2023年3月16日 (木曜日)

ラヴァの硬派な「純ジャズ」

2日ほどお休みをいただきましたが、本日、ブログ再開です。

さて、久々にイタリアン・ジャズのお話しを。イタリアン・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァである。1972年に初リーダー作をリリースしている。約50年間、イタリアン・ジャズの第一線を走ってきた。1939年の生まれなので、今年で84歳。イタリアン・ジャズのレジェンド中のレジェンドである。

Enrico Rava Quartet『Ah』(写真)。1979年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (tp), Franco D'Andrea (p), Giovanni Tommaso (b), Bruce Ditmas (ds)。エンリコ・ラヴァのトランペット1管がフロントの「ワンホーン・カルテット」な編成。ラヴァのトランペットの本質と個性がとても良く判る編成での演奏になる。

まず、ラヴァのトランペットの素姓の良さを強く感じる。輝く様にブリリアントなトランペットの響き。スッと伸びるロングトーン。切れ味の良い高速パッセージ。とにかくラヴァのトランペットの音は美しい。そして、流麗なアドリブ・フレーズを吹き切るテクニックの高さ。音の「質」は、米国ジャズのトランペットの様な「ファンクネス」は希薄。クラシック音楽の端正で粒立ちの良い響きを踏襲している様で、それが「欧州ジャズ」特有の「質」なんだろう。
 

Enrico-rava-quartetah

 
演奏の基本は「欧州モダン」。しかし、アドリブ展開に入ると、限りなく自由度の高いモーダルな展開から、フリーにスピリチュアルに大胆に展開し、アブストラクトにブレイクダウンする。と思いきや、統制の取れた構築力の高いアンサンブルで疾走する。1979年というフュージョン・ジャズ全盛時代に、こんなバリバリ硬派でモダンな「ニュー・ジャズ」が演奏されていいたとは。さすがにECMレーベルである。

イタリア出身のジョヴァンニ・トマッソのベース、米国出身のブルース・ディトマスのドラムもラヴァに負けずとも劣らない、限りなく自由度の高いモーダルな展開から、フリーにスピリチュアルに大胆に展開にガッチリ追従し、柔軟に応対する。このリズム隊のレベルの高さも、このラヴァ盤の内容充実に大いに貢献している。

実にECMらしい、欧州モダンらしいニュー・ジャズがてんこ盛り。実はこの盤、ECMレーベルからのリリースでありながら、プロデューサーがマンフレート・アイヒャーではなく、トーマス・ストウサンド(Thomas Stöwsand)で、その結果、ECMの「ニュー・ジャズ」というよりは、ECMレーベルの中では、ちょっと異色の「メンストリーム系の純ジャズ」の雰囲気が濃厚になっている。ガッシガシ硬派な欧州系の純ジャズです。
 
 

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2023年3月 5日 (日曜日)

ラヴァとハーシュのデュオ新盤

イタリア・ジャズも隆盛を維持して久しい。レジェンド級のベテランから、若手新人まで、コンスタントに好盤をリリースし続けている。聴き比べると意外と良く判るが、イタリア・ジャズにはイタリア・ジャズなりの独特の雰囲気があって「統一感」がある。マイナー調でクラシック風のモーダルなフレーズが個性的。

Enrico Rava & Fred Hersch『The Song Is You』(写真左)。2021年11月、スイスのルガーノでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Rava (flgh), Fred Hersch (p)。イタリア・ジャズの至宝トランペッター、エンリコ・ラヴァと、リリカルで耽美的なピアノ詩人のフレッド・ハーシュ、2人のみの「デュオ演奏」。

エンリコ・ラヴァはイタリア・ジャズの至宝。1972年に初リーダー作をリリース、今年84歳、レジェンド級の大ベテランである。1975年にECMでの初リーダー作をリリース、1986年の『Volver』で一旦ECMを離れるが、2003年、『Easy Living』でECMにカムバック。以降、2〜3年に1枚のペースで、ECMからリーダー作をリリースしている。

ラヴァは、ピアニストとのデュオがお気に入りらしく、5〜6人の第一線級のジャズ・ピアニストとのデュオ・アルバムを録音している。ラヴァのトランペットは、イタリア・ジャズらしく、哀愁感漂うマイナー調をメインに、流麗でブリリアントで、端正なクラシック風のモーダルなフレーズが身上。

