2022年8月20日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・247

ゴンサロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba) は「キューバの至宝」と呼ばれるジャズ・ピアニスト。1963年5月、キューバはハバナの生まれ。今年で59歳、来年は還暦。もはや、キャリア的にはベテランからレジェンドの域に差し掛かっている。僕がゴンサロの出会ったのは、1990年『Discovery: Live at Montreux』を手にした時。あの頃、ゴンサロは弱冠27歳。あれから30年以上、ゴンサロのピアノの志向はブレていない。

ゴンサロのピアノは超絶技巧ではあるが、リリカルでメロディアス、そこはかとなくアーシーでワールド・ミュージック的な雰囲気が漂い、カリプソな雰囲気も見え隠れする。回りくどいことは無く、判りやすい光速のパッセージでアプローチは意外と直線的。ビ・バップ・マナーの超絶技巧な高速ピアノと、間を活かした印象派マナーの耽美的でリリカルなピアノの双方を両立させた個性が特徴。

Gonzalo Rubalcaba Trio『Skyline』(写真左)。2021年の作品。ちなみにパーソネルは、Gonzalo Rubalcaba (p), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds)。ゴンサロが若き日に師事したジャズメンと再会したいという長年の希望を受けて実現した再会セッションの記録。現代のアコベのレジェンド、ロン・カーターと、現代のポリリズミックなドラマーのレジェンド、ジャック・デジョネットがリズム隊で参入している。
 

Gonzalo-rubalcaba-trioskyline

 
ゴンサロのピアノの個性をしっかり記録しつつ、ゴンサロのピアノの成熟を聴いて取れる、内容の濃いピアノ・トリオ盤である。相変わらずの超絶技巧であるが、若かりし頃の「どうだ、凄いでしょ」的な大向こうを張った弾き回しでは無く、硬軟自在、緩急自在、音とリズムをしっかりと選びつつ、機微溢れる、クールでブルージーでモーダルなピアノをじっくり聴かせてくれる。弾きまくるゴンサロ、内省的なゴンサロ、ゴンサロのピアノの良いところがこの盤にしっかり記録されている。

ゴンサロの成熟したピアノの良いところをグイグイと引き出しているのが、ロンのベースとデジョネットのドラム。ロンのべースは、ゴンサロのモーダルなピアノの底をしっかりと支えて安定感抜群。デジョネットのポリリスミックなドラミングは、ゴンサロのピアノに推進力と変化のタイミングを与え続ける。素晴らしいインタープレイの応酬。ゴンサロのピアノが映えに映える。

ゴンサロ健在。ロンも健在、デジョネットも健在。凄まじく、内容濃く、新しい響きを湛えたインタープレイを繰り広げるレジェンド級のピアノ・トリオ。その演奏の数々は凄みが感じられるほど、硬派で切れ味の良いもので、まだまだ若手ピアノ・トリオには及ばない、様々な「粋」なアプローチと弾き回しは、後に名盤と呼ばれるに相応しい内容ではないかと感じて、聴いていて何だか「嬉しく」なりました。
 
 

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2015年4月 3日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・60

ジャズのアルバムには、歴史的名盤とか定盤なんかでは無いんだけれど、ジャズの紹介本とか雑誌の名盤コーナーに、その名が挙がったりはしないんだけど、何故かその内容が気に入って、何故かずっと愛聴しているアルバムがある。 

僕にとってのそんな一枚がこれ。Jackie McLean With The Great Jazz Trio『New Wine In Old Bottles』(写真左)。1970年代、メインストリーム・ジャズを扱った日本の伝説的レーベル「East Wind」からのリリース。 1978年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Ron Carter (b),  Tony Williams (ds), Hank Jones (p)。

1970年代後半、一世を風靡したメインストリーム・ジャズ・トリオ、ハンク・ジョーンズ率いる「グレイト・ジャズ・トリオ」をバックに、アルトのジャキー・マクリーンが吹きまくるという、いわゆる企画盤。しかも、1978年という、フュージョン全盛期の中でのメインストリーム・ジャズ。

