2022年2月27日 (日曜日)

後期パウエルの「いいところ」

Twitterの「今日のラスト」で、久々にバド・パウエル(Bud Powell)を聴き直していて、やっぱり、モダンジャズ・ピアノの基本はバドやなあ、と改めて感心した。フロントの旋律楽器としてホーンライクな弾き回し、リズム・セクションに回った時の絶妙なバッキング。どれもが、現代のジャズ・ピアノに繋がる「基本中の基本」のスタイルである。

バリバリ弾きまくるバドも凄く良いが、僕は1953年以降、退院後のパウエルがより好きである。絶望的な健康上の問題はあったが、バドのキャリア後半のピアノは、リラックスして楽しんで弾いていて、どこか優しさとジャズ・ピアニストとしての矜持を感じるのだ。全盛期に比べると指は回らない、でも、イマージネーションはより豊かになっている。

Bud Powell『Inner Fires』(写真左)。1953年4月5日、ワシントンD.C.におけるライヴ音源。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Charlie Mingus (b), Roy Haynes (ds)。1982年に発掘されたプライベート音源で、僕に取って、LP時代、リアルタイムで聴いたバドである。バドお得意のトリオ演奏。
 

Inner-fires_1

 
冒頭の「I Want to Be Happy」は従来のバドを彷彿とさせる。「Salt Peanuts」「Woody n’You」「Little Willie Leaps」などのバップ・チューンはお手のもの、「Somebody Loves Me」「Nice Work If You Can Get It」等の歌ものについても快調に弾き回している。

バドの力強いタッチが良い。時期的に見て、体調が良かったのだろう、全編、快調に飛ばしている。イントロ部分やアドリブの弾き回しなど、イマージネーションは豊か。指が回らないところはあるし、ミスタッチもある。完璧な全盛期からはほど遠い、という辛口の評価もあろうかと思うが、ほど遠いとは言え、それでも、ジャズ・ピアノの水準としてはかなり高い。

音質がイマイチだが、1953年以降の後期バド・パウエルの「いいところ」を聴き取れる優秀盤だと思う。ジャケがジャズ盤にしてはとびきり前衛的で、かなり「引く」が、意外と違和感が無い。意外と当時のパウエルのイメージを上手く表しているのかもしれない。ちなみに、ラストに入っているインタヴューは、パド・パウエルの貴重な生の声です。
 
 
 
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2021年12月 2日 (木曜日)

久し振りの「パウエル節」である

昔に活躍したジャズマンを起用してスタンダード曲を演奏させる、そんな「昔の名前で出ています」的なアルバムを制作してリリースする。ヴィーナス・レコードの十八番であるが、そう言えば、欧州の老舗ジャズレーベル、スティープルチェイス・レーベルも同じ様なアルバム作りをしていたような気がしてきた。

米国のジャズ・シーンの居心地が悪くなり、欧州へ移住した一流ジャズマンにリーダー作制作の機会を与え、数々の優秀盤を世に送り出したのが、スティープルチェイス・レーベル。まあ、こちらの場合、日本人好みのスタンダード曲やバラード曲などは演奏させなかったが。ただ、アプローチは似たようなところがあって、僕はこのスティープルチェイスの「昔の名前で出ています」的なアルバムが好きだ。

Bud Powell Trio『1962 Stockholm Oslo』(写真左)。1〜5曲目が、1962年3月、ストックホルムでの録音。6曲目から9曲目までが、1962年11月、オスロでの録音。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Erik Amundsen (b), Ole Jacob Hansen (ds)。ベースのエリック・アムンゼン、ドラムのオレ・ヤコブ・ハンセンは、共にノルウェー出身。
 

1962-stockholm-oslo_20211202220501 

 
リーダーでピアノ担当のバド・パウエルは、お馴染み「モダン・ジャズ・ピアノの祖」と呼ばれる早逝の天才ピアニスト。パウエル派1959年、パリに移住している。その欧州滞在の機会を捉えて、スティープルチェイスは、パウエルのリーダー作を録音している。「at the Golden Circle」シリーズがつとに有名。今回の『1962 Stockholm Oslo』の前半5曲は、その「at the Golden Circle」シリーズの録音の2日前、同じく「Golden Circle」での録音とのこと。

