2024年8月22日 (木曜日)

ECMのハーシュのソロ・ピアノ

暑い日が続く。というか、酷暑の日が続いていて、我々としては「命を守るため」の部屋への引き篭もりの日が続く。外は酷暑、気温が35度を超えているので、部屋はエアコンは必須。エアコンをつけて窓を閉め切っているので、部屋の中は静か。こういう時、僕はジャズの「ピアノ・ソロ」盤を選盤することが多い。

Fred Hersch『Silent, Listening』(写真左)。2023年5月 スイスにて録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Fred Hersch (p) のみ。現代の「ピアノの詩人」、フレッド・ハーシュのソロ・ピアノ盤である。ソロ・ピアノとしては2020年リリースの『Songs From Home』以来4年ぶり。また、ECMレーベルからは本作がソロ・デビュー作。

冒頭「Star-Crossed Lovers」は、期待通り、耽美的でロマンティシズム漂う、リリカルで流麗なタッチのソロ・パフォーマンスが繰り広げられる。なるほど、ハーシュっぽいよね、と思っていたら、2曲目の「Night Tide Light」の現代音楽っぽい、静的でアブストラクトな演奏に度肝を抜かれる。こういう面もハーシュは持っているのか、と興味深く耳を傾ける。

この静的でアブストラクトでフリーな演奏傾向は、3曲目「Akrasia」、4曲目「Silent, Listening」にも踏襲されるが、演奏の展開の中で、リリカルで耽美的でスピリチュアルなフレーズがスッと出てくるところが印象的。以降、ラストの「Winter of my Discontent」まで、アブストラクトでフリーな演奏と、静的でアブストラクトな演奏の邂逅の中で、リリカルで耽美的でスピリチュアルなフレーズが即興に浮遊する。実に欧州らしい、ECMらしい音世界。
 

Fred-herschsilent-listening

 
収録曲もなかなか捻りが効いていて、ストレイホーン作の「Star-Crossed Lovers」、ジークムント・ロンベルグの定番スタンダード曲 「Softly, As In A Morning Sunrise」、アレック・ワイルダー「Winter Of My Discontent」、ラス・フリーマン作「The Wind」など、意外と捻りの効いたスタンダード曲を選曲して、ソロ演奏のベースとしているところが「ニクい」。

スタンダード曲の中では「Softly, As In A Morning Sunrise」のソロ・パフォーマンスが凄い。聴き馴染みのあるテーマをリリカルで耽美的に弾き始めるが、進むにつれ、徐々に即興演奏に突入、現代音楽の様なカッチカチ硬質で尖ったタッチで、フリーにアブストラクトに傾きつつ、リリカルにスピリチュアルに展開、そんな中で、耽美的に浮遊するアドリブ・フレーズは圧巻。

ハーシュらしさ満載。ハーシュしか出せない即興フレーズ、ハーシュ独特の音の重ね方、ハーシュのフリーでアブストラクトな展開、硬質なタッチで展開する耽美的でリリカルなアドリブ・フレーズ。適度なテンションのもと、ECMエコーで耽美的に響くハーシュのピアノ。

「ジャズにおけるソロ・ピアノの芸術に関しては、演奏家には2つのクラスがある。フレッド・ハーシュとそれ以外の人たちだ」という賛辞も大袈裟でなく納得できる、素晴らしいハーシュのソロ・パフォーマンスがこの盤に詰まっている。
 
 

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2024年8月18日 (日曜日)

トリオ・タペストリーの3枚目

酷暑の夏、命を守るための「引き籠り」が長く続く。締め切った、エアコンの効いた部屋は、意外と雑音が少ない。外は酷暑であるが故、静的でスピリチュアルな、硬質で透明度の高い「ECMサウンド」で涼を取りたくなる。21世紀に入っても、西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」は健在で、ここ10年の間に、ECMサウンドは、更なる高みを目指して「深化」している。

