2021年2月24日 (水曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・89

ふと、レアな盤を見つけた。リーダーは「Freddie Redd(フレディ・レッド)」。フレディ・レッドと聴いて、ああ、とその名を思い出すジャズ者はベテランの類。

まず、ジャズ盤紹介本にはその盤は載ったのを見たことが無い。今回、スイングジャーナルの古い「幻の名盤」の類の特集本でそのタイトルを久し振りに確認した次第。

「フレディ・レッド」自体の存在はかなりマイナー。それでもジャズの世界の中では、麻薬劇と呼ばれた「コネクション」の作曲者であり、ブルーノートの『Shades of Redd』のリーダー。稀少ではあるが、その作曲の才と渋いピアノは一度聴けば印象に残る存在である。

Freddie Redd『Under Paris Skies』(写真)。1971年6月26-29日録音。仏のFuturaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Freddie Redd(p), Didier Levallet(b), Didier Carlier(ds)。ピアノ・トリオ編成。ピアニストの個性と特徴がハッキリと判る演奏フォーマットである。

実はこの盤、聴いてみたかったんですよね。仏のレーベルからのリリースではあるが、フレディ・レッドは生粋の米国のジャズマン。1928年にNYに生まれ、なんと今年で92歳でNYに在住とある。
 
 
Under-paris-skies
 
 
1950年代の活動も報われず、1960年初頭には欧州に移住している。1974年に米国に戻るまで、10数年の間、欧州で客演する。そんな欧州での活動の間に録音したトリオ盤がこの『Under Paris Skies』になる。

一言で言うと「渋いピアノ・トリオ」。大向こうを張ったダイナミックなところは無いし、選曲もとても渋い。誰かが「パリ=アメリカ黒人=エトランゼ=哀愁」という公式が実にマッチした演奏、と評していたが、まさにその通りだと思う。

本質はバップ、フレーズはブルージーでアーシー。マイナーなフレーズがメインのアドリブが哀愁感を引き立たせる。聴き始めると一気に聴き切ってしまう、とても印象的なピアノ・トリオ。

欧州のフレディ・レッドは当地で手厚くもてなされたようだ。この薄めの青が印象的な盤のジャケットに、おのぼりさんよろしく、エッフェル塔を背景にしたフレディ・レッドが映っているところが微笑ましい。

そんな彼にとって良い環境が、こんな「パリ=アメリカ黒人=エトランゼ=哀愁」という公式が実にマッチした演奏を生み出したのだろう。この盤、つつしんで「ピアノ・トリオの代表的名盤」に選定させていただきたい。

 

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2021年2月23日 (火曜日)

素敵な欧州ジャズの「デュオ盤」

ジャズは全世界において「深化」している。もう新しいジャズの奏法や表現方法は現れ出でないだろう。しかし、今までに出現したジャズの奏法や表現方法は、様々なジャズマンのチャレンジによって、洗練され、再体系立てされ、再構成され、新たな解釈が付加されている。つまり「深化」しているのだ。

Enrico Pieranunzi & Bert Joris『Afterglow』(写真左)。今年2021年1月のリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Bert Joris (tp)。ピアノとトランペットのデュオ盤。リズム&ビートは一手にピアノが担い、フレーズはピアノとトランペットでのインタープレイ。

イタリアが生んだ現代最高のジャズ・ピアニストの一人、エンリコ・ピエラヌンツィ。そして、ベルギーの名ジャズ・トランペッター、バート・ヨリスとのデュオ盤である。ピアノとトランペットのデュオは珍しい。ピアノが伴奏に徹し、トランペットが旋律を吹きまくるのは全く面白く無い。当然、この名手の2人はそんな俗手には陥らない。
 
