2022年11月11日 (金曜日)

チック流のエレ・マイルス

Chick Corea『Is』は、1969年5月11–13日の録音。録音した時期は、チックがマイルス・バンドに参加していて、アグレッシヴでエモーショナルなローズをブイブイ弾き回していた頃。この盤は「チックの考えるエレ・マイルス」だと評価した訳だが、まだ、このセッションでの未収録曲があった。

Chick Corea『Sundance』(写真)。1969年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Hubert Laws (fl, piccolo-fl), Bennie Maupin (ts), Woody Shaw (tp), Dave Holland (b), Jack De Johnette (ds), Horace Arnold (ds)。 『Is』と同一セッションなので、当然、パーソネルも『Is』と同じ。リリースはさすがに『Is』から、2年8ヶ月後、1972年2月のリリースである。

『Is』でもそうだったが、ウディ・ショウ~ベニー・モウピン~ヒューバート・ロウズ、トランペット〜サックス〜フルートというフロントがチックらしい選択だろう。特に、ロウズのフルートを持って来たところに、後の「ユートピア・サウンド」へのアプローチを感じる。この辺りが、エレ・マイルスの「ファンク志向」とは異なるところ。

ホランドのベースとデジョネットのドラムが効いている。リズム&ビートは「ロスト・セッション」の頃のエレ・マイルスのリズム&ビート。そのビートをコリア流にアレンジして活用しているのが、この『Sundance』の音志向。そこに、エレ・マイルスの下でのエレピでは無く、アコピでチック流のエレ・マイルスを展開し尽くした。そんな音世界がこの盤に渦巻いている。
 

Chick-coreasundance

 
エレ・マイルスの「ファンク志向」を避けているところがチックの良い深慮遠謀。冒頭「The Brain」は限りなく自由度の高いビ・バップの様であり、2曲目「Song of Wind」は、限りなく自由度の高い新主流派の様であり、ラストのタイトル曲「Sundance」こそは、実にチックらしい、モーダルでキャッチャーな曲想で、後の「Return to Forever」を彷彿とさせる。

3曲目の「Converge」は完全なフリー・ジャズ。マイルスが絶対に手を出さなかったフリー・ジャズなんだが、ここでは、チックの考える「エレ・マイルスによるフリー・ジャズ」が感じられる。リズム&ビートによる約束事をベースに、集団即興演奏を展開する。

マイルスの嫌う、無手勝流の勝手気ままなフリー・ジャズでは無い。どこか、ビートによる規律が感じられるフリー・ジャズ。エレ・マイルスの手法をフリー・ジャズに応用して、チック流のフリー・ジャズを展開している様に聴こえる。

「エレ・チック」の根っこには、しっかりと「エレ・マイルス」がいるんやなあ、と妙に感心してしまう。しかも、この盤は「チック流のエレ・マイルス」。チックの音志向をエレ・マイルスの手法に落とし込み、チックの音志向を前面に押し出した「チック流のエレ・マイルス」。

そして、チック流のフリー・ジャズの基本的考え方がこの盤の「Converge」で取り纏められている。そして、この「基本的考え方」が、次のチックの展開である「サークル」で花開くのである。
 
 

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2022年11月 2日 (水曜日)

『Bitches Brew Live』は語る

エレ・マイルスの名盤『Bitches Brew』を聴くと、エレ・マイルスの基本は「ジャズ」で、しっかりと「メインストリームなジャズ」であり、クロスオーバーでも無ければ、フュージョンでも無いことを確信する。この盤に表現されているのは、サイケでプログレなビートに乗った「即興演奏を旨とするエレクトリックな純ジャズ」である、と感じる。

が、『Bitches Brew』はスタジオ録音であり、何度もリハーサルを繰り返すことが出来るし、良いところだけ切り取って編集することだって出来る。確かに、限りなく自由度の高い、即興演奏を旨とするエレクトリックな純ジャズなんだが、どこか「作られた雰囲気」が漂うことは否めない。そういう時、ライヴではどうだったのか、という思いに行き着く。そう、ライヴ音源が聴きたい。

