2021年12月23日 (木曜日)

マッキンタイヤーの充実の好盤

コペンハーゲンが拠点の欧州ジャズ・レーベルの老舗のひとつ「スティープルチェイス・レーベル」。このレーベルには、米国のレーベルではパッとしなかったが、このスティープルチェイス・レーベルにてリーダー作を制作し、なぜか頭角を現した、不思議なジャズマンがいる。例えば「Ken McIntyre(ケン・マッキンタイヤー)」はそんな1人である。

Ken McIntyre(ケン・マッキンタイヤー)は、1931年9月、米国はボストンの生まれ。基本はアルト・サックス奏者。その他、フルートなども吹き、他の楽器、ベースやピアノも弾く「マルチ・インストルメンタル」なジャズマンである。

1960年代前半に4枚のリーダー作を残したがパッとせず、1970年代は、スティープルチェイスに移籍して、5枚のリーダー作を残したが、これがどれもが好盤揃い。恐らく、スティープルチェイスの総帥プロデューサー、ニルス・ウインターの手腕の賜だろう。

Ken McIntyre『Home』(写真左)。1975年6月23日、NY出の録音。スティープルチェイス・レーベルのSCS1039番。ちなみにパーソネルは、Ken McIntyre (as, fl, bassoon, b-cl), Jaki Byard (p, el-p), Reggie Workman(b), Andrei Strobert (ds)。ケン・マッキンタイヤーのアルト・サックスがワンホーンのカルテット編成。マッキンタイヤーの通算6枚目のリーダー作。
 

Home_ken-mcintyre

 
内容的には、1960年代後半、米国NYで流行した、自由度の高いモーダルなジャズ。ストレートでモーダルな吹きっぷりは、アルト・サックスを吹くコルトレーンの様でもあり、時々、アブストラクトにスピリチュアルに捻れるところは、エリック・ドルフィーの影を強く感じる。

全ての曲が、マッキンタイヤーの自作曲であるということ、そして、ワンホーン・カルテットということもあって、伸び伸びとポジティヴにアルト・サックスを吹きまくっている。フリーにアブストラクトに、ブロウに様々な色づけをしつつ、フリー&アブストラクトに傾くのはほんの少しなので、フリー嫌いのジャズ者の耳にも十分に鑑賞に耐える。

バックのリズム・セクションも良い感じ。幾何学模様のモーダルなバイアードのピアノが、マッキンタイヤーのアルト・サックスにバッチリ合っていて、ワークマンのこれまた重量級モーダルなベースが、演奏の底をガッチリ支えている。

マッキンタイヤーの、演奏家として充実してきた40歳代の「中堅ジャズマン」の記録として、充実の好盤である。
 
 
 
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2021年12月22日 (水曜日)

スティープルチェイスの異色盤

スティープルチェイス・レーベルは、1970〜80年代を中心に、ジャズ史に残る名盤を数多く生み出した欧州ジャズ・レーベルの老舗。比較的、米国系のレーベルに近い演奏の色や雰囲気を持っていて、ハードバップ系の演奏に秀作が多い。さしずめ欧州の「ブルーノート」と言っても良い「欧州発ハードバップ」の宝庫。

そんな「欧州発ハードバップ」の宝庫にも、1970年代、当時にして新しい「コンテンポラリーな純ジャズ」なアルバムがあったりするから面白い。

Michael Carvin『The Camel』(写真左)。1975年7月8日の録音。スティープルチェイス・レーベルのSCS1038番。ちなみにパーソネルは、Sonny Fortune (as. ss), Cecil Bridgewater (tp, flh), Ron Burton (p), Calvin Hill (b), Michael Carvin (ds)。リーダーは、ドラムのマイケル・カーヴィン。フォーチュンのサックス、ブリッジウォーターのトランペットが2管のクインテット編成。

欧州ジャズの世界に、バリバリ、エレ・マイルスの世界で吹きまくっていたサックス奏者と、マックス・ローチの長年の右腕トランペッター、セシル・ブリッジウォーターを迎えてのレコーディング。
 