Joe Lovano, Marilyn Crispell, Carmen Castaldi - Trio Tapestry『Our Daily Bread』(写真左)。2022年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Joe Lovano (ts, tarogato, gongs), Marilyn Crispell (p), Carmen Castaldi (ds)。ジョー・ロバーノのテナーがフロント1管、ベースレスのトリオ「Trio Tapestry」。ジョー・ロヴァーノのトリオ・タペストリーの3枚目のアルバム。2023年11月12日のブログ記事の追記である。

広々とした、奥行きのある、叙情的で神秘的なサウンド・スペース。静的でスピリチュアルなフレーズの展開。限りなく自由度の高い、フリー一歩手前の、漂うが如く、広がりのある幽玄で静的なビートを伴った即興演奏の数々。今までのECMサウンドの中に「ありそうで無い」、どこか典雅な、欧州ジャズ・スピリットに満ちたパフォーマンス。
 

Trio-tapestryour-daily-bread

 
ロバーノの静的でスピリチュアルなテナーが実に魅力的。ベースが無い分、ロバーノのテナーの浮遊感が際立つ。浮遊感の中に、確固たる「芯となる」音の豊かな広がりと奥行きのあるテナーのフレーズがしっかりと「そこにある」。決してテクニックに走らない、高度なテクニックに裏打ちされた、スローなスピリチュアルなフレーズが美しい。

クリスペルの硬質で広がりのあるタッチが特徴の、耽美的で透明度の高い、精神性の高いピアノ。シンバルの響きを活かした、印象的で静的な、変幻自在で澄んだ、リズム&ビートを供給するカスタルディのトラム。この独特の個性を伴ったリズム・セクションが、ロバーノのスピリチュアルなテナーを引き立て、印象的なものにしている。ロバーノのテナーの本質をしっかりと踏まえた、ロバーノにピッタリと寄り添うリズム・セクション。

21世紀の「深化」したECMサウンドが、この盤に詰まっている。21世紀の、神秘的で精神性の高い、静的なスピリチュアル・ジャズの好盤の一つ。チャーリー・ヘイデンに捧げた、6曲目の「One for Charlie」における、ロバーノのテナー・ソロは美しさの極み。現代のニュー・ジャズの「美しい音」「スピリチュアルな展開」が、この盤に溢れている。
 
 

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2024年7月16日 (火曜日)

ジョンアバとタウナーの再会盤

梅雨空が続く。天気予報ではもうすぐ梅雨明け、という話だが、ここ3〜4日、思いっきり梅雨空で、時々雨が降って、湿度はマックス状態になり、少しでも日差しが差し込もうなら、モワッとした不快指数マックスの空気になる。こういう時は、もはや家の中に引きこもって、エアコンをかけながら、静謐感&爽快感溢れるジャズを聴くに限る。

エアコンをかけながらの「静謐感&爽快感溢れるジャズ」となれば、ECMレコードの諸作だろう。これは、ジャズを本格的に聴き始めた半世紀ほど前から変わらない。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。ECMジャズは清涼感抜群である。

Ralph Towner & John Abercrombie 『Five Years Later』(写真左)。ECM/1207番。1981年3月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Ralph Towner (ac-g, el-g, el-12-string guitar, mandolin), John Abercrombie (12-string guitar, classical-g)。

ECMレコードの「お抱えギタリスト」の二人、ジョン・アバークロンビー(ジョンアバ)とラルフ・タウナー。この二人がガッツリと組んだ、ニュー・ジャズ志向のギターのデュオ演奏。
 

Ralph-towner-john-abercrombie-five-years

 
この二人のデュオ盤としては、1976年5月録音の『Sargasso Sea』(2010年8月16日のブログ記事を参照)が有名だが、この『Five Years Later』は、その『Sargasso Sea』から、タイトル通り、約5年後の再会デュオ演奏。

5年後の再会デュオ・セッションということからか、『Sargasso Sea』よりも、リラックス感が溢れ、ジョンアバもタウナーもゆったりと余裕を持ったギターを聴かせてくれる。

