2024年1月18日 (木曜日)

マイルスを愛でる『Amandla』

マイルス・デイヴィスは、1991年9月28日に鬼籍に入っている。65歳。ジャズマンとしては早すぎる逝去であった。

マイルスは、正式にリリースされた音源として、1991年2月までスタジオ録音を、1991年7月までライヴ録音を残している。1991年9月初旬、定期検査の為、サンタモニカの自宅近くのセントジョンズ病院に入院。入院時に脳内出血を引き起こし昏睡状態になり、その後、1991年9月28日午前10時40分、肺炎と呼吸不全などの合併症の為、逝去している。

逝去直前まで、意外と元気に演奏していたんやなあ、と改めて感心するやら無念やら。マイルス本人もこんなに早く鬼籍に入るとは思ってもみなかったのでしょうね。

Miles Davis『Amandla』(写真左)。1988年12月から1989年初旬での録音。本作は、マーカス・ミラー、ジョージ・デューク、ジョン・ビグハムというマルチ・ミュージシャン3名が、トラックを打ち込み作成、マイルスが、そのトラックをバックにトランペットを吹きまくるという内容のアルバム。参加ミュージシャンは多数におよぶので、詳細は割愛する。

このアルバム、内容的には前々作『Tutu』、前作『Music from Siesta』の流れを汲む、兄弟盤の様な内容。この前の2作はマーカス・ミラーべったり、マーカスがトラックを作成し、マイルスがトランペットを吹く、そんな二人三脚な作品だったが、今回は3人がバック・トラックを作成している。さすが、マーカスのみ3連発はマンネリ化、平凡化が懸念されるので、この今回の「3人がかり」は正解だったと思う。
 

Miles-davisamandla

 
この盤でもマイルスは「トランペッター」に専念している。三者三様に用意されたバック・トラックの印象を基に、イマージネーション豊かでクールでブリリアントなトランペットを吹き上げている。即興性溢れるアドリブ・ソロの嵐。緩急自在、硬軟自在、変幻自在、流れる様に叫ぶ様に、唄う様に囁く様に、マイルスはクールでヒップなトランペットを吹き続ける。

これって、1950年代後半、マイルスが大手コロンビア・レコードに移籍して直ぐ、ギル・エヴァンスとのコラボに似ている、と思った。ギル・エヴァンスがアレンジした、ギルならではのジャズ・オケをバックに、マイルスというトランペッターが、緩急自在、硬軟自在、変幻自在、流れる様に叫ぶ様に、唄う様に囁く様に、マイルスはクールでヒップなトランペットを吹きまくった、そんなギルとの共同創作を想起した。

この時期、マイルスは自らがイノベーターとして、クリエーターとして、先頭を切って新しい音を創作するのではなく、一人のトランペッターとして、トランペット吹きに専念したかったのではないか。トランペッター・マイルスを表現したかったのではないか、と思うのだ。別に死期を悟っての仕業ではないだろう。

この『Amandla』こそ、メインテーマが「マイルスを聴け」。三者三様の印象的なトラックをバックに、マイルスが「マイルスしか吹けない」トランペットを吹く。トランペッター・マイルスの面目躍如。この盤にはトランペッター・マイルスだけがいる。この盤はトランペッター・マイルスだけを愛でる。
 
 

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2024年1月17日 (水曜日)

北欧のマイルス『Aura』

晩年のマイルス・ディヴィスの聴き直し。この盤は1985年に録音されながら、4年ほどお蔵入りしていた、マイルスにとって「曰く付き」の企画盤。マイルスのアルバムは録音されたらなるべく時を置かずにリリースされていたのだが、この盤は違う。どうも、録音当時のコロンビア・レコードと契約などでもめていたらしく、リリースは1989年になっている。

Miles Davis『Aura』(写真左)。1985年1月31日〜2月4日、デンマークのコペンハーゲンでの録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John McLaughlin (g), Bo Stief (el-b), Vincent Wilburn Jr. (el-ds)。バックに地元のビッグ・バンドがつく。

ギターにマクラフリンが参加しているが、マイルス・バンド全体からすると、新しい何か創造的な録音をする、というような面子ではない。あくまで、ジャズロックやジャズ・ファンクなど、エレ・マイルス色の演奏を展開する時の「備え」という感じの面子。

このアルバム、マイルスが、1984年にデンマークで『レオ二ド・ソニング賞』というものを受賞、その授賞式では、財団が委託した作曲家の作品を演奏するのが「しきたり」だったそうで、マイルスは、パレ・ミッケルボルグが作編曲した組曲『オーラ』をビッグ・バンドと共演、この時の演奏の出来が良かったことで、マイルス自ら正式にスタジオ録音したのが本作とのこと。

