2020年7月 9日 (木曜日)

ジャズの原風景を見るような音

大雑把に言えば、おおよそ、ジャズの演奏トレンドは、1930年代は「スイング」、1940年代は「ビ・バップ」、1950年代は「ハードバップ」となる。時代毎のジャズの演奏トレンドに適応し、演奏スタイルを変えていったジャズマンもいれば、一旦、その演奏トレンドを極めたら、世の中の演奏トレンドが何に変わろうが、その演奏スタイルを変えないジャズマンもいた。

Lester Young & Teddy Wilson『Pres & Teddy』(写真左)。1956年1月13日の録音。リリースは3年後の1959年4月。ちなみにパーソネルは、Lester Young (ts), Teddy Wilson (p), Gene Ramey (b), Jo Jones (ds)。1956年のハードバップの時代には、あまり馴染みの無いジャズマンの名前が並んでいる。

双頭リーダーの片割れ、レスター・ヤングは、パーカーなど、ビ・バップ時代のジャズマン達から敬愛された「プレジデント(代表)」=愛称「プレス(Pres)」。そして、もう一方のリーダーであるテディ・ウィルソンは、スイングの雄、ベニー・グッドマンのコンボで活躍した、スイング・ピアノの代表格。スイング時代から第一線で活躍したレジェンド級のジャズマン。
 
 
Pres-teddy  
 
 
この盤が録音された時代は「ハードバップ」時代のど真ん中。しかし、盤に詰まっている音は「スイング」。プレスのテナーは、ビブラートもしっかり入ったオールド・スタイルなテナー。それでも存在感&説得力が抜群。テディのピアノはどこまでもスインギー。アドリブ・フレーズの弾き回しのリズム&ビートが「スイング」。それでいて、フレーズの響きは新しい。

ジョー・ジョーンズは、カウント・ベイシー楽団初期の「オール・アメリカン・リズム・セクション」のドラマー。そして、ジーン・レイミーは、地味ながらスイング時代に活躍したベーシスト。この二人のリズム隊のリズム&ビートは明らかに「スイング」。ジャズの原風景を見るような、4ビートの横揺れスインギーなリズム&ビートが心地良い。

時代毎のジャズの演奏トレンドに適応し、演奏スタイルを変えていったジャズマンもいれば、一旦、その演奏トレンドを極めたら、世の中の演奏トレンドが何に変わろうが、その演奏スタイルを変えないジャズマンもいた。この盤のカルテットは明らかに「後者」。この盤を聴くと、ひとつの演奏トレンドを極めたジャズマンの奏でるジャズに宿る、強烈な「普遍性」に感動するのだ。
 
 
 

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2020年7月 4日 (土曜日)

消えた「ビ・バップ」の才能

ビ・バップのピアノと言えば「バド・パウエル」、というのが、ジャズでの定説であるが、他にも幾人か、ビ・バップで活躍し、ハードバップに移行後、将来を嘱望されつつ、消えていったピアニストがいる。いずれも「麻薬禍」での逝去、若しくは引退。か、米国でのジャズ環境に絶望しての「欧州への移住」である。

Elmo Hope『Meditations』(写真左)。1955年7月28日、NYでの録音。プレスティッジ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Elmo Hope (p), John Ore (b), Willie Jones (ds)。ビ・バップのシーンで活躍したエルモ・ホープのピアノ・トリオ盤。リズム隊の二人、ベースとドラムについては僕にとっては知らない名前である。

1955年と言えば、ハードバップ初期の時代であるが、このピアノ・トリオ盤については、演奏スタイルは明確に「ビ・バップ」。エルモ・ホープのピアノが絶対的主役であり、ベースとドラムはリズム・キープに徹している。いわゆるハードバップの「ウリ」である、楽器同士の自由度の高いインタープレイと楽器毎のテクニックを駆使した長いアドリブ合戦は無い。
 
 
Meditations  
 
 
エルモ・ホープのピアノは明らかに「ビ・バップ」のマナーで貫かれている。しかしながら、バド・パウエルの様な攻撃的なところやアクロバティックなフレーズの崩しは無い。エルモ・ホープの「ビ・バップ」なピアノは、あくまで「流麗」、あくまで「クール」。テクニックは優秀で、時に右手はよく回っている。アドリブ・フレーズの音の響きが少しメジャーな音が混じっているのか、どこか明るい部分が見え隠れする。