The-camel

 
冒頭「Osun」から、カリプソチックでトロピカルな雰囲気の、ワールド・ミュージック志向な「ニュー・ジャズ」が展開される。フォーチュンとブリッジウォーターがノリに乗って、陽気に吹きまくっているのが面白い。どう聴いたって「欧州ジャズ」の雰囲気じゃない(笑)。リーダーのカーヴィンのドラムもノリに乗っている。

2曲目の「Naima」は、コルトレーンのバラードの名曲。ゆったりと展開するリズム&ビートをバックに、フォーチュンが素敵なソプラノ・サックスを披露する。静的なフレーズから、ラストはサイケデリックでスピリチュアルなフレーズで締めくくる。コルトレーン・ジャズへのオマージュ的演奏。

アルバム全体の雰囲気は、当時の米国ジャズの最前線のコンテンポラリーな純ジャズ。ワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズあり、コルトレーンのオマージュあり、スピリチュアルなバップ曲あり、で、当時の欧州ジャズのトレンドからは逸脱した、1970年代の米国に流行っていた「コンテンポラリーな純ジャズ」な雰囲気が面白い。

スティープルチェイス・レーベルの諸作の中では異色盤でしょう。ジャケット・デザインも「強面」なので、あまり人気が無いみたいですね。それでも、一度聴けば、意外と時々引っ張り出して来て聴く「息の長いヘビロテな盤」になるのではないでしょうか。意外と充実した内容の好盤です。
 
 
 
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2021年12月18日 (土曜日)

サン・ラ・アーケストラの新盤

サン・ラ(Sun Ra)。米国アラバマ州出身のバンドリーダー&キーボーディスト。ジャズとしては、基本はフリー、スピリチュアル、アヴァンギャルドの類なのだが、ニューオリンズ、スウィング、ビバップ、ドゥーワップ、R&B、アフロ・キューバンなど、様々な音要素も融合していて、ワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズにも通じる独特の音世界が個性だった。

とにかく「変人」だった。独特の音楽性を持ったジャズだけでなく、自らを土星生まれと語り、独自の宇宙哲学とパフォーマンスがユニーク。超現実的宇宙音楽の創造者を自認していた。しかし、奏でる音は実に真っ当なジャズであり、音だけ聴いていたら、かなりハイレベルのアヴァンギャルド・ジャズ、もしくは、ワールド・ミュージック志向のニュー・ジャズな趣きは、かなり聴き応えがある。

Sun Ra Arkestra『Swirling』(写真左)。2021年12月のリリース。15人編成の「サン・ラ・アーケストラ」の新盤。サン・ラの1993年の他界(宇宙への帰還)後、現サン・ラー・アーケストラによるこの20年間での最初のスタジオ録音アルバムである。1950年代の最初期からのメンバーであるサックス奏者の「マーシャル・アレン」が中心になって、アーケストラをとりまとめている。
 

Swirling_sun-ra-arkestra

 
本作『Swirling(渦を巻く)』は、内容的には、往年のアーケストラのレパートリーをスタジオで実演したもの。ライヴ録音が主なサン・ラー・アーケストラにとっては異色の企画。アレン作の「Swirling」と、フレッチャー・ヘンダーソンの「Queer Notions」以外、「Astro Black」「Rocket No.9」「Angels And Demons At Play」から「Darkness」までサン・ラの作曲作品で統一されている。

改めて、今回、サン・ラ・アーケストラの演奏を聴いてみて、やっぱり「ええなあ」と思った。ゲテモノ扱いされるのが常な「サン・ラ」だが、音的には正統な「融合」の音楽、いわゆる「ジャズ」を地で行っている音作り。特に即興性を重視していて、アヴァンギャルド志向の演奏には定評がある。そんな中に、ポップなドゥーワップ、R&B、アフロが入ってきたり、伝統的なニューオリンズ、スウィング、ビバップな手法が入ってきたりで、聴いていてかなり楽しい。

15人編成のアーケストラで、一斉にアヴァンギャルド&スピリチュアルな演奏を繰り広げるのだが、不思議な統一感と一体感があって、意外と聴きやすい。60年以上の活動歴のサン・ラ・アーケストラ。ゲテモノ扱いされがちなのだが、正統な「融合のジャズ」を展開する、唯一無二のジャズ・オーケストラである。
 
