2019年11月 9日 (土曜日)

リヴァースのモードへの対応力

このアルバムを聴けば、当時、サム・リヴァース(Sam Rivers)のモード・ジャズにおける先進性が良く判る。モード奏法はモードに基づく旋律による進行に変更したもので、演奏の自由度が飛躍的に高い。リヴァースのモーダルなテナーは、クールでメロディアスでバリエーション豊かなもの。特に、この「クールでメロディアス」な部分。リヴァースはこの部分に秀でていた。

アドリブ部に入った途端、このモードに基づく旋律による進行に乗って、アドリブを展開することになる。しかも自由度が飛躍的に高い。演奏する側は自らの閃きを基にアドリブを展開する。閃いたフレーズを一気に吹くので、大体が気合いの入った音になる。逆にそんなにバリエーション豊かに閃きがある訳ではないので、アドリブの手癖・展開がマンネリ化、パターン化する恐れがある。
 
リヴァースは閃いたフレーズをクールに吹き、アドリブの手癖・展開のバリエーションが豊かなのだ。そんなリヴァースが良く判るアルバムが、リーダー作第2弾の Sam Rivers『Contours』(写真左)。1965年5月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Sam Rivers (ts, ss, fl), Freddie Hubbard (tp), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Joe Chambers (ds)。
 
  
Contours  
 
 
バックのリズム・セクションについては、当時、若手の新主流派の精鋭揃い。バックの不手際に引き摺られて、モードな演奏の精度や内容を損なわれることは無い。逆にフロントのソロイストの「モードに対する対応力」をしっかりと見極めることが出来る。フロントはリーダーのリヴァースのテナーと、ハバードのトランペット。既にハバードはモードへの対応力に定評がある。
 
しかし、リヴァースのテナーが明らかに素晴らしい。クールでメロディアスでバリエーション豊かな「モーダルなソロ」が展開される。逆にハバードは、吹きすぎる、パターン化した、ちょっと平凡な「モーダルなソロ」に終始している。特にリヴァースのソロがクール。そして、モーダルなアドリブのバリエーションが豊か。新主流派の「新しい風」を感じる。
 
サム・リヴァースのモードに対する対応力の高さを再認識できる優れたリーダー作である。ハバードの存在のお陰であるが、逆にリヴァースのワンホーンでも良かったのでは、と思う。それだけ、リヴァースのモーダルな演奏は、それまでのモードを得意とするジャズマンとは一線を画するものだったと思う。しかし、それが即、人気の高さに繋がらないのがジャズの不思議。
 
 
 
東日本大震災から8年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年11月 2日 (土曜日)

桑原あいの真っ先に聴くべき盤

最近、ジャズにおいて、日本ジャズの女子力は留まることを知らない、と書いた。未だ、第一線で活躍している日本人女子のジャズ奏者は多い。この「ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログ」でも、様々な女性ジャズ奏者を紹介してきた。そんな女性ジャズ奏者の中で、再度、当ブログでご紹介し直したい女性ジャズ・ピアニストがいる。「桑原あい」である。

「桑原あい」は、1991年9月生まれ。今年で28歳。ジャズ界ではまだまだ若手も若手。洗足学園高等学校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業。2010年からプロとして活動。ピアニスト&作曲家として、前衛的・革新的なサウンドが身上。コンテンポラリーな純ジャズではあるが、ちょっと一筋縄ではいかない、ちょっと前衛的な香りのするフレーズが個性。この部分が気に入るか入らないかで、彼女の評価は変わるだろう。

桑原あい Trio Project『from here to there』(写真左)。2012年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、桑原あい (p), 森田悠介 (el-b), 今井義頼 (ds), 神田リョウ (ds), 鈴木 "Soopy" 智久 (ds)。ピアノの桑原あい、とエレベの森田悠介は固定、ドラムを三人使い分けているが、基本はピアノ・トリオ。自作曲もアレンジも今までに無い響きで、その内容は「ユニーク」。
 
