2021年7月 5日 (月曜日)

レッド・ロドニーの「隠れ名盤」

サヴォイ・レーベルのハードバップらしい音世界は、一度聴き出すとしばらく聴き続けてしまうくらい、魅力的なもの。ブルーノート盤などの「尖った先進的なハードバップ」な音とは全く異なる、ややリラックスした正統でハードバップな演奏なのだが、これが意外と癖になる。

Red Rodney『Fiery』(写真左)。1957年11月、New JerseyのVan Gelder Studioでの録音。ちなみにパーソネルは、Red Rodney (tp), Ira Sullivan (ts), Tommy Flanagan (p), Oscar Pettiford (b), Philly Joe Jones (ds : 1to 3 ), Elvin Jones (ds : 4 to 6)。

リーダーのレッド・ロドニーのトランペットと、アイラ・サリヴァンのテナー・サックスの2管フロントのクインテット編成。ドラムはフィリージョーとエルヴィン・ジョーンズを使い分けている。

リーダーのレッド・ロドニーは「1949年〜50年の短い期間であったが、パーカーのもとで、相棒として活躍していた白人トランペッター」として紹介されている。かなり素性の良い、魅力的なトランペットなんだが、ドラッグの悪癖のためにチャンスを逃し、ロドニーのリーダー作やサイドマンとしての参加作品はかなり少ない。
 

Fiery-red-dodney

 
バッパーらしい切れ味の良いブリリアントな音色で、しっかりと気持ちの入った「入魂トランペット」だが、そのフレーズにはどこかクールな雰囲気が流れていて、全体的に「硬軟のバランスが良い演奏」を聴かせてくれる。テクニックも良好、オリジナリティー豊かで、当時の誰のトランペットにも似ていない。独特の個性を持ったトランペットだけに寡作なのが惜しまれる。

そんなロドニーのトランペットを心ゆくまで楽しむことが出来る。難解なところとか、変に癖のあるところは全く無い、ストレートの素性の良いトランペット。スタンダード曲も自作曲も、どちらも良い感じで吹き上げている。

バックのリズム隊が好調で、トミー・フラナガンのピアノの参加が効いている。トミフラのピアノは相変わらず「小粋でバップ」で、好調なバッキングを繰り広げる。「2人のジョーンズ」のドラムは切れ味良く、骨太なペティフォードのウォーキング・ベースが心地良く響く。この良い感じのリズム隊、聴きものです。

シグナル・レーベルの『Rodney 1957』(写真右)が原盤で、後にサヴォイ・レーベルからリリースされた盤だが、音的には「サヴォイの音」としてまとまっていて、サヴォイ・レーベルのオリジナル盤としても違和感が無い。レッド・ロドニーの代表作として一聴に値する「隠れた名盤」である。
 
 
 

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2021年7月 4日 (日曜日)

サヴォイのトランペット愛聴盤

ビ・バップ〜ハードバップ期を中心に好盤を量産した、古参ジャズ・レーベルであるサヴォイ(SAVOY)レーベル。1942年、ルビンスキーとカデーナの2人により、ニューアークにて設立。テディ・リーグをプロデューサーに迎え、ビバップを中心としたレコーディングにシフトし、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーなどのセッションをどんどん録音していった。

1950年代半ばには、名プロデューサーとして知られるオジー・カデナが迎えられ、レーべルはここから大躍進、次々と傑作を発表してゆく。1974年には創設者のルビンスキーが死去し、レーベルはその後、アリスタ等、様々なレーベルへと権利は転々とするが、2017年、アメリカのコンコードに買収され、現在はコンコード・ミュージック・グループ傘下に収まっている。

Joe Wilder『Wilder 'N' Wilder』(写真)。1956年1月19日、Van Gelder Studioでの録音。プロデューサーは「オジー・カデナ」。ちなみにパーソネルは、Joe Wilder (tp), Hank Jones (p), Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds)。ジョー・ワイルダーのトランペットがフロント1管の「ワンホーン・カルテット」である。
 

