2022年7月 1日 (金曜日)

Miles Davis『Bitches Brew』

エレクトリック・マイルス、マイルス・デイヴィスのエレ・ジャズ時代のアルバムを順に聴き直している。今の耳で聴き直してみると、10〜15年前には聴こえなかった音や見逃していた音が聴けたりして、意外と面白い。

現代ジャズでは、エレクトリック・ジャズは、ジャズの1ジャンルとして認められていて、意外とエレ・ジャズをやるジャズマンは結構いる。その現代のエレ・ジャズの担い手は、皆、エレ・マイルスの音世界をしっかりと踏まえつつ、自らのエレ・ジャズを表現している。立派である。

Miles Davis『Bitches Brew』(写真左)。1969年8月の録音。ちなみに、パーソネルは、Miles Davis (tp), Bennie Maupin (bcl), Wayne Shorter (ss), Chick Corea, Joe Zawinul (el-p), John McLaughlin (g), Dave Holland (b), Harvey Brooks (el-b), Jack DeJohnette (ds), Lenny White (ds), Don Alias (cga), Jim Riley (shaker)。当時のジャズの先端を行く一流どころがズラリと顔を並べている。

この盤はマイルスのリーダー作の歴史の中で、「大名盤」の扱いを受けていて、今更、その詳細を語るのは憚られる。書籍やネット記事に多くの評論が載っているので、一般的な評論については、そちらを参照されたい。ここでは、僕の個人的な、主観的な印象を語らせていただく。

前作『In a Silent Way』で、「エレ・マイルス」の方法論、エレ・ジャズの基本は「ビート」、という方法論を確立した訳だが、この盤ではその方法論に則り、当時、米国で流行していた「サイケデリック・ロック」や「プログレッシブ・ロック初期」の音を「エレクトリック・ジャズ」でやることが音のコンセプト。サイケやプログレをやるには、ビートの幻想的な広がりや揺らぎが必要なので、どうしても電気楽器の力が必要になる。
 

Miles-davisbitches-brew

 
マイルスの場合、必要に応じた電気楽器の導入しているので、電気楽器の活用が前提のジャズでは無く、ジャズとして表現したい音世界に電子楽器が不可欠だっただけなのだろう。マイルスの音楽に「コマーシャル」な側面は無い。録音当時、どんな音がヒップでクールか、だけを考えて、それに応じて、参加ジャズマンを選定し、必要な楽器を厳選している。

この『Bitches Brew』は、今の耳で聴くと、突拍子も無いエレ・ジャズでは無く、必要に応じて電気楽器を導入した、限りなく自由度の高いモード・ジャズ、言い換えると、当時のメインストリーム志向のコンテンポラリーな純ジャズだといえる。クロスオーバー〜フュージョン・ジャズの原点がこの盤にある、とする評論もあるが、違う様な気がする。

この盤の音世界は、当時の(現代でもだが)メインストリームな純ジャズであり、必要が故に電気楽器を導入しているだけ。電気楽器の導入が前提でロックビートを採用したクロスオーバー・ジャズや、聴き心地の良い、ソフト&メロウでソウルフルなフュージョン・ジャズとは、音作りの志向が全く異なる。

この盤でも、マイルスは、ジャズの原点である「即興音楽の可能性」について執拗に追求しているだけで、音のコンセプトに関して、「サイケデリック・ロック」や「プログレッシブ・ロック初期」の音の要素を引用しているに過ぎない。そうして、出来上がった音世界が、限りなく自由度の高いコンテンポラリーな純ジャズであり、サイケやプログレを彷彿とさせるポリリズミックで変則拍子なビートの採用だったのだ。

エレ・マイルスの基本は「ジャズ」。この盤も今の耳で聴くと、しっかりと「メインストリームなジャズ」であり、クロスオーバーでも無ければ、フュージョンでも無い。この盤に表現されているのは、サイケでプログレなビートに乗った「即興演奏を旨とするジャズ」である。
 
 

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2022年4月15日 (金曜日)

