2024年4月19日 (金曜日)

ニュー・ジャズなドラミング

ジャック・デジョネット(Jack DeJohnette)。John Abercrombieの『Timeless』(1974)辺りから、サイドマンとしては、ECMレーベルのハウス・ドラマーとして、数々のアルバムのドラムを務めている。1983年からは、キース・ジャレット率いる「スタンダーズ」の専任ドラマーとして、キースが引退状態になる2018年まで継続した。

特に、ECMサウンドには欠かせない「臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラマー」の役割については、ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの信頼は絶大だった様で、様々なスタイルの「ECMのニュー・ジャズ」でドラムを叩いて、しっかりと成果を出している。

アイヒャーはプロデューサーとして、演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもドラマー次第、ということをしっかりと理解していたのだろう。ECMの活動初期の頃から、デジョネットをハウス・ドラマーとして起用したアイヒャーの慧眼恐るべし、である。

『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, g-syn, org), Miroslav Vitouš (b, el-p), Jack DeJohnette (ds)。ECMレーベルからのリリース。

当時のECMレーベルのハウス・ミュージシャンの3人が集結したキーボードレス・トリオ。音の厚みを求めてキーボードが欲しい時は、リピダルがオルガンを、ビトウスがエレピを弾いている。ピアニストでもあるドラマー、デジョネットは今回はキーボードには手を出していない。

出てくる音はフロント楽器を司るリピダルのギター、ギターシンセの雰囲気を踏襲して、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界。そんなリピダルのギターに、ビトウスのプログレッシヴなアコベと、デジョネットの臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラムが、変幻自在、硬軟自在、緩急自在に絡みに絡む。
 

Terje-rypdal-miroslav-vitous-jack-dejohn

 
全編、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界なので、聴き進めていくにつれ、飽きがきそうな懸念があるのだが、ビトウスのベースとデジョネットのドラムの変幻自在、硬軟自在、緩急自在な絡みがバリエーション豊かで、全く飽きがこない。

リピダルのギターも、そんなビトウスのベース、デジョネットのドラムが叩き出すリズム&ビートに触発されて、いつになくアグレッシヴで表現豊かな、躍動感あふれる、それでいて繊細でクールでリリカルなパフォーマンスを聴かせているから面白い。

これだけ、バリエーション豊かにギターを弾きまくるリピダルも珍しい。この3人の組み合わせが、各演奏のそこかしこに「化学反応」を起こしている様がしっかり聴いて取れる。

この盤のリピダルって、彼のペスト・パフォーマンスの一つとして挙げて良いくらい、内容充実、優れたパフォーマンスである。

リピダルの潜在能力を効果的に引き出し鼓舞し、そのリピダルの音世界をしっかりとサポートし、より魅力的にするリズム&ビートを、ベースのビトウスと共に創造し叩き出すデジョネットのドラミングがアルバム全編に渡って堪能出来る。

ECMレーベルの活動前期に、ECMレーベルのニュー・ジャズな音世界に欠かせない「リズム&ビート」を担うデジョネットのドラミング。例えば、この『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』を聴けば、その意味が理解出来る。従来のジャズの枠を超えた、ニュー・ジャズなドラミング。デジョネットのドラミングの本質だろう。
 
 
 

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2024年4月18日 (木曜日)

ラーズ・ヤンソンの攻めのピアノ

ラーズ・ヤンソンは、1951年、スウェーデン生まれ。1975年、プロとしての活動がスタート。自己のトリオを結成した1979年以後は、北欧ジャズの第一線で活躍している「古参」の存在。1980年代に優れた内容のリーダー作を連発、国際的にも北欧ジャズの担い手なる一流ジャズ・ピアニストとして認知されている。

Lars Jansson Trio 『The Time We Have』(写真左)。1996年3月29日、オスロの「Rainbow Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Lars Jansson (p), Lars Danielsson (b), Anders Kjellberg (ds)。北欧のリリカルなピアノ詩人、ラーズ・ヤンソンの5枚目のリーダー作。ベースのラーシュ・ダニエルソン、ドラムのアンダーシュ・シェルベリと共に、純スウェーデン出身のピアノ・トリオ演奏。

