2023年8月27日 (日曜日)

ハバードのブルーノート最終作 『Blue Spirits』

ハイテクニックな伝説のトランペッターのフレディ・ハバード。22歳の若さで初リーダー作『Open Sesame』をリリースして以来、ブルーノート・レーベルには、鍛えられ、教えられ、一流のトランペッターに成長させてもらったのでは、と思っている。特に、総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンには本当に世話になっただろう。

ハバードはテクニックが抜群に優れているがゆえ、どんなジャズでも、どんなスタイルでも吹き切ってしまう。いわゆる「器用貧乏」なところがあって、何でも出来るよ〜、というアプローチが見え隠れするところを、ライオンがグッと手綱を引いて、時にファンキー・ジャズ、時に、モード・ジャズの名盤をハバードに残させた。

また、ハバードには「目立ちたがり屋」なところがあって、先輩ジャズマンとのセッションでは前へ前へ出て、自分の凄さをアピールしようと頑張りすぎるところがある。逆に、仲の良い同輩や後輩ジャズマンとのセッションでは、一歩引いて、同輩・後輩を前に出させて、ハイテクニックなトラペットでしっかりサポートする「男気」ある振る舞いをするところもある。

ライオンは、こういったハバードの長所・短所をしっかり把握して、時にはセッションのメンバーの人選に工夫を凝らしたり、ハバードをしっかりコントロール出来る、リーダー肌の先輩ジャズマンを充てたり、ハバードのテクニックが映える選曲をしたり、とにかく、ハバードが持っている才能を良い方向に発揮出来るよう、様々なプロデュースをしていたように思う。

Freddie Hubbard『Blue Spirits』(写真左)。ブルーノートの4196番。フレディ・ハバードのブルーノートでの最終作である。ブルーノートとしては珍しく、3つのセッションから成る。
 

Freddie-hubbardblue-spirits

 
1965年2月19日のセッションのパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), James Spaulding (as, fl), Joe Henderson (ts), Harold Mabern (p), Larry Ridley (b), Clifford Jarvis (ds), Big Black (congas), Kiane Zawadi (euphonium)。

1965年2月26日のセッションのパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Hank Mobley (ts), James Spaulding (as, fl), McCoy Tyner (p), Bob Cranshaw (b), Pete LaRoca (ds), Kiane Zawadi (euphonium)。

1966年3月5日のセッションは、Freddie Hubbard (tp), Joe Henderson (ts), Hosea Taylor (as, bassoon), Herbie Hancock (p, harpsichord), Reggie Workman (b), Elvin Jones (ds)。

パーソネルに一貫性が無いが、やっているジャズは「ジャズ・ロック志向」。ベッタベタなウケ狙いのジャズ・ロックでは無く、そこはブルーノート、「Corny(陳腐な)」なジャズロックは回避して、ファンキー志向のジャズロック、モーダルなジャズロック、ソウル・ジャズなジャズロックを「格調高く」やっているのはさすが。

ただ、肝腎のハバードが、どの志向の、どのテイストのジャズロックで行くか、迷っている風でもあり、メンバーを取っ替え引っ替え、演奏の志向、スタイルも取っ替え引っ替え、大凡3種類やっている。ただ、一貫しているのは「メインストリームな純ジャズ志向のジャズロック」はしっかり根っこにあるので、アルバム全体の統一感はしっかり維持されている。さすが、ブルーノートである。

内容的にもチャレンジブルで、大衆受けをする俗っぽい8ビートのジャズロックは横に置いておいて、ファンクネスは全ての演奏の統一の味付けに使いつつ、モダンで硬派な8ビートの下、モーダルなジャズロック、ソウル・ジャズなジャズロック、ハードバップなジャズロックを志向している。

ジャズロックに手を染め始めた頃のハバードが記録されている、聴いていて意外と面白いハバード盤。ハバードはこの盤を最後にブルーノートからアトランティックに移籍する。メインストリーム志向のブルーノートのハバードは過去のものとなり、途方も無くハイテクニックな持ち主がゆえ、イケイケではっちゃけた、何でもござれのハイテクニックなトランペッターとして弾けていく。
 
 