心ゆくまでトランペットを吹き上げるには、ベースやドラムのいないピアノとのデュオが一番なんだろう。ピアノは打楽器の要素も備えていて、リズム&ビートとベースラインはピアノ一台でまかおうと思えば、まかなえるのだ。今回は、ハーシュのリリカルで耽美的なピアノに合わせたのか、ラヴァは、音の丸い、柔らかで暖かな音色のフリューゲルホーンを吹いている。
 

Enrico-rava-fred-herschthe-song-is-you1  

 
フレッド・ハーシュは、米国オハイオ州シンシナティ生まれ。今年55歳の中堅ピアニスト。初リーダー作が1985年。結構な枚数のリーダー作をリリースしているが、所属レーベルは定着せず、マイナーレーベルからのリリースがほとんど。

また、1984年にHIVウイルスに感染、2008年にはウイルスが脳に転移し2ヶ月間の昏睡状態に陥っている。そんな大病の影響もあって、我が国には、ハーシュの情報はほとんど入って来なかった。

1990年代の終わりに、Palmettoレーベルにほぼ定着したが、それでも我が国で、ハーシュの名前が流通しだしたのは、つい最近のこと。今回、このラヴァとのデュオで、ECMレーベルでの初録音になる。

ハーシュのピアノは耽美的でリリカル。米国のピアニストでありながら、ファンクネスは限りなく希薄。どちらかといえば、欧州ジャズのピアノに近い響きを有していて、そういう点でも、今回のECMでの録音は、ハーシュのピアノの個性にピッタリである。

さて、アルバムの内容であるが、2人のオリジナル曲も良いが、やはり、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジェローム・カーン&オスカー・ハマースタインII世、そして、セロニアス・モンクのスタンダード曲でのデュオ演奏が白眉。ECMレーベルの音作りに即した「リリカルで耽美的、透明度が高く、端正でスピリチュアルな」ニュー・ジャズ志向のデュオ演奏が素晴らしい。

ラヴァのリリカルで耽美的で流麗なニュー・ジャズ志向のフリューゲルホーンは意外に珍しいのでは無いか。でも、とても良い。どの曲でも、ラヴァのフリューゲルホーンは朗々と暖かく、ブリリアントに柔軟に鳴り響く。そして、ハーシュのピアノは、ラストの「Round Midnight」のソロ演奏に収束される。独り対位法をちりばめながら、鍵盤をフル活用して、ダイナミックに、モンクの名曲を弾き上げる。

近年で白眉の出来のフリューゲルホーンとピアノの「デュオ演奏」。即興演奏の妙もふんだんに聴くことが出来て、音の展開の美しいことこの上無い。良いアルバムです。
 
 

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2023年2月17日 (金曜日)

定着するイスラエル・ジャズ

21世紀に入って「イスラエル・ジャズ」が認知される様になった。それまで、ジャズの本場と言えば「米国」、その米国のジャズが欧州に飛んで、英・独・仏・伊などの「欧州ジャズ」、そして、スカンジナビアに飛んで「北欧ジャズ」が定着した訳だが、21世紀には入って、ジャズのグローバル化が進み、この「イスラエル・ジャズ」、そして、旧共産圏の「東欧ジャズ」が台頭してきた。

イスラエル・ジャズは、その名の通り、ジャズの中心地が「イスラエル(テルアビブを含む)」。従来のメインストリームなジャズのスタイルをベースに、中東地域の伝統音楽の要素を融合して、明確にエスニックな雰囲気が漂う独特の音世界が特徴。イスラエル・ジャズは、その音の特徴を活かした「静的なスピリチュアル・ジャズ」に長けている。4ビートのジャズというよりは、1970年代のECMの様な「ニュー・ジャズ」の範疇の音世界が多数を占めている。

Avishai Cohen『Naked Truth』(写真左)。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Yonathan Avishai (p), Barak Mori (b), Ziv Ravitz (ds)。テルアビブ出身のトランペッター、アヴィシャイ・コーエンのECMレーベルからの5作目になる。コーエンのトランペットのみがフロントの「ワンホーン・カルテット」である。
 

