1966年のドナルド・バード
ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッターだった。トランペッターとして、テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。
そんなドナルド・バード、ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース、その後、ファンキー・ジャズに手を染め、モード・ジャズにもチャレンジする。そうこうしているうちに、ジャズロック、ソウル・ジャズに移行し、最終的にはジャズ・ファンクを推し進める。常に時代毎のジャズのトレンド、流行を敏感に察知して、その音志向を変化、転化させていった。
Donald Byrd『Mustang!』(写真左)。1966年6月24日の録音(ボートラは除く)。ブルーノートの4238番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), McCoy Tyner (p), Walter Booker (b), Freddie Waits (ds)。リーダーのバードのトランペットと、珍しいソニー・レッドのアルト・サックス、そして、モブレーのテナー・サックスの3管フロントのセクステット編成。
録音年は1966年。ジャズの多様化が進み、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズが下降線を辿り出した頃である。冒頭のタイトル曲「Mustang」はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましている。ソニー・レッドの作曲とはちょっと驚く。
ジャケの雰囲気からして、この盤、ジャズ・ロック集か、と思いきや、2曲目からは、硬派でメインストリームな純ジャズが展開されている。2曲目の「Fly Little Bird Fly」は、出だしからマッコイ・タイナーのピアノが、バンド演奏全体を牽引するスピード感溢れる演奏。
3曲目の「I Got It Bad And That Ain't Good」はスタンダード曲。タイナーのピアノが美しいフレーズを弾き進めていて立派。タイナーの優れたバッキングの下、ドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブレーのテナー・サックスが、美しく味わい深くリリカルなバラード・フレーズを吹き上げていく。やはり、なんといっても、タイナーのピアノが素晴らしい。
以降、LPのB面の1曲目、CDでは4曲めの「Dixie Lee」は、再び、こってこてのジャズ・ロック。こちらは、ドナルド・バードの作曲。ノリの良いキャッチーなフレーズの連発で、思わず、足が動き、体が揺れる。俗っぽいが、聴いて楽しいジャズ・ロック。
続く「On The Trail」は、グローフェの「グランド・キャニオン組曲」の中の1曲で、スタンダード化された秀曲。ユニゾン&ハーモニー、コール・アンド・レスポンスにチェイス、小粋でセンスの良い3管フロントのパフォーマンスが良い。特にレッドとモブレーが元気に飛ばしまくっているのが印象的。
ラストは「I'm So Excited By You」で、明確にストレート・アヘッドなハードバップ・チューン。このハードバップな、流麗な演奏を聴いていると、ハードバップな演奏って、この時点では既に洗練し尽くされ、極められ尽くされた感を強く感じる。
改めて、この盤を振り返ってみると、1966年という録音年で、ジャズ・ロックと洗練されたハードバップのカップリングな内容というのが面白い。ハードバップな演奏には、ファンキー・ジャズな雰囲気は見え隠れするが、モード・ジャズは影も形もない。まあ、このパーソネルだと、タイナー以外、モーダルな演奏は苦手そうなんで、この演奏構成が一番フィットしたんだろう。
今の耳で聴いて、単純に楽しく聴ける佳作だと思う。難しいことを考えずに「古き良きジャズを感じることが出来る」好盤です。
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