2022年12月24日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・19

僕は、マイルス・デイヴィスとギル・エヴァンスのコラボレーションが大のお気に入りだ。Columbiaレコード移籍後の(レコーディングは前だが)『'Round About Midnight』から『Miles Ahead』『Milestones』『Porgy and Bess』『Kind of Blue』『Sketches of Spain』まで、ギルが直接関与したものから、間接的なものまで、マイルスとギルのコラボの成果はどのアルバムを聴いても、今でも惚れ惚れする。

時期的には、1955年から1960年初頭、ジャズでいうと「ハードバップ全盛期」である。そんな「ハードバップ全盛期」に、マイルスはいち早く、ポスト・ハードバップを打ち出し、モード・ジャズへのチャレンジと確立に取り組んでいる。この辺が、魔王ルスの「先取性」であり「革新性」の優れたところなんだが、マイルスが「ジャズの帝王」と呼ばれる所以だろう。

『'Round About Midnight』で、いち早く、ハードバップの演奏フォーマットを確立させ、次作の『Miles Ahead』から、ギルとのコラボで、モード・ジャズに取組み始める。最初の明確な成果が『Milestones』、そして、そのモード・ジャズを確立し、奏法的にも「けりを付けた」のが『Sketches of Spain』だろう。

Miles Davis『Sketches of Spain』(写真左)。1959年11月、1960年3月の録音。ちなみにパーソネルは、と言いたいところだが、細かいメンバー紹介は割愛する。
 

Sketches_of_spain_1
 

なんせ、この盤の演奏は、Miles Davis (tp) が主役、Gil Evans (arr, cond) とのコラボで、バックに錚々たるメンバーのジャズ・オーケストラ。それもフレンチ・ホルン,バスクラ、オーボエ、チューバ、バズーン、加えて、ハープが入る、ギル・エヴァンスならではの楽器構成。

スペインの作曲家ロドリーゴの人気曲をギル独特のアレンジで再編した、アルバム冒頭を飾る「Concierto De Aranjuez(アランフェス協奏曲)」の人気でこの盤は評価されるが、それは違う。この盤は、マイルス=ギルのコラボがモード・ジャズに「けりを付けた」、モード・ジャズを確立させた、ジャズの歴史的にも意義のある名盤である。

このアルバムに収録された曲は、殆どがいわゆるスパニッシュ・モードによる演奏。マイルスのスパニッシュ・モードの的確な解釈とギルの個性的なアレンジと共に、スパニッシュ・モードをベースとした演奏によって、モード・ジャズを「ものにしている」。この盤での、淀みの無いマイルスのモーダルな演奏は素晴らしいの一言。

それまでのジャズは「猥雑、庶民的、アクロバット的」で「クラシックの様な芸術性には無縁」という定評を覆し、ジャズというフォーマット、ジャズという音楽ジャンルが、モード・ジャズの確立によって、アーティスティックな側面を全面に押し出し、芸術性の高い音楽的成果を残すことが出来る、それを証明できる最高の一枚である。
 
 

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2022年7月 4日 (月曜日)

ギルの考えるビッグバンド・ジャズ

「音の魔術師」の異名を取った。伝説のアレンジャー、ギル・エヴァンス(ギル・エヴァンス)。アレンジのベースは「ビッグバンド」。しかし、そのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、どれもがユニーク。他のビッグバンドには無い音が個性。そして、ソロイストの演奏スペースの広さ。アドリブ展開の自由度の高さが二つ目の個性。

『The Individualism of Gil Evans』(写真左)。1963年9月、1964年4月6日、5月25日、7月9日、10月29日の録音。パーソネルは、録音日によって大きく異なり、この盤は、ギル・エヴァンスのアレンジの妙を堪能するアルバムなので、ここでは割愛する。ちなみに邦題は『ギル・エヴァンスの個性と発展』。直訳は『ギル・エヴァンスの個人主義』。

Individualism = 個人主義、については、個人の自立を重く見た、個人の権利や自由を尊重するスタンスの意。よく日本語訳にある「自分勝手な」という含意はない。後方の日本語訳に「個性」があるので、それを取って「個性と発展」の和訳を充てたのだろう。