ホープのアドリブ・フレーズは「ゴツゴツ」していないし、無用な速弾きはしない。アドリブ・フレーズをしっかりと鳴らし、滑らかなタッチで弾き上げる。上品で粋でアーティスティックなビ・バップ・ピアノで、バド・パウエルとは一線を画する。どちらかといえば、ホープのバップ・ピアノの方がハードバップに適したものだと感じる。聴いていて心地良いし、耳に穏やかなバップ・ピアノである。

この盤のホープのピアノを聴く限り、以降の活躍の鈍さが意外である。基本的には「麻薬禍」が原因。1956年頃に麻薬の問題と関連する犯罪歴によって、ニューヨークのキャバレーへの出演許可証を失っている。それから、西海岸に渡るが上手くいかず、NYに戻っての1960年代も、やはり麻薬禍により仕事に恵まれていない。そして、1967年に薬物の過剰摂取のため急逝している。惜しい才能を失った。
 
 
 
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2020年7月 2日 (木曜日)

米国西海岸の「バップなピアノ」

1950年代の米国西海岸ジャズ(ウェストコースト・ジャズ)のアルバムのパーソネルを見渡していくと、ピアニストに「Claude Williamson(クロード・ウィリアムソン)」の名前が沢山出てくる。この盤にもあの盤にも、クロード・ウィリアムソンのピアノは引っ張りだこであった。ファースト・コールというか、バックのリズム隊だったあいつで良いよ、的な使われ方が見え隠れする。

それほどまでに、クロード・ウィリアムソンのピアノは「潰しがきくピアノ」。様々な演奏フォーマット、様々なソロイストに対して、弾き方やタッチを変えることは全くしていないのだが、どの演奏フォーマットにも、どのソロイストにも適応し、決して前へ出ること無く、必ず、リーダーの楽器を、フロント楽器を引き立てる。そんな「玄人好み」のピアノを弾ける。それが、クロード・ウィリアムソンである。

伴奏上手なピアニストなので、リーダー作はそう多くは無い。サイドマンでの参加盤は山ほどある。聴けば判るのだが、タッチや弾き回しは明らかに「ビ・バップ」。端正で癖の無い「バド・パウエル」もしくは「アル・ヘイグ」とでも形容したら良いであろうか。とにかく端正でタッチが歯切れ良く、アクや癖はほぼ無い。ただただ、米国西海岸ジャズのジャズ・ピアノなのだ。ライトで流麗な弾き回しが素敵である。
 
 
Round-midnight_claude-williamson  
 
 
Claude Williamson『'Round Midnight』(写真左)。1956年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Claude Williamson (p), Red Mitchell (b), Mel Lewis (ds)。ベースに西海岸ジャズでのファースト・コールなベーシスト「レッド・ミッチェル」。ドラムには、端正で歯切れの良い、玄人好みの味のあるドラミングで定評のある「メル・ルイス」。申し分の無いリズム隊を得て、ウィリアムソンが楽しそうにバップなピアノを弾きまくる。

速い弾き回しも、ゆったりとしたバラードチックな弾き回しも、とにかく端正で破綻が無い。弾きっぷりは明らかに「バド・パウエル」なんだが、シンプルで聴き易く、耳を突く様なアクは無い。弾き回す音域もやや高く、ライトで流麗なバップ・ピアノ。堅実なリズム隊から、端正なリズム&ビートを得て、ウィリアムソンは弾きまくる。胸が空くような爽快感。指もよく回っている。

この盤も、後続の『Claude Williamson』と同じく、ベツレヘム・レーベルからのリリース。同じ1956年の録音で内容的は変わらない。クロード・ウィリアムソンを理解するには、まずこの『'Round Midnight』と10ヶ月ほど録音が古い『Claude Williamson』と、この兄弟盤2枚を聴くことをお勧めする。米国西海岸ジャズにおける「バップなピアノ」が、この2枚のウィリアムソンのリーダー・トリオ盤で堪能出来る。
 