耽美的でリリカルなピアノは相変わらずだが、このリーダー作でのヤンソンは、ロマンチシズムは極小に、バリバリと硬派でストイックなピアノを弾きまくる。北欧ジャズ・ピアノの深淵で豊かな広がりのあるフレーズはそのままだが、速いフレーズは爽快感溢れ、クールな弾き回し。北欧ジャズというよりは、耽美的でリリカルでモーダルな弾き回し。まるで、キース・ジャレットか、と思う瞬間がある。
 

Lars-jansson-trio-the-time-we-have

 
ただ、キースと違うのは、クラシックな弾き回しが殆ど無く、どっぷり耽美的にリリカルに浸り切ることは無いところ。キースの様に仰々しいところは一切無い、シンプルで透明度の高い弾き回しがメインなのが、ラーズ・ヤンソンのピアノ。ただし、アドリブ展開の時に「うなり声」をあげるところまで似ていると、これはこれで困るなあ(笑)。

ラス前の、どスタンダード曲「Autumn Leaves(枯葉)」を聴けば、ヤンソンのピアノの個性と特徴が良く判る。耽美的でリリカルな響きだが、硬派でストイックでシリアスなアドリブ展開、速いフレーズの爽快感溢れるクールな弾き回し、スクエアにブレイクダウンするアブストラクトな展開、どちらかと言えば、欧州の現代音楽、現代クラシックに通じる弾き回しがヤンソンならでは。

ラーシュ・ダニエルソンのベースも、アンダーシュ・シェルベリのドラムも、そんなヤンソンのピアノに呼応する様に、硬派でストイックでシリアスなリズム&ビート叩き出して、ヤンソンを鼓舞し、ガッチリと支える。「Other Side of Lars Jansson」という副題を付けたくなる様な、ヤンソンの「攻めのピアノ」が聴ける好トリオ盤。ジャケも秀逸。良いピアノ・トリオ盤です。
 
 

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2024年2月17日 (土曜日)

北欧らしい Swedish Standards

北欧ジャズの国単位の範疇は「ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク」。北欧ジャズには独特のフレーズと響きがある。耽美的でリリカルでメロディアス。静的で決して暑くはならないクールなインプロ。クラシックの影響とそれぞれの国のフォーク・ソングのフレーズが垣間見える。

Jan Lundgren Trio『Swedish Standards』(写真)。1997年5月10−11日、コペンハーゲンのサン・スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Jan Lundgren (p), Mattias Svensson (b), Rasmus Kihlberg (ds)。

ピアノのヤン・ラングレンがリーダーのピアノ・トリオ。トリオの3人ともスウェーデン出身。この「純スウェーデン人トリオ」の母国、スウェーデンの古謡を取り上げ、ジャズ化した秀作。

米国にも日本にも馴染みの無い、不思議なメロディとモチーフとしたフォーキーなフレーズがいかにも「スウェーデンの古謡」らしい。そんな「スウェーデンの古謡」を北欧ジャズの雰囲気濃厚なアレンジと録音で「トリオ・ジャズ」化している。独特な雰囲気が魅力のトリオ演奏。

この「スウェーデンの古謡」の北欧ジャズ化を聴くと、北欧ジャズの個性と特徴がとてもよく判る。とてもシンプルで地味目の「古謡フレーズ」なので、ダイナミックでドラスティックな米国ジャズを良しとする向きには「単調で退屈」だろう。
 

Jan-lundgren-trioswedish-standards  

 
しかし、欧州ジャズ者、ECMジャズ者の方々なら、すんなり受け入れて、その優れた内容を理解することができるだろう。欧州ジャズを理解できないと北欧ジャズを理解することは難しい。

古謡をベースにしながら、そのジャズ化に無理が無い。古謡の持つ不思議なメロディとモチーフが、北欧ジャズの個性と特徴に合致するのだろう。

そして、ラングレンの、美しいタッチ、歌心に溢れたフレージング、端正で流麗なリズム感、3拍子揃った、北欧ジャズ仕様のバップ・ピアノが的確に古謡のフレーズをジャズ化している。