 
 
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2021年11月 8日 (月曜日)

スティープルチェイスのフリー盤

ジャキー・マクリーン(Jackie McLean)は、前進するアルト・サックス奏者だった。ハードバップ前期に第一線に躍り出て、人気ジャズマンとして、多くのリーダー作、サイドマンとしての参加作を残した。そして、ジャズの演奏スタイルの深化と多様化の時代に入ると、ハードバップから、モード、フリーと、変化を恐れず、演奏スタイルを自らが変化させていった。

Jackie McLean & Michael Carvin『Antiquity』(写真左)。1974年8月16日、コペンハーゲンでの録音。Steeplechaseレーベルの SCS 1028番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as, p, vo, bamboo-fl, bells, temple block, perc), Michael Carvin (ds, vo, temple block, bells, bamboo-fl, kalimba, perc)。マクリーンとカルヴィンがマルチ奏者として、デュオ演奏に臨んでいる。

マイケル・カルヴィンは、米国ヒューストン出身のジャズ・ドラマー。1970年辺りから頭角を現した「遅れてきた」純ジャズなドラマー。そのパフォーマンスは、当時の先端を行く正統なジャズ・ドラミング。しかし、当時、ジャズは斜陽の「ポップス音楽」となっていて、その優秀なドラミングがほとんど話題にならなかったのは気の毒であった。
 

Antiquity

 
マクリーンとカルヴィンがマルチ奏者して演奏しているので、基本は多重録音。グループでの一発録りの「切れ味とスピード感」に欠けるのは仕方の無いこと。但し、どちらも演奏テクニックは極上の一流ミュージシャンなので、録音されたパフォーマンスは水準点以上。特に、マクリーンの本業のアルト・サックス、カルヴィンの本業のドラムについては、その演奏内容は申し分無い。

この盤に詰まっているジャズは「フリー・ジャズ」そして「スピリチュアル・ジャズ」。1960年代のマクリーンのフリー・ジャズへのチャレンジはお世辞にも成功しているとは思えない演奏もあったが、この盤では、既にフリー・ジャズは一定の成熟を迎えているので、その成功例を基に、マクリーン&カルヴィンはまずまずのフリー・ジャズを展開している。が、どこか「安全運転」風な感じがするのは、多重録音であるが故の弱点かもしれない。

2人のボーカルも入っていて、その雰囲気は「スピリチュアル・ジャズ」。まあ、これはご愛嬌。スティープルチェイスの「スピリチュアル・ジャズ」は、どこか寝ぼけたようなボーカルが入っていることが多くて、これについては、Nils Wintherのプロデュースには疑問符が付くなあ(笑)。欧州ジャズらしいといえば、欧州ジャズらしい安全運転の「フリー・ジャズ」。あまり尖っていない分、どこか物足りなさが残る。
 
 
 
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2021年11月 7日 (日曜日)

スティープルチェイスの珍盤奇盤

「1970年代北欧のブルーノート」と称されたデンマークの名門ジャズレーベルである「スティープルチェイス」。デンマークのニルス・ウインターが、1972年立ち上げたジャズ・レーベルで、1970〜80年代を中心に、ジャズ史に残る名盤を数多く生み出した欧州ジャズ・レーベルの老舗。

カタログを見ていると、さすが「1970年代北欧のブルーノート」と言われるだけあって、正統派なジャズ、いわゆるメインストリームな純ジャズが大半を占めていて、1970年代のハードバップの宝庫と呼ぶべき充実度である。そんな中で、あれっと思うような、内容のジャズも存在する。フリー・ジャズ、スピリチュアル・ジャズ、そして、エレ・ジャズな内容の「珍盤」があるから面白い。

Billy Gault『When Destiny Calls』(写真)。1974年10月29日の録音。Steeplechaseレーベルの SCS1027番。ちなみにパーソネルは、Billy Gault (p), Bill Saxton (ts), Billy Skinner (tp), James 'Fish' Benjamin (b), Michael Carvin (ds), Ellen Deleston, Joe Lee Wilson (vo)。NY出身の黒人ピアニスト、ビリー・ゴールトがリーダーのクインテット編成にボーカルが入る。
 

