2022年7月 6日 (水曜日)

マエストロのECM初リーダー作

マンフレート・アイヒャーによって、1969年に設立された欧州のジャズ・レーベル「ECM(Edition of Contemporary Music)」。ECMレーベルは、ジャズについては「典型的な欧州ジャズ」を旨とする。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。

このECMについては、1970年代後半、僕がジャズを聴き始めた頃、新興の欧州ジャズのレーベルとして、我が国での有名になりつつあった。ECMのジャズは、従来の伝統的なハードバップとは全く対極の「沈黙に次いで最も美しい音」を基本とす
る、即興演奏をメインとした演奏自由度の高いニュー・ジャズ。当時、硬派なベテラン・ジャズ者の方々からは、これはジャズじゃない、と結構煙たがられたレーベルである。

ECMは設立の1969年から、常に充実した活動を続け、21世紀に入っても、ECMレーベルの勢いは衰えることは無い。衰えるどころか、新しいジャズマンを各国から発掘し、コンスタントに新盤をリリースし続けている。今年の3月から、そんなECMレーベルの、ECM独特の音を表現するアルバムを20枚チョイスした〈21世紀のECM〉キャンペーンがスタートしている。
 

Shai-maestrothe-dream-thief

 
Shai Maestro『The Dream Thief』(写真左)。2018年4月の録音。ECMの2616番。邦題『夢盗人』。ちなみにパーソネルは、Shai Maestro (p), Jorge Roeder (b, except 1,6,8), Ofri Nehemya (ds, except 1,6,8)。イスラエル・ジャズの才能あふれる若手ピアニスト、シャイ・マエストロの初のECMでのリーダー作品になる。トリオ演奏とソロ演奏がほど良く混在し、マエストロのピアノの個性が良く判る展開になっている。

ベーシストはペルー出身、ドラマーはイスラエル出身。ECMらしい、ユニークな出身のメンバーが集うピアノ・トリオ。出てくる音は、明らかにECMの音。ピアノ、パーカッション、ドラム。空間たっぷりの演奏スペースに、耽美的にリリカルに即興演奏が展開する。間と響きを活かした音世界。墨絵の様に漂うエコー。クリスタルで硬質なピアノのタッチが即興演奏のエッジを立たせ、その印象的なフレーズを全目に押し出してくる。

ECMのアイヒヤーによってプロデュースされた、ECMの音を纏ったイスラエル・ジャズ。マエストロのピアノの個性が、ECMの音によって増幅され、より明確になっている。アイヒヤーの的確なプロデュースによって、マエストロは、ECMデビュー盤でありながら、ECMでの代表作を手に入れた。21世紀に入っても、ECMの音は健在。そして、そのECMの音の「担い手」の新しい才能もしっかりと確保されている。まだまだECMレーベルは安泰である。
 
 

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2022年4月21日 (木曜日)

シャイ・マエストロの最新盤

ジャズ・ピアノについては、長年、実力、人気共にトップの座に君臨していた、キース・ジャレット、チック・コリア、ハービー・ハンコックの3人のうち、チックは鬼籍に入り、キースは脳溢血により再起不能状態、ハービーは隠遁状態。次世代を担う存在、ブラッド・メルドーは元気だが、マーカス・ロバーツは目立たなくなり、ジェリ・アレンなどの女性ピアニスト達もちょっと地味な存在になりつつある。

しかし、最近の新盤を聴いていると、ブラッド・メルドーの世代を飛び越えて、20歳代〜30歳代の若手中心に、キース、チック、ハービーの世代の次々世代を担うジャズ・ピアニストが多く出てきている様だ。そんな有望株の中に、キースやチック、メルドーのフォロワーがいたりして、時代の移り変わりを感じる。僕等が若い頃は「(バド・)パウエル派」か「(ビル・)エヴァンス派」が主流だったなあ。

Shai Maestro『Human』(写真左)。2020年2月「Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines」での録音。2021年1月、ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Shai Maestro (p), Philip Dizack (tp), Jorge Roeder (b), Ofri Nehemya (ds)。現在のイスラエルを代表するジャズ・ピアニストのシャイ・マエストロの、2年ぶりのリーダー作。シャイ・マエストロは、1987年、イスラエル生まれ。今年で35歳。キース・ジャレットからも賞賛される若手有望なピアニストである。
 

Human_shai-maestro

 
キースが賞賛するのも何となく判る。シャイ・マエストロのピアノは、どこかキースのピアノの雰囲気を持っている。耽美的でリリカルで端正な弾き回しなど、キースのフォロワーと言っても良いくらい。しかし、キースほどどっぷり入り込んだ様な流麗さでは無く、サッパリとした切れ味の良いタッチで、シンプルなリリカルさはシャイ・マエストロ独特の個性だろう。

シャイ・マエストロと、ドラムのオフリ・ネヘミヤはイスラエル出身。ベースのホルヘ・ローダーはペルー、トランペットのフィリップ・ディザックは米国と、多国籍なカルテット編成。叙情的で穏やかなメロディー、流麗で透明感溢れるタッチ、シャイ・マエストロのピアノに、語りかける様に、肉声の様なトランペットが絡む。ベース&ドラムのリズム隊も柔軟にフロントを支え、鼓舞する。現代の先端を行く、自由度とイマージネーションに溢れるインタープレイの数々。

イスラエル出身シャイ・マエストロだが、この盤での音はイスラエル色は薄い。それでも、この盤に詰まっているのは、現代のコンテンポラリーな純ジャズであり、伝統的なメインストリーム系のジャズを踏襲しつつ、新しい響きと要素を盛り込んだ、洗練された神秘的なサウンド。カルテットの一体感が素晴らしく、雑誌Jazz Lifeの「2021年度 Disc Grand Prix 年間グランプリ」に、この盤のタイトルが挙がるのも頷ける。
 
 

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