Miles Davis『Bitches Brew Live』(写真左)。1969年7月5日のニューポート・ジャズフェス、1970年8月29日のワイト島フェス、2つのライヴ音源をカップリングしている。ちなみにパーソネルは、ニューポート・ジャズフェスでは、Miles Davis (tp), Chick Corea (el-p). Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)、ワイト島フェスは、Miles Davis (tp), Gary Bartz (as, ss), Chick Corea (el-p), Keith Jarrett (el-org), Dave Holland (el-b), Jack DeJohnette (ds), Airto Moreira (perc) 。
 

Miles-davisbitches-brew-live

 
ニューポートでの演目は「Miles Runs the Voodoo Down」「Sanctuary」「It's About That Time/The Theme」。ワイト島での演目は「Directions」「Bitches Brew」「It's About That Time」「Sanctuary」「Spanish Key/The Theme」。いずれの曲も『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』録音期の楽曲である。パーソネルも、『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』録音期のパーソネルに準じている。

このライヴ音源を聴くと、『In a Silent Way』〜『Bitches Brew』は、当時の電気楽器の特性を最大限に活かした、相当に自由度の高い即興演奏であり、モード・ジャズであったことが良く判る。『In a Silent Way』や『Bitches Brew』といったスタジオ録音盤は、決して「テオ・マセロのたまもの」では無かった。

凄まじいばかりの自由度の高いエレ・ジャズが、人間の手で実現されていたのだ。これだけ自由度の高い、切れ味良く、疾走感溢れる、即興演奏をメインとするエレ・ジャズは、現代でもなかなか聴くことは叶わない。このライヴ音源を聴いて、やはりエレ・マイルスはただものでは無い、当時、時代の最先端を走っていたのだ、ということを再認識する。無視してはならないライヴ音源である。
 
 

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2022年10月26日 (水曜日)

80年代のモード・ジャズの創造

ジャズ・ドラマーがリーダーのアルバムを色々聴き直しているのだが、今回はエルヴィン・ジョーンズに戻る。

エルヴィンは1960年代、ジョン・コルトレーンの伝説のカルテットに在籍したこともあって、エルヴィン単独になっても「コルトレーン・ミュージックの継承者」とか、「コルトレーン・ジャズのスピリッツの伝承者」とか、特に我が国のジャズ評論家の方たちが、こぞって、そんな「レッテル」を張るので、エルヴィン独自のソロ・リーダー作はかなり誤解されながら、その評価が世の中のジャズ者の方々に伝わっていたのだと思う。

Elvin Jones-McCoy Tyner Quintet『Love And Peace』(写真左)。1982年4月13&14日、Rudy Van Gelder Studioでの録音。Trioレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), McCoy Tyner (p), Richard Davis (b), Pharoah Sanders (ts), Jean-Paul Bourelly (g)。ファラオ・サンダースのテナーとジャン=ポール・ブレリーのギターがフロントのクインテット編成。
 
リーダーのエルヴィンがドラム、マッコイ・タイナーがピアノ、サックスにファラオ・サンダース、そして、タイトルに「Love」が入っていて、これが「A Love Supreme(至上の愛)」を想起するらしく、この盤「すわ、コルトレーン・ミュージックの再現」と思われる傾向がとても強い。

当時のLP評やCDリイシュー時の評を見ると「コルトレーン・ジャズのスピリットを80年代によみがえらせた」とか「コルトレーンのスピリッツを踏襲した傑作」とか、安直にコルトレーンと結びつけて終わり、という、少しイージーな評価ばかりである。
 

Elvin-jonesmccoy-tyner-quintetlove-and-p

 
しかし、この盤をよくよく聴いてみると、コルトレーン・ミュージックとの共通点は「モード・ジャズである」ということだけだと思う。フレーズの組立てとか、ユニゾン&ハーモニーとか、リズム&ビートとか、コルトレーンの時代とは異なる、より深化したモード・ジャズが展開されていて、コルトレーン・ジャズを踏襲しているところは殆ど見当たらない。