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2023年7月29日 (土曜日)

ハバードにはジャズ・ロック

前作『High Blues Pressure』では、ジャズロックとモード・ジャズが混在、アルバム全体の印象がちょっと散漫になって、本当にジャズロック路線で攻めていって良いのか、世間の評価をどうなるのか、まだまだハバードには迷いがあったように感じた。しかし、僕の印象としては「ハバードのトランペットには、ジャズロックが良く似合う」。

Freddie Hubbard『A Soul Experiment』(写真左)。1968年11月11日(#3, 7, 9),13日(#1-2, 10),1969年1月21日(#4-6, 8)の録音。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Carlos Garnett (ts, #3-9), Kenny Barron (p), Gary Illingworth (org), Billy Butler (g, #3, 7, 9), Eric Gale (g, # 1–2, 4–6, 8, 10), Jerry Jemmott (b), Grady Tate (ds, #3, 7, 9), Bernard Purdie (ds, #1, 2, 5)。

タイトルを訳すと「ソウルの実験」。おお、遂にハバードも吹っ切れたか、と期待する。そして、聴いてみて、ジャズファンク、ソウル・ジャズで統一されたジャズロック志向のアルバムに仕上がっている。加えて、すべての演奏がエレギ&エレベの、完全「エレジャズ」な布陣の演奏になっている。思い切っているなあと感じる。
 

Freddie-hubbarda-soul-experiment

 
タイトルは「ソウルの実験」だが、演奏全体の雰囲気は「お試し」。ハバードが試しにソウル・ジャズをやってみた、それも、エレ・ジャズな編成で、かつ、ジャズロック志向で、といったところか。「お試し」とは言え、このアルバムについては、きっちりジャズロック志向で揃えているので、中途半端な感じが無い。実に潔い。

冒頭「Clap Your Hands」は、エキサイトなソウル・ジャズ。エレ楽器メインのジャズロックな8ビートに乗って吹くハバードのトランペットが心地良い。指がよく動き、テクニックが優れているので、8ビートに流麗に乗った、滑らかなアドリブ展開は違和感が全く無い。4曲目「Lonely Soul」は、ハードボイルドなハバードの哀愁感溢れるバラード・プレイが聴けて、これまた良好。

確かにタイトルは「ソウルの実験」なので、本格的にジャズロック志向に舵を切ったのかどうかは、次のリーダー作以降を聴かないと判らないが、このオール・ジャズ・ロックな盤を聴く限り、「ハバードのトランペットには、ジャズロックが良く似合う」という感覚は「確定」だろう。
 
 

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2023年7月28日 (金曜日)

過渡期のフレディ・ハバードです

フレディ・ハバードは、そのテクニックは卓越したものがあるのだが、如何せん、吹きすぎる盤が多い。メンバーによるのだが、自分から見て後輩のメンバーばかりの時は、アニキ風を吹かせるのか、後輩に花を持たせて、自分は抑制の効いた、余裕あるブロウを展開する。これは良い。優れたテクニックの持ち主でありながら、抑制の効いた、余裕あるブロウを披露するハバードは凄みすらある。

逆に、メンバーが同年代から先輩になる時は、とにかく目立ちたいのか、吹きに吹きまくる。「俺は凄いんだぞ」と言わんばかりに、ハバードの持つ卓越したテクニックを最大限に発揮して、五月蠅いくらいに吹きまくる。他のメンバーとのバランスや対比など、全くお構い無し。これは困る。優れたテクニックが、悪い印象に作用して、ただ五月蠅いトラペットになったりするのは困る。

Freddie Hubbard『High Blues Pressure』(写真左)。1967年11月13日の録音。アトランティック・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp, flh), James Spaulding (as, fl), Bennie Maupin (ts, fl), Herbie Lewis (b), Roman "Dog" Broadus (conga)、ここまでは全曲参加なんだが、Weldon Irvine (p, track 1), Kenny Barron (p, tracks 2-6), Freddie Waits (ds, tracks 1-3), Louis Hayes (ds, tracks 4-6), Howard Johnson (bs, tuba, tracks 2-6), Kiane Zawadi (tb, euphonium, tracks 2-6)。

