2024年9月11日 (水曜日)

チック&オリジンの ”Change”

確かに、チックって、いつも、質の良い「ジャズの新しい何か」を提示してくれるのだが、世の中に受けないと思ったら、一旦、さっさと撤収することが多いので、このチックの提示する「ジャズの新しい何か」に違和感を感じた方々は、やっぱりチックもそう思って引っ込めた、と勘違いしているきらいがある。

Chick Corea & Origin『Change』(写真左)。1999年1月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p, marimba), Bob Sheppard (b-cl, fl, bs, as, ss, ts), Steve Wilson (cl, fl, as, ss), Steve Davis (tb), Avishai Cohen (b), Jeff Ballard (ds), チック・コリア&オリジンとしては初のスタジオ録音。

リード楽器 x2+トロボーンのフロント3管のセクステット編成。まるで、1960年代のジャズ・メッセンジャーズの様な編成である。しかし、出てくる音は全く異なる。今回、改めて聴いてみて、21世紀に入って、その演奏トレンドが顕著となる「ネオ・ハードバップ」の走りの様な内容に、ちょっとビックリ。

モード&コードのごった煮な展開は1960年代と同じだが、限りなくフリーに展開しているところが耳に新しい。それも、激情に任せた、本能に赴くままの展開ではなくて、あくまで理知的に、あくまでクールに、限りなくフリー&スピリチュアルに展開しているところが新鮮。
 

Chick-corea-originchange

 
モードな展開も、コードな展開も理知的でクール。出てくるフレーズはファンクレス。欧州の純ジャズ的な透明度の高い、理路整然としたクールな展開。米国出身のジャズマンが中心のセクステットで、欧州の純ジャズ的な展開をする。この辺りは、21世紀に入って、ECMレーベルが標榜した「メインストリーム・ジャズのボーダーレス化」に通じるものがある。

米国ジャズの面々が欧州な純ジャズをやるのだから、この盤がリリースされた当時は、皆、違和感を感じたのだろうな。故に、このチック・コリア&オリジンは全く話題にならなかったどころか、チックはもう終わった、なんて揶揄されたものだ(笑)。

このチックがオリジンで提示した「ジャズの新しい何か」は、最終的に、トリオ演奏に焼き直されて、2006年の『Super Trio』で再提示され、今度は世の中から受けに受け、評価されるのだから、面白いといえば面白いし、当時、チックはもう終わった、なんて揶揄した方々については、意外と無責任やなあ、とも思ったりする。

チックのピアノのフレーズはどこから切っても「チック流」の響きが満載だし、リズム隊としては、ジェフ・バラードの変幻自在、硬軟自在なドラミングは、後の「ネオ・ハードバップ」の響きが満載。オリジンとしての個性的なグループサウンズの響きはしっかりとキープされていて、スタジオ盤として、良好な出来だと思う。
 
 

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2024年9月10日 (火曜日)

良い, Senri Oe『Class of ’88』

大江 千里(おおえ せんり、英語: Senri Oe)、1960年9月生まれ。今年で64歳。1983年に、シンガーソングライターとしてプロ・デビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」「ありがとう」などのシングルがヒット。Jポップの世界でメジャーな存在となる。

が、2008年ジャズピアニストを目指し渡米、NYのTHE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、1stアルバム「Boys Mature Slow」でジャズ・ピアニストとして本格デビューを果たしている。以降、6枚のオリジナルジャズアルバムをリリース。そして、昨年の5月、大江千里デビュー40周年記念アルバムをリリース。

Senri Oe『Class of '88』(写真左)。2023年5月のリリース。NYブルックリンの「The Bunker Studio」での録音。Senri Oe "大江千里" (p), Matt Clohesy (b)、Ross Pederson (ds)。

ピアノの大江千里をリーダーにした、ピアノ・トリオ編成の、デビュー40周年記念アルバムである。ジャケ担当は江口寿史。素晴らしいジャケ・イラスト。この大江千里のアルバムの内容に直結している様なイメージで秀逸。