これがまあ、実に気持ちの良い内容なんですね。懐古趣味が前提のメインストリーム・ジャズでは無いところが素晴らしい。このアルバムを制作した4人のジャズメンの矜持を強く感じる。まずはリズム・セクションを司る「グレイト・ジャズ・トリオ」の音が新しい。1970年代後半、最先端のメインストリーム・ジャズの響きを感じる。

そして、フロントのワンホーン、アルトのマクリーンが良い。最初の「Appointment In Ghana Again」でのマクリーンはちょっと大人しい。しかも、1950年代後半から1960年代のちょっとピッチが外れたストレートな音で、バリバリ吹きまくる姿とはちょっと違った、お行儀の良い、ピッチのほぼあったマクリーンがここにいる。
 

New_wine_in_old_bottles

 
マクリーン、衰えたかと危惧するが、どうして、2曲目の「It Never Entered My Mind」から走り始める。お行儀が良くなった、と感じるのは、年齢相応の落ち着きが備わったから。ピッチがほぼ合った感じなのは、テクニックが備わり、端正なインプロビゼーションが展開できる様になったから。アルト奏者として成熟したマクリーンを感じることが出来るのだ。

この成熟した落ち着いたマクリーンを「カンが戻らずにイマイチ」という評価もあるが、それはちょっと違うだろう。1950年代後半から1960年代のマクリーンは、若さと勢いに任せて、ピッチが少し外れようが、ポジティブにバリバリ吹きまくった。それはそれで良いことなんだが、じゃあ、それがマクリーンの絶対的スタイルかと言えば、そうでは無い。

1970年代後半、マクリーンのアルトは成熟した。落ちついた余裕のある吹き回しが、実に魅力的なんだが、そんな成熟したマクリーンのアルトを、この『New Wine In Old Bottles』では、心ゆくまで堪能することが出来るのだ。

バックを司る「グレイト・ジャズ・トリオ」のパフォーマンスは申し分無い。「グレイト・ジャズ・トリオ」の演奏としては、彼らのキャリアの後期に位置する、トリオとして十分にこなれた、十分に成熟したパフォーマンスである。じっくりと聴けば聴くほど、その良さがどんどん深く広く理解出来る、実に味のあるパフォーマンスである。

アルバム・ジャケットも魅力的。港の桟橋、お洒落な街灯、真っ赤なウィンチ。計算されたような桟橋の配置、海の部分と桟橋の部分との割合。どれもが新しいデザイン・コンセプト。そして、その盤の中に詰まっているジャズは、1978年当時の最先端のメインストリーム・ジャズ。良い盤です。
 
 
 
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2015年3月26日 (木曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・44

こういうアルバムは聴いていて、文句無しに楽しい。加えて音が良い。これまた、文句無しに楽しい。しかも、こんな純ジャズなアルバムが、1977年10月に録音されていたんだから、米国の音楽シーンは懐が深い。

そのアルバムとは、The Great Jazz Trio『Direct From L.A.』(写真左)。The Great Jazz Trio(以下GJTと略す)は、Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) の3人の名うてのジャズ職人で構成されたピアノ・トリオ。

新主流派の最先端を走っていたベースのロンとドラムのトニーはともかく、この当時ジャズ界の先端を行くピアノ・トリオの主役、ピアノを担うのが、当時、既にベテランの域に達していたハンク・ジョーンズである。このGJTの演奏を聴く前には、どう想像したって、ハンクのピアノは時代遅れの音なんだろうな、って思ってしまう。

それじゃあ、なんで新主流派の最先端を走っていたベースのロンとドラムのトニーが、このベテラン、ハンク・ジョーンズと組んで、ピアノ・トリオとして演奏を繰り広げたのか、が判らない。日本のジャズレーベル独特の、ギャラを積んで一流ジャズメンを呼んだ、趣味の悪い企画セッションなのかと勘ぐったりする。

