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2019年4月20日 (土曜日)

仏ジャズを代表するトリオ盤

ジャズという演奏フォーマットは「即興演奏」が最大の特徴。演奏者個々の力量がそのまま演奏にダイレクトに出る。そして、個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わったりする。この辺が譜面通りに演奏することをメインとしたクラシックと「真逆」なところ。
 
このクラシックと「真逆」のところが面白くて、ずっと40年以上もジャズを聴いている訳だが、この「個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わる」というアルバムについては、ジャズの世界ではちょくちょく出くわす。それほど、ジャズマンは「個性の塊」の人が多くいる。というか「個性の塊」でないとジャズマンは勤まらない、と言った方が良いのか。
 
このアルバムを初めて聴いた時、全く硬派で整ったハードバップ・ジャズだと感じた。絵に描いた様なハードバップな演奏。新しい要素もいろいろ入ってはいる。モーダルな展開もあれば、スピリチュアルな展開もある。ジャズ・サンバもある。それでも基本は「ハードバップ」。よくよく聴くと、そんな雰囲気を決定付けているのは「アコースティック・ベース」の存在。
 
 
Easy-does-it-marc-hemmeler  
 
 
そのアルバムとは、Marc Hemmeler『Easy Does It』(写真左)。仏リヨン出身のジャズ・ピアニスト、マーク・エムラーの1981年リリース作品。ちなみにパーソネルは、Marc Hemmler (p), Ray Brown (b), Daniel Humair (ds), Stephane Grappelli (vln)。エムラーのピアノ・トリオに、ジャズ・バイオリンの名手、グラッペリが1曲だけ客演した構図。エムラーのピアノ・トリオがメインである。
 
ジャズ・ベースのレジェンドの一人、レイ・ブラウンのベースの存在感が半端無い。ブンブン唸るようにアコベの胴鳴り。鋼が鳴るような弦の爪弾き。このブラウンのベースが演奏全体の雰囲気を決定付けている。躍動感溢れ端正なアドリブ展開、ノリ良くスインギーなフレーズ。ブラウンのベースがこの上質なハードバップ演奏の雰囲気をグイグイとリードする。
 
もちろん、リーダーのエムラーのピアノも欧州ジャズのピアノらしく、ファンクネス希薄で端正で流麗。タッチも明確で聴き心地は良好。フランスを代表する名手、ドラムのユメールの好サポートも見逃せない。しかし、そこにブラウンのベースが入ったからこそ、内容の高い、高いレベルの仏ジャズを代表するピアノ・トリオ盤に仕上がった、と僕は感じている。
 
「個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わる」。ジャズって面白いなあ。
 
 
 
東日本大震災から8年1ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年4月14日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・145

自分の主な趣味として、音楽全般、アルバム蒐集〜鑑賞などは高校時代からなので、約45年のキャリアであるが、もう一つ、長年細々と続けている趣味として「天文」がある。私設天文台を構えて、天体写真などをバリバリ撮りまくるなどという、ヘビーな天文ファンでは無いが、主な天文現象は押さえつつ、四季折々、機会を得ては星を眺めてきた。約50年のキャリアになる。
 
このグループの名前が気になって聴いたら、これがなかなか素晴らしい内容でビックリした。そのグループ名とは「The Comet Is Coming」。和訳すると「彗星がやって来た」。天文が趣味の僕としては「これは何や」、ということで思わず入手したって感じです(笑)。しかし、ジャズの世界らしからぬグループ名ですね。
 
改めて、アルバムの紹介を。The Comet Is Coming『Trust In The Lifeforce Of The Deep Mystery』(写真左)。今年3月のリリース。米国インパルスからメジャー・デビュー盤。現行UKジャズ・シーンの中心人物、サックス奏者シャバカ・ハッチングスの大本命ユニットがこの「The Comet Is Coming」。
 
 
Trust-in-the-lifeforce-of-the-deep-myste  
 
 
メンバーは、King Shabaka (ts,bcl), Danalogue (key,synth), Betamax (ds,perc,programming)。サックス+キーボード+ドラムの変則トリオ・ユニットである。英国は不思議な国で、1970年代からジャズとロックの境界線が曖昧。このThe Comet Is Comingの音も現代の最先端のクロスオーバー・ミュージックという面持ち。
 
