2020年11月29日 (日曜日)

ECMらしいエレ・ジャズです

ECMレーベルは欧州ジャズの老舗レーベル。ECMは「Edition of Contemporary Music」の略。創立者はマンフレート・アイヒャー。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」=アイヒャー自らの監修・判断による「美意識」を、限りなく静謐で豊かな「ECMエコー」を伴って表現した「ECM独特の音世界」。

Michael Naura『Vanessa』(写真左)。ECMの1053番。 ちなみにパーソネルは、Michael Naura (el-p), Klaus Thunemann (bsn), Wolfgang Schlüter (vib, mar, per), Eberhard Weber(b), Joe Nay(ds)。バズーンあり、ヴァイブありのおおよそ従来の純ジャズとは思えないパーソネルが、いかにもECMレーベルらしい。

この盤、パーソネルがここまで「ECMらしい」と、当然、音自体がとても「ECMらしい」はず。ECMレーベルでしか聴けない、即興演奏を拠り所にした「ニュー・ジャズ」の音が詰まっている。リズム&ビートに「4ビート」は無いし、スインギーな感覚は全く無い。それだけだと「ジャズ」にならないのだが、即興演奏のアプローチがまさに「ジャズ」らしい。
 
 
Vanessa  
 
 
均等に刻まれた8ビートなフレーズであったり、無調なフレーズだったり。現代音楽に近い、はたまた、初期のエレ・マイルスに近い、とてもECMらしいエレ・ジャズである。そして、限りなく静謐で豊かな「ECMエコー」がかかった音が、これまた「ECMらしい」。演奏内容は8ビートのエレ・ジャズだったり、フリーなジャズだったり。ECMお得意のニュー・ジャズな演奏が心地良い。

Michael Naura(ミハエル・ナウラ)は、リトアニア出身のピアニスト。この盤では彼独特のエレピの弾きっぷりがとても効果的。新しいジャズ、という感覚を上手く増幅させている。クラウス・トゥネマンのバズーンがとてもユニークな音色で独特の響きを漂わせ、ヴォルフガング・シュリュターのヴァイブは、硬質でクリスタルな音色で、切れ味の良い澄んだフレーズを供給する。

リズム隊については、エバーハルト・ウェーバーのベースが良く効いているし、ジョー・ネイのドラムは硬軟自在、緩急自在。ナウラのエレピの音をしっかりとサポートし、その魅力を増幅させているところは見事。ジャケット・デザインも含めて、この盤はその内容、音についても、とても「ECMらしい」。この盤については、ECMレーベルでした制作できないものだろう。「らしい」好盤である。
 
 
 

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2020年11月 4日 (水曜日)

ニュー・ジャズ志向の新進ギター

昨日、テリエ・リピダルのギターについて語った折、このリピダルの様な、幽玄で浮遊感のある、かつ切れ味良く、適度に捻れたフレーズを多用した「ニュー・ジャズ」志向の音が特徴の、次世代を担う若手のジャズ系ギタリストはいるのか、と思い立った。端正なネオ・ハードバップ志向の若手ギタリストは何人かの名前が浮かぶのだが、どうなんだろう。

Nir Felder『Ⅱ』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Nir Felder (g), Matt Penman (b), Jimmy MacBride (ds)。シンプルなギター・トリオ編成になる。エレギをフロントに据えてはいるが、アコースティックギターやバンジョー、シンセサイザーなどが多重録音されて、アルバムに詰まっている音は意外に分厚い。加えて、録音後のポストプロダクションに時間をかけている分、音の完成度はかなり高い。

このリーダーのギタリスト、ニア・フェルダー(Nir Felder)は、1982年生まれ。今年で38歳、まだまだ若手である。米国ニューヨーク州出身、2005年にバークリー音楽大学を卒業、数多くのネオ・ハードバップ、ニュー・ジャズ系のミュージシャンとの共演を重ね、ロック・ミュージックから多大な影響を受けた、かなり独創的なギタープレイで徐々にその名を売っている。
 
 
_nir-felder  
 
 
使用ギターは、ジャズとしては珍しいフェンダーのストラトキャスター。逆にストラトでないと出せない音、幽玄で浮遊感のある、かつ切れ味良く、適度に捻れたフレーズを個性とする若手ギタリストである。リピダルなど、先達の「ニュー・ジャズ」志向のギタリストと異なるのは、リズム&ビートへの乗りが明確で、浮遊感のある音でも空間を漂う様な音では無い。

