2021年12月26日 (日曜日)

キューンのスタンダード曲集。

ヴィーナス・レコードの功績として、過去に第一線で活躍していたジャズ・ミュージシャンを発掘してきて、新しいリーダー作を録音させて再生する、という切り口がある。そうそう、2021年12月21日のブログでご紹介した「Richie Beirach(リッチー・バイラーク)」が良い例である。そして、「Steve Kuhn(スティーヴ・キューン)」も、そんなジャズ・ミュージシャンの1人だろう。

Steve Kuhn Trio『Love Walked In』(写真左)。邦題『忍びよる恋』。何ともはや、ジャズ盤として、ちょっと趣味の悪い邦題であるが...。September 11 & 12 , 1998年9月11, 12日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p), Buster Williams (b), Bill Stewart (ds)。ジャズ・ピアノの「哲人」、スティーヴ・キューンのトリオ盤である。

兆しはあった。もともと、キューンは「難解な」ジャズ・ピアニスト。ハードバップでも無い、フリーでも無い。といって、モードに傾倒している訳でも無い。モンクの様でもあり、トリスターノの様でもあり。かなり難解で個性的なジャズ・ピアノだった。例えば、1966年録音の『The October Suite』(Inpulse!)などが、その好例である。

しかし、「だった」というのは、1995年録音の『Remembering Tomorrow』(ECM)で、キューンのピアノは変わった。まず、明るくなった。そして、耽美的でリリカル、幾何学模様的なモード展開、整ったリズム&ビートが判り易くなった。この盤では、キューンのオリジナル曲で占められていたが、とにかく、キューンのピアノは変わった。
 

Love-walked-in-steve-kuhn

 
そんな「変わった」キューンのピアノを捉えて、どスタンダード曲ばかりをやらせた盤がこの『Love Walked In』である。キューンは人の言われるままにピアノを弾くタイプでは無い。好まないピアノは弾かない。ということは、この「どスタンダード曲」で固められた企画盤をやる、というのは、キューンの意志と考えるのが妥当だろう。

しかし、あの「難解な」ピアニストだったキューンに「どスタンダード曲」をやらせるとは。ヴィーナス・レコードも思い切ったオファーをしたもんだ。リリース当時は、ヴィーナス・レコードは、ジャズマンに対するリスペクトの念は無いのか、と思ったなあ。但し、キューンは「プロ」のピアニストである。請け負ったからには最高のパフォーマンスを聴かせてくれる。

どの「どスタンダード曲」の演奏も、キューン独特のアレンジに乗って、新しい雰囲気の解釈を聴かせてくれる。キューンならではの「スタンダード曲の解釈とアレンジ」が、この盤を通して良く理解出来る。オリジナル曲で固めた『Remembering Tomorrow』、そして、どスタンダード曲で固めた『Love Walked In』で、キューンのキャリア後半のピアノの個性のベースが確実に確認出来る。

しかし、あの「難解な」ピアニストだったキューンが、Bobby Hebb作曲、1966年、ボニーMがヒットさせたソウル曲「Sunny」のカヴァーをやるとはなあ。出来は良いのですが、キューンのそれまでのキャラクターがあったんで、初めて聴いた時はかなり戸惑った(笑)。
 
 
 
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