サイケデリックでスペーシーでプログレッシブな音。リズム&ビートは明らかにジャジーでダンサフル。キーボードはシンセがメインで、エレクトロニカの要素が強く出ている。新しいスピリチュアルなプログレッシブ・ジャズという雰囲気。僕達、1970年代の「プログレ小僧」からすると、懐かしさすら感じる、耳慣れた音世界。
 
ハッチングスのバスクラが効果的。このエレクトリックなクロスオーバーな伴奏の中で、怪しげに鳴り響くバスクラは、マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」を彷彿とさせる。エレ・ジャズの伝統をも踏まえた、素晴らしいクロスオーバー・ミュージック。マイルスのエレ・ジャズから着々と進化した、現代の最先端のエレ・ジャズの1つがこの盤に凝縮されている。
 
 
 
東日本大震災から8年1ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年4月13日 (土曜日)

フランス・ジャズの魅力的トリオ

フランスという国も昔からジャズが盛んである。古くはサックスの「バルネ・ウィラン」、1980年代から90年代にかけてはピアノの「ミシェル・ペトルチアーニ」とパッと浮かぶ人気ジャズ奏者がいつの時代にもいる。フランスはもともと芸術を尊ぶ国。米国で生まれたジャズについても「即興の芸術」として長く扱われている。
 
EYM Trio『Genesi』(写真左)。2013年のリリース。ちなみにパーソネルは、Elie Dufour (p), Yann Phayphet (b), Marc Michel (ds)。ブルガリア人の血を引くピアニストのエリー・デュフールを中心に、ベーシストのヤン・ファイフェット、ドラマーのマーク・ミシェルという3人がリヨンの音楽院で出会い、結成したピアノ・トリオが「EYM Trio」。そのデビューは2011年。タイトルの「Genesi」はイタリア語で「創世記」の意。彼らの記念すべきデビュー盤である。
 
演奏の音を聴けば、明らかに米国ジャズにおけるピアノ・トリオとは全く異なった雰囲気であることが良く判る。まず、リズム&ビートにファンクネスが希薄。陰影のある奥深い響きのオフビートがユニーク。演奏の根幹に「ブルージー」な響きがほとんど感じられない。欧州ジャズはクラシック音楽の響きをメインにしており、EYM Trioも例外では無い。
 
 
Genesi-eym-trio  
 
 
テクニックは高いレベル。演奏に破綻は全く無く、走りすぎたり遅速に陥ることも無い。テクニックの高いレベルでのインタープレイはスリリング。この「スリル」が適度なテンションを産んで、このトリオの音を詰め込まない、即興の「のり代」を残したアドリブ・フレーズは不思議な落ち着きを生み出す。アドリブ・フレーズから感じる「哀愁感」が独特。
 
東ヨーロッパには中東風ともヨーロッパ風ともいえない不思議なメロディーやリズムが存在するが、EYM Trioはその東ヨーロッパのメロディーやリズムに影響を受けた響きが存在するように感じる。アドリブ・フレーズから感じる、この「哀愁感」は恐らくは東ヨーロッパのメロディーやリズムからの影響と推察する。この他の欧州ジャズのピアノ・トリオとはちょっと違う「哀愁感」という響きの個性。填まると癖になる。この見え隠れする不思議なメロディーとリズムが聴いていて心地良い。
 
アルバムのジャケットのデザインもユニークでアーティスティック。哀愁とスリルに満ちた楽曲がてんこ盛り。耽美的でアーシーで堅実な現代のピアノ・トリオ。こういうピアノ・トリオを生み出すフランス・ジャズ。現代のジャズ・シーンの中でも隅に置けない存在、隅に置けない国あることは間違い無い。
 
 
 
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2019年4月10日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・144

欧州ジャズは、ECM、Steeplechase、Enjaの三大レーベルがメインで発展した来た様に思う。他の欧州のマイナー・レーベルの貢献もあろうかと思うが、米国、そして日本という欧州以外のリージョンについては、やはりこの三大レーベルを介して、欧州ジャズを体験していった様に思う。