しっかりと、リズム&ビートに乗った、ロックっぽいところがファルダー独特の個性と言える。古き良き米国の景色に誘い込むようなギターのアルペジオ、エレクトロニクスを多用したロック・テイストなフレーズ、ディストーション溢れる音で浮遊感と捻れを孕みつつ切れ味の良い、エレ・ジャズ志向の即興パフォーマンス。

新しい感覚の、ニュー・ジャズ志向のギター・トリオ・サウンドがこの盤に詰まっている。2014年にリリースしたファースト盤『Golden Agen』から6年の歳月を経て完成した新盤であるが、フェルダーのギタリストとしての個性の確立を確認出来、次の展開を大いに期待させてくれる好盤に仕上がっている。ポストロックの如き先鋭性とジャズの即興の融合。フェルダーの次作が待ち遠しい。
 
 
 

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2020年11月 3日 (火曜日)

テリエ・リピダルの陰謀・謀略

Terje Rypdal(テリエ・リピダル)。ノルウェー出身、ECMレーベルの看板ギタリスト。彼のキャリアにおいて、2〜3枚の例外はあるが、リーダー作については、ほぼECMレーベルからのリリースになる。リピダルは1947年生まれ。今年で73歳。初リーダー作が1968年なので、ジャズ・ギタリストとしてのメジャーなキャリアとしては52年。半世紀以上に渡って活躍する「レジェンド級」のギタリストである。

リピダルのギターについては、恐らく1〜2分聴き続けたら絶対にリピダルだと判るくらい、とても個性的な音である。幽玄で浮遊感のあるフレーズを多用した「ニュー・ジャズ」志向の音が得意で、ファンクネスは皆無であり、ブルージーな要素は微弱。そういう面では欧州ジャズ独特といえる。ジャズ・ギターというよりは、ロック・ギターと言った方が良いか、プログレ・ギタリスト的な音を出す。

浮遊感のある、ビートに乗らない、ロングトーンでフリーな独特とフレーズ。ジャズなのか、ロックなのか、どちらかにしろ、と詰問されたら、やはり「ジャズ」と答えてしまう。そんな不思議な音を持ったギタリスト。そして、リピダルは、半世紀を越えるメジャーなキャリアの中で「決してブレない」。ECMレーベルでのメジャー・デビュー盤『Terje Rypdal』の音が、マンネリに陥らず、ずっと今まで続いている。これって意外と凄いことだと思っている。
 
 
Conspiracy-terje-rypdal
 
 
Terje Rypdal『Conspiracy』(写真左)。2019年2月、ノルウェーはオスロのRainbow Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (el-g), Ståle Storløkken (key), Endre Hareide Hallre (b), Pål Thowsen (ds, perc)。プロデューサーは当然、マンフレッド・アイヒャー。ノルウェー出身のメンバーで固めた、リピダルの約20年ぶりのスタジオ録音作品になる。

このリピダルの新作は、リピダルのリピダルらしい個性満載。往年のメジャー・デビュー当時の、幽玄で浮遊感溢れるサステインの効いたエレクトリック・ギターが再現されている。しかし、フレーズの作りが現代的で、その音はノスタルジックでは無い、現代の新しい響きのするもの。キーボードの参加が目新しく、ハモンド・オルガンの音がリピダルのエレギに溶け込み、創造的で耽美的なユニゾン&ハーモニーを奏でる様は今までにリピダルには無い要素。

アルバム・タイトルの「Conspiracy」は「陰謀・謀略」の意。この盤を聴くと、リピダルはまだまだ深化している。この個性は全くブレていないが、この盤で聴かれる音はノスタルジーとは全く無縁。初期のリピダルの個性を現代のニュー・ジャズの要素と合わせてリコンパイルし、新しいリピダルの音世界を創造しようとしている様に感じる。それが「陰謀・謀略」であるなら、聴き手の我々としては全くウエルカムである。
 
 
 

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2020年10月16日 (金曜日)