しかも、このアルバムの収録曲が「Night In Tunisia」「Round Midnight」「Satin Doll」「My Funny Valentine」の4曲。それも超有名なジャズ・スタンダード曲ばかり。これだけ超有名なジャズ・スタンダード曲を並べられると、胡散臭さに拍車がかかる。大丈夫なのか、このアルバムとも思う。
 

Gjt_direct_from_la

 
しかし、一旦、このアルバムを聴き始めると、まずは思わずビックリ。聴き耳を立て始め、1曲目の「Night In Tunisia」のアドリブ部の展開の頃には、ドップリとこのアルバムの演奏に聴き入っている。

まず、時代遅れの音なんでしょう、と思っていたハンクのピアノが素晴らしく創造的で先鋭的。実に尖った当時最先端のモダンジャズなピアノの響きである。確かにタッチはハンクの典雅なタッチ。しかし、そのインプロビゼーションの展開はダイナミックで緊張感溢れる先鋭的なもの。

逆にそんな先鋭的なハンクのピアノに煽られて、ロンのベースがモーダルにブンブン唸りを上げ、トニーのドラムがマシンガンのように打ち付けられ、時にハイハットが飛翔する。凄まじいばかりのリズム&ビートのうねり。その「うねり」に乗じて、ハンクのピアノがスリリングなアドリブ・フレーズを展開する。

恐らく、この『Direct From L.A.』というアルバム、GJTのスタジオ録音の中でも出色の出来でしょう。収録時間は、LP時代のダイレクト・カッティングのアルバムなので、全体で29分弱と短いが、そんな短さが全く気にならない位に、このアルバムに収録された演奏は相当に充実している。

疾走感とスイング感を両立させつつ、ダイナミックな表現とセンシティブな表現を共存させる。そんな大変モダンなピアノ・トリオを実現しているところが凄いですね。全くもって脱帽です。ピアノ・トリオの常識を覆す斬新な演奏は今の耳にも新鮮に響きます。
 
 
 
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2014年2月19日 (水曜日)

GJTのヘビロテ盤の『K.J.L.H.』

やはり、ピアノ・トリオは良い。現代では、ピアノ・ベース・ドラムというセットが基本形。同じセットだと音も同じだ、と思ってしまうのだが、ジャズではこれがそうはならない。様々なジャズメンとの組合せの数だけ、音の個性がある。

ということで、どのピアノ・トリオをとっても、異なる個性を愛でることが出来るのがジャズの良いところ。僕は、ピアノ・ベース・ドラム、それぞれの楽器のお気に入りのジャズメンに注目して、そのトリオとしての組合せを楽しむことが中心になる。

そんな楽しみ方の中で、1970年代後半、ジャズを聴き始めてまだ3年位でお気に入りになったのが、The Great Jazz Trio(以降、GJTと略)。パーソネルは、Hank Jones (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。

1918年7月生まれで最年長のピアノのハンク・ジョーンズと、1945年12月生まれで最年少のトニー・ウィリアムスとの年齢差は「27歳」。真ん中のロン・カーターが1937年5月生まれだから、ハンクとの年齢差は「19歳」で、トニーとの年齢差は「8歳」。

年長の兄貴格のロンと弟格のトニー、その二人に君臨する父親格のハンクという図式になる。しかしながら、このGJT、発案は一番年下のトニー・ウィリアムス。マイルス・バンド出身、当時、ジャズ界で先進的なリズム&ビートの担い手であったロン&トニーと、モダンかつ典雅なタッチが個性のベテラン、ハンクのピアノの組合せが実に新鮮だった。

先進的なリズム&ビートの担い手、特にトニーのドラミングに触発された、ハンクのコンテンポラリー、スインギーかつバイタルなピアノが際立っていた。あの典雅で端正なハンクのピアノが、当時のジャズ界の最先端、モーダルで限りなくフリーに近いコンテンポラリーなタッチに変化して、ガンガン弾きまくるのだ。それでいて、どこか「典雅で端正な響き」を宿したところが堪らない。
 