 
Afterglow
 
 
ピエラヌンツィのピアノは耽美的でリリカルでメロディアス。そこに、ヨリスのふくよかで柔らかい、それでいて芯のしっかり通ったトランペットが絡む。ピエラヌンツィのピアノの左手が、しっかりとリズム&ビートを刻み、キープする。そして、右手でヨリスのトランペットを迎え撃つ。極上のデュオの響き。極上のユニゾン&ハーモニー。

デュオ演奏の全体に漂うリズム&ビートにファンクネスは無い。リリカルでダイナミズム溢れる透明度の高いリズム&ビート。まさに「欧州ジャズ」を強く想起するリズム&ビートである。こんなデュオ演奏を初めて聴いた気がする。ありそうで無い、ピアノとトランペットのデュオ。

タイトルの「Afterglow」は、夕映えや残光を意味する言葉。このデュオ盤には、そんなタイトルそのものの雰囲気が蔓延している。素敵な響きに満ちた好盤です。最近、ジャズでは「デュオ」が流行っているような雰囲気がある。もっとユニークなジャズ演奏が今後も出てくるのではないか、と思わず期待してしまう。
 
 
 

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2021年1月16日 (土曜日)

久々にフリー・ジャズを楽しむ

緊急事態宣言下、巣ごもり生活が日常となって、ジャズをじっくりと聴く機会がまた増えた。しかも寒い。こういう時は、日頃なかなか聴くことの少なかったジャズ、例えばフリー・ジャズなどを聴いてみたりしている。ジャズの最大の特徴を「即興演奏」とするなら、その特徴を一番表現しているのが、このフリー・ジャズだろう。

フリーというから、感情のおもむくまま、好き勝手に吹きまくる印象があるが、どうして、一流のジャズマンのやるフリー・ジャズは、演奏の底にスインギーでジャジーなビートが流れ、必要最低限の決め事の中で自由度溢れるインプロビゼーションを展開する。

クラシックにおける不協和音を前提としたバルトークと同列のジャズがフリー・ジャズ。基本的に「音楽」の範疇にしっかりと軸足を置いている。まあ、メロディアスなフレーズはほとんど無いと思っていいから、こんなの「音楽」じゃない、と切り捨てられるのも判る。聴いて苦痛を感じるなら、このフリー・ジャズ、無理して聴く必要は無い。
 
 
Ricochet_sam-rivers  
 
 
Sam Rivers『Ricochet』(写真左)。1978年1月12日、米国サンフランシスコの「Keystone Korner」でのライヴ録音。リトアニアのフリー・ジャズ・レーベル、NoBusiness Recordsからのリリース。ちなみにパーソネルは、Sam Rivers (sax, fl), Dave Holland (b), Barry Altschul (ds)。昨年に発掘リリースされた、そんなフリー・ジャズの好盤である。

CD1枚にタイトル曲「Ricochet」、52分ちょっとのフリーな演奏1曲のみを収録。硬派で硬質で切れ味抜群のサム・リヴァースのサックスが、フルートが吹き抜ける。フリー・ジャズの名手は皆、テクニックが優秀。リヴァースも例に漏れず、凄まじいハイ・テクニックで、アブストラクトでフリーな、それでいて不思議とメロディアスな(不協和音がメインだが)フレーズを吹きまくる。

朗々と響き渡る、意外とメロディアスなホランドのベース、リヴァースのフリーなフレーズを受け止めて、最適なリズム&ビートを供給するアルトシュルのドラム。幾何学模様の様なスイング感、アーシーでスピード感溢れるビート。即興演奏の究極形がこの盤に記録されている。フリー・ジャズも立派なジャズのひとつだと再認識する。
 
 
 

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2021年1月 3日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・195

欧州ジャズは面白い。米国ジャズに無い、というか、ほとんど正反対の響きと展開がある。欧州ジャズは国毎に個性がある。米国ジャズは「アフリカンアメリカン」の独特のリズムや調べが反映されているが、欧州ジャズは、その国の民謡や踊りの旋律、民族の持つ独特の調べ、それらがジャズのフレーズにリズムに反映される。