しかし、この盤での、それまでの「ビッグバンド」に無い、ギル・エヴァンス独特の楽器編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、演奏スペースの割り振り等を考えると、その唯一無二の個性ゆえに、「Individualism = 個人主義」の意の方が、すんなり入ってくる。従来のアレンジとはあまりにかけ離れた、あまりに個性的なアレンジではあるが、このギル・エヴァンスのアレンジも確実に「ジャズ・ビッグバンドのアレンジ」なのだ。
 

The-individualism-of-gil-evans_1

 
この盤で気をつけなければならないのは、CDの収録曲は9曲あるが、LP時代のオリジナル盤の収録曲は「The Barbara Song(1964/7/9)」「Las Vegas Tango(1964/4/6)」「Flute Song / Hotel Me(1963/9 + 1964/4/6)」「El Toreador(1963/9)」の4曲だけだということ。1963年9月、1964年4月6日、7月9日の録音から厳選されていて、5月25日と10月29日の録音からは採用されていない。

聴けば判るのだが、ギル・エヴァンスのアレンジの「Individualism = 個人主義」については、この4曲を聴けば良く理解出来る。それほど、この4曲は出来が良い。アレンジの優秀性と参加ミュージシャンのパフォーマンス、両者のバランスが取れた、絶妙な演奏の記録がこの4曲に詰まっている。楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、いずれも、ギル・エヴァンスにしか為し得ない音世界である。

この盤は、ギル・エヴァンスのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニーなど、彼のオーケストレーションの成熟を記録した名盤である。「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド・ジャズ」がこの盤に詰まっている。

アコースティック楽器を使用した「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド」としては、これ以上のアレンジは無いのだろう。この盤は、ギル・エヴァンスを理解する上で、絶対の「必聴盤」である。まずは、CDの2〜5曲目から、しっかりと聴いていただきたい。
 
 
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2022年7月 3日 (日曜日)

「音の魔術師」の初リーダー作

ビッグバンドについては、実はこの人のビッグバンドが一番のお気に入り。ギル・エヴァンス(Gil Evans)である。「音の魔術師」の異名を取った。伝説のアレンジャーである。生前は「清貧のアーティスト」だったそうで、その才能と実績に見合う収入は確保されていなかった、と聞く。しかし、彼のアレンジ&オーケストレーションは限りなくアーティスティック。

ギル・エヴァンスのアレンジについては、まず、各楽器のハーモニーの組み立て方、楽器の編成に独特なものがある。チューバやバス・クラリネット、フレンチ・ホルンなど、他のビッグバンドでは採用しない楽器(特に木管楽器)を取り入れて、ギル・エヴァンス独特のユニゾン&ハーモニーの響きを実現している。この「響き」が独特。

そして、ソロ楽器のアドリブ・スーペスをしっかり確保していること。このアドリブ・スペースの存在が、多人数のビッグバンドでありながら、演奏の自由度が高い、モーダルなアドリブ展開を可能にしている。つまり「即興演奏」を旨とする、ジャズとしてのビッグバンドが、ギル・エヴァンスのアレンジで実現しているのだ。

『Gil Evans & Ten』(写真左)。1957年9月9 & 27日、10月10日の録音。ギル・エヴァンスの初リーダー作。ちなみにパーソネルは、Gil Evans (p), Steve Lacy (ss), Jack Koven (tp), Jimmy Cleveland (tb), Bart Varsalona (b-tb), Willie Ruff (French horn), Lee Konitz (as), John Carisi (tp (1)), Louis Mucci (tp (2–7)), Dave Kurtzer (bassoon), Jo Jones (ds (1)), Nick Stabulas (ds (2–7)), Paul Chambers (b)。
 

Gil-evans-ten

 
パーソネルを見れば、楽器編成のユニークさが良く判る。まず、他のビッグバンドでは採用されない、ベース・トロンボーン、フレンチ・ホルン、バズーンの存在が目を引く。そして、このユニークな楽器編成が、ギル・エヴァンスのアレンジ独特の音の響きを現出している。そして、その音の響きが重なって、ギル・エヴァンス楽団独特のユニゾン&ハーモニーが実現している。このギル・エヴァンス楽団の音の響きのユニークさは1曲聴けば直ぐに判る個性的なものなのだ。

