンセが印象的に響く。そこに絡む、マリアーノの印象的なホーンの響き。実にECMレーベルらしい、実に欧州ジャズらしい「ニュー・エレジャズ」である。
 
 
 
東日本大震災から8年5ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年7月12日 (金曜日)

この盤に詰まった「北欧の音」

正統なネオ・ハードバップやモード・ジャズを聴き続けていると、ふとECMレーベルの「ニュー・ジャズ」が聴きたくなる。もともと、19歳の頃、ジャズを本格的に聴いていこう、と決めた切っ掛けの1つが「ECMレーベルのアルバム」。それが原因なのか、ECMレーベルの音が無性に聴きたくなることがある。

Edward Vesala『Satu』(写真左)。1976年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Edward Vesala (ds), Tomasz Stańko (tp), Juhani Aaltonen (ss, ts, fl), Tomasz Szukalski (ss, ts), Knut Riisnæs (fl, ts), Palle Mikkelborg (flh, tp), Torbjørn Sunde (tb), Rolf Malm (b-cl), Terje Rypdal (g), Palle Danielsson (b)。総勢10名。いずれもECMレーベル御用達のジャズ・ミュージシャン達である。エンジニアはJan Erik Kongshaug。

リーダーはフィンランドのドラマー「エドワード・ヴェサラ」。この盤に詰まっている音は「北欧の音」。北欧の凛とした大地をイメージするような音世界。明らかに米国のジャズとは違う。ファンクネスは皆無、明確なオフビートも無い。緩急自在、変幻自在、無調のモード・ジャズ、そしてフリー・ジャズ。
 
 
Satu
 
 
リーダーだから当たり前と言えば当たり前なんだが、ヴェサラのドラムが良い。スケールが大きく、明確で力感のあるドラミング。ドラムの音が美しい。ドラムの表現力がダイナミックかつ繊細、そしてバリエーション豊か。連続して叩き出される緩急自在、変幻自在のドラミングは典雅ですらある。

そんなヴェサラの緩急自在でスリリングなドラムに、幽玄かつ伸びのあるエレギが絡み(これは聴けばリピダルだと直ぐに判る)、幻想的で感応的なフルートが絡む。ソリッドで堅実なベースが演奏の底をガッチリ支える。実にファンタスチックで柔軟なスピリチュアル・ジャズ。

大編成ならではの分厚い音ではあるが、耳に感じるのはクールな躍動感。民族音楽的なメロディや牧歌的な雰囲気も見え隠れして「北欧感」抜群。大音量でブワーッといくことは全く無く、繊細な音やきめ細かい音、印象的な音、官能的な音を絡ませ、組み合わせ、混ぜ合わせることで、独特の音世界を現出しています。好盤です。
 
 
 
東日本大震災から8年3ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年7月10日 (水曜日)

モード・ジャズが判り易い盤

モード・ジャズというのは、純ジャズの基本スタイルの1つ。現代の純ジャズを聴いていると、かなりの確率でモード・ジャズに遭遇する。で、このモード・ジャズであるが、言葉で表すと「コード進行よりもモード (旋法)を用いて演奏されるジャズ」(Wikipediaより)。古い教会音楽の音階を応用して展開するジャズで、ちょっと神秘的で、都会的で、とても現代的な響きがする。と書いても、恐らく読んでいる方は何のこっちゃ判らんだろう。
 
モード・ジャズは言葉で表しても良く判らない。実際に聴いた方が早い。よく紹介されるのが、Miles Davis『Kind of Blue』なんだが、確かにこの盤、モード・ジャズなんだが、モード・ジャズ独特の特徴が判り難い。モード・ジャズの初期の演奏なので、演奏者全員がモードに対する理解度が高い訳では無かった。メンバーによってはモードに対する理解度がイマイチが故に、ところどころコード演奏に立ち戻っていたりするので、ちょっと判り難いところがある。ちなみにマイルスはモードについての理解度が高いですね。
 
Carla Bley『Song with Legs』(写真左)。1994年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Carla Bley (p), Andy Sheppard (ts, ss), Steve Swallow (b)。ドラムレスの変則トリオの演奏。ピアノは打楽器と旋律楽器の両方の役割を担えるので、ドラムが無くてもリズム&ビートは供給されるので問題無い。3人共に、ECMレーベルで活躍した経験のあるミュージシャンで、ジャズの基本は「ニュー・ジャズ」。ハードバップやファンクネスとは無関係。
 