When-destiny-calls_1

 
冒頭の「The Time Of This World Is At Hand」の出だしから、妖しげで不確かなボーカルが入るから、思わず「オヨヨ」と思う。何だこれ、と思いながら聴き進めて行くと、華奢ではあるがパーッカシヴな、どこかで聴いた様な響きのピアノが入る。これって、この響きって「マッコイ・タイナーか?」と思う。フレーズは明らかにモーダル。冒頭の妖しげなボーカルと併せて、この盤、コルトレーン晩年のスピリチュアル・ジャズのオマージュと理解した。

ビル・サックストンのテナー・サックスが入ってきて、その印象は確信に変わる。確かに、この盤の音世界は「コルトレーン晩年のスピリチュアル・ジャズ」。その「コルトレーン晩年のスピリチュアル・ジャズ」から重量級の迫力を差し引いた、華奢で繊細なモーダルな演奏をベースに、スピリチュアルなジャズを展開している。が、こぢんまりした「コルトレーンのスピリチュアル・ジャズ」な印象に留まって、その音作りは成功しているとは思えない。

せめて、中途半端なボーカルは不要だったなあ。21世紀に入ってから「静的なスピリチュアル・ジャズ」が現れ出でるが、この盤の演奏自体が中途半端でテクニック不足な内容なので、どうにも中途半端な印象に留まってしまう。欧州ジャズがチャレンジした「コルトレーン晩年のスピリチュアル・ジャズ」の、まだまだこれからの貴重な記録として僕は聴いた。
 
 
 
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2021年10月30日 (土曜日)

ウエストンの好盤に出会った。

ランディ・ウエストン(Randy Weston)は、ニューヨーク出身のピアニスト。1926年生まれ、2018年9月、92歳で鬼籍に入っている。デューク・エリントンやセロニアス・モンクの影響を色濃く感じるタッチの強さと不思議なフレーズの飛び方。そして、作曲の才にもつながる美しいメロディーラインが個性のピアノストだった。

1940年代後半から活動しているので芸歴は70年近くあり、リーダー作だけでも50枚近くがリリースされている。1950年代後半のリヴァーサイドの諸作がよくジャズ盤紹介本に挙がるが、意外と内容はシビアだ。我が国で人気が無いのが良く判る。ウエストンのピアノを感じるのには、1980年代以降のリーダー作を聴いた方が良い。

Randy Weston『Saga』(写真左)。1995年4月14-17日の録音。ちなみにパーソネルは、Randy Weston (p), Alex Blake (b), Billy Higgins (ds), Neil Clarke (perc), Talib Kibwe (fl,as), Benny Powell (tb), Billy Harper (ts)。ランディ・ウエストンのピアノ率いるピアノ・トリオのリズム隊にパーカッションが加わり、フロントが3管のセプテット編成。
 

Saga-randy-weston

 
ランディ・ウエストンのリーダー作。本盤は収録曲は全曲ランディのオリジナル。どの曲もメロディが印象的で流麗で聴き易い。これがこの盤の「ミソ」で、ウエストンのピアノの個性が良く判る。エリントンのピアノの如く「パーッカッシヴ」。モンクの如く幾何学模様の様な「フレーズの音の飛び」。これが、ウエストンの曲の流麗なフレーズに適合されると、強いタッチと癖のあるフレーズが、抵抗なくスッと耳に入ってくる。

そして、そんな正統なストライド・ピアノに乗って、ビリー・ハーパーのテナー・サックスがのびのびの心地良いテンポで、アドリブ・フレーズを紡ぎ上げていく。時にアブストラクトに、時にスピリチュアルに展開するが、基本はモーダルで流麗なフレーズ。音の余裕に、ハーパーのサキソフォニストとしての成熟を感じる。

ランディ・ウェストンは、ジャズ・ピアニストとして実力者であり、実績も十分なのに、これといった「記憶に残る」決定盤が無かったのが残念に思う。しかし、こういう好盤を耳にすると、やっぱり良いピアニストだったなあ、と思うのだ。不思議と1980年代以降のリーダー作が良いことに最近気が付いた。なかなか入手し難いウエストンのリーダー盤だが、順に聴き進めて行こうと思った。
 
