2019年12月 1日 (日曜日)

1990年代以降のロイドを聴く

チャールズ・ロイド(Charles Lloyd)。1960年代後半、突如、現れ出で、ジョン・コルトレーンの聴き易い部分をカヴァーして人気を博した。特に、コルトレーンのフリーキーな部分は「人種差別に抗議する怒り」として捉えられ、この「コルトレーンのフリーキーな演奏」を聴きやすくしたところが、フラワー・ムーヴメメント、ヒッピー・ムーヴメントの中でウケにウケた。

しかし、このコルトレーンの聴き易い、ええトコ取りをしたアプローチが胡散臭い。加えて、ロイド人気の半分以上は、バックのリズム・セクションの人気だった。このバックのリズム・セクションが、キース・ジャレットのピアノ、セシル・マクビーのベース、ジャック・デジョネットのドラムで、当時、それはもう新しい響きのモーダルなジャズで素晴らしいもの。このトリオの人気が意外と大きかった。

1970年代に入って、クロスオーバー・ジャズの波が押し寄せ、商業ロックが台頭し、メインストリーム・ジャズの人気が衰退していった。合わせてロイドの人気は下降し、遂には忘れられた人となった。1980年代は完全にロイドの名前は無かった。が、つい最近、といっても5年ほど前だが、ECMレーベルからリーダー作を出しているロイドに気がついた。調べれば、1989年から、ECMレーベルの下で、ロイドはリーダー作を連発していた。
 
 
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Charles Lloyd『Fish Out of Water』(写真左)。1989年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Charles Lloyd (ts, fl), Bobo Stenson (p), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)。バックのリズム・セクションは、スウェーデン出身2人、ノルウェー出身1人。チャールズ・ロイドのテナー&フルートのワンホーン・カルテット。リリースは、欧州ジャズの老舗レーベルのECM。

アルバムに詰まっている演奏の雰囲気は「欧州の純ジャズ」。バックのリズム・セクションが北欧メインなので、音の響きは北欧ジャズ。ロイドのテナーは北欧ジャズのスタンダードである「クリスタルな切れの良い」音よりも暖かでエッジが丸い。米国ジャズってほどでは無いのだが、クールな熱気をはらんだテナーは意外と個性的である。欧州のテナーマンには無い独特の個性。

1989年にロイドはこんなに魅力的なワンホーン・カルテット盤を出していたんですね。全く知らなかった。1960年代の胡散臭さ漂うリーダー作ばかりが我が国ではジャズ雑誌に載ってきたので、ロイドの1990年代の活躍は全く意識していなかった。全く以て不明を恥じるばかりである。そして、今、1990年代以降のロイドのリーダー作を聴き進めている。これが意外と楽しいのだ。
 
 
 
東日本大震災から8年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年10月23日 (水曜日)

いい音している伊ジャズの新盤

こういうコンテンポラリーな純ジャズなアルバムを「発見」すると嬉しくなる。リーダーの名前を見ても、どんな誰なのだか、さっぱり判らない。それでも、アルバムに詰まっている音はとても素敵なジャズで、音は明らかに「今」風。洗練されたリズム&ビートと新しい響きのモーダルなフレーズ。

Enrico Le Noci『Social Music』(写真左)。2019年7月のリリース。Enrico Le Noci (g), Gadi Lehavi (p), Giulio Scianatico (b), Andrea Niccolai (ds), Felix Rossy (tp)。2019年1月、A.MA Records Studioでの録音。ギターとトランペットがフロントで、バックにピアノ・トリオが陣取る、ちょっと変わった構成のクインテット。

Enrico Le Nociは、1996年、イタリアのマルティナ・フランカ生まれ。14歳でギターを始め、Liceo Musicale Architaでクラシックギターを学び、優秀な成績で卒業。その間に彼は、サルバトーレ・ルッソとモダン・ジャズ・ギターの勉強を始め、それが彼をジャズへと導いた。
 
 
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2014年には、彼は米国テキサス州オースティンで過ごし、デューク・エリントン ジャズフェス・オブ・ニューオーリンズなど、アメリカの多くのフェスティバルに参加。その後、イタリアに戻り、様々なミュージシャンとセッションを重ね、オランダに留学し、ハーグ王立音楽院のジャズギター学士号を取得。彼は現在、様々なバンドのサイドマンとして活躍している、とのこと。