リーブマンの考えるエレ・ジャズ

ECMレーベルは欧州ジャズ・レーベルの老舗。スインギーな4ビート・ジャズには目もくれず、「ニュー・ジャズ」と言われる、即興演奏をメインとした新しい表現のジャズ、例えば、モーダルでファンクネスレスの即興ジャズや、モーダルなエレ・ジャズ、それからフリー・ジャズ。クラシック風の演奏でも即興演奏であれば、ECMはニュー・ジャズの範疇として扱った。このスタンスは今でも変わっていない。

Dave Liebman『Lookout Farm』(写真)。ECMの1039番。1973年10月10ー11日の録音。ちなみにパーソネルは、Dave Liebman (ss, ts, alto-fl), John Abercrombie (g), Richard Beirach (p, el-p), Frank Tusa (b, el-b), Jeff Williams (ds), Armen Halburian (perc), Don Alias (conga, bongos), Badal Roy (tabla), Steve Sattan (cowbell, tambourine), Eleana Sternberg (vo)。

Dave Liebman(デイヴ・リーブマン)は、米国のサックス奏者。1946年生まれ。未だ現役、頼もしい限りである。ニュー・ジャズ志向のサックス奏者で、1970年代初期、NYのロフト・ジャズ・シーンで活躍、マイルス・ディヴィスのグループには1970年から1974年まで在籍した。このECM盤は、まだマイルスのグループに在籍していた時の録音である。
 
 
Lookout-farm  
 
 
この盤の内容はECMレーベルの音とは少し異なる「エレ・ジャズ」。雰囲気はまさに、当時のマイルスのエレ・ジャズの音世界なのだが、ファンクネスは皆無。マイルスのエレ・ジャズから、ファンクネスを抜き取って、モーダルな演奏要素を前面に押し出した様な音作り。いわゆる、リーブマンがマイルスのエレ・ジャズを解釈した「リーブマンの考えるエレ・ジャズ」がこの盤に詰まっている。

共演メンバーは、ECMレーベルが抱える、当時の「欧州のニュー・ジャズ」のメンバーが中心。特に、アバークロンビーのアコギとバイラークのエレピが良い音を出している。この2人の音がいかにも「ECMのニュー・ジャズ」らしい音を出していて、この盤の「音世界の志向」を決定付けている様に感じる。フランク・トゥサの弾く「うねる重低音ベース」が欧州的なグルーヴ感を増幅する。

リズム隊が強烈で、コンガ、ボンゴ、そして、タブラ、カウベル、タンバリンを活用して、まるでマイルスの「ビッチェズ・ブリュー」のリズム&ビートから、ファンクネスを差し引いたものが、この盤で表現されているかのようだ。聴けば「リズム&ビートの効いたエレジャズ」というECMらしくない内容ではあるが、ECMでないと出し得ない、デイブ・リーブマンがECMレーベルで表現した「リーブマンの考えるエレ・ジャズ」。一聴に値する内容である。
 
 
 

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2020年9月15日 (火曜日)

ビル・フリゼールの音の個性

ビル・フリゼールのリーダー作を、初リーダー作から、リリース順に聴き直している。デビュー盤から、良い意味での「変態捻れギター」全開。どこか米国ルーツ・ミュージックの要素を踏襲したフレーズが出てきたり、いきなりアブストラクトにフリーに展開したり、とにかく「やりたい放題」の、良い意味での「変態ギター」である。

Bill Frisell『Lookout for Hope』(写真左)。1987年3月、NYの Power Stationの録音。ECMの1350番。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g,banjo), Hank Roberts (cello, voice), Kermit Driscoll (b), Joey Baron (ds)。ECMレーベルらしい、個性的なメンバーが集まっていて、明らかに、コンテンポラリーなニュー・ジャズ志向の音が聴こえてきそうだ。

冒頭のタイトル曲「Lookout for Hope」を聴くと、この盤の音の方向性が良く判る。妖しく激しいイメージのギター、ほの暗く哀愁感漂う、ちょっと浮遊感のあるフレーズ。1987年当時、実に新しいイメージの「ニュー・ジャズ」。自由度の高いモーダルな、そして、コンテンションな、それぞれの楽器のせめぎ合い。そこに一気に捻れて突き抜けるフリゼールのエレギ。硬派なストイックなニュー・ジャズ。
 