 
From-here-to-there-ai-kuwabara  
 
 
桑原のピアノは、今までの日本人女性ピアニストの一聴すると「もしかすると男性ピアニストか?」と感じるダイナミックなタッチは無い。聴くと判るが、このピアノは確実に女性のピアノ。ガーンゴーンというダイナミックなタッチでは無い、良い意味でしっかりと芯はあるが「線の細い」、ちょっと繊細でライトなタッチと流れる様な弾き回し。女性のジャズ・ピアノの特質を全面に押しだしている。

しかし、そのテクニックは優秀で、その自作曲は聴いていて「気持ちの良い」もの。モーダルなフレーズの響きは心地良く、ところどころ前衛の響きが混ざって、そのピアノは個性的。モンクの様に幾何学的なフレーズが散りばめられているが、モンクの様な「間」は無い。ぎっきり敷き詰められた音符。多弁な右手の幾何学的なフレーズ。それが繊細でライトなタッチで奏でられる。

桑原あい、の個性は今までのジャズには無いもの。この『from here to there』はデビュー盤なので、抑制が効きすぎて、ちょっと「温和しめ」なんだが、それでも、この飛んだり跳ねたりしつつ、流麗に展開する幾何学的フレーズは、ジャズを聴く耳には「気持ちが良い」もの。ジャズ奏者のデビュー盤には、そのジャズ奏者の個性が詰まっている、というが、この盤はその例に漏れない。「桑原あい」を聴くには、真っ先に聴くべき初リーダー作だろう。
 
 
 
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2019年10月31日 (木曜日)

「カリブの風」が吹いている。

この新盤、ストックしておいたのだが、暫くその存在を忘れていた。このリーダーのサックス奏者は、その出身そのものズバリ、ラテン・フレイバーのジャズ演奏を得意とする。これって、僕の好みのど真ん中である。が、直ぐに聴かずにストックしていた。面目ない。そのサックス奏者とは「David Sánchez(デイビット・サンチェス)」。

デイビット・サンチェスはサックス奏者。1970年、プエルトリコ生まれ。今年で49歳。ルーツであるラテンの感覚を活かした音楽性で根強い人気を誇る。年齢的にも油が乗りきった頃であり、ジャズの中堅メンバーとして大活躍。そのルーツに根ざした二つの音世界、純ジャズとラテン・アメリカの伝統音楽の融合が個性。

David Sánchez『Carib』(写真左)。そんなサンチェスの最新作。2019年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、David Sanchez (ts, barril de bomba, per, vo), Lage Lund (g), Luis Perdomo (p, rhodes), Ricky Rodriguez (b), Oded Calvaire (ds, vo), Jhan Lee Aponte (per, bomba barril), Markus Schwartz (haitian-per)。「bomba barril」や「haitian-per」という見慣れない楽器が入っている。
 
 
Carib-david-sanchez  
 
 
この見慣れない楽器は「カリビアン」な打楽器で、アルバムのタイトル通り、このアルバムには「カリブの風」が吹いている。リズム&ビートはラテンとジャズ。ラテンフレイバーのコンテンポラリーな純ジャズと硬派でモーダルな純ジャズ、この2つをミックスした「純ジャズ」の彩りが素晴らしい。爽やかな躍動感溢れる、陽光麗らかな、風の様なコンテンポラリーなエレ・ジャズの調べ。

暫く聴いていると「チック・コリア」のエレ・ジャズかなあ、なんて感じたりする。爽やかな風が吹くようなエレギのフレーズの展開に、何となく「パット・メセニー・グループ」かな、なんて思ったりする。カリビアンな打楽器のネイティヴなビートをバックに、流れる様なモーダルなサンチェスのサックスは、どこか「エレ・マイルス」のウェイン・ショーターを彷彿とさせる。