ちなみにギル・エヴァンスは、この盤以前に、Claude Thornhill Orchestraの『クールの誕生』のアレンジ、そして、マイルス・デイヴィスとのコラボ作品である『Miles Ahead』のアレンジで、既に独自のアレンジ&オーケストレーションを確立しており、この盤はギル・エヴァンスの初リーダー作ではあるが、その完成度は高い。ギル・エヴァンスのアレンジ&オーケストレーションの原点を堪能出来る。

実はこの盤、タイトルやジャケが二転三転してややこしい。まず、オリジナルは1957年にPrestigeレーベルから『Gil Evans & Ten』としてリリースされた。しかし、1959年、何故かジャケットとタイトルを変えて、Prestigeの傍系レーベル New Jazzから『Big Stuff』として再プレス。1973年には、ジャケットを『Gil Evans & Ten』に戻し、タイトルは『Big Stuff』のまま、Prestigeレーベルから再リリースされている。ここでは、オリジナルの『Gil Evans & Ten』のジャケットとタイトルを引用している。

ギル・エヴァンスの「音の魔術師」たる所以を知るには、この初リーダー作は避けて通れない。ジャズのアレンジの極意を感じるには「マスト」の名盤である。
 
 

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2021年10月28日 (木曜日)

ジャズ喫茶で流したい・221

1980年代、我が国ではバブル景気の追い風を受けて、お洒落で聴き心地の良いジャズがもてはやされた。そんな流行に乗って、我が国発のジャズ・レーベル、例えば「Electric Birdレーベル」などが、お洒落で聴き心地の良いコンテンポラリーな純ジャズ、フュージョン・ジャズをリリースしていた。

が、意外と内容的には平凡なものが多く、しばらくの間(20年ほどかな)、リイシューされること無く、ほぼ全ての盤が廃盤状態になっていた。探すにも流通在庫を探すほか無かったが、2014年、やっとまとめてCDリイシューがなされた。

Lew Soloff『Yesterdays』(写真左)。1986年9月15 &16日、NYのClinton Studiosでの録音。キングレコードの「Electric Bird」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Lew Soloff (tp), Mike Stern (g), Charnett Moffett (b), Elvin Jones (ds) のピアノレスでトランペットがワンホーンのカルテット構成。デヴィッド・マシューズがプロデュース、そして、スーパーヴァイザーとして、ギル・エヴァンスが名を連ねている。

「Electric Bird」のリイシューの一枚。「Electric Bird」なので、フュージョン・ジャズかな、とも思うんだが、パーソネルを見ると、これは、コンテンポラリーな純ジャズ、基本はネオ・ハードバップである。ピアノレスなので、ワンホーンのルー・ソロフのトランペットが心ゆくまで楽しめる。ルー・ソロフはメインストリームなトランペッターなのだが、リーダー作が僅少。この盤は貴重なソロフのリーダー作になる。
 

Yesterdays-lew-soloff

 
ハイノート・ヒッターであり、バイタルなトランペッターであるルー・ソロフ。あまりにダイナミックで切れ味の良い吹きっぷりなので、時に耳に五月蠅く響く時があるが、テクニックは優秀、歌心もあるトランペットで聴き応えは十分。冒頭のタイトル曲であり、有名スタンダード曲「Yesterdays」での吹きっぷりは見事。この盤では抑制もしっかり効いていて、耳に付く瞬間は全く無い。安心して聴き耳を立てることが出来るのが嬉しい。

アレンジがとても雰囲気があって、どこかギル・エヴァンスを想起させるのだが、パーソネルを確認したら、スーパーヴァイザー兼ミュージカル・アドバイザーとして「ギル・エヴァンス」の名があった。恐らく、アレンジにも関与していると思われる音作り。これがまた良い。アルバムに収録されたどの曲にも、しっかりアレンジされた、独特の「ギル節」が底に流れていて、しっかりと演奏がまとまっている。

モフェットのベース、エルヴィンのドラムのリズム隊もガッチリしていて、演奏全体のリズム&ビートが安定していて安心して聴ける。そして、1番ビックリしたのが、マイク・スターンのエレギ。コンテンポラリーな純ジャズ風の弾き回しには、ほとほと感心した。