 
 
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2021年10月10日 (日曜日)

橋本一子のソロ・ピアノ『View』

日本人ジャズは1950年代の終盤から現在まで、ずっと進化している。ビ・バップの模倣から始まり、ハードバップの模倣からオリジナリティーを発揮し始め、1970年代に入ると、フリー・ジャズも得意ジャンルとし、クロスオーバー〜フュージョン・ジャズは独自の進化を確立した。純ジャズ復古以降、ハードバップは自家薬籠中のものとなり、コンテンポラリーなジャズは様々な形式、パターンで深化している。

橋本一子『View』(写真左)。2021年7月のリリース。ちなみにパーソネルは、橋本一子 (p), 菊地成孔(as), 類家心平(tp), 藤本敦夫(ds, b)。コンテンポラリー・ジャズ、および、ニューエイジなど、ボーダーレスなジャンルで、魅力的なリーダー作をリリースしてきた、橋本一子の、なんと12年振りのソロ・リーダー作となる。しばらく、リーダー作が途絶えて「どうしているのか」と思っていた矢先の嬉しい新作である。

橋本一子の名は、YMOのサポート・メンバーの時に知った。矢野顕子の後任だったと記憶するが、キーボードの演奏スタイルは、基本的に矢野顕子に準ずる。しかし、矢野よりも耽美的でリリカルで流麗。しかし、格好良さを追求する演奏スタイルは共通で、これは凄い女性ピアニストが出現した、とビックリしたことを記憶している。それから、橋本一子のリーダー作は漏れなく追いかけてきた。
 

View-ichiko-hashimoto

 
今回の新作、基本は橋本のソロ・ピアノ。橋本の耽美的でリリカルで流麗なピアノは健在。音の広がりが素晴らしく、流麗でユッタリとしたテンポの演奏などは「静的なスピリチュアル」な要素が溢れんばかり。そんな魅惑的なソロ・ピアノに、橋本本人のボーカル、そして、ゲストのアルト・サックス、トランペット、ドラム、ベースが絡む。橋本のボーカルとゲストの楽器はあくまで、橋本のソロ・ピアノを引き立たせ役。この盤は橋本のソロ・ピアノをとことん愛でることができるのだ。

収録曲は、ブラジリアン・ミュージックとジャズ・スタンダード曲のカヴァー6曲とオリジナル楽曲が5曲。特に、ブラジリアン・ミュージックとジャズ・スタンダード曲のカヴァー6曲の出来が秀逸。アレンジに一癖二癖あり、一筋縄ではいかないパフォーマンスで、思わずスピーカーに対峙して聴き込んでしまう。自作曲の演奏が優れているのは言うまでも無い。

この橋本のソロ盤、その静謐で耽美的なピアノは、アンビエント・ミュージックとコンテンポラリー・ジャズの融合。そのスタイリッシュでリリカルで流麗なピアノは、静的なスピリチュアル・ジャズ。日本人ジャズの中でも、唯一無二、橋本一子独特の「ジャズ」がこの盤に詰まっている。ジャズにおいても「精魂込めた美しい音」は無敵である。
 
 
 

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2021年10月 9日 (土曜日)

エレ・マイルスを進化させる者

高校1年生の頃だったか、マイルス・ディヴィスが来日、とてつもないエレ・ファンクをかましていった、その大阪フェスティバル・ホールの実況ライブ録音をFMで聴いて「スゲぇー」。まず「エレ・マイルス」のファンになった。その4年後、本格的にジャズを聴き初めてから、まず、エレ・マイルスのアルバムを買い漁ることとなる。

このエレ・マイルスのバンドのメンバーって、殆どがマイルスが目に留めた無名の新人を選んでいることを知る。そして、マイルスに鍛えられた新人が、マイルスの下を離れ、後に一国一城の主として、リーダーを張れる一流ジャズマンに育っていく。その「マイルス・スクール」出身の一流ジャズマンのリーダー作を聴くのが楽しみになる。

Kenny Garrett『Sounds from the Ancestors』(写真)。ちなみにパーソネルは、以下の通り。Kenny Garrett (as, vo, el-p), Vernell Brown, Jr. (p), Corcoran Holt (b), Ronald Bruner (ds), Rudy Bird (per) が、メインのメンバー。