ビッグバンドをバックにマイルス・バンドが演奏する、と聞くと、1950年代後半の「ギル・エヴァンスとのコラボ」を想起するが、ギルとのコラボの時の様に、この北欧のビッグバンドとの共演で、マイルスとして「新しい何か」を生み出したかと言えば、そうではない。が、マイルスのパフォーマンスだけ捉えれば「素晴らしい」の一言。
 

Miles-davisaura

 
流麗にクールに、アグレッシブにリリカルに、ジャジーに朗々とトランペットを吹き回し、吹き上げるマイルスは全編に渡って「一級品」。これだけ、マイルスのトランペットをズット愛で続けることの出来るアルバムはそうそうない。特に、マイルスの晩年のトランペットの素晴らしさを長時間に渡って体感できるのはこの盤しかない。

ビッグバンドの演奏としてはまずまずのレベルだが、マイルスの、マイルス・バンドの演奏を前面押し出し、引き立たせる為のビッグバンドという役割については、その役割を堅実に果たしている。ソリストの活躍するパートもあるが、マイルスのトランペットを阻害することは全くない。そういう意味では、マイルス・ウィズ・ビッグバンドとしては、サウンドのバランスは良好。

ビッグバンドをバックに、マイルスがトランペットを朗々と流麗に吹き進める演奏から、ビッグバンドのソリスト、オーボエのソロにハープやピアノが、はたまたエレギが絡む、現代音楽の様な展開があったり、ミディアム・テンポのジャズロック風のエレ・ファンクがあったり、単純に「ウィズ・ビッグバンド」の企画盤として楽しめる内容になっている。

マイルスの「創造的なSomething(何か)」は感じられないので、そこは硬派なマイルス者の方々には大いに不満が残る内容らしいが(我が国の評論家諸氏の評価も散々・笑)、マイルスのトランペットを愛でる、という一点では、まずまずの内容の「マイルス・ウィズ・ビッグバンド」な盤だと僕は思う。マイルスも意外とノリノリでトランペットを吹いているみたいで、意外とマイルスの充実したプレイが楽しめる。

ちなみに、ジャケット・デザインは平凡でちょっと酷いもの。当時、コロンビア・レコードとして、マイルスに全く力を入れていなかったことが良く判る。まあ、歴史的に振り返ってみて、コロンビア・レコードとか、エマーシー・レコードとか、大手のレコード会社は、結構、ジャズを粗末に扱うところがあるが、この『Aura』のジャケの酷さからも、そんなところが窺い知れて面白い。
 
 

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2022年11月 2日 (水曜日)

『Bitches Brew Live』は語る

エレ・マイルスの名盤『Bitches Brew』を聴くと、エレ・マイルスの基本は「ジャズ」で、しっかりと「メインストリームなジャズ」であり、クロスオーバーでも無ければ、フュージョンでも無いことを確信する。この盤に表現されているのは、サイケでプログレなビートに乗った「即興演奏を旨とするエレクトリックな純ジャズ」である、と感じる。

が、『Bitches Brew』はスタジオ録音であり、何度もリハーサルを繰り返すことが出来るし、良いところだけ切り取って編集することだって出来る。確かに、限りなく自由度の高い、即興演奏を旨とするエレクトリックな純ジャズなんだが、どこか「作られた雰囲気」が漂うことは否めない。そういう時、ライヴではどうだったのか、という思いに行き着く。そう、ライヴ音源が聴きたい。

Miles Davis『Bitches Brew Live』(写真左)。1969年7月5日のニューポート・ジャズフェス、1970年8月29日のワイト島フェス、2つのライヴ音源をカップリングしている。ちなみにパーソネルは、ニューポート・ジャズフェスでは、Miles Davis (tp), Chick Corea (el-p). Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)、ワイト島フェスは、Miles Davis (tp), Gary Bartz (as, ss), Chick Corea (el-p), Keith Jarrett (el-org), Dave Holland (el-b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira (perc) 。
 

Miles-davisbitches-brew-live

 
ニューポートでの演目は「Miles Runs the Voodoo Down」「Sanctuary」「It's About That Time/The Theme」。ワイト島での演目は「Directions」「Bitches Brew」「It's About That Time」「Sanctuary」「Spanish Key/The Theme」。いずれの曲も『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』録音期の楽曲である。パーソネルも、『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』録音期のパーソネルに準じている。