さて、このアルバムであるが、コンテンポラリーでモーダルなジャズがメイン。比較的センスの良いクールな曲や明るく判り易いオープンな感じの曲もあって、3曲でトランペットが入る。ギターとトランペットのユニゾン&ハーモニーというのがユニーク。このエンリコ・レ・ノキのギターとフェリック・ロッシーのトランペットのユニゾン&ハーモニーが絶妙。このコンテンポラリーな響きが実に個性的。

バックのピアノ・トリオのリズム・セクションも実に良い音を出している。典型的なアコースティックなピアノ・トリオの音が実に生々しく、とても躍動感溢れる演奏になっていて、聴き応えがある。イタリアのジャズであるが、実にレベルが高い。しかも新しい響きに満ちていて、実に立派な内容だ。
 
 
 
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2019年10月17日 (木曜日)

繊細で印象的でスピリチュアル

このアルバムを聴く度に「これってジャズなんだろうか」と心から思う。リズム&ビートは無い。様々な音の洪水。パーッカッシヴな音、水の流れるような音、印象的でスピリチュアルなギターの響き。語りかける様なピアノの音。音の全てが即興演奏。

即興演奏をメインとしているので、ジャズと言えばジャズだが、音の響きとしては「現代音楽」の響きが蔓延していて、聴いていて「ジャズなのか」と思ってしまう。自然の音が蔓延する。ビート感は一切無い。心に響く様なパーカッションの音。この盤は「静的で繊細な」スピリチュアル・ジャズ。

Egberto Gismonti『Dança Das Cabeças』(写真)。邦題「輝く水」。ブラジルを代表するマルチ・インストゥルメンタリスト、エグベルト・ジスモンチの1976年録音のECMデビュー作。ちなみにパーソネルは、Egberto Gismonti (8-string g, p, wood fl, vo), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, corpo, vo)。ジスモンチとヴァスコンセロスの即興演奏、そして多重録音。
 
 
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ナナ・ヴァスコンセロスが「納得の参加」。繊細で印象的でスピリチュアルなパーカッションの音は、ナナ・ヴァスコンセロスの仕業。納得である。ジスモンチは、ギターとピアノ、フルートを担当する。これまた、繊細で印象的でスピリチュアルな音の響き。そうか、この盤の音は、静的で繊細なスピリチュアルな音なのだ。

即興演奏がLPの片面、約25分続く。ビートの無い、繊細で静的で印象的でスピリチュアルな音の世界。飽きるかなと思いきや、決して飽きない。25分、一気に聴き切ってしまう。繊細で静的な音の中に、仄かに漂う歌心。この歌心が漂う繊細で静的なフレーズが聴く者を決して飽きさせない。

欧州のニュー・ジャズの老舗、ECMレーベルからのリリースなので「ジャズ」と決めつけるのは野暮ってもんだ。しかし、この盤の繊細で静的なパーカッションは、ニュー・ジャズ的なビートを仄かに感じさせてくれる。全編、即興演奏。仄かに漂うビート。基本、この盤に詰まっている音は「ニュー・ジャズ」な音と解釈して良いだろう。30年以上聴き続けていますが、決して飽きません。好盤です。
 
 
 
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2019年10月15日 (火曜日)

テテの個性が集約された好盤

スペインのカタルーニャ地方が不穏である。カタルーニャ独立派幹部に長期禁錮刑。バルセロナで抗議デモ。カタルーニャ地方の事情を察すれば納得できる出来事ではある。何とか円満に解決する方策は無いものだろうか。

スペイン、カタルーニャ地方出身のジャズマンと言えば「Tete Montoliu(テテ・モントリュー)」。盲目のピアニスト。1933年生まれ。1997年、64歳で没。生まれた時から盲目であった。テテはTHE Conservatori Superior de Musica de Barcelona音楽学校でジャズと出会う。彼のピアノ・スタイルは、特にアメリカのジャズピアニストのアート・テイタムに影響を受けている。

テテのピアノは「超絶技巧」。超光速「速弾き」。限りなく端正なフレーズの連続。破綻は全く無い。確かにアート・テイタムを彷彿とさせるが、テイタムの超絶技巧な弾きっぷりよりも、より歌心が溢れている。スペインの出身であるが、スパニッシュな要素は殆ど無い。フレーズは限りなく硬質で、あくまで「クール」。それでいてスインギー。
 