Wilder-n-wilder

 
良い音で優しく鳴るトランペットである。テクニックは優秀、ブリリアントで切れ味の良いトランペット。決してハイノートはやらない。堅実な音で穏やかにフレーズを紡ぎ上げていく。ビ・バップ〜ハードバップ期のジャズ・ジャイアンツ達のトランペットの音とはちょっと響きが違う。ジャズっぽく無いかもしれないが、リラックスした正統派のトランペットという趣で、聴いていてとても心地良い。

バックのリズム隊も、そんな優しく穏やかでブリリアントなトランペットを「小粋に渋〜く」サポートする。特に、ピアノのハンク・ジョーンズの典雅で流麗なピアノは聴いていて惚れ惚れする。ウェンデル・マーシャルのベースは堅実に演奏のベースラインをガッチリ支え、ケニー・クラークのドラミングは機微を捉えて硬軟自在。このリズム隊のサポートもこの盤の「聴きどころ」。

ジャケ・デザインは実にサヴォイ・レーベルらしいもの。音はルディ・ヴァン・ゲルダーの手なる録音で良好。ブルーノート盤などの「尖った先進的なハードバップ」な音とは全く異なる、ややリラックスした正統でハードバップな演奏が、この盤にてんこ盛り。いかにもサヴォイ・ジャズのハードバップらしい音世界である。
 
 
 

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2021年6月17日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・208

一日の終わり、寝る前に聴くジャズ盤を「今日のラスト」と称して、ほぼ毎日、Twitterで呟いている。最近のテーマは「初心にかえってブルーノート4000番台の聴き直し」。

ブルーノートの4000番台のアルバムをカタログ番号順に聴き直しているのだが、ブルーノート・レーベルには、このレーベルに録音を残していなければ、恐らく、ジャズの歴史の中に埋没して、忘れ去られただろうと思われる、玄人好みの「渋いジャズマン」が幾人かいる。

ディジー・リース(Dizzy Reece)も、そんなジャズマンの1人だろう。もともとはジャマイカ出身の英国のジャズマン。リースのマネージャーがマイルスにアルバムを送ったところ、マイルスが感激し一言「英国には俺と同じくらい上手いトランペッターがいる」。それがブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの耳に入り、録音に至ったとのこと。初リーダー作は、録音エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーが海を渡っての録音。かなりの力の入れようだったようだ。

Dizzy Reece『Soundin' Off』(写真左)。1960年5月12日、NYの「Van Gelder Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Dizzy Reece (tp), Walter Bishop Jr. (p), Doug Watkins (b), Art Taylor (ds)。当時、ブルーノートで売り出し中だったピアノのビショップ、早逝の職人ベーシストのワトキンス、当時のファースト・コール・ドラマーのテイラーの「ブルーノート」らしいリズム隊をバックに、リースのトランペットがワンホーンのカルテット編成。
 

Soundin-off

 
この盤が一番、リースの個性を掴みやすい。テクニックはまずまず、当時、最先端のモード奏法をやる訳でも無く、いわんやフリーなんてとんでもない。僕は何故、マイルスが「英国には俺と同じくらい上手いトランペッターがいる」と評価したのか、よく判らないでいたのだが、この盤で合点がいった。

リースのトランペットの音がとても心地良いのだ。リースのアドリブ・フレーズが流麗なのだ。つまりマイルスのいう「クール」なトランペットであり、女性を口説けるトランペットなのだ。テクニックの凄さやジャズの進化の音には全く意に介さず、「音楽」としての、「音を楽しむもの」としての「ジャズ」がこの盤に記録されている。

リースのトランペットで奏でられるスタンダード曲がとても心地良い。バックのリズム隊、ビショップJr.の明るくスインギーなピアノ、ワトキンスの骨太ウォーキング・ベース、そして、テイラーの職人芸ドラミングも実に聴いて心地良いバッキング。この盤には、聴いて心地良い「ハードバップ」な音が充満している。

ジャケットがブルーノートらしくないところが面白い。ブルーノートの「メインのジャズ」とはちょっと雰囲気が違う、そんな差別化をジャケットでも表現したかったのかもしれない。
 
