2022年8月16日 (火曜日)

硬派な欧州のモード・ジャズ

ダスコ・ゴイコヴィッチ(Dusko Goykovich)は1931年生まれ、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のトランペット、フリューゲルホーン奏者。「バルカン〜ヨーロッパ的哀愁に満ちたフレーズ」と「テクニック優秀+力強く高速なフレーズ」とが融合した、東欧出身でありながら、正統なバップ・トランペットの名手である。

僕はこのゴイコヴィッチには、今を去ること40年ほど前、ジャズを聴き始めた頃に出会っている。大学近くの「秘密の喫茶店」だった。この喫茶店、不思議な喫茶店で、1980年前後で、スティープルチェイス・レーベルやエンヤ・レーベルのLPが結構あって、まだジャズ者初心者ワッペンほやほやの僕に、欧州ジャズの名盤を積極的に聴かせてくれた。感謝である。

Dusko Goykovich『It's About Blues Time』(写真)。1971年11月8日、スペイン・バルセロナでの録音。エンヤ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Dusko Goykovich (tp), Ferdinand Powell (ts), Tete Montoliu (p), Robert Langereis (b), Joe Nay (ds)。リーダーのゴイコヴィッチのトランペット、ポヴェルのテナーがフロント2管のクインテット編成。

このクインテット、トランペットのゴイコヴィッチが旧ユーゴスラビア、テナーのポヴェルがオランダ、ピアノのモントリューがスペイン・カタルーニャ出身、ベースのラングレイスはオランダ出身、ドラムのネイはドイツ出身。オール欧州のクインテットである。

で、この完璧なオール欧州のクインテットが、バリバリ硬派なメンストリーム志向の純ジャズをやるのだから、ビックリである。この盤を初めて聴いたのは、1990年代だが、最初は「内容のある硬派なモード・ジャズやなあ」と思ったが、ファンクネスが皆無なのが気になった。
 

Dusko-goykovichits-about-blues-time

 
日本のジャズでも乾いたファンクネスは仄かに漂うのだが、と思って、レーベルを見たら「Enja」とある。この硬派なモード・ジャズが欧州ジャズ出身なのか、と驚いた。録音当時の欧州ジャズのレベルの高さを再認識した。名盤『アフター・アワーズ』(2021年1月3日のブログ参照)と同じ1971年にスペインで録音された姉妹盤的な内容である。納得である。

本場米国のモード・ジャズよりも端正で硬質。恐らく、クラシック音楽や現代音楽の影響が、米国よりも欧州の方が強いのだろう。それもそのはずで、かなりの確率で、欧州のジャズマンは、何らかの形でクラシック音楽に関わっている。欧州のジャズマンは、基本的に演奏テクニックが半端ないのだ。

ゴイコヴィッチのトランペットがバルカン〜ヨーロッパ的哀愁に満ちたフレーズをモーダルに吹きまくる。「Old Folks」のミュート・プレイも絶品。「Bosna Calling」はエキゾチックなバルカン的哀愁なフレーズが個性的。バップ・ナンバー「The End Of Love」でのハードバッパーな吹きっぷり。

テテ・モントリューのピアノが、様々なバリエーションのモーダルなフレーズを叩き出す。このテテのパフォーマンスが見事。チック、若しくはキースに匹敵するモードなフレーズの弾き回しの多彩さに驚き、その確かさに感心する。凄いピアニストが欧州のスペインにいる。欧州ジャズの奥の深さを感じて、1990年代以降、僕は欧州ジャズにもどっぷり填まっていく。

ファンクネス皆無の硬派な欧州のモード・ジャズ。どの演奏もモーダルでスインギー。そんな欧州ジャズの優れた演奏が、このゴイコヴィッチのリーダー作にてんこ盛り。これが、1971年の演奏である。当時の欧州ジャズのレベルの高さとモダン・ジャズに対する人気の高さを改めて再認識する。
 
 

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2022年4月 2日 (土曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・1

以前から、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で取り上げられることが滅多に無いジャズの優秀盤をピックアップして、「小粋なジャズ」と名付けて流しているのだが、この「小粋なジャズ」の対象になるジャズ盤って、結構あるから面白い。ネットの時代になって、海外でリリースされたジャズ盤の情報が入手出来る様になって、更にその数は増えているから楽しい。

