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2016年4月15日 (金曜日)

ながら聴きのジャズも良い・2

ジャズ・ギタリストとして日本のジャズ界、ギター界をリードしてきた渡辺香津美。その渡辺香津美のギター生活45周年メモリアルのアルバムがリリースされた。2年ぶりの新盤ということになる。

その新盤とは、渡辺香津美『Guitar Is Beautiful KW45』(写真左)。45周年メモリアルな企画盤。渡辺香津美と繋がりの深い、盟友の様なギタリスト、そして、これからのジャズ・ギターを担うであろう次世代の職人ギタリストから相棒を選択した、「デュオ」を基本としたアルバムである。

その盟友の様なギタリスト、次世代の職人ギタリストとは、リー・リトナー、マイク・スターン、Char、押尾コータロー、SUGIZO、伊藤ゴロー、生形真一(Nothing's Carved In Stone)、三浦拓也(DEPAPEPE)、沖仁、高田漣、井上銘。ほっほ〜。純ジャズに留まらない、フュージョンでコンテンポラリーな、はたまたロックなギタリストまで幅広に選択している。

デュオを基本に演奏される曲はどれもが「どこかで聴いた音」。45年間のジャズ・ギターの奏法のバリエーションのほぼ全てを網羅して、全編に渡って弾きまくっている。ジャズ・ギタリスト七変化である。この企画盤には、これまでのジャズ・ギターの要素がギッシリと詰まっている。
 

Guitar_is_beautiful_kw45_1

 
そういう意味では、このアルバムに対峙してグッと身を乗り出して聴き込むタイプの内容では無い。どこかで聴いた音のショーケースみたいな作りなので、何回か聴いたら容易に出てくる音が予測出来る様になって「飽きる」。「飽きる」んだが、その演奏の内容自体は非常にレベルが高く、充実しているので、聴き応えはある。

そう、このギター・デュオが基本のアルバムは、聴き込むよりは「聴き流す」のに適したアルバムだということが言える。確かに、このアルバム、BGMとして聴き流す感じでいると実に耳当たりが良く、聴き心地が良い。やはり、優れた演奏、優れた内容、優れた録音という3拍子が揃ったアルバムというのは、どんな内容の音でも「耳当たりが良い」のだ。

グッと身を乗り出して聴き込むと「飽きる」。だからBGM風に聴き流す。その「聴き流し」に適した盤だからこそ、聴き流す分には決して「飽きることは無い」。そういうジャズ盤ってあるよね。

ジャズ喫茶の朝に、昼下がりにピッタリの音世界だと思います。ギター・デュオが基本の企画盤ですが、ところどころパーカッションが入ります。これが実に趣味が良い。ミノ・シネルだそうで、この趣味の良いパーカッションも聴きものです。そして、このアルバムのキャッチコピーが「全てのギターに指先から愛を込めて」。お後がよろしいようで(笑)。

 
 

震災から5年。決して忘れない。まだ5年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2015年1月12日 (月曜日)

渡辺香津美の全編アコギの傑作

渡辺香津美の考えるフュージョン3部作、1979年リリース、異種格闘技風の香津美フュージョンの傑作中の傑作『KYLYN』から、続く1980年リリースの『TO CHI KA』、そして、1981年リリースの『頭狂奸児唐眼(TALK YOU ALL TIGHT)』。

『KYLYN』での、当時YMOのメンバーであった坂本龍一、高橋幸宏との異種格闘技なコラボレーションから、『TO CHI KA』での米国フュージョン・ジャズの強者の面々とのセッションの経験を踏まえて、その成果を当時のKAZUMI BANDをメインに取り纏めたアルバムが『頭狂奸児唐眼』。

この渡辺香津美の考えるフュージョン3部作(と、僕が勝手に呼んでいるのだ)に続くアルバムは如何なるアルバムなのか。1981年当時、楽しみにしていたら、このアルバムがリリースされた。渡辺香津美『DOGATANA』(写真左)である。

とても不思議なアルバム・タイトルである。これは「渡辺」の漢字から、それぞれ「氵」と「辶」を取ったら「度刀」になる。これを読むと「どがたな」、つまり「DOGATANA」である。なるほど。しかし、この摩訶不思議なアルバム・タイトルから、これまた、意欲的で先進的なフュージョン・ジャズが展開されているのかと思った。
 