Dusko Goykovich『After Hours』(写真)。1971年11月9日、バルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Dusko Goykovich (tp), Tete Montoliu (p), Rob Langereis (b), Joe Nay (ds)。バルカンのジャズの至宝、旧ユーゴスラビア、現在はボスニア・ヘルツェゴビナのヤイチェ出身のトランペッター、ダスコ・ゴイコヴィッチのリーダー作。

パーソネルの出身地を追ってみると面白い。ピアノのテテ・モントリューはスペインのカタロニア生まれの盲目のピアニスト。ベースのロブ・ランゲライスはオランダのアムステルダム出身、ドラムのジョー・ネイは、ドイツのベルリン出身。このトランペットのフロント一管のワンホーン・カルテットは、ボスニア・ヘルツェゴビナ+スペイン+オランダ+ドイツの「多国籍軍」である。
 
 
After-hours  
 
 
欧州ジャズは国毎に個性があるので、さぞかし「国毎の個性」のごった煮だと思いきや、さすがにリーダーの統制がしっかり効いた、バルカンの調べをメインにした、心地良い哀愁感漂う、規律の取れたジャズに仕上がっている。恐らく「哀愁感」については、欧州各国の共通の音の個性のようで、この「哀愁感」の一点で、このカルテットの演奏は確実に意思統一されている。

リーダーのゴイコヴィッチのトランペットは極上。テクニックは確か、フレーズは個性的で流麗、特に独特の旋律の展開と欧州を感じる独特のマイナー感は「バルカン」独特の調べ。これをジャズのフレーズに置き換えて、実に印象的なゴイコヴィッチならではのジャズに昇華している。このトランペットは米国には無い。欧州独特な、それも東欧独特な響きである。

僕はこの盤を20歳そこそこな頃、ジャズ喫茶で聴かせて貰った思い出がある。それまで米国ジャズ一辺倒、米国ジャズだけが「ジャズ」だと思っていた。が、この盤を聴かせて貰って見識を改めた、というか、見識が一気に広まった。ジャズは米国だけではない、欧州にもその拡がりがあるのだということを知った。そして、その「欧州ジャズ」は個性的でアーティステックなものだということも知った。
 
 
 

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2020年12月25日 (金曜日)

不思議な存在のギタリスト

ジャズマンには、そのスタイルをデビューの頃から頑なに変えないタイプと、何が切っ掛けか判らないが、演奏スタイルを大胆に変えていくタイプとがあるように思う。

僕はこのギタリストを知ったのは、チック・コリアの第2期Return to Foreverの最初のギタリストというイメージが強い。『Hymn of the Seventh Galaxy』でのロック寄りの流麗でクロスオーバーなエレギが印象的だった。

が、次作『Where Have I Known You Before』には、コナーズの名前は無かった。1974年の事である。その後、コナーズは何処へ行ったのか。実は21世紀になるまで、コナーズの消息を確認することは無かった。そして、ECMの全アルバムのカタログを入手した時、カタログ番号順にアルバムを確認していったところ、この盤に遭遇した。

Bill Connors『Theme to the Gaurdian』(写真左)。1974年11月、ノルウェーのオスロ、Arne Bendiksen Studioでの録音。ECMの1057番。Bill Connors (g)のソロ・アルバムである。
 
 
Theme-to-the-gaurdian  
 
 
このソロ・アルバムを聴いた時、アルバムの主「Bill Connors」は、チック・コリアの第2期Return to Foreverの最初のギタリストとは同姓同名の違うギタリストだと思った。この盤は、全編アコースティック・ギターでの、内省的でリリカルで耽美的な、まさしく「ECMらしい」ソロギター集。第2期Return to Foreverでのロック寄りの流麗でクロスオーバーなエレギの面影の欠片も無い。