Avishai-cohennaked-truth_20230217201701

 
曲名と曲順を見ると、ジャズ即興による組曲のような形を取っている。冒頭「Naked Truth Part 1」から始まり、コーエンの吹き上げるテーマを基に、即興演奏として、その瞬間瞬間に音の意味を解釈〜理解し、音世界を刻々と変化させ、フレーズをバリエーション良く発展させていく。Naked Truth Part 1から、Naked Truth Part 8まで、そして、ラストの「Naked Truth: Departure」まで、静的なスピリチュアル・ジャズ志向の即興演奏が粛々と展開されていく。

音の基本は「耽美的でリリカル」。リズム&ビートは曲想に合わせて柔軟に変化するので、ネオ・ハードバップの様な雰囲気は全く無い。ECMレーベルお得意の「ニュー・ジャズ」の範疇である。この盤の音世界は「精神性」を追求している様に感じるので、やはり、この盤の音は「静的なスピリチュアル・ジャズ」だろう。アルバムの終演で、イスラエルの詩人、ゼルダ・シュナーソン・ミシュコフスキーのヘブライ語の詩「Departure」をコーエンが朗読しているところからも、「静的なスピリチュアル・ジャズ」な雰囲気を濃厚にしている。

フレーズはどこかエスニックな雰囲気が漂い、イスラエル・ジャズの面目躍如的な演奏が素晴らしい。米国ジャズにも欧州ジャズにも無い、21世紀ならではの、ジャズの「第三極」的な音志向である「イスラエル・ジャズ」。一時の流行で終わるなどと揶揄された時期もあったが、2023年の今、イスラエル・ジャズは、ジャズの「1ジャンル」として、しっかりとその「範疇」を確立している。
 
 
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2023年2月14日 (火曜日)

メリッサ・アルダナを初めて知る

毎月、新しくリリースされる盤を聴いていると、ジャズは生きているなあ、と実感する。未だに、ジャズの新人はコンスタントにデビューしてくるし、新人の有望株は着実にリーダー作を重ねて、中堅にステップアップしている。中堅ジャズマンは、着実に経験と年齢を重ねて、ベテラン・ジャズマンへと昇華していく。

Melissa Aldana『12 Stars』(写真左)。2022年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Melissa Aldana (ts), Sullivan Fortner (key), Pablo Menares (b), Kush Abadey (ds), Lage Lund (g)。メリッサ・アルダナのブルーノート・レーベルのデビュー作である。

メリッサ・アルダナ(Melissa Aldana)は、チリのサンチャゴ出身。ブルックリンを拠点に活動する33歳の女流テナー・サックス奏者。ソニー・ロリンズを聴いて、テナーを持ったと聞く。

初リーダー作は2010年。マイナー・レーベルのインナーサークルからのリリースだった。そして、今回、メジャー・レーベルのブルーノートからのリリースである。メリッサの「ジャイアント・ステップ」である。
 

Melissa-aldana12-stars

 
メリッサのテナーを初めて聴いたが、テクニックは申し分無し。それでいて、そのテクニックをひけらかす様な、シーツ・オブ・サウンドを吹き回すことはしない。排気量の大きい車が、悠然とゆっくりと走る様な、良い意味での「余裕」を感じる吹きっぷり。これって、ベテランの吹きっぷりやん、と突っ込みを入れたくなる(笑)。

各曲の演奏自体の「組立て、展開、トーン選び」がしっかりしていて感心する。テナーを技倆良く吹くだけでなく、演奏のオーガーナイザーとしての才能もしっかり持っていると聴いた。近い将来、アレンジ&コンポーズにも長けた、総合力で勝負するテナー奏者に成長するのではないか、という「伸びしろ」をこの盤を聴いていて感じる。

ギターのラージ・ルンドの存在も良いアクセント。音の志向としては、メリッサと同じ志向をしている様で、思索的で瞑想的な「静的なスピリチュアル」な響きが実に印象的。そんなルンドが、この盤のプロデュースを担当しているもの興味深い。

静的なスピリチュアル・ジャズを志向している様なメリッサの新盤。とても思索に富み、とても考慮に富んでいる、数々のフレーズを聴いているうちに、ついつい引き込まれていく。不思議な魅力を持ったメリッサの新盤である。
 
 

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2023年2月 3日 (金曜日)