前作『Backlash』で転身したジャズロック路線を踏襲したアルバムになる。しかし、面白いのは曲が進むにつれて、ジャズロック色は薄れていって、後半は「新伝承派」のモード・ジャズになっている。ハバードのトランペットにはジャズロックが合うんだがなあ。この盤の時点では、まだハバードには迷いがあったように感じる。意外とハバードは他のジャズマンからの評価を気にするタイプだったのかもしれない。
 

Freddie-hubbardhigh-blues-pressure

 
前半のジャズロック志向の演奏は実に良い。ハバードのトランペットには8ビートが良い。卓越した速いフレーズう吹きまくるに、速い8ビートがちょうど良い。そして、ジャズロックの十八番である「テーマのユニゾン&ハーモニー」では、抑制が効いて余裕あるハバードの吹きっぷりが実に良い響き。やっぱり、ハバードのトランペットには「ジャズロック」が良く似合う。

後半のモード・ジャズも良い演奏なんだが、ジャズロックのハバードに比べて、ハバードの悪い癖、驚異的なテクニックで吹きすぎるハバードが目立ちに目立つので、折角のハバードの優秀テクニックのトランペットが、ちょっと五月蠅く響く。しかも録音年は1967年。モード・ジャズは最初の成熟期を迎えていて、ハバードのモード・ジャズには「新しい発見」は無いのが惜しい。

テクニックが優秀なので、優れたジャズロックも出来るし、優れたモード・ジャズも出来る。俺は何でも素晴らしい演奏が出来るんだ、という自信がちょっと裏目に出た盤。アルバム全体の印象がちょっと散漫になっている分、この盤は損をしている。ジャズロック志向に専念するかどうか、少し迷っている「過渡期」的な内容ではある。

それでも、ジャズロックの部分は、ハバードの特質が100%活かされていて良い出来。前作『Backlash』と併せて、「ハバードのトランペットには、ジャズロックが良く似合う」ということを証明したハバードのリーダー作である。しかし、アトランティック・レーベルのプロデューサーって何をしてたのかなあ。ハバードに「おんぶに抱っこ」な印象で、全くもって勿体ない盤である。
 
 

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2023年7月 4日 (火曜日)

全てのスタイルを吹くハバード

フレディ・ハバードのリーダー作の聴き直しを再開した。ハバードのトランペットはとにかく「上手い」。途方も無く上手いのだが、その上手さを前面に押し出す「癖」がある。とにかく、どんなセッションでも途方も無いテクニックを駆使して、前へ前へ出る。テクニックについても、とにかく速いフレーズを吹きまくる。時には「五月蠅く」感じるほど。

以前、そんなハバードのリーダー作を聴き直していて、とにかく耳が疲れた。上手いのだが、リーダー作それぞれを聴いていて、どうにも個性とコンセプトが定着しない。様々なスタイル、トレンドの吹奏を披露するのだが、確かに上手い。凄く上手い。歌心もあるんだが、情緒に欠けるというのか、侘び寂びに欠けるというのか、演奏の行間が無いというのか、凄いテクニックだけが耳に残るだけの吹奏に耳が疲れた。

しかし、ほぼ全てのリーダー作を聴かないと、彼のトランペットの個性を断定することは出来ない、というか、リーダー諸作を中途半端に聴き終えるのは失礼というもんだ。ということで、ハバードのリーダー作の聴き直しを再開した。

Freddie Hubbard『Breaking Point!』(写真左)。1964年5月7日の録音。ブルーノートの4172番。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), James Spaulding (as, fl), Ronnie Mathews (p), Eddie Khan (b), Joe Chambers (ds)。

ハバードのトランペット、スポルディングのアルト・サックスが2管フロントのクインテット編成。ハバードと同じ年頃の、かなりの若手の、どちらかと言えば、マイナーな存在のジャズマンで固められている。恐らく、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの深慮遠謀だろう。

こういうメンバー構成でのセッションの場合、ハバードは前へ前へ出ようとはせず、周りの音に気を配りつつ、しっかりとグループサウンズ優先の、余裕ある、実に素晴らしい吹奏を聴かせてくれる傾向が強い。
 