宣伝文句には「Jポップ時代の名曲のセルフカバーと新曲が収録された作品」とあるが、それがこのトリオ盤の評価には直結しないだろう。「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」が、当アルバムの「売り」なんだろうが、このアルバムをしっかり聴けば良く判るが、「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」など、あまり関係がないことに気が付く。
 

Senri-oeclass-of-88  

 
収録されたどの曲も、印象的なフレーズを伴った、流麗な曲ばかり。どれが「Jポップ時代の名曲のセルフカバー」で、どれが自作曲なのか、ほとんど関係が無い。とにかく「良い曲」がズラリと並んでいる。

そんな「良い曲」を「良いアレンジ」で料理して、ピアノ・トリオ演奏で聴かせる。ジャズ・ピアニスト大江千里の面目躍如な想像の成果。「Jポップ時代の名曲」は、ピアノ・トリオ演奏の素材でしかない。

ミッドテンポがメインの、耽美的でリリカルでスピリチュアルなフレーズ。温和で温厚で耽美的なスピリチュアルな響きが印象的。これが、大江千里のピアノの個性と理解する。今までのジャズ・ピアノの歴史の中に無かった、「温和で温厚で穏やか」な、耽美的スピリチュアル・ジャズな響き。大江千里のピアノは、どれもが普遍的に「温和で温厚で穏やか」。これが意外と癖になる。

この盤の大江千里のジャズ・ピアノを聴けば、彼が「彼なりの個性」と「彼ならではの響き」を獲得していることに気づく。この盤には、Jポップ時代のシンガーソングライターの大江千里は全く存在しない。存在しているのは、努力の結果、自分なりの個性と響きを獲得した、ジャズ・ピアニストの大江千里。

この盤は、デビュー40周年記念アルバムとはいえ、現時点での、リアルタイムでの「ジャズ・ピアニストの大江千里」を愛でる盤である。
 
 

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2024年9月 8日 (日曜日)

ヴァーヴのグラント・グリーン

9月になった。それでも、真夏日の日々は変わらない。まだまだ、長時間の外出は控えねばならない。熱中症の警戒しての昼下がりの「引き籠もり」の日は続く。引き篭もりの折には、ジャズを聴く。8月は「ボサノバ・ジャズ」だったが、9月になっても、ボサノバ・ジャズはなあ、ということで、なぜか「ファンキー・ジャズ」である(笑)。

Grant Green『His Majesty King Funk』(写真左)。1965年5月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Harold Vick (ts), Larry Young (org), Ben Dixon (ds), Candido Camero (bongo, congas)。グラント・グリーンといえば、キャリアのほぼ大半がブルーノート所属の、ブルノートのハウス・ギタリスト的な存在だった。パーソネルだけを見れば、ブルノートからのリリースかと思う。

が、この盤は、パーソネルはブルノートのイメージを借りているが、当時の大手レコード会社であった「ヴァーヴ」からのリリースである。グラント・グリーンの1950年代〜1960年代のディスコグラフィーの中で、この版だけがヴァーヴ・レコードからのリリース。プロデューサーは、後のフュージョン・ジャズの仕掛け人「クリード・テイラー」である。

ブルーノートでのグラント・グリーンのリーダー作においては、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギターを弾きまくるのが、グリーンの身上。しかし、この盤については、聴き易さを追求した様な、ポップで親しみ易く判り易い、一般大衆向け、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズに仕立て上げられている。これは、プロデューサーのクリード・テイラーの仕業であろう。
 

Grant-greenhis-majesty-king-funk

 
この盤と同様な「イージーリスニング志向のファンキー・ジャズ」のコンセプトで、同時期にブルーノートからは『I Want to Hold Your Hand』が出ているが、こちらは、レノン=マッカートニーの「I Want to Hold Your Hand(抱きしめたい)」の、ビートルズ・ナンバーのカヴァーを目玉にした、グリーンのギターの力量とテクニックの素晴らしさが実感できる秀逸な内容だった。これは、やはり、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの優れた手腕の賜物だろう。