ここに以下のメンバーがゲスト参加する。Jean Baylor, Linny Smith, Chris Ashley Anthony, Sheherazade Holman, Dwight Trible (vo), Dreiser Durruthy (bata, vo), Maurice Brown (tp), Johnny Mercier (p, org, Rhodes), Lenny White (snare), Pedrito Martinez (vo, congas)。
 

Sounds-from-the-ancestors_kenny-garrett

 
リーダーのケニー・ギャレットは、1986年から1991年にかけて帝王マイルス・デイヴィスのバンドに在籍。その後、自身のグループを中心に活動する中で、マイルスの遺伝子を受け継ぐ、エキサイティングでスピリチュアルな、エレ・ファンクな音世界をメインに展開している。ストレート・アヘッドなギャレットも素晴らしいが、やはり、マイルスの遺伝子を継ぐ、エレ・ファンクなギャレットが一番だと僕は思う。

今回のこの『Sounds from the Ancestors(先祖からの音)』には、マイルス譲りのエレ・ファンクの音世界が濃厚。そのエレ・ファンクの中に、ヒップホップ、ゴスペル、アフリカ音楽、デトロイトのモータウン・サウンド等を融合して、今までの音世界を一気に拡げ、ポップでスピリチュアルな要素も加え、よりステップアップした「ケニー・ギャレットのエレ・ファンク」を聴かせてくれる。

これが聴いていてとても心地良い。バックバンドのクールでファンキーなリズム&ビートに乗った、スピリチュアルなエレ・ファンクは聴き応えがある。アメリカン・ルーツ・ミュージックの響きが郷愁をそそり、ヒップホップなビートは、ジャズの「今」を感じさせてくれる。ビートはシンプル&クールで、意外とさりげない雰囲気のエレ・ファンクだが、内容はかなり充実している。

どこか、マイルス・ミュージックの「肝」の部分が見え隠れしてる雰囲気が凄く魅力的。ギャレットはマイルス門下生として、ジャズの得意技である「融合」をキーワードに、マイルス・ミュージックを進化させているようだ。上質のエレ・ファンク、上質のコンテンポラリーな純ジャズである。
 
 
 
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2021年10月 8日 (金曜日)

ジャズと米国ルーツ音楽の融合

コロナ禍は、ジャズの在り方、ジャズの音作り、ジャズの楽しみ方を大きく変えた。引きこもり需要の中、「鑑賞音楽としてのジャズ」が再評価された。決して、音楽は「不要・不急」では無い。引きこもりの中、リラックスして聴くことの出来る音楽。そんな音楽は、コロナ禍の中では重要なアイテムだ。

そして、ソロ、デュオという少人数での録音が増え(いわゆる「密」を避ける為)、引きこもり時の「自宅でのセルフレコーディング」も目にするようになった。2020年後半から、ジャズはコロナ禍によって、色々な切り口で「変化・進化」している。

Harry Connick, Jr.『Alone With My Faith』(写真左)。2021年3月のリリース。現在の米国のジャズ・シーンにおいて、最も優れた男性ボーカリストの1人、ハリー・コニックJr. がコロナ渦のロックダウンの間、自宅のスタジオに引きこもり、たった一人で制作した新作である。

全編に渡って、アメリカン・ルーツ・ミュージックをベースとした、コンテンポラリーなジャズ・ボーカル集である。冒頭の「Alone With My Faith」は、ファンクネス控えめのソウル・ミュージックな雰囲気。2曲目の「Because He Lives」は、フォーキーで郷愁漂う音世界に、後半ゴスペルが加わる。3曲目「Be Not Afraid」は賛美歌風。
 

Alone-with-my-faith-1

 
かの有名な「Amazing Grace」が収録され、続く「The Old Rugged Cross」のオルガンの響きは「郷愁」を誘う。古き良きアメリカを彷彿とさせる「愁感と寂寞感」。ハリー・コニックJr. の流麗で切々とした歌唱は、そんなアメリカン・ルーツ・ミュージックの響きを増幅させる。見事な歌唱に思わずしんみり聴き入ってしまう。

