2021年1月12日 (火曜日)

ブルーノートのバド・パウエル

バド・パウエルは「ピアノ・トリオ」の祖である。しかし、重度のジャンキーで様々な問題があった。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは大の「ジャンキー嫌い」。確かに、ジャンキーなジャズマンの演奏には、その良し悪しについてかなりの「バラツキ」があって、安定した状態での、そのジャズマンの真の実力と個性を記録するのが難しい。そこがライオンがジャンキーを嫌うところなんだろう。

通常ならばライオンは、絶対に、重度のジャンキーだったバド・パウエルのピアノを録音しようとは思わなかったと思う。しかし、バド・パウエルのピアノは「天才」のピアノ。その演奏スタイルは「ピアノ・トリオ」の祖と形容されるもの。重度のジャンキーながら、パウエルについては何とか記録しておきたい、とライオンは考え直したのだろうと推察している。

『The Amazing Bud Powell Volume Three - Bud! 』(写真左)。BNの1571番。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Curtis Fuller (tb), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。基本はパウエルメインのトリオ編成。6〜8曲目に、カーティス・フラーのトロンボーンが入ったカルテット編成。トロンボーン1管のワンホーン・カルテットって珍しい。
 
 
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ライオンは、重度のジャンキーであったパウエルが、比較的まともな状態なのを見計らって録音したフシがある。ブルーノートの残したパウエルのパフォーマンスは、どれもがかなり整っている。多少のミスタッチはあれど、良い時のパウエルが紡ぎ出す独特のフレーズや高速な弾き回しを、ブルーノートはシッカリと捉えている。

この盤も例外では無い。比較的良い状態のパウエルが端正な音で記録されている。玄人好みの職人芸的リズム隊、ベースがポルチェン、ドラムがテイラーというのも、パウエルのパフォーマンスが良い状態になるよう配慮している。パウエルが苛つく事無く、自らのプレイに集中している感じが伝わってくる。

この盤は、比較的良い状態のパウエルのパフォーマンスを聴くことが出来る。グループサウンズとしての出来も良く、パウエルのソロ・パフォーマンスも申し分無い。破綻すれすれのスリリングなパウエルを求める向きには、この整って流麗なパウエルは物足りないかも知れない。しかし、我々、ジャズ・ピアノ者には、この盤でのパウエルは聴き易くて良い感じなのだ。僕はこの盤でのパウエル、かなりお気に入りです。
 
 
 

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2010年4月26日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・11

バド・パウエル。現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。現代では名前だけが先行して、その本質を把握する手立てが曖昧になっているような雰囲気である。

さて、ピアノとは変な楽器で、打楽器と旋律楽器の二つを兼ね備える。厄介なのは、左手のベースラインとビートの供給が他の楽器と重なって、グループサウンズとして邪魔と言えば邪魔である。バド・パウエルが出現するまでは、ピアノ・トリオと言えば、ピアノ+ベース+ギターだった。つまりは、ピアノの右手左手にあわせて、ユニゾン+ハーモニーの妙、アンサンブルで聴かせる、つまり、ベースとドラムはピアノの惹き立て役、独立した役割は与えられてはいなかった。

で、バド・パウエルの登場である。バド・パウエルは、ピアノ+ベース+ドラムの構成で、ピアノ・トリオを構成した。ピアノの厄介な左手の役割を解放し、ベースとドラムにその役割を代わりに担わせた。左手のベースラインはベースに、ビートの供給はドラムに任せた。ピアノの左手は、ビートとベースラインのコントロールに使うのみ。バド・パウエルのピアノは右手一本で、旋律楽器としての役を担った。つまり、ピアノ、ベース、ドラムがそれぞれの役割を担って、演奏の自由度が飛躍的に向上した、ということ。つまり、トリオ演奏としての表現力が飛躍的に向上したということである。