ウィントン・マルサリス一派が標榜した様な「1960年代のモード・ジャズの難度を飛躍的に上げて再現する」様なアプローチでは無く、あくまで、1960〜70年代のモード・ジャズをより深化させた、1980年代のモード・ジャズを具現化するアプローチを志向していると僕は思う。

サンダースのサックスだって、音がストレートなところが共通点だけで、コルトレーンとは似ても似つかぬブロウに終始していると思う。リーダーのエルヴィンだって、ピアノのタイナーだって、ベースのデイヴィスだって、1960年代のコルトレーンの伝説カルテットのリズム・セクションとは異なる、より深化した、モーダルなリズム&ビートを供給している。

この盤、日本のレーベルである「トリオ・レコード」の制作なのが余計に誤解を生むのだろうが、トリオ・レコードの名誉の為に言うと、この盤、決して、コルトレーン・ミュージックの焼き直しでも無ければ、コルトレーン・ジャズの再現でも無い。

トリオ・レコードは、エルヴィン以下のクインテットのメンバーに、1980年代のモード・ジャズの創造を要求している様に感じる。そして、クインテットはそれにしっかり応えている。ちゃんと聴けば、この盤、1980年代のモード・ジャズの傑作の1枚だと思う。
 
 

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2022年10月20日 (木曜日)

カナダのジャズ・バンドの異色盤

The Cookers Quintetは、カナダ出身のジャズ・バンド。演奏の基本は「ハードバップ、もしくはファンキー・ジャズ」。21世紀に入ってからの演奏トレンド「ネオ・ハードバップ」とは異なる、どちらかと言えば、1950年代後半の古き良き時代の「ハードバップ」。

そして、もう1つの演奏の基本が「モード・ジャズ」。これも、21世紀に入ってからの演奏トレンド「ネオ・モード」とは違う、1980年代後半からの「新伝承派のモード・ジャズ」とも違う、1950年代後半から1960年代前半のマイルスやコルトレーンがやっていた「モード・ジャズ」。

The Cookers Quintetの演奏は、古き良き時代のハードバップ、もしくはファンキー・ジャズであり、モード・ジャズである。だから聴いていて「あれっ」と思う。しかし、録音が新しいので、再び「あれっ」と思う。実に整った元祖ハードバップであり、元祖ファンキー・ジャズであり、実に良く練られた元祖モード・ジャズである。このジャズの化石のような演奏が、意外と聴いていて面白いのだから、ジャズって判らない(笑)。

The Cookers Quintet『The Path』(写真左)。2021年10月23義、カナダのバンクーバーでの録音。ちなみにパーソネルは、Ryan Oliver (ts), Tim Hamel (tp), Bernie Senensky (p), Alex Coleman (b), Joe Poole (ds)。ハード・バップ~モード・ジャズの魅力を今に伝えるカナダのジャズ・グループ、ザ・クッカーズ・クインテットの通算4作目。
 

The-cookers-quintetthe-path

 
収録曲は全て、バンドのオリジナル曲なんだが、フロント楽器の吹き上げるフレーズを聴いていると、どこか、コルトレーンを想起したり、ホレス・シルヴァーを想起したり、デクスター・ゴードンを想起したり、ウェイン・ショーターを想起したり。まだ、リズム隊のベースを聴いていると、レイ・ブラウンを想起したり、チェンバースを想起したり。

しかし、オリジナルの演奏に比べると、洗練さと繊細さが加味されているところが「ミソ」。21世紀に入ってからの演奏なので当然といえば当然なんだが、古き良き時代のハードバップ、もしくはファンキー・ジャズ、モード・ジャズが、現在において、洗練されて、新しいオリジナル曲となって、リニューアルされているところが、このバンド演奏の面白さ。

洗練さと繊細さが実に趣味良く、実に小粋に反映されているところが無ければ、単なる古き良き時代のジャズのコピー・バンドとして無視されるところである。すれすれのところで、この盤は、現代ジャズの好盤として評価できる。

古き良き時代のハードバップ、もしくはファンキー・ジャズ、モード・ジャズを、現代のジャズ・シーンに、雰囲気そのままに甦らせる。カナダ出身のジャズ・バンドだから出来る、良い意味での「暴挙」(笑)。
 