さて、この『His Majesty King Funk』、ヴァーヴのクリード・テイラーとしては、二匹目のドジョウならぬ「二人目のウエス・モンゴメリー」を、グラント・グリーンに求めたのではないだろうか。しかしながら、グリーンは自らの「身上」の根底を曲げることはなかった様で、クリード・テイラーの指導よろしく、ちょっとポップでイージーリスニング志向に傾いてはいるが、独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキーなギターを弾きまくるスタイルは変えていない。

しっかり耳を傾ければ、グリーンのギター自体は、ブルーノート時代と変わっていないことが判るのだが、ちょっとポップでイージーリスニング志向の雰囲気が漂う分、この盤は、一部では「聴く価値無し」と酷評されている。が、ポップでイージーリスニング志向に傾いた「独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキー」なグラントのギターは、意外と聴き心地が良い。こういうグリーンもたまにあっても良いのでは、と僕は気軽に思っている。

このヴァーヴの『His Majesty King Funk』は、ブルーノートの『I Want to Hold Your Hand』と併せて、ポップでイージーリスニング志向に傾いた「独特のシングルトーンで、パッキパキ硬派で、こってこてファンキー」なグラントのギターを楽しむ、グリーンの「企画盤」の一枚だと僕は評価している。「気軽に聴けるグリーン盤」の一枚でしょう。
 
 

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2024年9月 6日 (金曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・27

この盤は、僕がジャズ者初心者の頃、よく聴いた。確か、当時、大手レコード屋が、ジャズ者初心者向けにアルバム紹介の冊子を配っていて、それをもらって、片っ端から「購入しては聴く」を繰り返していた。全40枚あったと思う。

そんな中に、このアルバムはあった。ジャケは「秋の公園のベンチで日向ぼっこをして寛ぐ老人の男性」の写真をあしらっていて、ちょっと違和感があったが、思い切って購入したのを覚えている。

Horace Silver『Song for My Father』(写真左)。1963年10月31日、1964年10月26日 の2回のセッションの寄せ集め。ここでは、CDリイシュー時のボートラの扱いは割愛する。ちなみにパーソネルは、当然、以下のの2つの編成に分かれる。

1963年10月31日の録音(#3, 6)が、Horace Silver (p), Blue Mitchell (tp), Junior Cook (ts), Gene Taylor (b), Roy Brooks (ds)。1964年10月26日(#1. 2. 4. 5)の録音が、Horace Silver (p), Carmell Jones (tp), Joe Henderson (ts), Teddy Smith (b), Roger Humphries (ds)。

この盤の大ヒット・チューン、冒頭のタイトル曲「Song for My Father」は、1964年10月26日のパーソネルでの演奏。併せて、2曲目「The Natives Are Restless Tonight」、4曲目「Que Pasa」、5曲目「Que Pasa」も同じパーソネルでの演奏。カーメル・ジョーンズのトランペットが効いている。ねじれたモーダルな演奏に走らない、ストレートアヘッドなファンキー・テナーを聴かせるヘンダーソンも聴き逃せない。
 

Songformyfathe_r

 
一方、3曲目「Calcutta Cutie」と5曲目は「Lonely Woman」は、1963年10月31日の録音で、パーソネルは、お馴染みの、ミッチェルのトランペット、クックのテナーがフロントの、伝説のシルバー・クインテット。手慣れた、聴き慣れた、シルバー流ファンキー・ジャズな音世界が広がる。

どちらのセッションの演奏も、どこか理知的な雰囲気が漂う、シルバー流のファンキー・ジャズなんだが、ファンキー度合いは、1964年のセッションの方が濃い。併せて、1964年のセッションは、ポップでメジャーな雰囲気で開放感がある。同じクインテットの演奏でも、1964年のセッションの演奏では、いわゆる「イメチェン」に成功している。

冒頭の「Song for My Father」が、かなりポップでコマーシャルなファンキー・ジャズなんだが、2曲目以降は、ジャズ者初心者が聴いても判り易い、理知的なシルバー流のファンキー・ジャズが続くので、アルバム全体に統一感もあって、よくまとまったシルバーのリーダー作だと思う。やはり、この盤は、ジャズ者初心者にピッタリのファンキー・ジャズ盤だと言える。