Jerome Richardson with Tete Montoliu Trio『Groovin' High In Barcelona』(写真左)。1988年5月22日、スペイン・バルセロナの「Estudi Gema」での録音。ちなみにパーソネルは、Jerome Richardson (as, ss), Tete Montoliu (p), Reggie Johnson (b), Alvin Queen (ds)。ジェローム・リチャードソンのサックスがフロント1管のカルテット編成。

Jerome Richardson(ジェローム・リチャードソン)は、米国出身のサックス奏者。1920年11月生まれで、2000年6月、79歳で惜しくも逝去している。リーダー作は5枚程度と少ない。しかし、サイドマンとして参加したアルバムは相当数に登る。僕はこのサックス奏者の名前を、ファンク・フュージョンの人気バンド、Crusadersの『Street Life』での冒頭タイトル曲でのアルト・サックスの印象的なブロウで知った。
 

Groovinhigh-in-barcelona

 
Tete Montoliu(テテ・モントリュー)は、スペイン・バルセロナ出身の盲目のバップ・ピアニスト。欧州ジャズの中でのネオ・ハードバップなバップ・ピアノが見事で、僕の大好きなピアニストの1人だ。そんなテテのピアノが、この盤の冒頭1曲目の「A Child is Born」の前奏から炸裂する。タッチは硬質でアタックが強いが、右手のフレーズは変則的に流麗。独特の音の飛ばし方が堪らない。この盤全般に渡って、テテのピアノがリチャードソンのサックスを好サポートしている。

リチャードソンのサックスがとても良い。テクニックは確か、音は少し丸みがあって、ストレートで凄く聴き心地が良い。時々、引用のユーモアを交えながら、魅力的なフレーズを吹きまくっている。速いフレーズも、ゆったりとしたフレーズも淀みや揺らぎや迷いが無く、スッと真っ直ぐに吹き切るリチャードソンのサックスは爽快だ。テテのピアノとの相性も抜群で、欧州ジャズの「ネオ・ハードバップ」な演奏のレベルの高さを実感する。

ベースのレジー・ジョンソン、ドラムのアルヴィン・クイーンも好演につぐ好演で、このクインテットの演奏のスイング感とグルーヴ感は「癖になる」。切れ味良く、クールで透明感があって、端正で明確。そんな欧州ジャズのハードバップの良いところがグッと凝縮されたような優秀盤です。こういう盤を「小粋なジャズ」盤って言うんだろうな。何度聴いても味わい深く、聴く度に新しい発見があります。
 
 

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2021年9月15日 (水曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・94

ジャズ盤、クラシック盤、ロック盤等々、どの音楽ジャンルの盤でも、最初に聴いて感じたイメージと、しばらく時間を経て聞き直した時のイメージが大きく変わることがある。そして、その場合、最初に聴いたイメージよりも、イメージが良くなるケースが多い。

最初に聴いた時「こりゃアカンなあ」と感じた悪いイメージは、その後、聴き直した時も強く残る。つまり「悪いイメージ」って、初めて聴いた時、直感的に強く感じて残るイメージなんだろう。

逆に聴き直した後、良くなるイメージは、初めて聴いた時、当方の「耳」が成熟していなくて、その盤の持つ「良さ」に気が付かなかった場合が多い。ということで、初めて聴いた時の「良好盤」は、ある程度の時間をおいて、積極的に聴き直すことにしている。

Tete Montoliu『Tete!』(写真左)。1974年5月28日の録音。SteeplechaseのSCS1029番。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert 'Tootie' Heath (ds)。この盤でのテテのパートナーは、これまた「超絶技巧」の骨太なレジェンド級ベーシストのペデルセン。そして「職人芸」玄人好みのドラマーのアルバート・ヒース。

この盤を聴き直して、この盤の持つ「本来の素晴らしさ」を改めて知った。というか、素晴らしさの「深度」が更に深まったと言って良いかと思う。こんなところは絶対に聴き逃していたなあ、とか、このポイントは聴き流してしまったなあ、と深く反省する「評価ポイント」が色々出てきたのだ。今回、聴き直して良かったなあ、としみじみ思ってしまった。

テテのピアノは硬質で骨太なタッチ。疾走感溢れる高速フレーズ。ダンディズム溢れるスイング感。圧倒的に優れたテクニック。そして、バラード演奏については透明感溢れる歌心。スペイン出身のピアニストなので、ファンクネスは皆無。切れ味の良い透明感とエッジのほど良く立った硬質なタッチ。こんなピアノは初めて聴いた。とことん欧州的なジャズ・ピアノである。
 