 

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2022年10月18日 (火曜日)

チックの考えるエレ・マイルス

チック・コリアのリーダー作の振り返り。リーダー作の第3弾。前リーダー作『Now He Sings, Now He Sobs』で、録音当時、ピアノ・トリオの最先端を行くパフォーマンスを披露したチック・コリア。次作では、いきなり「フリー・ジャズ」に接近する。

Chick Corea『Is』(写真左)。1969年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (ac-p, el-p), Woody Shaw (tp), Bennie Maupin (ts), Hubert Laws (fl, piccolo-fl), Dave Holland (b), Jack DeJohnette, Horace Arnold (ds)。

チック・コリアがリーダー。ショウのトランペット、モウピンのテナー、ロウズのフルートがフロント3管。チックのキーボードに、ホランドのベース、そして、デジョネットとアーノルドのダブル・ドラム。

今の目で見ると、明らかに当時のマイルス・デイヴィスのバンドの編成を意識していることが判る。このパーソネルに上がったメンバーが全員で集って演奏することは無い。曲によって、メンバーを選別している。これもマイルス流のプロデュースのやり方を踏襲していることが判る。

それもそのはずで、チックが録音した時期は、チックがマイルス・バンドに参加していて、アグレッシヴでエモーショナルなローズをブイブイ弾き回していた頃。それでやっと合点がいった。この盤は、チックの考える「当時のエレ・マイルス」である。それで、この盤の内容がやっと理解出来る様になった。

以前は、この盤を聴いて「チックがフリー・ジャズに走った」と思って、しばらく敬遠していたのだが、改めて聴いてみて、そもそも、これって、フリー・ジャズでは無い。
 

Chick-corea-is
 

インプロビゼーションの進め方を統制する「リズム&ビート」が、演奏の底に流れていて、その「リズム&ビート」を決して外すこと無く、限りなく自由度の高い、アグレッシヴでクリエイディヴなモード・ジャズをやっている。

当時のマイルス・バンドとの違いは「ファンクネスの濃度」。「ジャズの即興性への飽くなき追求」と「クールでヒップなフレーズとビートの創造」については、マイルス・バンドと志向は同じ。

コリアのキーボード、ショウのトランペット、モウピンのテナー、ロウズのフルート。フロント楽器はいずれもハイテクニックでフレーズが尖りに尖っている。それでいて、フレーズのトーンはクールで革新的。切れ味良く、ダレたところは全く無い。

そして、要の「リズム&ビート」を担うのは、ホランドのベースと、デジョネット&アーノルドのドラム。ホランドのベースは、限りなく自由度の高いフロントのパフォーマンスの底を、負けずに自由度の高い、クリエイティヴなベースラインでガッチリ支える。デジョネット&アーノルドは、これまた自由度の高い、ポリリズミックなドラミングでフロントと対峙する。

やっとこの『Is』という盤の凄さが理解出来た気がする。現在では、このアルバム『Is』の演奏は『The Complete "Is" Sessions』で聴くことが出来るが、やはり、このオリジナル・アルバムの曲数と曲順、「Is」「Jamala」「This」「It」の順で聴くのが一番。オリジナル・アルバムの意図と志向が良く判るのでお勧め。

この『Is』の音志向は、チックの考える「当時のエレ・マイルス」。やっとこの『Is』について決着が付いた気分である。
 
 

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2022年9月22日 (木曜日)

宗教的な(religious)ジャズ

Mary Lou Williams(メアリー・ルー・ウィリアムス)。米国や欧州では、他のレジェンド級のジャズメンへの楽曲提供やアレンジャーとしての協力、そして、何より、ジャズ・ピアノの代表的奏者の1人として知られる「一流ピアニスト」でありながら、我が国では「さっぱり」というジャズ・ミュージシャンの1人だろう。

僕がジャズを本格的に聴き始めた40数年前、ジャズ盤紹介本には彼女の名前は無かった。僕が彼女の名前を知ったのは、ネットの時代が本格的になった21世紀に入ってからである。