Gjt_kjlh

 
そんなGJTの個性を心ゆくまで愛でることの出来るアルバムが、スタジオ録音第2弾だった『K.J.L.H.』(写真)。1977年10月の録音。ちなみに「K.J.L.H.」とは、"Kindness, Joy, Love & Happiness"を略したFMラジオ局のこと。とにかく、ジャケットが粋で格好良い(LPサイズだとなお迫力が出る)、僕にとっても、この『K.J.L.H.』は、GJTのヘビロテ盤の一枚。

このアルバムに収められた7曲は、今では恐らくほとんどのJazzファンには馴染みの深い、いずれも有名なスタンダード・ナンバーではあるが、どちらかと言えば、メカニカルで「ミュージシャンズ・チューン」的な、演奏者としてやって楽しいナンバーがチョイスされている。

これがまあ、どの曲も聴いていて楽しいこと楽しいこと。このGJTの個性である、ジャズ界で先進的なリズム&ビートの担い手であったロン&トニーのリズム&ビートに触発されて、どこか「典雅で端正な響き」を宿しつつ、モーダルで限りなくフリーに近いコンテンポラリーなタッチでガンガン弾きまくるハンクが「むっちゃ格好良い」。

トニーなぞ、喜々として全面に押し出て、バリバリに叩きまくっているのだが、それに触発されたモーダルで限りなくフリーに近いコンテンポラリーなハンクのタッチの方がより全面に押し出て、明らかに「目立っている」。ロンはその間に立って、どちらかと言えば、トニーのドラミングを柔らかくコントロールしている感じ。

このハンク、トニー、ロンのトリオの音がとにかく個性的なんですね。それまでに無かった響きでしたし、今の耳で振り返っても、唯一無二な響きを宿していて、それはそれは素晴らしい演奏を繰り広げています。録音も優秀。独特の個性で聴き応え満点、飽きの来ないピアノ・トリオの佳作です。
 
 
 
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2010年6月12日 (土曜日)

興奮静めにリラックス純ジャズ

いよいよサッカーW杯が開幕した。初のアフリカ大陸での開催。独特の雰囲気の中、試合が進みつつある。松和のマスターとしても、iPhone の呼び出し音も「FIFA Anthem」にセットし、携帯が鳴る度、朝、目覚めのアラームの折、「FIFA Anthem」が鳴り響いている(笑)。

いや〜、4年に一度のサッカーの祭典、興奮しますね〜。まあ、その間に欧州選手権があって、最近はテレビで、この欧州選手権も放映されるので、以前と比べて、4年に一度、サッカーW杯の興奮の度合いは、ちょっと静まったんだが、でも、やっぱり興奮するなあ。恐らく、この1ヶ月間は、松和のマスターは仕事で使いものにならないでしょう(爆笑)。

そんな、ただでさえ興奮状態の日々。その興奮を増幅するジャズを聴いてどうする。1ヶ月もたない状態で、決勝トーナメント準決勝あたりで疲れ果ててしまうのは困る。この興奮をやんわり静め、適度にリラックス出来、適度にテンションを維持することをサポートするような、適度なテンションと適度なリラックス度を持った純ジャズ佳作が、今の僕には必要である。

そんな、ややこしいニーズに応えてくれる一枚が、Ron Carter名義の『Etudes』(写真左)。現代Jazzベースの至宝、Ron Carterの1982年発表のリーダー作である。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b), Tony Williams (ds), Art Farmer (Flh), Bill Evans (ts,ss)。ロン、トニー、ファーマーのベテラン陣に、マイルス組の若手テナー奏者のビル・エバンスが参加した形。ちなみに、サックスのビル・エバンスは、ジャズ・ピアノの至宝、ビル・エバンスと同姓同名。でも、血縁関係は全く無い。