 
 

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2020年6月30日 (火曜日)

なかなか良いピアノ、弾いてます

遠く遠く学生時代にジャズを聴き始めた頃から、定期的に「日本人ジャズ」の新盤を追いかけている。もともと、日本人ジャズのレベルは高い。世界的に見ても上位のレベルに位置していると評価してよいだろう。特に、2001年、山中千尋がデビュー盤をリリースした頃から、日本人ジャズの逸材が多く出現する様になった。今でも毎年の様に、日本人ジャズの逸材が現れ出でている。

三輪洋子『Keep Talkin'』(写真左)。2019年のリリース。ちなみにパーソネルは、Yoko Miwa (p), Will Slater (b), Scott Goulding (ds), Brad Barrett (b on 11)。日本人の「正統派モダンジャズ・ピアノの担い手」の一人、三輪洋子のリーダー作。2年ぶりの新盤。

デビュー盤『In The Mist Of Time』が2000年のリリースだから、もうデビューして20年近くが経つのか。しかも1970年生まれだから、今年で50歳。経歴的にも年齢的にも、もはや中堅ジャズマンである。2011年にはバークリー音楽大学のピアノ科の助教授に任命されている。これは秋吉敏子以来、約30年ぶりに日本人女性がピアノ科のプロフェッサーに選ばれたという歴史的にも名誉ある出来事であった。
 
 
Keep-talkin  
 
 
ネットのどこかの紹介文にあった、三輪のピアノの特徴。「スクエアー・バピッシュ&ファンキー・ダイナミック」「耽美的でロマンティック」。確かに聴いたまま、文章で表現したらこうなるかな。加えて、力感のある左手の低音、耽美的なスイング感溢れる右手。そして、このところ、純ジャズな「ハードボイルド」にポップな雰囲気が加わってきて、とても聴き易いイメージになっている。

オリジナル曲に加え、モンク、ミンガス、ビートルズ、ジョニ・ミッチェルらの曲を取上げ、趣味の良いアレンジでカヴァっている。ネオ・スタンダード化の動きは以前からあるが、なかなか良いアレンジに恵まれなかった。しかし、この三輪のアレンジはなかなか良い。特にビートルズの「Golden Slumbers / You Never Give Me Your Money」の弾き回しには感心した。

僕は、三輪のアーシーな左手のブロックコードと右手のファンキー&スインギーな弾き回しが大のお気に入り。ジャズの歴史上の様々なピアニストの個性をよく研究して自らのものにしているのが良く判る。まだまだ我が国では認知度が低いが、日本人らしいメロディー感覚と乾いたファンクネスも心地良く、なかなか良いピアノ、弾いてます。
 
 
 

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2020年6月22日 (月曜日)

「クール・ジャズ」のエヴァンス

ジャズ・ピアノの最大のレジェンド、ビル・エヴァンスであるが、トリオ編成が全て、と偏った評価をされている傾向が強いのか、トリオ編成以外の、特に管入りのクインテットやカルテットの編成については、評判は芳しく無い。

エヴァンスは伴奏上手なピアニストなので、管入りのクインテットやカルテット編成のバッキングについても、エヴァンスの持ち味、実力を遺憾なく発揮することは間違い無いのだが、どうしたことか、管入りのクインテットやカルテットの編成については手厳しい評価を見ることがある。

Bill Evans with Lee Konitz, Warne Marsh『Crosscurrents』(写真)。1977年2月28日、3月1ー2日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Lee Konitz (as), Warne Marsh (ts), Eddie Gómez (b), Eliot Zigmund (ds)。アルバムのリリースが1978年なので、録音後、内容チェックして「エヴァンスからもOKが出て」、リリースされたものになる。決して「お蔵入り盤」では無い。

もともと、エヴァンスは「レニー・トリスターノ」のクール・ピアノの影響を受けているところがあって、そういう意味では「トリスターノ派」の代表格、アルト・サックスのリー・コニッツ、テナー・サックスのウォーン・マーシュとの共演は望むところだったのでは無いか。エヴァンスが逝去するまで残り3年。この共演は生前にやっておきたかったのではないか、と想像している。
 