このライヴ音源を聴くと、『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』は、当時の電気楽器の特性を最大限に活かした、相当に自由度の高い即興演奏であり、モード・ジャズであったことが良く判る。『In a Silent Way』や『Bitches Brew』といったスタジオ録音盤は、決して「テオ・マセロのたまもの」では無かった。

凄まじいばかりの自由度の高いエレ・ジャズが、人間の手で実現されていたのだ。これだけ自由度の高い、切れ味良く、疾走感溢れる、即興演奏をメインとするエレ・ジャズは、現代でもなかなか聴くことは叶わない。このライヴ音源を聴いて、やはりエレ・マイルスはただものでは無い、当時、時代の最先端を走っていたのだ、ということを再認識する。無視してはならないライヴ音源である。
 
 

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2022年10月 8日 (土曜日)

Miles Davis『Rubberband』

最近、マイルス・デイヴィスの発掘ライヴ盤が幾枚かリリースされている。しかし、マイルスの未発表音源って、まだまだあるんやな、と感心する。

ピアノでは、ビル・エヴァンスの未発表音源が未だにチョロチョロと出るんだが、マイルスも負けずにチョロチョロ出てくる。これは当然「需要」があるからで、確かに、ビルにせよ、マイルスにせよ、発掘音源が出れば「ゲット」である(笑)。

Miles Davis『Rubberband』(写真左)。1985年10月〜1986年1月の録音。2019年9月のリリース。ちなみにパーソネルというか、録音のコア・メンバーが、Miles Davis (tp, key, syn), Randy Hall (g, prog), Attala Zane Giles (g, b, drum prog, key), Vince Wilburn, Jr. (ds), Adam Holzman (key), Neil Larsen (key), Michael Paulo (sax), Glenn Burris (sax), Steve Reid (per) 辺りと思われる。

かなり以前からその存在が知られており、長らく伝説と伝えられていた、この「ラバーバンド・セッション」。それが、今回、全貌を現したということになるが、リリースに際して、オリジナルのままでのリリースは不適切と判断、今の時代に相応しい音源としてリニューアルしたのが、今回リリースされたもの。それだったら、オリジナル音源とリニューアル後の音源と、2つの音源をカップリングして出すべきだろう。

これでは、この音源の良し悪しが判断出来ない。マイルスのトランペットだけは触っていないとのことだが(当たり前だろ・笑)、バックの演奏については、どこまでオリジナルを残して、どれをどうやって取り直したのかが全く判らない。ただ、少なくとも、それぞれの曲の持つコンセプトや志向については触っていないらしいので、当時、このセッションで、マイルスが何を目指していたかは判るのかな、とは思う。
 

Miles-davisrubberband

 
当時のマイルスのコンセプトと志向を踏まえた演奏だが、明らかにマイルスは先を見据えていたことが良く判る。マイルスが長年在籍していたColumbiaを離れ、Warner Bros.への移籍を決断した時期の録音で、『You're Under Arrest』と『Tutu』との間を埋めるセッションである。

今の耳で聴くと「おっ、こりゃ凄いわ」と身を乗り出して、聴き耳をたてるくらいだが、当時の最先端のR&Bやファンクのエッセンスの大量注入と先鋭的なヒップホップ志向の音作りは、当時として、かなり「過激」で、当時、この音源が出ていたら、かなりショックを受けていたのでは、と思うくらい尖っている。ちょっと聴いただけで、これマイルスでしょ、と判るくらいに過激に尖っている。

曲毎の詳細については、既にネットに大量に出ているので、そちらを参照されたい。一言でいうと、収録曲全11曲、どれもが「マイルス・オリジナル」。音的に全て「メイド・バイ・マイルス」だし、リズム&ビートだって、どう聴いても「マイルスのグルーヴ」。冒頭の「Rubberband of Life」なんて、ちょっと聞いただけで直ぐに判る「マイルスの合図」で始まる。く〜っ格好良い。

「復活前エレ・ファンクのコンテンポラリー化&リニューアル」と、「ジャズとして、より多様性を目指した融合の深化」の2点が、奇跡の復活以降のマイルスの音作りの狙いだったと思うのだが、その進行形がこの未発表音源にリアルに息づいている。現代においてでも、この内容に匹敵するコンテンポラリーなエレ・ジャズをクリエイトできるジャズマンは数える程しかいないんじゃないか。