Dogatana

 
が、良い意味で、その予想は思いっきり裏切られる。冒頭の「Nuevo Espresso」は、マイク・マイニエリのヴァイブと渡辺香津美のアコースティック・ギターが紡ぎ出す、内省的で耽美的で知性溢れるデュオ演奏。これは絶対に、エレギ中心のフュージョン・ジャズでは無い。

以降、2曲目「Loosey Goosey」では石田長生、山岸潤二、渡辺香津美のギター・トリオが素晴らしいインプロビゼーションを展開。4曲目の「Island」のDavid Liebmanの繊細なフルートと渡辺香津美のアコギのデュオは絶品。7曲目の「Please Don't Bundle Me」は、Larry CoryellとのOvation Adamasでのデュオ。Ovation Adamas独特の音色が実に美しい。

このアルバムは、渡辺香津美が全編にわたってアコースティック・ギターを弾いたことから、当時、大きな話題を呼んだ。僕も最初は面食らった。しかし、このアルバムでの渡辺香津美のアコギは限りなく美しく躍動的だ。この時期に一世を風靡したアル・ディメオラらのスーパー・ギター・トリオと肩を並べる、胸の空くような爽快な内容の好盤である。

このアルバムを聴いて、渡辺香津美のギタリストとしての懐の深さを強く感じた。このアルバムを聴いて、このギタリストとの付き合いは長くなりそうだ、そう感じて早33年。今でも、渡辺香津美の新しいアルバムが出るたびにワクワクしている。

 
 

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2015年1月10日 (土曜日)

渡辺香津美の考えるフュージョン

日本のフュージョン・ジャズの中で、ジャズ者初心者の時代から、ずっと今まで聴き続けてきたアルバムがある。特に、渡辺貞夫、渡辺香津美のアルバム諸作は別格で、特に、渡辺香津美のアルバムは、ことある毎に聴き直すことが多い。

特に、1979年リリース、異種格闘技風の香津美フュージョンの傑作中の傑作『KYLYN』から、続く1980年リリースの『TO CHI KA』はお気に入りで、もう30年以上も聴き続けていることになる。そして、もう一枚、大のお気に入りの香津美フュージョンのアルバムがある。

そのアルバムとは、1981年リリースの『頭狂奸児唐眼(TALK YOU ALL TIGHT)』(写真左)である。漢字の読みは「とうきょうがんじがらめ」と読む。英訳すると「TALK YOU ALL TIGHT」となる。フュージョン・ジャズのアルバムとしては、かなり凝ったタイトルである。

このアルバムは、『KYLYN』での、当時YMOのメンバーであった坂本龍一、高橋幸宏との異種格闘技なコラボレーションから、『TO CHI KA』での米国フュージョン・ジャズの強者の面々とのセッションの経験を踏まえて、その成果を当時のKAZUMI BANDをメインに取り纏めたアルバムが『頭狂奸児唐眼』である。

パーソネルは、渡辺香津美 (g), 笹路正徳 (key), 清水靖晃 (ts), 高水健司 (b), 山木秀夫 (ds) のクインテット構成。このクインテットが当時の「KAZUMI BAND」になります。ちなみに、プロデュースはフュージョン・ジャズの伊達男マイク・マイニエリ。このプロデュースは前作『TO CHI KA』と同じ。
 

Talk_you_all_tight

 
冒頭の「NO HALIBUT BOOGIE」のイントロのギターの音だけで、このアルバムの内容が、当時良くあった「ソフト&メロウな耳当たりの良いフュージョン・ジャズ」では無いことが判ります。テイストとしては、ロックなテイストとテクノポップなテイストがフュージョン・ジャズとが程良くブレンドされていて、独特のフュージョン・サウンドに仕上がっています。

この冒頭の「NO HALIBUT BOOGIE」を聴いてワクワクすれば、当時の先進的なフュージョン・サウンドにバッチリ適応しますが、逆に「やかましいなあ、これ」と眉を細める向きには、この尖ったフュージョン・サウンドに対しては拒絶反応を起こすでしょうね。そんな「踏み絵」の様なオープニングの1曲です。

続く「MARS」から「BRONZE」についても、内容的には尖った硬派な内容のフュージョンで、まさに、『KYLYN』での、当時YMOのメンバーであった坂本龍一、高橋幸宏との異種格闘技なコラボレーションから、『TO CHI KA』での米国フュージョン・ジャズの強者の面々とのセッションの経験と成果を十分に自家薬籠中のものとした、いわゆる「香津美の考えるフュージョン・ジャズ」です。