切れ味の良い、クラシカルでリリカル、耽美的なタウナーの12弦ギター、そして、エモーショナルで、サスティーンが効いたロングトーンなフレーズを駆使した、スピリチュアルなジョンアバのエレギ。「静」のタウナー、「動」のジョンアバ、好対照なECMお抱えの欧州ジャズ・ギター2本が、極上のデュオ演奏を紡ぎ上げる。

内省的で叙情感たっぷり、静謐感溢れ、切れ味よく耽美的でエモーショナル、耽美的でスピリチュアルな、極上のデュオの即興演奏。聴けば聴くほどに味わいが深まる、「スルメの様な」デュオ・パフォーマンス。ECMなジャズが静かに炸裂する極上のデュオ盤です。
 
 

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2024年7月15日 (月曜日)

ブレイのピアノの個性が良く判る

ポール・ブレイのディスコグラフィーを整理して、ポール・ブレイって、かなりの数のリーダー作をリリースしていたのを確認して、少々驚いている。リーダー作は、100枚は超えているのではないか。

我が国では、フリー・ジャズが基本の、マニア好みなピアニストの位置付けで、あまり人気があるとは言えない。我が国ではフリー・ジャズは、ジャズ評論家があまり取り上げないので、一般ウケしない。ポール・ブレイもそんな一般ウケしないピアニストになっている。が、恐らく欧州では人気が高いのではないか。しかし、生涯のリーダー作100枚は凄い。

Paul Bley『Touching』(写真左)。1965年11月5日、コペンハーゲンでの録音。オランダのフィリップス・レコードの子会社「フォンタナ・レコード」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (p), Kent Carter (b), Barry Altschul (ds)。ベースのカーター、ドラムのアルトシュルという、アバンギャルド・ジャズを得意ジャンルとするリズム隊と組んだトリオ編成。

ポール・ブレイのフリー&アバンギャアルドなピアノの個性が良く理解できるトリオ盤である。ブレイのピアノは、フリー・ジャズの範疇に位置付けられているが、無調でもなければ、新ウィーン楽派を彷彿とさせる現代音楽志向でも無い。ジャズとして必要最低限の決め事が定められていて、従来のモダン・ジャズの演奏スタイルや決め事を踏襲しない、言うなれば「オーネット・コールマンの考えるフリー・ジャズ」に近い感覚。
 

Paul-bleytouching

 
明らかに、モダン・ジャズのスタイルや決め事は踏襲していないが、演奏の底にはリズム&ビートが流れ、フリーに聴こえるフレーズにも、独特な破調なメロディーが存在する。フリー&アバンギャアルド志向なピアノとしては、音数は洗練されていて、間を活かした浮遊感を伴ったフレーズが特徴的。ハマると意外と「クセになる」ピアノである。

音数が洗練され、間を活かしたピアノのフレーズを前提に、アルトシュルの、感覚的で手数の多い、ポリリズミックなドラムが、ピアノの音の「間」を埋め、浮遊感を伴ったピアノを効果的にサポートし鼓舞する。このアルトシュルのドラムが意外と「格好良い」。切れ味の良い疾走感を振り撒きながら、限りなくフリーな、それでいて、最低限のリズム&ビートを押さえた、絶妙なドラミングは聴いていて、とても清々しく気持ちが良い。

カーターのベースも良い仕事をしている。ドラムと同様に、ピアノの音の「間」を埋めつつ、限りなくフリーな演奏のベース・ラインをしっかり確保し、トリオ演奏自体に効果的に供給する。ピアノがキレても、ドラムがキレても、カーターの、アバンギャルドな堅実ベースが、演奏のベースラインをしっかり押さえているので、抜群の安定感と安心感がある。

ポール・ブレイは、フリー&アバンギャルドなピアノの代表格の一人。同時代の同一志向のピアニストにセシル・テイラーがいるが、音数が洗練されて間を活かした浮遊感を伴ったポール・ブレイのフリー&アバンギャルドなピアノは、多弁で躍動的なセシル・テイラーのスタイルの「対極」に位置する、と捉えても良いかと思う。