ちなみに、本作のタイトル曲「Song For My Father」はホレス・シルバーが自分の父親に捧げたもの。この盤のジャケ写の「帽子を被った葉巻のおじいさん」が実はホレス・シルヴァーの父君そのものである。

ブルーノート・レーベルって、モダン・ジャズの硬派でならしたレーベルなんだが、こういうジャケ写での「粋な計らい」をする、お茶目なレーベルでもある。
 
 

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2024年9月 5日 (木曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・26

ほんと、久しぶりにボサノバ・ジャズの元祖的アルバム『Getz / Gilberto』を、メインのステレオ装置で、しっかりとスピーカーに対峙して聴いた。僕なりのジャズ超名盤研究の第26回目である。

前にこの『Getz / Gilberto』を記事にしたのが、2006年7月。あれから、18年が経過した。それまでに、ボサノバ・ジャズのアルバムは、沢山、新規にリリースされたし、リイシューについても、今まで、ほとんど再発されなかった盤が、結構な数、リリースされた。そんなアルバムについては、標準以上のレベルのものが多く、ボサノバ&サンバ・ジャズは、ほぼ、ジャズの一ジャンルとして定着した感がある。

『Getz / Gilberto』(写真左)。1963年3月の録音。パーソネルは、Stan Getz (ts)、João Gilberto (g, vo)、Antonio Carlos Jobim (p)、Tommy Wiliams (b)、Milton Banana (ds)、Astrud Gilberto (vo)。今から振り返ると、なんとも言えない、このパーソネルで「ジャズ」をやったのか、と感心する。

ジョアン・ジルベルトは、ボサノヴァというジャンルを創成した功労者、生みの親。ジョアンを「ボサノバの神」などと呼ぶ人もいる位。この「ボサノヴァの神」がギターとボーカルを担当して、ジャズのリズム&ビートに乗って、ボサノバをやるのだ。かなり無理があったと思う。逆に、ジョアンの音楽性の柔軟度の高さに敬意を表したい。ジョアンの懐の深さがあったからこそ、このボサノバ・ジャズの元祖的アルバムが世に出たと僕は思う。
 

Getz-gilberto_1

 
アントニオ・カルロス・ジョビンは、ボサノバを代表するピアニスト。この人も、ボサノバでは「神」の様な存在であり、そんなジョビンが、よく、ボサノバ調のジャジーなリズム&ビートを捻り出しているなあ、と感心する。このジョビンのピアノが、以降のボサノバ・ジャズにおける良き「お手本」となっている。ボサノバ・ジャズのリズム&ビートは、ジョビンのピアノから派生したと言っても過言ではない。

アストラット・ジルベルトは、当時、ジョアンの妻君。ボーカリストとして全くの素人。ゲッツは、このアストラットの「英語による唄声」に大いなる魅力を感じて、大プッシュしたらしいが、ジョアンはかなり難色を示したらしい。それはそうで、ボサノバは英語では唄わない。しかし、英語で唄うボサノバ・ジャズのボーカルについては、このアストラットの「イパネマの娘」の素人ボーカルが「お手本」になったのは事実だろう。しかし、素人なので、やっぱり上手くはない。

ゲッツのテナーについては、ジョアンはうるさくてしかたがなかったらしいが、それもそのはず、ゲッツのテナーの音がやけに「大きい」。目立ちたい、前へ出たい、という意図が丸見え。これがジョアンの癇に障ったのだろう。確かに、ボサノバのアンニュイで気怠い雰囲気に合っていない。前に出たがらない、奥ゆかしい吹奏であれば、ボサノバ・ジャズにおける管楽器の「お手本」になったのだろうが、これだけ、テナーが大きい音で前へ出ているのは、どう聴いても、後の「お手本」なり損ねている。