濃厚なグルーヴ感とゴスペル感、どこか敬虔な雰囲気漂うフレーズ。いわゆる「宗教的な(religious)ジャズ」の先駆けであり、ジャズ・ミサの先駆けなんだが、この辺りが我が国のジャズ評論家、ベテランジャズ者の方々に敬遠されたのかもしれない。でもなあ、コルトレーンをはじめとするスピリチュアルなジャズって、どれもが「宗教性」濃厚なんだけどなあ。コルトレーンの『至上の愛』が大絶賛で、メアリー・ルー・ウィリアムスが「さっぱり」な理由が未だに判らない。

しかし、僕は好きである。アメリカン・アフリカンのブラック・テイスト濃厚な「宗教的な(religious)ジャズ」の響きがとても良い。ソウルフルでファンキーなフレーズは、クワイヤーで唄えそうなゴスペルチックな雰囲気。しかも、ピアニストとして、確かなテクニックと端正な弾き回し。硬派なモダンジャズ・ピアノとしても優れた味わい。
 

Mary-lou-williamszoning

 
Mary Lou Williams『Zoning』(写真)。1974年1月~3月の録音。Mary Lou Williams (p, arr), Zita Carno (p), Bob Cranshaw, Milton Suggs (b), Mickey Roker (ds), Tony Waters (congas)。シンプルだが、グルーヴ感濃厚。不思議に少し捻れたソウルフルなフレーズで、スピリチュアル感を増幅させた「宗教的な(religious)ジャズ」盤である。

彼女は1910年生まれ。早熟の天才としてその名を轟かせ、スイング時代からの著名なレジェンド・ジャズメンとの交流がてんこ盛り。そんな様々なジャズマンとの交流が彼女の豊かな感性を育んでいる。そんな豊かな感性を活かした、ソウルフルでファンクネス漂う、切れ味の良いフレーズがこの盤に溢れている。

ピアノ、エレキベース、ドラム+パーカッションという、変則ピアノ・トリオなんだが、エレキの音とパーカッションの音とロッカーのちょっと捻れたドラミングが、これまたスピリチュアル感の増幅に貢献していて、「宗教的な(religious)ジャズ」テイストがコッテリと漂って来る。これが良い。

通常のモーダルなジャズとは、かなり異なる、敬虔さすら感じる音の響きが「宗教的な(religious)ジャズ」の真骨頂。ゴスペルチックな音の重ね方も良い。メアリー・ルー・ウィリアムスの個性全開の優秀盤である。
 
 

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2022年9月21日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・250

米国や欧州では一流の人気ジャズマンとされるが、我が国では「さっぱり」というジャズマンが結構いる。昔は海外レーベルのアルバムは、日本のレコード会社が契約して、日本のレコード会社経由で、我が国で流通していた。日本のレコード会社と契約した海外レーベルの人気ジャズマンのリーダー作は良いが、契約していない海外レーベルの人気ジャズマンのリーダー作は、我が国では全く流通しないということになる。

これでは、日本のレコード会社と契約していないと、海外レーベルのレコードは手に入らない、ということになるのだから、何だか閉鎖的な話である。ネットの時代になって、CDやデジタル音源が日本のレコード会社抜きに、ダイレクトに購入出来る様になって、そんな閉鎖的な話はほとんど聞かなくなった。逆に我が国で売れる見込みが無いと扱わない、という日本のレコード会社の企業姿勢が、日本のレコード会社の存在意義を矮小化している。

Tom Harrell『Oak Tree』(写真左)。2020年11月24, 25日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Tom Harrell (tp, flh), Luis Perdomo (p, Fender Rhodes), Ugonna Okegwo (b), Adam Cruz (ds)。米国では「現代屈指のトランペッター&フリューゲル奏者」とされるトム・ハレルのリーダー作。ハレルのワンホーン・カルテット盤になる。

リーダーのトム・ハレルであるが、現代屈指のトランペッター&フリューゲル奏者とされるが、我が国ではほとんど無名に近いのではないか。ハレルは1946年6月生まれなので、今年で76歳の大ベテラン、レジェンド級のトランペッターである。
 