この『Touching』は、そんなポール・ブレイのピアノの個性と特徴が良く捉えたれた好盤である。
 
 

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2024年7月 3日 (水曜日)

サン・ビービーの『Here Now』

「ジャズ批評 第18回 ジャズオーディオ・ディスク大賞 2023」にノミネートされたアルバムを眺めていると、北欧ジャズのアルバムが、以前より多く挙がっているなあ、という印象。ジャズのボーダレス化とグローバル化が進みつつあって、以前の様に、米国ジャズのアルバムだけ気にしていれば良い、という時代では無くなった、という感が強くする。

と言って、ジャズは特に欧州の各国に根付いていて、ジャズの新リリースも各国でコンスタントに行われている。それらを全て網羅するのは困難で、毎年、その該当年度にリリースされたアルバムの中からディスク大賞を選ぶ、ということも、何か前提条件をつけないと困難になるのでは、という懸念が出てきた。もしかしたら「ディスク大賞を選ぶ」という行為自体が、既にジャズの現状に合っていないのかもしれない。

Søren Bebe Trio『Here Now』(写真左)。2023年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Søren Bebe (p), Kasper Tagel (b), Knut Finsrud (ds)。Søren Bebe = サン・ビービー、と読むらしい。デンマークを拠点に活躍しているピアニスト、サン・ビービー率いるピアノ・トリオの2023年リリースの新作。「ジャズ批評 第18回 ジャズオーディオ・ディスク大賞 2023」のインストゥルメンタル部門で銀賞を受賞している。

サン・ビービーはピアニスト。1975年12月生まれ。現在48歳。コペンハーゲン在住。2010年の『From Out Here』あたりから頭角を現して、2年に1枚程度のペースでリーダー作をリリースしている。実は、僕はこのピアニストの名前を「ジャズ批評 第18回 ジャズオーディオ・ディスク大賞 2023」で初めて知った。

北欧ジャズには独特のフレーズと響きがある。耽美的でリリカルでメロディアス。静的で決して暑くはならないクールなインプロ。クラシック風の端正なタッチ。深遠でメロディアスな弾き回し」。ファンクネスは皆無、間とフレーズの広がりを活かした透明度の高い音の展開がメイン。
 

Sren-bebe-triohere-now

 
しかし、サン・ビービーのピアノは、間とフレーズの広がりを活かした弾き回しでは無く、クラシック風の端正でノーマルな弾き回し。北欧ジャズというよりは、欧州の大陸側のいわゆる「欧州ジャズ」の弾き回しに近い。冒頭のタイトル曲「Here Now」を聴いた時は、北欧ジャズとは思わなかった。

確かに、ビービーはデンマーク出身なので、北欧ジャズの範疇のピアニストなんだが、その弾きっぷりは北欧ジャズらしからぬもの。ECMレーベルで、米国ジャズマンが演奏する「欧州ジャズ」風な、端正でバップな弾き回しも見え隠れして、北欧ジャズのピアノ・トリオ演奏としては、ちょっと異端っぽくて面白い。

収録曲もところどころユニーク。冒頭の「Here Now」の持つフレーズは耽美的なもので、北欧ジャズらしいかな、と思うんだが、2曲目の「Tangeri」では、哀愁の漂うタンゴのメロディーが出てくる。北欧ジャズでタンゴ、である。僕は北欧ジャズの演奏するタンゴのメロディーを初めて聴いた。

3曲目以降も、モーダルな展開あり、耽美的でリリカルな「バップな引き回し」もあるしで、従来の北欧ジャズ・トリオの演奏とは、ちょっと雰囲気が異なる。4曲目の「Winter」などは、典型的な従来の北欧ジャズの雰囲気を色濃く宿しているが、9曲目の「Summer」はビートの効いたジャズ・ロック風の演奏。

