2021年2月25日 (木曜日)

ゴスペルな響きが素敵なデュオ

アーチー・シェップ(Archie Shepp)が元気である。シェップは1937年5月生まれ。今年で84歳。ジャズ界のレジェンド級のサックス奏者である。第一線に躍り出たのが1960年代後半だから、かれこれ60年、ジャズ界の第一線を走ってきたことになる。これだけ息の長いジャズメンはもう数えるほどしかいない。貴重な存在である。

ジェイソン・モラン(Jason Moran)は注目株。モランは1975年1月生まれ。今年で46歳。油の乗りきった中堅ピアニスト。1999年が初リーダー作なので24歳でメジャー・デビュー。一年に1作のペースで着実にリーダー作をリリースしている。特に最近、2015年辺りから馬力がかかってきた感がある。これからが実に楽しみな存在である。

Archie Shepp & Jason Moran『Let My People Go』(写真左)。2021年2月のリリース。リリースほやほや。ちなみにパーソネルは、Archie Shepp (ts,ss,vo), Jason Moran (p)。ジャズ界のレジェンド級のサックス奏者、アーチー・シェップと、油の乗りきった中堅ピアニスト、ジェイソン・モランとのデュオ盤である。シェップがボーカルを担当しているところが珍しい。
 
 
Let-my-people-go  
 
 
サックスとピアノのデュオは良くあるパターン。しかし、このデュオはその「響き」が個性的。シェップはフロリダ州フォートローダーデール生まれ。モランはテキサス州ヒューストン生まれ。どちらも「ブルースとゴスペル」米国南部出身。そう、このデュオの音の響きが、どこか「ゴスペルな雰囲気」。スピリチュアルなフレーズが、その「ゴスペルな雰囲気」に拍車をかける。

シェップのサックスがとてもスピリチュアル。シェップはもともとはコルトレーンの忠実なフォロワー。しかし、1970年代にはフリーからブラック・ファンクに走り、いち早くコルトレーンの影響下から脱している。1980年代以降は、オーソドックスなブロウをベースに「クールでスピリチュアル」な表現をメインとしている。この盤ではボーカルも担当しており、このボーカルはこれまた「スピリチュアル」。

ジェイソンのピアノがそんなシェップに呼応し、スピリチュアルなフレーズを連発しつつ、シェップのサックスを鼓舞する。そして、シェップがボーカルを担当すると、それはそれはリリカルで耽美的な、しっとりとした伴奏で応える。いやはや、素晴らしいデュオである。アフリカン・アメリカンの音の郷愁を聴く様な、素敵なスピリチュアル・デュオである。
 
 
 

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2021年2月23日 (火曜日)

素敵な欧州ジャズの「デュオ盤」

ジャズは全世界において「深化」している。もう新しいジャズの奏法や表現方法は現れ出でないだろう。しかし、今までに出現したジャズの奏法や表現方法は、様々なジャズマンのチャレンジによって、洗練され、再体系立てされ、再構成され、新たな解釈が付加されている。つまり「深化」しているのだ。

Enrico Pieranunzi & Bert Joris『Afterglow』(写真左)。今年2021年1月のリリース。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Bert Joris (tp)。ピアノとトランペットのデュオ盤。リズム&ビートは一手にピアノが担い、フレーズはピアノとトランペットでのインタープレイ。

イタリアが生んだ現代最高のジャズ・ピアニストの一人、エンリコ・ピエラヌンツィ。そして、ベルギーの名ジャズ・トランペッター、バート・ヨリスとのデュオ盤である。ピアノとトランペットのデュオは珍しい。ピアノが伴奏に徹し、トランペットが旋律を吹きまくるのは全く面白く無い。当然、この名手の2人はそんな俗手には陥らない。
 
 
Afterglow
 
 
ピエラヌンツィのピアノは耽美的でリリカルでメロディアス。そこに、ヨリスのふくよかで柔らかい、それでいて芯のしっかり通ったトランペットが絡む。ピエラヌンツィのピアノの左手が、しっかりとリズム&ビートを刻み、キープする。そして、右手でヨリスのトランペットを迎え撃つ。極上のデュオの響き。極上のユニゾン&ハーモニー。