加えて、スヴェンソンの間合いの効いたリリカルなベース、フォーキーにリズム&ビートを刻むシェールベリのドラムが、そんなラングレンの北欧ジャズ仕様のバップ・ピアノをガッチリ支え鼓舞する。

こういう、その国や地域に密着したジャズはどれもが美しい。米国ジャズだって、和ジャズだって同じ「その国や地域に密着したジャズ」。優劣は無い。

改めて、この『Swedish Standards』は、実に北欧ジャズらしいピアノ・トリオの優れたパフォーマンスである。
 
 

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2024年1月30日 (火曜日)

アレッシの『It’s Always Now』

ラルフ・アレッシは、1963年3月5日、米国SFO生まれ。今年で61歳の大ベテラン・トランペッターである。が、これまでかなりマイナーな存在だった。というか、僕はこのアルバムで出会うまで、アレッシの名前に馴染みが無かった。

それもそのはずで、アレッシは基本的に学者であり研究者。カリフォルニア芸術大学で、ジャズ・トランペット演奏で学士号、ジャズ・ベース演奏で修士号を取得している。そして、教育者として、2001年にニューヨークのブルックリンに即興音楽学校を設立している。

初リーダー作は1999年。マイナー・レーベルからのリリース。アレッシのディスコグラフィーを見ていると、初リーダー作から7枚ほどマイナー・レーベルからリーダー作がリリースされていたが、突如、9枚目のリーダー作『Baida』(2013年)が、老舗のメジャー・レーベル、ECMレコードからリリース。

以来、今回の『It's Always Now』まで、4枚のリーダー作がECMからリリースされている。そして、今回、やっと、アレッシのトランペットを聴くことが出来た。まあ、そんな感じのジャズ・フィールドでの活動なので、アレッシの名前に馴染みがなくても仕方がない。

Ralph Alessi Quartet『It's Always Now』(写真左)。2021年6月の録音。ECMレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Ralph Alessi (tp), Florian Weber (p), Bänz Oester (b), Gerry Hemingway (ds)。ECMレコードでの4枚目のリーダー作になる。
 

Ralph-alessi-quartetits-always-now

 
このアルバムを聴き始めて、まず、アレッシのトランペットについては、とても素性が良く、欧州ジャズ的な端正で癖のない、ブリリアントで綺麗に鳴るトランペット。テクニックは上々、今回はアレッシのトランペット1管のワンホーン・カルテットなんだが、アレッシのトランペット一本でフロントをやり切っている。相当にテクニック的に優れていることが良く判る。

始めの頃は、ブリリアントでストレートな良い音のするトランペットで、静的な「ネオ・モーダル」な即興演奏メインの展開の曲を吹き進めていく。音はさすがに「欧州調」なんだが、ECMらしからぬ「ネオ・ハードバップ」な音世界に、ECMも柔軟になったなあ、と思いながら聴き進めると、徐々に静的な音世界が怪しくなってくる。

曲が進むにつれ、徐々に徐々にフリーに傾いていく。しかも演奏の雰囲気は一気にアグレッシヴ。静的な音世界から、音数の多い自由即興な音世界に早変わり。これには、ちょっとビックリ。それでも、フリーと言っても、内容的には、欧州的で整った、節度をわきまえた即興演奏で現代音楽風。

ECMの「サウンド・カラー」からは逸脱していない、ほどよく抑制が効いた素性の良いフリーな展開なので、耳につくことは無い。ギリギリ、限りなく自由度の高いモード・ジャズと解釈することもできるアーティステックなフリー展開。

バックでリズム隊を担う、ピアニストのフロリアン・ウェーバー、ベースのベンズ・オースター、ドラマーのゲリー・ヘミングウェイというトリオも、アレッシのトランペットをしっかりサポートしていて立派。