このビービー・トリオの演奏は、北欧ジャズのボーダレス化、グローバル化をタイムリーに捉えていると感じる。従来の北欧ジャズの個性と特徴に留まること無く、欧州の大陸側、いわゆる「欧州ジャズ」の音世界や、米国ジャズの「欧州ジャズ化」の音世界と同種の、新しい北欧ジャズ・トリオの音と響きを獲得している。これからビービー・トリオは、どの方向に深化していくのだろう。次作が今からとても楽しみである。
 
 

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2024年6月17日 (月曜日)

初代ジョンアバ4の幻の好盤『M』

初代「John Abercrombie Quartet」について、昨日の続きを。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレッド・アイヒャーとリッチー・バイラークとの喧嘩の件、この双方が最終的に決別したのが、初代「John Abercrombie Quartet」の3枚目のアルバムの録音時のことであったらしい。

John Abercrombie Quartet 『M』(写真左)。1980年11月の録音。改めて、ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。アイヒャーとバイラークの決定的喧嘩があった、いわくつきのセッションの記録。

ちょっとネタバレ的になるのだが、どうも、リーダーのジョン・アバークロンビー(以下「ジョンアバ」と略)の失恋がきっかけらしい。ジョンアバの失恋ショックはかなり重症で、まともなパフォーマンスが出せない。そこで、バイラークやムラーツがアップテンポで軽快な曲を持ち寄ってセッションをしたところ、ジョンアバ、元気を取り戻し、なかなかの内容の演奏が出来たそう。

しかし、その演奏内容、切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い内容で、ECM独特の深いエコーがかかって無かったら、ECMレーベルのアルバムだとは思えない。深いエコーがなければ、これって米国ジャズって感じの演奏もあったりで、ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーには、酷くお気に召さなかったらしい。

アイヒャーいわく「ECMに米国ジャズはいらない」。バイラークいわく「これも我々のジャズだ。たまには良いだろう」。しかし、当時のアイヒャーには、自らの信じる音志向に関する反論に対する許容量が足らない。これで決定的に決別、となったらしい。

そのいわくつくのセッションの記録が、この『M』に収録されている。確かに冒頭の「Boat Song」のジョンアバの暗ばくたる、幽霊の様に漂う様な、暗いエレギの音はヤバい。
 

John-abercrombie-quartet-m

 
前述のエピソードを知らなければ、これって、ちょっと暗めのECMの耽美的な幽玄な演奏だ、という評価で落ち着くのだろうが、実際はジョンアバの失恋のショックはかなり酷かったことが、この「暗〜い」サスティーン満載のジョンアバの暗ばくなるエレギを聴けば良く判る。

2曲目以降のバイラークとムラーツの自作曲は、確かに印象がガラッと変わる。前述の「切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い」演奏で、どう聴いてもECMっぽく無い。しかし、これが良い。コンテンポラリーな純ジャズという面持ちで、有機的な変幻自在なインタープレイ、自由の高いモーダルな即興展開、そして、出て来るパフォーマンスは基本的に「多弁」。

主にバイラークの個性の一つ「多弁でモーダル」が、演奏全体を牽引しているのだが、ジョンアバのギターも、ムラーつのベースも、ドナルドのドラムも、実に気持ちよさそうに、演奏を楽しんでいる様がよく判る。初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分のベスト・パフォーマンスがここに記録されている。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーは、このバイラークの「多弁でモーダル」な個性ばかりで無く、ピアニストとしての存在をも否定し、バイラークの参加したECMのアルバムを全て廃盤にした訳だが、この『M』については、今の耳で聴くと、かなりレベルの高いコンテンポラリーな純ジャズが展開されていて、演奏の精度と純度が高い分、この初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分の演奏も、十分に「欧州ジャズ」であり、異色のECMジャズとして捉えても違和感が無い。