以降の収録曲もいずれも普通の「ソフト&メロウな耳当たりの良いフュージョン・ジャズ」では全く無く、アコギが中心の曲も、内容的にはしっかり尖っていて硬派。今の耳には、コンテンポラリーなジャズとして違和感無く耳に響きます。香津美フュージョンの傑作の一枚と言えます。

ジャケット・デザインも当時のフュージョン・ジャズのジャケットとは、全くもって「一線を画する」もので、実にシュールで実に趣味の良いもので、アルバムの尖った硬派なフュージョン・ジャズという内容と上手く合致していて、これまたセンスの良いもので感心することしきり、です。

 
 

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2013年5月29日 (水曜日)

異種格闘技の美しき音の記録

1978年2月26日、東京・太平スタジオにての録音。デンオン・ライヴ・コンサートの200回記念特別セッションを収録したスタジオ録音盤。日本のフュージョンの最高峰というか、異種格闘技の美しき音の記録である。

そのアルバムとは、渡辺香津美&ミッキー吉野『カレイドスコープ(Kaleidoscope)』(写真左)。パーソネルを見渡すと、とんでも無いメンバーがずらりと並ぶ。

渡辺香津美 (g)、ミッキー吉野 (key)、向井滋春 (tb)、土岐英史 (ss/as)、植松孝夫 (ts)、岡沢茂 (b)、村上ポンタ秀一 (ds)、松本博 (p)、横山達治 (perc)、土屋昌巳 (g)、井上憲一 (g)、竹田和夫 (g)、ジョージ紫 (hammond)、ジョン山崎 (clavinet)、スティーブ・フォックス (b)、トミー・スナイダー (ds)、カルメン・マキ (vo)、酒井俊 (vo)。

よくよく見ると、まず、ミッキー吉野に代表されるゴダイゴ人脈がリズムセクションの核となり、渡辺香津美を始めとする日本フュージョン・ジャズ人脈が続く。そして、当時、異種格闘技に必須のドラム、村上ポンタ秀一が絡み、日本ロック人脈から、竹田和夫、ジョージ紫、土屋昌巳らが続く。そして、ボーカルは、なんと、日本ロック畑からカルメン・マキ、日本ジャズ畑から酒井俊が参加。

思わず「なんじゃこりゃ〜、じぇじぇ〜」と叫びたくなるような、何となく不思議なパーソネルである。日本のフュージョン・ジャズ人脈と日本のロック人脈の異種格闘技。収録された曲もなかなか面白い選曲。

1.処女航海
2.世界はゲットーだ
3.アズ
4.カレイドスコープ
 

Kaleidoscope

 
1曲目の「処女航海」は、ハービー・ハンコックのモーダル・ジャズの名曲。2曲目の「世界はゲットーだ」は、ソウル・ミュージックのボーカル・グループ、ウォーの大ヒット曲、3曲目の「アズ」は、R&Bの頂点、スティービー・ワンダーの名曲。4曲目は、渡辺香津美&ミッキー吉野の共作オリジナル。ジャズ有り、ソウル有り、R&B有り、自作有り。共通の狙いは、すばり「ファンクネス」と読んだ。

冒頭「処女航海」の酒井俊のボーカルを聴けば良く判る。本場米国のファンクネスに追いつけ、本場米国のファンクネスを身につけろ、と本気で、ファンクネスの獲得にチャレンジする、異種格闘技集団の矜持が痛いほど伝わって来る。2曲目の「世界はゲットーだ」と3曲目「アズ」のカルメン・マキのボーカルも想いは同じ。

無理しなくても良いんやけんどなあ。でも、1978年当時、日本のジャズ、日本のロックは発展途上、どうしても、先行する英米が目標になった。しかも、日本人に馴染みの無かった「8ビート&オフビート」である。感覚的に理解するのが難しい馴染みの無いファンクネスである。しかし、これを会得しない限り、個性のスタートラインに立てない。

サッカーに似ている。元サッカー日本代表監督であったイビチャ・オシムの名言が「日本のサッカーを日本化する」。この異種格闘技セッションは「日本のジャズを、日本のロックを日本化する」第一歩だったような気がする。

非常にハイレベルな素晴らしいフュージョン・ジャズが繰り広げられている。無理にチャレンジするファンクネスは、ちょっと滑り気味ではあるけれど、日本のフュージョン・ジャズのオリジナリティーは十分に確保されているではないか。乾いたシンプルな、お茶漬けの様なファンクネスの萌芽が見え隠れしている。