ボーダーレスなジャズの響き

ロバート・グラスパーの5th.アルバム『Black Radio』から10年。ジャズ、ユーロ、ラップ、ヒップホップ、R&Bなど、ブラック・ミュージックを融合して、新しい響きを宿したニュー・ジャズな音世界も、いよいよ充実〜成熟の域に達したのでは無いかと感じる今日この頃。昨年、その集大成の様なアルバムがリリースされている。

Robert Glasper『Black Radio III』(写真左)。2022年2月のリリース。ネットの情報では「この作品は、社会の変化によって破壊された世界のフラストレーションとチャンスを、グラスパーが最も直接的に表現したもの」とのこと。ボイスの英語があまり聞き取れないので、そのメッセージの革新性は良く判らない。何とか理解出来るのは、そのバックの音の革新性。

以前、マイルス・デイヴィスが生前、遺作となったアルバム『Doo-Bop』で、ラップとエレ・ジャズの融合を試みたのだが、その試みが、ロバート・グラスパーの5th.アルバム『Black Radio』で、ほぼ完成の域に達したのでは、と感じたが、今回の『Black Radio III』では成熟の域に達し、1つのジャズの演奏スタイルとして定型化したのではないか、と高く評価している。
 

Robert-glasper-black-radio-iii_1

 
基本は、1960年代から綿々と引き継がれているブラック・ミュージック。このブラック・ミュージックの様々な響きを外していないところが素晴らしい。そして、ビートは「エレ・ファンク」。マイルスが起源となった「エレ・ファンク」を、現代の楽器環境、録音環境を積極活用して洗練されたビートは、これまた素晴らしい。

もともと、グラスパーは、ヒップホップ志向のピアニストだと思っているので、ジャズとヒップホップ、ラップを融合させた成果は、ジャズの歴史に残ると思っている。この「ブラック・レディオ」シリーズでは、ピアニストというよりは、バンドマスター的存在であり、どちらかといえば、プロデューサーとしての才能が際立っている。

フィーチャリングされた歌手の豪華な面子はやっぱり凄いですが、やっぱり、バックの音とリズム&ビートに僕は惹かれるなあ。ジャズとヒップホップ、ラップを融合させて、ブラック・ミュージックのサウンドの味付けをスパイスの様に忍ばせる、グラスパーならではの音世界は唯一無二。この最新盤は、その音世界がさらに研ぎ澄まされ成熟して、1つのマイルストーンの様な位置づけになっている。現代ジャズを理解する上では、避けて通れないジャンルのアルバムだろう。
 
 

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2023年1月24日 (火曜日)

ミナス・ミュージックは欧州的

ジャズライフ誌主催の「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の2022年度版が掲載されている。もう1年経ったのか、と嘆きながら、記事の中のディスクをチェックする。主だったものは、既に当ブログで取りあげているが、中には「あれ、これは何」と言った「見落とし盤」も幾枚かある。そんな「見落とし盤」を落ち穂拾いしながら聴き進めるのも、意外と「乙なもの」である。

そんな「見落とし盤」をチェックしていると、Rafael Martini(ハファエル・マルチニ)」の名前が目に入った。マルチニって、確かブラジル出身のピアニスト/作編曲家だった記憶があるのだが、2022年度に新盤をリリースしているのは知らなかった。もしかしたら、ブラジル音楽(リオ・ミュージックや、ボサノヴァ&サンバ)をベースとしたコンテンポラリーなフュージョン・ジャズと思い込んで、スルーしたのかもしれない。

Rafael Martini『Martelo』(写真左)。2022年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Rafael Martini (p, synth), Joana Queiroz (cl, clarone), Luka Milanovic (vln), Felipe José (cello), Pedro Durães (electronics), Antonio Loureiro (ds)。アコースティック/エレクトリック混成のセクステット編成。ペドロ・ドゥランエスが、エレクトロニクスで参加しているのが目を引く。

ハファエル・マルチニはブラジル・ミナスジェライス州都ベロオリゾンチ出身のピアニスト/作編曲家。ミナスの新しい世代を代表するミュージシャンであり、現代ミナス音楽シーンの中心的な存在。
 

Rafael-martinimartelo

 
ブラジル出身の音楽と言えば「アフロ色の強い」リオ・ミュージックや、ボサノヴァ&サンバを想起するが、ミナス・ミュージックは「欧州的」。クラシックや教会音楽などの影響が感じられ、洗練されたイメージ。聴いて想起するのは「ミルトン・ナシメント」であり、僕は「エグベルト・ジスモンチ」もイメージする。

