ニュー・ジャズなドラミング
ジャック・デジョネット(Jack DeJohnette)。John Abercrombieの『Timeless』(1974)辺りから、サイドマンとしては、ECMレーベルのハウス・ドラマーとして、数々のアルバムのドラムを務めている。1983年からは、キース・ジャレット率いる「スタンダーズ」の専任ドラマーとして、キースが引退状態になる2018年まで継続した。
特に、ECMサウンドには欠かせない「臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラマー」の役割については、ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの信頼は絶大だった様で、様々なスタイルの「ECMのニュー・ジャズ」でドラムを叩いて、しっかりと成果を出している。
アイヒャーはプロデューサーとして、演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもドラマー次第、ということをしっかりと理解していたのだろう。ECMの活動初期の頃から、デジョネットをハウス・ドラマーとして起用したアイヒャーの慧眼恐るべし、である。
『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, g-syn, org), Miroslav Vitouš (b, el-p), Jack DeJohnette (ds)。ECMレーベルからのリリース。
当時のECMレーベルのハウス・ミュージシャンの3人が集結したキーボードレス・トリオ。音の厚みを求めてキーボードが欲しい時は、リピダルがオルガンを、ビトウスがエレピを弾いている。ピアニストでもあるドラマー、デジョネットは今回はキーボードには手を出していない。
出てくる音はフロント楽器を司るリピダルのギター、ギターシンセの雰囲気を踏襲して、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界。そんなリピダルのギターに、ビトウスのプログレッシヴなアコベと、デジョネットの臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラムが、変幻自在、硬軟自在、緩急自在に絡みに絡む。
全編、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界なので、聴き進めていくにつれ、飽きがきそうな懸念があるのだが、ビトウスのベースとデジョネットのドラムの変幻自在、硬軟自在、緩急自在な絡みがバリエーション豊かで、全く飽きがこない。
リピダルのギターも、そんなビトウスのベース、デジョネットのドラムが叩き出すリズム&ビートに触発されて、いつになくアグレッシヴで表現豊かな、躍動感あふれる、それでいて繊細でクールでリリカルなパフォーマンスを聴かせているから面白い。
これだけ、バリエーション豊かにギターを弾きまくるリピダルも珍しい。この3人の組み合わせが、各演奏のそこかしこに「化学反応」を起こしている様がしっかり聴いて取れる。
この盤のリピダルって、彼のペスト・パフォーマンスの一つとして挙げて良いくらい、内容充実、優れたパフォーマンスである。
リピダルの潜在能力を効果的に引き出し鼓舞し、そのリピダルの音世界をしっかりとサポートし、より魅力的にするリズム&ビートを、ベースのビトウスと共に創造し叩き出すデジョネットのドラミングがアルバム全編に渡って堪能出来る。
ECMレーベルの活動前期に、ECMレーベルのニュー・ジャズな音世界に欠かせない「リズム&ビート」を担うデジョネットのドラミング。例えば、この『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』を聴けば、その意味が理解出来る。従来のジャズの枠を超えた、ニュー・ジャズなドラミング。デジョネットのドラミングの本質だろう。
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