結局、この『M』のセッションでのアイヒャーとバイラークの喧嘩がもとで、初代「John Abercrombie Quartet」のレコーディングはこの『M』で打ち止めとなる。しかも、バイラークとの喧嘩のとばっちりで、この初代「John Abercrombie Quartet」のオリジナル・アルバムは未だに廃盤状態。アイヒャーも罪作りなことをしたもんだ、と思う。でも、この『M』というアルバム、初代「John Abercrombie Quartet」の好盤の一枚であることは間違いない。

ちなみに、この『M』は、オリジナル・アルバム仕様としては未だ廃盤状態だが、サブスク・サイトやCDで『The First Quartet』と題して、この初代「John Abercrombie Quartet」の全音源が、ECMからリリースされているので、このボックス盤から聴くことができる。
 
 

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2024年6月13日 (木曜日)

ジョンアバの「ギター・シンセ」

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターの音世界が好きで、1970年代から、ずっとジョンアバのアルバムを追いかけている。

欧州ジャズらしい、彼しか出せない叙情的なサスティーン・サウンドが、とにかく気持ち良い。特に、ECMレーベルでの、ECM独特の深いエコーに乗ったジョンアバのギターシンセには、聴くたびに惚れ惚れである。

John Abercrombie『Current Events』(写真左)。1985年9月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, g-synthesizer), Marc Johnson (b), Peter Erskine (ds)。ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターがフロントのピアノレス・トリオ。

ベースにニュー・ジャズ志向ベースの名手マーク・ジョンソン、ドラムには、これまたコンテンポラリー・ジャズ志向ドラマーのピーター・アースキン。バックのリズム隊は磐石。そんな磐石なリズム隊をバックに、ジョンアバが気持ちよさそうに、個性的なギターを弾きまくる。
 

John-abercrombiecurrent-events

 
ジョンアバは「ギター・シンセ」の名手でもある。1970年代から、ギター・シンセに手を染めて、ずっとギター・シンセの技を磨いてきた。そして、この『Current Events』では、そのギター・シンセの技が「極み」に達した感のある、素晴らしいパフォーマンスが記録されている。

ジョンアバのギター・シンセの音がメインのこのアルバム、全体の雰囲気は「プログレッシヴ・ロック(プログレ)」志向。もともと「プログレ」は英国を中心とした欧州ロックの十八番。そのプログレの雰囲気をジャズに融合させて、「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロックな音世界を現出している。

冒頭の「Clint」が圧巻のパフォーマンス。ジョンアバのギター・シンセが乱舞する16ビートの、プログレ志向のコンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズ。マーク・ジョンソンの重低音ベースもソリッドに響き、アースキンの変則拍子ドラミングが凄い。続く「Alice In Wonderland」の美しいジョンアバのギター・ワークがこれまた見事。

米国ジャズでは全く聴くことの出来ない、欧州ジャズ&ECMレーベルならではの「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロック。ジョンアバのギター&ギターシンセのベスト・プレイの一つがぎっしり詰まった名盤です。
 
 

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2024年4月19日 (金曜日)

ニュー・ジャズなドラミング

ジャック・デジョネット(Jack DeJohnette)。John Abercrombieの『Timeless』(1974)辺りから、サイドマンとしては、ECMレーベルのハウス・ドラマーとして、数々のアルバムのドラムを務めている。1983年からは、キース・ジャレット率いる「スタンダーズ」の専任ドラマーとして、キースが引退状態になる2018年まで継続した。

特に、ECMサウンドには欠かせない「臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラマー」の役割については、ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの信頼は絶大だった様で、様々なスタイルの「ECMのニュー・ジャズ」でドラムを叩いて、しっかりと成果を出している。

アイヒャーはプロデューサーとして、演奏内容と共演メンバーを活かすも殺すもドラマー次第、ということをしっかりと理解していたのだろう。ECMの活動初期の頃から、デジョネットをハウス・ドラマーとして起用したアイヒャーの慧眼恐るべし、である。

『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』(写真左)。1978年6月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Terje Rypdal (g, g-syn, org), Miroslav Vitouš (b, el-p), Jack DeJohnette (ds)。ECMレーベルからのリリース。