Tete_20210915202001

 
このテテのピアノで、この盤では「コルトレーンのシーツ・オブ・サウンド」をトリビュートしているみたいなのだ。それはテテのピアノの個性に加えて、テテのピアノのベースを支えるペデルセンの骨太&ハイ・テクニックなベースと、変幻自在、硬軟自在な柔軟性と適応力の高いヒースのドラミングに負うところが大きいのだが、とにかくトリオ一体になっての「シーツ・オブ・サウンド」は迫力満点。

冒頭の「Giant Steps」は、コルトレーン独特のテナー吹奏のテクニックである「シーツ・オブ・サウンド」を駆使した決定的名演なんだが、テテは超絶技巧なピアノで、この「シーツ・オブ・サウンド」な名曲を弾き切ってみせる。というか、コルトレーンのオリジナルよりも、豊かなバリエーションでの「シーツ・オブ・サウンド」で弾き回しているのには感動した。

3曲目の超スタンダード曲「Body and Soul」も高速「シーツ・オブ・サウンド」なフレーズの連続。それでいて、高速フレーズが実に「スインギー」。こんなに高速でスクエアにスインギーなアドリブ・フレーズを擁した「Body and Soul」は聴いた事が無い。実にユニーク、かつ圧巻である。

逆に、2曲目の「Theme for Ernie」はバラード曲。さぞかし、高速フレーズの得意なテテには苦手なジャンルでは無いか、と思うのだが、そんなことは全く無い。全くの「杞憂」である。テテの硬質で骨太なタッチ、ダンディズム溢れるスイング感をベースに、クールでドラマチックで切れ味の良いバラード演奏を披露してくれる。このテテのバラード演奏、本当に「聴きもの」である。

そして、5曲目の「I Remember Clifford」はアレンジの勝利。テテのピアノの個性を活かしたアレンジは絶品。どちらかと言えば、センチメンタルでスイートなバラード曲であるが、これをダンディズム溢れるスインギーで「シーツ・オブ・サウンド」なテクニックで斬新な解釈をしている。こんなにダンディズム溢れる切れ味の良い、それでいて仄かに温かみのある「I Remember Clifford」は聴いたことが無い。

このアルバムは「カタルーニャの秘めた激情」テテ・モントリューの傑作の一枚。今回、久し振りに聴き直してみて、この盤の持つ「本来の素晴らしさ」を改めて知った。謹んで「ピアノ・トリオの代表的名盤」入りをさせていただきたい。
 
 
 
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2021年9月 7日 (火曜日)

テテの秀作「カタロニアの火」

Tete Montoliu(テテ・モントリュー)。スペインのカタロニア生まれの盲目のピアニスト。1933年3月生まれ。1997年8月に64歳で逝去している。僕がテテを初めて聴いたのは1990年代。紙ジャケ・ブームに乗って、スティープルチェイス・レーベルの名盤が一斉にリリースされた時に、テテのリーダー作を何枚か手に入れた。

テテのピアノにはビックリした。硬質で骨太なタッチ。疾走感溢れる高速フレーズ。ダンディズム溢れるスイング感。圧倒的に優れたテクニック。そして、バラード演奏については透明感溢れる歌心。スペイン出身のピアニストなので、ファンクネスは皆無。切れ味の良い透明感とエッジのほど良く立った硬質なタッチ。こんなピアノは初めて聴いた。とことん欧州的なジャズ・ピアノである。

Tete Montoliu『Catalonian Fire』(写真左)。Steeplechaseレーベルからのリリース。SCS1017番。1974年5月26日、コペンハーゲンの「Rosenberg Studie」での録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert Heath (ds)。テテのteeplechaseレーベルの第一弾。テテのピアノの個性が良く判る、シンプルなトリオ編成である。
 

Catalonian-fire

 
アルバムタイトルが「カタロニアの火」。テテのピアノに対する比喩であろう。トリオ演奏であるが故、テテのピアノの個性が良く判る。テクニックはオスカー・ピーターソンに引けを取らない。速いフレーズはバリバリ弾きまくる。バラード曲はダンディズム溢れる歌心。モーダルで陰影のハッキリしたフレーズ表現。左での打鍵は重いが切れ味良くパッキパキに硬質。テテの唯一無二の個性だろう。