実に聴き応えのある、一期一会の異種格闘技セッションである。ミッキー吉野がこれだけジャジーでファンキーなキーボードが弾きこなせるとは思わなかった。そして、面白いのは渡辺香津美のエレギ。一番、ジャズ畑のエレギを想像するんだが、実は、一番、ロックっぽいエレギを弾きまくっている。そして、村上ポンタ秀一のドラミングは相変わらず天才的である。

 
 

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2012年7月27日 (金曜日)

このライブ音源はマニア向け

まだ、こんな音源が残っていたんやなあ、と感心した。Jaco Pastorius『Word Of Mouth 1983 Japan Tour Featuring 渡辺香津美』(写真左)。

1982年ウエザー・リポートを脱退しワード・オブ・マウス・ビッグ・バンドとしてオーレックス・ジャズ・フェスティバルで来日し、ソロ・ワークスとして全盛を極めていた時期、その翌年にワード・オブ・マウス・バンドとして全国9ヶ所、10公演を行った時の白熱のライヴ音源が初CD化。

当初ギターで参加するはずだったマイク・スターンが急遽来日できなくなり彼の推薦により渡辺香津美の参加が決定。日本人としては唯一の夢の共演が実現した。タイトルの「Featuring 渡辺香津美」がその部分を表している。

この時のJaco Pastorius "Word Of Mouth" Band、パーソネルは、ジャコ・パストリアス(b), 渡辺香津美(g), ロン・トゥーリー(tp), アレックス・フォスター(sax), デルマー・ブラウン(key), ドン・アライアス(perc), オセロ・モリノー(steel-ds), ケンウッド・デナード(ds)。

今までCD化されてこなかった訳で、それはそれなりに理由があるんだろうな、と思いつつ、今回、この音源を入手し、集中して聴いてみた。

まず、音質はあまり良くないです。中の下というところか。音質を語るなんて俗物だ、音質が悪くても良い演奏は良い演奏なのだ、という向きもありますが、一般の、普通のジャズ者の方々が、音楽として鑑賞するには、このライブ盤の音質はちょっと問題でしょう。ジャズ者マニアのレベルならともかく、この音質はちょっとお勧め出来ませんね〜。
 

Jaco_womb_1983_japantour

 
演奏の精度、演奏の展開もイマイチです。1982年のオーレックス・ジャズ・フェスティバルで来日した時のライブ音源と比較すると、かなり見劣りするのは否めません。この今回のライブ音源は、その翌年の1983年。1年でこれだけ演奏の精度と演奏の内容に楽さを生じるのか、と案漠たる気持ちになります。

ライブ音源として、歴史的な「記録」としては価値があるとは思います。しかし、主役のジャコのベースが輝かしいソロ・パフォーマンスを聴かせてくれることも無く、フィーチャーされた渡辺香津美のギターについても同様で、輝かしいソロ・パフォーマンスを聴かせてくれることも無い。

加えて、演奏される展開も平凡なもので、「これは」と煌めくものも無く、ジャズ・フュージョンな演奏が主体であるはずが、レゲエな冗長な演奏や、無意味に長い垂れ流し的なソロ・パフォーマンスが長々と収録されており、それでCD2枚組のボリュームになって、とにかくアルバム全体的な印象として、散漫かつ冗長なライブ音源という、ちょっと淋しい内容が残念です。

このライブ盤は、ジャコのマニア向けでしょう。といって、ジャコの素晴らしいソロが入っている訳でも無く、このアルバムは、あくまで、ライブ音源の形をした歴史的な記録。ジャコが率いる「ワード・オブ・マウス・ビッグ・バンド」の素晴らしい実力を体験するには、あまりに役不足なライブ音源です。

一般のジャズ者の方々は、オーレックス・ジャズ・フェスティバルで来日した時のライブ音源『Twins』などを聴いた方が、ジャコの率いるワード・オブ・マウス・ビッグ・バンドの実力の程を、ダイレクトに完璧に感じる事が出来ると思います。

とにかく、渡辺香津美のエレギが不完全燃焼風に収録されているのが、惜しいというか無念である。まあ、このライブ音源、敢えてこの時期に初CD化リリースする必要は無かったのではないかと思います。 

 
 

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2012年5月29日 (火曜日)

世界に通用する日本発フュージョン

僕はこのアルバムを聴く度に、世界に通用する「日本発フュージョン盤」として、心の中でどこか誇らしげになる。そんな、実に優れた日本発のフュージョン・ジャズ。そのアルバムとは、渡辺香津美『Mobo』(写真左)。