Tom-harrelloak-tree

 
リーダー作も30枚以上、参加セッションは数知れず。米国では、これだけ人気の一流トランペッターなのだが、我が国では「さっぱり」である。僕は21世紀には入るまで、トム・ハレルの名前を知らなかった。

さて、このハレルの新作、聴けば、ハレルのトランペットの成熟度合い、伸びのあるストレートな音色、流麗で歌心溢れるアドリブ・フレーズ、味わい深い「間」を活かした吹き回し。確かに、大ベテラン、レジェンド級のトランペッターであることが良く判る。このトランペットは良い。もっと広く、ジャズ者の皆さんに聴いて貰いたい気持ちで一杯である。

ビ・バップ、アフロ・キューバン、クラシック志向、心地よいスムース・ジャズなど、幅広いスタイルのジャズを展開してきたが、この盤では、じっくりと落ち着いた、モーダルな「ネオ・ハードバップ」。印象的なユニゾン&ハーモニー、スムースなアドリブ・フレーズ、柔らかく落ち着いた力強い吹き回し、暖かい安らぎを感じる音世界。この新作でのハレルのトランペット、本当に良い味出してます。

ピアノのルイス・ペルドモ、ベースのウゴナ・オケグォ、ドラマーのアダム・クルーズ、この精鋭リズム隊、これまた、味わい深いリズム隊で、ハレルの暖かい安らぎのあるトランペット&フリューゲルホーンを、緩急自在、変幻自在、硬軟自在にサポートする。このリズム隊あってのハレルのトランペットである。実に良いリズム隊だ。

アルバム・タイトルが『Oak Tree』=「樫の木」。英語圏では「逆境に耐える十字架の木であったり、男性的な力と聖木として崇められていることが多い」とのこと。なんか、この新作のハレルの「柔らかく落ち着いた力強い吹き回し」に通じる、実に良いタイトルですね。ジャケットも不思議と雰囲気があって良い感じ。ハレルの晩年の代表作としても良い佳作だと思います。
 
 

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2022年9月20日 (火曜日)

意味深なエルヴィンとギャリソン

ポリリズミックなレジェンド・ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)のリーダー作を聴き直しているのだが、エルヴィンのリーダー作の基本コンセプトは「モード・ジャズ」。

それも、インパルス・レーベルからのリリースの『Coltrane』辺りの、自由度の高い、シーツ・オブ・サウンドと歌心のバランスが取れた「モード・ジャズ」。エルヴィンは「この時代のコルトレーン・ミュージック」が大好きだったんだろうなあ、とつくづく思ったりする。

Elvin Jones & Jimmy Garrison『Illumination!』(写真)。1963年8月8日の録音。ちなみにパーソネルは、Elvin Jones (ds), Jimmy Garrison (b), McCoy Tyner (p), Sonny Simmons (as, English Horn), Charles Davis (bs), William Prince Lasha (cl, fl)。

改めて、この盤を聴き直してみた。エルヴィン・ジョーンズと、ベースのジミー・ギャリソンの双頭リーダー盤。ピアノのマッコイ・タイナーが入っているので、これは、当時のコルトレーンの伝説のカルテットから、親分のコルトレーンを抜いたリズム・セクションになる。そして、フロントは、アルト・サックス or ホルン、バリトン・サックス、そして、クラリネット orフルートのフロント3管。全体でセクステット編成。

パーソネルを見渡して面白いのは、「コルトレーンの伝説のカルテット」のリズム・セクションがそのまま、この盤にスライドしているからか、律儀に親分コルトレーンの担当楽器であるテナー&ソプラノ・サックスをしっかり抜いて、フロント3管を形成している。

演奏の基本は「モード・ジャズ」。それも、親分コルトレーンの得意技「シーツ・オブ・サウンド」抜きの、モード・ジャズど真ん中の時代の「コルトレーン・サウンド」。
 

Elvin-jones-jimmy-garrisonillumination

 
限りなく高い自由度を追求したモーダルな演奏と「音楽」としての歌心を踏まえたメロディアスなフレーズを前提とした「コルトレーン・サウンド」で、ほどよくアレンジされた「ユニゾン&ハーモニーが」聴いて楽しい雰囲気を加えている。