あれだけエレギをギンギン弾いていたギタリストが、一変、全くジャズ臭さの無い、内省的でリリカルで耽美的な、どこか物悲しいアコギをソロで弾き綴っている。この後のコナーズのリーダー作を聴くと、どちらかと言えば、この盤の演奏スタイルがコナーズのギターの本質なのだろう。

ただ他のECMレーベル系のギタリストと比較した場合、個性的な「癖」が無く、ジャジーな雰囲気は皆無、ひたすら素直で美しい音で流麗なフレーズを紡いで行くアコギの調べは、確かに美しい耳当たりの良い音なんだけど、平凡といえば平凡。

この後、ECMに2枚のリーダー作を残した後、特に1980年代以降は、特別に目立った活動は無かった。ビル・コナーズ、不思議な存在のギタリストだった。
 
 
 

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2020年12月13日 (日曜日)

ECMレーベルの音作りの巧みさ

欧州ジャズの歴史は古いが、地域的にはコペンハーゲンを中心とする北欧ジャズと欧州に移り住んだ米国ジャズメン達のジャズが大半だったという思い出が強い。しかし、この10年間のうちに欧州ジャズの出身地が急速に拡がってきている。

やはりネットの時代の恩恵であろう、まず第一陣として、イタリア、英国、ドイツのジャズが我が国にやってきて、最近ではイスラエル、そしてポーランドのジャズを聴くことが出来る様になった。

Marcin Wasilewski『Arctic Riff』(写真左)。2019年8月の録音。ECMの2678番。ちなみにパーソネルは、Marcin Wasilewski (p), Slawomir Kurkiewicz (b), Michal Miskiewicz (ds), Joe Lovano (ts)。マルチン・ボシレフスキのピアノ・トリオに、ジョー・ロバーノのテナー・サックスがフロント楽器として参加した、テナー1管のワン・ホーン・カルテット。

マルチン・ボシレフスキ(Marcin Wasilewski)は、ポーランド出身のピアニスト。ポーランド・ジャズ界を代表するピアニストである。この盤でのピアノ・トリオは、ポーランド出身のジャズマンで固められた、純ポーランドなピアノ・トリオになる。

トリオ演奏の基本は欧州ジャズらしい流麗なメロディ、透明感溢れるサウンド。意外と質実剛健なところが見え隠れする、ロマンチックではあるが、耽美的に流れない、意外と「硬派」なピアノ・トリオ演奏。硬派で質実剛健なところを加味した音が、ポーランド・ジャズの個性だろうと感じている。
 
 
Arctic-riff-marcin-wasilewski  
 
 
そんな純ポーランドなピアノ・トリオをバックに、1951年、米国オハイオ州クリーヴランド出身のバリバリ米国出身の大ベテラン、ジョー・ロバーノのテナー・サックスが加わる。

ロバーノのサックスは、風貌に似合わず「ニュー・ジャズ」な、ストイックで耽美的で切れ味良いサックス。故に意外と我が国では人気が無い。風貌からすれば、こってこてハードバップな豪快なテナーかな、と思うんですが、これが違う。このロバーノのサックスの本質を見抜いて、ECMの総帥、マンフレート・アイヒャーが、ECMのセッションに抜擢している。

この『Arctic Riff』は、ポーランド・ジャズと米国ジャズの邂逅的セッションの記録ではあるが、音全体のトーンは、明らかに「ECMジャズ」。ポーランド・ジャズとロバーノの「ニュー・ジャズ」的資質を活かしつつ、全体のトーンは「ECM」。

ただ欧州的で耽美的なワンホーン・カルテットに留まらず、テクニックに優れたフリーな演奏も混ざっていて、な硬軟取り混ぜた、聴きごたえのある「ニュー・ジャズ」な雰囲気の盤に仕上がっている。さすが、ECMの総帥、マンフレート・アイヒャーのプロデュース。彼の「美意識」がしっかりと貫かれている様に感じる。