凡盤が多く、ちょっと辟易するくらいの1980年代の国内レーベルのジャズ盤であるが、この盤は違う。バンドサウンドの充実度合いも高く、ルー・ソロフの代表作の一枚と評価しても良いと思う。隠れ名盤の一枚。
 
 
 
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  ・The Brothers Johnson『Light Up the Night』&『Winners』

 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2021.08.11 更新。

  ・『ヘンリー8世と6人の妻』を聴く

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2017年1月16日 (月曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・41

久し振りに、ジャズ・オーケストラが聴きたくなった。ジャズ・オケが聴きたくなったら、まずは「ギル・エバンス(Gil Evans)」。マイルスが認め、一目置き続けた「音の魔術師」。木管楽器をも駆使した独特のユニゾン&ハーモニーを醸し出し、「間」と「拡がり」を活かした独特の音世界が個性。僕には堪らない個性である。

木管楽器をも駆使した独特のユニゾン&ハーモニーを醸し出し、「間」と「拡がり」を活かした独特の音世界、これを体感するのにピッタリなアルバムがこれ。Gil Evans『Svengali』(写真左)。1973年の録音。NYのトリニティ協会での録音。なるほど、魅力的で好適なエコーがかかっているのは、協会での録音だからなのか、などと感心する。

タイトルは「Svengali」=スベンガリと読むらしい。「人の心を操る人物」の意味らしく、とある小説の中では「ヒロインを催眠術でたぶらかす音楽家の名前」とある。ギル・エバンスは「音の魔術師」と呼ばれるので、この「スベンガリ」というタイトルは意外と言い得て妙では無いか、と感じている。加えて、ギルの名のアナグラムでもあるらしい。面白いタイトルだ。
 

Svengali1

 
さて、このアルバムは、1973年の録音なので、エレピ、シンセ、エレギも積極的に導入している。加えて、木管楽器などを特別に取り入れた、ギル独特のユニゾン&ハーモニー。「ギル・エバンス」のジャズ・オケ独特の響きと流れを惜しげも無く展開している。冒頭のビリー・ハーパー作「Thoroughbred」を聴けば、それが良く判る。何処から聴いても「ギル・エバンス」印のジャズ・オケの音。独特である。

バンド・メンバーのソロも魅力的で、ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの熱く燃えるようなトランペット、若き日のデイヴィッド・サンボーンのストレートで切れ味良く尖ったアルト・サックス、激しく熱く硬派なビリー・ハーパーのテナー・サックスなどなど。オケの総帥、ギル・エバンスはソロイストに限りなく自由を与えている。それに呼応して、いずれのソロもどれもが素晴らしい。

ジャズ・オーケストラの伝統的な部分をしっかり踏まえながら、その時その時のジャズのトレンドを大胆に導入、木管楽器などを特別に取り入れ、ギル独特のユニゾン&ハーモニーをベースに展開するジャズ・オケな演奏は実に見事。ジャケット・デザインはイマイチですが、ギル・エバンスの入門盤として、ジャズ者初心者の方々にもお勧めの好盤です。
 
 
 
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2014年5月22日 (木曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・30

ジャズ・オーケストラには、ジャズ・オーケストラを惹き立たせる専用の楽曲が用意されていることが多いのであるが、ジャズ・オーケストラの鬼才ギル・エバンス(Gil Evans)は、ジャズ・スタンダード曲をジャズ・オーケストラでの演奏にアレンジするのが実に上手い。

スタンダード曲の持つ美しい旋律を浮き立たせる様に、ジャズ・オーケストラのユニゾン&ハーモニーがバックに漂う。そして、スタンダードを素材にアドリブを展開する楽器を主役に惹き立てる。

そんなジャズ・スタンダード曲をジャズ・オーケストラでの演奏にアレンジした優れものアルバムが2枚ある。ギル・エバンスのスタンダード集、一枚目は1959年録音の『Great Jazz Standards』(写真左)、そして、もう一枚が1958年録音の『New Bottle Old Wine』(写真右)。

どちらのアルバムも、ギル・エバンス独特の幻想的なユニゾン&ハーモニーの響きが、見事にスタンダード曲の旋律を惹き立てている。ギル・エバンスのアレンジは、構築美というよりは、ソロイストの演奏を全面に押し出す、シンプルなアレンジが特徴。