Freddie-hubbardbreaking-point

 
この盤でも、1人で前へ前へ出ようとはせず、グループサウンズを維持する中で、途方も無いテクニック溢れる吹奏を聴かせている。ハバードの吹奏の「質」という面では、この盤は申し分無い、素晴らしい演奏家としてのパフォーマンスを聴かせてくれている。

演奏内容は、というと、一言で言うと「1964年時点でのアーティステック志向のジャズのショーケース」の様な内容。オーネット・コールマンに影響を受けた様なフリー・ジャズあり、コルトレーンの様なフリー・ジャズ&モード・ジャズあり、ジャズ・メッセンジャーズの様なモード・ジャズあり。

アルバム全体としては「前衛的」な雰囲気が濃厚なのだが、どこか従来のハードバップの雰囲気を残して、全面的に「前衛的」に展開するのを自制しているかの様な、ちょっと中途半端な内容。フリーに走り切ること無く、モードに振り切ること無く、そこはかとなく、ハードバップの雰囲気を残して、全ての聴き手に訴求しようとする。何とも、隔靴掻痒の感がする。

しかし、そんなバラエティーに富んだ内容で、テクニック的にも全てのスタイル、トレンドを水準以上に吹き切るのは難しいと思うんだが、ハバードはいとも容易く、全てのスタイル、トレンドに精通しているが如く、水準以上に吹き切っている。さすが、ではある。

この盤のハバードを聴いて感じるのは、ジャズ・トランペットの「プレイヤー」としては超一流。モダン・ジャズの「クリエイター」としては「発展途上」ということ。演奏家としては全く申し分無い、歴史に名を残すほどのハイ・テクニックの持ち主なのだが、ジャズ盤を制作する上でのリーダーとしての、クリエイターとしての素養についてはやや欠ける、と感じる。

ショーケース的な内容で、自らの持つ途方も無く素晴らしいテクニックを惜しげも無く披露するより、どれかのスタイルに絞って、ハバードなりに、そのスタイルを追求し極める位のチャレンジをしても良かったのでは無いか。ハバードだったら、どのスタイルに絞ろうが、かなり優れた成果を残せたと思うのだ。この「1964年時点でのアーティステック志向のジャズのショーケース」の様な盤を聴いて、そんな思いを改めて持った次第。

この盤は、ハバードのジャズ・トランペットの「プレイヤー」として素晴らしさを愛でる盤だろう。
 
 
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2023年4月13日 (木曜日)

フレディ・ハバードのお蔵入り盤

ブルーノート・レーベルの有名なアルバムのカタログに、1500番台、4000番台、4100番台、4200番台がある。ブルーノートは几帳面なレーベルで、それぞれの「番台」のカタログで空き番や飛び番が無い。

それぞれの「番台」で、ちゃんと100枚、アルバムがアサインさている。しかし、理由が明確では無い、アルバムの内容の出来は良いのに、何故か「お蔵入り」になったアルバムがある。これが実に不思議な存在なのだ。

Freddie Hubbard『Here to Stay』(写真左)。1962年12月27日の録音。ブルーノートの4135番だが、録音当時は未リリース。1976年になって、ようやくリリースされている(写真右)。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ts), Cedar Walton (p), Reggie Workman (b), Philly Joe Jones (ds)。リーダーのハバードのトランペットと、ショーターのテナーがフロント2管のクインテット編成。

この盤は先にご紹介した、理由が明確では無い、アルバムの内容の出来は良いのに、何故か「お蔵入り」になったアルバムの1枚である。カタログ番号もアサインされ、アルバム・ジャケットも決定され、ほぼ全てを仕上げながら、当時リリースされなかった盤。

パーソネルを見渡せば、当時所属していた、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの親分のドラムを、マイルスの1950年代の黄金のクインテットのドラマー、フィリー・ジョーに代えたクインテット編成。ハバード以下のメンバーは、当時の新主流派の主要メンバー。それではこの盤の演奏の志向は「新主流派=モード・ジャズ」かと思いきや、従来の手慣れたハードバップの演奏が展開されるから、ちょっと肩すかしを食らう。
 