デュオ演奏の全体に漂うリズム&ビートにファンクネスは無い。リリカルでダイナミズム溢れる透明度の高いリズム&ビート。まさに「欧州ジャズ」を強く想起するリズム&ビートである。こんなデュオ演奏を初めて聴いた気がする。ありそうで無い、ピアノとトランペットのデュオ。

タイトルの「Afterglow」は、夕映えや残光を意味する言葉。このデュオ盤には、そんなタイトルそのものの雰囲気が蔓延している。素敵な響きに満ちた好盤です。最近、ジャズでは「デュオ」が流行っているような雰囲気がある。もっとユニークなジャズ演奏が今後も出てくるのではないか、と思わず期待してしまう。
 
 
 

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2021年2月20日 (土曜日)

ハートマンの歌唱が素晴らしい

ジャズの男性ボーカルは、フランク・シナトラ、メル・トーメ、ナット・キング・コールが専らの「お気に入り」。他のボーカリストについてはあまり聴かない、というか、他にメジャー・な存在がほとんどいないといえばいない。よって、この盤も最初は共演パートナーに惹かれてゲットした盤ではある。

『John Coltrane and Johnny Hartman』(写真左)。1963年3月7日の録音。ちなみにパーソネルは、Johnny Hartman (vo), John Coltrane (ts), McCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds)。ジョン・コルトレーンの「伝説のカルテット」に、ボーカルのジョニー・ハートマンが客演したイメージの共演盤である。

ジョニー・ハートマンは、1923年7月、米国ルイジアナ州生まれのジャズ・ボーカリスト。アール・ハインズ、エロル・ガーナーとの共演で頭角を現し、カントリーなどにも適応するが、メインはジャズ・ボーカル。この共演盤を録音した時点で40歳。ボーカリストとして油の乗りきった中堅でのパフォーマンスである。
 
 
John-coltrane-and-johnny-hartman
 
 
コルトレーンにとっては、名盤『Ballads』と同じ系統のアルバムになる。激しいシーツ・オブ・サウンドやフリーなブロウを封印し、内省的で耽美的でスローなブロウをメインに据えたパフォーマンスに終始している。この盤でのコルトレーンは限りなく美しく唄う様にブロウし、ハートマンに対抗するようにブロウする。

ハートマンについてはマイペース。バックがコルトレーンの「伝説のカルテット」なのだが、全く緊張感も気負いも感じられない。ただただ自然体で、ハートマンの個性を振り撒いて唄い上げていく。この盤でのハートマンの唄いっぷりは素晴らしく、聴き惚れるばかり。特に緩やかなバラードの歌唱は素晴らしい。

この盤、コルトレーンのテナーにばかり話題が集中するが、どうして、この盤はハートマンのバラードの歌唱が頭1つ抜きんでている。どうも、コルトレーンの「伝説のカルテット」は歌伴は似合わない。エルヴィンのドラムも不完全燃焼っぽい。マッコイのピアノだけがなんとか上手くハートマンの伴奏をしているのが微笑ましい。
 
 
 
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2021年2月19日 (金曜日)

朗々なベネットに歌伴エヴァンス

ボーカルものを聴き進めている。前にも書いたが、ジャズ・ボーカルについては、伝統的スタイルの「こぶし」やヴィブラートを効かした唄い方にどうしても馴染めなくて、ジャズ初心者の頃から常に後回しにしてきた。が、聴かず嫌いは良く無い。21世紀に入ってから、有名盤については努めて聴く様にしている。

『The Tony Bennett / Bill Evans Album』(写真左)。1975年6月10−13日の録音。ちなみにパーソネルは、Tony Bennett (vo), Bill Evans (p)。男性ジャズ・ボーカリストの代表格の1人、トニー・ベネットと、ジャズ・ピアニストのレジェンド、ビル・エヴァンスとのデュオ盤である。

トニー・ベネットは男性ジャズヴォーカリスト界を代表する存在で, 「I Left My Heart in San Francisco」などの世界的なヒットで知られている。ビル・エヴァンスは、ジャズ・ピアノのスタイリスト。トリオのインタープレイの祖であり、モーダルなバップ・ピアノの基本である。

ベネットのボーカルは「朗々」と唄い上げるもの。フェイクもギミックも無い。男性らしい声でストレートに朗々と唄う。こういうボーカリストの伴奏は難しい。朗々と唄うものを邪魔してはいけないし、かといって、キーになる音やビートは唄い手にしっかり伝えないといけない。目立たずに、でも存在感は必要。
 