他ジャンルとの「融合」、他ジャンルの音要素の「取り込み」は、ジャズの重要な要素のひとつ。そういう観点からも、このマイルスの『Rubberband』は「アリ」である。現代のジャズ・シーンの中でも十分通用する先進的な「融合」の音作りは、聴いていてとてもワクワクするし、クールでヒップである。さすが、マイルスとしか言い様がない。
 
 

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2022年7月 1日 (金曜日)

Miles Davis『Bitches Brew』再び

エレクトリック・マイルス、マイルス・デイヴィスのエレ・ジャズ時代のアルバムを順に聴き直している。今の耳で聴き直してみると、10〜15年前には聴こえなかった音や見逃していた音が聴けたりして、意外と面白い。

現代ジャズでは、エレクトリック・ジャズは、ジャズの1ジャンルとして認められていて、意外とエレ・ジャズをやるジャズマンは結構いる。その現代のエレ・ジャズの担い手は、皆、エレ・マイルスの音世界をしっかりと踏まえつつ、自らのエレ・ジャズを表現している。立派である。

Miles Davis『Bitches Brew』(写真左)。1969年8月の録音。ちなみに、パーソネルは、Miles Davis (tp), Bennie Maupin (bcl), Wayne Shorter (ss), Chick Corea, Joe Zawinul (el-p), John McLaughlin (g), Dave Holland (b), Harvey Brooks (el-b), Jack DeJohnette (ds), Lenny White (ds), Don Alias (cga), Jim Riley (shaker)。当時のジャズの先端を行く一流どころがズラリと顔を並べている。

この盤はマイルスのリーダー作の歴史の中で、「大名盤」の扱いを受けていて、今更、その詳細を語るのは憚られる。書籍やネット記事に多くの評論が載っているので、一般的な評論については、そちらを参照されたい。ここでは、僕の個人的な、主観的な印象を語らせていただく。

前作『In a Silent Way』で、「エレ・マイルス」の方法論、エレ・ジャズの基本は「ビート」、という方法論を確立した訳だが、この盤ではその方法論に則り、当時、米国で流行していた「サイケデリック・ロック」や「プログレッシブ・ロック初期」の音を「エレクトリック・ジャズ」でやることが音のコンセプト。サイケやプログレをやるには、ビートの幻想的な広がりや揺らぎが必要なので、どうしても電気楽器の力が必要になる。
 

Miles-davisbitches-brew

 
マイルスの場合、必要に応じた電気楽器の導入しているので、電気楽器の活用が前提のジャズでは無く、ジャズとして表現したい音世界に電子楽器が不可欠だっただけなのだろう。マイルスの音楽に「コマーシャル」な側面は無い。録音当時、どんな音がヒップでクールか、だけを考えて、それに応じて、参加ジャズマンを選定し、必要な楽器を厳選している。

この『Bitches Brew』は、今の耳で聴くと、突拍子も無いエレ・ジャズでは無く、必要に応じて電気楽器を導入した、限りなく自由度の高いモード・ジャズ、言い換えると、当時のメインストリーム志向のコンテンポラリーな純ジャズだといえる。クロスオーバー〜フュージョン・ジャズの原点がこの盤にある、とする評論もあるが、違う様な気がする。

この盤の音世界は、当時の(現代でもだが)メインストリームな純ジャズであり、必要が故に電気楽器を導入しているだけ。電気楽器の導入が前提でロックビートを採用したクロスオーバー・ジャズや、聴き心地の良い、ソフト&メロウでソウルフルなフュージョン・ジャズとは、音作りの志向が全く異なる。

この盤でも、マイルスは、ジャズの原点である「即興音楽の可能性」について執拗に追求しているだけで、音のコンセプトに関して、「サイケデリック・ロック」や「プログレッシブ・ロック初期」の音の要素を引用しているに過ぎない。そうして、出来上がった音世界が、限りなく自由度の高いコンテンポラリーな純ジャズであり、サイケやプログレを彷彿とさせるポリリズミックで変則拍子なビートの採用だったのだ。

エレ・マイルスの基本は「ジャズ」。この盤も今の耳で聴くと、しっかりと「メインストリームなジャズ」であり、クロスオーバーでも無ければ、フュージョンでも無い。この盤に表現されているのは、サイケでプログレなビートに乗った「即興演奏を旨とするジャズ」である。
 
 

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2022年4月15日 (金曜日)

Miles Davis『In a Silent Way』

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。今日は「マイルスがエレ・マイルスを確立した盤」。

Miles Davis『In a Silent Way』(写真左)。1969年2月18日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ss), John McLaughlin (el-g), Chick Corea (el-p), Herbie Hancock (el-p), Joe Zawinul (el-p, org). Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。1960年代黄金のクインテットからロン・カーターが抜け、エレギのマクラフリン、エレピのザヴィヌル、ベースのホランドが追加参加している。