地域的にはコペンハーゲンを中心とする北欧ジャズと欧州に移り住んだ米国ジャズメン達のジャズが大半だったという思い出が強い。しかし、この10年間のうちに欧州ジャズの出身地が急速に拡がってきている。第一にイタリア、そして英国、ドイツのジャズが我が国にもやってきて、最近ではイスラエル、そしてポーランドのジャズが流行になってきている。

Simple Acoustic Trio『Habanera』(写真左)。2000年のリリース。ちなみにパーソネルは、Marcin Wasilewski (p), Sławomir Kurkiewicz (b), Michał Miśkiewicz (ds)。Simple Acoustic Trioとは、ポーランド・ジャズ界を代表するピアニスト、マルチン・ボシレフスキを中心とする、純ポーランドなピアノ・トリオである。
 
 
Habanera-simple-acoustic-trio  
 
 
ベタなトリオ名からして、大スタンダード曲中心のカクテル・ピアノっぽいトリオ演奏かしら、と訝しく思いながら、聴き始めると「あらビックリ」。俗っぽさなど微塵も無い。欧州ジャズらしい流麗なメロディ、透明感溢れるサウンド。北欧ジャズとの違いは哀愁感溢れるマイナーでエコーたっぷりな響きが希薄なところ。意外と質実剛健なところが見え隠れする、ロマンチックなピアノ・トリオ演奏。
 
欧州ジャズの共通項としてロマンティックではある。が、意外と硬派で質実剛健なところを加味した音が、ポーランド・ジャズの個性だろうと感じている。最初はロマンに流されるか、と心配になるが、そこにコーンとドラムが入り、ブンブンとベースが引き締めれば、グッと硬派なエッジの立った、上質で流麗な、明確で一本筋の通ったタッチが清々しいピアノの響きが現れる。
 
静的なフレーズが全体を覆うのだが、適度なテンションを保ったインタープレイとニュー・ジャズ特有のファンクネス希薄で自由度の高いビートが意外とホットで、飽きるどころか、聴けば聴くほどに奥の深い演奏に思わず聴き入ってしまう。ジャケットも思いっきり欧州ジャズ風で趣味の良いもの。これは絶対にジャズ喫茶でかけたい盤である。
 
 
 
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2019年4月 5日 (金曜日)

ボボ・ステンソンの新トリオ盤

ECMレーベルには、素敵な内容のピアノ・トリオ盤が多く存在する。恐らく、ECMレーベルの、西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置き、電化サウンドを排除し、アコースティックな表現を基本とし、限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音がジャズ・ピアノにフィットするんだろう。特に、ファンクネス希薄な欧州のニュー・ジャズ系のピアノがとりわけフィットする。
 
ECMレーベルの「お抱えピアニスト」の一人に、Bobo Stenson(ボボ・ステンソン)がいる。ステンソンは、1944年、スウェーデン出身。10 代の時から演奏活動を始め、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、ドン・チェリーなどとセッションを重ねていたそう。1970年代には盟友ヤン・ガルバレクと共に活動を開始し、ECMレーベル中心に好盤をリリース。現在では、ベースのアンデルス・ヨルミンとドラムのヨン・フェルトとトリオで活動を続けている。
 
そんなステンソンの最近の好盤の一枚がこれ。Bobo Stenson Trio『Contra la Indecisión』(写真左)。2017年5月の録音。ちなみにパーソネルは、 Bobo Stenson (p), Anders Jormin (b), Jon Fält (ds)。現在、好調に好盤をリリースしているトリオでの新盤である。選曲がふるっている。バルトーク、サティが採用され、キューバのシルヴィオ・ロドリゲスの哀愁溢れるアフロ・キューバンな佳曲が彩りを添えている。
 
 
Contra-la-indecision-bobo  
 
 
ボボ・ステンソンのピアノがとても美しい。キースのピアノから尖ったところ、アブストラクトなところをそぎ落として、しっかりした明確なタッチでの、硬派で耽美的なフレーズが特徴。ピアノの音のエッジが適度に丸く、耳に優しく馴染む。流麗で耽美的なフレーズを駆使する曲では、限りなく美しく、暖かくてクールなピアノが響き渡る。ヨルミンのベースは唄うが如く、ベースラインを抑え、フェルトのドラムは自由自在にリズム&ビートを紡ぎ出す。
 