このアルバムでのパウエルは体調はまずまずだったのでは無いか。寛いだ雰囲気で、お馴染みの癖のあるタッチとノリで、パウエルは鼻歌を唄うかの様にピアノを弾き進めている。全盛期の切れ味抜群、何かが取り憑いたようなイマージネーション溢れるアドリブは望むべくもないが、なかなか聴き心地の良い「パウエル節」を堪能させてくれる。難しいこと言いっこ無しで、パウエルらしい弾きっぷりを楽しませてくれる。

全盛期を過ぎたとは言え、パウエルの個性はまだまだ尖っていて、唯一無二のバップ・ピアニストという点で人後に落ちない。今回のアルバムや「at the Golden Circle」シリーズの様に、普段着の寛いだパウエルが、気持ちの赴くままに、バップなピアノを気持ちよさそうに弾く。それで良いではないか。歴史を変えるような名盤な内容では無いが、久し振りに「パウエル節」を楽しませてくれる好盤だと思う。
 
 
 
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2021年4月27日 (火曜日)

パウエルのプロ魂と優しさと。

バップ・ピアノの祖、バド・パウエル(Bud Powell)。ビ・バップの祖、チャーリー・パーカーについて「1950年代のパーカーは駄目」と評価されていたが、意外とそうではない。パウエルについても、ブルーノート・レーベルに残したリーダー作については「ピークを過ぎた演奏故、内容はイマイチ」とされている。が、どうして、今の耳で聴くと、なかなか味のあるリーダー作を残してくれている。

『The Scene Changes: The Amazing Bud Powell, Vol.5』(写真左)。ブルーノートの4009番。1958年12月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。パウエルお得意のピアノ・トリオ編成。ビ・バップでならした、パウエル馴染みのリズム隊を採用していない。

ハードバップ畑のファースト・コール・ベーシスト、ポール・チェンバースと、職人技ドラマーのアート・テイラーを当てているところが注目ポイント。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの深慮遠謀が見え隠れする。通常は、馴染みのリズム隊では無いので、へそを曲げて、やりにくそうにピアノを弾きそうなもんだが、パウエルは違った。

明らかに、ポール・チェンバースの先進的なウォーキング・ベースと、アート・テイラーの硬軟自在かつ変幻自在なドラミングに刺激を受けて、気合いを入れてピアノを弾いている様がアルバムから聴こえてくる。バックのリズム隊の供給するリズム&ビートにしっかりと乗って、ドライブ感溢れる、誠実なバップ・ピアノを聴かせてくれる。パウエルの「プロ魂」をビンビンに感じる。総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンとしては「してやったり」である。
 

The-scene-changes-the-amazing-bud-powell

 
冒頭の超有名な「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」は、いきなり前奏無しに、印象的でキャッチャーなテーマが入ってくる仕掛けと全編マイナー調で貫く潔さで「日本人受け」がとても良い。が、演奏の展開はシンプルで捻りは無い。人気の秘密は「曲の持つ旋律の良さ」だと思っている。パウエルはサラッと弾き倒して、シンプルに演奏を終える。

僕はそれより、2曲目以降のパウエルのパフォーマンスの方が聴き応えがあると思っている。2曲目の「Duid Deed」から、マイナー調のブルージーな曲が続くが、内容的にはストイックでアーティステックなフレーズと弾き回しが魅力。バリバリ弾き倒すパウエルはここにはいない。バップに流麗にダンディズム溢れるタッチで弾き込む。こんなパウエル、むっちゃ格好良いではないですか。

5曲目の「Borderick」などは、明るいゴスペルチックな旋律を持つ佳曲。冒頭の「Cleopatra's Dream」から、ずっとマイナー調の曲が続いてきたので、出だしの明るい音調のテーマを聴くだけで「おお〜っ」と思ってしまう。ゆったりとしたテンポで明るくハッピーに旋律を紡ぎ上げていくパウエルのピアノはとても優しい。7曲目のカリプソ調の「Comin' Up」のなかなか見事な出来で、思わずノリノリである。

この盤の収録曲は全てパウエルの作曲。コンポーザーとしての才にも長けていたパウエルの片鱗を感じることが出来る。ちなみにジャケットのパウエルの向かって右の子供はパウエルの実子である。優しいお父さんよろしく、レコーディングに連れてきたのだろうか。そう、この盤にはパウエルのプロ魂と優しさが溢れている。
 
