2021年12月 2日 (木曜日)

久し振りの「パウエル節」である

昔に活躍したジャズマンを起用してスタンダード曲を演奏させる、そんな「昔の名前で出ています」的なアルバムを制作してリリースする。ヴィーナス・レコードの十八番であるが、そう言えば、欧州の老舗ジャズレーベル、スティープルチェイス・レーベルも同じ様なアルバム作りをしていたような気がしてきた。

米国のジャズ・シーンの居心地が悪くなり、欧州へ移住した一流ジャズマンにリーダー作制作の機会を与え、数々の優秀盤を世に送り出したのが、スティープルチェイス・レーベル。まあ、こちらの場合、日本人好みのスタンダード曲やバラード曲などは演奏させなかったが。ただ、アプローチは似たようなところがあって、僕はこのスティープルチェイスの「昔の名前で出ています」的なアルバムが好きだ。

Bud Powell Trio『1962 Stockholm Oslo』(写真左)。1〜5曲目が、1962年3月、ストックホルムでの録音。6曲目から9曲目までが、1962年11月、オスロでの録音。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Erik Amundsen (b), Ole Jacob Hansen (ds)。ベースのエリック・アムンゼン、ドラムのオレ・ヤコブ・ハンセンは、共にノルウェー出身。
 

1962-stockholm-oslo_20211202220501 

 
リーダーでピアノ担当のバド・パウエルは、お馴染み「モダン・ジャズ・ピアノの祖」と呼ばれる早逝の天才ピアニスト。パウエル派1959年、パリに移住している。その欧州滞在の機会を捉えて、スティープルチェイスは、パウエルのリーダー作を録音している。「at the Golden Circle」シリーズがつとに有名。今回の『1962 Stockholm Oslo』の前半5曲は、その「at the Golden Circle」シリーズの録音の2日前、同じく「Golden Circle」での録音とのこと。

このアルバムでのパウエルは体調はまずまずだったのでは無いか。寛いだ雰囲気で、お馴染みの癖のあるタッチとノリで、パウエルは鼻歌を唄うかの様にピアノを弾き進めている。全盛期の切れ味抜群、何かが取り憑いたようなイマージネーション溢れるアドリブは望むべくもないが、なかなか聴き心地の良い「パウエル節」を堪能させてくれる。難しいこと言いっこ無しで、パウエルらしい弾きっぷりを楽しませてくれる。

全盛期を過ぎたとは言え、パウエルの個性はまだまだ尖っていて、唯一無二のバップ・ピアニストという点で人後に落ちない。今回のアルバムや「at the Golden Circle」シリーズの様に、普段着の寛いだパウエルが、気持ちの赴くままに、バップなピアノを気持ちよさそうに弾く。それで良いではないか。歴史を変えるような名盤な内容では無いが、久し振りに「パウエル節」を楽しませてくれる好盤だと思う。
 
 
 
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2021年4月27日 (火曜日)

パウエルのプロ魂と優しさと。

バップ・ピアノの祖、バド・パウエル(Bud Powell)。ビ・バップの祖、チャーリー・パーカーについて「1950年代のパーカーは駄目」と評価されていたが、意外とそうではない。パウエルについても、ブルーノート・レーベルに残したリーダー作については「ピークを過ぎた演奏故、内容はイマイチ」とされている。が、どうして、今の耳で聴くと、なかなか味のあるリーダー作を残してくれている。

『The Scene Changes: The Amazing Bud Powell, Vol.5』(写真左)。ブルーノートの4009番。1958年12月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。パウエルお得意のピアノ・トリオ編成。ビ・バップでならした、パウエル馴染みのリズム隊を採用していない。

ハードバップ畑のファースト・コール・ベーシスト、ポール・チェンバースと、職人技ドラマーのアート・テイラーを当てているところが注目ポイント。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの深慮遠謀が見え隠れする。通常は、馴染みのリズム隊では無いので、へそを曲げて、やりにくそうにピアノを弾きそうなもんだが、パウエルは違った。

明らかに、ポール・チェンバースの先進的なウォーキング・ベースと、アート・テイラーの硬軟自在かつ変幻自在なドラミングに刺激を受けて、気合いを入れてピアノを弾いている様がアルバムから聴こえてくる。バックのリズム隊の供給するリズム&ビートにしっかりと乗って、ドライブ感溢れる、誠実なバップ・ピアノを聴かせてくれる。パウエルの「プロ魂」をビンビンに感じる。総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンとしては「してやったり」である。
 