1983年8月14日から9月8日の間で録音された。リリースは同じく1983年。ちなみにパーソネルは、Marcus Miller、Robbie Shakespere (b),  Sly Dumber, Omar Hakim, Steve Jordan (ds), 渡辺香津美 (g), Don Grolnick (key), Michael Brecker (ts)。

当時、フュージョン・ジャズを牽引した優れたミュージシャンの名前がズラリと並ぶ。こんなフュージョン・ジャズの強者どもを、我らが渡辺香津美はリーダーとして統率し、リーダーとして演奏をコントロールする。そして、自ら、当時、最先端のエレキ・ジャズ・ギターを余すところなく弾きまくり、当時として最高のフレーズを決めまくる。

演奏全体の雰囲気は「エレ・マイルス」の展開・組み立てを踏襲しているように感じる。渡辺香津美が考える「エレ・マイルス」という風情。エレクトリック楽器とアコースティック楽器の融合の仕方は、1970年代の日本フュージョン・ジャズの奇跡的なアルバム『KYLYN』のアプローチを踏襲しているように感じる。リズム&ビートは、渡辺香津美風の「エレ・マイルス」。フレーズとユニゾン&ハーモニーは『KYLYN』。
 

Kazumi_watabnabe_mobo

 
当時として、そして、今の耳にも、このアルバムに詰まった演奏は、フュージョン・ジャズの最先端を行くもの。フュージョン・ジャズとは言え、ソフト&メロウな、ちょっと「軟弱」で情緒的なものでは無い。この『Mobo』は、メインストリーム風の、実に硬派なコンテンポラリー・ジャズと言える。

マーカス・ミラーのベースとマイケル・ブレッカーのテナーが突出して優れている。この音は、既にフュージョンのものでは無い。限りなく純ジャズに近い、硬派なコンテンポラリー・ジャズ。

当時の時代の最先端を行く、今の耳にも十分先進的なコンテンポラリー・ジャズとして通用するセッションが、我らが渡辺香津美の手でアルバム化された事実に、今でも万感の想いを抱きます。日本人として、胸を張って世界のジャズ界にその真価を問うことが出来る、素晴らしいアルバムだと思います。

『Mobo』=「モボ」とは、大正時代の「モダン・ボーイ」の短縮形。古いジャズのフォーマットを演奏の底で踏襲しつつ、最先端のリズム&ビートと新鮮なフレーズとアドリブ。これぞ「モダンなフュージョン・ジャズ」と言える内容です。

CDのリリースに当たって、LP時代には、収録時間の関係で編集されていたオリジナル演奏を「完全収録」しています。この『Mobo』を堪能するにはCDの完全盤がベターです。フュージョン・ジャズを軟弱と侮るなかれ。1980年代、純ジャズ復古の号令の中で、フュージョン・ジャズが真の意味で成熟した姿を見せる。『Mobo』は、そんな瞬間の一つを捉えた素晴らしいアルバムです。

 
 

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2012年4月 9日 (月曜日)

日本のクロスオーバー・ジャズ

日本のジャズ・ロックって、どうなっていたんだろう、という疑問がふと湧いた。欧米のジャズ界では、1960年代後半から1970年代前半、ファンキー・ジャズからジャズ・ロックへの移行、そして、ロック・ビートとの融合として、クロスオーバー・ジャズの時代。当時、日本のジャズ・シーンでは、どういう展開になっていたんだろう。

ここに、渡辺香津美の『Endless Way(エンドレス・ウェイ)』(写真)というアルバムがある。1975年7月、渡辺香津美が21歳の時に録音したサード・アルバムである。ちなみにパーソネルは、渡辺香津美(g)、井野信義(b)、倉田在秀(ds)、向井滋春(tb)、土岐英史(ss)。純日本のメンバー編成である。

全4曲とも渡辺香津美のオリジナル。その音はと言えば、当時、渡辺貞夫が推進していたアフリカン・ネイティブな響きを踏襲したワールド・ミュージック的なフュージョンと、ディストーションのかかったギターでのロック・テイストなクロスオーバー・ジャズが混在した音世界。明らかに、日本ジャズのリーダー渡辺貞夫と、当時のラリー・コリエルのイレブンス・ハウスやジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラを意識した音作り。