パーソネルを見て、この盤は「エレ・マイルスを確立した盤」だと感じる。前作でマイルスは確信した。エレ・ジャズにはエレ・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。電気楽器には電気楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレ・ジャズには、エレ・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということを。

ただ、マイルスとしては、1960年代黄金のクインテットのメンバーは「代え難い存在」だったのだろう。何とかエレ・ジャズをものにして貰いたい、とロン以外をしっかりと残している。しかし、エレギについては、プログレッシヴなギタリスト、マクラフリンが、ベースについては、エレベ独特の感覚をアコベで弾きこなすホランドが、キーボードについては、エレピ独特の弾き回しが個性のザヴィヌルが参加して、確実に「エレ・マイルス」の表現方式を固めている。

この盤で確立された「エレ・マイルス」は、エレクトリック楽器の特性・響きをしっかりと捉えて、ジャズの統制のとれたグループ・サウンズの中で、インプロビゼーションの自由度が圧倒的な「希有な成果」。LP時代A面の「Shhh / Peaceful」を聴けば、それを直ぐに実感出来る。この「Shhh / Peaceful」の演奏の中に、1960年代のモーダルな演奏は欠片も無い。明らかに新しい、8ビートが「必然」のインプロビゼーションが展開されている。

LP時代B面の「In a Silent Way / It's about That Time」も素晴らしい。冒頭「In a Silent Way」の牧歌的な響き。ビートの無い、ただただ漂う様なモードの響き。そして、打って変わって、8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモードの響き。

決して派手派手しくない、どちらかと言えば、クールで冷静なポリリズムのビートなんだが、しっかりと躍動感が伝わってくる。ジャズとしての創造性が圧倒的。ビートの無い、漂う様な「In a Silent Way」と躍動感溢れるビートがベースの「It's about That Time」の対比。好対照な演奏イメージの対比。美しい。
 

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この『In a Silent Way』は、マイルスのセッションの録音を、プロデューサーのテオ・マセロがテープ編集を駆使して出来上がった、いわゆる「テープ・コラージュ」の成果だと言われる。決して、マイルスの音楽的成果では無い、と。

しかし、ボックス盤『The Complete In a Silent Way Sessions』に収録されている、オリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏だけでも十分に名曲・名演であることが実感出来る。現代においても、この2曲のオリジナル演奏は、エレクトリック・ジャズの先端を行く演奏である。現代においてしても、これだけの演奏を追求できるバンドは殆ど無い。

恐らく、LPは片面25分程度しか収録出来なかったので、そのLPの片面の収録時間に合わせて、テオ・マセロが巧みにテープ編集したのではないか、と睨んでいる。

このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」のお陰で、マイルスの思い描いていた音楽的イメージが、しっかりと起承転結をなす「一つの曲」として、はたまた、「一つの曲」としてのライブ演奏として、十分に音楽的成果として成立するものだ、ということが証明された、と言えるだろう。

8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモード演奏が長尺の演奏として成立するんだ、ということが、このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」で証明された。

『In a Silent Way』、「エレ・マイルス」のプロトタイプがここにある。この演奏に漂う「適度な緊張感」と「クールな躍動感」、そして「広大で自由なインプロビゼーション・スペース」。以降の1970年代、「エレ・マイルス」のベースとなるプロトタイプがここに提示されている。

この『In a Silent Way』の成果を基に、ジャズ・ミュージシャンに対して、相当に卓越した創造性と演奏テクニックが求められる、かなりハイレベルな、電気楽器を最大限に活用するに相応しいエレ・ジャズに、マイルス・デイヴィスはチャレンジしていくことになる。

この盤は、私が「エレ・マイルス」に初めて触れたアルバム。これは30年以上経った今でもしっかりと覚えている。「エレ・マイルス」は、ジャズ者初心者の方々には、ちょっと理解しにくいかと思う。1970年代のプログレッシブ・ロックを聴き込んだ経験のある方々には、意外と入りやすいかも。ちなみに私もそうだった。

感動に次ぐ感動。ジャズという音楽ジャンルが、ここまで自由で、ここまでクリエイティブな音楽表現ができるとは思わなかった。フリージャズなんて目じゃない。これだけ統制のとれたグループ・サウンズの中で、圧倒的に自由度のあるインプロビゼーションの嵐。ジャズという音楽ジャンルにドップリはまる切っ掛けを作ってくれた、僕にとって凄く重要なアルバムである。
 