 
The-tony-bennett-bill-evans-album
 
 
しかし、そこは「伴奏上手」のエヴァンス。心得たものである。エヴァンスは、ピアノ・トリオでの弾き回しは、明快なタッチで明らかにバップな弾きっぷり。フレーズはしっかり浮かび上がるし、ビートはしっかり前面にでる。しかし、歌伴に回ると、エヴァンスの弾き回しは明らかに変わる。

ボーカルを決して邪魔せず、それでいて、唄い手が唄い易い様に、キーになるフレーズやビートを明確に伝える。変にモードに傾かず、しっかりとコードとビートを供給する。これがこの盤での聴きどころになる。実に上手い「歌伴」だ。

デュオの中では、ベネットが朗々と唄い上げるタイプのボーカリストなのでリードする方に回るし、エヴァンスは当然、フォローする方に回る。リードする方とフォローする方、主従の関係が時々交代すれば、何か「化学反応」でも起こる可能性もあるのだが、このベネットとエヴァンスのデュオではそれは無い。だからそれを期待するのは「筋違い」だろう。

この盤、気持ち良い伴奏を得て、朗々と気持ち良く唄うベネットと、そんな気持ちの良い伴奏を供給する、伴奏上手のエヴァンス、その両方をそれぞれ確認し楽しむ盤だと思う。
 
 
 

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2021年2月18日 (木曜日)

「モーダルなホレス」もクールだ

ブルーノートの看板ピアニストと言えば、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)。ホレスはデビューから遺作まで、基本的にブルーノートからのリリースだった。ブルーノートで見出されメジャーになったジャズマンは、ほとんどが弱小なレーベルだったブルーノートを離れて、メジャーなレーベルに移籍していった。

しかし、ホレスは違った。ずっとブルーノートを離れなかった。それも、ホレスを見出したブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンがブルーノートを離れた後も、ホレスはブルーノートを見放さなかった。ブルーノートが一旦活動停止し、純ジャズ復古のタイミングで復活した後も、ホレスはブルーノートにいた。

Horace Silver『Further Explorations』(写真)。1958年1月13日の録音。ブルーノートの1589番。ちなみにパーソネルは、Horace Silver (p), Art Farmer (tp), Clifford Jordan (ts), Teddy Kotick (b), Louis Hayes (ds)。ファンキー・ジャズの雄、ホレス・シルヴァー好調のクインテット盤。
 
 
Further-explorations
 
 
全6曲中、ファーマーのトラペットとジョーダンのテナー、フロント2管のクインテット演奏が3曲。フロント2管を抜いた、ピアノ・トリオでの演奏が3曲。パーソネルを見渡すと、ファンキー・ジャズの臭いがしない。ベースとドラムを見ると、どちらかと言うと、モード・ジャズ。そう、この盤、ホレスの「モード・ジャズへのチャレンジ」な感じの盤なのだ。

冒頭の「The Outlaw」の前奏の2管フロントのユニゾン&ハーモニーには、しっかり「ファンキー臭さ」があるんだが、以降、ホレスのアドリブに入ると、ファンキー臭さを抑えて、モーダルな展開になっていく。ホレスのリーダー作に、これだけファンキー臭さが少ないのは、この盤だけだと思う。それでも、モーダルなフレーズの奥に、ファンクネスがそこはかとなく漂っているところがクール。

この盤、モード・ジャズの影が見え隠れし、新しい音へのチャレンジが頼もしい。熱かったファンキー・ジャズが、この盤では、クールでモーダルなファンキー・ジャズに大変身。ホレスの異色作として、これはこれで「アリ」だと感じる。何も「ファンキー」ばかりがホレスのジャズでは無い。
 
 
 
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2021年2月15日 (月曜日)

トロンボーン好盤として外せない

ハードバップ期のジャズ・レーベルには、メジャーにはならない、地味な存在のジャズマンが必ずいる。しかし、ブルーノート・レーベルだけは、確かに地味な存在のジャズマンがいるにはいるが、これがなかなかの「職人的で小粋で素敵な」ジャズマンばかり。他のレーベルは、残念ながら、地味な存在のジャズマンはその力量もそれなりなんだが、ブルーノートは違う。これが、ブルーノートの不思議なところなのだ。