The-scene-changes-the-amazing-bud-powell

 
冒頭の超有名な「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」は、いきなり前奏無しに、印象的でキャッチャーなテーマが入ってくる仕掛けと全編マイナー調で貫く潔さで「日本人受け」がとても良い。が、演奏の展開はシンプルで捻りは無い。人気の秘密は「曲の持つ旋律の良さ」だと思っている。パウエルはサラッと弾き倒して、シンプルに演奏を終える。

僕はそれより、2曲目以降のパウエルのパフォーマンスの方が聴き応えがあると思っている。2曲目の「Duid Deed」から、マイナー調のブルージーな曲が続くが、内容的にはストイックでアーティステックなフレーズと弾き回しが魅力。バリバリ弾き倒すパウエルはここにはいない。バップに流麗にダンディズム溢れるタッチで弾き込む。こんなパウエル、むっちゃ格好良いではないですか。

5曲目の「Borderick」などは、明るいゴスペルチックな旋律を持つ佳曲。冒頭の「Cleopatra's Dream」から、ずっとマイナー調の曲が続いてきたので、出だしの明るい音調のテーマを聴くだけで「おお〜っ」と思ってしまう。ゆったりとしたテンポで明るくハッピーに旋律を紡ぎ上げていくパウエルのピアノはとても優しい。7曲目のカリプソ調の「Comin' Up」のなかなか見事な出来で、思わずノリノリである。

この盤の収録曲は全てパウエルの作曲。コンポーザーとしての才にも長けていたパウエルの片鱗を感じることが出来る。ちなみにジャケットのパウエルの向かって右の子供はパウエルの実子である。優しいお父さんよろしく、レコーディングに連れてきたのだろうか。そう、この盤にはパウエルのプロ魂と優しさが溢れている。
 
 
 

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2021年3月19日 (金曜日)

静的な天才パウエルを押さえる

ブルーノート・レーベルの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは大のジャンキー嫌い。ジャズマンには「ジャンキー」が多い。クラブとかアルバムのレコーディングのギャラを麻薬に注ぎ込むジャズマンは数知れず。それでも、ライオンはどれだけ優れたジャズマンでも、ジャンキー、いわゆる麻薬常習者にはレコーディングの声をかけなかった。

ブルーノートはビ・バップからハードバップ時代の一流のジャズマンについては、ほとんど押さえているところが凄いんだが、チャーリー・パーカーの音源は無い。アート・ペッパーも無い。基本的に麻薬常習者はどれだけ優れたジャズマンでも御法度なのだ。健全な体と精神にこそ良い音が宿る。それを身上としていたのがアルフレッド・ライオンである。

『Time Waits: The Amazing Bud Powell Vol.4』。(写真左)。1958年5月の録音。ブルーノートの1598番。ちなみに、Bud Powell (p), Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)。バド・パウエルお得意のトリオ編成。ブルーノートでのレコーディングらしく、ベースにサム・ジョーンズ、ドラムにフィリージョー。

 
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麻薬中毒やアルコール中毒に陥り、精神病院にも収監されていた時期を経て、健康状態が改善された時期の録音である。バド・パウエルについては、ブルーノートは、彼の健康状態が改善されたタイミングで、5枚のリーダー作を録音している。他のレーベルの録音と比較して、確かに全盛期に比べて天才的な弾き回しは無い。でも、個性と味のあるピアノはさすが。

派手な弾き回しや天才的な閃きアドリブなどを聴くことは皆無、どちらかと言えば、パウエルにしては「優しい」弾き回しが、破滅派天才ピアニスト、バド・パウエルのイメージと合わないのか、この「Vol.4」は、ブルーノートのパウエル盤で一番人気が無い盤。でも、この盤、精神状態の穏やかなパウエルの弾き回しを聴いている感じがする。とても優しく、とても誠実な弾き回しなのだ。