 
 

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2021年3月 4日 (木曜日)

ブルーノート色満載のバップ好盤

ブルーノート・レーベルには、他のレーベルにはいない、ブルーノート・レーベルのカラーに合った独特のジャズマンがいたりする。中にはブルーノートから他のレーベルに移ったジャズマンもいるが、ブルーノートに残したリーダー作が一番輝いていたりするのだ。

Louis Smith『Smithville』(写真左)。1958年3月30日の録音。ブルーノートの1594番。ちなみにパーソネルは、Louis Smith (tp), Charlie Rouse (ts), Sonny Clark (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。演奏全体の雰囲気は明らかに「ハードバップ」。ハードバップの美味しいところが全てこの盤に詰まっているような盤である。

リーダーのトランペッターのルイ・スミス、そして、渋い玄人好みのテナーマンのチャーリー・ラウズの2管フロント。バックに、哀愁のピアニストのソニー・クラーク、ファースト・コールなベーシストのポルチェン、職人ドラマーのテイラーの鉄壁のリズム・セクション。

まず、演奏全体の「音」がブルーノート一直線。ルディ・バン・ゲルダーの手による「ブルーノート・サウンド」が明確にこの盤に反映されている。音の響き、空間の拡がりと奥行き、楽器の存在感、どれもが明確な「ブルーノート・サウンド」。特に、ルイ・スミスのトランペットの音が凄く良い。
 
Smithville  
 
ブルーノートで最初に出されたリーダー作『Here Comes Louis Smith』は、厳密にはブルーノートで制作された作品では無い(トランジション・レーベルでの録音音源を買い取ってのリリース)。実はルイ・スミスのとって、この盤がブルーノート・レーベルでの初リーダー作になる。

ブルーノートの総帥でプロデューサーのアルフレッド・ライオンはルイ・スミスのバップな資質を見抜いていたのだろう。そう言えば、演奏メンバー全員、バップが基本のジャズマンで、演奏のすべてに「バップな雰囲気」が蔓延している。特に、ルイ・スミスのトランペットが「唄うが如く」のバップなパフォーマンスで魅了する。

バックのリズム・セクションも明らかに「バップ」。特に、ソニー・クラークのピアノが絶好調。個性である哀愁感あふれるマイナーな響きを宿しつつ、躍動感溢れる「バップなピアノ」でフロント2管を鼓舞する。職人ドラマー、アート・テイラーのバップ調のドラミングも見事である。

シンプルではあるが、とても渋いジャケット・デザインもブルーノートならではのもの。意外とこの盤、ジャズ盤紹介本などで採り上げられることが少ない盤だが、中身は圧倒的にハードバップしていて、ブルーノートしている。ジャズ者全ての方々にお勧めの「ブルーノート好盤」の一枚である。
 
 
 

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2020年11月25日 (水曜日)

ショウは単純に「格好良い」

ウッディ・ショウのトランペットが良い。この2〜3ヶ月前からショウのリーダー作を聴き直しているんだが、やっぱり、ショウのトランペットは良い。歴代のジャズ・トランペッターの序列にしっかり入るべきトランペッターなのだが、何故か我が国では人気が無い。というか、評論家やジャズ雑誌からの人気が無い、と言った方が良いかな。一般のジャズ者の方々の中には「ショウ者」が結構いる、のが最近判ってきた。

Woody Shaw Quintet『At Onkel PÖ's Carnegie Hall Hamburg, 1979』(写真左)。1979年7月7日、独ハンブルグのOnkel Po's Carnegie Hall でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Woody Shaw (tp, flh), Carter Jefferson (ss, ts), Onaje Allan Gumbs (p), Stafford James (b), Victor Lewis (ds)。フロント2管のクインテット構成。

1979年夏に行ったヨーロッパ・ツアー中、7月にハンブルクのクラブ「Onkel Pö’s Carnegie Hall」で演奏した模様を収めたCD2枚組。一部に音の乱れはあるものの、発掘音源にしては全体的に音は良い。ヴァイタルで、切れ味良く、ブリリアントなショウのトランペットが心ゆくまで楽しめる貴重なライヴ盤。とにかく、全編に渡って、ショウのトランペットがキレッキレである。
 