 
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Tete Montoliu『Tete!』(写真左)。1974年5月28日の録音。SteeplechaseのSCS1029番。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert 'Tootie' Heath (ds)。この盤でのテテのパートナーは、これまた「調節技巧」ベーシスト、ペデルセン、これまた「職人芸」ドラマー、アルバート・ヒース。

胸の空くような快演の数々。冒頭の「Giant Steps」は、かのコルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」の名曲なんだが、テテはピアノで、光速「シーツ・オブ・サウンド」を弾き切ってみせる。演奏が終わって思わず「スタンディング・オベーション」。3曲目の「Body and Soul」も高速フレーズの連続。こんなに硬質でクールでスクエアにスインギーな「Body and Soul」は聴いた事が無い。

5曲目の「I Remember Clifford」は絶品。硬質でクールで端正なタッチで、情感溢れるバラード曲を弾き切ってみせる。クールでスクエアなスイング感の中に、仄かに漂う歌心と情感。これがテテの真骨頂。テテのピアノの個性が集約された名演である。

このアルバム『Tete!』は、テテの個性を体感するに最適な好盤である。「カタルーニャの秘めた激情」。
 
 
 
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2019年10月 1日 (火曜日)

ポール・ブレイの未発表ライヴ盤

キース・ジャレットが「スタンダーズ」を解散して5年になる。キースの「スタンダーズ」の様な、トリオを構成する達人3人による、切れ味良く高い透明度、そして、限りなく自由度の高いインタープレイをメインとした、ECMレコードらしい、ピアノ・トリオのアルバムが途絶えて5年になる。寂しいなあ、と思っていた矢先、こんなライブ盤がリリースされた。

Paul Bley Trio『When Will the Blues Leave』(写真左)。1960年代から親交の深い「盟友」三人による、1999年3月にスイスのルガーノ-トレヴァで録られていた未発表ライヴ音源。今年5月のリリース。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (p), Gary Peacock (b), Paul Motian (ds)。達人レジェンド3人による限りなく自由度の高いインタープレイ。

ピアノ・トリオの「間を活かした」インプロビゼーションに最適な、ECM独特の深く透明度の高いエコーがタップリかかって、達人レジェンド3人による限りなく自由度の高いインタープレイの音を増幅し、それぞれの楽器の音をクッキリと浮かび上がらせる。特に、ECMレコードの創る音は、ピアノのポール・ブレイの音にピッタリ。
 
 
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ポール・ブレイのピアノは、透明感と清涼感に溢れ、クリスタルな響きのピンとエッジの立った硬質なタッチ。切れ味良く、しっかりとピアノが鳴っているなあ、と感じる、芯のしっかり入った、明確な音の響き。ああ、このピアノはECMレコード御用達のピアノの音だし、ECMレコード向きの音の響き。叩き出されるフレーズも、どこか「キースっぽい」、クラシック・ピアノの様な独特の響きを底に宿している。

ベースのピーコックのテクニックが素晴らしい。ほとんどフリーなんだが、しっかりと伝統のジャズの雰囲気をキープしたアコベ。アドリブ・フレーズは創造性に富んで、柔軟な弾きっぷり。ピーコックしか出せない自由なベースライン。モチアンのドラムも同様に創造性に富む。リズム&ビートをしっかりとキープしながら、自由度の高いドラミングを披露してくれる。モチアン唯一六のドラミング。

ピアノでリーダーのポール・ブレイは1932年、カナダはモントリオールの生まれ、2016年、84歳で逝去。ベーシストのゲイリー・ピーコックは1935年、米国アイダホ州生まれ、まだまだ現役。ドラムのポール・モチアンは1931年、米国ペンシルヴェニア州の生まれ、2011年、80歳にて逝去。トリオの3人中、2人が鬼籍に入っている。が、この残された音源の内容は素晴らしい。久々のECMレコードらしいピアノ・トリオ盤の出現である。
 
 
 
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2019年9月28日 (土曜日)

ECMの「イスラエル・ジャズ」盤

欧州ジャズの老舗レーベルと言えば「ECMレーベル」。1969年にマンフレート・アイヒャーが創立。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」。僕はジャズを聴き始めた学生時代、大変にお世話になったレーベルである。