「エレ・マイルス」を確立した盤

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。今日は「マイルスがエレ・マイルスを確立した盤」。

Miles Davis『In a Silent Way』(写真左)。1969年2月18日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ss), John McLaughlin (el-g), Chick Corea (el-p), Herbie Hancock (el-p), Joe Zawinul (el-p, org). Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。1960年代黄金のクインテットからロン・カーターが抜け、エレギのマクラフリン、エレピのザヴィヌル、ベースのホランドが追加参加している。

パーソネルを見て、この盤は「エレ・マイルスを確立した盤」だと感じる。前作でマイルスは確信した。エレ・ジャズにはエレ・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。電気楽器には電気楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレ・ジャズには、エレ・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということを。

ただ、マイルスとしては、1960年代黄金のクインテットのメンバーは「代え難い存在」だったのだろう。何とかエレ・ジャズをものにして貰いたい、とロン以外をしっかりと残している。しかし、エレギについては、プログレッシヴなギタリスト、マクラフリンが、ベースについては、エレベ独特の感覚をアコベで弾きこなすホランドが、キーボードについては、エレピ独特の弾き回しが個性のザヴィヌルが参加して、確実に「エレ・マイルス」の表現方式を固めている。

この盤で確立された「エレ・マイルス」は、エレクトリック楽器の特性・響きをしっかりと捉えて、ジャズの統制のとれたグループ・サウンズの中で、インプロビゼーションの自由度が圧倒的な「希有な成果」。LP時代A面の「Shhh / Peaceful」を聴けば、それを直ぐに実感出来る。この「Shhh / Peaceful」の演奏の中に、1960年代のモーダルな演奏は欠片も無い。明らかに新しい、8ビートが「必然」のインプロビゼーションが展開されている。

LP時代B面の「In a Silent Way / It's about That Time」も素晴らしい。冒頭「In a Silent Way」の牧歌的な響き。ビートの無い、ただただ漂う様なモードの響き。そして、打って変わって、8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモードの響き。

決して派手派手しくない、どちらかと言えば、クールで冷静なポリリズムのビートなんだが、しっかりと躍動感が伝わってくる。ジャズとしての創造性が圧倒的。ビートの無い、漂う様な「In a Silent Way」と躍動感溢れるビートがベースの「It's about That Time」の対比。好対照な演奏イメージの対比。美しい。
 

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この『In a Silent Way』は、マイルスのセッションの録音を、プロデューサーのテオ・マセロがテープ編集を駆使して出来上がった、いわゆる「テープ・コラージュ」の成果だと言われる。決して、マイルスの音楽的成果では無い、と。

しかし、ボックス盤『The Complete In a Silent Way Sessions』に収録されている、オリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏だけでも十分に名曲・名演であることが実感出来る。現代においても、この2曲のオリジナル演奏は、エレクトリック・ジャズの先端を行く演奏である。現代においてしても、これだけの演奏を追求できるバンドは殆ど無い。

恐らく、LPは片面25分程度しか収録出来なかったので、そのLPの片面の収録時間に合わせて、テオ・マセロが巧みにテープ編集したのではないか、と睨んでいる。

このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」のお陰で、マイルスの思い描いていた音楽的イメージが、しっかりと起承転結をなす「一つの曲」として、はたまた、「一つの曲」としてのライブ演奏として、十分に音楽的成果として成立するものだ、ということが証明された、と言えるだろう。

8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモード演奏が長尺の演奏として成立するんだ、ということが、このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」で証明された。

『In a Silent Way』、「エレ・マイルス」のプロトタイプがここにある。この演奏に漂う「適度な緊張感」と「クールな躍動感」、そして「広大で自由なインプロビゼーション・スペース」。以降の1970年代、「エレ・マイルス」のベースとなるプロトタイプがここに提示されている。

この『In a Silent Way』の成果を基に、ジャズ・ミュージシャンに対して、相当に卓越した創造性と演奏テクニックが求められる、かなりハイレベルな、電気楽器を最大限に活用するに相応しいエレ・ジャズに、マイルス・デイヴィスはチャレンジしていくことになる。

この盤は、私が「エレ・マイルス」に初めて触れたアルバム。これは30年以上経った今でもしっかりと覚えている。「エレ・マイルス」は、ジャズ者初心者の方々には、ちょっと理解しにくいかと思う。1970年代のプログレッシブ・ロックを聴き込んだ経験のある方々には、意外と入りやすいかも。ちなみに私もそうだった。