Freddie-hubbardhere-to-stay

 
フィリージョーに遠慮した訳でもないのだろうが、このハードバップの音はちょっと違和感が伴う。1950年代のハードバップの名演の数々の様に「熱く」ない。というか、悠然としていてクール。まるで、モード・ジャズを演奏する雰囲気とマナーで、ハードバップを振り返って演奏している感じがするのだ。

収録された楽曲も取り立てて共通項は無く、ジャム・セッションの時の様な「その時に思いついた様な」選曲。しかしながら、スタンダード曲の選曲は良い感じ。が、これらのスタンダード曲はモードで演奏して欲しかったなあ、と感じる。ハードバップ風に演奏しても良い感じなんだが、このメンバーではモードでの演奏を聴きたかった思いがする。

しかし、この「モード・ジャズを演奏する雰囲気とマナーで、ハードバップを振り返って演奏している感じ」でも、超有名スタンダード曲の「Body and Soul」は名演に値する。ハバードのクールな吹きっぷり、ショーターの新鮮なアドリブライン、ウォルトンのクールで小粋に揺らぐピアノ。1960年代の「ジャズの多様化」の時代に、新しい響きを宿したハードバップな演奏と解釈。

1962年当時、ジャズの多様化の時代、そして、この盤のメンバーの大半は新主流派でモーダルなジャズが得意。そんな時代とメンバーでハードバップをやったから、判り難いというか、理解し難いというか、当時のジャズの演奏トレンドに乗った個性が際立たないというか、恐らく、聴き手に強く訴求しないのでは、とブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは判断したのかもしれない。

それでも、メンバー個々のパフォーマンスは水準をはるか超えている。これだったら、モード・ジャズをやれば良かったのになあ、と思う。アルフレッド・ライオンもそう思ったのでは無いか。やっぱり、皆、フィリージョーに遠慮したのかなあ(笑)。
 
 

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2022年3月29日 (火曜日)

ハバードの隠れ名盤の一枚 『Hub-Tones』

適度に抑制され、余裕のある、ゆったりと吹き上げるハバードのトランペットは無敵だ。この盤の冒頭の「You're My Everything」を聴けば、この盤でのハバードは「当たり」なのを確信する。バラードチックなユッタリとしたテンポの「You're My Everything」をシッカリ抑制したトランペットで、余裕を持って悠々と吹き上げていくハバード。これは良い。聴き応え抜群のバラード・プレイである。

Freddie Hubbard『Hub-Tones』(写真左)。1962年10月10日の録音。ブルーノートの4115番。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), James Spaulding (as, fl), Herbie Hancock (p), Reggie Workman (b), Clifford Jarvis (ds)。リーダーのハバードのトランペットと、スポルディングのアルト・サックスがフロント2管のクインテット編成。

この盤の録音時、ハバードは24歳。フロントの相方、スポルディングは1937年生まれの25歳。ピアノのハンコックは22歳。ベースのワークマンは25歳。ドラムのジャーヴィスは21歳。録音メンバーは、ハバードと同世代。1つ年上か、ハンコックとジャーヴィスは年下。こういうメンバーでのハバードは何故か、他のメンバーの音をしっかり聴きつつ、抑制したトランペットじっくり吹き上げる傾向にあると睨んでいる。
 

Hubtones

 
思いっ切り吹きまくることなく、抑制しつつじっくり吹き上げるハバードのトランペットは無敵である。逆にアルト・サックスのスポルディングの方が手数が多くて賑やかな位だ。こういうサイドマンが挑みかかって来る様なブロウを仕掛けると、ハバードはそれを受けて、負けずに吹きまくる傾向があるのだが、この盤ではそうならない。スポルディングに好きに吹かせながら、ハバードは、あくまで「適度に抑制され、余裕のあるトランペットをゆったりと吹き上げる。

ハバードが余裕あるブロウを繰り広げると、他のメンバーがその実力を遺憾なく発揮するから不思議だ。全編に渡って、ハンコックのピアノのバッキングが見事。モーダルな速いフレーズを弾かせても、何時になくエモーショナルに弾きまくる。ジャーヴィスも臆せず、熱いドラミングを披露するし、ワークマンのベースは安定したビートを供給し、メロディアスなフレージングを披露する。