端正でジェントルで真摯なパウエルのピアノ。これってブルーノートでないと聴けない代物。このピアノが意外とパウエルの本質だったりして、と思って聴くと、本当にしみじみとしてしまう。動的な表現力も凄いが、静的な表現力も凄い。やはりパウエルは天才だった。そんな静的なパウエルを押さえたブルーノート。凄いなあ、と思う。
 
 
 
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2021年1月12日 (火曜日)

ブルーノートのバド・パウエル

バド・パウエルは「ピアノ・トリオ」の祖である。しかし、重度のジャンキーで様々な問題があった。ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは大の「ジャンキー嫌い」。確かに、ジャンキーなジャズマンの演奏には、その良し悪しについてかなりの「バラツキ」があって、安定した状態での、そのジャズマンの真の実力と個性を記録するのが難しい。そこがライオンがジャンキーを嫌うところなんだろう。

通常ならばライオンは、絶対に、重度のジャンキーだったバド・パウエルのピアノを録音しようとは思わなかったと思う。しかし、バド・パウエルのピアノは「天才」のピアノ。その演奏スタイルは「ピアノ・トリオ」の祖と形容されるもの。重度のジャンキーながら、パウエルについては何とか記録しておきたい、とライオンは考え直したのだろうと推察している。

『The Amazing Bud Powell Volume Three - Bud! 』(写真左)。BNの1571番。ちなみにパーソネルは、Bud Powell (p), Curtis Fuller (tb), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。基本はパウエルメインのトリオ編成。6〜8曲目に、カーティス・フラーのトロンボーンが入ったカルテット編成。トロンボーン1管のワンホーン・カルテットって珍しい。
 
 
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ライオンは、重度のジャンキーであったパウエルが、比較的まともな状態なのを見計らって録音したフシがある。ブルーノートの残したパウエルのパフォーマンスは、どれもがかなり整っている。多少のミスタッチはあれど、良い時のパウエルが紡ぎ出す独特のフレーズや高速な弾き回しを、ブルーノートはシッカリと捉えている。

この盤も例外では無い。比較的良い状態のパウエルが端正な音で記録されている。玄人好みの職人芸的リズム隊、ベースがポルチェン、ドラムがテイラーというのも、パウエルのパフォーマンスが良い状態になるよう配慮している。パウエルが苛つく事無く、自らのプレイに集中している感じが伝わってくる。

この盤は、比較的良い状態のパウエルのパフォーマンスを聴くことが出来る。グループサウンズとしての出来も良く、パウエルのソロ・パフォーマンスも申し分無い。破綻すれすれのスリリングなパウエルを求める向きには、この整って流麗なパウエルは物足りないかも知れない。しかし、我々、ジャズ・ピアノ者には、この盤でのパウエルは聴き易くて良い感じなのだ。僕はこの盤でのパウエル、かなりお気に入りです。
 
 
 

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2010年4月26日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・11

バド・パウエル。現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。現代では名前だけが先行して、その本質を把握する手立てが曖昧になっているような雰囲気である。

さて、ピアノとは変な楽器で、打楽器と旋律楽器の二つを兼ね備える。厄介なのは、左手のベースラインとビートの供給が他の楽器と重なって、グループサウンズとして邪魔と言えば邪魔である。バド・パウエルが出現するまでは、ピアノ・トリオと言えば、ピアノ+ベース+ギターだった。つまりは、ピアノの右手左手にあわせて、ユニゾン+ハーモニーの妙、アンサンブルで聴かせる、つまり、ベースとドラムはピアノの惹き立て役、独立した役割は与えられてはいなかった。

で、バド・パウエルの登場である。バド・パウエルは、ピアノ+ベース+ドラムの構成で、ピアノ・トリオを構成した。ピアノの厄介な左手の役割を解放し、ベースとドラムにその役割を代わりに担わせた。左手のベースラインはベースに、ビートの供給はドラムに任せた。ピアノの左手は、ビートとベースラインのコントロールに使うのみ。バド・パウエルのピアノは右手一本で、旋律楽器としての役を担った。つまり、ピアノ、ベース、ドラムがそれぞれの役割を担って、演奏の自由度が飛躍的に向上した、ということ。つまり、トリオ演奏としての表現力が飛躍的に向上したということである。