いろいろ、良い点、課題点が山積した、初めての本場ボサノバと本場ジャズとの邂逅。初めての試みなので仕方がない。絶対的名盤とは言い難いが、後のボサノバ・ジャズの「基本・基準」となったことは確か。そんなボサノバ・ジャズの「超名盤」である。
 
 

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2024年9月 4日 (水曜日)

ポール・ウィナーズの第4弾です

昨日、ご紹介した、当時の楽器別ジャズ人気投票で1位(Poll Winner)を獲得した3人が、テンポラリーなトリオ、ポール・ウィナーズ・トリオ。

このトリオは、1957年から1960年の3年間で、全4枚のアルバムを出している。最初が『The Poll Winners』、2枚目が『The Poll Winners Ride Again!』、3枚目が昨日、ご紹介した『Poll Winners Three!』。せっかくなんで、最後の一枚を今日、取り上げる。

The Poll Winners『Exploring the Scene!』(写真)。1960年8,9月、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Ray Brown (b), Shelly Manne (ds)。楽器別ジャズ人気投票で1位を獲得した3人の「職人芸的トリオ演奏」の4作目。ポール・ウィナーズ・トリオとして、一旦、打ち止めのアルバムである。

冒頭の「Little Susie」を聴けば、演奏の洗練度合い、テクニックの精度とバリエーション、小粋なフレーズ回しなど、前3作に比べて、格段にレベルが上がっていて、もうこれ以上の演奏はないだろう、そして、この演奏レベルをコンスタントに維持し続けるのは難しい、との判断での「ポール・ウィナーズ・トリオとしての最終作」だと推察する。
 

The-poll-winnersexploring-the-scene

 
それほどまでに、トリオ演奏のレベルは高い。米国西海岸ジャズのレベルの高さ、テクニックの高さ、アレンジの優秀度の高さがこの盤を通して、ビンビンに感じる。東海岸ジャズとは趣きが異なる、西海岸ジャズ独特の個性が、この盤にギッシリ詰まっている。とにかく、米国西海岸ジャズを代表するジャズマン3人の演奏内容は、実にインクレディブルである。

選曲については、当時の「ミュージシャンズ・チューン」を中心に選んでいて、ファンキーな「Little Susie」や「Doodlin」「This Here」が、軽妙なアレンジで小粋に演奏されている。マイルスの「So What」のアレンジはいかにも西海岸ジャズらしい。こんなに小洒落て小粋で捻りの効いたアレンジの「So What」は聴いたことがない。

「The Golden Striker」のレイ・ブラウンのベースのボウイングによる旋律演奏も味がある。メインの演奏部の疾走感も半端ない。バラード曲「Misty」の味わい深い、耽美的かつリリカルな演奏には、思わずじっくり聴き入ってしまう。

米国東海岸ジャズには「無い」トリオ演奏。このポール・ウィナーズ・トリオの諸作は、洒脱で小粋で流麗な、「聴かせる」米国西海岸ジャズの特徴・特質がてんこ盛り。1980年代後半まで、我が国では、米国西海岸ジャズは過小評価されてきたが、このポール・ウィナーズ・トリオの演奏をしっかり聴けば、その過小評価は無くなるだろう。もっともっと広く聴かれるべきポール・ウィナーズ・トリオである。
 
 

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2024年9月 3日 (火曜日)

ポール・ウィナーズの第3弾です

台風10号が迷走し、その影響が関東地方にまで及んで、天気が不安定なこと極まりない。天気を見ながら、散歩に行くことはあるが、雨模様の日は、一日、しっかり引き篭もり。猛暑が少しだけ和らいだと思ったら、天気不安定で、再び引き篭もりである。

引き篭もりの部屋で聴くのはジャズ。酷暑の夏にハードなジャズはしんどいので、軽妙なボサノバ・ジャズなんぞを聴き流していたのだが、気がつけば、なんと9月である。9月になれば、もはやボサノバ・ジャズも無いよな、ということで、ライトで小粋なジャズをということで、米国ウエストコースト・ジャズに走ることにする。