 
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冒頭の「Real Life Hits」を聴くと、これはモード・ジャズの演奏だなあ、と直ぐに判る。各コード間に一定のスケール(音階)を設定して、そのスケールの構成音でアドリブをする。確かにこれはモード・ジャズである。ピアノのカーラもサックスのシェパードもベースのスワローも揺るぎない確信を持ってモード・ジャズを演奏している。
 
マイルスがモード・ジャズを演奏したのは1958年。それから36年。モード・ジャズはその方法論を含めて、ジャズ演奏の基本スタイルとして確立されていた。この『Song with Legs』には、モード・ジャズの演奏が溢れている。ちょっと神秘的で、都会的で、現代的な響き。カーラのピアノの個性、癖が無くて硬質でクールなタッチがモード・ジャズに適していることが良く判る。
 
もちろん、テナーのシェパードもモード・ジャズに精通している。コルトレーンの時代よりも遙かに余裕のあるアドリブ展開には、やはり経年によるジャズの成熟を感じる。そして、思わず耳を傾けてしまうのが、スワローのベース。ベースによるモーダルな演奏って、こういうのを言うんだなあ、と感心。ハードバップとは全く異なる、モード・ジャズ独特の音世界を体感できる盤として、この『Song with Legs』は重宝しています。
 
 
 
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2019年6月 5日 (水曜日)

耽美的で硬質で透明感溢れる音

ジャズを聴き始めた頃、ECMレーベルの存在は僕にとって福音だった。4ビートのスインギーなハードバップも良い。モーダルな自由度の高い新主流派の硬派なジャズも良い。ただ、もともとクラシック・ピアノから入ったところがあるんで、ECMレーベルの音を聴いた時、これは、と思った。肌に合うというのか、感覚に合うというのか、すっと入ってきた。
 
いわゆる「ニュー・ジャズ」な音である。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。これを初めて聴いた時、かなりビックリした。というか「ジャズって広いなあ」って思った。なんだか安心して、それ以来、ジャズが大のお気に入りである。

Art Lande『Rubisa Patrol』(写真左)。1976年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Art Lande (p), Mark Isham (tp, flh, ss), Bill Douglass (b, fl, b-fl), Glenn Cronkhite (ds, perc)。Art Lande(アート・ランディ)は米国出身のジャズ・ピアニストだが、音的には欧州ジャズの雰囲気が色濃い。耽美的で硬質で透明感溢れるフレーズが個性。つまりは、とてもECMらしいメンバー構成である。
 
 
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出だしの「Celestial Guests / Many Chinas」を聴けば、実にECMらしい透明感溢れるピュアーなサウンドである。ECM独特の深みのあるエコーも良い。ビル・ダグラスの官能的なフルートが印象的。そして、マーク・マーク・アイシャムの透明感溢れるブリリアントなトランペットも印象的。フロントの2人の出す音がもう完璧に「ECMレーベルらしい」音なのだ。
 
耽美的で硬質で透明感溢れるランディのピアノもエモーショナルで印象的。静かに押し寄せる様な情感溢れるピアノもあれば、ドラマティックな展開のピアノもある。それでも全てのピアノに共通するイメージは「耽美的で硬質で透明感溢れる」、いわゆるECMレーベルらしい音なのだ。
 
これほどまでにECMレーベルらしい音を押さえた盤もそうそうに無い。出だしの「Celestial Guests / Many Chinas」から、ラストの「A Monk in His Simple Room」まで、徹底的にECMレーベルの音世界が詰まっている。欧州的なフレーズから東洋的なフレーズまで、収められたフレーズもいわゆる「多国籍」で、これもECMレーベルらしい音世界と言えるでしょう。「ECMレーベルらしいアルバム」としてお勧めの一枚。
 
 
 
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2019年5月16日 (木曜日)