 
At-onkel-pos-carnegie-hall  
 
 
ライヴ録音なので、ショウのトランペットの個性がとても良く判るのだが、当時、我が国のジャズ雑誌とかで評論家の方々から言われていた「フレディ・ハバードと似ている」については、全くそうでは無いことが、このライヴ盤を聴いて良く判る。ハバードよりヴァイタルでタフで、メインストリーム志向。アドリブ・フレーズのモーダル度とバリエーションはショウに軍配が上がる。そして、ショウのトランペットは単純に「格好良い」。

サイドマンの面々も良い。1977年にショウのグループへ加わったサックスのジェファーソンは充実のサックスを聴かせてくれる。ショウとの相性はバッチリだ。1976年春からショウと行動を共にしているベース奏者ジェームスは堅実なベース・ラインでフロントのパフォーマンスをしっかりと支えている。ピアニストのガムズも一生懸命で大健闘、ドラムのルイスが、ライヴが故、拡散気味のバンド全体のビートをしっかりと押さえ込んでいる。

1979年のライヴなので、時代はフュージョン・ジャズの流行のピーク。そんな時代にこんなバリバリ、メインストリーム志向の純ジャズなトランペットはウケなかったのだろうか。お蔵入りする内容では無いライヴ音源で、今回のリリースについては「拍手喝采」。ショウのトランペットの優れた個性を再認識できる内容で、ショウ者のみならず、ジャズ・トランペットのファンの方々には必聴盤でしょう。好盤です。
 
 
 

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  ・『Middle Man』 1980

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  ・The Band の「最高傑作」盤

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  ・僕達はタツローの源へ遡った

 

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2020年10月 3日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・189

ジャズ盤には「知る人ぞ知る」盤が結構ある。そんな盤って、まずジャズ盤紹介本にその名は挙がらないし、ジャズ雑誌の特集にもまずその名は挙がらない。昔であれば、ジャズ喫茶のマスターが知っていて、リクエストの合間にかけてくれて、硬派なジャズ者の方々が「なんだこの盤」と色めき立って、思わずジャケットを確認しにいく様な盤。

Ted Curson『Plenty of Horn』。1961年4月11日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Ted Curson (tp), Eric Dolphy (fl), Bill Barron (ts), Kenny Drew (p), Jimmy Garrison (b), Pete La Roca, Dannie Richmond, Roy Haynes (ds) 。リーダーのテッド・カーソンのトランペットと、エリック・ドルフィーのフルート、もしくは、ビル・バロンのテナー・サックスのフロント2管のクインテット編成。ドラムについては3人のドラマーが分担している。

まず、テッド・カーソンというトランペッター自体が「知る人ぞ知る」存在である。カーソンは、1935年、米国フィラデルフィア生まれ。2012年に鬼籍に入っている。享年77歳。1956年、マイルスの勧めでにNYへ移り、頭角を現す。僕にとっては、チャールズ・ミンガスとの共演が一番印象に残っている。硬軟自在で縦横無尽、表現力豊かなトランペットが個性、そのトーンも美しい、知る人ぞ知る、玄人好みのトランペッターである。
 
 
Plenty-of-horn  
 
 
そんなテッド・カーソンの初リーダー作がこの『Plenty of Horn』。カーソンのトランペットは「ポスト・バップ」。モードをベースにした、自由度が高く、独創的で印象深いアドリブ展開は実にアーティスティック。聴き手に迎合する「甘さ」は全く無い。とてもシビアで思索的、力強く柔軟なトラペットのフレーズに思わず聴き惚れる。

カーソンって、クラシックのトランぺッターになりたかったらしく、確かにカーソンのフレーズって、切れ味の良いブルース調の中に、クラシックの整然とした洗練された要素が見え隠れして、力強くはあるが流麗なのが特徴。そこに強烈個性ドルフィーのフルートが絡んだり(「The Things We Did Last Summer」と「Bali Ha'i」に2曲のみ)、創造的でエネルギッシュなバロンのテナーが絡んだりで、明らかに「ポスト・バップ」な演奏が繰り広げられて、思わず身を乗り出して聴き込んでしまう。