特にスタンダード曲の解釈がユニークだ。「Sweet Georgia Fame」「A Nightingale Sang in Berkeley Square」「Falling in Love With Love」「Old Folks」そして「Body and Soul」、それぞれ、米国ハードバップの数ある先達の演奏イメージに全く無い、テテならではの独特の解釈とアレンジがこの盤に詰まっている。聴けば「なるほど」と感心する正統なアレンジで、このアレンジ能力もテテの才能のひとつだと言える。

我が国では人気は芳しく無いが(これが不思議なんだが)、これだけの個性とパフォーマンスを発揮するジャズ・ピアニストはそうそういない。スティープルチェイスの総帥プロデューサー、ニルス・ウィンターに可愛がられ、スティープルチェイスに膨大なアルバムを残しているのは有り難いことである。
 
 
 
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2021年1月 3日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・195

欧州ジャズは面白い。米国ジャズに無い、というか、ほとんど正反対の響きと展開がある。欧州ジャズは国毎に個性がある。米国ジャズは「アフリカンアメリカン」の独特のリズムや調べが反映されているが、欧州ジャズは、その国の民謡や踊りの旋律、民族の持つ独特の調べ、それらがジャズのフレーズにリズムに反映される。

Dusko Goykovich『After Hours』(写真)。1971年11月9日、バルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Dusko Goykovich (tp), Tete Montoliu (p), Rob Langereis (b), Joe Nay (ds)。バルカンのジャズの至宝、旧ユーゴスラビア、現在はボスニア・ヘルツェゴビナのヤイチェ出身のトランペッター、ダスコ・ゴイコヴィッチのリーダー作。

パーソネルの出身地を追ってみると面白い。ピアノのテテ・モントリューはスペインのカタロニア生まれの盲目のピアニスト。ベースのロブ・ランゲライスはオランダのアムステルダム出身、ドラムのジョー・ネイは、ドイツのベルリン出身。このトランペットのフロント一管のワンホーン・カルテットは、ボスニア・ヘルツェゴビナ+スペイン+オランダ+ドイツの「多国籍軍」である。
 
 
After-hours  
 
 
欧州ジャズは国毎に個性があるので、さぞかし「国毎の個性」のごった煮だと思いきや、さすがにリーダーの統制がしっかり効いた、バルカンの調べをメインにした、心地良い哀愁感漂う、規律の取れたジャズに仕上がっている。恐らく「哀愁感」については、欧州各国の共通の音の個性のようで、この「哀愁感」の一点で、このカルテットの演奏は確実に意思統一されている。

リーダーのゴイコヴィッチのトランペットは極上。テクニックは確か、フレーズは個性的で流麗、特に独特の旋律の展開と欧州を感じる独特のマイナー感は「バルカン」独特の調べ。これをジャズのフレーズに置き換えて、実に印象的なゴイコヴィッチならではのジャズに昇華している。このトランペットは米国には無い。欧州独特な、それも東欧独特な響きである。

僕はこの盤を20歳そこそこな頃、ジャズ喫茶で聴かせて貰った思い出がある。それまで米国ジャズ一辺倒、米国ジャズだけが「ジャズ」だと思っていた。が、この盤を聴かせて貰って見識を改めた、というか、見識が一気に広まった。ジャズは米国だけではない、欧州にもその拡がりがあるのだということを知った。そして、その「欧州ジャズ」は個性的でアーティステックなものだということも知った。
 
 
 

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  ・『Middle Man』 1980

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.12.08 更新。

  ・ジョン・レノンの40回目の命日

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.10.07 更新。

  ・僕達はタツローの源へ遡った

 

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2020年3月29日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・81

昨年の10月にスペインに旅行し、その中でバルセロナを訪れた。なかなかツアーでは訪れることのない「カタルーニャ音楽堂」を見学することが出来て、感激の極みであった。その「カタルーニャ音楽堂」の見学順路の壁にジャズ・ピアニストらしき写真があった。テテ・モントリューであった。そう言えば、彼は1997年に、この「カタルーニャ音楽堂」でソロ・ピアノ盤を録音している。

テテ・モントリューは、カタルーニャのバルセロナ出身のジャズ・ピアノの巨匠である。惜しくも1997年8月に64歳で逝去しているが、1965年に初リーダー作でデビュー以来、逝去する1997年まで、32年の長きに渡って欧米で活躍した、ジャズ・ピアノのレジェンド。端正で力強いタッチの中、スペイン音楽に聴かれる様な、哀愁感漂うスパニッシュな響きがほんのりと香る、ハードバップでモーダルなピアノの調べは、欧州ならでは、スペイン出身ならでは個性。