確かに、このマルチニの新盤を聴くと、リオやボサノヴァ&サンバの微塵も無い。アコースティックとエレクトロニカが共存する、欧州的なニュー・ジャズ&静的なスピリチュアル・ジャズのイメージ。初めて聴いた時は「ECM」かと思った(笑)。

硬質でリリカルで自由度の高いニュー・ジャズな音と混沌とした現代音楽風のフリーナ音とが行き来する、それでいて、その構成は綿密にアレンジされ、制御されている。「ECM」風ではありながら、「ECM」ほどに耽美的ではない。どちらかと言えば「アーバン」な響きが音の全体を支配している様に感じる。

アコースティックとエレクトロニカが共存する現代のニュー・ジャズな音世界。これが欧州発では無く、ブラジルの「ミナス新世代」から発信されているとは驚きである。ジャズのグローバル化をひしひしと感じる。どこか1970年代のプログレッシヴ・ロックを想起させる展開もあり、これ、僕は「プログレッシヴ・ジャズ」と呼びたいくらいに感じ入った。

ジャズの裾野は広い。グローバル化は意外と急速に進んでいる。もはや欧州(北欧と英独仏)と米国と我が国を押さえておけばジャズはOK、という時代では無くなって、東欧やイスラエル、ブラジルにもしっかり注意を払わなければならない時代になった、ということなんだろう。
 
 

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2023年1月16日 (月曜日)

チックの尖ってカッ飛んだ傑作

チックのピアノは「硬質で切れ味の良いエッジの立ったスピード感溢れるタッチ」で、現代音楽風の、前衛的な響きを宿したピアノの弾き回しが特徴。そんな尖ったタッチで、尖ってばかりでは無い、流麗でメロディアスなフレーズを弾いたり、スパニッシュ・フレーバーなフレーズを弾いたり、ロマンティシズムな弾き回しが堪らない。

そんなチックが、若かりし頃、最高に尖って、フリー一歩手前のガンガン自由度高い弾き回しでブイブイ言わせていた時期がある。そんな時期、チック率いるリズム・セクションの「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」の尖った2枚のリーダー作の2枚目がこの盤。

Chick Corea『A.R.C.』(写真)。1971年1月11ー13日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p, key), Dave Holland (b), Barry Altschul (ds)。もちろん、このチック率いるトリオは「Circle(サークル)」のリズム・セクションそのもの。

この盤は、まだ駆け出しのECMレーベルからのリリース。チックの尖った現代音楽風の限りなく自由度の高いモーダルな演奏」に着目した、ECMも総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの慧眼、恐るべしである。
 

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チック率いるリズム・セクションの「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」の前作『The Song of Singing』にも増して、尖りに尖った、ぶち切れて、カッ飛んだチックのピアノが凄まじい。ECMエコーの録音に、チックの現代音楽風の、前衛的な響きを宿した硬質で尖ったタッチが心地良く響く。ホランドのベースは締まった低音でチックを支え、アルトシュルのドラムは、ど天然で自由なポリリズムでチックを鼓舞する。

そして、前作『The Song of Singing』のラストに収録されていた、ショーター作のモーダルな名曲「Nefertiti」が、この盤にも演奏されていて、しかも先頭に収録されている。これが凄い。本当にギリギリでフリーの手前、限りなく自由度の高いモーダルな「Nefertiti」が疾走する。

このECM盤の「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」には、流麗でメロディアスなフレーズ、スパニッシュ・フレーバーなフレーズなど、ロマンティシズムな弾き回しは皆無。ただただ、尖ってカッ飛んだ、現代音楽風の前衛的な響きを宿した、硬質で切れ味の良いエッジの立ったスピード感溢れる「インタープレイ」だけが疾走する。

アルバムのタイトルは、当時、チックが関わっていたサイエントロジーの用語である「Affinity, Reality, Communication(親和性、現実、コミュニケーション)」の略。よくよく見ると、タイトルからして、むっちゃ尖ってカッ飛んでいる(笑)。
 
 

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2022年12月 4日 (日曜日)

