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2019年5月 6日 (月曜日)

エレ鍵盤楽器好きには堪らない

1970年代に入って、電子楽器は急激に発達した。僕達はリアルタイムにその「発達」を体験して来た年代なんだが、特にビックリしたのが「シンセサイザー」の登場。初めてその音を聴いたのは、プログレ・トリオ、Emerson, Lake & Palmerの『展覧会の絵』だったが、何の音だか全く判らず、とにかく「これは面白い」と何回も繰り返し聴き込んだのを覚えている。
 
ジャズ界においても、1970年代に入って、電子キーボード、代表的なものとしては、フェンダー・ローズ、シンセサイザー、電子ピアノ(エレピ)などがジャズにも入り込んできた。アコースティック・ピアノ(アコピ)と同じ鍵盤楽器なので、アコピの名手はエレピの名手の思いがちなのだが、これが同じ鍵盤楽器ながら全く扱いが異なるもので、アコピの名手が必ずしもエレピの名手では無い、という事象が発生した。
 
1980年代に入ると、デジタル機材が出現し、キーボードもその例に漏れず、デジタル化に染まっていった。これがまた、アナログ・キーボードと音の性質が全く異なり、デジタル・キーボードに対しても、それなりのノウハウとテクニックが必要であることが判った。しかし、聴く方としては、音の種類の裾野がグッと広がって、キーボードがメインのコンテンポラリーなジャズを聴くのが楽しみになっていった。そして、21世紀に入り、今年は2019年。
 
 
Elemental-otmaro-ruiz
  
 
Otmaro Ruiz, Jimmy Branly & Jimmy Haslip『Elemental』(写真左)。2018年11月のリリース。ちなみにパーソネルは、Otmaro Ruiz (ac-p,el-p,syn), Jimmy Branly (ds), Jimmy Haslip (b) 。オトマロ・ルイーズ(写真右)のキーボードをメインに据えた、トリオ編成である。オトマロ・ルイーズは、1964年、ベネズエラ、カラカス生まれ。実に理知的でセンスの良いキーボード奏者である。
 
アルバムの前半は、シンセサイザーとか電子ピアノとか、エレ・キーボードがメインの演奏。実に趣味の良い典雅なフレーズをエレピやシンセで弾き進めるので、実に聴いていて心地良い。雰囲気的にはチック・コリアとハービー・ハンコックの「ええとこ取り」。それぞれのキーボードの特性を良く把握しているのであろう、とても良い音でエレピやシンセが鳴る。エレピを駆使してのフレーズの弾き回しも印象的。
  
後半に進むに従って、エレピの使用の割合が多くなる。ルイーズはアコピについても、その弾きっぷりは「第一級」でアコピとエレピの対比が実に印象的。この盤、本当にジャズ・キーボード好きには堪らない内容に仕上がっていて、思わず「こんなアルバムあったんや」と唸ってしまった。当然、現在、バーチャル音楽喫茶『松和』ではヘビロテ状態である。
 
 
 
東日本大震災から8年1ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年4月24日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・145

僕はこのドラマーの音が、このドラマーが創造する音が好きだ。初めて聴いた時からズッとだ。そのドラマーの名前は「ブライアン・ブレイド(Brian Blade)。1970年7月、米国ルイジアナ州生まれ。現時点で48歳。脂ののりきった中堅ジャズマン。こんなにユニークなドラミングが聴けるとは思ってもみなかった。
 
硬軟自在、変幻自在、緩急自在、音の音色の豊かさ。変な喩えなんだが「パーカッションらしいドラミング」。従来のジャズ・ドラミングに無い、メロディアスなドラミング、とでも表現しようか。とにかく良い意味でユニークなドラミングなのだ。聴いているだけで、これだけ「面白い」ドラミングなのだ。一緒に共演して演奏したら、どれほど楽しいのだろうか。今では「ファースト・コール」ドラマーの一人である。
 
