2022年3月17日 (木曜日)

デイヴィッド・ベノワの新作です

ここバーチャル音楽喫茶『松和』は、ジャズのアルバム鑑賞がメインなんだが、ジャズの演奏ジャンルについては、全方向OKが個性。1970年代半ばから1980年代前半に大流行したフュージョン・ジャズもしっかりと守備範囲に入っている。意外と年配の硬派なジャズ評論家からは忌み嫌われるフュージョン・ジャズだが、ちゃんと聴いてみると、テクニック、アレンジ、演奏内容、どれもが一流のものが多くある。

ジャズのどこに重きを置いて鑑賞するかによって、フュージョン・ジャズの評価は変わるのだろうが、 フュージョン・ジャズは「商業ジャズ」で、ジャズのスピリッツが宿っていないなどという変な論理で、フュージョン・ジャズ盤を十把一絡げに「聴くに及ばず」とするのはちょっと乱暴だろう。事実、1970年代半ばから1980年代前半には、一般大衆から支持され、大いに聴かれたのだから、なにか響くものがあったはずである。

David Benoit『A Midnight Rendezvous』(写真左)。2022年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、David Benoit (p), Eric Marienthal, Sal Lozano (as), Gordon Goodwin (ts), Jay Mason (bs), Wayne Bergeron, Dan Fornero, Dan Rosenblum (tp), Francisco Torres (tb), Charlie Morillas (b-tb), Roberto Vally (b), Dan Schnelle (ds)。フュージョン〜スムース・ジャズを代表するピアニスト、デヴィッド・ベノワの最新作になる。
 

A-midnight-rendezvous_david-benoit

 
冒頭の「A Midnight Rendezvous」から、ベノワ節が全開。リリカルで耽美的。タッチは確かで流麗。ファンクネスは意外と希薄で、どこか米国の自然の風景を、原風景をイメージするような、ネイチャーな響きとフレーズが特徴。決して、アーバンでアダルトでは無い。この「ベノワ節」が僕は大好きなんです。そして、この盤には、ラストの「Cabin Fever」まで、ベノワ節満載。金太郎飴的、と言ってしまえばそれまでですが、ここまで熟達した個性であれば、これはこれでアーティスティックだと思います。

基本は、フュージョン〜スムース・ジャズ基調のビッグバンド仕立て。オフビートではあるが、ファンクネスは薄い。耽美的で流麗なフレーズが基本だが、グルーヴ感は強い。ビートがしっかり効いている分、どの曲にもメリハリが効いていて、聴いていて飽きることは無い。それより、ベノワの紡ぎ出す印象的なフレーズが、しっかりと耳に残って、聴いていてとても心地良い。

フュージョン〜スムース・ジャズの好盤です。テクニック、アレンジ、演奏内容、いずれも充実しているので、しっかりと聴き込むのも良し、何かをしながらの「ながら聴き」するのも良し、フュージョン〜スムース・ジャズ畑のベテラン・ミュージシャンが紡ぎ出す珠玉の10曲。純粋に音楽として聴くと、意外と「フュージョン〜スムース・ジャズもええなあ」と思ってしまうかもしれません。
 
 
 
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2020年11月13日 (金曜日)

ベノワのメジャー・デビュー作

デイヴィッド・ベノワ(David Benoit)、1953年5月生まれ。今年で67歳。米国カリフォルニア州出身。フュージョン・ジャズ〜スムース・ジャズのジャンルで活躍するピアニストであり、コンポーザー、アレンジャー&プロデューサーでもある。デビューが1977年だが、暫くは裏方の仕事がほとんどで、1987年にGRPレーベルからアルバムをリリースして以来、メジャーな存在となった。

David Benoit『Freedom at Midnight』(写真左)。1987年のリリース。パーソネルは、曲によってメンバーを使い分けている。主だった名前をひろうと、Russ Freeman (g), John Pattitucci (b), Jeff Porcaro (ds) と、どちらかと言えば、スムース・ジャズ、AOR畑からの人選が主。よって音的には、ブルージーな雰囲気やファンキーな要素は希薄である。

ベノワはピアニストではあるが、ピアニストとしてのベノワを前面に押し出すのでは無く、作曲やアレンジ、プロデュースの才能を前面に押し出している様であり、そういう面では、先達として「ボブ・ジェームス」がいる。彼もピアニストではあるが、コンポーザー、アレンジャー&プロデューサーでもある。ボブ・ジェームスはどちらかと言えば、米国東海岸の雰囲気だが、ベノワは出身がカルフォルニアで、1970年代後半からハリウッドで活躍していたこともあり、米国西海岸の雰囲気が濃厚。
 
 
Freedom-at-midnight  
 
 
ベノワの音の重ね方、フレーズの作り方は、米国西海岸のフュージョン・ジャズの要、デイヴ・グルーシンに通じるものがある。ピアノの個性は「リリカルで耽美的」。ビル・エヴァンスを敬愛する、とあるが納得である。曲作りとアレンジを一手に引き受けることで、ベノワ自身のピアノをしっかりと印象付けている。そんな、ベノワのコンポーザー、アレンジャー&プロデューサーの能力全開のアルバムがこの『Freedom at Midnight』である。

良い曲ばかりである。そして、ベノワ独特のテンポがあって、そのテンポは「ミッド・テンポ」。速弾きは全く無い。ミッド・テンポで「リリカルで耽美的」なピアノを、硬質のタッチで、しっかりと、くっきりと響かせるので、とても印象的で心地良い。そして、フレーズに独特の「間」があって、その「間」が実に印象的。このベノワ独特な「ミッド・テンポ」と「間」に填まれば、もうベノワの音世界にドップリである。

意外に中毒性のある「ミッド・テンポ」と「間」だと感じていて、そんなベノワの個性がこのGRPレーベルからのメジャー・デビュー盤に満載。そういう意味では、ベノワの初期の代表作であり、ベノワの個性を確認するには格好の好盤。僕はベノワの紡ぎ出す、フレーズのテンポ、音の上げ下げの塩梅が大好きで1995年の頃から愛聴している。
 
 

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