Avishai Cohen & Yonathan Avishai『Playing The Room』(写真左)。ECMより、つい先日リリースの新盤。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Yonathan Avishai (p)。ベーシストではない、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンとピアニスト、ヨナタン・アヴィシャイとのデュオ盤。デュオを構成する奏法のラスト・ネームを見ると、これは「イスラエル・ジャズ」であると期待する。

ECMらしい静的でクールな、即興ベースのデュオ。限りなく静謐で豊かなエコーがそのクールさを増幅する。このジャズは「ニュー・ジャズ」と呼んで良いだろう。スイング感は皆無、ファンクネスは皆無。しかし、測距句演奏をベースとしたデュオ演奏は明らかに「ジャズ」。底を流れるリズム&ビートは堅実なオフビート。自由であるが「フリー」では無い。限りなく自由度の高い「モーダル」なデュオ演奏。
 
 
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全編に渡って、典型的な「イスラエル・ジャズ」の音が詰まっている。出てくるフレーズがちょっとユニークで、北欧的でありながら、どこかエスニックでどこか中東風な響きがする。自由度が高く、エコー豊かなアコースティックな響き。そこはかとない中近東の哀愁感を帯びたトーンが見え隠れする。今までのジャズには全く無い響き。特に、この番ではそんな「イスラエル・ジャズ」の個性をシンプルなデュオ演奏が際立たせる。

このデュオを構成する二人は同じ中学に通っていたそうだ。ティーンエイジャーの頃からテル・アヴィヴでともにジャズを探求してきて、音楽的にも30年以上ずっと長い交友関係を築いてきた、そんな濃いリレーションシップが、これだけの「あうん」の呼吸を生み出し、適度な緊張感溢れる演奏を実現し、僕達を最後まで飽きさせないのだろう。

ちなみに、このアルバムの演奏については、ほとんど一発録音だったそう。そういう面でも「イスラエル・ジャズ」のレベルは高い。最近、イスラエル・ジャズに遭遇する機会が多い。イスラエル・ジャズは、老舗本国の米国、欧州について、新たなジャズの聖地になる位の勢いでメジャーな存在になってきている。もはや、イスラエル発のジャズは無視出来ない存在になってきている。
 
 
 
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2019年8月19日 (月曜日)

ウォルドロンの「黒い情念」

Enja(エンヤ)・レーベルの看板ピアニストは数人いるが、僕が一番、衝撃を受けたピアニストは「マル・ウォルドロン(Mal Waldron)」。タッチは深く、それでいて流麗。右手の奏でるフレーズの基本はマイナーでブルージー。その左手は印象的な重低音のビートを叩き続ける。つけられたニックネームが「黒い情念」。右手のマイナーフレーズ+左手の重低音ビートが「黒い情念」の核。

ENJA2004番の Mal Waldron『Black Glory』(写真左)と、ENJA2002番の Mal Waldron『Plays the Blues』(写真左)。この2枚は、どちらも、1971年6月29日、ドイツはミュンヘンの「Domicile」でのライブ録音。1971年に2枚のLP盤に分けてリリースされている。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Jimmy Woode (b), Pierre Favre (ds)。

ウォルドロンとウッデは米国ジャズマンの欧州移住組。ファヴレはスイス出身のドラマー。いかにも欧州レーベルらしいパーソネル。ピアノ・トリオ構成であるが、冒頭から出てくるウォルドロンの左手、そして、ウッデのアコベ。それぞれの奏でる重低音が、このピアノ・トリオは「耳当たりの良い、カクテル・ピアノなトリオ演奏」では全く無いことを予兆させる。この重低音のお陰で、聴く方にも嫌が応にも緊張感が高まる。
 
 
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ウォルドロンのピアノは、現代音楽を想起させる、ちょっと取っ付き難い、硬い頑強なピアノ。底に流れるブルージーな雰囲気が、明確に「ジャズ」を感じさせてくれる。そして、左手の重低音ビートが独特の個性。少なくとも、スタンダード曲を耳当たり良く聴かせてくれる「カクテル・ピアノなトリオ演奏」では絶対に無いことを、ウォルドロンのピアノ・タッチを聴いて確信する。
 