 
 

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2021年3月19日 (金曜日)

静的な天才パウエルを押さえる

ブルーノート・レーベルの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは大のジャンキー嫌い。ジャズマンには「ジャンキー」が多い。クラブとかアルバムのレコーディングのギャラを麻薬に注ぎ込むジャズマンは数知れず。それでも、ライオンはどれだけ優れたジャズマンでも、ジャンキー、いわゆる麻薬常習者にはレコーディングの声をかけなかった。

ブルーノートはビ・バップからハードバップ時代の一流のジャズマンについては、ほとんど押さえているところが凄いんだが、チャーリー・パーカーの音源は無い。アート・ペッパーも無い。基本的に麻薬常習者はどれだけ優れたジャズマンでも御法度なのだ。健全な体と精神にこそ良い音が宿る。それを身上としていたのがアルフレッド・ライオンである。

『Time Waits: The Amazing Bud Powell Vol.4』。(写真左)。1958年5月の録音。ブルーノートの1598番。ちなみに、Bud Powell (p), Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)。バド・パウエルお得意のトリオ編成。ブルーノートでのレコーディングらしく、ベースにサム・ジョーンズ、ドラムにフィリージョー。

 
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麻薬中毒やアルコール中毒に陥り、精神病院にも収監されていた時期を経て、健康状態が改善された時期の録音である。バド・パウエルについては、ブルーノートは、彼の健康状態が改善されたタイミングで、5枚のリーダー作を録音している。他のレーベルの録音と比較して、確かに全盛期に比べて天才的な弾き回しは無い。でも、個性と味のあるピアノはさすが。

派手な弾き回しや天才的な閃きアドリブなどを聴くことは皆無、どちらかと言えば、パウエルにしては「優しい」弾き回しが、破滅派天才ピアニスト、バド・パウエルのイメージと合わないのか、この「Vol.4」は、ブルーノートのパウエル盤で一番人気が無い盤。でも、この盤、精神状態の穏やかなパウエルの弾き回しを聴いている感じがする。とても優しく、とても誠実な弾き回しなのだ。

端正でジェントルで真摯なパウエルのピアノ。これってブルーノートでないと聴けない代物。このピアノが意外とパウエルの本質だったりして、と思って聴くと、本当にしみじみとしてしまう。動的な表現力も凄いが、静的な表現力も凄い。やはりパウエルは天才だった。そんな静的なパウエルを押さえたブルーノート。凄いなあ、と思う。
 
 
 
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2021年1月12日 (火曜日)

ブルーノートのバド・パウエル

バド・パウエルは「ピアノ・トリオ」の祖である。しかし、重度のジャンキーで様々な問題があった。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは大の「ジャンキー嫌い」。確かに、ジャンキーなジャズマンの演奏には、その良し悪しについてかなりの「バラツキ」があって、安定した状態での、そのジャズマンの真の実力と個性を記録するのが難しい。そこがライオンがジャンキーを嫌うところなんだろう。

通常ならばライオンは、絶対に、重度のジャンキーだったバド・パウエルのピアノを録音しようとは思わなかったと思う。しかし、バド・パウエルのピアノは「天才」のピアノ。その演奏スタイルは「ピアノ・トリオ」の祖と形容されるもの。重度のジャンキーながら、パウエルについては何とか記録しておきたい、とライオンは考え直したのだろうと推察している。

『The Amazing Bud Powell Volume Three - Bud! 』(写真左)。BNの1571番。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Curtis Fuller (tb), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。基本はパウエルメインのトリオ編成。6〜8曲目に、カーティス・フラーのトロンボーンが入ったカルテット編成。トロンボーン1管のワンホーン・カルテットって珍しい。
 
 
The-amazing-bud-powell-volume-three-bud  
 
 
ライオンは、重度のジャンキーであったパウエルが、比較的まともな状態なのを見計らって録音したフシがある。ブルーノートの残したパウエルのパフォーマンスは、どれもがかなり整っている。多少のミスタッチはあれど、良い時のパウエルが紡ぎ出す独特のフレーズや高速な弾き回しを、ブルーノートはシッカリと捉えている。