フリーな演奏では切れ味の良い、煌めきの様なフレーズが続くが、どこか優しく丸い。それはピアノだけでは無い。ヨルミンのベースも自由度高く、弾ける様なうねるようなフレーズを連発するが、どこか優しくしなやか。フェルトのドラムはポリリズミックで閃き抜群。様々な表情のフレーズを繰り出し、素晴らしく高度なテクニックで最上の表現力を発揮する。意外とこのフリーな演奏の部分が聴きものだったりする。
 
このトリオの演奏には北欧の自然をイメージする、クリアでクールでアーシーな音がぎっしりと詰まっている。紡ぎ出すフレーズも現代音楽っぽい幾何学的で耽美的で印象的なフレーズがてんこ盛り。北欧では、キース・ジャレットと双璧をなすジャズ・ピアノのレジェンドとして評価されているそうだが、それも納得できるこの新盤の内容。ECM好きには堪らない好盤である。
 
 
 
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2019年4月 2日 (火曜日)

60年代末期ならではの純ジャズ

ニュー・ジャズを聴いていて、新しい響きのジャズを感じていると、その反動でジャズの本流、旧来の典型的なジャズと言われる「ハードバップ」が聴きたくなる。といって、1950年代のハードバップ時代ど真ん中にドップリと浸かるにはちょっと反動が過ぎる。ということで、ニュー・ジャズの雰囲気を少しだけ宿した、1960年代後半から1970年代のハードバップが良い。
 
Dexter Gordon『A Day in Copenhagen』(写真左)。1969年3月10日、デンマークはコペンハーゲンの「Metronome スタジオ」での録音。ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon (ts), Slide Hampton (tb), Dizzy Reece (tp), Kenny Drew (p), Niels-Henning Orsted Pedersen (b), Art Taylor (ds)。米英+北欧の混成セクステット。
 
デックスは1960年初頭に、ハンプトンは1968年に、ドリューは1961年に、テイラーは1963年に渡欧している。いわゆる米国東海岸のハードバップ・ミュージシャンの渡欧組で、4人ともコペンハーゲンを活動の拠点の1つにしていた。リースはジャマイカ出身で、1960年代の大半は米国東海岸で活動したが結果が伴わず、以前の活動拠点のパリに戻ったはずなのだが、たまたまコペンハーゲンに来ていたのかなあ。ペデルセンはデンマーク出身でコペンハーゲンが活動拠点。
 
 
In-copenhagen  
 
 
ベースのペデルセン以外、他の5人は米国東海岸の本場「ハードバップ」を体験してきた強者ども。ジャズを芸術と理解して、しっかりと聴いて評価してくれる欧州の地で、バリバリ魅力的なハードバップな演奏を展開している。時代は1960年代の末期、当時の先端のジャズのトレンドを踏まえつつ、1950年代のハードバップとは一味違う、欧州仕様のモーダルなハードバップな演奏を繰り広げている。
 
主役のデックスのテナーは全く変わらない。朗々と大らかで悠然としたブロウは「我が道を往く」雰囲気である。テナー、トロンボーン、トランペットのフロント3管のうち、ハンプトンのトロンボーンが良い味を出している。フレーズと音色が先進的で、ハンプトンのモーダルなトロンボーンの存在がこの盤をユニークな存在にしている。そして、全く欧州風のペデルセンの骨太ソリッドなアコベが効いている。ペデルセンのベースが鳴ると、欧州ジャズの雰囲気が一気に濃厚になる。
 
ジャケットは何故かサイケデリック調で「あんまりやなあ」と思うのですが、この盤、由緒正しきレーベルからのリリース。ジャケットのマークを見たら「MPSレーベル」のアルバムなんですね。欧州ハードバップの専門レーベル「MPS」。なかなかにユニークなメンバー編成で、1960年代末期ならではの「モーダルな純ジャズ」を記録してくれていたとは、MPSレーベルもなかなかやるなあ。
 
 
 
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2019年3月30日 (土曜日)