ポーランド・ジャズの特質とロバーノの「ニュー・ジャズ」的資質を殺すこと無く、ECMとしての「音の主義」の中にとりまとめる。ECMレーベルの音作りの巧みさを強く感じさせてくれる好盤です。
 
 
 

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2020年11月29日 (日曜日)

ECMらしいエレ・ジャズです

ECMレーベルは欧州ジャズの老舗レーベル。ECMは「Edition of Contemporary Music」の略。創立者はマンフレート・アイヒャー。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」=アイヒャー自らの監修・判断による「美意識」を、限りなく静謐で豊かな「ECMエコー」を伴って表現した「ECM独特の音世界」。

Michael Naura『Vanessa』(写真左)。ECMの1053番。 ちなみにパーソネルは、Michael Naura (el-p), Klaus Thunemann (bsn), Wolfgang Schlüter (vib, mar, per), Eberhard Weber(b), Joe Nay(ds)。バズーンあり、ヴァイブありのおおよそ従来の純ジャズとは思えないパーソネルが、いかにもECMレーベルらしい。

この盤、パーソネルがここまで「ECMらしい」と、当然、音自体がとても「ECMらしい」はず。ECMレーベルでしか聴けない、即興演奏を拠り所にした「ニュー・ジャズ」の音が詰まっている。リズム&ビートに「4ビート」は無いし、スインギーな感覚は全く無い。それだけだと「ジャズ」にならないのだが、即興演奏のアプローチがまさに「ジャズ」らしい。
 
 
Vanessa  
 
 
均等に刻まれた8ビートなフレーズであったり、無調なフレーズだったり。現代音楽に近い、はたまた、初期のエレ・マイルスに近い、とてもECMらしいエレ・ジャズである。そして、限りなく静謐で豊かな「ECMエコー」がかかった音が、これまた「ECMらしい」。演奏内容は8ビートのエレ・ジャズだったり、フリーなジャズだったり。ECMお得意のニュー・ジャズな演奏が心地良い。

Michael Naura(ミハエル・ナウラ)は、リトアニア出身のピアニスト。この盤では彼独特のエレピの弾きっぷりがとても効果的。新しいジャズ、という感覚を上手く増幅させている。クラウス・トゥネマンのバズーンがとてもユニークな音色で独特の響きを漂わせ、ヴォルフガング・シュリュターのヴァイブは、硬質でクリスタルな音色で、切れ味の良い澄んだフレーズを供給する。

リズム隊については、エバーハルト・ウェーバーのベースが良く効いているし、ジョー・ネイのドラムは硬軟自在、緩急自在。ナウラのエレピの音をしっかりとサポートし、その魅力を増幅させているところは見事。ジャケット・デザインも含めて、この盤はその内容、音についても、とても「ECMらしい」。この盤については、ECMレーベルでした制作できないものだろう。「らしい」好盤である。
 
 
 

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  ・The Band の「最高傑作」盤

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2020年11月 3日 (火曜日)

テリエ・リピダルの陰謀・謀略

Terje Rypdal(テリエ・リピダル)。ノルウェー出身、ECMレーベルの看板ギタリスト。彼のキャリアにおいて、2〜3枚の例外はあるが、リーダー作については、ほぼECMレーベルからのリリースになる。リピダルは1947年生まれ。今年で73歳。初リーダー作が1968年なので、ジャズ・ギタリストとしてのメジャーなキャリアとしては52年。半世紀以上に渡って活躍する「レジェンド級」のギタリストである。

リピダルのギターについては、恐らく1〜2分聴き続けたら絶対にリピダルだと判るくらい、とても個性的な音である。幽玄で浮遊感のあるフレーズを多用した「ニュー・ジャズ」志向の音が得意で、ファンクネスは皆無であり、ブルージーな要素は微弱。そういう面では欧州ジャズ独特といえる。ジャズ・ギターというよりは、ロック・ギターと言った方が良いか、プログレ・ギタリスト的な音を出す。