 
Lookout-for-hope  
 
 
2曲目の「Little Brother Bobby」は、どこかほのぼのとした、フォーキーな音世界。フリゼールのギターは捻れてはいるが、印象的で哀愁感漂う切れ味の良いフレーズには思わず耳を奪われてしまう。3曲目の「Hangdog」は、いきなりバンジョーの音色にビックリ。チェロも参加して、古き良き時代の米国のルーツ・ミュージックを聴く様な、そんなユニークな演奏。

ほの暗く捻れた米国ルーツ・ミュージックの要素を活かした「コンテンポラリーな純ジャズ」な展開かと思いきや、4曲目の「Remedios the Beauty」は、ほとんどフリー・ジャズ。無調のインタープレイが繰り広げられる。それぞれのアドリブ・フレーズを聴くと、マイナーではあるがフォーキーな旋律が見え隠れするところが「ミソ」。アルバム全体を覆うコンセプトは外してはいない。

フリゼールのアコギは、米国ルーツ・ミュージックの雰囲気を踏襲した耽美的でソリッドな響き。この盤でのフリゼールのギターは、お得意の「浮遊感」はあまり出てこない。耽美的でソリッドな音がメインなのだが、6曲目の「Melody for Jack」では、しっかりと浮遊感溢れるエレギを弾きまくっている。それでも、そのフレーズの中に見え隠れする「米国ルーツ・ミュージックの要素」。フリゼールの個性は、この「米国ルーツ・ミュージックの要素」を織り込んだ音世界であることが、この盤を聴くと良く判る。
 
 
 

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2020年9月14日 (月曜日)

二人の「捻れギタリスト」である

最近、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、ビル・フリゼールが「トレンド入り」している。ビル・フリゼールとは、ジャズとしてノーマルなフレーズが出てこない、圧倒的に個性的な「捻れた」ギターが飛び出してくる、良い意味で「変態ギタリスト」と呼んで良い。1951年生まれだから、今年で69歳。どうしてこんなに「捻れた」のか判らないが、とにかく捻れて浮遊するギター。

Marc Johnson's Bass Desires『Bass Desires』(写真左)。1985年5月、NYのThe Power Stationでの録音。ECMの1299番。ちなみにパーソネルは、Marc Johnson (b), John Scofield (g), Bill Frisell (g, g-syn), Peter Erskine (ds)。ベースがリーダー、ギター2本、キーボードレスの変則ギター・トリオ編成である。

僕はこの盤で、ビル・フリゼールと出会った。2本のギターのうち、捻れまくってはいるが、オーソドックスにブルージな雰囲気を振り撒く方が「ジョンスコ(John Scofield)」なのは判った。が、もう1本のギター、浮遊感を全面に押し出しつつ、捻れまくるわ、飛びまくるわ、この変態ギターは誰だ、と思って、パーソネルを見たら「ビル・フリゼール」だった。
 
 
Bass-desires_20200914200801   
 
 
改めて、このマーク・ジョンソンのリーダー作を聴き直してみると、なかなか「エグい」内容に改めてビックリする。とにかく尖っている。尖りまくって、アブストラクト寸前、純ジャズの範疇に留まって、自由度の高い、思いっ切りモーダルな演奏を繰り広げている。とにかく、マーク・ジョンソン=ピーター・アースキンのリズム隊が凄まじい。硬派でアグレッシヴ、力感と柔軟性を併せ持つ、素晴らしいリズム&ビートを供給する。

そんなリズム&ビートをバックに、二人の捻れギタリストが乱舞する。特にフリゼールが、ギター・シンセサイザーまで担ぎ出しての大活躍。冒頭の「Samurai Hee-How」を聴くと、二人の捻れギタリストの個性がとても良く判る。同じ捻れギタリストでも、フリゼールは浮遊感溢れる捻れギターで好き放題に弾きまくり、ジョンスコは堅実に捻れたギターでサポートに回る。二人の捻れギターがアウトドライブせずに自由度の高いアドリブを弾きまくれるのは、ジョンスコの堅実なサポートがあってこそ、である。