 
Crosscurrents  
 
 
さて、その内容であるが、そんなにケチョンケチョンにこき下ろすほど、内容は悪く無い。エヴァンスのピアノは歯切れ良く、ポジティヴだし、弾き回しも揺るぎが無い。彼の個性のひとつである「バップなピアノ」が前面に押し出されていて、かつ、ピアノ・トリオでのパートナーである、ゴメスのベースも、ジグモンドのドラムもいつも通り好調であり、良い感じのパフォーマンスを発揮している。

コニッツとマーシュのサックスについても、ピッチが合って無いだの、イマージネーションに欠けるだの、フニャフニャだの、一部では「ケチョンケチョン」な評価なのだが、今の耳で聴いてみると、そんなに悪く無いと思う。両者とも「トリスターノ派」として活躍していた1950年代前半から半ばのパフォーマンスに立ち返っている様でもあり、内容的にはちょっと「古い」が、決して内容的に劣る、というブロウでは無い。

当時のジャズとして「新しい何か」があるか、と言えば「無い」のだが、トリスターノ派のクール・ジャズの1970年代版として、聴き易く、ソフト&メロウにまとめた、と捉えれば、そんなにおかしい内容では無いだろう。少なくとも、エヴァンス、コニッツ、マーシュ、それぞれがそれぞれの持ち味を活かした、リラックスしたセッションである。

この盤は、評論家筋と一般のジャズ者の方々との評価が大きく分かれる「エヴァンス盤」ではある。まずは自らの耳で聴いて評価することをお勧めする。他人の悪評を鵜呑みにして遠ざけるには惜しい内容のエヴァンス盤だと僕は思う。
 
 
 

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  ・『Bobby Caldwell』 1978

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  ・Led Zeppelin Ⅲ (1970)

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2020年6月21日 (日曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・82

ビル・エヴァンスの聴き直しを長々としている。Fantasyレーベルのアルバムを聴き進めて行くと、決まってこの盤でふと立ち止まる。そして、暫く、エバンスは聴かない。そして、再び、意を決して聴いて、必ず、しみじみするのだ。そして、また、エヴァンスを聴き始める。僕にとって、エヴァンスのこの盤は特別なのだ。

Bill Evans『I Will Say Goodbye』(写真)。1977年5月11–13日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Eddie Gómez (b), Eliot Zigmund (ds)。1977年に録音されているが、直ぐにはリリースされていない。ビル・エヴァンスが逝去したのが、1980年9月15日。追悼盤の様なイメージでのリリース。それでも、1981年のグラミー賞を受賞している。

この盤、リリースされた時に入手して以来、エヴァンスのピアノを聴く「節目」となるアルバムである。当時、エヴァンスが逝去したのは知っていた。しかも、この盤が逝去する3年前の録音であることも理解していた。しかし、このアルバム作成前後に、彼は妻と兄をそれぞれ自殺で亡くしているのは知らなかった。
 
 
I-will-say-goodbye  
 
 
冒頭のタイトル曲「I Will Say Goodbye」を聴いて、耽美的で静的なタッチの中に、ある種の「寂寞感」が濃厚に漂うのが気になった。タイトルが「I Will Say Goodbye」なので、その雰囲気を醸し出しているのか、と思ったが、エヴァンスはそんな感傷的なピアニストでは無い。ほの暗く、どこか諦念感にも通じる、透明感のある弾き回し。

この盤はエヴァンスの個性のひとつである「耽美的」なタッチと「透明感」のある弾き回しが濃厚に出たアルバムである。従来の優れたテクニックとエヴァンス独特の音の重ね方、そして、この盤に溢れる、静的ではあるが躍動感溢れるアドリブ・フレーズ。まさしく、この盤はエヴァンスの代表作の一枚として挙げられるべき好盤である。

バックを支える、エヴァンス・トリオ史上、最高のベーシストであるゴメスも好演、ジグモントのドラミングも硬軟自在で素晴らしい。アルバム全体に「寂寞感」と「諦念感」が漂うのだが、恐らく、録音当時、体調は既に悪かったと思われる。私生活でも悲劇が続く。「寂寞感」と「諦念感」はいざ仕方の無いことかと思う。そんな背景の中、エヴァンスのピアノについては極上のパフォーマンスである。
 