当時のECMレーベルのハウス・ミュージシャンの3人が集結したキーボードレス・トリオ。音の厚みを求めてキーボードが欲しい時は、リピダルがオルガンを、ビトウスがエレピを弾いている。ピアニストでもあるドラマー、デジョネットは今回はキーボードには手を出していない。

出てくる音はフロント楽器を司るリピダルのギター、ギターシンセの雰囲気を踏襲して、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界。そんなリピダルのギターに、ビトウスのプログレッシヴなアコベと、デジョネットの臨機応変で柔軟でポリリズミックなドラムが、変幻自在、硬軟自在、緩急自在に絡みに絡む。
 

Terje-rypdal-miroslav-vitous-jack-dejohn

 
全編、幽玄な、音の伸びと広がりを活かした、スピリチュアルな、官能的な音世界なので、聴き進めていくにつれ、飽きがきそうな懸念があるのだが、ビトウスのベースとデジョネットのドラムの変幻自在、硬軟自在、緩急自在な絡みがバリエーション豊かで、全く飽きがこない。

リピダルのギターも、そんなビトウスのベース、デジョネットのドラムが叩き出すリズム&ビートに触発されて、いつになくアグレッシヴで表現豊かな、躍動感あふれる、それでいて繊細でクールでリリカルなパフォーマンスを聴かせているから面白い。

これだけ、バリエーション豊かにギターを弾きまくるリピダルも珍しい。この3人の組み合わせが、各演奏のそこかしこに「化学反応」を起こしている様がしっかり聴いて取れる。

この盤のリピダルって、彼のペスト・パフォーマンスの一つとして挙げて良いくらい、内容充実、優れたパフォーマンスである。

リピダルの潜在能力を効果的に引き出し鼓舞し、そのリピダルの音世界をしっかりとサポートし、より魅力的にするリズム&ビートを、ベースのビトウスと共に創造し叩き出すデジョネットのドラミングがアルバム全編に渡って堪能出来る。

ECMレーベルの活動前期に、ECMレーベルのニュー・ジャズな音世界に欠かせない「リズム&ビート」を担うデジョネットのドラミング。例えば、この『Terje Rypdal / Miroslav Vitous / Jack DeJohnette』を聴けば、その意味が理解出来る。従来のジャズの枠を超えた、ニュー・ジャズなドラミング。デジョネットのドラミングの本質だろう。
 
 
 

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2024年4月18日 (木曜日)

ラーズ・ヤンソンの攻めのピアノ

ラーズ・ヤンソンは、1951年、スウェーデン生まれ。1975年、プロとしての活動がスタート。自己のトリオを結成した1979年以後は、北欧ジャズの第一線で活躍している「古参」の存在。1980年代に優れた内容のリーダー作を連発、国際的にも北欧ジャズの担い手なる一流ジャズ・ピアニストとして認知されている。

Lars Jansson Trio 『The Time We Have』(写真左)。1996年3月29日、オスロの「Rainbow Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Lars Jansson (p), Lars Danielsson (b), Anders Kjellberg (ds)。北欧のリリカルなピアノ詩人、ラーズ・ヤンソンの5枚目のリーダー作。ベースのラーシュ・ダニエルソン、ドラムのアンダーシュ・シェルベリと共に、純スウェーデン出身のピアノ・トリオ演奏。

耽美的でリリカルなピアノは相変わらずだが、このリーダー作でのヤンソンは、ロマンチシズムは極小に、バリバリと硬派でストイックなピアノを弾きまくる。北欧ジャズ・ピアノの深淵で豊かな広がりのあるフレーズはそのままだが、速いフレーズは爽快感溢れ、クールな弾き回し。北欧ジャズというよりは、耽美的でリリカルでモーダルな弾き回し。まるで、キース・ジャレットか、と思う瞬間がある。
 

