2022年6月 1日 (水曜日)

Now He Sings, Now He Sobs

チック・コリアのリーダー作の振り返り。リーダー作の第2弾。このピアノ・トリオ作は、チックの代表作とされる。極端な評論家は「最高傑作で、これ以降は聴くべきものはない」なんて書いていて、それはかなり言い過ぎやな、と思うのだけど、チックのキャリア初期の中での傑作ではあります。

Chick Corea『Now He Sings, Now He Sobs』(写真左)。1968年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Miroslav Vitouš (b), Roy Haynes (ds)。録音当時26歳、若きチックが、モーダルで自由度の高いピアノを弾きまくった傑作。モーダルで革新的なベースのヴィトウス、機敏で硬軟自在な職人ドラマーのヘインズとリズム隊には不足は無い。

このトリオは、録音当時、ピアノ・トリオの最先端を行く内容を誇っていたと思う。ビル・エバンスの確立した「3者3様のインプロビゼーション」を基本とし、メロディアスかつモーダルな展開を、限りなく自由度の高いレベルで実現し、端正でクールな即興演奏を繰り広げた、そんな内容で、当時の「新主流派」の先を行くものであった。

この盤は、以下のの5曲で聴くべきアルバム。LP時代はこの5曲のみで、CDになってから、8曲が追加されて、なんか訳の判らないアルバムになってしまった。『Now He Sings, Now He Sobs』を鑑賞する上では、この5曲のみで聴き切って欲しいと思う。

1. Steps - (with What Was)
2. Matrix
3. Now He Sings, Now He Sobs
4. Now He Beats The Drum, Now He Stops
5. The Law Of Falling And Catching Up
 

Now-he-sings_now-he-sobs

 
冒頭の「Steps - What Was」は、モード奏法を深化させた「新主流派」の演奏の最終形の様な演奏。モーダルなフレーズから、フリーに展開し、現代音楽的なアブストラクトな響きを醸し出す。特にトリオ全体の創造力豊かな「即興演奏の妙」が凄い。

2曲目の『Matrix』は、歌うような印象的なフレーズを持つ人気曲。作曲上手なチックの面目躍如。フレーズの響きは袖に「チック独特」のもので、この曲を聴くだけでも、チックの個性は既に完成されている。モードを追究した「新主流派」の音を軽く越えている。

3曲目のタイトル曲は、チックならではの黒いブルージーな感覚とチックお得意のスパニッシュ系なロマンティシズム溢れるフレーズが魅力的。そして、4曲目「Now He Beats the Drum, Now He Stops」とラストの「The Law of Falling and Catching Up」では、完全にフリーでアブストラクトな演奏に傾いていく。

LP時代のA面の2曲とB面の3曲の内容の落差に改めて驚く。このチックのリーダー作には、チックの2面性がしっかりと記録されている。ロマンティシズム溢れるモーダルで自由度の高い演奏と、完全にフリーでアブストラクトな演奏との2面性。しかし、どちらもしっかりと「即興演奏の妙」を追求しているところが、いかにもチックらしい。

このトリオ盤、チックを理解する上で、絶対に外せない盤である。聴き心地の良い「最高傑作」では決して無い。
 
 
 

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2022年5月30日 (月曜日)

チックの完成された初リーダー作

チック・コリア(Chick Corea)が亡くなって1年が過ぎた。僕が大好きなジャズ・ミュージシャンだったので、その急逝の報にはビックリした。というか大ショックである。しばらく元気が出なかった。その半年前には、リモートではあるが、元気な姿でNHKに出演していたのになあ。享年79歳。まだまだ活躍出来る年頃だったのになあ。

僕が大好きなジャズマンだったチック・コリアなので、このブログでは初期の頃に、リーダー作のレビュー記事を早々にアップしている。もう10年以上も前の事になる。中には拙いレビュー記事もあるし、もうちょっとシッカリと聴き込んで書き直したい記事もある。チック・コリアが亡くなって1年。これを機会に、チック・コリアのリーダー作を順に振り返ってみようと思った。

Chick Corea『Tones for Joan's Bones』(写真左)。1966年11月30日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Woody Shaw (tp), Joe Farrell (ts, fl), Steve Swallow (b), Joe Chambers (ds)。チック・コリアの初リーダー作である。この初リーダー作のリリース時には、まだ、マイルス・デイヴィスのグループには入っていない(参加は1968年後半)。

収録された4曲中の3曲、1曲目「Litha」、3曲目「Tones for Joan's Bones」と4曲目「Straight Up and Down」がチック作。この3曲については、チックの独特のフレーズ、和音、リズム&ビートがしっかり反映されていて素晴らしい出来である。チック・コリアの個性、いわゆる「チック節」が全開、何回聴いても、冒頭の数フレーズで、これってチックの曲かな、と判るほど。スタンダード曲の2曲目「This is New」についても、アレンジと弾き回しが明らかに「チック節」で固められていて、アルバム全体の楽曲演奏の統一感が素晴らしい。
 

Tones_for_joans_bones_2

 
他のジャズマンからしても、このチック作の楽曲は魅力的だったようで、「Tones for Joan's Bones」と「Straight Up and Down」は、コリアの初リーダー作の前、ブルー・ミッチェルが、コリアをフィーチャーしたアルバム『Boss Horn』に収録。「Litha」は、このコリアの初リーダー作の約半年後、コリア入りのスタン・ゲッツ・カルテットによって録音され、アルバム『Sweet Rain』に収録されている。

この初リーダー作にして、チックのピアノの個性は完成されている。後にお得意となる「ラテンな雰囲気のフレーズ」はまだ影を潜めているが、リリカルで耽美的、それでいて、硬質で力感溢れるタッチ、バップ・ピアノとは異なる、完全モーダルな弾き回し。そして、チックの紡ぎ出す音の重ね方が独特の響きを生み出している。モーダルな新主流派の音をスタート地点とした個性であり、以前の先達ジャズ・ピアニストのスタイルのフォロワーの雰囲気は微塵も無い。

バックのそれぞれのメンバーも、チックの音世界の創造に大きく貢献している。フロント2管を司るトランペットのウッディ・ショウとテナーのジョー・ファレル、そして、リズム隊のスティーヴ・スワローのベース、ジョー・チェンバースのドラム、それぞれがチックの個性と音世界を十二分に理解し、チックの音世界を現出している。このパーソネルのまま、チック・コリア・クインテットとして、パーマネント・グループ化しても良い位の素晴らしいメンバーである。

このチックの初リーダー作、意外に我が国では評価が芳しく無い。が、チックを理解する上で、この初リーダー作は外せない。ピアニストとしての個性、作曲の才能とセンス、リーダーとしてのグループ・サウンドのまとめ方など、既にそれらの非凡な才能がこの初リーダー作に溢れている。チック者としては、この盤は絶対に外せないのだ。
 
 

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