かつては「幻の名盤」として有名な盤だったが、今では音楽のサブスクサイトでも音源がアップされていて、気軽に聴くことが出来る。良い時代になったもんだ。ジャケットもシンプルだけど、実にジャズらしいジャケット。「ジャケ買い」にも十分に応えてくれる「隠れ好盤」である。
 
 
 

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2020年9月12日 (土曜日)

ハーグローヴの初リーダー作

朝から雨が降ったり止んだりで天気は悪いが、グッと涼しくなった。今日は最高気温が26度と一気に30度を下回った。そりゃ〜涼しいよな。これだけ涼しくなると、ジャズも色々な種類の、色々なジャズマンのアルバムを聴くことが出来る。あまりに暑いと、まずジッとして、スピーカーの前で聴き耳を立てるのもしんどいし、激しい展開の曲はどうしても敬遠したくなる。

Roy Hargrove『Diamond In the Rough』(写真左)。1989年12月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Roy Hargrove (tp), Ralph Moore (ts), Antonio Hart (as), Geoffrey Keezer, John Hicks (p), Al Foster, Ralph Peterson Jr. (ds), Charles Fambrough, Scott Colley (b)。新伝承派、ネオ・ハードバップでの「ファーストコール」トランペッターの一人、ロイ・ハーグローヴの初リーダー作である。

ネオ・ハードバップを代表するトランペッター、ロイ・ハーグローヴ。この初リーダー作を聴くと、それはそれは素晴らしいトランペットを吹いている。テクニックは申し分無く、歌心も満点。録音当時、弱冠20歳。このトランペットが二十歳そこそこの青年のプレイなのか。これって、歴史を振り返ってみて、クリフォード・ブラウンやリー・モーガン、ウィントン・マルサリスに匹敵する天才トランペッターである。
 
 
Diamond-in-the-rough
 
 
涼しくなると、こういう好盤としっかり向き合いたくなる。とにかく、ハーグローヴのトランペットが素晴らしい。収録曲についても、手垢の付いたような、どスタンダード曲の「Ruby My Dear」や「Whisper Not」も、しっかりと新しいアレンジで、新しいアドリブ・イメージを展開して、新鮮な雰囲気で聴かせてくれる。この力量たるや、とても20歳とは思えない。

バックをサポートするメンバーも好演につぐ好演。ベテランのサポートも借りつつ、新伝承派の若手メンバーが溌剌としたサポートを展開していて、とても清々しい。聴いていて気持ちの良い、聴き終えた後にスカッとする感じ。良い演奏だ。特に、ピアノのジェフ・キーザーが大活躍。モーダルなピアノでの効果的なバッキングもさることながら、作曲面でもなかなかの自作曲を3曲も提供している。

これだけの実力を持ったトランペッターであったにも関わらず、我が国での人気はイマイチだった記憶がある。しかし、である。ロイ・ハーグローヴのトランペットは凄い。ジャズ・トランペットの歴史上、屈指の存在で、再評価をするべきジャズマンの一人である、と僕は思う。そんなハーグローヴであるが、後年、腎不全に苦しみ、最後の14年間、透析を受けていたが、2018年11月2日、腎臓病によって引き起こされた心停止のために逝去した。まだ一昨年の出来事である。
 
 
 

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2020年8月30日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・186

ハードバップの流行時期は諸説あるが、1950年代〜1960年代前半と僕は思っている。それではそれ以降、ハードバップは演奏されなくなったのか、と問われれば、答えは「否」で、1970年代〜1980年代前半のフュージョン流行期にも、ハードバップは演奏されていた。それだけ需要があったということで、ジャズという音楽ジャンルの裾野は意外と広い。

