ザイトリンのソロ・ピアノ集
この3日間、中京地区に逗留していた訳だが、往き帰りの新幹線の中は、またとない「ジャズ盤傾聴」の機会。意外と新幹線の車内は静かで、ジャズ盤がしっかり聴き込むことが出来る。今回もソロピアノを中心に聴き込んだのだが、これがまたなかなか内容のある盤ばかりでご満悦である。
デニー・ザイトリン(Denny Zeitlin)は、「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきた「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」である。
Denny Zeitlin『Crazy Rhythms・Exploring George Gershwin』(写真左)。2018年12月7日「Piedmont Piano Company, Oakland」での録音。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin (p) のみ。「異色中の異色なジャズ・ピアニスト」であるデニー・ザイトリンのソロ・ピアノのライヴ録音。現時点でのザイトリンの最新作になる。
ザイトリンは、この2018年に開かれたコンサートでアメリカの偉大な作曲家「ジョージ・ガーシュイン」のトリビュートとして、このソロ・ピアノのライヴ盤を録音している。が、このソロ・ピアノのパフォーマンス、ザイトリンのピアノの個性が手に取るように判るパフォーマンスがしっかり記録されていて、ザイトリンの個性を確認するのに最適なライヴ盤になっている。
前のブログで「ザイトリンのピアノは、ビル・エヴァンスのピアノから、翳りを除いて硬質で明快なタッチに置き換えた様な、明るい弾き回し。しかし、音の重ね方やヴォイシングはエヴァンスより複雑で個性的」と書いたが、このザイトリンのピアノの特徴が、このソロ・ピアノのライブ盤でとても良く判るのだ。
冒頭の「Summertime」。この手垢の付いた「超スタンダード」な楽曲なのだが、冒頭の弾き回しを聴いていると「あれ、ビル・エヴァンスかな」と思うんだが、聴き進めると、まず音の重ね方が違う。エヴァンスよりも複雑で陰影が濃い。そして、タッチが違う。ザイトリンの方が硬質で調高速な弾き回しに破綻が無い。そもそも、ビル・エヴァンスは、こんな超高速な弾き回しはしない。そして、ヴォイシングが違う。そもそも音の選び方が、聴いて直ぐ判るくらいに違う。
加えて、アレンジが秀逸。演奏されるどの曲もひと味もふた味も違うアレンジが施されているのだが、特に「The Man I Love」など、今までの「The Man I Love」のアレンジはしっとりとしたバラード調のものばかりだったが、ザイトリンのアレンジは、アグレッシブでスクエア。まるで流麗な「モンク」が弾き進めている様な音作り。この辺が、ザイトリンのアレンジの個性的なところである。
全編聴き通すと、確かに「エヴァンス派」と呼べなくはないのだが、弾き回しのニュアンスが似通っているだけで、後は皆、違う個性なのだから、ザイトリン独特の個性として認めても良いのでは無いか、と思う。それほど、このライヴ盤ではザイトリンの個性が際立っている。
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