今までの「コンテンポラリーなエレ・ジャズ」を総括した様な音世界に思わず聴き惚れる。ラテン・フレイバーのジャズは「モード」が似合う。硬派でストレート・アヘッドなモード・ジャズとの取り合わせは絶妙なコントラストを表現する。聴き味は爽やかだが、なかなか内容的に濃く、奥が深いエレ・ジャズ。エレ・ジャズ者にとっては「マスト・アイテム」。好盤です。
 
 
 
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2019年10月22日 (火曜日)

またまたコルトレーンの未発表盤

21世紀に入って、今年は2019年。コルトレーンが亡くなったのが1967年。既に、コルトレーンが亡くなってから52年が経過する。さすがにもう未発表音源のリリースは無いだろうと思っていた。しかし、今年も再び、未発表音源の発掘そしてリリース。未だにコルトレーンの未発表音源の発掘があるんやなあ、と改めて感動した。

今回は「未発表音源の発掘〜リリース」というよりは、公にされていた音源ではあるが、オリジナル音源の流用と思われていたものらしい。今回のアルバムのリリースの資料を読むと、「1964年6月、カナダ国立映画制作庁の委嘱で、フランス語映画「Le chat dans le sac (英題:The Cat in the Bag)』(日本未公開)の為に、黄金のカルテットを率いてルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音された音源」とのこと。

しかし、である。資料は続く。「当時、映画の為に使用された5曲は、いずれもコルトレーンのオリジナル曲の再演であったため、熱心なファンの間でも映画にはオリジナル・ヴァージョンが使用されているものと思われており、映画用に再録音されたものであるとは長らく知られていなかった」。つまり、映画に使用された音源はオリジナル・ヴァージョンでは無く、映画用に再演され新たに録音されたもの、だった訳。
 
 
Blue-world-john-coltrane
 
 
John Coltrane『Blue World』(写真左)。1964年6月24日、NY New Jerseyの「Van Gelder Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、 John Coltrane (ts, ss), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds), McCoy Tyner (p)。黄金のカルテットである。セッションの全音源(合計8テイク)がフル・ヴァージョンでまとめられている。ジャケット・デザインも良好。

今回はオリジナルでおなじみの楽曲ですが、確かにオリジナル・ヴァージョンを意識して聴くと、確かに「違う」。熟成されたワインの如く、オリジナル・ヴァージョンよりも、リラックスした雰囲気の演奏で、穏やかに聴こえます。熟れた演奏と形容したら良いのか。明らかにオリジナル・ヴァージョンの演奏時より、円熟、熟達のレベルで充実している様に感じます。

ライナーノーツの抜粋では「コルトレーンが既に録音した曲をふたたびスタジオ録音することはなかったという意味で、このアルバムは貴重な存在なのだ」としている。本レコーディング・セッションに関する当時のレコード会社にスタジオ使用の記録が残っていなかったらしい。そりゃ〜、この映画のために、改めて録音したという事実は、コルトレーン研究家の間でも知られていなかった訳ですね。
 
 
 
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2019年10月18日 (金曜日)

亡きケニー・カークランドを偲ぶ

1980年代半ばからの純ジャズ復古の後、お気に入りとなったピアニストが幾人かいる。ケニー・カークランドもそんなピアニストの一人。1955年9月、米国ニューヨーク州ブルックリンの出身。僕は、1970年代後半から、ミロスラフ・ヴィトウスや日野皓正との共演で、カークランドのキーボード・ワークを耳にした。以前のモード奏法とは異なる、新鮮な響きとアプローチが印象に残った。

そして、1980年代に入って、ウィントン・マルサリスの『ウィントン・マルサリスの肖像』でのプレイ、ブランフォード・マルサリスの『シーンズ・イン・ザ・シティ』でのプレイ。スティングの『ブリング・オン・ザ・ナイト』でのプレイ。これらの客演盤でのパフォーマンスで、一気にお気に入りのヒアニストになった。もはや、明らかに昔のモード奏法とは異なる、新しい響きとアプローチのモダンなピアノ。