Tete Montoliu 『Catalonian Rhapsody』(写真左)。1992年3月8日、スペインはバルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Hein Van de Geyn (b), Idris Muhammad (ds)。日本のヴィーナス・レコードからのリリース。タイトルはズバリ、モントリューの故郷である「カタルーニャ」を採用している。タイトルから判る様に、この盤は、モントリューが、カタルーニャ地方の哀愁のメロディを、ピアノ・トリオで存分に表現したもの。
 
 
Catalonian-rhapsody  
 
 
選曲を見渡すと、ヴィーナス・レコードらしからぬ、有名なスタンダード曲が見当たらない。1曲目「The Lady From Aragon (La Mama D'Arago)」から、5曲目「Song Of The Robber (La Canso Del Lladre)」までが、カタロニア地方の伝承曲を基にした演奏になっている。この5曲については、哀愁感漂うスパニッシュ風ではあるが、ちょっと独特な響きが宿るカタルーニャ独特の響きがユニーク。ついつい聴き惚れる。

残りの3曲のうち、2曲はカタルーニャの作曲家「Joan Manuel Serrat」の作、残りの1曲はモントリュー自身の作。つまりは、この盤はタイトル通り「カタルーニャの狂詩曲」である。これが良い。モントリューが故郷のカタルーニャをピアノ・トリオで、ジャズで表現する。そして、このトリオ演奏の内容が濃い。トリオの3者共に好調で、硬軟自在、縦横無尽のインタープレイが素晴らしい。

逝去の5年前とは言え、モントリューのピアノは好調を維持している。モントリューは僕のお気に入りのピアニストの一人で、昔から聴き親しんで来たが、この『Catalonian Rhapsody』という盤、モントリューのリーダー作の中で屈指の出来だと僕は思う。ヴィーナス・レコードからのリリースだから、という先入観だけで、この盤を遠ざけるのは勿体ない。久々に「ピアノ・トリオの代表的名盤」としてアップしたい。
 
 
 

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【更新しました】2020.03.29
  ★ まだまだロックキッズ ・・・・ ELP「恐怖の頭脳改革」である

【更新しました】2020.03.15
  ★ 青春のかけら達 ・・・・ チューリップ『魔法の黄色い靴』
 

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2019年10月15日 (火曜日)

テテの個性が集約された好盤

スペインのカタルーニャ地方が不穏である。カタルーニャ独立派幹部に長期禁錮刑。バルセロナで抗議デモ。カタルーニャ地方の事情を察すれば納得できる出来事ではある。何とか円満に解決する方策は無いものだろうか。

スペイン、カタルーニャ地方出身のジャズマンと言えば「Tete Montoliu(テテ・モントリュー)」。盲目のピアニスト。1933年生まれ。1997年、64歳で没。生まれた時から盲目であった。テテはTHE Conservatori Superior de Musica de Barcelona音楽学校でジャズと出会う。彼のピアノ・スタイルは、特にアメリカのジャズピアニストのアート・テイタムに影響を受けている。

テテのピアノは「超絶技巧」。超光速「速弾き」。限りなく端正なフレーズの連続。破綻は全く無い。確かにアート・テイタムを彷彿とさせるが、テイタムの超絶技巧な弾きっぷりよりも、より歌心が溢れている。スペインの出身であるが、スパニッシュな要素は殆ど無い。フレーズは限りなく硬質で、あくまで「クール」。それでいてスインギー。
 
 
Tete  
 
 
Tete Montoliu『Tete!』(写真左)。1974年5月28日の録音。SteeplechaseのSCS1029番。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert 'Tootie' Heath (ds)。この盤でのテテのパートナーは、これまた「調節技巧」ベーシスト、ペデルセン、これまた「職人芸」ドラマー、アルバート・ヒース。

胸の空くような快演の数々。冒頭の「Giant Steps」は、かのコルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」の名曲なんだが、テテはピアノで、光速「シーツ・オブ・サウンド」を弾き切ってみせる。演奏が終わって思わず「スタンディング・オベーション」。3曲目の「Body and Soul」も高速フレーズの連続。こんなに硬質でクールでスクエアにスインギーな「Body and Soul」は聴いた事が無い。