新しい「エレジャズ・ロック」

欧州ニュー・ジャズの老舗レーベル「ECM」。このレーベル、ジャズの演奏形態やトレンドにはかなり寛容で、というか、かなり懐が深くて、メインストリーム系のジャズの中ではモードからフリー、アブストラクト、スピリチュアルまで守備範囲は広く、エレクトリック系ではロックでいうところの「プログレッシブ・ロック」の要素を吸収したジャズ・ロックなどにも柔軟に対応している。
 
Barre Phillips『Mountainscapes』(写真左)。1976年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Barre Phillips (b), John Surman (ss,bs,b-cl,syn), Dieter Feichtner (syn), Stu Martin (ds, syn), John Abercrombie (g・track8のみ)。リーダーのバーレ・フィリップスはベーシスト。カルフォルニア生まれ。キャリアの初期はアメリカ。1960年代後半に欧州に渡って、その後は欧州で活動。そんな流れの中でのECMでの録音だったのだろう。
 
アルバムの冒頭から数分聴いているだけで、思わず「ニンマリ」。これってプログレッシブ・ロック(略して「プログレ」)やん。基本はバーレのベースとサーマンのサックス、マーチンのドラムのトリオ。そこに、フィヒトナーのシンセが入ってくる。ビートは明らかに8ビートがメインで、整然としたリズム&ビートをベースとした演奏パートはメインの旋律も整然としていて、演奏全体の雰囲気は明らかに「プログレ」。
 
 
Mountainscapes-1  
 
 
そして、その整然とした8ビートが変則ビートに変化すると、演奏全体の雰囲気はフリーなエレクトリック・ジャズにガラッと変わる。モード奏法の様な柔軟度の高いフレーズがメインになる。メインの旋律のスペース感溢れる浮遊感が半端ない。モーダルな浮遊感のある旋律となると演奏全体の雰囲気は「プログレ」では無くなり、演奏の雰囲気は「モーダルなジャズロック」に切り替わる。
 
ラストの「MountainscapesⅧ」では、ECMのお抱えギタリスト、ジョンアバが参加。捻れに捻れた浮遊感のあるエレギで、フリーキーなフレーズを連発する。アルバムに散りばめられている演奏形態は「プログレ」「モーダルなジャズロック」「フリーキーなジャズ」という3つの要素をクロスオーバーした、即興演奏を織り込んだニュー・ジャズである。
 
この盤の雰囲気を一言で言うと、プログレッシブ・ロックな要素を取り込んだ、新しい「エレジャズ・ロック」。ジャズの演奏形態やトレンドに寛容で懐の深いECMレーベルならではの音世界である。面白いのは、演奏メンバーが皆、基本的にジャズ畑のミュージシャンなので、演奏がプログレ寄りになっても、どっぷりプログレにはならない。あくまで、この盤の音世界は「即興がメインのジャズ」。
 
 
 

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2019年3月28日 (木曜日)

ECMの「お抱えトランペッター」

欧州ジャズの雄、ニュー・ジャズのショーケース的レーベル「ECM」。楽器別に見てみると、意外や意外、トランペットが手薄なのに気がつく。何の資料も見ずに、いきなり「ECMレーベルのトランペッターは?」と問われたら、ケニー・ホイーラーがまず浮かんで、エンリコ・ラバ、う〜ん、それまで。って感じ。調べたらもっといるんだろうけど、どうも僕の印象は「ECMレーベルはトランペッターが手薄」なのである。本当のところ、どうなんだろう?
 
さて、ECMレーベルのトランペッターといえば、まず浮かぶのが「ケニー・ホイーラー」。そのホイーラーの初期の好盤がこれ、Kenny Wheeler『Gnu High』(写真左)。1975年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Kenny Wheeler (flh), Keith Jarrett (p), Dave Holland (b), Jack DeJohnette (ds)。リーダー、ケニー・ホイーラーの、この盤ではフリューゲルホーンのワンホーン・カルテット。
 