『Kenny Kirkland』(写真左)。1991年、GRP Recordsからのリリース。邦題『ケニー・カークランド・デビュー!』。そんなケニー・カークランドの唯一のリーダー作である。唯一というのも、ケニー・カークランドは、1998年11月11日、43歳で急逝している。もともと、客演が活動の主だったので「ファースト・コールなバイ・プレイヤー」という呼び名もあるくらいである。よって、この盤がケニー・カークランドの唯一のリーダー作となってしまった。
 

Kenny-kirkland-album  

 
ちなみにパーソネルは、Kenny Kirkland (1, 2, 4, 6〜10) (p), (5, 11) (key), Roderick Ward (7)(as), Andy Gonzalez (8, 10), Charnett Moffett (1, 4, 7), Christian McBride (6) (b), Don Alias (8) (bongos), Jerry Gonzalez (tracks: 8, 10) (congas,perc), Jeff "Tain" Watts (1〜4, 6〜8), Steve Berros (8, 10) (ds), Don Alias (5, 11) (perc), Branford Marsalis (2, 4, 9) (ss), (1, 10) (ts)。

この盤の演奏内容は、徹頭徹尾、モーダルなジャズ。旧来のモード奏法の焼き直しでは無い、新しいアプローチ、新しい響きを持ったモード・ジャズである。そんな中、リーダーのカークランドのピアノは、左手のブロックコードのコンピングが個性の、タッチの明確な、音のエッジのたった「ハービー・ハンコック」の様なピアノ。聴いていて心地良く、印象的なフレーズが流麗に耳に流れ込む。ビート感がしっかり残って、実に新しく良好なモード・ピアノ。

但し、内容があって存在感があるので困るのだが、ブランフォード・マルサリスのサックスがかなり良い音を出しているので、その分、バックのカークランドのピアノよりも耳を奪われてしまう。カークランドのデビュー盤としてはちょっと勿体無い事である。やはり、ケニー・カークランドについては、ピアノ・トリオの編成で、存分に耳を傾けたかったなあ。しかし、その願いは叶わない。43歳没。あまりに早過ぎる死であった。
 
 
 
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2019年10月16日 (水曜日)

温故知新な聴き味の良い好盤

21世紀に入って19年が経った。ジャズは死ぬどころか更なる深化を遂げ、ジャズの演奏フォーマットや演奏スタイル、演奏内容の裾野は更に広がった。これもジャズなん? という内容の、尖ったニュー・ジャズな雰囲気のものもあれば、オーソドックスなモーダルなジャズもある。特に、テクニックが伴った、しっかりした内容の伝統的なモーダルなジャズは、今の耳で聴いても、なぜかホッとする。

David Kikoski『Phoenix Rising』(写真左)。今年6月のリリース。ちなみにパーソネルは、Eric Alexander (ts), David Kikoski (p), Peter Washington (b), Joe Farnsworth (ds)。伝統的なテナーで名を残しつつあるエリック・アレキサンダーをフロントに据えた、ワンホーン・カルテットな編成。フロント1管なので、ユニゾン&ハーモニーに関するアレンジと配慮が不要。テナーを自由に吹きまくることが可能。

ミンガス・ビッグ・バンド等の活躍で知られるピアニスト、デヴィッド・キコスキーのHighNoteレーベルからのデビュー盤である。デヴィッド・キコスキーは、1961年米国はニュージャージ生まれのピアニスト。1980年代にはバークレー音楽院でジャズを学ぶ。いわゆる「正統な教育を受けた」ジャズ・ピアニストである。
 
 
Phoenix-rising-david-kikoski
 
 
この新盤は、オーソドックスなモード・ジャズ。リズム&ビートも伝統的なジャジーなビート。高速4ビート若しくは8ビート。そして、キコスキーのモーダルなピアノは実に理知的で趣味が良い。アドリブ展開時に合いの手の様に入るブロックコード、優しいしなやかな「シーツ・オブ・サウンド」的なアドリブ・フレーズ。ピアノの響きと流麗で音符の多いアドリブ展開はハービー・ハンコックを彷彿とさせる。端正で明確なタッチのハービー。