実に興味深い。当時の日本のクロスオーバー・ジャズは、グローバルな観点で聴くと、英国と同様、ロックとジャズの境目が曖昧。というか、1975年時点での日本のクロスオーバー・ジャズは、英国のラリー・コリエルやジョン・マクラフリンを意識し、十分に対抗しうる、高度な演奏スキルと作曲能力を身につけていた。
 

Kazumi_endless_way

 
3曲目のタイトル曲「Endless Way」などは、ジャズというよりはロックである。バックのリズム・セクションのリズム&ビートがジャジーなので、辛うじてジャズ的な雰囲気を宿してはいるが、渡辺香津美のギターは、尖ったロックそのものである。ジェフ・ペックと対抗し得る、ハイテクニックなギター・インスト。ジャジーな雰囲気が色濃い分、ジェフ・ベックよりもアカデミック。若き日の渡辺香津美の凄さが良く判る。

冒頭の「オン・ザ・ホライゾン」の前奏のリリカルなアコギは、すぐ後にトレンドとなるフュージョン・ジャズの響きを宿しており、当時の日本クロスオーバー・ジャズ・シーンの先取性を感じる事が出来る。

しかし、1975年当時、日本のジャズ・シーンでは、電気楽器に対しては「つれなく」、電気楽器は異端として扱われていた。加えて、日本ではまだまだ電気楽器については高価であり、電気楽器自体も楽器として成熟してはいなかった。日本のジャズ・シーンでのエレクトリック・ジャズの受けは良くなく、日本でもインスト中心のロック・バンドは数えるほどしかなかった。

そんな厳しい環境の中で、日本のクロスオーバー・ジャズは、ラリー・コリエルやジョン・マクラフリンなどに代表される、アート性を追求する英国のクロスオーバー・ジャズに十分に対抗しうる、高度な演奏スキルと作曲能力を身につけていた。なんだか、日本人として、ちょっと誇らしい話である。

 
 

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2010年12月15日 (水曜日)

「KYLYN」直前の渡辺香津美

今や日本ジャズ・ギター界における重鎮である渡辺香津美。弱冠17歳で、デビュー作『Infinite』をリリース。デビュー作で既に完成されたスタイルを確立していた天才である。
 
1970年代の渡辺香津美は、純ジャズからフュージョン・ジャズへまっしぐら。そして、1970年代の終わり、1979年には坂本龍一、矢野顕子、村上秀一らと、あの伝説の「KYLYN BAND」を結成。日本フュージョン界を席巻した。
 
ちなみに、渡辺香津美は、演奏のスタイル、ギターの響き、アドリブフレーズなど、ありとあらゆる面で、「KYLYN」前と「KYLYN」後で全く異なる。この「対比」が非常に面白い。「KYLYN」直後のアルバムが『TO CHI KA』(10月21日のブログ参照・左をクリック)とすると、「KYLYN」直前のアルバムが『Lonesome Cat』(写真左)。
 
『Lonesome Cat』は、1977年暮れ、渡辺香津美がNYに渡り、現地のミュージシャン達とのセッションを収めた作品である。ちなみに共演メンバーは、ジョージ・ケイブルス(p,el-p)、アレックス・ブレイク(el-b)、セシル・マクビー(b)、レニー・ホワイト(ds)。今から思えば、素晴らしいメンバーである。これだけの面々とコラボするとなれば、それはもう気合い一発である(笑)。アルバム収録曲6曲を1日で一気に収録されたとのこと。
 
Kazumi_lonesomecat
   
気合いを入れつつ、実に楽しげに演奏する渡辺香津美のギターが実に爽快。共演メンバーについては、全くもって問題無く、香津美のギターが縦横無尽に駆け巡る。1曲目の「Somebody Samebody」の冒頭、前奏で鳴り響くレニー・ホワイトのドラミングの格好良さ。ベースが被り、香津美のギターが被って、ジャジーなうねるようなグルーブを生み出していく。う〜ん、かっこええなあ。
  
このアルバム全編に渡って、ジャジーでうねるようなグルーブに覆われている。これは、どれもこれも、バックを務める共演メンバーの仕業。そして、僕は何と言っても、ジョージ・ケイブルスのローズが良い。ローズ独特のうねりを押さえ、シンプルでありながら、そこはかとなく底に流れるファンキーなグルーブは癖になる。
  
「KYLYN」直前のアルバムが『Lonesome Cat』は、ジャジーでファンキーで、意外と純ジャズな渡辺香津美の、フュージョン以前の気合いの入ったプレイが聴ける傑作だと思います。
  