ラルフ・アレッシのトランペットの優れた個性を確認することが出来る、なかなかの内容のリーダー作。内容的には、米国ジャズの様なファンクネスは皆無で、コマーシャルな要素も皆無だが、欧州の「現代の即興演奏をメインとしたニュー・ジャズ」として、聴き味良好なワンホーン・カルテットの佳作。マンフレート・アイヒャーのプロデュースの賜物でしょう。
 
 

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2023年12月17日 (日曜日)

ラン・ドーキーの新作ライヴ盤

ジャズのアルバム鑑賞については、ジャズを聴き始めた頃から、ピアノを最初にメインとして、ずっと聴き続けている。かなりのピアニスト、リーダー作を聴いてきたが、まだまだ手薄なピアニストが存在する。その一人が「Niels Lan Doky(ニールス・ラン・ドーキー)」。

ニールス・ラン・ドーキーは、デンマークのコペンハーゲン出身のジャズ・ピアニスト。1963年10月生まれ。今年で60歳、還暦である。デンマーク出身のピアニストなので、基本的には、北欧ジャズの範疇に入るのだが、ラン・ドーキーのピアノはちょっと違う。

北欧ジャズ・ピアノ独特の「独特の深いエコーに乗って、耽美的でリリカル、深遠でメロディアスな弾き回し」とはちょっと違う。間とフレーズの広がりを活かした弾き回しでは無く、音符を敷き詰めた速い弾き回しがメイン。

クラシック風の端正なタッチ、音の雰囲気は明らかに「欧州ジャズ」。どこか、アメリカン・カルテット時代のキース・ジャレットを想起する。
 

Niels-lan-dokyyesterdays-future

 
Niels Lan Doky『Yesterday's Future』(写真左)。2022年3月20 & 21日、デンマーク、フムルベックの「Louisiana Museum」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Niels Lan Doky (p), Tobias Dall (b), Nikolaj Dall (ds)。海外ではLPでのみ発売、我が国で世界初CD化。2022年の春、デンマークでのロックダウン終了直後のライヴ・パフォーマンスの記録。

とても良い雰囲気のピアノ・トリオのパフォーマンス。ラン・ドーキー独特の音符を敷き詰めた速い弾き回し、クラシック風の端正なタッチ、北欧ジャズでは無いが、しっかりと欧州ジャズの伝統的な音を踏襲したメインストリーム系の正統なジャズ・ピアノを弾き回す。

ただし、ラン・ドーキーはこの録音時は59歳。ラン・ドーキーのピアノは円熟を加えて、若い日の音符を敷き詰めた速い弾き回しオンリーの「疾走する欧州ピアノ」だけでは無い、余裕ある耽美的でリリカルな弾き回しも兼ね備えて、緩急硬軟を身につけた「新しい北欧ジャズ・ピアノ」に成熟している、と感じる。

このライヴ盤でのラン・ドーキーの成熟を聴いて、ラン・ドーキーというジャズ・ピアニストの存在を再認識した。しばらく聴いて無かったなあ、と思わず反省、である。来年早々には、ラン・ドーキーのリーダー作をしっかりと聴いてみたい。ジャズ・ピアノの世界はまだまだ裾野が広い。
 
 

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  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

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2023年12月 1日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・269

Niels Lan Doky(ニルス・ラン・ドーキー、以降「ラン・ドーキー」と略)は、デンマークのコペンハーゲン出身のジャズ・ピアニスト。1963年10月生まれ。今年で60歳、還暦である。ラン・ドーキーは北欧ジャズの範疇に入るのだが、彼のピアノは、北欧ジャズのピアノの雰囲気とはちょっと異なる。

北欧ジャズのピアノは、押し並べて「独特の深いエコーに乗って、耽美的でリリカル、深遠でメロディアスな弾き回し」。ファンクネスは皆無、間とフレーズの広がりを活かした透明度の高い音の展開がメイン。しかし、ラン・ドーキーのピアノはちょっと違う。間とフレーズの広がりを活かした弾き回しでは無く、音符を敷き詰めた速い弾き回しがメイン。