ECMのジョージ・アダムスです

以前より、フリー・ジャズ系のテナー・マンとして、ジョージ・アダムス(George Adams)がお気に入り。手元には意外にリーダー盤の枚数がある。しっかりと聴き始めたのは21世紀に入ってから。プライベートでジャズをしっかりと聴く時間が取れ始めた頃である。特に、iPodの出現が大きい。イヤフォーンを工夫するだけで、結構、良い音で聴けたから堪らない。ジョージ・アダムスのアルバムは電車通勤の中で良く聴いたなあ。
 
George Adams『Sound Suggestions』(写真左)。1979年5月の録音。ちなみにパーソネルは、George Adams (ts, vo), Kenny Wheeler (tp), Heinz Sauer (ts), Richard Beirach (p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。トランペットにホイーラーがいて、ピアノにバイラークが座る。ホランドのベースにデジョネットのドラム。これって、ECM的布陣やん、と思って見たら、確かにECMレーベルからのリリースである。
 
欧州ジャズの老舗、ECMレーベルにジョージ・アダムス。違和感満載である。アダムスは米国ジョージア州出身のジャズテナー・サックス、フルート奏者。黒光りするようなテナーの咆吼をモットーとする、いわゆる純粋米国フリー・ジャズマンである。しかし、欧州は米国よりもずっとフリー・ジャズに理解が深い。意外と填まるのでは無いか、と密かに期待する。
 
 
Sound-suggestions-george-adams  
 
 
これが見事に填まっている。純粋米国フリーなサックスが、ECMレーベルの耽美的で限りなく静謐で豊かなエコーを湛えた音世界に身を投ずるのだ。アダムスのテナーが入ってきた瞬間は水と油というか、違和感満載なんだが、演奏が進むにつれ、不思議とECMサウンドに統一されていく。アダムスがECMの音世界に合わせて吹いているのでは無い。アダムスはアダムスのままに吹いているんだが、不思議とECMサウンドに落ち着いているのだ。
 
といって、バックの他のメンバーはあくまでECM的な演奏内容。アダムスが入ってくるまでは明らかにECMの音世界。アダムスがアダムスらしく吹く、ECMのモーダルでフリーなジャズの音世界。見事である。ECMの音世界の懐の深さと柔軟性を感じる。ECMのお抱えトランペッター、ホイーラーとアダムスとの、フリーなインプロビゼーションでの相性が抜群に良い。

4曲目「Got Somethin' Good for You」はブルース曲なんですが、これがまあアダムスが唄います。ボーカル絶叫、そしてテナー吹きまくり。それでも、バックはしっかりとECMサウンドを貫き通し、ブルースを絶叫するアダムスが浮くことはなく、違和感無くECMサウンドとして、しっかり聴くことが出来るのだから不思議。ECMの総帥、アイヒャーのプロデュース力おそるべし、である。
 
 
 
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2019年4月 5日 (金曜日)

ボボ・ステンソンの新トリオ盤

ECMレーベルには、素敵な内容のピアノ・トリオ盤が多く存在する。恐らく、ECMレーベルの、西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置き、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音がジャズ・ピアノにフィットするんだろう。特に、ファンクネス希薄な欧州のニュー・ジャズ系のピアノがとりわけフィットする。
 
ECMレーベルの「お抱えピアニスト」の一人に、Bobo Stenson(ボボ・ステンソン)がいる。ステンソンは、1944年、スウェーデン出身。10 代の時から演奏活動を始め、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、ドン・チェリーなどとセッションを重ねていたそう。1970年代には盟友ヤン・ガルバレクと共に活動を開始し、ECMレーベル中心に好盤をリリース。現在では、ベースのアンデルス・ヨルミンとドラムのヨン・フェルトとトリオで活動を続けている。
 
そんなステンソンの最近の好盤の一枚がこれ。Bobo Stenson Trio『Contra la Indecisión』(写真左)。2017年5月の録音。ちなみにパーソネルは、 Bobo Stenson (p), Anders Jormin (b), Jon Fält (ds)。現在、好調に好盤をリリースしているトリオでの新盤である。選曲がふるっている。バルトーク、サティが採用され、キューバのシルヴィオ・ロドリゲスの哀愁溢れるアフロ・キューバンな佳曲が彩りを添えている。
 