エリック・アレキサンダーのテナーも伝統的。音の太さと悠然としたアドリブ展開の吹き回しは、ソニー・ロリンズを想起する。速弾きを伴ったロリンズ。歌心も充分で、特にスタンダード曲でその真価を発揮する。例えば「If I Were a Bell」や「Love for Sale」「Willow Weep for Me」など、安心安定の伝統的なブロウ。コルトレーンっぽいところもあるが、基本はロリンズ。大らかなブロウだ。

この盤、キコスキーのピアノとアレキサンダーのテナーが際立つ。全く新しくない、過去を振り返る、オーソドックスなモード・ジャズ。それでも、過去のモード・ジャズと比較すると、やはり新しい響きに満ちている。温故知新。そんな言葉がピッタリの魅力的な内容のモード・ジャズ。演奏の隅々まで配慮が行き届いたパフォーマンス。伝統的な内容ではあるが、聴き味の良い好盤である。
 
 
 
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2019年9月28日 (土曜日)

ECMの「イスラエル・ジャズ」盤

欧州ジャズの老舗レーベルと言えば「ECMレーベル」。1969年にマンフレート・アイヒャーが創立。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」。僕はジャズを聴き始めた学生時代、大変にお世話になったレーベルである。

Avishai Cohen & Yonathan Avishai『Playing The Room』(写真左)。ECMより、つい先日リリースの新盤。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Yonathan Avishai (p)。ベーシストではない、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンとピアニスト、ヨナタン・アヴィシャイとのデュオ盤。デュオを構成する奏法のラスト・ネームを見ると、これは「イスラエル・ジャズ」であると期待する。

ECMらしい静的でクールな、即興ベースのデュオ。限りなく静謐で豊かなエコーがそのクールさを増幅する。このジャズは「ニュー・ジャズ」と呼んで良いだろう。スイング感は皆無、ファンクネスは皆無。しかし、測距句演奏をベースとしたデュオ演奏は明らかに「ジャズ」。底を流れるリズム&ビートは堅実なオフビート。自由であるが「フリー」では無い。限りなく自由度の高い「モーダル」なデュオ演奏。
 
 
Playing-the-room
 
 
全編に渡って、典型的な「イスラエル・ジャズ」の音が詰まっている。出てくるフレーズがちょっとユニークで、北欧的でありながら、どこかエスニックでどこか中東風な響きがする。自由度が高く、エコー豊かなアコースティックな響き。そこはかとない中近東の哀愁感を帯びたトーンが見え隠れする。今までのジャズには全く無い響き。特に、この番ではそんな「イスラエル・ジャズ」の個性をシンプルなデュオ演奏が際立たせる。

このデュオを構成する二人は同じ中学に通っていたそうだ。ティーンエイジャーの頃からテル・アヴィヴでともにジャズを探求してきて、音楽的にも30年以上ずっと長い交友関係を築いてきた、そんな濃いリレーションシップが、これだけの「あうん」の呼吸を生み出し、適度な緊張感溢れる演奏を実現し、僕達を最後まで飽きさせないのだろう。

ちなみに、このアルバムの演奏については、ほとんど一発録音だったそう。そういう面でも「イスラエル・ジャズ」のレベルは高い。最近、イスラエル・ジャズに遭遇する機会が多い。イスラエル・ジャズは、老舗本国の米国、欧州について、新たなジャズの聖地になる位の勢いでメジャーな存在になってきている。もはや、イスラエル発のジャズは無視出来ない存在になってきている。
 
 
 
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2019年9月26日 (木曜日)