5曲目の「I Remember Clifford」は絶品。硬質でクールで端正なタッチで、情感溢れるバラード曲を弾き切ってみせる。クールでスクエアなスイング感の中に、仄かに漂う歌心と情感。これがテテの真骨頂。テテのピアノの個性が集約された名演である。

このアルバム『Tete!』は、テテの個性を体感するに最適な好盤である。「カタルーニャの秘めた激情」。
 
 
 
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2018年12月11日 (火曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・75

昨日の『Body & Soul』から続いて、テテ・モントリューのピアノ・トリオ盤のご紹介。テテ・モントリューは、スペインのカタロニア出身のジャズ・ピアニスト。テテのピアノはハイ・テクニックで流麗で「多弁」。乗ってきたら、速いフレーズをガンガンに弾きまくる。テクニックが伴っているのと、紡ぎ出されるフレーズが流麗なので、あまり耳に付かない。タッチが確実なのでバラードの演奏については、アドリブ・フレーズがクッキリ浮かび出て、とても聴き易い。

Tete Montoliu『Recordando a Line』(写真左)。邦題『リネの想い出』。1972年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Erich Peter (b), Joe Nay (ds)。昨日ご紹介した『Body & Soul』の次に来る位置づけのピアノ・トリオ盤。これがまあ、テテ・モントリューの初期の傑作の一枚なのだ。

テテのピアノは「多弁」。弾きすぎる、という批判もある位なのだが、テクニックが優秀なので耳に付かない。しかし、この盤ではテテは少し抑え気味に速いフレーズを弾く。これが「品がある」音なのだ。ピアノ・ソロもトリオ演奏も、この盤のテテはいつにも増して品がある。力強い確かなタッチに品が備わって、それはそれは素敵な音のピアノ・トリオ盤に仕上がっている。
 

Recordando_a_line

 
加えて、選曲が良い。テテの品の備わった、力強い確かなタッチが映えに映えるスタンダード曲がズラリと並ぶ。しかも「失恋のラヴ・ソング」が多い。これがこの盤の「ミソ」なのだ。テテが「少し抑え気味に速いフレーズを弾く」のは、この「失恋のラヴ・ソング」の歌詞をしっかりと噛みしめるように弾き進めるためなのだ。僕はそう理解した。合点がいった。

この盤のキャッチフレーズにも挙がっている2曲が特に優秀。しっとりとした品の良いタッチが白眉の「アイ・シュッド・ケア」、ブロッサム・ディアリーのオリジナル・バラードを優れたテクニックで速弾きワルツに仕立て直した、疾走感&爽快感が素敵な「スウィート・ジョージイ・フェイム」。そうそう、シンプルなアレンジでスッとした佇まいの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」も印象的な出来。収録されたスタンダード曲の全てが良い感じなのだ。

誰もいない海でひとり佇むテテ。1933年生まれのテテはこの盤の録音時は31歳。若手から中堅へとステップアップする時期での素晴らしいトリオ盤である。我が国では人気があるとは言えないテテ・モントリューではあるが、このトリオ盤を聴けば、その印象は完全に払拭される。ピアノ・トリオ演奏の良いところがギッシリと詰まった好盤である。
 
 
 
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2018年12月10日 (月曜日)

テテの初期の傑作ライブ盤

テテ・モントリューは、スペインのカタロニア出身のジャズ・ピアニスト。生まれた時から盲目であったが、彼のプレイを聴くと判るが、とても盲目のピアニストとは思えない、速弾きで多弁なフレーズが得意中の得意。彼が盲目と知ったのは、彼のプレイに出会ってから15年も経った後だったが、盲目と知った時は思わず「絶句」した。1933年生まれなので、生きていれば85歳。しかしながら、1997年、64歳で鬼籍に入っている。

テテのピアノはハイ・テクニックで「多弁」。乗ってきたら、速いフレーズをガンガンに弾きまくる。ただ、テクニックが伴っているのと、紡ぎ出されるフレーズが流麗なので、あまり耳に付かない。タッチが確実なのでバラードの演奏については、アドリブ・フレーズがクッキリ浮かび出て、とても聴き易い。