単なるアメリカン・ルーツ・ミュージックのカヴァーでは無い、ましてや「懐メロ」でも無い。ジャズ、フォーク、カントリー、ゴスペル、ソウル、ブルース、デキシーランド・ジャズ 等々、そんなアメリカン・ルーツ・ミュージックの音の要素を効果的に融合させて、静的でスピリチュアルなジャズ・ボーカルにまで昇華させている。

僕はこの「アメリカン・ルーツ・ミュージック」の音が大好きで、この盤については「居抜き」で、我がバーチャル音楽喫茶の「ヘビロテ盤」になっている。最後に、ハリー・コニックJr. が本作に込めた思いのコメントを引用しておきます。

「お馴染みの伝統的な曲に加えて、ロックダウン中の私の経験を語る新しい曲を書き、レコーディングしました。私は、私たちの多くと同じように、喜び、悲しみ、疑い、確信、憂鬱、インスピレーションなど、信仰や信仰の欠如が引き出すことのできるすべての感情を感じました。多くの曲がキリスト教の曲であるにもかかわらず、私が願っているのは、これらの曲があらゆる信仰を持つ人々の心に響くことです」。
 
 
 
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2021年9月10日 (金曜日)

スピリチュアルなタイナー

マッコイ・タイナーは「コルトレーン・ジャズの継承者の1人」として認知されている。1970年代は、しっかりとコルトレーン・ミュージックを継承。フリー&アブストラクトなジャズには傾倒しなかったが、モーダルで、アフリカン・ネイティヴなコルトレーンの音世界をピアノ中心のジャズに置き換えて、1970年代を走り抜けた。

Mccoy Tyner『Inner Voices』(写真左)。1977年9月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, arr), Cecil Bridgewater, Jon Faddis, Eddie Preston:, Ernie Royal (tp), Dick Griffin, Janice Robinson, Charles Stephens, Earl McIntyre (tb), Joe Ford (as), Jerry Dodgion (as, fl), Alex Foster (ts), Ed Xiques (bs, as), Earl Klugh (g), Ron Carter (b), Eric Gravatt, Jack DeJohnette (ds), :Guilherme Franco (perc)。加えて、男女混声コーラスが参加している。

何ともはや、複雑な編成である。トランペットが4本、トロンボーンが4本、サックスが4本。アコギが入って、ドラムは2人を使い分けている。男女混声コーラスの参加がこの盤の特徴で、聴いてみると、この盤では明らかに「スピリチュアル・ジャズ」へのチャレンジが聴いて取れる。

いわゆる「内面の精神世界」をジャズで表現するのだが、タイナーは「コルトレーン・ジャズの継承者の1人」として、スピリチュアル・ジャズにも決着を付けておきたかったのかもしれない。
 

Innervoices

 
ジャズ・オーケストラでは無いのだが、管楽器が計12本のユニゾン&ハーモニーが迫力である。が、大胆に男女混声コーラスを導入しているにも拘わらず、あまりスピリチュアル・ジャズの雰囲気がしないのが面白い。

タイナーのピアノをメインとするリズム・セクションは、明らかにモード・ジャズをベースに当時最先端を行く、メインストリームなパフォーマンスで、男女混声コーラスと重厚な管楽器のユニゾン&ハーモニーをサポートするのだが、実はこのリズム・セクションのパフォーマンスが突出している。

スピリチュアル・ジャズって、僕は「思い込み」と「陶酔」、そして「自己満足」が基本だと思っているが、この盤でのタイナーは至って冷静。モーダルなジャズの下、アレンジされたスピリチュアル・ジャズという雰囲気で、他のスピリチュアル・ジャズのパフォーマンスとは一線を画している。実はこれがタイナーの狙いだったのかもしれない。

男女混声コーラスですら、モーダルなフレーズを唄い上げているところなんか、実にユニーク。スピリチュアル・ジャズとして成功しているとは思わないが、タイナーの考える「アレンジされたモーダルなスピリチュアル・ジャズ」として聴く分には、意外と面白い発見がここかしこにある。まあ、いわゆる「問題作」の一枚ではある。
 
 
 
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