Brian Blade Fellowship『Perceptual』(写真左)。1999年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Brian Blade (ac-g, ds, vo), Kurt Rosenwinkel (ac-g, el-g), Christopher Thomas (b, vo), Myron Walden (b-cl, as), Melvin Butler (ts, ss), Jon Cowherd (p, key), Dave Easley (steel-g), Daniel Lanois (ac-guitar, steel-g), Joni Mitchell – vocals ("Steadfast")。錚々たる同世代がメインのメンバー「Fellowship」。
 
 
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この『Perceptual』はフェローシップとしての作品の第2弾になる。米国の広々とした自然や空間を想起する、僕が勝手に呼んでいるのだが「ネイチャー・ジャズ」。パット・メセニーの音世界に近いものがある。これが僕にとっては「大好物」なのだ。美しい、とても印象的な演奏。メロディアスではあるが、決してイージーに陥らない。
 
メロディアスで耽美的な「スピリチュアル・ジャズ」と形容して良いくらい、充実した、クールに「熱い」演奏。勿論、ブレイドのドラミングは個性的で素晴らしいのだが、同じくらいに印象に残る音が、カート・ローゼンウィンケル(Kurt Rosenwinkel)のギター。特にエレギが印象的。ちょっとくすんだ伸びの良い、ちょっと捻れた、ちょっと尖ったエレギ。パットのギターのフォロワー的印象。
 
これ見よがしに変拍子、転拍子を見せつけてるようなところは見えない、フェローシップ全員、気合いの入った自然体な演奏。結構、難しいことをやっているんだが、決して難解には聴こえない。逆に自然にシンプルに聴くこえるから面白い。1970年代、ECMレーベルに展開された「ニュー・ジャズ」。この「ニュー・ジャズ」がジャズ界でもポピュラーな存在になったきた様です。このフェローシップの音を聴くと改めてそう思います。
 
 
 
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2019年4月20日 (土曜日)

仏ジャズを代表するトリオ盤

ジャズという演奏フォーマットは「即興演奏」が最大の特徴。演奏者個々の力量がそのまま演奏にダイレクトに出る。そして、個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わったりする。この辺が譜面通りに演奏することをメインとしたクラシックと「真逆」なところ。
 
このクラシックと「真逆」のところが面白くて、ずっと40年以上もジャズを聴いている訳だが、この「個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わる」というアルバムについては、ジャズの世界ではちょくちょく出くわす。それほど、ジャズマンは「個性の塊」の人が多くいる。というか「個性の塊」でないとジャズマンは勤まらない、と言った方が良いのか。
 
このアルバムを初めて聴いた時、全く硬派で整ったハードバップ・ジャズだと感じた。絵に描いた様なハードバップな演奏。新しい要素もいろいろ入ってはいる。モーダルな展開もあれば、スピリチュアルな展開もある。ジャズ・サンバもある。それでも基本は「ハードバップ」。よくよく聴くと、そんな雰囲気を決定付けているのは「アコースティック・ベース」の存在。
 
 
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そのアルバムとは、Marc Hemmeler『Easy Does It』(写真左)。仏リヨン出身のジャズ・ピアニスト、マーク・エムラーの1981年リリース作品。ちなみにパーソネルは、Marc Hemmler (p), Ray Brown (b), Daniel Humair (ds), Stephane Grappelli (vln)。エムラーのピアノ・トリオに、ジャズ・バイオリンの名手、グラッペリが1曲だけ客演した構図。エムラーのピアノ・トリオがメインである。
 
ジャズ・ベースのレジェンドの一人、レイ・ブラウンのベースの存在感が半端無い。ブンブン唸るようにアコベの胴鳴り。鋼が鳴るような弦の爪弾き。このブラウンのベースが演奏全体の雰囲気を決定付けている。躍動感溢れ端正なアドリブ展開、ノリ良くスインギーなフレーズ。ブラウンのベースがこの上質なハードバップ演奏の雰囲気をグイグイとリードする。
 