Lars-jansson-trio-the-time-we-have

 
ただ、キースと違うのは、クラシックな弾き回しが殆ど無く、どっぷり耽美的にリリカルに浸り切ることは無いところ。キースの様に仰々しいところは一切無い、シンプルで透明度の高い弾き回しがメインなのが、ラーズ・ヤンソンのピアノ。ただし、アドリブ展開の時に「うなり声」をあげるところまで似ていると、これはこれで困るなあ(笑)。

ラス前の、どスタンダード曲「Autumn Leaves(枯葉)」を聴けば、ヤンソンのピアノの個性と特徴が良く判る。耽美的でリリカルな響きだが、硬派でストイックでシリアスなアドリブ展開、速いフレーズの爽快感溢れるクールな弾き回し、スクエアにブレイクダウンするアブストラクトな展開、どちらかと言えば、欧州の現代音楽、現代クラシックに通じる弾き回しがヤンソンならでは。

ラーシュ・ダニエルソンのベースも、アンダーシュ・シェルベリのドラムも、そんなヤンソンのピアノに呼応する様に、硬派でストイックでシリアスなリズム&ビート叩き出して、ヤンソンを鼓舞し、ガッチリと支える。「Other Side of Lars Jansson」という副題を付けたくなる様な、ヤンソンの「攻めのピアノ」が聴ける好トリオ盤。ジャケも秀逸。良いピアノ・トリオ盤です。
 
 

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2024年2月17日 (土曜日)

北欧らしい Swedish Standards

北欧ジャズの国単位の範疇は「ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク」。北欧ジャズには独特のフレーズと響きがある。耽美的でリリカルでメロディアス。静的で決して暑くはならないクールなインプロ。クラシックの影響とそれぞれの国のフォーク・ソングのフレーズが垣間見える。

Jan Lundgren Trio『Swedish Standards』(写真)。1997年5月10−11日、コペンハーゲンのサン・スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Jan Lundgren (p), Mattias Svensson (b), Rasmus Kihlberg (ds)。

ピアノのヤン・ラングレンがリーダーのピアノ・トリオ。トリオの3人ともスウェーデン出身。この「純スウェーデン人トリオ」の母国、スウェーデンの古謡を取り上げ、ジャズ化した秀作。

米国にも日本にも馴染みの無い、不思議なメロディとモチーフとしたフォーキーなフレーズがいかにも「スウェーデンの古謡」らしい。そんな「スウェーデンの古謡」を北欧ジャズの雰囲気濃厚なアレンジと録音で「トリオ・ジャズ」化している。独特な雰囲気が魅力のトリオ演奏。

この「スウェーデンの古謡」の北欧ジャズ化を聴くと、北欧ジャズの個性と特徴がとてもよく判る。とてもシンプルで地味目の「古謡フレーズ」なので、ダイナミックでドラスティックな米国ジャズを良しとする向きには「単調で退屈」だろう。
 

Jan-lundgren-trioswedish-standards  

 
しかし、欧州ジャズ者、ECMジャズ者の方々なら、すんなり受け入れて、その優れた内容を理解することができるだろう。欧州ジャズを理解できないと北欧ジャズを理解することは難しい。

古謡をベースにしながら、そのジャズ化に無理が無い。古謡の持つ不思議なメロディとモチーフが、北欧ジャズの個性と特徴に合致するのだろう。

そして、ラングレンの、美しいタッチ、歌心に溢れたフレージング、端正で流麗なリズム感、3拍子揃った、北欧ジャズ仕様のバップ・ピアノが的確に古謡のフレーズをジャズ化している。

加えて、スヴェンソンの間合いの効いたリリカルなベース、フォーキーにリズム&ビートを刻むシェールベリのドラムが、そんなラングレンの北欧ジャズ仕様のバップ・ピアノをガッチリ支え鼓舞する。

こういう、その国や地域に密着したジャズはどれもが美しい。米国ジャズだって、和ジャズだって同じ「その国や地域に密着したジャズ」。優劣は無い。

改めて、この『Swedish Standards』は、実に北欧ジャズらしいピアノ・トリオの優れたパフォーマンスである。
 
 

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