 
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ボボ・ステンソンのピアノがとても美しい。キースのピアノから尖ったところ、アブストラクトなところをそぎ落として、しっかりした明確なタッチでの、硬派で耽美的なフレーズが特徴。ピアノの音のエッジが適度に丸く、耳に優しく馴染む。流麗で耽美的なフレーズを駆使する曲では、限りなく美しく、暖かくてクールなピアノが響き渡る。ヨルミンのベースは唄うが如く、ベースラインを抑え、フェルトのドラムは自由自在にリズム&ビートを紡ぎ出す。
 
フリーな演奏では切れ味の良い、煌めきの様なフレーズが続くが、どこか優しく丸い。それはピアノだけでは無い。ヨルミンのベースも自由度高く、弾ける様なうねるようなフレーズを連発するが、どこか優しくしなやか。フェルトのドラムはポリリズミックで閃き抜群。様々な表情のフレーズを繰り出し、素晴らしく高度なテクニックで最上の表現力を発揮する。意外とこのフリーな演奏の部分が聴きものだったりする。
 
このトリオの演奏には北欧の自然をイメージする、クリアでクールでアーシーな音がぎっしりと詰まっている。紡ぎ出すフレーズも現代音楽っぽい幾何学的で耽美的で印象的なフレーズがてんこ盛り。北欧では、キース・ジャレットと双璧をなすジャズ・ピアノのレジェンドとして評価されているそうだが、それも納得できるこの新盤の内容。ECM好きには堪らない好盤である。
 
 
 
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2019年4月 4日 (木曜日)

現代の「ECMの考えるジャズ」

欧州の正統派ジャズ、ニュー・ジャズの老舗レーベルである「ECM」。コンスタントに新盤をリリースし続けている。出てくる音は、あくまで「ECMの音」。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考えるジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。この「ECMの音」については、今も昔も変わらない。
 
ECMレーベルは北欧ジャズが得意ジャンル。もともとECMレーベルのメイン・スタジオがノルウェーのオスロにある「レインボー・スタジオ」なんで、やはり北欧ジャズには造詣が深い。ECMレーベルの専属ジャズメンを眺めてみても、北欧出身のジャズメンが多く名を連ねている。北欧ジャズがECMレーベルの音の個性にフィットするんだろう。
 
Tord Gustavsen Trio『The Other Side』(写真左)。2018年1月、オスロのレインボー・スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Tord Gustavsen (p, electronics), Sigurd Hole (b), Jarle Vespestad (ds)。 リーダーのトルド・グスタフセン、ドラマーのジャール・ヴェスペスタッド、ベーシストのスィッガード・ホール、いずれも皆がノルウェー出身。「Norwegian Trio」と名付けても良い位だ。
 
 
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グスタフセンのピアノは耽美的で硬質で暖かい。ミッドテンポの柔らかいタッチで印象的なフレーズを紡いでいく。北欧ジャズ独特の哀愁感も深く濃く漂っている。ヴェスペスタッドのベースがソリッドで重心が低い。中高音のソロ・フレーズが明らかに耽美的で、グスタフセンのピアノを有効にサポートする。ホールのドラムは柔軟でバリエーション豊か。緩急自在なポリリズムがグスタフセンのピアノに有効に絡んでいる。
 
柔らかく暖かくクリアなキース・ジャレット的な趣きなんだが、キースよりもシンプルで判り易い。ECM録音の特徴である、豊かなエコーが乗ったスピリチュアルなフレーズがグスタフセンの個性だろう。途中、突然、初期のキースみたいな、ゴスペルっぽいアーシーなフレーズが出てくるんだが、これにはビックリする。そういう意味では、グスタフセンはキースのフォロワーと面が強いのかもしれない。
 
最近、我が国ではECMレーベルの人気は以前に比べて下火に感じるが、どうして、本家本元の「ECMレーベル」は今でもコンスタントに「ECMの考えるジャズ」をリリースし続けている。今回のグスタフセンの新盤もそんな一枚。ジャケットも明らかに「ECMレーベル」していて、ECM者の我々からすると、もうワクワクドキドキである。
 
 
 
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2019年3月30日 (土曜日)

新しい「エレジャズ・ロック」

欧州ニュー・ジャズの老舗レーベル「ECM」。このレーベル、ジャズの演奏形態やトレンドにはかなり寛容で、というか、かなり懐が深くて、メインストリーム系のジャズの中ではモードからフリー、アブストラクト、スピリチュアルまで守備範囲は広く、エレクトリック系ではロックでいうところの「プログレッシブ・ロック」の要素を吸収したジャズ・ロックなどにも柔軟に対応している。
 