 
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2022年4月14日 (木曜日)

Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。

さて、『Miles in The Sky』でいきなり、エレクトリック・ジャズに転身したマイルス。冒頭の「Stuff」が8ビート+電化ジャズ。マイルス初の8ビート・ナンバー。他の曲を含めて、この盤はマイルスの8ビート採用とエレ・ジャズへのチャレンジであった。そして、続くエレ・マイルスの2枚目がこれ。

Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(写真左)。邦題『キリマンジャロの娘』。1968年6月のセッションのパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b), Tony Williams (ds)。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲が演奏されている。

そして、1968年9月のセッション。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わっている。 「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。

この2つのセッションが収録されているところがこのアルバムの重要なポイント。マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏は、ハービーがエレピ(フェンダー・ローズ)を弾き、ロンはエレベ(電気ベース)を弾く。しかし、エレピもエレベも、それぞれの電気楽器独特の特性や響きを活かした弾き方にはなっていない。演奏全体の雰囲気はアコースティック・マイルスと変わらない。というか、ハービーもロンも半信半疑、手探り状態でのパフォーマンスに終始している様で、ちょっと気の毒になる。

でも、ビートは8ビートである。この マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏を聴いていると、ジャズは4ビートだけではなく、8ビートでもしっかりとジャズになるということが良く判る。8ビートに乗って、モーダルな演奏も全く問題無く展開し、このアルバムでは、実にアーティステックで、かなり自由度の高いモーダルな演奏が繰り広げられている。
 

Filles_de_kilimanjaro

 
このマイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏の3曲を聴いていると、この演奏は8ビートであり、ハンコックはエレピを弾き、ロンはエレベを弾いてはいるが、内容的にはアコースティック・マイルスの限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏と変わりが無い、言って良い。でも、その演奏レベルたるや、限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏の中でも最高峰の演奏である。これはこれで凄い。

しかし、1968年9月のセッション、チックとホランドが参入したエレ・マイルスな演奏は、マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏とは明らかに異なる。チックのエレピ、ホランドのアコベ、どちらともエレクトリック前提の、エレクトリック楽器独特の響きを宿している。チックのエレピ(フェンダー・ローズ)は、その楽器の特性と響きを活かした、エレピ独特の弾き回しと雰囲気を実現している。そして、ホランドはアコベを弾いているんだが、弾き方は明らかにエレベのテイストになっているのが興味深い。

ここでマイルスは知る。アコースティック・ジャズはアコースティック・ジャズなりの演奏の仕方、表現の仕方があり、エレクトリック・ジャズにはエレクトリック・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。エレクトリック楽器にはエレクトリック楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレクトリック・ジャズには、エレクトリック・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。

つまり、演奏するメンバーは適材適所。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということ。そして、8ビートでも、アコ、エレ共に確実にジャズになるということ。8ビート=エレクトリック・ジャズ、4ビート=アコースティック・ジャズでは無いということ。

前作『Miles in The Sky』の兄弟盤の様な『Filles De Kilimanjaro』。この2枚のエレ・マイルス黎明期のアルバムで、エレ・マイルスの表現コンセプトが固まったのではないか、と感じている。

先人の実績の全く無い、1968年当時のエレクトリック・ジャズ。マイルスは次作『In A Silent Way』で、エレクトリックならではの、マイルスならではのエレクトリックな演奏を展開することになる。そのコンセプトの基本は、この『Miles in The Sky』と『Filles De Kilimanjaro』の2枚に散りばめられているのだ。
 
 
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2022年4月13日 (水曜日)

MIles Davis『Miles in The Sky』

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、補訂再掲することにした。まずは「エレ・マイルス」から。

MIles Davis『Miles in The Sky』(写真)。1968年1月16日、5月15–17日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), George Benson (g), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。後に、あのソフト&メロウな歌うジャズ・ギタリストとして一世を風靡したジョージ・ベンソンが、マイルス・バンド初のエレクトリック・ギタリストとして採用されている。

さて、この『Miles in The Sky』は、マイルスが初めて電気楽器を導入したアルバム。つまりは、エレ・マイルス発祥のアルバムである。8ビートを積極的に採用したアルバムでもある。いわゆる「4ビートからの脱却」。この『Miles in The Sky』は、マイルスの電化、そして、8ビート化のアルバムとした方が座りが良い。

冒頭の「Stuff」。1968年5月17日の録音。この「Stuff」が、マイルス初の8ビート・ナンバー。とてもシンプルな8ビートで、今の耳には凄く判り易い。この8ビート・ナンバーは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) という、マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏。