ソロイストの演奏を全面に押し出すギルのアレンジは、やはり実力十分の一流ジャズメンがメンバーに配された時、更に映える。そういう点では、一枚目の『Great Jazz Standards』はメンバー的にも申し分無い。ちょっと眺めただけでも、Johnny Coles(tp), Curtis Fuller(tb), Elvin Jones(ds), Cannonball Adderley(as), Paul Chambers(b) 等々、錚々たるメンバーではないか。   
 

Great_jazz_new_bottle

 
『New Bottle Old Wine』も演奏するメンバーについては申し分無い。というか、聴いていて、アルト・サックスは誰かが直ぐ判る。そう、キャノンボール・アダレイが実に気持ちよさそうに吹きまくっているのだ。ドラムにはArt Blakeyが控えている。

このアルバム、選曲が魅力的で、サッチモからモンク、パーカーに至る、古めの渋いポピュラーな曲を取り上げている。これが聴き応え満点。ジャズ・オーケストラをバックにした大スタンダード大会である。

楽器の低音を上手く活かした、独特のアンサンブルの響きが凄く心地良く響く。面白いのは、金管楽器が中心のユニゾン&ハーモニー。シャープさが際立ち、独特の響きを獲得している。

このギル・エバンスのスタンダード集は、聴いていて飽きが来ない。スタンダードの旋律を全面に押し出し、ソロイストのパフォーマンスを主役に仕立てる。オーケストラはあくまで脇役。それでも、このギル・エバンスのジャズ・オーケストラのバックが無いと、この独特の響きを愛でることが出来ない。

ギル・エバンスのジャズ・オーケストラのアレンジの個性がとても良く判る2枚のアルバムです。どちらも甲乙付け難い。僕は、キャノンボール・アダレイの大活躍とジャケット・デザインのセンスで、『New Bottle Old Wine』の方が好みです。でも、『Great Jazz Standards』良いですよ。ジャケット・デザインがちょっと稚拙なのが玉に瑕です。
 
 
 
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2014年4月24日 (木曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・28

2014年4月19日のブログ(左をクリック)で、Gil Evansの『Out of the Cool』をご紹介した。今日は、その『Out of the Cool』と対を成すアルバム『Into The Hot』(写真左)をピックアップ。

『Into The Hot』は不思議なアルバム。構成としては、John Carisi(ジョン・キャリシ)のオーケストラとCecil Taylor(セシル・テイラー)のクインテット/セプテットの2つのユニットが、それぞれ3曲ずつ演奏し、それが交互に配置されている。収録曲でいうと以下の通りになる。

1. Moon Taj (John Carisi)
2. Pots (Cecil Taylor)
3. Angkor Wat (Carisi)
4. Bulbs (Taylor)
5. Barry's Tune (Carisi)
6. Mixed (Taylor)

1961年の録音なんだが、どうして、この様な構成になったのかが判らない。しかも、アルバムのオーナーであるギル・エバンスの役割と立ち位置が良く判らない。ネットでの情報を見ていても諸説紛々。「Supervised and Conducted by GIL EVANS」と書かれているものもある。つまり「監督&指揮」である。しかし、アルバムのクレジットにはアレンジ、プロデューサーとしてのギル・エバンスの名前は無い。

でも、1曲目から6曲目聴き通すと、しっかりとギル・エバンスのアレンジの響きがずっと漂っているのだから不思議。ジョン・キャリシのオーケストラのアレンジはジョン・キャリシの手になるものとクレジットされている。それでも、ユニゾンの音の重ね方や低音が豊かに響く楽器(トロンボーンなど)の採用など、ギル・エバンスの個性そのものの響きがする。
 

Into_the_hot

 
しかも、さらに面白いのが、セシル・テイラーのユニット。セシル・テイラーと言えば、フリー・ジャズのピアニスト。その自由でアブストラクトでありながら、演奏全体の構築美が素晴らしい、唯一無二なピアニスト。1961年の録音なので、演奏もかなりフリーキーで自由な演奏なんだが、まだ完全フリー・ジャズしている訳では無い。