感動に次ぐ感動。ジャズという音楽ジャンルが、ここまで自由で、ここまでクリエイティブな音楽表現ができるとは思わなかった。フリージャズなんて目じゃない。これだけ統制のとれたグループ・サウンズの中で、圧倒的に自由度のあるインプロビゼーションの嵐。ジャズという音楽ジャンルにドップリはまる切っ掛けを作ってくれた、僕にとって凄く重要なアルバムである。
 
 
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2022年4月14日 (木曜日)

『キリマンジャロの娘』は語る

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。

さて、『Miles in The Sky』でいきなり、エレクトリック・ジャズに転身したマイルス。冒頭の「Stuff」が8ビート+電化ジャズ。マイルス初の8ビート・ナンバー。他の曲を含めて、この盤はマイルスの8ビート採用とエレ・ジャズへのチャレンジであった。そして、続くエレ・マイルスの2枚目がこれ。

Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(写真左)。邦題『キリマンジャロの娘』。1968年6月のセッションのパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b), Tony Williams (ds)。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲が演奏されている。

そして、1968年9月のセッション。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わっている。 「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。

この2つのセッションが収録されているところがこのアルバムの重要なポイント。マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏は、ハービーがエレピ(フェンダー・ローズ)を弾き、ロンはエレベ(電気ベース)を弾く。しかし、エレピもエレベも、それぞれの電気楽器独特の特性や響きを活かした弾き方にはなっていない。演奏全体の雰囲気はアコースティック・マイルスと変わらない。というか、ハービーもロンも半信半疑、手探り状態でのパフォーマンスに終始している様で、ちょっと気の毒になる。

でも、ビートは8ビートである。この マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏を聴いていると、ジャズは4ビートだけではなく、8ビートでもしっかりとジャズになるということが良く判る。8ビートに乗って、モーダルな演奏も全く問題無く展開し、このアルバムでは、実にアーティステックで、かなり自由度の高いモーダルな演奏が繰り広げられている。
 

Filles_de_kilimanjaro

 
このマイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏の3曲を聴いていると、この演奏は8ビートであり、ハンコックはエレピを弾き、ロンはエレベを弾いてはいるが、内容的にはアコースティック・マイルスの限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏と変わりが無い、言って良い。でも、その演奏レベルたるや、限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏の中でも最高峰の演奏である。これはこれで凄い。

しかし、1968年9月のセッション、チックとホランドが参入したエレ・マイルスな演奏は、マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏とは明らかに異なる。チックのエレピ、ホランドのアコベ、どちらともエレクトリック前提の、エレクトリック楽器独特の響きを宿している。チックのエレピ(フェンダー・ローズ)は、その楽器の特性と響きを活かした、エレピ独特の弾き回しと雰囲気を実現している。そして、ホランドはアコベを弾いているんだが、弾き方は明らかにエレベのテイストになっているのが興味深い。

ここでマイルスは知る。アコースティック・ジャズはアコースティック・ジャズなりの演奏の仕方、表現の仕方があり、エレクトリック・ジャズにはエレクトリック・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。エレクトリック楽器にはエレクトリック楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレクトリック・ジャズには、エレクトリック・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。

つまり、演奏するメンバーは適材適所。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということ。そして、8ビートでも、アコ、エレ共に確実にジャズになるということ。8ビート=エレクトリック・ジャズ、4ビート=アコースティック・ジャズでは無いということ。

前作『Miles in The Sky』の兄弟盤の様な『Filles De Kilimanjaro』。この2枚のエレ・マイルス黎明期のアルバムで、エレ・マイルスの表現コンセプトが固まったのではないか、と感じている。

先人の実績の全く無い、1968年当時のエレクトリック・ジャズ。マイルスは次作『In A Silent Way』で、エレクトリックならではの、マイルスならではのエレクトリックな演奏を展開することになる。そのコンセプトの基本は、この『Miles in The Sky』と『Filles De Kilimanjaro』の2枚に散りばめられているのだ。
 