しかしながら、バド・パウエルの演奏には難点がある。それは「唸り」である。彼はピアノを弾く時、何故か大声で「唸る」。「歌う」のではない、「唸る」のである。これが、結構、気持ち悪く「唸る」。「う〜う〜あ〜あ〜」と大声で唸る。これが、ジャズ者初心者にとって、かなりの障壁となる。iPodなどを使って、ヘッドセットで聴けたものでは無い。スピーカーを通してでも、かなり辛い。この「唸り」が障壁となって、ジャズ者初心者はバド・パウエルの名盤を聴いては、その「唸り声」にやられて、彼から離れていく。

しかし、である。バド・パウエルは、現代ジャズピアノ・トリオの祖とされる。バド・パウエルを体験しないと、ジャズピアノ・トリオの本質は理解出来ない。しかし、ジャズ本で紹介されるバド・パウエルの名盤と言われるアルバムの殆どで、バド・パウエルは、実に気持ち悪く「唸って」いる。それと、古い録音が多いので、その録音の悪さも障壁になる。録音は悪い、変な気持ち悪い唸り声が全編鳴り響く。これでは、ジャズ者初心者は、バド・パウエルを理解しようにも理解出来無い。

ということで、録音がある程度良くて、変な気持ち悪い「唸り声」があまり気にならないアルバムは無いのか、ということになる。そして、バド・パウエルの本質が理解出来るアルバム。そんなアルバム、実はあるんですね。例えば、その一枚が『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』(写真左)。
 
 
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1958年12月29日のNYでの録音。パーソネルは、Bud Powell (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) 。ブルーノートの4009番。バド・パウエルは、ビ・バップの天才であるが、1958年と言えば、ハードバップ時代ど真ん中。バド・パウエルの演奏も、ビ・バップの文法をベースとしながら、しっかりとハードバップとしての語法をマスターしている。

このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を捉えた演奏では無い。ピークを越えて、晩年に差し掛かる下降期のアルバムではあるが、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての、当時として革新的なジャズピアノとしての右手・左手の使い方が実に良く判る演奏になっている。

収録されているどの曲も、バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が、実に良く判る。バド・パウエルの難点である「唸り声」も控えめ。唸っていても、このアルバムではキーがあっていてなんとか聴ける。1958年、ブルーノートの録音なので録音状態も良い。「唸り」が控えめで、録音状態も良く、バド・パウエルの演奏もまずます好調。バド・パウエルの現代ジャズピアノ・トリオの祖としての特徴的な演奏が良く判る、奇跡的なバド・パウエルの佳作である。

彼のピアノのテクニックは、ジャズピアノの神様アート・テイタム、アート・テイタムの後継者とされたオスカー・ピーターソンと肩を並べるものである。特に右手の閃きは群を抜く。確かに、このアルバムは、バド・パウエルの全盛期を過ぎた演奏とは言え、バド・パウエルのジャズピアノの革新性は十分に体験することが出来る。

有名曲は冒頭の「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」であるが、この曲だけが全てでは無い。他の曲も当時のバド・パウエルとしては大健闘。実に良い内容の演奏を繰り広げている。ハードバップ時代のファーストコール・ミュージシャンである、Paul Chambers (b), Art Taylor (ds) の人選も見事。この二人のお陰で、この二人の演奏に良い刺激を受けて、バド・パウエルは奇跡的にハードバップしている。

「Cleopatra's Dream(クレオパトラの夢)」だけが全てでは無い。ゴスペルチックな「Borderick」、カリプソチックな「Comin' Up」など、当時のバド・パウエルが「過去の人」になっていないことが良く判る。彼はビ・バップで留まる人では無かった。まだまだ先のある、まだまだ先進的な天才的ミュージシャンであったことが良く判る。このアルバム収録後、程なく、ヨーロッパに渡る。そして、1966 年7月31日逝去。このアルバムを録音して、約7年半後の出来事である。

現代ジャズピアノ・トリオの祖とされるバド・パウエル。バド・パウエルを体験し、バド・パウエルを理解しないと、ジャズピアノ・トリオは体系的に理解出来無い。是非とも、ジャズ者初心者の方々は、この『The Scene Changes (The Amazing Bud Powell, Vol. 5)』を入り口として、バド・パウエルを体験し、体感して頂きたい。きっと、更にジャズピアノ・トリオを深く立体的に楽しめる様になると思います。
 
 
 
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