もちろん、リーダーのエムラーのピアノも欧州ジャズのピアノらしく、ファンクネス希薄で端正で流麗。タッチも明確で聴き心地は良好。フランスを代表する名手、ドラムのユメールの好サポートも見逃せない。しかし、そこにブラウンのベースが入ったからこそ、内容の高い、高いレベルの仏ジャズを代表するピアノ・トリオ盤に仕上がった、と僕は感じている。
 
「個性の強い演奏者が入ると、その個性に引き摺られて、演奏全体の雰囲気がガラッと変わる」。ジャズって面白いなあ。
 
 
 
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2019年4月18日 (木曜日)

こんなアルバムあったんや・112

フィル・ウッズのアルト・サックスは爽快である。切れ味の良い、ストレートな吹きっぷり。唄うが如く、伸びやかに吹き回すアドリブ・フレーズ。ファンクネスはそこそこに抑えられ、オフビートの躍動感とジャジーな雰囲気を前面に押し出した音色。フィル・ウッズも個性派プレイヤーの一人である。
 
そんなフィル・ウッズも2015年9月に鬼籍に入ってしまった。既に3年が経過している。それでもまだ未発表集やリイシュー盤が出てくるのだから、ウッズってやっぱり人気のアルト・サックス奏者やったんやなあ、と改めて感心する。そんなリイシュー盤の一枚が、Phil Woods『I Remember』(写真左)。1978年3月の録音。
 
僕はこの盤を知らなかった。ジャズ雑誌の新盤紹介を読んで初めて知った。で、早速入手して聴いてみた。冒頭は、キャノンボール・アダレイ作の「Julian」。ビッグバンドをバックにウッズが吹きまくる。エレピが印象的なゴスペル調のファンキーな演奏だ。うむむ、格好良いでは無いか。ビッグバンドのバックがちょっと甘さを感じさせるが、ウッズのアルトがグッと引き締める。
 
 
I-remember-phil-woods  
 
 
以降、収録曲を眺めてみると、ウッズが敬愛する8人のミュージシャンを追悼したものであることが判る。しかも、これらの曲をオリジナルとは全く別の、ウッズ・オリジナルのアレンジを施してカヴァーしているのだ。このアレンジがどれも良く出来ている。バックにオーケストラ付きの演奏もあるが、決して陳腐になっていない。ぎりジャズとして成立しているアレンジが見事。
 
どの演奏でも、やはりウッズのアルト・サックスの音色が印象的だ。どこで吹いてもしっかりと爽やかに目立っている。思わず、ビリー・ジョエルの「素顔のままで(Just the Way You Are)」での、あの伝説のソロ・パフォーマンスを想起する、ウッズ独特の唄うが如く伸びやかな、切れ味の良い、ストレートな吹きっぷり。聴き応え十分である。
 
ウッズのアルト・サックスをとことん愛でることが出来る、加えて、ウッズのアレンジの才を確認出来る好盤です。盤全体の雰囲気は、アコースティックがメインの演奏ではあるが、ソフト&メロウ、そしてソウルを追求したフュージョン・ジャズっぽい雰囲気が僕は大変気に入りました。早速、今月のヘビロテ盤の仲間入りをしています。
 
 
 
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2019年4月13日 (土曜日)

フランス・ジャズの魅力的トリオ

フランスという国も昔からジャズが盛んである。古くはサックスの「バルネ・ウィラン」、1980年代から90年代にかけてはピアノの「ミシェル・ペトルチアーニ」とパッと浮かぶ人気ジャズ奏者がいつの時代にもいる。フランスはもともと芸術を尊ぶ国。米国で生まれたジャズについても「即興の芸術」として長く扱われている。
 