浮遊感のある、ビートに乗らない、ロングトーンでフリーな独特とフレーズ。ジャズなのか、ロックなのか、どちらかにしろ、と詰問されたら、やはり「ジャズ」と答えてしまう。そんな不思議な音を持ったギタリスト。そして、リピダルは、半世紀を越えるメジャーなキャリアの中で「決してブレない」。ECMレーベルでのメジャー・デビュー盤『Terje Rypdal』の音が、マンネリに陥らず、ずっと今まで続いている。これって意外と凄いことだと思っている。
 
 
Conspiracy-terje-rypdal
 
 
Terje Rypdal『Conspiracy』(写真左)。2019年2月、ノルウェーはオスロのRainbow Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (el-g), Ståle Storløkken (key), Endre Hareide Hallre (b), Pål Thowsen (ds, perc)。プロデューサーは当然、マンフレッド・アイヒャー。ノルウェー出身のメンバーで固めた、リピダルの約20年ぶりのスタジオ録音作品になる。

このリピダルの新作は、リピダルのリピダルらしい個性満載。往年のメジャー・デビュー当時の、幽玄で浮遊感溢れるサステインの効いたエレクトリック・ギターが再現されている。しかし、フレーズの作りが現代的で、その音はノスタルジックでは無い、現代の新しい響きのするもの。キーボードの参加が目新しく、ハモンド・オルガンの音がリピダルのエレギに溶け込み、創造的で耽美的なユニゾン&ハーモニーを奏でる様は今までにリピダルには無い要素。

アルバム・タイトルの「Conspiracy」は「陰謀・謀略」の意。この盤を聴くと、リピダルはまだまだ深化している。この個性は全くブレていないが、この盤で聴かれる音はノスタルジーとは全く無縁。初期のリピダルの個性を現代のニュー・ジャズの要素と合わせてリコンパイルし、新しいリピダルの音世界を創造しようとしている様に感じる。それが「陰謀・謀略」であるなら、聴き手の我々としては全くウエルカムである。
 
 
 

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2020年10月16日 (金曜日)

リーブマンの考えるエレ・ジャズ

ECMレーベルは欧州ジャズ・レーベルの老舗。スインギーな4ビート・ジャズには目もくれず、「ニュー・ジャズ」と言われる、即興演奏をメインとした新しい表現のジャズ、例えば、モーダルでファンクネスレスの即興ジャズや、モーダルなエレ・ジャズ、それからフリー・ジャズ。クラシック風の演奏でも即興演奏であれば、ECMはニュー・ジャズの範疇として扱った。このスタンスは今でも変わっていない。

Dave Liebman『Lookout Farm』(写真)。ECMの1039番。1973年10月10ー11日の録音。ちなみにパーソネルは、Dave Liebman (ss, ts, alto-fl), John Abercrombie (g), Richard Beirach (p, el-p), Frank Tusa (b, el-b), Jeff Williams (ds), Armen Halburian (perc), Don Alias (conga, bongos), Badal Roy (tabla), Steve Sattan (cowbell, tambourine), Eleana Sternberg (vo)。

Dave Liebman(デイヴ・リーブマン)は、米国のサックス奏者。1946年生まれ。未だ現役、頼もしい限りである。ニュー・ジャズ志向のサックス奏者で、1970年代初期、NYのロフト・ジャズ・シーンで活躍、マイルス・ディヴィスのグループには1970年から1974年まで在籍した。このECM盤は、まだマイルスのグループに在籍していた時の録音である。
 
 
Lookout-farm  
 
 
この盤の内容はECMレーベルの音とは少し異なる「エレ・ジャズ」。雰囲気はまさに、当時のマイルスのエレ・ジャズの音世界なのだが、ファンクネスは皆無。マイルスのエレ・ジャズから、ファンクネスを抜き取って、モーダルな演奏要素を前面に押し出した様な音作り。いわゆる、リーブマンがマイルスのエレ・ジャズを解釈した「リーブマンの考えるエレ・ジャズ」がこの盤に詰まっている。