ハードバップの流行期に活躍したジャズマンの中には、以降、1970年代〜1980年代前半のフュージョン流行期を乗り切り、1980年代後半以降の「純ジャズ復古ムーブメント」のモード・ジャズ偏重をものともせず、中には米国を離れて欧州にその活躍の場を求めた者もいるが、1950年代に流行したハードバップを頑なに守り続け、演奏し続けた強者ジャズマンは多数いる。

Art Farmer『Soul Eyes』(写真左)。1991年5月、福岡ブルーノートでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Art Farmer (flumpet), Geoff Keezer (p), Kenny Davis (b), Lewis Nash (ds)。ハードバップ時代から第一線で活躍してきた、トランペット&フリューゲルホーン奏者、アート・ファーマーがワンホーンのカルテット盤である。
 
 
Soul-eyes-art-farmer
 
 
このライブ盤では、ファーマーは「flumpet(フランペット)」という、トランペットとフリューゲルホルンの構造と音色を併せ持つハイブリッド型金管楽器を吹いている。この楽器、とても珍しく、トランペットとフリューゲルホーンの名手であるアート・ファーマーの為に考案されたらしい。このフランペットを演奏するトランペット奏者は少ない。まず、ジャズ界ではファーマーのみである(私の知る限りであるが)。

録音当時、63歳のファーマーであるが、この不思議な楽器「フランペット」をバリバリに吹きまくっている。その吹きっぷりは、暖かい音色と鋭いアタック、厚くて豊かな、そして柔らかで丸い音質。フランペットの導入が成功している。このライブ盤でのファーマーのダンディズム溢れる、力強い、ハードバップな吹きっぷりは特筆に値する。

当時、若手有望株なピアニストであったジェフ・キーザーも頑張っています。ガンガンにハードバップなフレーズを弾きまくります。そして、バックで容赦なくファーマーをキーザーを鼓舞するルイス・ナッシュのドラム。これまた見事なバップ・ドラム。1991年という、メインストリーム・ジャズとして微妙な時期のライブ録音ですが、素晴らしいハードバップなパフォーマンスに圧倒されます。好盤です。
 
 
 

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 ★ AORの風に吹かれて    【更新しました】 2020.08.04 更新。

  ・『Your World and My World』 1981

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  ・『Music From Big Pink』

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  ・太田裕美『Feelin’ Summer』



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2020年8月24日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・185 『Whistle Stop』

ケニー・ドーハムのトランペットの特徴は「ヘタウマ」。誤解しないで欲しいが「下手」と言っている訳では無い。音色は明朗で滑らか。テクニックもまずまず確か。しかし、そのフレーズはちょっと危うい。滑らかにアドリブ・フレーズを吹き進めていくのだが、ところどころで音の端々で「よれる」もしくは「ふらつく」。

しかし、ドーハムのパフォーマンスは「良い」と「普通」が混在するので、「良い」方向に振れると、それはそれは素晴らしいトランペットを吹いたりするから困る。つまり、ドーハムのリーダー作は全部聴いてこそ、ドーハムのトランペッターとしての個性と力量が理解出来る、ということ。「普通」のリーダー作に出会っても諦めず、どんどん他のリーダー作を聴き漁ることが肝要である。

Kenny Dorham『Whistle Stop』(写真左)。1961年1月15日の録音。ブルーノートの4063番。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp), Hank Mobley (ts), Kenny Drew (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。「良い」と「普通」のパフォーマンスがリーダー作毎に混在するドーハムとモブレーのフロント2管。聴く前にパーソネルだけ見て、ちょっと不安になる。

ハードバップが成熟仕切った時代の録音。我が国では、ジャズ盤紹介本でこの盤の名前が挙がることはまず無い。ドーハムの紹介の中でも、ドーハムの代表的好盤として紹介されることはまず無い。
 
 
Whistle-stop
 
 
が、である。まず、このジャケットを見て欲しい。なんか「好盤っぽい」面構えをしている。ブルーノート・レーベルはもともとジャケット・デザインは優秀だが、そんな中でもこのジャケットは良い。ということで聴いてみて「あらビックリ」。成熟したハードバップな演奏がギッシリ。演奏内容、演奏テクニック、どれをとっても「素晴らしい」の一言。