ロン・カーターがエレクトリック・ベースを、ハービー・ハンコックがフェンダー・ローズを使用させられてのエレ・マイルス対応。初めてのエレ楽器に、意外と苦戦している様子が聴いてとれる。どう聴いても「確信」を持って弾いているとは思えない、ちょっと恐る恐る演奏している風情。微笑ましいといえば微笑ましい。

逆に、トニー・ウィリアムスだけが喜々として叩きまくっている。8ビートという新しく魅惑的な課題を与えられて、単に8ビートを刻むだけで無い、ビートの間に様々なパターンのフィル・インを小まめに挟んで、淡々としたクールなシンバル・ワークで絶妙なビートを叩き出していきながら、様々なバリエーションの8ビートを叩き出している。これが凄い。今の耳にも「聴いたことの無い」8ビートなドラミング。
 

Miles_in_the_sky
 

そこに、マイルスとショーターが自由にモーダルなフレーズを紡いでいく。基本のリズム&ビートの反復によるグルーヴ感が醸成され、供給する8ビートが単純でクールな分、エレクトリック・ジャズのファンキーでエモーショナルなグルーヴ感が判り易い。

2曲目の「Paraphernalia」が面白い。エレクトリック・ギターの入ったセッションであるが、エレクトリック・ギターの参入の効果、いわゆる「エレクトリック・ジャズ」の雰囲気はほとんど感じられない。この盤以前の「モーダルで限りなく自由度の高いメインストリーム・ジャズ」が展開されている。ただし、エレギのカッティングの音は印象的であり、クールである。

他の曲「Black Comedy」や「Country Son」は『Miles Smiles』や『Nefertiti』の延長線上の演奏ばかりだが、8ビートの採用とトニーのグルーヴ感溢れる変幻自在な8ビートが効果的に作用して、このモーダルな演奏の雰囲気は、エレクトリックな「ジャズ・ロック」。

といって、コマーシャルで売れ線を狙ったジャズ・ロックとは違って、その演奏内容は硬派で秀逸。マイルスの60年代黄金のクインテットの面目躍如。マイルスのブロウは自由度が高く、凄まじいばかりの切れ味。トニーのドラミングは自由奔放、ショーターはほとんどフリーだし、ハービーは実にクールな響きのバッキングが個性的だし、ロンのベースはいつになく攻撃的。

エレ・マイルス発祥のアルバムである『Miles in The Sky』。我々エレ・マイルス者にとっては、冒頭の「Stuff」は絶対に外せない。そして、ジョージ・ベンソンの参入は不発には終わったが、この盤のベンソンのエレギの響きは今でも新鮮に響く。よって、続く2曲目の「Paraphernalia」の存在も、エレ・マイルス者にとっては外せない。

ジャケット・デザインも秀逸。「名は体を表す」というが「ジャケットは内容を表す」である。アコ・マイルスからエレ・マイルスへの過渡期ならでは「中途半端さ」が、エレ・マイルスの骨格を浮かび上がらせている。なかなか聴いていて興味深い、エレ・マイルスを理解する上では必須のアルバムである。
 
 

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2020年9月25日 (金曜日)

晩年のエレ・マイルスの究極盤『Tutu』

昨日、Miles Davis『You're Under Arrest』をご紹介した。1985年のリリース。マイルスは、1991年に鬼籍に入っているので、後はリーダー作は6作を残すのみとなっている。リリース順で聴き直してきたマイルスのリーダー作も終盤である。マイルス自身としても晩年の時代。レコード会社は長年所属していたColumbiaを離れ、Warner Bros.に所属することとなる。

Columbiaレコードとしては、1985年当時、もはやマイルスの商品価値は尽きた、と考えていたらしい。予算も削減し、扱いもレベルダウンし、さすがのマイルスも怒り心頭。Columbiaレコードも積極的に契約更新するつもりもなく、マイルスはWarner Bros.へ移籍することとなった。商品価値の低くなったマイルス。しかし、Warner Bros.に移籍後、晩年の傑作盤をものにするのだから、マイルスは隅に置けない。

Miles Davis『Tutu』(写真)。1986年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Marcus Miller (b, guitar, syn, drum machine, b-cl, ss, other inst.), Jason Miles (syn programming), Paulinho da Costa (per), Adam Holzman (syn), Steve Reid (per), George Duke (per, b, tp), Omar Hakim (ds, per), Bernard Wright (syn), Michał Urbaniak (el-vin), Jabali Billy Hart (ds, bongos)。シンセサイザーと打ち込みの多用が目に付く。
 