この盤も例外では無い。比較的良い状態のパウエルが端正な音で記録されている。玄人好みの職人芸的リズム隊、ベースがポルチェン、ドラムがテイラーというのも、パウエルのパフォーマンスが良い状態になるよう配慮している。パウエルが苛つく事無く、自らのプレイに集中している感じが伝わってくる。

この盤は、比較的良い状態のパウエルのパフォーマンスを聴くことが出来る。グループサウンズとしての出来も良く、パウエルのソロ・パフォーマンスも申し分無い。破綻すれすれのスリリングなパウエルを求める向きには、この整って流麗なパウエルは物足りないかも知れない。しかし、我々、ジャズ・ピアノ者には、この盤でのパウエルは聴き易くて良い感じなのだ。僕はこの盤でのパウエル、かなりお気に入りです。
 
 
 

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2015年5月10日 (日曜日)

ジャズ・ピアノのスタイルの基本

昔、クラシック・ピアノを8年間習っていたこともあって、ジャズにおいても一番好きな楽器はピアノである。自分でもある程度のレベルまで弾き込んでいたのと、最後の1年間、ジャズ・ピアノの基礎を教えて貰っていたことがベースになって、ピアノのプレイの良し悪しや難易度などは、他の楽器よりは体感できる。

ジャズ・ピアノにも、様々なスタイルがあるのだが、「これが決定打」というスタイルは無い。モダン・ジャズ・ピアノの基本は、やはりバド・パウエルのスタイルだろう。ジャズ・ピアノのスタイルに限定すれば、パウエルのスタイルが基本にあって、その対極として、ビル・エバンスのスタイルがあると感じている。そして、そのどちらのスタイルも甲乙付けがたい。様々なジャズ・ピアノを聴き進めていくと、必ず、基本に戻りたくなる時がある。そんな時はやはり、バド・パウエルだ。

バド・パウエルに戻る時に聴くアルバムは、Bud Powell『Jazz Giant』(写真左)。1949年2月の録音と1950年2月の録音の2セッションを併せたアルバム。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p) をリーダーとして、1949年2月の録音は、Ray Brown (b), Max Roach (ds)、1950年2月の録音では、Curley Russell (b), Max Roach (ds) が参加している。
 

Jazz_giant3

 
冒頭の「Tempus Fugue-it」を聴けば、このバド・パウエルのピアノのスタイルが良く判る。余計な装飾が全く無い、スピード感溢れるストレートなアドリブ・フレーズ。どうやって弾いているんや、と思わず唸りたくなる、聴くだけでは判らない高度なテクニック。甘さを排除したストイックなアレンジ。ジャズ・ピアノがアーティステックなレベルまでに昇華された素晴らしい演奏である。

この「Tempus Fugue-it」で提示されるバド・パウエルのピアノ・スタイルは、2曲目の「Celia」以降もしっかりと踏襲される。3曲目の「Cherokee」の弾き回しは、ジャズ・ピアノとしての一つの指針となるものだろう。4曲目の「I'll keep Loving You」については、ジャズ・ピアノとしてのバラード演奏としてのひとつの好例として聴かれるべきもの。

こうやって、この『Jazz Giant』を聴き直して見ると、やはり、ジャズ・ピアノとしての基本がギッシリ詰まった好盤ということが言える。つまりは、何時になっても、21世紀の今になっても、この『Jazz Giant』は、ジャズ・ピアノのスタイルの基本として、避けては通れない、必ず定期的に再確認されるべきアルバムである。

今回もまたまたバド・パウエルに戻っている。『Jazz Giant』を聴きながら、ジャズ・ピアノのスタイルの基本を確認している。この基本を確認することによって、最近の新しいジャズ・ピアニストのスタイルも十分に理解することができるのだ。

 
 

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2010年10月 4日 (月曜日)

改めてバド・パウエルを想う

ビル・エバンスのリーダー作の聴き返しをしていると、時々、バド・パウエルが聴きたくなる。ビル・エバンスのジャズ・ピアノを理解するには、バド・パウエルのビ・バップ・ピアノは避けて通れない。

バド・パウエル、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーらによって確立された「ビ・バップ」スタイルのジャズを、ジャズ・ピアノの分野に定着させ、「モダン・ジャズピアノの祖」と呼ばれる(Wikipediaより)。