そんなブルーノートの「地味な存在のジャズマンだが、職人的で小粋で素敵なジャズマン」の1人が「Bennie Green(ベニー・グリーン)」。ベニー・グリーンは、1923年4月、米国イリノイ州シカゴ生まれのトロンボーン奏者。活動のピークは1950年代後半に留まるが、そのホンワカしたトロンボーンならではの音色とスイング・スタイルを踏襲した伝統的なフレーズと味のあるブルージーなプレイが独特の個性。

Bennie Green『Back On The Scene』(写真左)。ブルーノートの1587番。1958年3月23日の録音。ちなみにパーソネルは、Bennie Green (tb), Charlie Rouse (ts), Joe Knight (p), George Tucker (b), Louis Hayes (ds)。ベニー・グリーンのブルーノートにおける初リーダー作。他のサイドメンも地味ではあるが、確かな腕の職人芸的ジャズマンで固めている。
 
 
Back-on-the-scene
 
 
とにかく、一言で言うと、実に雰囲気のある、トロンボーンならではの、ほのぼのホンワカ、魅惑的な低音が心地良い、とてもジャジーでブルージーなモダン・ジャズである。モダン・ジャズと書いたのは他でもない。このベニー・グリーンのトロンボーンは、ビ・バップやハードバップの影響がかなり小さい。どちらかといえば、スイング・ジャズの影響を色濃く残している。

フロント2管の相棒、チャーリー・ラウズのテナーがとてもハードバップ色濃厚で、このラウズとの対比で、グリーンのトロンボーンの特徴が浮かび出てくる。グリーンとラウズをマッチアップしたプロデュースの勝利だろう。このスイングから中間派のほのぼのとしたモダン・ジャズ風の音がとても渋く、とても心地良い。ナイトもスイング風のピアノで、グリーンのトロンボーンに、時には絡み、時には鼓舞しつつ、リズム・セクションの要として活躍している。

こういう盤が転がっているから、ブルーノート・レーベルは隅に置けない。マイナーな存在のジャズマンのリーダー作だからといって、聴かずに飛ばすことは出来ない。ブルーノート・レーベルには「捨て盤」は無い。しかし、この盤を録音した時のぶるーんって34歳。まだまだ若手。それなのに、この老獪な人生の甘いも酸いも経験したような、人間味溢れる達観した柔らかな音色は何なんだろう。ジャズ・トロンボーンの好盤の一枚として絶対に外せない盤である。
 
 
 

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2021年2月13日 (土曜日)

「ながら聴き」のトリオ好盤です

チック・コリアの訃報から一昼夜が経った。僕の大のお気に入りのピアニストの筆頭だっただけにショックは大きい。

チックのリーダー作については、このブログで、相当数、記事として扱ってきた。当ブログの右下にある「カテゴリー」のチック・コリアをクリックすれば、ズラーッと出てくるが、チックのカタログの80%以上を網羅しているのでは無いか、と思っている。今、まだ記事にしていないリーダー作を洗い出し中で、近日、順次、追悼記事としてアップしていきたい。

昨晩より、チックのアルバムを追悼として聴き続けて、ちょっと耳が疲れた。耳休めに、ライトで聴き易いピアノ・トリオ盤をピックアップ。

The V.I.P. Trio『Standards』(写真左)。1988年3月7, 8日、米国ロサンゼルスの「Mad Hatter Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Cedar Walton (p), Pat Senatore (b), Billy Higgins (ds)。「Herb Alpert & Tijuana Brass」などで活躍した職人肌のベーシスト、パット・セナトーレが実質上のリーダーを務めるセッションである。
 
 
The-vip-trio-vol
 
 
内容的には、純ジャズ志向のハードバップでモーダルなピアノ・トリオ。タイトル通り、超有名なスタンダード曲がズラリ。これだけ、「ど」が付く位のスタンダード曲を10曲も続けるのである。普通のレベルのピアニストであれば、確実に途中で、弾き回しやアレンジがマンネリ化して、聴いている方からすると絶対に飽きる。

しかし、このトリオ演奏で選ばれたピアニストがシダー・ウォルトンなので、その懸念はしっかりと回避されている。このトリオ盤、聴きどころはやはりウォルトンのピアノで、ウォルトンの超有名なスタンダード曲の解釈が心ゆくまで堪能出来るというところ。