この6重奏団の演奏、コルトレーン・サウンドを踏襲しているのだが、しっかりと親分の担当楽器と得意技をしっかり抜いている。コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当している、

エルヴィン、ギャリソン、タイナーが、コルトレーンに「親分、一緒にどうですか、こんなモード・ジャズは。俺たちは、親分と一緒にやる、こんなモード・ジャズが好きなんです」と誘っている様な雰囲気を感じるのは僕だけだろうか。

この盤の録音の後(リリースは1964年)、コルトレーンは、1963年11月に『Impressions』をリリースしていて、その内容は、グループサウンドを横に置いて、唯我独尊、フリー一歩手前の自由度の高いモーダルなフレーズを、高速シーツ・オブ・サウンドで吹きまくるという内容をライヴ録音で披露している。

コルトレーンの伝説のカルテットのリズム・セクションを担当していた、エルヴィン、ギャリソン、タイナーは戸惑ったのでは無いか。この『Impressions』の演奏内容を振り返ると、リズム・セクションは、リズム&ビートだけ正確に供給してくれるならば、誰だって良い、という感じなのだ。実はそうではないのだが、この時期のコルトレーンは、自らの志向を追求することに集中した「唯我独尊」的なパフォーマンスに偏っていた。

グループ・メンバーで、グループサウンドを楽しみながら演奏する、という、バンド・セッションの基本を、このエルヴィン&ギャリソンの『Illumination!』ではしっかりと踏襲している。きっと、ここに戻りたかったんだろうなあ、と僕はこの盤を聴く度に思うのだ。
 
 

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2022年9月17日 (土曜日)

Kyoto Jazz Sextet の新作

1960年代以降、我が国のジャズのレベルについては高いものがある。戦前、スイング・ジャズに親しんでいた下地があり、1950年代からの進駐軍経由での本場のジャズの生の経験を活かして、ジャズについては、演奏する方も、鑑賞する方も、米国に次ぐレベルにあったのでは無いか、と感じている。

1970年代に入っても、演奏する方については、米国ジャズ、特に東海岸ジャズに憧れを持ち、米国ジャズのトレンドを追いかけていた。和ジャズならではのオリジナリティーは、まだ確立されてはいない。

和ジャズならではの個性を持ち始めたのは、1990年代に入ってからではないだろうか。1980年代半ばに、米国で「純ジャズ復古」が成った訳だが、この時点で、和ジャズは米国ジャズを追いかけるのでは無く、並走する様になった。

そして、21世紀に入って、山中千尋のデビュー以降、優れた女性ジャズ・ミュージシャンが多数現れ出でて、この女性ジャズ・ミュージシャンが中心となって、21世紀の和ジャズの独特の個性を持つようになる。そして、現在、今でも、和ジャズは独特の個性を保ちつつ、米国ジャズ、欧州ジャズと並走を続けている。
 

Kyoto-jazz-sextetsuccession

 
Kyoto Jazz Sextet『SUCCESSION』(写真左)。2021年11月、2022年1月の録音。ちなみにパーソネルは、類家心平 (tp), 栗原 健 (ts), 平戸祐介 (p), 小泉P克人 (b), 沖野修也(vision, sound effect on 渡良瀬)、そして、featuring 森山威男 (ds)。Kyoto Jazz Sextetの 5年ぶりの新作。Kyoto Jazz Sextetは「ジャズの現在」を表現することをコンセプトとしている。

この新作の音の雰囲気は「コルトレーン・ジャズ」。モード・ジャズを極め、シーツ・オブ・サウンドを極めた、フリー&スピリチュアルに走る直前の、メインストリーム系ジャズの最先端を走っていた頃の「コルトレーン・ジャズ」。ただ、かっての新伝承派の様に、過去のモード・ジャズを焼き直すのでは無く、Kyoto Jazz Sextetならではの解釈で「コルトレーン・ジャズ」をやっている。

特に、フロント2管とピアノは「コルトレーン・ジャズ」の響きをしっかりと宿している。ノンビリ聴いていたら、コルトレーンとマッコイ・タイナーを彷彿とさせる部分があって、あれれ、と思う。但し、コルトレーンの様に「鬼気迫る」ところは無く、出てくるフレーズは洗練されていて、シンプルで判り易い。