ビ・バップは「テクニックとインプロビゼーションの閃き」を競う、演奏する側からのアプローチ。特に、フロント楽器、サックス、トランペットが中心で、旋律を奏でることが出来るピアノもフロント楽器としては、ビ・バップの中で花形楽器の一つであった。そのビ・バップのピアノの最高峰が「バド・パウエル」。

クラシック・ピアノの対極にある、譜面の無い、再現性の無い、意図的なフレーズの起伏、意図な抑揚の無い世界。感性と直感の世界。しかも、もともとジャズの大事な要素であった「楽しむための音楽、ダンスのための音楽」を全く排除した、演奏テクニックとインプロビゼーションの閃きだけを全面に押し出した「ストイックな音世界」。

バド・パウエルの『Jazz Giant』(写真左)を聴いて欲しい。アルバムの内容については、2009年5月2日のブログ(左をクリック)を参照されたい。このアルバムはバド・パウエルの、否、ビ・バップの「ピアノ・トリオ」の最高峰の演奏を聴くことが出来る。

頭の「Tempus Fugue-It」を聴けば判る。叙情性、ロマンティシズムを全く排除した、ただただ、演奏テクニックとインプロビゼーションの閃きだけを全面に押し出した、ストイックな、高テンションな演奏のみを追求する世界。そのストイックで硬質な叩き付けるようなタッチは「暴力的」ですらある。とにかく、テクニック至上主義、ビ・バップの世界がここにある。
 

Bud_jazzgiant

 
ドラムは正確なリズムで、バドの右手のハイテクニックな世界を支え、ベースは、バドが右手のハイテクニックに集中する為に、左手のベースラインを的確にサポートする。つまり、ドラムとベースは、ビ・バップ・ピアノの最高峰、バド・パウエルの演奏を惹き立たせる為だけにのみ存在する。

硬質なフレーズ、叩き付けるような「暴力的な」タッチ。ロマンティシズムを排除した、テクニックのみを追求した、あくまでも、どこまでも「ストイックな世界」。

そんな世界の中で、ふと「ロマンティシズムな香り」がそこはかと漂う、バドのピアノソロをフューチャーした、4曲目の「I'll Keep Lvoing You」。ここでのバドは「浪漫の塊」。バラードをソロで弾かせた時のバドは、時折「浪漫」な雰囲気を蔓延させる。ストイックな世界の中で、ポッカリと和やかな日だまりの様な「浪漫」な世界。これが、バドの「狡いところ」(笑)。この「浪漫」な雰囲気が不意にやって来て、バドに「やられる」。

バドの世界、ビ・バップ・ピアノの世界は、クラシック・ピアノと完全に対極にある世界。また、ビル・エバンスの様に、聴かせるジャズ・ピアノとは全く対極にある、インタープレイをベースに演奏テクニックを展開するピアノとは全く対極にあるジャズ・ピアノ。ピアノの和音の響きとベースのラインとの「バランスで展開するピアノ」とは全く対極にあるジャズ・ピアノ。

ビル・エバンスを、ジャズの歴史と共に、ジャズの演奏スタイルと共に理解するには、バド・パウエルの「ビ・バップ・ピアノ」は避けて通れない。ビル・エバンスのスタイルとは、全くの対極にあるバド・パウエルの演奏スタイル。ビル・エバンスを理解するには、バド・パウエルは避けて通れない。

そんなバド・パウエルのビ・バップ・ピアノ。手っ取り早く体験するには『Jazz Giant』が一番のお勧め。ちょっと音は悪いけど気にしない。なんとなくレトロではあるが、なかなかシンプルで小粋なジャケットデザインと共に、ジャズ者の皆さん全員に一度は手にして頂きたい、というか避けて通ってはいけない、ジャズ・ピアノの名盤中の名盤です。 
 
 
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2010年4月26日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・11

バド・パウエル。現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。現代では名前だけが先行して、その本質を把握する手立てが曖昧になっているような雰囲気である。