その期待に違わず、ウォルトンはそれぞれのスタンダード曲をバラエティー豊かに弾き回していく。セナトーレも堅実なベースで、ヒギンスは柔軟なドラムで、ウォルトンのピアノをサポートする。聴き心地が良い、上質なトリオ演奏。メロディを重視した短めの演奏が続くので、「ながら聴き」盤として楽しめる。そう「ながら聴き」のトリオ好盤です。
 
 
 

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2021年2月 9日 (火曜日)

幻のピアノ・トリオ名盤の一枚

ジャズを聴き始めて40数年経った今でも、聴いたことが無い「幻の名盤」級のアルバムがまだまだある。もともと「幻の名盤」ブームは、スイング・ジャーナル社が1974年4月に発刊した「幻の名盤読本」が引き起こしたもの。僕もこの「幻の名盤読本」は所有しているが、確かに「名盤」の類が多い。いつかは聴いてみたいものだ、と垂涎の想いで見ていた。

CDフォーマットの時代になって、かなりの数の「幻の名盤」がリイシューされた。21世紀に入って、音源ダウンロードの時代になって、更にかなりの数の「幻の名盤」がリイシューされた。今では、LPブームの中では「幻の名盤」がLPで復刻されるのは希だが、CD〜音源ダウンロードのフォーマットは「幻の名盤」はかなりの数、再音源化されている。

Joyce Collins Trio『Girl Here Plays Mean Piano』(写真)。1960年6月1ー2日、ロサンゼルスでの録音。ちなみにパーソネルは、 Joyce Collins (p), Ray Brown(Roy Green) (b), Frank Butler (ds)。幻といわれて久しい女流ピアニスト「ジョイス・コリンズ」が名手ブラウン、バトラーと吹き込んだ「幻の名盤」。
 
 
Girl-here-plays-mean-piano
 
 
この盤は、幾度か、幻のピアノ・トリオ名盤として、ジャズ雑誌やジャズ盤紹介本でそのタイトルが挙がっている。聴きたいなあと思うのだが、幻の名盤で、そもそもお目にかかることが無いので、どうしようも無い。2006年だったか、CDでリイシューされたがあっと言う間に無くなった。それが、今回、ダウンロードのサブスク・サイトにアップされているのに気がついた。

タッチはやや繊細だが明確で明るい。弾き回しは端正でリリカル。ちょっとユニークなハーモニーが耳に残るが、1960年当時の米国西海岸ジャズの中で、ジャズ・ピアノとしては平均的なもの。バックのリズム隊、ベースのブラウン、ドラムのバトラーが「職人芸的好演」を繰り広げていて、コリンズの端正なピアノと相まって、とてもバランスの良いピアノ・トリオ演奏が展開されている。

「幻の名盤」というが、ジャズの歴史に残る名盤の類では無い。しかし、バランスの取れた、じっくり聴いて楽しめる、ピアノ・トリオの好盤として、一定の評価が出来る内容ではある。コリンズは1930年生まれなので、録音当時30歳。若手女性ピアニストとして一定の成果を残している。しかし、この後、1970年代、ビル・ヘンダーソンとの共演以外、ジャズ・ピアニストとして目立った活動は無かった。そして、2010年1月に逝去している。
 
 
 
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2021年2月 6日 (土曜日)

久し振りにクリスチャン・サンズ

Christian Sands(クリスチャン・サンズ)。1989年5月生まれ、というから、今年32歳の若手中堅である。デビューは弱冠12歳。2007年2月にはグラミー賞受賞式でも演奏したという早熟の天才。米国の若きピアニストの注目株の1人。我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』では、2009年リリースの『Furioso』(2009年12月14日のブログ)から、時有る毎に注目している。

サンズのピアノは、耽美的なフレーズと太く切れ味の良い低音、じっくりと腰を据えて、音の「間」とピアノの「響き」を活かした、音に「ため」と「余裕」のあるインプロビゼーションを繰り広げる、ストレート・アヘッドで伝統的なピアノ。タッチは柔らかだが音は太い。テクニックは流麗。しかし、テクニックで聴かせる類では無い。

Christian Sands『Be Water』(写真左)。2020年の作品。ちなみにパーソネルは、Christian Sands (p, key, org, Rhodes), Yasushi Nakamura (b), Clarence Penn (ds) のピアノ・トリオをメインに、Marvin Sewell (g), Marcus Strickland (ts, b-cl), Sean Jones (tp, flh), Steve Davis (tb) が客演し、8曲目の「Be Water II」のみ、ストリングス・カルテットが入る。
 