エコーは控えめ、耽美的でリリカルではあるが、透明度の高い爽快感が特徴の展開。と言って米国ジャズのピアノでは全く無い。音の雰囲気は明らかに「欧州ジャズ」。当然、ファンクネスは皆無。オフビートは軽め。クラシック風の端正なタッチが、やはり「欧州的」。何故か、アメリカン・カルテット時代のキース・ジャレットを「欧州的」にした様な響きがユニーク。

Niels Lan Doky『The Target』(写真左)。1986年11月17, 18日の録音。ちなみにパーソネルは、Niels Lan Doky (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Jack De Johnette (ds)。録音当時、23歳の若き精鋭、ニルス・ラン・ドーキーの2枚目のリーダー・アルバム。ピアノ・トリオ編成。ラン・ドーキーのピアノの個性が良く判る。
 

Niels-lan-dokythe-target

 
どういう経緯でそうなったかは判らないが、ベースに北欧出身のアコベの名手中の名手ペデルセン、ドラムにポリリズミックなドラムの名手デジョネットがバックのリズム隊を担当している。

このリズム隊、全く申し分無いどころか、若き精鋭にとっては最高のリズム隊に恵まれている。特に、ペデルセンの、唄うが如く、ソリッドで力感溢れるベースラインは素晴らしい。デジョネットの緩急自在、硬軟自在、変幻自在なドラミングも見事。

ラン・ドーキーは、彼独特の「音符を敷き詰めた速い弾き回し。エコーは控えめ、耽美的でリリカルではあるが、透明度の高い爽快感。ファンクネスは皆無、オフビートは軽め、欧州ジャズ的なクラシック風の端正なタッチ」が溢れんばかりに表現されている。

北欧出身でありながら、北欧ジャズ・ピアノらしからぬ「欧州的なピアノ」。音符を敷き詰めた速い弾き回しではあるが、決して「シーツ・オブ・サウンド」の焼き直しでは無い、ラン・ドーキー独特の「高速な弾き回し」。クラシックに端を発したか如く、端正で正確なタッチがいかにも「欧州ジャズ」らしい。若き日のラン・ドーキーのピアノ・トリオ盤。今の耳で聴き直して、なかなかの充実した内容だと感じます。
 
 

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2023年11月14日 (火曜日)

ラックナーの『Last Decade』

朝の冷え込みがずっと続いている。今日は朝から日差しがあったので、気温はそこそこ上がったが、日差しの無い曇天だと気温が上がらない。一週間ほど前まで、半袖で過ごしていたのになあ。これだけいきなり気温が下がると、体がついていかない。外へ出て、散歩するのもちょっと控えている今日この頃。

こういう気候の時は家にいて、少し暖房をつけた暖かい部屋でジャズを聴くのが良い。部屋の中で熱いコーヒーをすすりながらジャズを聴く。それも静的で耽美的でリリカルなニュー・ジャズだ。それに限る。静的で耽美的でリリカルなニュー・ジャズとくれば「ECMレーベル」のジャズ盤だろう(なんかこればっかりやなあ・笑)。

Benjamin Lackner『Last Decade』(写真左)。2021年9月6〜8日、フランスでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Benjamin Lackner (p), Mathias Eick (tp, voice), Jerome Regard (b), Manu Katche (ds)。師匠のブラッド・メルドーも称賛する、作曲とピアノの両方でその才能を発揮しているベンジャミン・ラックナーのリーダー作。

ラックナーのピアノは透明度が高く耽美的でリリカル。エコーが効いた、漂うが如く流れるが如く、秋の黄昏時の穏やかに輝く黄金色の光の様な、ブリリアントで温かみのある音色。決して、弾きまくらない、印象的にフレーズをゆったりと流していく。いかにもECMレーベルらしいピアノの音。
 

Benjamin-lacknerlast-decade

 
そんなラックナーのピアノをバックに、ロマンティシズム溢れる、耽美的でリリカルでブリリアントなマティアス・アイクのトランペットが大活躍。バリエーション豊かで説得力のあるアイクのトランペットはこの盤での「聴きもの」のひとつ。ノルウェー出身のアイクの耽美的でリリカルなトランペットの音色も、いかにもECMレーベルらしい音。