同年代、および、年下のメンバーと組むと、ハバードは真の才能を発揮する。恐らく、ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンもそれに気がついていたのであろう、この盤でのサイドマンの人選は素晴らしい。ジャケットもブルーノートらしい秀逸なデザインで「良し」。この『Hub-Tones』、ハバードの名盤の一枚として、もっと評価されても良いと思う。バリバリ、大きな音で速いフレーズを弾きまくるばかりが「天才」では無い。
 
 

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  ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

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2018年11月 7日 (水曜日)

目立ちたがり屋が目立たない時

トランペットのフレディー・ハバード、根っからの「目立ちたがり屋」で、どんなセッションでも、とにかく目立ちたがる。大きな音で、テクニック豊かに吹きまくる、飛ばしまくる。それ故、グループ・サウンドのバランスが崩れることがほとんどで、1960年代のハバードのリーダー作は「いまいち」な感が強い。しかし、あるケースではそうはならずに、意外と好盤に仕上がっている盤もあるのだ。

Freddie Hubbard『The Hub of Hubbard』(写真左)。1969年12月9日の録音。ちなみにパーソネルは、 Freddie Hubbard (tp), Eddie Daniels (ts), Roland Hanna (p), Richard Davis (b), Louis Hayes (ds)。このパーソネルがこの盤の「肝」になる。この「一国一城の主」的イメージのジャズメンがハバードの「目立ちたがり屋」根性を抑制するのだ。

そのパーソネルを見渡すと、先ず目を惹くのは、ジャズクラリネットの大家、エディ・ダニエルズがテナー・サックスで参加。次いでバックのリズム・セクションは、卓抜したテクニックと強烈なスイング感が武器のローランド・ハナのピアノ、骨太重低音ベースのリチャード・ディヴィス、そして、ファンキー&スピリチュアルなドラマー、ルイス・ヘイズ。この盤、リーダーのハバードのバックに錚々たるメンバーがズラリ。しかも曲者ばっかり。

ハバードはいつもの様に「目立ちたがり」トランペットを早々に吹きまくるのだが、バックの4人、ハバードに負けず劣らず、テクニックに優れ、楽器をよく響かせた大きな音で吹きまくり、弾きまくり、叩きまくるのだ。
 

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目立ちたがりのハバードが目立たない位にガンガンにやるのだから、リーダーのハバードも何時もと違う面持ちで、トランペットを吹いている。どうにもこうにも「お山の大将」の様に自分だけが目立つことが叶わない。これがハバードによっては良い方向に作用するのだ。

ダニエルズのテナーは、コルトレーンを少し聴きやすくした感じ。テクニックに優れ、大きな音で吹きまくる。これが結構凄い。ハバードの大きな音のトランペットが霞むくらいなのだ。さらにデイヴィスのベースはブンブンと重低音を轟かせ、ルイス・ヘイズのドラムはフロントを煽りまくる様に叩きまくっている。これだけ他のメンバーがガンガンにやっているのだ。

ハバードも自らがこれ以上大きな音を出すと、グループ・サウンドのバランスが崩れることは判っている。さすがの「目立ちたがり屋」もこの盤では観念しているようだ。他のメンバーの大きな音とテクニック溢れる展開に対抗すること無く、逆に殊勝に溶け込み、しっかりと良好なグループ・サウンドを成立させている。他のメンバーとのバランスが取れた中で、速い展開と大きな音でガンガンにハードバップをやっている。

こういうケースは数少ないのだが、ハードバップの中で良きトランペッターとして君臨するのは、この「他のメンバーが、目立ちたがりのハバードが目立たない位にガンガンにやる」ケース。この数少ないケースをハバードの参加セッションから探し出すのも、ジャズ盤コレクションの楽しみのひとつである。
 
 
 
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2018年10月19日 (金曜日)

ジャズロックのハバードは良い

フレディー・ハバード(Freddie Hubbard)のリーダー作の聴き直しをしている。ほぼ全リーダー作を聴き直し終えた訳であるが、ハバードって、つまるところ、目立ちたがり、吹きたがり、という癖は、年齢を重ねても無くなることはなかった。無くならなくても年齢を重ねれば、徐々に穏やかになっていくのだが、ハバードは違った。