 
Be-water-christian-sands  
 
 
クリスチャン・マクブライドの相棒ピアニストとして有名になったサンズのMack Avenue第3弾。本作はサンズが「水という物質のもつ性質~流動性・順応性」からインスパイアされた、現代のスピリチュアル・ジャズ的な雰囲気も漂う10曲。ブルース・リー の哲学的な文言からヒントを得た、「水」をテーマにしたコンセプト盤。コンセプト盤といっても堅苦しいところは微塵も無い。サンズのピアノの個性を最大限発揮出来る、楽曲と演奏の数々。

どの曲もサンズのピアノが生々しく迫ってくるのだが、70年代ロックのマニアの私としては、7曲目の「Can’t Find My Way Home」にとどめを刺す。この曲、当時ブラインド・フェイス(E.クラプトンが在籍)の『スーパー・ジャイアンツ』に収録された、S.ウィンウッドの名曲。この曲、サンズのピアノの個性を引き立たせるのに恰好のフレーズを持っていることが良く判る。いや〜懐かしい。

アルバム全体に渡って、不思議な「余裕」と「間」が感じられ、漂うファンクネスはしっかり乾いている。どちらかと言えば、東洋的であり、日本ジャズ的な音世界がユニーク。サンズは、上海のjazz at lincoln centerに在籍時、武道、東洋哲学に造詣が深くなったそうで、その影響なんだろうな。ジャズは「音の融合」の世界と言われるが、このサンズのアルバムを聴くと「至極納得」である。
 
 
 

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2021年2月 1日 (月曜日)

都会の夜を連想させるモーガン盤

リー・モーガンのブルーノート1500番台に立ち戻っている。当ブログでまだ記事にしていない好盤の「落ち穂拾い」である。1538番のモーガンのデビュー盤『Indeed!』から、1500番台のモーガンの単独リーダー作、コ・リーダー作を併せて全8枚。この盤が最後の1500番台のリー・モーガンのリーダー作になる。

Lee Morgan『City Lights』(写真左)。ブルーノートの1575番。1957年8月25日の録音。ちなみにパーソネルは、Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), George Coleman (ts, as), Ray Bryant (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)。モーガンのトランペット、フラーのトロンボーン、コールマンのサックスのフロント3管のセクステット(6重奏団)構成。

録音時、フロント3管のモーガンは弱冠19歳。フラーは23歳、コールマンは22歳。リズム・セクションのピアノ担当ブライアントは26歳、ベースのチェンバースは22歳、ドラムのテイラーは28歳。フロント3管の平均年齢は21歳。リズム・セクションの平均年齢25歳。若手で固めたセクステットだが、フロント3管はあまりに若い。若さに任せて、バリバリのアドリブ合戦が繰り広げられるのか、と思いきや、それが違う。
 
 
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タイトルが「City Lights(街の灯り)」。この盤は、当時の米国東海岸では珍しい、アーバンでアダルトにアレンジされた「大人のファンキー・ジャズ」である。フロント3管の平均年齢21歳で、この「大都会の夜、それも深夜」をイメージさせる、大人のブロウを聴かせてくれるとは。バリバリのアドリブ合戦どころか、アダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズな内容にちょっとビックリする。

収録曲を見れば、ベニー・ゴルソンの曲が5曲中3曲を占める。この盤、ゴルソンが作曲だけで無くアレンジでも参加していたらしく、なるほど、フロント3管のユニゾン&ハーモニーは、あからさまでは無いが「ゴルソン・ハーモニー」の香りがする。そう、このゴルソンのアレンジが「都会の灯り」の雰囲気を濃厚に醸し出しているのだ。

全編に渡って「大人」で「都会の夜」の雰囲気漂う音世界が心地良く流れていく。抑制の美とアレンジの妙。そんなゴルソンのアレンジの意図を理解し、的確に表現していく若手の3管フロント。その力量は計り知れないものがある。とりわけ、弱冠19歳、最若手のリーダー、モーガンのトランペットの「抑制の美」がこの盤の最大の聴きどころ。「都会の夜」を連想させる企画盤として良好の内容。好盤です。
 
 
 
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