Tete Montoliu『Body & Soul』(写真左)。1971年4月、ミュンヘン「ドミシル」でのライブ録音。1983年にドイツのジャズ・レーベル「Enja Records」からリリースされている。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), George Mraz (b), Joe Nay (ds)。ピアノのテテはスペイン、ベースのムラーツはチェコ、ドラムのネイはドイツ。さすがは欧州ジャズ、多国籍ピアノ・トリオである。
 

Tete_body_soul

 
ソロ演奏とトリオ演奏の混成であるが、どちらも聴きどころ満載。テテ特有の多弁で流麗なフレーズが心ゆくまで楽しめる。とにかくテクニックに優れていて、速弾きが素晴らしい。揺らぎやミスタッチが皆無なのだ。テテって盲目なんです。このカッ飛んだ高速フレーズの正確さってどうよ、って驚くことしきり。この盤では、そんな速弾きをちょっと抑え気味で展開しているので、その凄みが倍増して聴き応え満点。

バックの演奏も聴きもの。ムラーツのベースは硬質で粘りがあって骨太なベース。鋼の様なしなりでブンブン胴鳴りをさせたウォーキング・ベースは迫力満点。ノイのドラムは多彩で堅実、丁寧だがダイナミック。ムラーツのベースもノイのドラムもテテの多弁で流麗な、迫力あるピアノに決して負けていない。

3者対等のピアノ・トリオ。その演奏の迫力たるや、素晴らしいものがある。録音した年は1971年。米国では商業ロックの台頭により、ジャズは混沌とした時代に入り、ポップス音楽としてのシェアを急速に落としていった頃。そんな時代に欧州ではこんなに内容のある純ジャズが演奏されていたんですね。ライブ会場の雰囲気も良く、少しマイルドになったテテのピアノがとても素敵に響きます。好盤です。
 
 
 
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2018年9月13日 (木曜日)

改めて聴く『Tête à Tete』

このところ、テテ・モントリューを聴き直している。というか、もともとちゃんと聴き込んでいなかったらしく、テテのピアノを聴いて、最初は違和感だらけ。テテはスペイン出身なので、もう少しスパニッシュな響きがフレーズに反映されていると思っていたのだが、意外とあっさりしている。耽美的な弾き回しかと思っていたら、バリバリ、ダイナミックに弾きまくる。あれれ、どうもこれは勉強の仕直しですな。

Tete Montoliu『Tête à Tete』(写真左)。1976年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert Heath (ds)。

テテ・モントリューはスペインはカタロニア出身、ベースのペデルセンはデンマーク出身、ドラムのアルバート・ヒースは米国出身ながら、1974年にスウェーデンに移住している。ということで、このピアノ・トリオはヨーロピアンなピアノ・トリオである。

このテテのピアノ・トリオ盤はジャズを聴き始めた頃に入手している。でも、当時、まだヨーロピアンなピアノ・トリオ盤に慣れていなかったことと、ジャズ者初心者が故に、米国ジャズ偏重の傾向があったため、この盤はあまり聴き込まなかった。不明を恥じるばかりである。当時、スティープルチェイス盤ってなかなか手に入らなかったのに勿体ない話である。
 

Tete_a_tete

 
いきなり冒頭の「What's New」の出だしのピアノのフレーズを聴くだけで、この盤は「いけてる」盤だと確信する。堅実で深いタッチ、爽快感溢れる弾き回し、よく回る指。しっかりとフレーズが響き、速い弾き回しも破綻が無い。これは良い。改めて、この『Tête à Tete』を聴いて、テテ・モントリューのピアノがとても魅力的に耳に響く。

ペデルセンのベースが凄く良い音。鋼の様な硬質な響きを振り撒きながら、ブンブンと唸るようにウォーキング・ベースを弾き進める。しかも、ピッチはバッチリ合っていて、リズム感もバッチリ合っていて揺らぎが無い。この魅力的な欧州的ベースを得て、テテは気持ちよさそうに弾き回す。

アルバート・ヒースのドラムも良い。ソリッドで粘らない、タイトで硬質なドラミングは明らかに欧州的。コーン、カーンと乾いた新のあるスネアの音が気持ち良く響く。多彩な技を繰り出してもリズム&ビートが破綻することは無い。

そう、テテのピアノ・トリオって、テテのピアノを始めとして、ペデルセンのベースもヒースのドラムも「良い音」してるんですよね。良い音に勝るジャズは無い。この『Tête à Tete』を改めて聴いて、感心することしきり。さあ、頑張ってテテのリーダー作を聴き直すぞ。
 
 
 
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