そんなハバードを形容した「ハバードはプレイヤーではあったが、アーティストでは無かった」という「けだし名言」がある。つまり演奏家ではあるが芸術家では無かった、ということ。テクニックは素晴らしく優秀、音も大きく運指も速い。ジャズの歴史の中でも5指に入る、優れたトランペッターであった。それでも、他のメンバーを押しのけて目立ちたがり、誰よりも多く吹きたがった。抑制の美学の欠片も無い、時には五月蠅いと感じるトランペッターであった。つまり「アートの要素に乏しい」トランペッターであった。

そういうハバードである。純ジャズのリーダー作は基本的に全てが吹きすぎという印象が残る。とにかくアルバムを聴いていて、途中から耳が疲れてくるのだ。リーダー作ばかりでなく、他のリーダー作に客演した時でも目立ちたがり、吹きたがる。それも相当高いレベルのテクニックで吹きまくるので、とにかく耳に付く。今でも「抑制」ということを幾ばくかでも覚えておれば、「アーティスティックなトランペッター」として、ジャズ史にその名を残したのになあ、とつくづく惜しいことをした、と思うのだ。
 

Backlash

 
そんなハバード、純ジャズは似合いそうで似合わない。それではハバードは問題を抱えたままだったのか、と言えば、このジャズの演奏ジャンルだけはハバードの「目立ちたがりの吹きたがり」のトランペットがピッタリと填まった、と思っている。「ジャズロック」である。ジャズロックはその演奏にメリハリが効いていることが大事で、そういう点ではハバードの「目立ちたがり、吹きたがり」の癖が良い方向に作用しているのだ。

Freddie hubbard『BackLash』(写真左)。1966年10月の録音。Atlanticレーベルに移籍しての第一弾。レイ・バレットのコンガ入り、セクステット構成。ばりばりのジャズロック盤である。まだまだ、アコースティックな8ビートのリズム&ビートを得て、ハバードが目立ちたがる、吹きたがる。それでも、ジャズロックのバックを背負えば、演奏の音のバランス的に丁度良いのだ。ハバードの速い運指には8ビートが実にフィットする。

ジャズロックの演奏においては、ハバードは水を得た魚の様に、リラックスして喜々として吹きまくっている。しかも、ジャズロックの演奏では、テーマ部のユニゾン&ハーモニーがピタッとあって、それぞれの楽器の音のレベルが同じでないと、フレーズとブレイクが決まらない。そういう特質があるジャズロックでは、ハバードは他の楽器の音を聴きながら「合わせる」という、抑制のプレイをせざるを得ない。このテーマ部のユニゾン&ハーモニーを奏でる「抑制のハバード」が実に心地良く、実に格好良い。一聴の価値ありです。

 
 

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2018年7月19日 (木曜日)

アーティスティックな電化ジャズ 『In Concert Volume One&Two』

1970年代後半から本格的にジャズを聴き始めた僕にとって、CTIレーベルはとっても思い出深いレーベルである。CTIは1967年、プロデューサーのクリード・テイラーによって創設されたジャズ・レーベル。クロスオーバー・ジャズの老舗レーベルで、僕が聴き始めた頃は、1970年代後半、フュージョン・ジャズの大ブームの最中であった。

CTIレーベルの音は厳密に言うと、フュージョン・ジャズでは無い。ほとんどのアルバムの音はクロスオーバー・ジャズで括られると思う。特に、ジャズとロックの融合、ジャズの電化について優れたアルバムが多い。クロスオーバー・ジャズの老舗レーベルでありながら、フレーズや展開は従来のハードバップ、演奏はエレ楽器中心、そんな新旧ハイブリッドな盤に優れたものが多い。

Freddie Hubbard & Stanley Turrentineの『In Concert Volume One』(写真左)と『In Concert Volume Two』(写真右)。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Stanley Turrentine (ts), Herbie Hancock (key), Eric Gale (g), Ron Carter (b), Jack DeJohnette (ds)。1973年3月3日、シカゴの Opera Houseと1973年3月4日、デトロイトの Ford Auditorium でのライブ録音になる。
 