Barre Phillips『Mountainscapes』(写真左)。1976年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Barre Phillips (b), John Surman (ss,bs,b-cl,syn), Dieter Feichtner (syn), Stu Martin (ds, syn), John Abercrombie (g・track8のみ)。リーダーのバーレ・フィリップスはベーシスト。カルフォルニア生まれ。キャリアの初期はアメリカ。1960年代後半に欧州に渡って、その後は欧州で活動。そんな流れの中でのECMでの録音だったのだろう。
 
アルバムの冒頭から数分聴いているだけで、思わず「ニンマリ」。これってプログレッシブ・ロック(略して「プログレ」)やん。基本はバーレのベースとサーマンのサックス、マーチンのドラムのトリオ。そこに、フィヒトナーのシンセが入ってくる。ビートは明らかに8ビートがメインで、整然としたリズム&ビートをベースとした演奏パートはメインの旋律も整然としていて、演奏全体の雰囲気は明らかに「プログレ」。
 
 
Mountainscapes-1  
 
 
そして、その整然とした8ビートが変則ビートに変化すると、演奏全体の雰囲気はフリーなエレクトリック・ジャズにガラッと変わる。モード奏法の様な柔軟度の高いフレーズがメインになる。メインの旋律のスペース感溢れる浮遊感が半端ない。モーダルな浮遊感のある旋律となると演奏全体の雰囲気は「プログレ」では無くなり、演奏の雰囲気は「モーダルなジャズロック」に切り替わる。
 
ラストの「MountainscapesⅧ」では、ECMのお抱えギタリスト、ジョンアバが参加。捻れに捻れた浮遊感のあるエレギで、フリーキーなフレーズを連発する。アルバムに散りばめられている演奏形態は「プログレ」「モーダルなジャズロック」「フリーキーなジャズ」という3つの要素をクロスオーバーした、即興演奏を織り込んだニュー・ジャズである。
 
この盤の雰囲気を一言で言うと、プログレッシブ・ロックな要素を取り込んだ、新しい「エレジャズ・ロック」。ジャズの演奏形態やトレンドに寛容で懐の深いECMレーベルならではの音世界である。面白いのは、演奏メンバーが皆、基本的にジャズ畑のミュージシャンなので、演奏がプログレ寄りになっても、どっぷりプログレにはならない。あくまで、この盤の音世界は「即興がメインのジャズ」。
 
 
 

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2019年3月28日 (木曜日)

ECMの「お抱えトランペッター」

欧州ジャズの雄、ニュー・ジャズのショーケース的レーベル「ECM」。楽器別に見てみると、意外や意外、トランペットが手薄なのに気がつく。何の資料も見ずに、いきなり「ECMレーベルのトランペッターは?」と問われたら、ケニー・ホイーラーがまず浮かんで、エンリコ・ラバ、う〜ん、それまで。って感じ。調べたらもっといるんだろうけど、どうも僕の印象は「ECMレーベルはトランペッターが手薄」なのである。本当のところ、どうなんだろう?
 
さて、ECMレーベルのトランペッターといえば、まず浮かぶのが「ケニー・ホイーラー」。そのホイーラーの初期の好盤がこれ、Kenny Wheeler『Gnu High』(写真左)。1975年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Wheeler (flh), Keith Jarrett (p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。リーダー、ケニー・ホイーラーの、この盤ではフリューゲルホーンのワンホーン・カルテット。
 
ケニー・ホイーラーはカナダ出身、英国を活動拠点とするトランペッターである。2014年9月、惜しくも84歳で鬼籍に入った。生涯のキャリアの中で、ECMレーベルにかなりの数のリーダー作をはじめ、演奏参加した多数の作品があって、ECMレーベルの「お抱えトランペッター」と言って良いだろう。
 
そして、バックに控えるリズム・セクションが凄いメンバー。ピアノにキース・ジャレット、ベースにデイブ・ホランド、ドラムにジャック・ディジョネット。ECMレーベルだからこそ出来る、思いっきり贅沢なワンホーン・カルテットである。「これ、ホイーラー、名前負けしないのか」と思わず心配になる位のリズム・セクションである。ECMの総帥マンフレート・アイヒャーだからこそ出来たブッキングである。
 