「コルトレーン・ジャズ」の「和ジャズの21世紀ならではの解釈」盤が出てくるとは。新しさは感じ無いが、和ジャズの演奏する側のレベルの高さを再認識させてくれる好盤ではある。
 
 

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2022年9月14日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・249

エルヴィン・ジョーンズのリーダー作を聴き直していて、ドラマーのリーダー作って、面白いなあ、って思う。どれだけ、様々なジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応出来るかが、ジャズ・ドラマーとしての「優秀度合い」の指標のひとつになるんじゃないか、と感じている。

優秀なドラマーであればあるほど、様々なジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を出している。1枚1枚、リリース毎に異なったジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を制作するドラマーもいるし、長年の活動の中で、それぞれの時代時代によって、その時代のジャズの演奏方式や演奏トレンドに対応したリーダー作を制作するドラマーもいる。

Al Foster Quintet『Reflections』(写真左)。2022年1月25日、NYでの録音。Smoke Sessions Recordsからのリリース。 ちなみにパーソネルは、Al Foster (ds), Nicholas Payton (tp), Chris Potter (ts,ss), Kevin Hays (p), Vincent Archer (b)。今年79歳になる伝説のジャズ・ドラマー、アル・フォスターがリーダー、2管フロントのクインテット編成である。

マイルスが信頼を寄せ、ロリンズ、タイナー、ジョーヘンら、レジェンド級ジャズマンと共演してきた、伝説のジャズ・ドラマーであるアル・フォスター。フォスターについては、リーダー作は多く無い。今回のこの新盤で、確か8枚目ではないか。逆に共演は多い。僕は、やはり、マイルスとの共演での「趣味の良いジャズ・ファンクなビシバシドラム」が印象に残っている。

で、今回の新リーダー作を聴いてみて、マイルス・バンドでの「趣味の良いジャズ・ファンクなビシバシドラム」は何処へやら、ポリリズミックで柔軟度の高い、エネルギッシュで「小粋な」ドラミング。アルバムの演奏トレンドは「ネオ・ハードバップのモード・ジャズ」。
 

Al-foster-quintetreflections

 
この盤でのアル・フォスターのドラムは、モード・ジャズに完璧に対応し、21世紀のモーダルなドラミングをきっちり披露している。今年79歳になる、大ベテランのドラミングとは思えないほど、ダイナミックでエネルギッシュ。

パーソネルを事前に確認せずに、この新盤を聴いたのだが、アル・フォスターの見事なドラミングがしっかりと耳に残ったのと、フロントの2管、トランペットとサックスの見事なモーダル・フレーズが強く印象に残った。見事というのは、1960年代のモードでは無い、新伝承派のモードの焼き直しでも無い、純粋に「21世紀のネオハードバップにおけるモード」なフレーズを吹き分けているところ。

トランペットは「ニコラス・ペイトン」、今年49歳のハイテクニックな中堅。サックスは「クリス・ポッター」、今年51歳のリリカルで力感溢れるテナーマン。どちらも若い頃から第一線で活躍してきたジャズマンだが、ここまで、コンテンポラリーで新しい響きのモーダルなフレーズを吹きまくるとは思わなかった。

そんなフロント2管を硬軟自在、変幻自在、緩急自在にサポートし、鼓舞するアル・フォスターのドラミング。これが、これまた余裕をかました見事なドラミングで、柔軟度の高いポリリズムが、ピアノのケビン・ヘイズ、ベースのヴィンセント・アーチャーと共に、フロント2管のフレーズをがっちり掴んで、がっちりリードする。

しかし、アル・フォスターの「21世紀のネオハードバップにおけるモード」に完全対応したドラミングを聴いて、優れたドラマーって、全く隅に置けないなあ、という思いを再認識した。それほど、この新盤における、アル・フォスターの変幻自在なドラミングは素晴らしい。アル・フォスターという伝説のドラマー、まだまだ現役バリバリである。
 
 

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