まず、リーダーのドーハムのトランペットが素晴らしい。がっしりと気合いの入った、ブリリアントで骨太なトランペットを吹きまくる。決して「ブレない」ドーハムのトランペット。ちょっと優しくラウンドした音のエッジと流麗なフレーズの吹き回しが、ドーハムらしい。

が、何と言っても、この番の最大の「サプライズ」は、ハンク・モブレーのテナーサックス。堂々として力感溢れる骨太なサックスをガンガンに聴かせてくれるのだ。あの気分屋の「迷える」モブレーがである。「ブレない」ドーハムと「迷わない」モブレーのフロント2管が相当な迫力を持って、我々の耳に迫ってくる。

そして、当時、過小評価されていたピアニストのケニー・ドリューが、黒くてブルージーな弾き回しで我々の耳を驚かせる。ベースの名手「ポールチェン」とドラムの「フィリージョー」とのリズム隊が実に良い「フロント2管のサポート」をしている。

堂々とブレないドーハムのトランペットが最大の魅力。もっともっと評価されていいアルバムだとしみじみ思う。
 
 
 

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Never_giveup_4
 

2020年8月12日 (水曜日)

「ジャケ買い」の一枚に出会う

ジャケ買いの一枚である。ジャケ買いとは「その盤のジャケットのデザインが優秀で、その盤の中身を知らなくても、思わず衝動買いしてしまうこと」なんだけど、ジャズ盤の場合、そのジャケ買いが往々にあるから面白い。ジャズの場合、ジャケットのデザインが優秀な盤にハズレは無い、というジンクスがあるので、「ジャケ買い」って意外と知らなかった好盤に当たる確率が高いから、止めるに止められない(笑)。

Farnell Newton Quartet『Rippin’& Runnin』(写真左)。2020年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Farnell Newton (tp), Brandon Wright (ts), Brian Charette (org), Rudy Royston (ds)。トランペッター、ファーネル・ニュートンのリーダー作である。が、僕はこの「ファーネル・ニュートン」を知らなかった。この盤、完全に「ジャケ買い」である。

ネットで調べてみる。Farnell Newton=ファーネル・ニュートンはウディ ・ショウを敬愛するマイアミ出身の中堅実力派トランペッター、とある。1977年3月の生まれ。今年で43歳になる中堅ジャズマンである。リーダー作は数枚程度。我が国ではあまり知られていない(と思う)。この盤を聴いてみると、骨太なトーンで切れ味鋭く、ストレートでパワフルな吹きっぷりは、ファーネル・ニュートンがなかなかの実力者であることを教えてくれる。
 
 
Rippin-and-runnin  
 
 
全8曲中、ニュートン自作曲が4曲、残りの4曲はスタンダード曲だが、知る人ぞ知るマイナーでマニアックなスタンダード曲を選曲しているところも隅に置けない。自作曲の出来もまずまず良好。選曲が良い分、盤全体の演奏レベルはとても高く、聴き応えのあるものになっている。良曲が良演を引き出している、と言える。いずれの曲も、実に良い感じのストレート・アヘッドで骨太な「ネオ・ハードバップ」演奏。

テナーのブライドン・ライトと2管フロントがとにかく良い。そして、ジャズ ・オルガンの名手(らしい)ブライアン ・シャレットのオルガンがとても良い味を出している。シャレットって米国では人気の実力オルガニストらしく、確かにその弾きっぷりたるや見事。スマートで適度に粘り捻れるが、オーバーアクションに陥ることは無い、実に品の良い、それでいて力感溢れるオルガン。目から鱗である、いや、耳から鱗か(笑)。

骨太なトーンで切れ味鋭く、ストレートでパワフルなニュートンのトランペットとブルージーでグルーヴィーなジャレットのオルガンとのユニゾン&ハーモニーも魅力。どっぷりとジャジーな雰囲気に浸れる好演の数々。加えて、そんな優れたパフォーマンスを想起させる、優れたアルバム・ジャケット。とても良いジャズ盤に巡り会った気がする。暫くヘビロテ状態である。
 
 
 

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