とびきり浮遊感溢れる、自由度の高いモード・ジャズ。2曲目のコルトレーンの大名盤『至上の愛』からの「Resolution」でのパフォーマンスは、高テンションで凄まじいばかりのインプロビゼーションを展開していて、思わずスピーカーの前に釘付けになる。今の耳で聴いても「斬新」の一言。さすがはECMレーベル。凄い音源を残している。
  
  
   

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2020年8月31日 (月曜日)

現代のジャズ・ギターの好盤

ジャズ・ギタリストの中で、大のお気に入りではないのだが、どうにも隅に置けない、リーダー作に出会うと、ついつい聴き込んでしまうギタリストがいる。「Bill Frisell(ビル・フリセール)」である。この人のギターは「変わっている」。良い意味で「変態ギター」と言っても良い。ジャズトしてノーマルなフレーズが出てこない。圧倒的に個性的な「捻れた」ギターが飛び出してくる。

初めて聴いた時には、この怪しく捻れたエレギの音、そして、どう聴いてもモダン・ジャズギターとは言えない、独特なビート感とスレーズを持った弾き回しに唖然とした。あまりに個性的なので一聴すれば、フリセールのギターと判るが、その癖と個性が強烈で、そう、ピアノで言えば「セロニアス・モンク」に似たところがある。とにかく「変わった(ユニークな)」変則ジャズ・ギターである。

Bill Frisell『Valentine』(写真左)。2020年08月のリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Frisell (g), Thomas Morgan (b), Rudy Royston (ds)。ブルーノート・レーベルからリリース。現代ジャズ・ギターの重鎮の1人、個性的な変則ギタリスト、ビル・フリゼールの最新作。フリゼールが切望してレコーディングに至ったという作品である。
 
 
Valentine-bill-frisell
 
 
ベースのトーマス・モーガンとは、昨年2019年にデュオ盤をECMレーベルからリリース、そして、同年、ビレッジ・バンガードでライヴを実施した折のドラマーのルディ・ロイストン(トーマス・モーガンもベースで参加)。そんな緊密な関係を創り上げてきた3人でのトリオ作品。フリゼールが最も信頼しているメンバーと創り上げたトリオ演奏である。

全編、コンテンポラリーなニュー・ジャズな演奏がてんこ盛り。フリゼールお得意の、従来のジャズには無いユニークなフレーズ展開の数々。そんな限りなく個性的で捻れたフリゼールのフレーズに、ベースのモーガンとドラムのロイスマンが硬軟自在、縦横無尽、緩急自在に応対する。その応対の柔軟性は、フリゼールのあまりに個性的なフレーズを阻害すること無く、逆に個性を浮き立たせ増幅させる様なサポートはお見事。

あまりに個性的で捻れたエレギなので、アブストラクトにフリーキーに展開するかと思いきや、しっかりとベースのモーガンとドラムのロイスマンがリズム&ビートをコントロールし、フリゼールのあまりに個性的なエレギをコンテンポラリーな純ジャズの範疇に帰結させる。そんな良きリズム隊を得て、フリゼールはその個性を最大限に発揮させながら、捻れたエレギを弾きまくる。フロントとバックの相乗効果が素晴らしい、現代のジャズ・ギターの好盤である。
 
 
 

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2020年8月25日 (火曜日)

現代音楽テイストなECMジャズ

そのレーベルの名は「ECM(Edition of Contemporary Music)」。創立者はマンフレート・アイヒャー。演奏家としての素養と録音技術の経験を基に、自らが選んだ「今日的」な音楽を記録し、世に問うべく、自らのレーベルを1969年に立ち上げる。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」。

Tom van der Geld & Children At Play『Patience』(写真左)。1977年5月の Tonstudioでの録音。ECMの1113番。ちなみにパーソネルは、Tom Van Der Geld (vib, perc), Roger Jannotta (fl, oboe, b-cl, ss, bs), Bill Elgart (ds, perc), Kent Carter (b)。ボストン出身のジャズ・ヴィブラフォン奏者Tom Van Der Geldの初リーダー作。

この盤に詰まっている音は、実にECMレーベルらしい。聴けば即興演奏なのは判る。ヴァイヴと管だけが目立つようだが、パーカッションとベースもしっかり参入した高度なインタープレイが素晴らしい。しかし、スインギーなリズム&ビートは存在しない。時々スインギーなビートも供給されるが、基本的には現代音楽風の打楽器の無調のパフォーマンス。これがジャズか、と問われれば、狭義の意味では「ジャズでは無い」。
 