マヌ・カッチェのドラムが変幻自在、硬軟自在、緩急自在。演奏の場面場面で、そこの相応しいリズム&ビートを叩き出す。決して全面には出てこない。それでも、この耽美的でリリカルで、クールな躍動感のあるドラミングは見事。ラックナーのピアノとアイクのトランペットに効果的に絡み、効果的に鼓舞する。

そして、ジェローム・ルガールのベースが、オーソドックスではあるが、堅実で魅了的な、しなり豊かで硬質なベースラインが、的確にリズム&ビートを刻む。ルガールのベースラインがあってこそ、ラックナーもアイクも安心して、モーダルなアドリブ・フレーズを、ゆったりとしたスピリチュアルなフレーズを弾き込み、吹き込むことが出来る。

ドイツ系アメリカ人のラックナーが奏でる、いかにも欧州ジャズらしい、いかにもECMレーベルらしい音世界。従来の欧州ジャズのピアノの音には無かった「ブリリアントで温かみのある」音色が耳に新しく響く。この盤にも、ボーダーレスな欧州ジャズを具現化する「現代のECMレーベルの音」が溢れている。
 
 

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2023年11月10日 (金曜日)

ドミニク・ミラー『Vagabond』

晩秋の雨の一日。午前中からそぼそぼ降り始めて、夕方からは、まとまって降る雨。こういう日は家でじっとしているに限る。外は北風に変わって気温は下がるが、室内はまだ保温が良いのか、23℃と過ごしやすい。窓の外は雨に煙る、晩秋の雨の日の風景。こういう日に聴くジャズは「ECM」が良い。

そぼ降る雨。鉛色の空。こういう天候の日は欧州系のジャズが良い。秋の黄昏時の穏やかに輝く黄金色の光の様な、ブリリアントでリリカルで叙情的な音。どこか翳りがあって、マイナー調のジャジーな響き。水墨画の如く濃淡のある静的な音の広がり。こういう欧州系のジャズについては、欧州ジャズの老舗レーベル「ECM」に求めるのが一番。

Dominic Miller『Vagabond』(写真左)。2021年4月の録音。ECMの2704番。ちなみにパーソネルは、Dominic Miller (g), Jakob Karlzon (p, key), Nicolas Fiszman (b), Ziv Ravitz (ds)。 ドミニク・ミラーのギター一本がフロントのカルテット編成。ドミニク・ミラーにとって、ECMレーベルでの3作目になる。

ドミニク・ミラーはアルゼンチン、ブエノスアイレス出身。1960年3月生まれなので、今年で63歳。この『Vagabond』録音時は61歳。ベテランの域に達した、プログレッシヴなギターが身上のギタリスト。ミラーは15歳の頃にロンドンに移り住んでいる。

ミラーはロック・ギタリストでもある。フィル・コリンズ『バッド・シリアスリー』やジュリア・フォーダム『微笑みにふれて』などに参加。特に有名になったきっかけは、1991年、スティングのアルバム『ソール・ケージ』への参加。その後、現在まで、ミラーはスティングのツアー、レコーディングに不可欠なギタリストであり続けている。
 

Dominic-millervagabond  
 

しかし、このECMレーベルで、ニュー・ジャズなリーダー作もリリースしている。いわゆる「二刀流」である。ただ、ロンドン在住経験のある、いわゆるブリティッシュ・ロックの体現者なので、元々、英国ではジャズとロックの境目が不明瞭。ロック畑のミュージシャンがジャズを違和感なくやったり、ジャズ畑のミュージシャンがロックを平気でやったりする。恐らく、ミラーもそんな「ギタリストの一人」なんだろう。

冒頭、印象的な掛け合いから始まる「All Change」が、この盤の音世界を決定づける。音の雰囲気は、秋の黄昏時の穏やかに輝く黄金色の光の様な寂寞感。これはもう、ECMレーベルお得意のリリカルで叙情的な「ニュー・ジャズ」の世界。欧州ジャズを決定づける哀愁感。