『Poll Winners Three!』(写真)。1959年11月2日、ロスでの録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g), Ray Brown (b), Shelly Manne (ds)。当時の楽器別ジャズ人気投票で1位(Poll Winner)を獲得した3人が、テンポラリーなトリオ、ポール・ウィナーズ・トリオを組んで録音した企画盤の第3弾。第3弾だからと言って、マンネリな雰囲気は全く無い。
 

Poll-winners-three

 
第1作、第2作と比べて、収録されたスタンダード曲が、一部を除いて、なかなか渋い、マニアックな選曲になっている。が、それがとても良い。この「隠れ名曲」っぽい、渋いスタンダード曲を、聴かせるアレンジを施しつつ、小粋に演奏する様は実に軽妙。加えて、3人それぞれのテクニックが途方もないレベルで、しかし、耳障りにならない流麗さで、歌心満点に演奏する様は実に爽快。

ジャジーによく唄うケッセルのギターには思わず聴き惚れる。唄うが如くの流麗なフレーズを弾きまくるブラウンのベースには思わず、そば耳を立ててしまう。そんな二人の弾き回しを鼓舞し、ブラウンのウォーキング・ベースと共に、演奏全体のリズム&ビートを仕切るマンのドラムには、思わず感嘆の声を上げる。ほんと、この3人、上手い、の一言。

米国ウエストコースト・ジャズの良いところがギッシリ詰まった、素晴らしいトリオ演奏。洗練された三人の絶妙なインタープレイ、効果的にアレンジされたユニゾン&ハーモニー、3者3様の途方もない演奏テクニック。どれをとっても、前の2作より、さらに深化したパフォーマンスがてんこ盛りの秀作。いいアルバムです。
 
 

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2024年9月 1日 (日曜日)

バグスの多彩な才能の記録です

ジャズ・ヴァイブの神様、ミルト・ジャクソン(愛称「バグス」)のキャリア初期のリーダー作は、概ね、サボイ・レーベル(Savoy Label)からのリリースになる。ブルーノートの『Milt jackson』、プレスティッジの『Milt Jackson Quartet』は、どちらも該当レーベルからの単発。サボイからの最終作『Jackson's Ville』までのリーダー作9作中の6作までがサボイからのリリース。改めて「へ〜っ」と思ってしまう。

Milt jackson『Meet Milt Jackson』(写真左)1949年12月23日、1954年11月1日、1955年2月7日、1956年1月5日の4セッションからの寄せ集め収録。1956年のリリース。当然、パーソネルは複雑で、整理すると、

1949年12月23日(tracks 6–9)は、Milt Jackson (vib), Bill Massey (tp), Julius Watkins (French horn), Billy Mitchell (ts), Walter Bishop Jr. (p), Nelson Boyd (b), Roy Haynes (ds)。珍しいフレンチ・ホルンが入ったセプテット編成。

1954年11月1日(track 5)は、Milt Jackson (vib, p, vo), Frank Morgan (as), Walter Benton (ts), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。バグスが唄い、ピアノを弾く、変則クインテット編成。

1955年2月7日(track 4)は、Milt Jackson (vib, p), Frank Wess (ts, fl), Charlie Fowlkes (bs), Eddie Jones (b), Kenny Clarke (ds)。バグスがピアノを弾く、変則クインテット編成。

1956年1月5日(tracks 1–3)は、Milt Jackson (vib), Lucky Thompson (ts), Wade Legge (p), Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds)。スタンダードなクインテット編成。
 

Milt-jacksonmeet-milt-jackson

 
既出の4セッションから未収録だった演奏を寄せ集めているのだが、当盤のリリースが1956年なので、冒頭「They Can't Take That Away from Me」から、3曲目の「Flamingo」までが、当時、一番ホットな「1956年1月5日」の演奏で、収録曲が進むにつれ、録音年月日が過去に遡っていくという、ちょっと面白い曲の収録順となっている。

当然、後半6曲目「Hearing Bells」から、ラストの「Bubu」は、1949年12月23日の録音なので、1956年1月5日の録音と比べると、演奏自体、まだまだ、こなれていない、ちょっと硬くてギクシャクした演奏になっているが、これは仕方がない。