さて、ピアノとは変な楽器で、打楽器と旋律楽器の二つを兼ね備える。厄介なのは、左手のベースラインとビートの供給が他の楽器と重なって、グループサウンズとして邪魔と言えば邪魔である。バド・パウエルが出現するまでは、ピアノ・トリオと言えば、ピアノ+ベース+ギターだった。つまりは、ピアノの右手左手にあわせて、ユニゾン+ハーモニーの妙、アンサンブルで聴かせる、つまり、ベースとドラムはピアノの惹き立て役、独立した役割は与えられてはいなかった。

で、バド・パウエルの登場である。バド・パウエルは、ピアノ+ベース+ドラムの構成で、ピアノ・トリオを構成した。ピアノの厄介な左手の役割を解放し、ベースとドラムにその役割を代わりに担わせた。左手のベースラインはベースに、ビートの供給はドラムに任せた。ピアノの左手は、ビートとベースラインのコントロールに使うのみ。バド・パウエルのピアノは右手一本で、旋律楽器としての役を担った。つまり、ピアノ、ベース、ドラムがそれぞれの役割を担って、演奏の自由度が飛躍的に向上した、ということ。つまり、トリオ演奏としての表現力が飛躍的に向上したということである。

しかしながら、バド・パウエルの演奏には難点がある。それは「唸り」である。彼はピアノを弾く時、何故か大声で「唸る」。「歌う」のではない、「唸る」のである。これが、結構、気持ち悪く「唸る」。「う〜う〜あ〜あ〜」と大声で唸る。これが、ジャズ者初心者にとって、かなりの障壁となる。iPodなどを使って、ヘッドセットで聴けたものでは無い。スピーカーを通してでも、かなり辛い。この「唸り」が障壁となって、ジャズ者初心者はバド・パウエルの名盤を聴いては、その「唸り声」にやられて、彼から離れていく。

しかし、である。バド・パウエルは、現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。バド・パウエルを体験しないと、ジャズピアノ・トリオの本質は理解出来ない。しかし、ジャズ本で紹介されるバド・パウエルの名盤と言われるアルバムの殆どで、バド・パウエルは、実に気持ち悪く「唸って」いる。それと、古い録音が多いので、その録音の悪さも障壁になる。録音は悪い、変な気持ち悪い唸り声が全編鳴り響く。これでは、ジャズ者初心者は、バド・パウエルを理解しようにも理解出来無い。

ということで、録音がある程度良くて、変な気持ち悪い「唸り声」があまり気にならないアルバムは無いのか、ということになる。そして、バド・パウエルの本質が理解出来るアルバム。そんなアルバム、実はあるんですね。例えば、その一枚が『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』(写真左)。
 
 
Bud_the_scene_changes
 
 
1958年12月29日のNYでの録音。パーソネルは、Bud Powell (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) 。ブルーノートの4009番。バド・パウエルは、ビ・バップの天才であるが、1958年と言えば、ハードバップ時代ど真ん中。バド・パウエルの演奏も、ビ・バップの文法をベースとしながら、しっかりとハードバップとしての語法をマスターしている。

このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を捉えた演奏では無い。ピークを越えて、晩年に差し掛かる下降期のアルバムではあるが、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての、当時として革新的なジャズピアノとしての右手・左手の使い方が実に良く判る演奏になっている。

収録されているどの曲も、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が、実に良く判る。バド・パウエルの難点である「唸り声」も控えめ。唸っていても、このアルバムではキーがあっていてなんとか聴ける。1958年、ブルーノートの録音なので録音状態も良い。「唸り」が控えめで、録音状態も良く、バド・パウエルの演奏もまずます好調。バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が良く判る、奇跡的なバド・パウエルの佳作である。

彼のピアノのテクニックは、ジャズピアノの神様アート・テイタム、アート・テイタムの後継者とされたオスカー・ピーターソンと肩を並べるものである。特に右手の閃きは群を抜く。確かに、このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を過ぎた演奏とは言え、バド・パウエルのジャズピアノの革新性は十分に体験することが出来る。

有名曲は冒頭の「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」であるが、この曲だけが全てでは無い。他の曲も当時のバド・パウエルとしては大健闘。実に良い内容の演奏を繰り広げている。ハードバップ時代のファーストコール・ミュージシャンである、Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) の人選も見事。この二人のお陰で、この二人の演奏に良い刺激を受けて、バド・パウエルは奇跡的にハードバップしている。