ケニー・ホイーラーはカナダ出身、英国を活動拠点とするトランペッターである。2014年9月、惜しくも84歳で鬼籍に入った。生涯のキャリアの中で、ECMレーベルにかなりの数のリーダー作をはじめ、演奏参加した多数の作品があって、ECMレーベルの「お抱えトランペッター」と言って良いだろう。
 
そして、バックに控えるリズム・セクションが凄いメンバー。ピアノにキース・ジャレット、ベースにデイブ・ホランド、ドラムにジャック・ディジョネット。ECMレーベルだからこそ出来る、思いっきり贅沢なワンホーン・カルテットである。「これ、ホイーラー、名前負けしないのか」と思わず心配になる位のリズム・セクションである。ECMの総帥マンフレート・アイヒャーだからこそ出来たブッキングである。
 
 
Gnu-high-1
 
 
で、その内容であるが、基本は「ECMのニュー・ジャズ」。ファンクネス皆無、限りなく自由度の高い、即興中心の演奏形態。この盤ではモード・ジャズから入るが、途中から軽いフリー・ジャズに突入。アブストラクトでは無いが、相当に自由度の高いフリー・ジャズ。それぞれの楽器が必要最小限のルールを守りながら、思い思いに即興演奏を繰り広げる、インタープレイ中心のフリー・ジャズ。ホイーラーのフリューゲルホーン、大健闘である。
 
面白いのは、キース・ジャレット。キースが他の誰かのバックを務めることは希である。この盤では、どういう経緯でバックを務めるようになったかは知らないが、聴けば確かにキースは誰かのリーダー作のバッキングには向かないと感じる。この『Gnu High』でも、リーダーのホイーラーのフリューゲルホーンを全く気にせず、自分の個性を思いっきり前面に押し出した即興ピアノを延々と弾き続けている。
 
キースのピアノだけピックアップしたら、キースのピアノのソロアルバムが出来るのでは、と思う位だ。恐らく、そんなキースの「我が道を行く」雰囲気が、ECMのマンフレート・アイヒャーをもってしても、以降、キースをバックのリズム・セクションにほとんど採用しなかった大きな理由である様な気がしている。
 
欧州ジャズのフリー・ジャズのひとつのサンプルがこの盤に詰まっている。アブストラクトに偏らず、エモーショナルに溺れず、聴き易いライト感覚で端正な欧州のフリー・ジャズ。そんな雰囲気の色濃いこの盤の中で、やはりリーダーのホイーラーのフリューゲルホーンが一番目立っている。キースの参加ばかりが取り立たされるアルバムではあるが、実際には、ホイーラーのフリューゲルホーン(トランペット)を体験するに良い盤と言える。
 
 
 
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2019年3月16日 (土曜日)

ECMの中では異質な内容だけど

ECMレーベルは、欧州ジャズを代表する老舗レーベル。レーベルの音の傾向は基本的に「ニュー・ジャズ」。米国で発展した「ビ・バップ〜ハードバップ」のトレンドを踏襲すること無く、ハードバップ以降のモード・ジャズやフリー・ジャズ、スピリチュアル・ジャズに取り組むのだが、それらに「欧州ジャズ」の個性を反映させて「ニュー・ジャズ」に仕立て上げている。

Tomasz Stańko『Balladyna』(写真左)。1975年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Tomasz Stańko (tp), Tomasz Szukalski (ts, ss), Dave Holland (b), Edward Vesala (ds)。リーダーのトーマス・スタンコはポーランド出身のトランペッター。サイドマンのサックスのトーマス・シュカルスキーもポーランド出身。ドラマーのエドワード・ヴェサラはフィンランド出身。そして、ベースのディブ・ホランドはイングランド出身。オール欧州のピアノレス・カルテットである。

ECMレーベルでは珍しいのだが、出てくる音はハードバップ系の音。モーダルなハードバップである。ただし、欧州ジャズの老舗、ECMレーベルのモーダルなハードバップである。まず、ファンクネスは皆無。出てくる音はシャープで切れ味が良い。ECM独特のエコーが効いて透明度の高い音。ジャズをイメージする「汗と煙」については全く無縁。米国のモーダルなハードバップとは正反対の雰囲気。
 