共演メンバーは、ECMレーベルが抱える、当時の「欧州のニュー・ジャズ」のメンバーが中心。特に、アバークロンビーのアコギとバイラークのエレピが良い音を出している。この2人の音がいかにも「ECMのニュー・ジャズ」らしい音を出していて、この盤の「音世界の志向」を決定付けている様に感じる。フランク・トゥサの弾く「うねる重低音ベース」が欧州的なグルーヴ感を増幅する。

リズム隊が強烈で、コンガ、ボンゴ、そして、タブラ、カウベル、タンバリンを活用して、まるでマイルスの「ビッチェズ・ブリュー」のリズム&ビートから、ファンクネスを差し引いたものが、この盤で表現されているかのようだ。聴けば「リズム&ビートの効いたエレジャズ」というECMらしくない内容ではあるが、ECMでないと出し得ない、デイブ・リーブマンがECMレーベルで表現した「リーブマンの考えるエレ・ジャズ」。一聴に値する内容である。
 
 
 

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2020年9月 1日 (火曜日)

魅力的な新主流派カウエルです

ブルーノート・レーベルやECMレーベルなど、ジャズの老舗レーベルのカタログの中には、そのレーベル「ならでは」のミュージシャンが、アルバムが存在する。特に、ECMレーベルには、その「ならでは」のミュージシャンの存在がユニーク。どう考えたって、他のレーベルでは絶対に制作しないであろうアルバムを何気なく制作する。ECMレーベルには、独特の「音のポリシー」が存在する。

Stanley Cowell『Illusion Suite』(写真左)。1972年11月、NYのSound Ideas Studioでの録音。ECM 1026番。ちなみにパーソネルは、Stanley Cowell (p, rodes), Stanley Clarke (b), Jimmy Hopps (ds)。ピアノ・トリオの編成。ECMレーベルでは意外と珍しい「NY録音」。演奏するトリオの3人が皆、米国出身でNYを中心に活動していたからか、と思われる。

スタンリー・カウエル自身、3枚目のリーダー作になる。邦題は「幻想組曲」。基本的にカウエルのピアノは「新主流派」に分類される。が、そのピアノはこってこての「モード奏法」では無く、モードもあれば、スピリチュアルもあり、フリーもあれば、現代音楽の様なニュー・ジャズな要素もあり、意外と多様性が個性の「新主流派」である。
 
 
Illusion-suite  
 
 
カウエルのピアノと電子ピアノ(多分、フェンダー・ローズと思われる)は、理知的で流麗で端正、かつ躍動感溢れるもの。クリアで知的なフレーズが印象的で、米国風では無い、どこか理屈で積み上げた様な欧州風なモード演奏が面白い。恐らく、ECMの総帥、アイヒヤーはその「欧州風」な音に着目したのではないか。カウエルのピアノは明らかにECM向きなのだ。

そして、チック・コリアの盟友ベーシスト、スタンリー・クラーク(略称スタン)のベースも聴きもの。ここではアコベを使っているが、このアコベのプレイが凄い。骨太でソリッドで切れ味の良い、ド迫力の重低音でブンブン唸るが、しっかりとメロディアスなベース音。しかも、テクニックは最高。スタンがこんな凄いアコベを弾くなんて。第一期RTFのスタン再来。いやほんと、凄いアコベである。

1980年代以降は教育者としての活動がメイン、リーダー作はほぼスティープルチェイス・レーベルからのリリースに留まったが、1970年代のカウエルのピアノは実に個性的。フュージョン・ジャズ全盛時に、知的なモード・ジャズ。実にクールなピアノで、ちょっとマニアックな存在ではあったが、一度聴けば「その虜になる」。そんな魅力的な新主流派カウエルである。
 
 
 

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