 
 

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2020年6月19日 (金曜日)

ジャズのシンガーソングライター

ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)の新作が出た。4年振り、2016年の『Day Breaks』以来のオリジナル・フルアルバムになる。昨年の『Begin Again』は全編28分のミニアルバムだった。しかも当面の間は、バンドプロジェクト、ガールズ・バンドの「プスンブーツ」の活動に専念すると思っていたので、今回は「ビックリぽん」である。

ノラ・ジョーンズは、2002年、デビューアルバム『Come Away with Me』で大ブレイク。しかし、このデビュー盤がリリースされた当時は、この盤については「これはジャズか?」と揶揄され、「ボーカルだけが目立つ」と散々な評価もあった。ジャズの老舗レベール「ブルーノート」からのリリースだから、やむなくジャズ盤としている、なんてことも言われた。しかし、この盤は世界的には2,500万枚を売り上げた。

ノラのボーカルだけが目立つからジャズでは無い、というのは暴論だろう。ノラ・ジョーンズは、ジャズで初のシンガーソングライターである。自作自演の曲で固めたジャジーなボーカル。そりゃあ目立つだろう。もともとジャズ・ボーカルというものは極力「小作自演」を避けてきた。コンポーザーでは無く、シンガーに徹してきたところがある。シンガーとは「声」が楽器。他の楽器と同列なので、ボーカルだけが突出して目立つことは無い。
 
Pick-me-up-off-the-floor  
 
Norah Jones『Pick Me Up off the Floor』(写真左)。今年6月のリリース。全て、ノラ・ジョーンズの自作自演(11曲中4作は共作)。ノラ自身はピアノを弾き、そして唄う。他のメンバーについては、彼女と親交が深いドラマー、ブライアン・ブレイドとのセッションをベースにしているものの、メンバーは固定せず、ジョン・パティトゥッチ(b)、ネイト・スミス(ds)など、総勢20名以上の名うてのジャズマンが立ち代わり登場する。

しかし、アルバム全編に渡って不思議な統一感がある。ピアノ・トリオをベースとしているが、やはり目立つのはノラの歌声。凄い存在感と説得力のあるボーカル。唄われる曲の雰囲気は穏やかでスピリチュアルなものばかり。しかし、ノラのボーカルが唄われる内容に合わせて、トーンや表現が変わる。これがまた見事に「変わる」ので、全編、音的にも不思議な統一感に支配されているにも関わらず、飽きが来ることは全く無い。

ノラの音世界は「ジャズ・ボーカルとシンガーソングライターとの融合」。自作自演なのだ。ボーカルだけが目立つのは当たり前。しかも、自作自演だからこそ、不思議な統一感が存在し、存在感と説得力が増すのだ。この盤を聴いて思う。従来のイメージを前提にした「これはジャズなのか、ジャズではないのか」の評価は不要だな。今回のノラの新作も「良い音楽」だと評価している。心地良いボーカルと演奏が蕩々と流れていく。
 
 
 

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2020年6月15日 (月曜日)

1970年代クインシーの第一歩

久々に「クインシー・ジョーンズ」を聴き直している。特に1970年代。クインシー・ジョーンズのビッグバンドが一番充実していた時代である。クインシーのアレンジは「融合」志向。1960年代から、ジャズをベースとしながらも、他のジャンルの音世界と融合して、クインシー独特の音世界を創り出してきた。

そして、1970年代のクインシーは「R&B」をメインとした米国ルーツ・ミュージック、アフリカン・アメリカンのルーツ・ミュージックをピックアップした、例えばソウル、R&B、そしてゴスペルとの融合。そして、いち早い「フュージョン・ジャズ」への適応。そんなクインシー独特の個性を反映したビッグバンド・ミュージックを収録したアルバムが多数リリースされている。その先鞭をつけたのがこのアルバム。