 
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2022年4月13日 (水曜日)

エレ・マイルス発祥のアルバム

マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、補訂再掲することにした。まずは「エレ・マイルス」から。

MIles Davis『Miles in The Sky』(写真)。1968年1月16日、5月15–17日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), George Benson (g), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。後に、あのソフト&メロウな歌うジャズ・ギタリストとして一世を風靡したジョージ・ベンソンが、マイルス・バンド初のエレクトリック・ギタリストとして採用されている。

さて、この『Miles in The Sky』は、マイルスが初めて電気楽器を導入したアルバム。つまりは、エレ・マイルス発祥のアルバムである。8ビートを積極的に採用したアルバムでもある。いわゆる「4ビートからの脱却」。この『Miles in The Sky』は、マイルスの電化、そして、8ビート化のアルバムとした方が座りが良い。

冒頭の「Stuff」。1968年5月17日の録音。この「Stuff」が、マイルス初の8ビート・ナンバー。とてもシンプルな8ビートで、今の耳には凄く判り易い。この8ビート・ナンバーは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds) という、マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏。

ロン・カーターがエレクトリック・ベースを、ハービー・ハンコックがフェンダー・ローズを使用させられてのエレ・マイルス対応。初めてのエレ楽器に、意外と苦戦している様子が聴いてとれる。どう聴いても「確信」を持って弾いているとは思えない、ちょっと恐る恐る演奏している風情。微笑ましいといえば微笑ましい。

逆に、トニー・ウィリアムスだけが喜々として叩きまくっている。8ビートという新しく魅惑的な課題を与えられて、単に8ビートを刻むだけで無い、ビートの間に様々なパターンのフィル・インを小まめに挟んで、淡々としたクールなシンバル・ワークで絶妙なビートを叩き出していきながら、様々なバリエーションの8ビートを叩き出している。これが凄い。今の耳にも「聴いたことの無い」8ビートなドラミング。
 

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そこに、マイルスとショーターが自由にモーダルなフレーズを紡いでいく。基本のリズム&ビートの反復によるグルーヴ感が醸成され、供給する8ビートが単純でクールな分、エレクトリック・ジャズのファンキーでエモーショナルなグルーヴ感が判り易い。

2曲目の「Paraphernalia」が面白い。エレクトリック・ギターの入ったセッションであるが、エレクトリック・ギターの参入の効果、いわゆる「エレクトリック・ジャズ」の雰囲気はほとんど感じられない。この盤以前の「モーダルで限りなく自由度の高いメインストリーム・ジャズ」が展開されている。ただし、エレギのカッティングの音は印象的であり、クールである。

他の曲「Black Comedy」や「Country Son」は『Miles Smiles』や『Nefertiti』の延長線上の演奏ばかりだが、8ビートの採用とトニーのグルーヴ感溢れる変幻自在な8ビートが効果的に作用して、このモーダルな演奏の雰囲気は、エレクトリックな「ジャズ・ロック」。

といって、コマーシャルで売れ線を狙ったジャズ・ロックとは違って、その演奏内容は硬派で秀逸。マイルスの60年代黄金のクインテットの面目躍如。マイルスのブロウは自由度が高く、凄まじいばかりの切れ味。トニーのドラミングは自由奔放、ショーターはほとんどフリーだし、ハービーは実にクールな響きのバッキングが個性的だし、ロンのベースはいつになく攻撃的。

エレ・マイルス発祥のアルバムである『Miles in The Sky』。我々エレ・マイルス者にとっては、冒頭の「Stuff」は絶対に外せない。そして、ジョージ・ベンソンの参入は不発には終わったが、この盤のベンソンのエレギの響きは今でも新鮮に響く。よって、続く2曲目の「Paraphernalia」の存在も、エレ・マイルス者にとっては外せない。

ジャケット・デザインも秀逸。「名は体を表す」というが「ジャケットは内容を表す」である。アコ・マイルスからエレ・マイルスへの過渡期ならでは「中途半端さ」が、エレ・マイルスの骨格を浮かび上がらせている。なかなか聴いていて興味深い、エレ・マイルスを理解する上では必須のアルバムである。
 
 

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