しかしながら、バド・パウエルの演奏には難点がある。それは「唸り」である。彼はピアノを弾く時、何故か大声で「唸る」。「歌う」のではない、「唸る」のである。これが、結構、気持ち悪く「唸る」。「う〜う〜あ〜あ〜」と大声で唸る。これが、ジャズ者初心者にとって、かなりの障壁となる。iPodなどを使って、ヘッドセットで聴けたものでは無い。スピーカーを通してでも、かなり辛い。この「唸り」が障壁となって、ジャズ者初心者はバド・パウエルの名盤を聴いては、その「唸り声」にやられて、彼から離れていく。

しかし、である。バド・パウエルは、現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。バド・パウエルを体験しないと、ジャズピアノ・トリオの本質は理解出来ない。しかし、ジャズ本で紹介されるバド・パウエルの名盤と言われるアルバムの殆どで、バド・パウエルは、実に気持ち悪く「唸って」いる。それと、古い録音が多いので、その録音の悪さも障壁になる。録音は悪い、変な気持ち悪い唸り声が全編鳴り響く。これでは、ジャズ者初心者は、バド・パウエルを理解しようにも理解出来無い。

ということで、録音がある程度良くて、変な気持ち悪い「唸り声」があまり気にならないアルバムは無いのか、ということになる。そして、バド・パウエルの本質が理解出来るアルバム。そんなアルバム、実はあるんですね。例えば、その一枚が『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』(写真左)。
 
 
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1958年12月29日のNYでの録音。パーソネルは、Bud Powell (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) 。ブルーノートの4009番。バド・パウエルは、ビ・バップの天才であるが、1958年と言えば、ハードバップ時代ど真ん中。バド・パウエルの演奏も、ビ・バップの文法をベースとしながら、しっかりとハードバップとしての語法をマスターしている。

このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を捉えた演奏では無い。ピークを越えて、晩年に差し掛かる下降期のアルバムではあるが、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての、当時として革新的なジャズピアノとしての右手・左手の使い方が実に良く判る演奏になっている。

収録されているどの曲も、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が、実に良く判る。バド・パウエルの難点である「唸り声」も控えめ。唸っていても、このアルバムではキーがあっていてなんとか聴ける。1958年、ブルーノートの録音なので録音状態も良い。「唸り」が控えめで、録音状態も良く、バド・パウエルの演奏もまずます好調。バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が良く判る、奇跡的なバド・パウエルの佳作である。

彼のピアノのテクニックは、ジャズピアノの神様アート・テイタム、アート・テイタムの後継者とされたオスカー・ピーターソンと肩を並べるものである。特に右手の閃きは群を抜く。確かに、このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を過ぎた演奏とは言え、バド・パウエルのジャズピアノの革新性は十分に体験することが出来る。

有名曲は冒頭の「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」であるが、この曲だけが全てでは無い。他の曲も当時のバド・パウエルとしては大健闘。実に良い内容の演奏を繰り広げている。ハードバップ時代のファーストコール・ミュージシャンである、Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) の人選も見事。この二人のお陰で、この二人の演奏に良い刺激を受けて、バド・パウエルは奇跡的にハードバップしている。

「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」だけが全てでは無い。ゴスペルチックな「Borderick」、カリプソチックな「Comin' Up」など、当時のバド・パウエルが「過去の人」になっていないことが良く判る。彼はビ・バップで留まる人では無かった。まだまだ先のある、まだまだ先進的な天才的ミュージシャンであったことが良く判る。このアルバム収録後、程なく、ヨーロッパに渡る。そして、1966 年7月31日逝去。このアルバムを録音して、約7年半後の出来事である。

現代ジャズピアノ・トリオの祖とされるバド・パウエル。バド・パウエルを体験し、バド・パウエルを理解しないと、ジャズピアノ・トリオは体系的に理解出来無い。是非とも、ジャズ者初心者の方々は、この『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』を入り口として、バド・パウエルを体験し、体感して頂きたい。きっと、更にジャズピアノ・トリオを深く立体的に楽しめる様になると思います。
 
 
 
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