初期のバグスのサボイにおけるリーダー作は、内容的に優れたものが多いが、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌のジャズ盤紹介などで無視されている。ネット上でも、取り上げる人は僅少。

しかし、この盤を聴いてみると、バグスの多彩な才能が聴いて取れる。本業のヴァイブはもとより、ピアノの腕前もなかなかのもの、加えて、この盤ではボーカルまで披露していて、これもなかなかのもの。

4セッションからの寄せ集め収録の盤ではあるが、バグスのヴァイブについては、既に、1949年12月23日において、テクニック、歌心、フレーズの個性、いづれも、ほぼ完成の域に達しているので、4つのセッションを横断するバグスのヴァイブについては一貫性があって、アルバム全体に統一感がある。グループサウンズ自体は、その時代の標準レベルなので、古い演奏ほど、内容が伴わないのは致し方ない。

このアルバムの副題に「Vibist, Pianist. Vocalist」とあるのは「言い得て妙」。この盤は若き日のバグスの多彩な才能の記録である。
 
 

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2024年8月31日 (土曜日)

若き日のバグスの成熟度合い

ミルト・ジャクソン(Milt jackson)。ジャズ・ヴァイブの神様。愛称は「バグス」。このバグスのリーダー作を棚卸しがてら、聴き直しているのだが、バグスの初期のリーダー作って、どんなんだっけ、と思い当たった。

ブルーノートの『Milt jackson』、プレスティッジの『Milt Jackson Quartet』はしっかり聴いているが、その他は意外と怪しい。バグスのディスコグラフフィーを再確認して、該当する幾枚かの盤について語ってみたい。

Milt Jackson『Roll 'Em Bags』(写真左)。1949年1月25日と1956年1月5日の録音。Savoyレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、以下の通り。バグスは1923年1月生まれなので、1949年の録音時は26歳の時の録音になる。

1949年1月25日の録音(tracks 1-6)は、Milt Jackson (vib, p), Kenny Dorham (tp), Billy Mitchell (ts), Julius Watkins (French horn), Curly Russell (b), Kenny Clarke (ds), Joe Harris (timbales)。フレンチ・ホルンの参加が珍しいセプテット(7人編成)。

1956年1月5日の録音(tracks 7-9)は、Milt Jackson (vib, p), Lucky Thompson (ts) Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds)。バグスのヴァイブと、トンプソンのテナーがフロントのピアノレスのカルテット(4人編成)。

バグス以前は、ジャズ・ヴァイブ奏者として有名な存在は、ライオネル・ハンプトンとレッド・ノーヴォの2人だけ。ハンプトンの演奏スタイルは「スイング」、ノーヴォの演奏スタイルは「ビ・バップ」。
 

Milt-jacksonroll-em-bags  

 
バグスは1945年、ディジー・ガレスピーの楽団に入って、プロとしてのキャリアをスタートさせていて、演奏スタイルは「ビ・バップ」。程なく、ハードバップのトレンドが押し寄せ、バグスはいち早くハードバップに適応し、ジャズ・ヴァイブの第一人者としての地位を確立している。

そんな「ビ・バップ」のバグスと、「ハードバップ」のバグス、両方のバグスのヴァイブが確認できるアルバムのこの『Roll 'Em Bags』である。1949年1月25日のセッションにて「ビ・バップ」のバグス、1956年1月5日の録音にて「ハードバップ」のバグスのヴァイブが確認できる内容となっていて、とても興味深い。

1949年1月25日の録音の、アルバム冒頭の「Conglomeration」のバグスのヴァイブは「ビ・バップ」だが、流麗かつファンキー&ブルージーな雰囲気濃厚なヴァイブは、ほぼ完成の域にあって、明らかに、ハンプトンやノーヴォのヴァイブとは一線を画する。テクニック面でも一段違う、高度でテクニカルで歌心溢れるヴァイブで、バグスの唄うようにヴァイブを弾き進める様は、他の楽器の演奏と比較しても、一段抜きん出ている。