コルトレーン・テナーへの挑戦

ジャズの世界で、テナー・サックスをやる者にとって、ジョン・コルトレーンは避けて通れない。この21世紀の世の中になっても、若手テナー・マンの中で、ジョン・コルトレーンのテナー・サックスに挑戦する者は後を絶たない。ただ、一時の様に「猫も杓子もコルトレーン」ということは無くなった。それでも、コルトレーンのテナー・サックスは大きな目標であることは確かである。

Sam Dillon『Force Field』(写真左)。2019年5月のリリース。ちなみにパーソネルは、Sam Dillon (ts), Theo Hill (p, fender rhodes), David Wong (b), Anwar Marshall (ds), Max Darche (tp), Andrew Gould (as), Michael Dease (tb)。ニューヨークで活躍している気鋭の若手テナーマン、サム・ディロンの好盤である。

ディロンのテナー、ヒルのピアノ、ロングのベース、マーシャルのドラムのカルテットをベースに、曲によりマックス・ダルケ(tp)、アンドリュー・グールド(as)、マイケル・ディーズ(tb)が、参加したセクステット&セプテットによる演奏を収録。バラエティに富んだ編成から、ストレート・アヘッドな「ネオ・ハードバップ」な演奏が魅力的である。
 
Force-field-sam-dillon  
 
サム・ディロンのテナー・サックスは「コルトレーン」ライクなもの。アブストラクトに展開するところも、ストレートに伸びるテナーのブロウも、速いパッセージでは、まるで「シーツ・オブ・サウンド」の如く、ハイ・テクニックでメカニカルな音出し。この盤の様々な演奏を聴いていると、ジャズ・テナーの王道、コルトレーン・テナーに果敢に挑んでいる様がよく判る。

選曲もなかなか「ふるっている」。さすが、現代の若手のホープの選曲である。彼のオリジナルのほか、チック・コリア、ハリー・ウィッテッカー、ラーシュ・ヤンソン、チャーリー・パーカーのナンバーを選曲している。この選曲が今までのテナー・マンと違うところ。現代の若手テナー・マンの新しい感覚を感じる。しかも、これらの目新しい曲でテナー・サックスが充分に映えるのだ。

「猫も杓子もコルトレーン」な時代もあった。テナー・マンによっては、テクニックが伴わず、歌心が不足して、コルトレーン・テナーに挑みはするのだが、全く退屈な演奏に終始する盤もあるなど、玉石混交な時代もあった。が、このサム・ディロンの様に、テクニックを伴った、気鋭の若手テナー・マンが、コルトレーン・テナーへチャレンジする様は頼もしい限り。いい音してます。
 
 
 
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2019年9月12日 (木曜日)

顔の「どアップ」に好盤あり・1

ブルーノート・レーベルはジャケット・デザインにも定評がある。特に、1500番台、そして4000番台から4200番台は、優れたデザインのジャケットの宝庫。駄作が無いのが素晴らしい。特にジャズメンのポートレートの処理が素晴らしい。必要な部分をクローズアップして、不要な部分はバッサリ切り捨てる潔さ。そして、顔のどアップを「バーン」とジャケットに持ってくる大胆さ。

Bobby Hutcherson『Cirrus』(写真左)。1974年4月の録音。BN-LAシリーズの「257-G」。 ちなみにパーソネルは、Bobby Hutcherson (vib, marimba), Woody Shaw (tp), Emanuel Boyd, Harold Land (ts, fl), William Henderson (ac-p, el-p), Ray Drummond (b), Larry Hancock (ds), Kenneth Nash (perc)。

1970年代の録音である。知っている名前は、ヴァイブ担当でリーダーのハッチャーソンとトランペットのウッディ・ショウ、テナーのハロルド・ランドくらいである。後はほどんど馴染みが無い。どこかで見たかなあ、という程度。しかし、中身は意外としっかりしている。録音年の1974年といえば、ジャズ界はクロスオーバー・ジャズが流行。この番にどんな音が詰まっているのか、不安になる。
 