そこにミラーの「くすんだ音色の哀愁感溢れる」印象的なギターがスッと入ってくる。そして、要所要所で、寄り添うようなヤコブ・カールソンのピアノとのインタープレイが繰り広げられる。ホットではない、クールで静的な熱気を孕んだ印象的な音の絡み。

今回は、スウェーデンのピアニスト、ヤコブ・カールソンとイスラエルのドラマー、ジヴ・ラヴィッツが参加。ベーシストは前回参加のベルギーのニコラ・フィズマンが継続。このリズム・セクションが唯一無二。

北欧、イスラエル、そして、欧州ど真ん中のリズム&ビートが効果的に融合した様な、欧州ジャズ風の「多国籍」リズム・セクションが独特な雰囲気を醸し出す。この「多国籍」リズム・セクションが、このミラーのリーダー作独特の音世界の個性を、さらに濃厚なものにしている。

全曲合わせてのアルバム全体の所要時間は32分程度と短いが、それぞれの楽曲の内容が濃いので、その短さは気にならない。従来のECMの音と比べると、やや仄かに明るく、躍動感に溢れている。そんな現代のECMの音が実に印象的。エレクトリックもアコースティックもどちらのギターも優れたパフォーマンスを提供する。現代のECMのギター好盤の一枚だろう。
 
 

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2023年11月 4日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・267

イタリアン・ジャズの至宝であり重鎮であるピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(以下、エンリコと略)。1949年12月生まれだから、今年で74歳になる。大ベテランの域であり、今までの実績から「生けるレジェンド」的存在。ビル・エヴァンスのバップでリリカルで耽美的なピアノを欧州仕様にした様な、正統派かつ硬派なモダン・ジャズ・ピアニストである。

Enrico Pieranunzi Latin Jazz Quintet『Live At Birdland』(写真左)。2008年11月1日、NYのバードランドでの録音。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Diego Urcola (tp), Yosvany Terry (as, ss, per), John Patitucci (b, elb), Antonio Sanchez (ds)。録音当時、2008年のエンリコ・ピエラヌンツィのニュー・プロジェクトのライヴ録音。

エンリコがラテン・ジャズに寄り道したかの様なバンド名。しかも、バードランドでのライヴ・パフォーマンスの記録。おおよそ、こってこてなラテン・ジャズが展開される、いわゆる「楽しくコマーシャルで娯楽志向」なライヴ盤だと思って、あまり聴く気が起きなかった。

が、リズム隊を見ると、硬派で正統派な現代の純ジャズ志向のベーシストのジョン・パティトゥッチ。そして、これまた、硬派で正統派な現代の純ジャズ志向のドラマーのアントニオ・サンチェスが名を連ねている。これは意外と、現代の硬派でメインストリーム志向の純ジャズではなかろうか、と思わす拝聴である。

冒頭「Talk Introduction」から「Danza 2」「Choro Del Infinito Hombre」と続く演奏を聴いて、まず「これのどこがラテン・ジャズ」なんや、と首をかしげる。というか、「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」が展開されるのだ。
 

Enrico-pieranunzi-latin-jazz-quintetlive

 
ラテンの雰囲気は、ところどころのキーの進行に見え隠れするが、全く「ラテン・ジャズ」色は前に出てこない。ネオ・ハードバップ〜ネオ・モードなアコースティック・ジャズが展開される。

特に前半は、トランペットのディエゴ・ウルコラ(アルゼンチン出身)と、サックスのヨスヴァニー・テリー(キューバ出身)のパフォーマンスが見事。この二人のフロント2管の大活躍で、前半はエンリコのピアノはあまり目立たない。

ありゃ〜?、と思って聴き進めると、明確にラテン・フレイバーの演奏が出てきたりし出して、エンリコのピアノがグイグイ前面に出てくる様になる。明らかにラテンなフレーズが出てきても「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」な雰囲気は変わらない。ネオ・ハードバップ〜ネオ・モードな展開の中で、乾いた「ラテンなフレーズ」が見え隠れする。