巷の評価は「荒削り」とか「リハ不足」とかイマイチのものが散見されますが、このアルバムの演奏を、フュージョン前の純ジャズとして捉えた時、一発勝負の純ジャズの良さが、このアルバムのそこかしこに漂っているように思います。 
 
 
 
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2010年10月21日 (木曜日)

渡辺香津美の70年代総決算

渡辺香津美の『KYLYN』は凄いアルバムだった。異種格闘技と表現して良い、坂本龍一や高橋ユキヒロ、矢野顕子、村上ポンタ等々、当時の日本の音楽ジャンルで尖ったミュージシャンばかりを集めて作成されたアルバム。日本のフュージョンの世界での「奇跡的な」成果だった。
 
そのKYLYNバンドの成果を受けて、今度は名だたる米国のフュージョン野郎達を集めて作成された、1980年リリースの『TO CHI KA』(写真左)。これはその内容やるや凄まじいものがあり、渡辺香津美の1970年代フュージョン・ジャズの総決算と言って良い、それはそれは充実した内容のアルバムである。
 
冒頭の「LIQUID FINGERS」の前奏を聴くだけで、渡辺香津美と判る個性が強烈である。これぞ、異種格闘技、KYLYNバンドの経験を経て確立された、渡辺香津美の個性である。ジャズをはみ出し、フュージョンをはみ出し、ロックをはみ出して形作られた香津美の個性。そのギターのフレーズはどこを聴いても、渡辺香津美そのものである。
 
この個性って凄いもので、これだけちょっとギターのフレーズを聴いただけで、曲のアレンジを聴いただけで、渡辺香津美と判る。これって、日本人フュージョン・ミュージシャンとして、世界に誇れる成果ではないかと。
 
名だたる腕自慢の実績バリバリのフュージョン野郎達が集結している。テナーのマイケル・ブレッカーのスーパーソロ。香津美のギターを聴き立てて煽るピーター・アースキンのドラム。「あんた、どういうテクニックをもってんの」と呆れるくらいのベーシスト、トニー・レヴィン。ベースと言えば、マーカス・ミラーも参戦。そして、歌うように流れるようなマイク・マイニエリのヴィブラフォン。いやはや、当時の米国名うてのフュージョン野郎のショーケースの様な凄まじき演奏の数々。
 

Tochica
 
 
冒頭の「LIQUID FINGERS」から、CMのタイアップで有名になった「UNICORN」まで、渡辺香津美の個性満載の「緩んだところの無い」、心地良いテンションが爽快な演奏がズラリと並ぶ。そして、小粋な香津美流ファンキーなナンバー「DON'T BE SILLY」を挟んで、ラス前、音の広がりが凄い、香津美のフレーズが限りなく美しいフュージョン・バラードの「SAYONARA」から、ラストのロック・ビート満点の「MANHATTAN FLU DANCE」に切り替わる瞬間なぞ、至福の瞬間である。
 
米国の名だたる腕自慢の実績バリバリのフュージョン野郎達が集結したセッションである。当然、個性バリバリな、個性の塊の様なフュージョン野郎達である。その個性の強さで上手く音がまとまらないことが、往々にしてあるが、この渡辺香津美の『TO CHI KA』は違う。これだけ個性的なフュージョン野郎達を束ねて統率し、渡辺香津美の音で染め上げている。それだけ、香津美の個性が際立っているってこと。
 
加えて、ヴィブラフォン奏者のマイク・マイニエリがプロデューサーとして迎えたのが大正解。渡辺香津美の個性を正確に掴み、渡辺香津美の個性にリスペクトをもって、名だたる腕自慢の実績バリバリのフュージョン野郎達を完全に掌握、統率。渡辺香津美をサポートし、全面的に支援している。それだけ、香津美の音楽性、ギター・テクニックが魅力的だったんだろう。僕もそう思う。マイニエリの慧眼に敬意を表する。
 
リーダーであるプレイヤーとプロデューサーがガッチリ組んだアルバムに悪いものは無い。この『TO CHI KA』は、1970年代フュージョンの最高傑作の一枚である。1970年代のフュージョンに限りない愛着を持つフュージョン者の方々でしたら、KYLYNバンドの2枚と、この『TO CHI KA』はマスト・アイテムでしょう。良いアルバムです。 
 
 
 
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2010年5月 4日 (火曜日)

真のフュージョン、真の異種交流

なかなか平年通りの気温に戻らず、なんだか寒いなあ、と思っていたのが一週間前。今日は打って変わって、なんだか夏日の我が千葉県北西部地方。この劇的な気温上昇に身体がついていけずに、なんだか体調が麗しくない松和のマスターです。