 
Patience  
 
 
しかし、即興演奏という切り口とリズム&ビートの存在、使用楽器の類似性を勘案すると、これは「ジャズである」。この現代音楽のテイストがしっかり入った即興演奏は、その録音の個性と独特の深いエコーと相まって、これが「ECMの考える欧州ジャズ」の好例と言える。この盤の音世界は他のレーベルでは大凡聴けることは無い。ECMレーベルだからこそ「ジャズ」として成立するのだ。ECMの総帥、アイヒャーのプロデュースの成せる技だろう。

この盤でのECMレーベルならではの「ニュー・ジャズ」の音世界。高度なテクニックに裏打ちされた、レベルの高いインタープレイが展開される。時に幽玄に、時にアブストラクトに、時にクールに、とても自由度の高い、スピリチュアルなジャズが展開される。しかも、音の響きが、音のアンサンブルが印象的で、即興演奏のメロディーを楽しむ事が出来る。

これも「ジャズ」。別に絶対に体験することが必要とは言わないが、これも「ジャズ」。朝の喧噪が落ち着いた午前中の一時、昼食が終わって一息ついた午後の一時。人気の少ないジャズ喫茶で流すと、なんとも言えず、味わい深い音世界が耳に広がります。録音も素晴らしい。エンジニアはECMに数多くの名録音を残している「Martin Weiland」である。
 
 
 

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2020年8月 7日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・180

ジャズで扱う楽器は基本的には「何でもあり」。ジャズで扱わない楽器って、ほとんど無いんじゃないかと思えるくらい「何でもあり」である。例えば「ハーモニカ」。これはどう考えたってジャズ演奏には向かないだろうと思っていたが、これがかなりマイナーな存在ではあるが「アリ」。トゥーツ・シールマンス、リー・オスカー、グレゴア・マレ、と何人かのジャズ・ハーモニカ奏者の名が浮かぶ。

Grégoire Maret, Romain Collin & Bill Frisell『Americana』(写真左)。今年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Grégoire Maret (harmonica), Romain Collin (piano, key), Bill Frisell (g, banjo), Clarence Penn (ds)。スイス・ジュネーブ出身のジャズ・ハーモニカ奏者、グレゴア・マレが筆頭名義の新盤である。

筆頭名義のグレゴア・マレ。今もっとも売れっ子のひとりで、ジャズ・ハーモニカ奏者。多くのジャズ・ジャイアントのアルバムやライヴにその名を連ねている。トゥーツ・シールマンスの後を継ぐ者として、ジャズ・ハーモニカの世界を一手に引き受け、牽引している。第2名義のロメイン・コリンは、フランスが生んだ注目のピアニスト。フランスに育ち、バークレーへの留学を機に米国に移住、現在は米国を中心に活動。

そんな若手有望株の2人に、ベテランの「捻れたアメリカン・ルーツな」ギタリスト、ビル・フリゼールが参加。タイトルが「Americana」なので、恐らくこの盤、米国の原風景を感じさせるフォーキーでネイチャーな「ニュー・ジャズ」な音世界が展開されるのか、と予想する。そう言えば、グレゴア・マレって、パット・メセニー・グループのメンバーとしても活躍してたなあ。
 
 
Americana  
 
 
出てくる音は予想通り、ブルース、カントリー、ブルーグラス、ゴスペル... アメリカのルーツ音楽の要素を取り込んだ、フォーキーでネイチャーな「ニュー・ジャズ」な、静的でスピリチュアルな音世界が展開されている。明らかにパット・メセニー・グループやビル・フリゼールの音世界を想起させる、同一志向の「ネイチャー・ジャズ」(と僕が勝手に呼んでいる)。米国のルーツ・ミュージックにスピリチュアルなロマンティシズムを加えて、独特な音世界を展開している。

そこはかとなく哀愁感が漂い、郷愁を誘う音世界。メロディアスではあるが、ところどころでアブストラクトに展開し、スピリチュアルな雰囲気を醸し出している。ハーモニカとピアノがメインだが、フリゼールは絶妙な間と音の揺らぎと捻れで、その存在感をアピールする。フリゼール独特の哀愁感と寂寞感を漂わせ、その音世界を一気に米国の原風景を感じさせるフォーキーでネイチャーな「ニュー・ジャズ」なものに変化させるところは、さすがフリゼール。