 
Tutu-miles-davis  
 
 
エレクトリック・マイルスの最終到達地点。マイルス流エレクトリック・ファンクの最終形。クールで格好良く、ソリッドなファンクネス、重量感溢れ、そして流麗。エレ・マイルスの良いところが全て、この『Tutu』に凝縮されている様なパフォーマンス。アコースティックだのエレクトリックだの、どうでも良い。エレ・ファンク・ジャズの究極形がこの盤に詰まっていると感じる。

キーマンは、若きベーシストの「Marcus Miller(マーカス・ミラー)」。曲の大半はマーカスミラーが書いている(マイルスは1曲のみ)。マーカスはマイルス・バンド最後の「音楽監督」として、このエレ・ファンク・ジャズの究極形を、マイルスと二人三脚で完成させた。そして、もう一つの「キーマン」は、アダム・ホルツマンや、ジェイソン・マイルスの「プログラミング部隊」。

ジャズの肝である「即興演奏」はどこへ行った。「即興演奏」は、マイルス御大が一気に引き受けている。バックのリズム隊は人工的だが、マイルスは生の音で、マイルスのトランペットを、即興演奏を吹きまくっている。このマイルスのトランペットの「即興演奏」だけで、アルバム全体が「ジャズ」に包まれる。いやはや、マイルスって、晩年にどえらいエレ・ファンク盤をものにしたもんだ。
 
 
 
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2020年9月24日 (木曜日)

Miles Davis『You're Under Arrest』

ジャズの帝王「マイルス・デイヴィス」のリーダー作をリリース順に聴き直していたのだが、2016年7月6日の『Decoy(デコイ)』で停滞しているのに気がついた。面目ない。自分自身、マイルス者なので、マイルスのリーダー作は定期的に聴く。聴かないと禁断症状が現れる。で、この聴き直しの次のアルバム自体が、この定期的に聴くマイルス盤として選択されなかったということ。で、今回、聴き直しを再開である。

Miles Davis『You're Under Arrest』(写真左)。1984年1月26日〜1985年1月14日での録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp, syn, voice), John McLaughlin (g), John Scofield (g), Bob Berg (ss, ts), Kenny Garrett (as). Al Foster (ds), Vincent Wilburn (ds), Robert Irving III (syn, celesta, org, clavinet), Darryl Jones, (b), Steve Thornton (perc, voice), Sting, Marek Olko, (voice)。

アルバムを聴く前にパーソネルを見渡せば、どんな「捻れてカッ飛んだジャズ・ファンク」な音が出てくるんだ、と思う。そして、パーソネルにある「Voice」とは何か、今までのマイルス盤に無い「担当楽器」に戸惑う。ラップでもやる気なの?なんて思ったりする。しかし、ジャズ・ファンクはもうずっとやっている。新たな挑戦として、この盤ではマイルスは何にチャレンジするのか。
 
 
Youre-under-arrest  
 
 
昔、この盤がリリースされた時、この盤に詰まっている音に対する「表現言葉」を持ち合わせていなかった。21世紀の今になって、やっと自分なりの、この盤に対する「表現言葉」を持つことが出来た。そう、この盤って、マイルス流のフュージョン・ジャズではないか。冒頭の「朗読劇」風のヴォイスも、それまでのマイルスに無い「ポップ」な工夫。そして、絶品のカヴァー曲が2曲。

Michael Jacksonの楽曲、2曲目の『Human Nature』と Cyndi Lauperの楽曲、7曲目の『Time After Time』が見事。ポップであり、ソフト&メロウであり、ジャズによるブラコンである。この2曲が軸となって、爽やかファンキーでこの盤では、ポップで判り易い、マイルス流のフュージョン・ジャズな演奏がズラリと並ぶ。もちろん、マイルスのトランペットは好調である。もちろん、バックを担う個性派ジャズマン達も好演に次ぐ好演。

エレクトリック・マイルスの中では、非ジャズ・ファンクなポップで聴きやすいアルバム。マイルスのジャズ・ファンク独特の「陰」のイメージがこの盤には全く無い。ポップで明るい演奏の中に、そこはかとなく漂う「寂寞感」はマイルスならではのもの。この秋の黄昏時に一人で佇む様な「寂寞感」は健在。この漂う「寂寞感」故に、この盤は単なるフュージョン・ジャズ盤に留まらず、やはりメインストリームなジャズ、正統なエレ・マイルスな盤として存在し続けているのだ。
 
 
 
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