EYM Trio『Genesi』(写真左)。2013年のリリース。ちなみにパーソネルは、Elie Dufour (p), Yann Phayphet (b), Marc Michel (ds)。ブルガリア人の血を引くピアニストのエリー・デュフールを中心に、ベーシストのヤン・ファイフェット、ドラマーのマーク・ミシェルという3人がリヨンの音楽院で出会い、結成したピアノ・トリオが「EYM Trio」。そのデビューは2011年。タイトルの「Genesi」はイタリア語で「創世記」の意。彼らの記念すべきデビュー盤である。
 
演奏の音を聴けば、明らかに米国ジャズにおけるピアノ・トリオとは全く異なった雰囲気であることが良く判る。まず、リズム&ビートにファンクネスが希薄。陰影のある奥深い響きのオフビートがユニーク。演奏の根幹に「ブルージー」な響きがほとんど感じられない。欧州ジャズはクラシック音楽の響きをメインにしており、EYM Trioも例外では無い。
 
 
Genesi-eym-trio  
 
 
テクニックは高いレベル。演奏に破綻は全く無く、走りすぎたり遅速に陥ることも無い。テクニックの高いレベルでのインタープレイはスリリング。この「スリル」が適度なテンションを産んで、このトリオの音を詰め込まない、即興の「のり代」を残したアドリブ・フレーズは不思議な落ち着きを生み出す。アドリブ・フレーズから感じる「哀愁感」が独特。
 
東ヨーロッパには中東風ともヨーロッパ風ともいえない不思議なメロディーやリズムが存在するが、EYM Trioはその東ヨーロッパのメロディーやリズムに影響を受けた響きが存在するように感じる。アドリブ・フレーズから感じる、この「哀愁感」は恐らくは東ヨーロッパのメロディーやリズムからの影響と推察する。この他の欧州ジャズのピアノ・トリオとはちょっと違う「哀愁感」という響きの個性。填まると癖になる。この見え隠れする不思議なメロディーとリズムが聴いていて心地良い。
 
アルバムのジャケットのデザインもユニークでアーティスティック。哀愁とスリルに満ちた楽曲がてんこ盛り。耽美的でアーシーで堅実な現代のピアノ・トリオ。こういうピアノ・トリオを生み出すフランス・ジャズ。現代のジャズ・シーンの中でも隅に置けない存在、隅に置けない国あることは間違い無い。
 
 
 
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2019年4月10日 (水曜日)

ジャズ喫茶で流したい・144

欧州ジャズは、ECM、Steeplechase、Enjaの三大レーベルがメインで発展した来た様に思う。他の欧州のマイナー・レーベルの貢献もあろうかと思うが、米国、そして日本という欧州以外のリージョンについては、やはりこの三大レーベルを介して、欧州ジャズを体験していった様に思う。

地域的にはコペンハーゲンを中心とする北欧ジャズと欧州に移り住んだ米国ジャズメン達のジャズが大半だったという思い出が強い。しかし、この10年間のうちに欧州ジャズの出身地が急速に拡がってきている。第一にイタリア、そして英国、ドイツのジャズが我が国にもやってきて、最近ではイスラエル、そしてポーランドのジャズが流行になってきている。

Simple Acoustic Trio『Habanera』(写真左)。2000年のリリース。ちなみにパーソネルは、Marcin Wasilewski (p), Sławomir Kurkiewicz (b), Michał Miśkiewicz (ds)。Simple Acoustic Trioとは、ポーランド・ジャズ界を代表するピアニスト、マルチン・ボシレフスキを中心とする、純ポーランドなピアノ・トリオである。
 
 
Habanera-simple-acoustic-trio  
 
 
ベタなトリオ名からして、大スタンダード曲中心のカクテル・ピアノっぽいトリオ演奏かしら、と訝しく思いながら、聴き始めると「あらビックリ」。俗っぽさなど微塵も無い。欧州ジャズらしい流麗なメロディ、透明感溢れるサウンド。北欧ジャズとの違いは哀愁感溢れるマイナーでエコーたっぷりな響きが希薄なところ。意外と質実剛健なところが見え隠れする、ロマンチックなピアノ・トリオ演奏。
 