現代ジャズの最新形の1つである

ジェラルド・クレイトン(Gerald Clayton)はオランダの出身。1984年生まれ。2006年のセロニアス・モンク・ジャズ・ピアノ・コンペティションでは堂々の2位。クラーク・テリー、ラッセル・マローン、ロイ・ハーグローブなどと共演。アレンジャー&プロデュースなど、多彩な才能を持つ、今年で38歳の現代ジャズの中堅を担う優れたピアニストの1人である。

Gerald Clayton『Bells On Sand』(写真左)。2022年3月、ブルーノートからのリリース。ちなみにパーソネルは、Gerald Clayton (p, or,rhodes, vib), John Clayton (b), Justin Brown (ds), Charles Lloyd (ts, #9), MARO (vo, #3, 7)。伝統的でメインストリームなジャズの響きがしっかり「底」にある、理知的で耽美的な現代のコンテンポラリーな純ジャズ。

基本は、ピアノのジェラルド・クレイトンをリーダーとした、ジョン・クレイトンのベース、ジャスティン・ブラウンのドラムの「ピアノ・トリオ」編成。そこに、チャールズ・ロイドのテナー・サックスとMAROのボーカルがゲストで1曲ずつ参加している。収録曲は全てジェラルド・クレイトンのオリジナル。ちなみにベースのジョン・クレイトンはジェラルドの父君である。
 

Gerald-claytonbells-on-sand

 
ピアノはリリカルで耽美的、系統としては「エヴァンス派」もしくは「メルドー派」。特にこのアルバムでは「耽美的」な響きに満ちている。弾き上げるフレーズは「モード」が基本。決して、バップなピアノでは無い。幽玄に、漂う様に、流麗に、リリカルに、深いエコーの効いたピアノのフレーズが流れていく。ヴィブラフォンやローズの響きがそのピアノの響きを更に豊かにさせる。この静的なスピリチュアルな響きが堪らない。

とても「思慮深い」音世界。音の1音1音、演奏の隅々まで、しっかりと「考え尽くされた」音世界。トリオ編成でありながら、厚みのあるユニゾン&ハーモニー。流れるが如く、流麗に弾き進められるモーダルなフレーズ。エレクトリニクスを活かした、現代の新しい響きを宿したジャジーなグルーヴ感。美しくグルーヴィーな、理知的で耽美的な「静的なスピリチュアル・ジャズ」。

旧来のジャズの「発展形」だけでは無い、今までに無い「新しい何か」を織り込んで、新しい雰囲気のジャズを聴かせてくれる、理知的で洗練された、とても美しいピアノを弾くジェラルド・クレイトン。この最新作には、現代ジャズの最新形のひとつがしっかりと記録されている。将来の「名盤」だろう。
 
 

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2022年12月 3日 (土曜日)

ジュリアナの傑作カルテット盤

ドラマーがリーダーのアルバムは、その意図が分かりやすいものが多い。ドラマーは「リズム・セクション」のリズム&ビート供給の要の楽器。演奏するジャズのスタイルや演奏のトレンドの全てに対応出来るのが「ドラム」。そんなドラマーがリーダーを務めるリーダー作は、リーダーのドラマーが演奏で表現したい「志向」がメインになることが多い。

Mark Guiliana『The Sound of Listening』(写真左)。2022年3月、NYのブルックリンでの録音。ちなみにパーソネルは、Mark Guiliana (ds; syn on 3, 5, 7; drum programming on 7; Perc on 10), Chris Morrissey (b), Shai Maestro (p; Mellotron on 1, 5, 7; Ampliceleste on 1, 5, 7; Fender Rhodes on 2), Jason Rigby (ts; b-cl on 1, 3, 5, 7; cl on 1, 5; fl on 5)。

現代最高峰のドラマー&作曲家のマーク・ジュリアナ(Mark Guiliana)のリーダー作。ジェイソン・リグビーのサックスがフロント1管のカルテット編成。メンバー全員がマルチ・インストルメンタル。この盤の多彩は表現力は、この「マルチ・インスト」の成せる技である。現代ジャズの最新の表現技術を投入した、現代の新しいジャズの響きで満たされた音世界。

リーダーでドラマーのジュリアナは、本職のドラム以外に、シンセやドラム・プログラミングもこなす。ピアノ担当のシャイ・マエストロは、ピアノ以外のメロトロンやローズを弾きこなす。サックス担当のジェイソン・リグビーは、テナー・サックス以外に、バスクラやクラリネットも吹きこなす。
 