このウォルドロンの左手の重低音ビートとの相性抜群なのが、ウッデの思いっ切り太くてブンブン響くアコースティック・ベース。この2人の奏でる重低音が、このトリオ演奏を唯一無二のものにしている。そんな中、ドラムのピエール・ファーヴルは「健闘」している。一生懸命叩いている。決して耳障りでは無い。演奏全体の雰囲気はブルージーではあるがファンクネスは希薄。欧州ジャズらしい、切れ味と重心の低い響きに満ちたトリオ演奏である。
 
もともとEnjaレーベルを立ち上げたホルストとマティアスは、このウォルドロンのアルバムを自分達の手で作りたいと考えて、レーベルを立ち上げたとか。その念願が叶った最初の成果がこの『Black Glory』。聴けばそのホルストとマティアスの想いがよく理解出来る。このウォルドロンのピアノ・トリオは唯一無二。確かに、絶対に記録に残しておきたい、と強く思わせてくれる強烈な個性である。
 
 
 
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2019年8月15日 (木曜日)

ブラックストンの本質を聴く

SteepleChase(スティープルチェイス)レーベルは「北欧のブルーノート」と呼ばれる。カタログを眺めていると、確かに様々なキーとなるジャズマンの演奏を録音している。しかも、それぞれのアルバムで、そのジャズマンの個性が判り易くなる様な、個性が活性化される様なプロデュースを施している。当然、良い内容のアルバムが目白押しである。

Anthony Braxton『In the Tradition』(写真左)。SCS1015番。1974年5月29日の録音。ちなみにパーソネルは、Anthony Braxton (as, bcl), Tete Montoliu (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Albert Heath (ds)。アルト・サックス+バスクラのフロント1管にピアノ・トリオがリズム・セクションのカルテット構成。

リーダーのブラックストンは、フリー・ジャズの猛者。フリーキーに吹き、アブストラクトに吹く。本来は自作の曲を心ゆくまで吹きまくらせたい訳だが、ここではそうはプロデュースしない。フリー・ジャズの猛者だからこそ、伝統的なスタンダード曲を吹く。まず、その企画性だけで、このアルバムは「買い」である。
 
 
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ブラックストンは必要最低限の決め事、スタンダード曲の旋律をどこかにしっかりとおる混ぜる、という決め事を守りつつ、限りなくフリーにアブストラクトの吹きまくる。これが実に味がある。スタンダードを限りなくフリーにアブストラクトに崩していくと、こういう表現になるのか、と思わず感心して聴き込んでしまった。
 
そして、リズム・セクションに意外性が溢れていて、思わず心から感心した。ピアノもベースもドラムも「純ジャズの人」である。ブラックストンとは「水と油」の様な個性の持ち主。これ、どうやってブラックストンのバックでサポートすんの、と不安に思っていたが、この盤を聴いてビックリ。一流のジャズメンって、応用力、適用力、柔軟性が非常に高いんやなあ、と改めて思い知った。
 
ブラックストンについては、この盤のブロウを聴いて、彼の能力の高さを確信した。チックとのサークルでのブロウはちょっと考え過ぎか、と思っていてたが、この盤ではブラックストンは伸び伸びとフリーを、アブストラクトを吹いている。恐らく、バックのリズム・セクションが純ジャズ出身で、フリーの猛者からすると自由度が高かったのではないか、と睨んでいる。つまりはプロデュースの勝利である。
 
 
 
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2019年7月22日 (月曜日)

ヤロン・ヘルマンのトリオ盤

この週末からとにかく湿度が高い。今日などは朝からもう霧雨が軽く振っている状態で体感湿度は100%。もともと湿度の高いのは大の苦手である。もうこの3日間、体は怠いし機嫌は麗しくなく、いろいろやる気が起きない。それでも音楽は聴くんだから、やっぱり音楽が好きなんでしょうね。なんて、つまらないことを考えたりする。この湿気、なんとかならんか(笑)。

Yaron Herman Trio『Songs of the Degrees』(写真左)。今年2月のリリースの新盤である。イスラエル出身のピアニスト、ヤロン・ヘルマンの通算8作目、ブルーノート3作目。ピアノの音が凄く美しい。タッチも硬質ではあるが耳に付かない。ちなみにパーソネルは、Yaron Herman (p), Sam Minaie (b), Ziv Ravitz (ds)。