Quincy Jones『Smackwater Jack』(写真)。1971年の作品。ちなみにパーソネルは、メインストリーム・ジャズ系、クロスオーバー・ジャズ系の一流ミュージシャンが多数参加している。主だった者を上げると、Freddie Hubbard (flh), Eric Gale, Jim Hall, Joe Beck (g), Toots Thielemans (harmonica), Grady Tate (ds, perc), Bob James, Joe Sample (key), Jaki Byard, Monty Alexander (p), Jimmy Smith (org), Milt Jackson (vib), Chuck Rainey, Bob Cranshaw, Ray Brown (b) 等々、新旧織り交ぜた優れもの集団。
 
 
Smackwater-jack
 
 
アレンジが素晴らしい。かつ、選曲がユニーク。冒頭、タイトル曲の「Smackwater Jack」は、1971年のキャロル・キングの名盤 『Tapestry』収録の名曲。この名曲をいち早く採用し、グルーヴ感溢れる、クールでR&B風なアレンジを施している。続く2曲目の「Cast Your Fate To The Wind」はメロウな名演で、既に後のフュージョン・ジャズの「ソフト&メロウ」を先取りしている。

3曲目の「Ironside」は、邦題「鬼警部アイアンサイドのテーマ」。イントロのサイレン音、ブラスのユニゾン&ハーモニーを聴くだけで「ああ、あれか」とニンマリする有名曲。我が国でもテレビ番組やコマーシャルのBGMに使われている。続く4曲目の「What's Going On」はマーヴィン・ゲイの名曲のカヴァー。この曲はジャズの世界で結構カヴァーされているが、このクインシー版のカヴァーが秀逸。前半のボーカル部も良い雰囲気だし、後半のインストは、1971年にして極上のフュージョン・ジャズな展開。惚れ惚れする。

続く「Theme from "The Anderson Tapes”」は極上のジャズ・ファンク。ビル・コスビーのヴォーカルをフューチャリングした「Hikky Burr」もクールでジャジーなR&B風アレンジが効いている。1970年代のクロスオーバー〜フュージョン・ジャズの雰囲気を先取りした、クインシーのビッグバンド・サウンドは実に「新しい」。正統なビッグバンド・ジャズという観点では、このクインシーのビッグバンドは「異端」。しかし、今の耳で聴くと実に「新しい」。今でも古さを感じさせないのは流石だ。
 
 
 

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2020年6月14日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・174

ジャズのビッグバンドについては、1950年代の終わりから1960年代に入って、どんどん深化していった。まずアレンジのテクニックの深化。1950年代は、デューク・エリントン楽団か、カウント・ベイシー楽団か、どちらかのアレンジや展開が主流だった。米国西海岸ジャズにおいては、西海岸ジャズの「聴かせるジャズ」の流れのもと、洒落たアレンジを施した、お洒落なビッグバンド・ジャズが流行っていた。

が、この米国西海岸ジャズの洒落たアレンジのビッグバンドの流れを取り入れつつ、ギル・エヴァンス、クインシー・ジョーンズ、オリバー・ネルソンらを中心に、優れたアレンジのもと、アーティスティックなビッグバンド・ジャズが展開されたのが1950年代の終わりから1960年代。それまでのビッグバンド・ジャズの定石に囚われない、新しい音の響きが爽やかである。

Quincy Jones and His Orchestra『The Quintessence』(写真左)。1961年11月29日と12月18日の録音。パーソネルは、3つのグループに分かれる。どういう意図で分けられたのかは判らない。しかし、どのグループの参加メンバーにも、当時の一流どころのジャズメンが顔を揃えている。ジャズオケには珍しい楽器、ハープやチューバ、フレンチホルンが音の彩りを添えている。
 
 
The-quintessence
 
 
この盤の冒頭のタイトル曲「The Quintessence」を聴くにつけ、アレンジのテクニックが飛躍的に向上しているのを感じる。ブルースに拘らない、アーバンでジャジーな、じっくりと「聴かせる」アレンジが素晴らしい。とにかく、じっくりと聴いていると、それまでにないユニゾン&ハーモニーの響きとか、それまでにない楽器、ハープやチューバ、フレンチホルンの「小粋な」使い方がしっかりと確認できて、とにかく面白い。