1曲目の「Last Resort」を聴けば、このアルバムが、適度なテンションと適度なリラックス度を持った純ジャズ佳作あることが理解出来る。まず、ベテラン、フリューゲルホーン奏者のアート・ファーマーが好調。ファーマー独特の柔らかでしなやかなフリューゲルホーンのインプロビゼーションが心地良い。そして、サックスのビル・エバンスが意外と健闘している。決して、ベテランの職人芸的なバッキングに怯むことなく、朗々とサックスを吹き上げていくビル・エバンス。マイルス組若手の面目躍如。
 

Roncarter_etudes

 
2曲目「Bottoms Up」は美しいバラード調の演奏。やはり、ファーマーのミュートがかかったフリューゲルホーンが絶好調。そして、やはり、ビル・エバンスのサックスが大健闘。ふふっ、リーダーのロンとドラムのトニーは、このベテラン+若手のフロントをしっかり支えるべく、バックに回って、とにかく、ビートとリズムを維持しまくっているが、これが、このアルバムの成功要因だろうと思います。

ロンとトニーは、その担当楽器の特性を無視して、1970年代は、フロント楽器の前へ前へ出よう出ようとしていました。特に、ロンなどは、アコースティック・ベースの電気アタッチメントを付けて、電気的に音を増幅してまで、前へ出ようとしていた状況には、当時、ジャズ者初心者の僕としても、なんだか嫌〜な気分にさせらることが「しばしば」でした。当時、ジャズ界の人気者、中堅ミュージシャンだった二人。目立ちたい、という気持ちは判るんですけどね〜。

とにかく、リーダーのロンとドラムのトニーは、このベテラン+若手のフロントをしっかり支えるべく、バックに回って、とにかく、ビートとリズムを維持しまくっていることで、この『Etudes』は、適度なテンションと適度なリラックス度を持った純ジャズ佳作に仕上がっている。

いやはや、ジャズとは難しいものですね〜。こういうミュージシャンの気持ちとアルバムの出来が裏腹なところが、実にジャズらしい。いわゆる「ロックとは違う」、複雑で先の読めない「意外性」がジャズの真骨頂なのですが、この一聴して「温和でリラックスした」絵に描いた様な教科書的な純ジャズ佳作にも、この「意外性」が潜んでいるんですね。ジャズって奥が深い(笑)。

興奮静めにリラックス純ジャズ。そんな時は、適度なテンションと適度なリラックス度を持った純ジャズ佳作が一番。今回ご紹介した『Etudes』も、そんな純ジャズ佳作の一枚。このアルバムを聴きながら、ヒートアップしそうな心を静めつつ、今日もワクワクしながら、W杯の試合をテレビ観戦するのだ (^_^)v。  
  
 
 
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2010年5月21日 (金曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・14

ピアノ・トリオの代表的名盤の第14回目である。強がっていても、まだまだハンク・ジョーンズの訃報のショックが癒えない松和のマスター。今回のピアノ・トリオの代表的名盤は、当然、ハンク・ジョーンズ中心に攻めてみたい。

ハンク・ジョーンズの優れたピアノ・トリオは数々あるが、やはり一番あちらこちらのジャズアルバム紹介本に挙げられる回数が一番多いのは、The Great Jazz Trio名義の諸作だろう。特に、必ずと言って良いほど挙げられるアルバムが『At the Village Vanguard』と『At the Village Vanguard Vol.2』。ハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウイリアムスのベテランジャズマンによるトリオ。

が、しかし、今回、ハンク・ジョーンズの訃報に接して、様々なブログでハンク・ジョーンズ追悼の意を中心としたコメントが多々アップされたが、この『At the Village Vanguard』シリーズ、評判が良いコメントと評判の良くないコメントが相半ば。う〜ん、判るような気がするなあ。

恐らく、トニー・ウイリアムスの「ど派手」なドラミングが好きなジャズ者の方々には、この『At the Village Vanguard』シリーズについては、概ね評判が良い。しかし、意外とハンク・ジョーンズのピアノの素晴らしさに言及しているコメントが少ないのが残念。