欧州ジャズの共通項としてロマンティックではある。が、意外と硬派で質実剛健なところを加味した音が、ポーランド・ジャズの個性だろうと感じている。最初はロマンに流されるか、と心配になるが、そこにコーンとドラムが入り、ブンブンとベースが引き締めれば、グッと硬派なエッジの立った、上質で流麗な、明確で一本筋の通ったタッチが清々しいピアノの響きが現れる。
 
静的なフレーズが全体を覆うのだが、適度なテンションを保ったインタープレイとニュー・ジャズ特有のファンクネス希薄で自由度の高いビートが意外とホットで、飽きるどころか、聴けば聴くほどに奥の深い演奏に思わず聴き入ってしまう。ジャケットも思いっきり欧州ジャズ風で趣味の良いもの。これは絶対にジャズ喫茶でかけたい盤である。
 
 
 
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2019年3月31日 (日曜日)

今までに聴いたことの無いジャズ

クリス・チーク(Chris Cheek)というサックス奏者がいる。いわゆるブルックリン派の代表格のサックス奏者。1968年生まれなので、今年で51歳になる。1990年代、ポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンドでその名をアピール、NYのブルックリンを中心としたシーンの中核を担うメンバーに成長、同じサックス奏者のマーク・ターナーと共に、新しいサックスのサウンドを生み出し、深化させている。
 
チークのサックスは、今までのジャズに無い雰囲気である。サックスであれば、それまでは必ず、コルトレーンの影響を受けていたし、コルトレーンの奏法のどこかを反映したフレーズが必ず見え隠れした。が、チークの(ターナーも同様なのだが)サックスは違った。それまでの「ジャズ・サックス」の概念を一掃し、全く新しい「ジャズ・サックス」を世に出した。
 
まずもって、4ビートなどどこにも無い。いわゆる1970年代以降の「ニュー・ジャズ」である。加えて、バップ・フレーズの欠片も無い。サックスは絶対に熱く吹かれることは無い。どこまでもクールに淡々と情感を内に秘めつつ、淡々と音を紡いでいく。そんな音世界である。そんな音世界を支えるアレンジも、今までに無い斬新なアレンジ。つまりは今までに聴いたことの無いジャズがこの盤に詰まっていた。
 
 
Vine  
 
 
Chris Cheek『Vine』(写真左)。1999年、NYでの録音。Chris Cheek (ts,ss,comp), Brad Mehldau (p,fender rhodes), Kurt Rosenwinkel (g), Matt Penman (b), Jorge Rossy (ds) 。今の目で見ると、錚々たるメンバーである。現代ジャズ・ピアノの代表格の一人、ブラッド・メルドー、これまた現代ジャズ・ギターの中堅、クルト・ローゼンウィンケル。この二人の名前だけでも「おお〜っ」となる。
 
計8曲すべてチーク自身のオリジナル。これがまた、新しい響きを宿している。4ビート無し、バップ・フレーズ無し、どこまでもクールに淡々と情感を内に秘めつつ、淡々と音を紡ぐテナー。演奏の形式はしっかりと旧来のジャズの通り押さえられているので、フリー・ジャズを聴く様な苦行は無いが、曲のフィーリングは旧来のジャズとは全く異なるものなので、ジャズ者の中でもはっきりと「好き嫌い」が分かれるだろう。
 
といって、この新しい感覚のニュー・ジャズを理解出来ないと駄目だ、とは思わない。これもジャズ。旧来のジャズもジャズ。ジャズは懐深く、裾野の広い音楽ジャンル。だからこそ面白い。でも、このチークのニュー・ジャズって、我が国のジャズ者の間で広く認知され、相応の人気を獲得するには、まだまだ時間がかかる様な気がしている。旧来のジャズにも強烈な魅力があるからなあ。
 
 
 
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2019年3月26日 (火曜日)