Mark-guilianathe-sound-of-listening

 
静的で流麗なスピリチュアアルなニュー・ジャズ志向の音世界がこの盤を支配する。基本はアコースティックな演奏だが、効果的にエレクトロニクスの手法を取り込んで、表現の幅を大きく拡げている。

ユーロ・ビートの要素も感じるし、アンビエント・ミュージックの要素も感じる。ECMっぽいニュー・ジャズな雰囲気も良い。しかし、リズム&ビートはジャジー。演奏全体に適度なテンションが張り巡らされて、緩んだところは微塵も無い。現代の静的で印象的なスピリチュアル・ジャズの好例。

静的で印象的でスピリチュアルな音世界の中で、やはり「要」となるのは、ジュリアナのドラミング。そして、クリス・モリッシーのベースが、演奏の音の底をしっかりと支えている。シャイ・マエストロのキーボードは、旋律楽器、リズム楽器の両方で八面六臂の大活躍。そんな充実しまくったリズム・セクションをバックに、ジェイソン・リグビーのリード楽器が心地良く吹き上げられていく。

「ドラミングのエキサイティングなニュースタイルの最前線に立っている」と評されたドラマー。デヴィッド・ボウイのアルバム『ブラックスター(★)』への参加でも知られる新世代ドラマー。そんなジュリアナの、アコースティックとエレクトロニクスの要素が効果的に統合された、静的で印象的なスピリチュアル・ジャズ。聴き応え十分です。
 
 

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2022年11月30日 (水曜日)

ロイド「Trio of Trios」の第二弾

3つのトリオによる3枚のアルバムからなる新プロジェクト「トリオ・オブ・トリオズ」の第一弾は『Trios: Chapel』(左をクリック)。2018年12月4日、テキサス州サンアントニオのコーツ・チャペルでのライヴ録音。良い意味であざとくもあるが、この10年間辺りの流行である「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」を志向した、現代のモダン・ジャズである。

Charles Lloyd『Trios: Ocean』(写真左)。2020年9月9日、ロイドの故郷であるカリフォルニア州サンタ・バーバラの150年の歴史を持つロベロ・シアターでの録音。コロナ・パンデミックの最中、観客無しでライブ配信されている。ちなみにパーソネルは、Charles Lloyd (as, ts, fl), Gerald Clayton (p), Anthony Wilson (g)。

3つのトリオによる3枚のアルバムからなる新プロジェクト「トリオ・オブ・トリオズ」の第二弾。共演のジェラルド・クレイトンは、西海岸ベースの伝説的存在ジョン・クレイトンの息子。アンソニー・ウィルソンは著名なバンドリーダー&トランペッター、作曲・編曲家のジェラルド・ウィルソンの息子。この「Trio of Trios」の第二弾は、有名なミュージシャンを父に持つ2人のミュージシャンとの共演になる。
 

Charles-lloydtrios-ocean

 
この盤は、ジャズは「即興演奏の賜物」を再認識させてくれる。冒頭の「The Lonely One」は、クレイトンとウィルソンの伴奏に合わせてキーとテンポが決まった瞬間から、サックス、ギター、ピアノの3者対等な、自由度の高いモーダルなインタープレイが展開される。反芻的でありながら神秘的。静的でクールなスピリチュアルな音世界が厳かに展開される。

「Hagar of the Inuits」は、ブルース的なグルーヴを醸し出しつつ、ここでも、サックス、ギター、ピアノの3者対等な、自由度の高いモーダルなインタープレイが展開される。とりわけ、ウィルソンのギター・ソロが印象的。続く「Jaramillo Blues」もブルース志向で、明るいトーンが印象的。ブルース志向の自由度の高いインタープレイが実に「スピリチュアル」。クレイトンのピアノが演奏全体を仕切っているのにも感心した。

今回の「Trio of Trios」の第二弾は、自由度の高いモーダルなインタープレイがメインだが、ブルース曲を中心に純ジャズな雰囲気を強く感じつつ、曲によっては、ECM的な「ニュー・ジャズ」なサウンド志向も見え隠れする、ユニークな「静的でクールなスピリチュアル・ジャズ」を表現していて、実に興味深い。
 
 

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