1956年1月5日の録音では、バグスのヴァイブは「ハードバップ」。ジャズ・ヴァイブの第一人者として、ハードバップに完全適応した、流麗かつファンキー&ブルージーな雰囲気濃厚なヴァイブは完成されている。1949年1月25日のヴァイブと比較して、余裕度の高い、流麗度合いが増した、爽やかで軽やかなファンキー&ブルージーな雰囲気濃厚。

ジャズ・ヴァイブの神様「バグス」のジャズ・ヴァイブは、1949年の時点で、ほぼ完成の域に達していることが良く判る。これは、ブルーノートの『Milt jackson』、プレスティッジの『Milt Jackson Quartet』と同様。サボイにも若き日のバグスの成熟度合いが確認できる、重要な内容の盤があった、ということ。バグスのジャズ・ヴァイブの完成を確認する上で、このサボイの『Roll 'Em Bags』もマスト・アイテムな盤であることが良く判る。
 
 

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2024年8月30日 (金曜日)

Milt Jackson名盤 ”Bags’ Opus”

ミルト・ジャクソンはジャズ・ヴァイブの神様。愛称は「バグス」。このバグスのリーダー作を棚卸しがてら、聴き直しているのだが、バグスのリーダー作の中での名盤・好盤の類について、当ブログでまだまだ記事化されていないものがある。これはいかん、ということで、バグスのリーダー作の記事化のコンプリートを目指して、せっせとアルバムを聴き直している。

Milt Jackson『Bags' Opus』(写真左)。1958年12月28–29日の録音。United Artists レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Milt Jackson (vib), Art Farmer (tp), Benny Golson (ts), Tommy Flanagan (p), Paul Chambers (b), Connie Kay (ds)。バグスのヴァイブ、ファーマーのトランペット、ゴルソンのテナーがフロントの、バックには、トミフラのピアノ、ポルチェンのベース、ケイのドラムという、燻銀ピアノ・トリオがリズム隊として控えている。

このパーソネルを見て感じるのは、ハードバップ・ジャズのそれぞれの楽器の人気ジャズマンがズラリと顔を並べていて、これはもう、内容充実のハードバップ盤だということ。冒頭の「Ill Wind」で、この曲は、ファーマーのトランペットとゴルソンのテナー抜きの、バグスがメインのカルテットで、しみじみと始まるのが実に良い。バグスのヴァイブの流麗でブルージーで唄うような、染み渡るようなフレーズが映えに映える。
 

Milt-jacksonbags-opus

 
この盤には、ベニー・ゴルソンがいる。ハードバップのアレンジの最高峰の一つ「ゴルソン・ハーモニー」の創始者で、この盤でも、ゴルソン本人の作編曲で、「I Remember Clifford」と「Whisper Not」の2大名曲を、バグスのヴァイブがフロントで聴くことが出来る。これがまあ、名演中の名演で、他の演奏と印象が全く異なる。「I Remember Clifford」と「Whisper Not」って、ヴァイブの音が合うんですねえ。ファンクネス漂い、哀愁感タップリ、歌心満載。改めて感心。

ジョン・ルイス作の「Afternoon In Paris」も、曲の持ち味をしっかり踏まえて、アドリブをかます、バグスのヴァイブは見事だし、バラード曲「Thinking Of You」をやらせれば、バグスの面目躍如、自家薬籠中のもの、情感溢れ、耽美的でリリカル、それでいて、ファンクネスが実に芳しい、バグスならではの優れたバラード演奏を聴くことが出来る。ソロを取っても、バックに回っても、バグスのヴァイブは素晴らしいパフォーマンス。

タイトルの「Opus」から、バグスの名盤のひとつ『Opus De Jazz』を想起して、この『Bags' Opus』って、『Opus De Jazz』の二番煎じかと思ったら、全く違った。思い違いも甚だしい。『Opus De Jazz』が1955年10月の録音なので、この3年間で、バグスは確実に進化していた、ということ。バグスのパフォーマンスについては、この『Bags' Opus』の方が、『Opus De Jazz』の名演に比べて、演奏の深みが増している。
 
 

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