 
Gnu-high-1
 
 
で、その内容であるが、基本は「ECMのニュー・ジャズ」。ファンクネス皆無、限りなく自由度の高い、即興中心の演奏形態。この盤ではモード・ジャズから入るが、途中から軽いフリー・ジャズに突入。アブストラクトでは無いが、相当に自由度の高いフリー・ジャズ。それぞれの楽器が必要最小限のルールを守りながら、思い思いに即興演奏を繰り広げる、インタープレイ中心のフリー・ジャズ。ホイーラーのフリューゲルホーン、大健闘である。
 
面白いのは、キース・ジャレット。キースが他の誰かのバックを務めることは希である。この盤では、どういう経緯でバックを務めるようになったかは知らないが、聴けば確かにキースは誰かのリーダー作のバッキングには向かないと感じる。この『Gnu High』でも、リーダーのホイーラーのフリューゲルホーンを全く気にせず、自分の個性を思いっきり前面に押し出した即興ピアノを延々と弾き続けている。
 
キースのピアノだけピックアップしたら、キースのピアノのソロアルバムが出来るのでは、と思う位だ。恐らく、そんなキースの「我が道を行く」雰囲気が、ECMのマンフレート・アイヒャーをもってしても、以降、キースをバックのリズム・セクションにほとんど採用しなかった大きな理由である様な気がしている。
 
欧州ジャズのフリー・ジャズのひとつのサンプルがこの盤に詰まっている。アブストラクトに偏らず、エモーショナルに溺れず、聴き易いライト感覚で端正な欧州のフリー・ジャズ。そんな雰囲気の色濃いこの盤の中で、やはりリーダーのホイーラーのフリューゲルホーンが一番目立っている。キースの参加ばかりが取り立たされるアルバムではあるが、実際には、ホイーラーのフリューゲルホーン(トランペット)を体験するに良い盤と言える。
 
 
 
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2019年3月17日 (日曜日)

ECMを感じるに絶好の一枚

欧州ジャズの老舗レーベルであるECM。ECMには独特の音の傾向がある。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。極力、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。

米国のブルーノート・レーベルの「統一感」に勝るとも劣らない、芸術という観点でのレーベル運営をECMに感じることが出来る。アイヒャーの監修・判断による、アイヒャー独裁による強烈な「美意識」。"The Most Beautiful Sound Next to Silence" この「沈黙に次いで最も美しい音」を基本とするECMレーベルの「音の統一感」は、"Produced by Manfred Eicher" のクレジットの下に徹底されている。

そんなECMレーベルには、専属、もしくは専属に近いミュージシャンが多くいる。例えば、ヴァイブのゲイリー・バートン(Gary Burton)などは、ECMの「お抱えミュージシャン」の代表格。当然、ECM時代のバートンの数々のリーダー作の音は、典型的なECMレーベルの音世界で充満している。
 

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Gary Burton『Dreams So Real - Music of Carla Bley』(写真)。1975年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Gary Burton (vib), Mick Goodrick (g), Pat Metheny (g), Steve Swallow (b), Bob Moses (ds)。ギターは若き日のパット・メセニーとバークリーの師匠格のグッドリックとが、曲によって弾き分けている。副題を見れば「カーラ・ブレイの作品集」であることが判る。

典型的なECMの音世界である。バートンの革新的な4本マレット・ヴァイブが効いている。硬質で透明度の高いクリスタルな響き。転がる様に流麗なアドリブ・フレーズ。若き日のパット・メセニーのエレクトリック12弦ギターも良い。ファンクネスは皆無、切れ味の良い、西洋クラシックの香りのするストローク・プレイ。「静謐な熱気」を伴った、適度なテンションが心地良いインプロビゼーションの数々。

この盤、どの収録曲についても演奏のレベルが高い。1曲たりとも「緩演」や「駄演」が無い。「静謐な熱気」と「適度なテンション」を伴ったグループの個性とメロディアスなカーラの曲とのマッチングが絶妙。現代芸術的なECMオリジナルの統一感を強く感じるアルバム・ジャケットのアートワークも良好。ECMの音世界を感じるに絶好の好盤です。

 
 
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