逆に『At the Village Vanguard』シリーズについて、あまり芳しいコメントをしていないジャズ者の方々は、ハンク・ジョーンズのピアノより、元マイルス5重奏団のトニーとロンにビ・バップ時代からの大ベテラン・ピアニストであるハンクが組んだという、ちょっと「アンマッチで」コマーシャルな話題を優先した、しかも、トニーの大向こうを張った「ど派手」なドラミングと、アタッチメントを付けて電気ベースの様な音に増幅されたロンのベース音を全面に押し出した、いかにも、という感じの話題優先的なアルバムの内容を問題視している。

いや〜、皆さんの言うことはとても良く判る。やはり、当たり前にリーダーのハンク・ジョーンズのピアノが最優先とした時、この『At the Village Vanguard』シリーズの2枚は、やはり出来が良いアルバムとは言えない。トニーの斬新的な「怒濤のデジタル的」なバップ・ドラミングは「ど派手」で話題性はあるが、決して、リーダーのハンク・ジョーンズのピアノをしっかりと支え引き立てるバップ・ドラミングとは言えない。誤解を恐れずに言うと、これだけ我が儘に全面に出たバップ・ドラミングはあり得ない。トニーのリズムセクションとしてのセンスを疑ってしまう。

僕は、このハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウイリアムスのThe Great Jazz Trioは、トニーにとっての「ビ・バップ」的な、「ハード・バップ」的なドラミングの習得の場、鍛錬の場だったような気がしている。トニーがデビューした時、ジャズ界の最先端は「モード」。トニーはモードの申し子的なドラミングが素晴らしかったが、トニーはビ・バップ的な、ハード・バップ的なドラミングが最先端の時代は、ジャズ界に存在していなかった。
 

Village_again

 
じゃあ『At the Village Vanguard』シリーズは、ハンク・ジョーンズとして、ピアノ・トリオの代表的名盤となり得ないかと言えば、そうではなかった。1998年11月、唐突に登場したThe Great Jazz TrioのVillage Vanguardでのライヴ盤、その名も『At The Village Vanguard Again』(写真左)。そう、あの傑作ライヴ『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』の未発表テイクで、今までお蔵入りになっていたもの。

これが、リーダーのハンク・ジョーンズのピアノが最優先とした時、ハンク・ジョーンズとして、ピアノ・トリオの代表的名盤の一枚として挙げに足る、ハンク・ジョーンズのピアノとして優れた内容の『At The Village Vanguard Again』。

まず、選曲が良い。以下を見て頂きたい。ジャズ・スタンダード曲がズラリ。

1. Hi-Fly
2. Sophisticated Lady
3. Softly as in a Morning Sunrise
4. Wave
5. My Funny Valentine

ハンクのピアノが実に良い出来です。そして、トニーのドラムとロンのベースは、先にリリースされた『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』と比べれば地味なんですが、演奏の出来は素晴らしいですよ。ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、このアルバムのトニーとロンは実に素晴らしいバッキングを提供していると言えます。この実直なドラムとベースのバッキングを得て、ハンクのピアノは実にリラックスして、実に弾き易い雰囲気で、味のある小粋なインプロビゼーションを聴かせてくれます。

私としては、ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』は、あまり良い内容とは思いません。しかし、1998年11月、唐突に登場した『At The Village Vanguard Again』は違います。ハンクをリーダーとしてThe Great Jazz Trioを評価するならば、この『At The Village Vanguard Again』は、ハンクのピアノ・トリオの代表的名盤として、十分評価できる内容だと思います。

でも、この音源がお蔵入りとはなあ。当時のレコード会社と担当レーベルの感性を疑いたくなりますね〜。でも、1998年11月、唐突に登場してくれて良かった。『At The Village Vanguard Again』の存在は、『At The Village Vanguard』と『同 Vol.2』も含めて、『At the Village Vanguard』シリーズについては、ハンク、ロン、トニーのThe Great Jazz Trioの名盤としても、僕は評価することが出来る様になりました。目出度し目出度し(笑)。
 
 
 
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  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  
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