しかしながら、この初夏の気候を感じると、必ずトレイに載るアルバムがある。 古澤良治郎 and リー・オスカーの『あのころ』(写真左)。リー・オスカーのハーモニカ、古澤良治郎のドラムス、大口純一郎のピアノ、渡辺香津美と大出元信のギター、高橋知己のサックス、そして川端民生(故人)のベース。

フュージョンとは「融合」という意味。当初は「クロスオーバー」と呼ばれた。当初は、ジャズとロックの融合。8ビートの導入がその「肝」だった。それから、「融合」という意味は複雑さを究め、ロックとジャズの「融合」という単純な意味合いでは無くなった。ちなみに我が日本では、最終的には、ジャズからみて「異種格闘技的」なコラボ・ミュージック、コラボ・セッションを「フュージョン」と呼ぶようになった。

確かに、当時(1970年代後半〜80年代初頭)、日本でのフュージョン・シーンには、特筆すべき「融合」つまりは「異種格闘技的」コラボ・ミュージック、コラボ・セッションが多々花開いた。日本こそが「フュージョン」の本質的意味をいち早く理解した、素晴らしい音環境であったことを物語っている。

その代表的一枚が、この『あのころ』であると僕は信じて止まない。リー・オスカーのハーモニカは決してジャズでは無い。古澤良治郎とて、純ジャズ的なドラマーでは無い。大口純一郎のピアノとて、純ジャズとした聴けば物足りなく、大出元信のギターは中途半端、川端民生(故人)のベースとて、純ジャズ、メインストリームとは言い難い、ほのぼのとした茫洋さを醸し出してる。このアルバムのメンバーで、メインストリーム・ジャズの演奏家と言い切れるのは、渡辺香津美のみである。
 

Anokoro

 
でも、冒頭の「いま・春?」を聴いて欲しい。このほのぼのとした、弾むようなテンポは十分にジャジーな雰囲気を醸し出している。そこに入ってくるリー・オスカーのハーモニカも実にジャジー。この曲、この演奏は絶対に純ジャズでは無いが、全体に流れる、ほのぼのとした明るいファンキーな雰囲気はジャジー以外の何者でも無い。

2曲目の「ブギ・マン・リヴス・イン・TOKYO」は、現代的なファンキー・ジャズである。決して、純ジャズでは無い。でも、この曲は絶対にファンキー・ジャズである。それも、実にユニークで実にクールな「ファンキー・ジャズ」。確信は無いんだが、理屈は付けることは出来ないんだが、この「ファンクネス」は米国人には出せないと思う。日本人、アジア人しか出せない「ファンクネス」。その後押しをしてくれているのが、ハーモニカのリー・オスカーだという事実。

3曲目の「カナ・カナ 」、続く「キョン」、そして、5曲目の「ソング・フォー・マージョリー」と、純ッジャズでは無いが、実にジャジーな、それでいて当時流行の「フュージョン」というジャンルの括りで片づけてしまいたくない、唯一無二、個性溢れる「フュージョン・ジャズ」が繰り広げられている。

そして、ラストの「あのころ」。このジャジーで哀愁溢れる、そこはかとなくファンキーで、そこはかとなくポップな、このジャンル不明な、言い換えると、絵に描いた様な「融合」的な音楽はなんと表現したら良いのだろう。ビートはリズムは「ジャジー」。でも、テーマは「ポップ」。展開は判りやすい「プログレ」でもあり、インプロのシンプルさは「フュージョン」。このラストの「あのころ」にこそ、このアルバムの奇跡的な存在意義を、体験的に感じることが出来る。

このアルバムは、フュージョン時代の奇跡、言い換えいると、良い意味での「突然変異」である。このアルバムこそが、当時の「フュージョン・ミュージック」の「あるべき姿」を表現してくれている。このアルバムの演奏こそが、真の「フュージョン・ミュージック」と言える。少なくとも、僕はそう言い切りたい。

僕はこのアルバムをLP時代から昨年奇跡的にCD再発されるまで、何百回聴いたか判らない、僕の人生の中でのエバーグリーンな一枚。フュージョン・ジャズの成果の一枚だと信じて止まない。ちなみに、かの「故・松田優作」氏も愛した1枚でもある。ジャケット・デザインもほのぼのとして秀逸。大向こうを張った内容ではないが、着実地道、けだしフュージョン名盤である。 
 
 
 
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