In_concert_volume_one_two

 
この2枚のライブ盤がそんな「新旧ハイブリッドな盤」の好例になる。パーソネルを見れば、このライブ盤は、こってこて正統なハードバップからモード・ジャズをやるんではないか、と思ってしまう位の錚々たるメンバーである。エリック・ゲイルの存在だけが違和感があって、聴く前に「ありゃ〜」となる(笑)。

演奏内容はと言えば、演奏の内容、コンセプトは思いっきりハードバップ〜モード・ジャズである。それを電化された楽器でやる。しかし、楽器が電化されているとはいえ、この今ではそれぞれが、ジャズ・レジェンドと呼ばれるメンバーである、しっかりとメインストリーム・ジャズしている。電化されているからといって、決して、ポップに迎合していないし、決して俗っぽくなっていない。

電化されたジャズとはいえ、結構、アーティスティックなメインストリーム・ジャズである。CTIレーベルにはこれがあるから面白い。アルバムを聴き進めていくと、面白い発見が続々出てくる。このお洒落で硬派な電化されたモード・ジャズは、今の耳で聴くと意外と新鮮に響いて、思わず「おっ」と短い歓声を上げてしまう。やはりこのメンバーは、電化ジャズをやっても隅に置けない。

 
 

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2018年7月 3日 (火曜日)

程良く抑制されたハバードです

フュージョン・ジャズ系のアルバムが続いた。もともと、日本ではフュージョン・ジャズは1970年代後半から1980年代前半に咲いた「あだ花」的扱いを受けていて、ベテランの評論家の方々からは「あれは悪い夢だった」なんて言われる。なんとも無責任な話である。当時は皆さん「純ジャズはもう古い」だったのだが・・・。

と言う訳では無いのだが、メインストリーム・ジャズに戻る。最近、フレディ・ハバード(Freddie Hubbard)のアルバム、それもブルーノート時代のアルバムを聴き直している。それというのも、ブルーノート時代のハバードのアルバムと言えば、ジャズ盤紹介本の扱いが大体が初ソロ盤の『Open Sesame』以上、なのだ。そうだったかしら、と思いながらの聴き直しなのである。

う〜ん、確かにそうかも。ソロ・デビュー以降、ブルーノート時代のハバードは、他のジャズ者の大多数の皆さんが指摘している通り、テクニックはとびきり優秀なのに「吹きすぎる」「目立ちすぎる」トランペットである。ハバードのトランペット1本がフロントだと「とにかく吹きまくる」。他の管を入れると、負けじと「吹きまくり、目立ちまくる」。グループ・サウンドとしてのバランスに著しく欠け、耳に五月蠅い。
 

Ready_for_freddie

 
ブルーノートの総帥アルフレッド・ライオンも苦労したと見えて、如何にハバードの暴走トランペットを落ち着けるか、に腐心した苦労の跡がブルーノートのハバードの諸作に現れている。そんな諸作の中でも、1961年8月録音の『Ready for Freddie』(写真左)は、思わず、その思惑と苦心の跡にニンマリしてしまうパーソネルであり、内容なのだ。 

まずパーソネルを見ると、Freddie Hubbard (tp), Bernard McKinney (euphonium), Wayne Shorter (ts), McCoy Tyner (p), Art Davis (b), Elvin Jones (ds)。珍しい楽器ユーホニウムが入っている。ホンワカした柔らかく丸みのある音色。このユーホニウムを暴走トランペットのハバードと合わせて、ハバードの暴走を抑止し、落ち着かせる作戦、とみた。

これが、意外と成功している。ハバードはユーホニウムの音色に対比する様に、上手くユニゾン&ハーモニーを奏で、程良く抑制の効いたトランペットを聴かせてくれる。加えて、程良く抑制されたハバードのトランペットは、ウェイン・ショーターのテナーにピッタリ合う。ユーホニウム効果で、この『Ready for Freddie』では、ブルーノートの諸作の中で、唯一、少しだけ抑制が効いている。なかなかの聴きものである。
 
 
 
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