不思議な雰囲気のライヴ盤。ラテン・ジャズ基調でありながら、俗っぽくて判り易い、こってこてなラテン・フレーヴァーは皆無。演奏全体の雰囲気は「非常に正統派で硬派、ストイックで真摯な欧州の純ジャズ」。そんな雰囲気の中で、ストイックなラテン・フレーズが展開される。欧州ジャズが考えるラテン・ジャズ、とでも形容したら良いだろうか。

バンド名に惑わされてはいけない。「ラテン」が付いているからといって、いわゆる「楽しくコマーシャルで娯楽志向」の、こってこてなラテン・ジャズが展開される訳ではない。そんな要素は皆無。現代のネオ・ハードバップ〜ネオ・モードなアコースティック・ジャズの好盤として聴かれるのが良いだろう。充実した内容の好盤である。
 
 

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2023年10月24日 (火曜日)

ゴーゴー・ペンギンの進化の途中

「踊れるジャズ」として、従来のピアノ・トリオの特徴であった「三者三様の自由度のあるインタープレイ」は排除。クラシック的な印象的なピアノにアグレッシブなベースとドラム。

演奏の中に感じ取れる「音的要素」は、クラシック、エレクトロニカ、ロック、ジャズと幅広。マイルスの開拓した「エレ・ジャズ」に、エレクトロニカを融合し、ファンクネスを引いた様な音。疾走感、爽快感は抜群。聴いていて「スカッ」とする。

英国マンチェスター出身のアコースティック・エレクトロニカ・トリオである「GoGo Penguin(ゴーゴー・ペンギン)」の音世界。オリジナル・メンバーは、ピアノのクリス・アイリングワースとドラムスのロブ・ターナー。2013年初旬にベーシスト、ニック・ブラッカが加わる。そして、ドラムがジョン・スコットに交代。所属レーベルも移籍し、心機一転、久々にフル・アルバムをリリースした。

GoGo Penguin『Everything Is Going To Be Ok』(写真左)。2022年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Chris Illingworth (p), Nick Blackas (b) Jon Scott (ds)。アコースティック・ピアノにベース、ドラムの伝統的なピアノ・トリオ編成と思いきや、音の志向としては「エレクトリック・ジャズ」。英国出身のバンドゆえ、音の響きは「欧州的」。
 

Gogo-penguineverything-is-going-to-be-ok

 
いかにも欧州的な、いかにも英国的な、洗練されたエレ・ジャズである。欧州的な響きとしては、どこか北欧ジャズの響きを宿していて、クラシック的な響きのする、印象的にエコーのかかったアコピとシンセ。ファンクネスは皆無。軽くエコーのかかった粘りのあるビート。どこか黄昏時の黄金色の輝きを見るような寂寞感漂うフレーズ。ゴーゴー・ペンギンの音はどこまでも「欧州的」であり「英国的」。

これまでのゴーゴー・ペンギンのアルバムよりも、ジャケットのイメージ通り、スカッと抜けた爽快感がより強くなり、音の質感がどこか「明るく抜けている」質感がメインになっている。温かみと明るさが増して、躍動感と疾走感が全面に押し出されている。

初期の頃のゴーゴー・ペンギンの音世界は着実に、ポジティヴな方向に変化している。そして、テクニック最優先の演奏構成から、バンド全体のグルーヴとビートを重視する演奏構成に変化しており、その分、シンプル感がアルバム全体を覆う。

スインギーな純ジャズ・トリオとは全く異なる、現代の「ダンス・ミュージック」的な、新しいイメージの「ピアノ・トリオ」。しんせを追加して正解。シンセのようなディストーションのかかったニックのベースと相まって、エレ・ジャズ感は増幅している。そこに「人力」の切れ味の良い、ウォームなビートを供給するスコットのドラムが絡む。

他のピアノ・トリオには無い響き。フュージョンでもなく、スムースでも無い。少なくとも、現代の踊れるエレ・ジャズ。この盤は、そんな「現代の踊れるエレ・ジャズ」の進化の途中を捉えた、ドキュメンタリーの様なアルバムである。次作がとても楽しみだ。
 
 

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