「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」だけが全てでは無い。ゴスペルチックな「Borderick」、カリプソチックな「Comin' Up」など、当時のバド・パウエルが「過去の人」になっていないことが良く判る。彼はビ・バップで留まる人では無かった。まだまだ先のある、まだまだ先進的な天才的ミュージシャンであったことが良く判る。このアルバム収録後、程なく、ヨーロッパに渡る。そして、1966 年7月31日逝去。このアルバムを録音して、約7年半後の出来事である。

現代ジャズピアノ・トリオの祖とされるバド・パウエル。バド・パウエルを体験し、バド・パウエルを理解しないと、ジャズピアノ・トリオは体系的に理解出来無い。是非とも、ジャズ者初心者の方々は、この『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』を入り口として、バド・パウエルを体験し、体感して頂きたい。きっと、更にジャズピアノ・トリオを深く立体的に楽しめる様になると思います。
 
 
 
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2009年5月 2日 (土曜日)

ピアノ・トリオの基本形

さあ、今日から5連休。でも、昔から「GWは遠出はしない」という了解が家にはあるので、今年もノンビリ過ごそうか、って感じです。近場で日帰りのウォーキングはあるかな、と思いますが、やっぱり、今年もノンビリです〜。

今日も朝からノンビリ。昼ご飯ネタを買いに、嫁はんと散歩がてら買い物に出たんですが、いや〜良い季節ですね。風も適度にあって、日差しは少しきつい位なんですが、暑くもなく寒くもなく、このGW辺りが一番季節の良い時。やっぱり、人混み、渋滞を経験しに遠出するよりは、ノンビリ。近場を散歩したほうが、ストレス解消になる。

さて、午後からは、うつらうつらしながら(笑)、ジャズを聴く。この連休はまとまった時間がとれるので、日頃、なかなか聴かないアルバムを引きずり出してきて聴く。今日は、Bud Powellの『Jazz Giant』(写真左)。前半6曲目までは、Bud Powell(p)、Max Roach(ds)、Ray Brown(b) による、1949年の録音。 7曲目以降はベースが Curly Russell に替わっての1950年録音。

バドのピアノは、実にストイックである。ビ・バップは、そのコード・チェンジの複雑さの上に、超絶技巧なテクニックが特徴。それを瞬間芸の様に、約3〜4分間の演奏に凝縮する。ミュージシャンの芸術的な技巧を愛でるのが、ビ・バップの流儀。
 

Bud_powell_jazzgiant

 
このアルバムでも、バドのテクニックは素晴らしい。とにかく手が回っている。そして、ずっと聴き進めていると、後のジャズ・ピアノに良くある「耽美的」「リリカル」「叙情的」「チェンジ・アンド・ペース」「アレンジの妙」等については全く無縁であることに気が付く。

この『Jazz Giant』では、ジャズ演奏の基本である「コード進行・コードチェンジに則って演奏する」こと、ジャズ演奏の大前提である「優れた演奏テクニック」を基にインプロビゼーションを披露すること、そして、ピアノのバックで、リズムセクションが効果的なバッキングの妙を聴かせること。いわゆる、ピアノ・トリオの基本形をふんだんに聴くことができる。

このアルバムには、「耽美的」「リリカル」「叙情的」「チェンジ・アンド・ペース」「アレンジの妙」等の「贅」の部分は全く無い。贅肉をそぎ落とした、ピアノ・トリオの根幹的な演奏だけがそこにある。しかも、瞬間芸的な、短時間での演奏の凝縮による「テンションの高さ」にも、ジャズの基本を感じる。

ジャズ初心者の方には、その「贅」の部分が全くそぎ落とされた、実にテンションの高い、実にトンガッたトリオ演奏なので、かなり取っつきにくいかと思います。が、このバド・パウエルのピアノ・トリオが、現代のジャズ・ピアノ・トリオの根幹をなすものですので、「何が基本か」ということを理解する上でも、この『Jazz Giant』などは、ジャズ者として、ジャズを本格的な趣味として、聴き進めていく上では、避けて通れない、教科書のようなアルバムです。

そんなこと考えながら聴いていたら、気が付かない間に3回も繰り返して聴いてしまった(笑)。これも、5連休の時間の余裕のなせる技ですね。
 
 
  
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