Cirrus-bobby-hutcherson

 
アルバムを聴き始めてビックリ。そんな時代に、立派な「新主流派のモーダルなジャズ」が展開されている。しかも、演奏自体が尖っておらず、マイルドで耳当たりの良いモード・ジャズ。1960年代初頭から始まったモード・ジャズ。この盤が録音された1974年、モード・ジャズは成熟の域に達していた。このアルバムに詰まっている音がその「痕跡」である。

この盤で、この成熟したモード・ジャズの中で、優れたパフォーマンスを発揮しているのが、ヴァイブ担当でリーダーのハッチャーソンとトランペットのショウ、テナーのランドの3人。ハッチャーソンとランドはハードバップ時代からの強者。ショウは新進気鋭の若手。この3人が成熟したモード・ジャズを、クールにマイルドで耳当たりの良い、それでいて、芯のあるモード・ジャズを展開している。

アルバム・ジャケットは、ハッチャーソンの顔の「どアップ」。決して不快な感じはしない、どこか爽快感漂う「どアップ」。僕がブルーノート・レーベルのアルバムを聴いてきた中で感じたこと。顔の「どアップ」のジャケットに好盤あり。
 
 
 
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2019年8月23日 (金曜日)

4300番台の発掘リリース盤・3

この盤のジャケット・デザインを見れば、この盤がリリースされた1970年のジャズのトレンド、ソウル・ジャズやフラワー・ムーブメントをベースとしたサイケデリック・ジャズをベースとした内容ではないか、と想像する。しかし、いかに前進する改革精神旺盛なジャキー・マクリーンでも、まさか純ジャズを捨てて、売らんが為のトレンドの追求に走るかなあ、とも思う訳だ。

その盤とは、Jackie Mclean『Demon's Dance』(写真左)。BNの4345番。1967年12月22日の録音。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Woody Shaw (tp, flh), LaMont Johnson (p), Scotty Holt (b), Jack DeJohnette (ds)。フランシス・ウルフのプロデュース。まだ、ブルーノート・レーベルらしさが残っている時代の録音である。
 
この盤、我が国のジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で採り上げられることが多い盤で、このジャケット・デザインから、ソウル・ジャズやフラワー・ムーブメントをベースとしたサイケデリック・ジャズを想起してしまい、なんでジャズ入門盤として相応しいか、よく理解出来ない時代が続いた。が、1990年代、紙ジャケ再発されて、やっと入手し、この盤を聴いて「あれ、これってモード・ジャズやん」と思った次第。
 
 
Demons-dance  
 
 
慌てて録音年月日を確認したら1967年とある。発売が1970年、しかもこのジャケット・デザイン。何故、内容的には硬派なモード・ジャズなのに、このサイケデリックなジャケット・デザインになるのか。やはり、ブルーノート・レーベルの4300番台は理解に苦しむ盤が多い。しかし、確かにこの盤に録音されている音は、内容のある「新主流派の音=モーダルなジャズ」である。
 
パーソネルを見渡せば、トランペットのウッディ・ショウ、ドラムのジャック・ディジョネットが興味深い。どちらもほぼ完璧にモード・ジャズを演っている。特にディジョネットのドラミングは今の耳にも新しく響く。で、リーダーのマクリーンは、と聴けば、これもまたほぼ完璧にモード・ジャズを演っている。そう、このおどろおどろしい、サイケなジャケット盤、実はモード・ジャズの成熟した演奏を聴かせてくれる好盤なのだ。
 
年長のマクリーンが、ほぼ一回りも若い若手と組んで、年長のマクリーン自身が、モーダルでちょっとアバンギャルドな「新主流派ジャズ」の音世界を吹きまくるのに刺激されて、若手の他のメンバーが溌剌とした演奏を繰り広げる。モード・ジャズの成熟した演奏を楽しむ事の出来る好盤。モード・ジャズって何?、の答えにもなる様な、モード・ジャズのお手本の様な好盤でもある。
 
 
 
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