Balladyna  

 
「クールな熱気」と表現したら良いのか、この盤の演奏についてはいずれも「クールな熱気」溢れる、ダイナミズム溢れる演奏が清々しい。実に真摯な音世界にポーランド・ジャズの矜持を感じる。ジャズをアートと捉えて、演奏する側も聴く側も出てくる音にしっかりと相対する。特に冒頭の1曲目の「First Song」については、そのハードで創造的な演奏に度肝を抜かれる。

2曲目の「Tale」はサックス抜きのトランペット+ベース+ドラムの変則トリオ。静的な演奏なんだが切れ味の良い、結構テンションの高い演奏で、欧州ジャズの真髄に触れた気分になる。基本はモードなんだが、ところどころでフリーな演奏やスピリチュアルな演奏を織り交ぜて、ECMの十八番である「ニュー・ジャズ」がしっかり展開されている。

欧州ジャズ仕込みのハードバップな演奏であるが、聴いていてしっかりと印象に残るのは、ホランドのベース。重低音が練り歩く様な、骨太でしなやかな粘りとソリッドな弦の響きが印象的。この盤のどの演奏にもホランドのベースがしっかりとビートの根元を押さえています。ECMレーベルの中では異質な内容ではあるが、音の雰囲気は明らかにECMレーベルのモーダルなハードバップ。好盤です。

 
 
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2019年3月14日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・142

ピアノ・トリオはいつ聴いても楽しい。簡単そうに見えて、結構、弾きこなすに難しい、打楽器と旋律楽器の両方の性質を持つ楽器のピアノ。この難物楽器のピアノがメインに、これまた、リズム楽器と旋律楽器の両方の性質を持つベースが絡み、究極の打楽器のドラムがリズム&ビートを担う。いわゆる「職人集団」のパフォーマンス。これが聴いていて楽しい理由。

Jason Lindner, Giulia Valle, Marc Ayza『1,2,3, Etc.』(写真左)。2001年12月3&4日、バルセロナでの録音。ちなみにパーソネルは、Jason Lindner (p), Giulia Valle (b), Marc Ayza (ds)。ピアノのジェイソン・リンドナー、どこかで聴いた名だなあ、と調べてみたら、デヴィッド・ボウイ『★(ブラックスター)』に参加した気鋭の鍵盤奏者でした。

まず、そのジェイソン・リンドナーのピアノが印象深い。耽美的ではあるが力感溢れる明快なタッチ。ハンマー打法を彷彿とさせるパーカッシヴな左手。強弱、抑揚、明暗と複雑な表現をシンプルに弾きこなす右手。躍動感溢れ、逆に暖かな繊細さとの対比が見事。久々に注目のピアニストやなあ、と当時感心したものです。
 

123etc  

 
ジュリア・ヴァーレは女流ベーシスト。僕は最初「女流」と聞いてビックリした。この盤を聴いたら判るのだが、ベースがゴリゴリ、ブンブン、思いっきり胴鳴りしている。鋼のしなりの様なベース弦の響きも生々しい。こんなベースを聴いて、これ「女流ベーシストやで」と言われたら、え〜っ、となりまっせ(笑)。ファンクネスが希薄なので、出身はどこかな、と調べたら、イタリアのサンレモでした。納得です。

マーク・アイザのドラミングはユニーク。ちょっとラフに構えたグルーヴ感は独特のスイング感と疾走感を与えてくれます。この人のドラミングにもファンクネスが希薄というか皆無。堅実で強烈なオフビートに裏打ちされたポリリズム。それでいて、しっかりリズム&ビートの筋が一本通っている。じっくり聴き耳立てていると、更にその素晴らしさが判る、そんな職人芸的な玄人好みのドラミング。出身はバルセロナとのこと。これも納得ですね。

この盤の選曲については、セロニアス・モンク、マッコイ・タイナー、クレア、フィッシャー、スティービー・ワンダーなどの作品を取り上げていて、ジェイソン・リンドナーのピアノの個性の源を感じさせてくれます。エレピも弾いていて、変に難しくせず、シンプルで良好。いや〜、この『1,2,3, Etc.』、なかなか聴き応えのあるピアノ・トリオ盤です。ジャケットもジャズらしからぬ可愛いイラスト。これも良し(笑)。

 
 
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