アルバム名義にはその名は無いのだが、ドラマーのクラレンス・ペンが参加している。パーカッションとして数曲、三人のサウンドに彩りを加えるような形での客演。これがまた効果的。

米国の原風景を感じさせるフォーキーでネイチャーな「ニュー・ジャズ」な音世界。暑い夏の昼下がり、ジャズ喫茶で流すのに良い雰囲気の好盤です。思わずとことんリラックスして、ストレス解消。時には寝息を立ててしまうことも(笑)。真夏の昼下がり、こういう盤もまた良し、です。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

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  ・『Your World and My World』 1981

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2020年7月 8日 (水曜日)

ジャズ者として避けて通れない

ジャズの演奏スタイルの1つに「フリー・ジャズ」がある。従来のジャズの奏法を踏まえることなく、自由に演奏するスタイル、いわゆる「音階(キー)」「コードあるいはコード進行」「リズム(律動)」、以上3要素から自由になって演奏するのが「フリー・ジャズ」。しかし、これら3要素を全て自由にすると「音楽」として成立しないので、「必要最低限の取り決め」のもと、フリーに演奏するということになる。

乱暴な例えだが、絵画で言うと「現代絵画」に当たるのがフリー・ジャズ。20世紀に入ってからのフォーヴィスム以降、現代に至るまでの「伝統的でなく、古典的でない」絵画。それをジャズに置き換えると「フリー・ジャズ」になる。前衛的でアバンギャルド、激しいフレーズと無調のアドリブ。通常の鑑賞音楽と比較すると著しく難解。しかし、高度なテクニックと音楽性を有しないと「フリー・ジャズ」としての音楽を表現出来ないので、これはこれでジャズ者としては無視出来ない。

Art Ensemble Of Chicago『Fanfare for the Warriors』(写真)。邦題『戦士への讃歌』。1973年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Lester Bowie (tp, perc), Malachi Favors Maghostut (b, perc, vo), Joseph Jarman (sax, cl, perc), Roscoe Mitchell (sax, cl, fl, perc), Don Moye (ds, perc), Muhal Richard Abrams (p)。アート・アンサンブル・オブ・シカゴは、アメリカ合衆国シカゴ出身のフリー・ジャズ・バンド(略称 : AEOC) 。
 
 
Fanfare-for-the-warriors  
 
 
当ブログの主たる目的は「ジャズ者初心者向けのジャズ盤紹介」。フリー・ジャズを扱うのは、ブログの運営目的にそぐわないのでは無いか、という声もあるが、僕はそうは思わない。フリー・ジャズは「ジャズの奏法のトレンド」の1つとして確立〜認定されており、ジャズを理解するには避けては通れない。一度は聴いてみて、自らが体験して自らが評価するのは必要だろう。ということで、まずはこの「AEOC」である。

聴けば判るのだが、AEOCのフリー・ジャズは、先に書いた「必要最低限の取り決め」が充分に機能した、計算された「調性と無調」が混在した演奏。それぞれの楽器はフリーな演奏はするが、音の調性は取れている。しかしながら「音階」「コード」「リズム」以上3要素からフリーに演奏する部分がメインで、そういう意味では「フリー・ジャズ」と評価して良いだろう。この『戦士への讃歌』についても、音楽としての必要最低限の調性は取れていて、非常に聴き易い「フリー・ジャズ」に仕上がっている。

即興演奏というジャズの最大の個性を最大限に活かして、様々なものを表現する。アバンギャルドでもありスピリチュアルでもある、この即興の「音」による、自由度・創造性の高いパフォーマンスは他のジャンルの音楽には無い。そういう意味で避けては通れない「フリー・ジャズ」である。優れたフリー・ジャズにおいては、明らかにその即興表現は群を抜く。意外と聴いてみたら面白いジャズでもある。但し、聴き手を選ぶことは間違い無い。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

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  ・『You’re Only Lonely』 1979

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  ・Zep『永遠の詩 (狂熱のライヴ)』

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  ・太田裕美『手作りの画集』

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