最近のお気に入りエレギもう一人

最近のジャズ・ギター。ギラッド・ヘクセルマン、カート・ローゼンウィンケルが、僕の最近のお気に入りギタリストと書いた。う〜ん、もう一人、誰か忘れているなあ、と思いつつ、最近の新リリース盤を眺めていたら、そうそう、この人の名前を忘れていた。「ジュリアン・レイジ(Julian Lage)」である。
 
1987年生まれで、子供の頃から「神童」と騒がれ、アーティストとしての育ての親ともいうべきゲイリー・バートンに見出されて頭角を現したレイジも今年32歳。充実と進化の若手の時代を通り過ぎ、ジャズの中堅的存在の「筆頭の一人」として、これからの活躍が楽しみである。そんなレイジが新作をリリースした。Julian Lage『Love Hurts』(写真左)である。今年2月のリリースである。
 
ちなみにパーソネルは、Julian Lage (g), Dave King (ds), Jorge Roeder (b)。キーボードレスのギター・トリオな編成。今回の新盤については、収録曲に注目。ジュリアン・ラージ本人のお気に入りの楽曲なんだが、今回は1960〜1970年代の楽曲がメイン。ネオ・スタンダードな雰囲気が色濃く漂う。そして、新たなドラマーの参入も興味深い。今回はドラマーに、“バッド・プラス”のドラマー、デイヴ・キングを迎えている。
 
 
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タイトル曲「Love Hurts」については、エヴァリー・ブラザーズによって初録音され、ナザレスのカバーによってヒットし、数々のアーティストによってカバーされてきた名曲。ラストの「Crying」は、ロイ・オーヴィソンのメローなナンバー。それぞれの曲の演奏の中に、米国ルーツ音楽の要素、例えばカントリーやソウル、そして、70年代のロックなどの音楽の要素が織り込まれていて、どこか新しく、どこか懐かしい響きがする。
 
そして、僕はジュリアン・レイジのエレギの音が大好きだ。アタッチメントを駆使したくすんだ伸びのあるフレーズ。音の芯がしっかりしていて、紡ぎ出すフレーズに揺るぎは無い。速弾きなどのテクニックに頼らず、ミッドテンポで、それぞれの収録曲の持つ美しい旋律を浮かび出させるように、ゆったりと堅実に弾き進めていく。これが聴き味抜群、思わず身を乗り出して聴き入ってしまう。
 
2曲目には、オーネット・コールマンの「Tomorrow Is The Question」を採り上げていて、レイジのエレギとしては少し意外な、アブストラクトでスピリチュアルな「隠れた側面」も披露してくれる。アルバム全体を通して、レイジのエレギの音世界は大らかで心地良い拡がりのあるもの。それは明らかに「唯一無二」な個性で、聴いていて楽しく、聴いていて頼もしい。良いジャズ・エレギです。
 
 
 
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2019年3月12日 (火曜日)

クールで大人のテナーが清々しい

Mark Turner『Yam Yam』を聴いて、僕はこう書いた。マーク・ターナーのテナーは「クール・テナー」。芯のある浮遊感と繊細で知的なニュアンス。ブラッド・メルドーの弁を借りると「マーク・ターナーのホーンのサウンドは見紛いようがない。暖かく、深い優しさをたたえ、甘たるくなく、まさにこれぞ誘惑の味がする」。

それまでのジャズ・テナーの印象である「たくましい、豪快といった男性的なイメージ」を覆す、クール・スタイルのテナーが清々しい。スムース・ジャズのテナーをメインストリーム・ジャズにそのまま持って来た様なイメージ。それでいて、芯のしっかりある音で説得力がある。ユニークなスタイルのジャズ・テナーである。僕はすっかりファンになった。

Mark Turner『In This World』(写真左)。1998年6月の録音。ターナーのメジャー・レーベル第2弾。ちなみにパーソネルは、Mark Turner (ts), Brad Mehldau (ac-p, el-p), Kurt Rosenwinkel (g), Larry Grenadier (b), Brian Blade (ds), Jorge Rossy (ds)。今から見れば、なんと錚々たるメンバーではないか。現代ネオ・ハードバップの精鋭達が大集合である。
 