リーダーのピアニスト、ヤロン・ヘルマンは、在フランス在住のフランス系イスラエルのジャズ・ピアニスト。1981年生まれだから、今年で38歳になる。若手から中堅に差し掛かる、テクニック的にも精神的にも充実してくる年頃。ヘルマンのピアノは、端正で耽美的で自由度が高い。キース・ジャレットやブラッド・メルドーらの流れを汲んだスタイルである。
 
 
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しかし、出てくるフレーズがちょっとユニークで、北欧的でありながら、どこかエスニックでどこか中東風な響きがする。自由度が高く、エコー豊かなアコースティック・ピアノの響きは、まるで「ECMレーベル」のようでもある。とはいえ、さすがイスラエル・ジャズ、決してコピーでは無く、今までのジャズの中でありそうで無い「個性的なピアノ」である。
 
このアルバムは「コンセプト・アルバム」。ヤロン・ヘルマンいわく、この盤って「リスナーに全11トラックを通して聴いてもらって、ヤロンのこれまでの人生を感じてほしいというオートバイオグラフィー的作品」だそうだ。まあ作者がそう言っているのだから、そうなんだろう。しかし、そんなことは関係無しに、このピアノ・トリオ盤は楽しめる。

最初、この盤を聴いた時は、ジャケット・デザインとも相まって、北欧ジャズかと思った。が、北欧ジャズは伝統的に響きの基本は同じなのだが、この盤は少し北欧ジャズの音とは違うなあ、と思いたち、エスニックでどこか中東風な響きに出会って、どこのジャズなのか、全く判らなくなった。解説を読んでみると、イスラエル出身のヤロン・ヘルマンのリーダー作の由、至極納得である。

 
 
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2019年6月 7日 (金曜日)

北欧ジャズの端正で硬質なバップ

昨日、北欧ジャズについて「透明度の高い、エッジの効いた音の響き。深いエコー。ミッドテンポがメインの落ち着いたアドリブ展開。耽美的であるが甘さに流されない。凛とした音の美しさと切れ味。北欧ジャズは世の中に現れ出でてより、現代まで、この音の傾向をしっかりと引継ぎ、維持している。」と書いた。とは言え、北欧にジャズが根付いた時代、最初からいきなり、耽美的で凛とした音世界が存在した訳では無い。

Bent Axen『Axen』(写真左)。録音時期は、Tracks A1 to A4が1959年12月29日の録音。Tracks A5, B1 to B5が1961年1月17日の録音。パーソネルは、Bent Axen (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b, tracks: A5, B1 to B5), Ole Laumann (b, tracks: A1 to A4), Finn Frederiksen (ds), Bent Jædig (ts, tracks: A1 to A4), Allan Botschinsky (tp, tracks: A1 to A4)。
 
デンマークのジャズ・レーベル「SteepleChase」からのリリース。サブタイトルが「Bent Axen Trio, Quintet & Sextet」。3種類の編成で聴かせてくれるのは「北欧のハードバップ」。どの曲を聴いても「バップ」だらけ。しかし、米国のバップのコピーでは無い。ファンクネス皆無、飛び散る汗と煙は全く見えず、クールに燃える、端正で硬質なハードバップ。決して乱れることは無く、決して暴走することは無い。
 
 
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リーダーのベント・アクセンのピアノは耽美的なバップ・ピアノ。どこかビル・エヴァンスの響きがする。端正に硬質に透明度を上げたビル・エヴァンス。特にトリオの演奏にその傾向が顕著。いわゆる「北欧ピアノ・トリオ」の原型がここにある気がした。ストイックにバップ・ピアノを追求する修道僧のような演奏。クールだが熱く濃厚な節回しが魅力。

それぞれのサイドマンの演奏を聴いていると、米国のハードバップを良く研究し、確実に自らのものに昇華しているなあ、と感じる。特にリズムセクションにその傾向が顕著。ベースはチェンバースの様であり、レイ・ブラウンの様でもあり。ドラムはブレイキーの様でもあり、フィリージョーの様でもあり。でも、コピーするのでは無く、そのエッセンスを取り込んで、欧州ジャズっぽい音に昇華している。
 
北欧ジャズも、先ずはモダン・ジャズの基本である「ハードバップ」をしっかり押さえていた。その記録がこのベント・アクセンのリーダー作『Axen』である。さすが「SteepleChaseレーベル」である。実に素敵な北欧ジャズの記録を残しておいてくれた。北欧ジャズの「端正で硬質なバップ」演奏である。
 
 
 
日本大震災から8年2ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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