加えて、ビッグバンドの演奏も、当時のジャズ演奏について最先端のトレンド、モードとかフリーとか、を駆使して、とにかく「新しい」音を繰り出している。クインシー・ジョーンズのビッグバンドのアレンジは、ソロイストのパフォーマンスが活きる様な、映える様なアレンジ。この盤に参加している名うての名手達は、そんなアレンジの中、魅力的なアドリブ・ソロを展開している。
 
クインシー・ジョーンズのアレンジには、コマーシャルな雰囲気は感じ無い。ストイックでアーティスティックな雰囲気の中、爽やかなファンクネスが漂うところが堪らない。この『The Quintessence』では、そんなクインシーのアレンジの妙が心ゆくまで堪能出来る。そして、最後に、この盤、録音がとても良い。楽器毎の音の分離と粒立ちが明確、出来れば良い再生装置で、そこそこの音量で聴いて欲しい。心地良い迫力満点です。
 
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

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  ・『Bobby Caldwell』 1978

 ★ まだまだロックキッズ     【更新しました】 2020.06.12更新。

  ・Led Zeppelin Ⅲ (1970)

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【更新しました】 2020.06.12更新。

  ・太田裕美『心が風邪をひいた日』
 

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2020年6月12日 (金曜日)

「梅雨の時期」に聴きたくなる

アジマス(Azimuth)は、英国のジャズ・トリオ。トランペット奏者のケニー・ホイーラー、ボーカリストのノーマ・ウィンストン、ウィンストンの夫でピアニストのジョン・テイラーというトリオ構成。3人とも英国出身。「バップ命」の英国出身のジャズ系ミュージシャンが、ECMレーベルで「ニュー・ジャズ」をやるのだから面白い。

Azimuth with Ralph Towner『Départ』(写真)。1979年12月の録音。ECM 1163番。改めてパーソネルは、John Taylor (Pp, org), iNorma Winstone (voice), Kenny Wheeler (flh, tp), Ralph Towner (12-String and Classical Guitar)。アジマスのメンバー3人に、ECMのお抱えギタリストの一人、ラルフ・タウナーが客演したアルバムになる。

アジマスの音世界は「即興演奏をベースとしたアンビエント志向のニュー・ジャズ」。明らかにECMレーベル好みのニュー・ジャズな音世界で、従来のビートの効いたジャズとは全く異なる、即興演奏をメインとした、まるで印象派の絵画を見るような、カラフルな音を駆使したインタープレイ。ビート感は希薄だが、アドリブ展開など、インプロビゼーションの基本は「モード・ジャズ」だろう。
 
 
Depart  
 
 
クールなホイーラーのトランペットとテイラーのピアノ、そして、そこに流れるウィンストンの「女性スキャット」は、現代の「クールなスピリチュアル・ジャズ」に直結するもの。静的なエモーショナルは「ニュー・ジャズ」に相応しい。が、展開のバリエーションが少ないので、複数枚アルバムをリリースすると、その内容としては「金太郎飴」的なマンネリズムに陥り易い。

そこで工夫を凝らしたのが、この「with Ralph Towner」。タウナーのギターは、このアジマスの音世界に繋がる、クールで静的でエモーショナルなギター。アジマスの音世界にピッタリ合う。この盤を聴いていても違和感が全く無い。しかし、従来のアジマスのピアノ、トーンペット、ボイスの展開に、タウナーのギターが入るだけで、その内容はガラッと変わる。

タウナーのどこかクラシック風の、欧州のニュー・ジャズ志向の明快なタウナーのギターの音に導かれて、後にジャズの演奏トレンドの1つとなる、上質の「スムース・ジャズ」の世界に昇華している。ECMレーベルの総帥アイヒヤーのプロデュースの賜であろう。

クールで静的、透明感+清涼感のある音世界は、今の「梅雨の時期」に聴きたくなるジャズの代表格。冷たいアイスコーヒー片手に聴いてます。
 
 
 

《バーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況
 

 ★ AORの風に吹かれて      2020.05.11更新。

  ・『Another Page』 1983

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  ・Led Zeppelin Ⅱ (1969)

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  ・チューリップ 『TULIP BEST』
  ・チューリップ『Take Off -離陸-』
 
 
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