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メインは、ターナーのテナーをフロントに、メルドー=グラナディア=ブレイドのピアノ・トリオがリズム・セクションを担う。印象的で耽美的なギターはローゼンウィンケルで3曲に客演、ロッシーのドラムは2曲でブレイドとツインドラムを形成する。このワンホーン・カルテット+αの編成は、様々な曲調、曲想の演奏をいとも容易く、柔軟に展開する。素晴らしいポテンシャルである。

オーソドックスなネオ・ハードバップから、ショーターばりの捻れて思索的な展開、フリーな演奏から8ビートのジャズロック風の演奏まで、バラエティーの富んだ内容なんだが、不思議と統一感がある。その統一感を現出しているのが、マーク・ターナーのテナー。彼のクール・スタイルなテナーが一貫しているが故の「1本筋の通った統一感」が清々しい。

バックの演奏はいずれも素晴らしいが、特筆すべきはブレイドのドラミング。しっかりとバッキングに回りながら、鋭さと繊細さの相反した表現を融合した柔軟度の高いドラミングは当代随一のものだろう。クールで大人なネオ・ハードバップ。この盤、じっくり聴き進めていくと、ジワジワその良さが沁みてきます。

 
 
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2019年3月 1日 (金曜日)

こんなアルバムあったんや・110

先週、ハンク・ジョーンズの『The Talented Touch』という素敵なトリオ盤をご紹介した。ハンクのピアノは端正でタッチが明確で流麗。テクニックは確かで、仄かにファンクネスが漂うフレーズ。1970年代後半、若きトニー&ロンと組んだGJTでの「マッチョ」でダイナミックなハンクも良いが、典雅で小粋なハンクは更に良い。

Hank Jones『The Trio』(写真左)。1955年8月4日の録音。ちなみにパーソネルは、Hank Jones (p), Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds)。録音はニュージャージーはハッケンサックの    Van Gelder Studio。玄人好みのレーベル、サヴォイからのリリース。どうりで音が良い訳だ。LPの初盤で聴いてみたかったなあ。

ハンクは1918年生まれ。このトリオ盤を録音した時点で37歳。それにしては「枯れた味わい」が素敵なピアノである。派手な立ち回りとは全く無縁。しっとり落ち着いた大人の雰囲気。しかし、タッチはしっかり明確。フレーズは流麗。バラードは典雅。これが37歳の、まだまだ若いピアニストが奏でる音なのか、と感心する。1970年代後半、GJTでの60歳を迎えたハンクのほうが、明らかに「やんちゃ」である。
 

Hank_jones_the_trio

 
この「若年寄」の如き、流麗で典雅なピアノをしっかり支えるバックが、これまた「玄人好み」。骨太なウォーキング・ベースが好印象のウェンデル・マーシャル。ブンブン胴鳴りするアコベは魅力満載。シンプルにビートを刻むが、フロントのピアノに合わせて陰影をつける粋なドラミングはケニー・クラーク。この二人のリズム隊はハンクのピアノにピッタリ。

そして、この盤の面白味は、スタンダード曲を弾かせたら天下一品のハンクが、自作曲をこれまた典雅に流麗に弾き回していること。1曲目の「We're All Together」続く「Odd Number」など良い出来です。スタンダード曲は相変わらず良い出来。「There's a Small Hotel」や、おなじみの「"My Funny Valentine」は絶品です。

実はこのトリオ盤、つい最近まで知りませんでした。とあるジャズ盤紹介本で知った次第。サヴォイ・レーベルからのリリースで、サヴォイらしくなくジャケットが地味なんで、紹介本で知識を付けていなかったら、店頭に並んでいても手に取らなかったでしょうね。今回はジャズ盤紹介本に感謝です。

 
 
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