かなり自由度の高いハードバップという感じの演奏なんだが、これまた不思議なことに、セシル・テイラーのユニットに演奏にも拘わらず、しっかりとギル・エバンスのアレンジの響きがずっと漂っているのだから不思議。アドリブを取る楽器を全面に押し出し、そのアドリブ・ラインを際立たせる。そんなギル・エバンスのアレンジの個性が感じられるから面白い。

ジョン・キャリシのオーケストラとセシル・テイラーのクインテット/セプテットの2つのユニットが、それぞれ3曲ずつ演奏し、それが交互に配置されているという、なんだか滅茶苦茶な構成なんだけど、これが全く違和感無く、一貫性のある演奏の流れになっている。これもまた不思議。

ジョン・キャリシのアレンジがギル・エバンスの影響を受けていることは明白であるけど、セシル・テイラーはどうなんだろう。このギル・エバンスとセシル・テイラーの関係を知りたいなあ。どういう関係で、このレコーディングに臨んだんだろう。
 
 
 
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2014年4月19日 (土曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・27

ギル・エバンスは、ジャズのコンポーザー・アレンジャー・ピアニスト。スモール・コンボからビッグ・バンドを主宰し、その独特の音世界はギル・エバンスだけが表現できるもの。ただ、彼はその才能に見合う、社会的成功には恵まれなかった。まあ、そういうものに無頓着だったことが原因だったらしいのだか・・・。

ギル・エバンスの独特の音世界について、判り易く体感できるアルバムがこれ。The Gil Evans Orchestra『Out of the Cool』(写真左)。1960年11〜12月の録音。このアルバムを聴けば、ギル・エバンスのアレンジの個性がとても良く判る。

アレンジの個性を体感するには、まずはアルバムを聴いて頂くのが一番で、こうやって文字にするのは、なかなか骨が折れる。しかし、アルバムを聴く時の一助となるよう、なんとか、ギル・エバンスの音世界の個性を文字にしてみる。

まず、手始めに、ギル・エバンス・オーケストラのパーソネルを確認したい。オーケストラのパーソネルは以下の通り。

Gil Evans - piano
Johnny Coles - trumpet 
Phil Sunkel - trumpet
Keg Johnson - trombone
Jimmy Knepper - trombone
Tony Studd - bass trombone
Bill Barber - tuba
Ray Beckenstein - alto saxophone, flute, piccolo
Eddie Caine - alto saxophone, flute, piccolo
Budd Johnson - tenor saxophone, soprano saxophone
Bob Tricarico - flute, piccolo, bassoon
Ray Crawford - guitar
Ron Carter - bass
Elvin Jones - drums
Charli Persip - drums
 

Out_of_the_cool

 
ギル・エバンスのアレンジ独特の個性を演出する楽器として、まずトロンボーンの数の多さとベース・トロンボーンやチューバ、バスーンといった管楽器でも低音部を強調する楽器を多用していること。これが、ギル・エバンス独特の音の個性の「肝」の部分である。

とにかく、ギルのアレンジは独特な音の響きがある。ひとつはこの管楽器の選択、特に木管楽器の採用にある。これが、他のジャズの音の響きとはちょっと違う、クールな響きを演出している。

もうひとつ、ギルのアレンジの個性については、ユニゾン&ハーモニーの音の重ね方、音の盛り上げ方、音の抑揚の付け方にある。これはもう聴いて頂くしか無いのではあるが、ギルのアレンジの方向性は、それまでのジャズ・オーケストラのアレンジとは一線を画すもの。それはそれは個性的なものである。

ジャズ・オーケストラにおいては、他のリーダーがオーケストラ全体のアンサンブルに重点を置いていたのに対して、ギルは個性的なソロイストに焦点をあて、ギルのアレンジ独特のオーケストラのバッキングとリズムの上で、そのソロイスト達の演奏を散りばめるという、いわばジャズの本質を前提とした個性的で芸術的なもの。「音の魔術師」と呼ばれる所以である。

つまりは、それまでのジャズ・オーケストラのアレンジの方向性は、アンサンブルのアレンジ重視の、所謂、娯楽としての音楽、ポピュラー音楽として楽しめる様なアレンジの方向性であった。デューク・エリントンしかり、カウント・ベイシーしかり。

しかし、ギル・エバンスのアレンジの方向性は違う。あくまで、ソロイストの演奏を全面に押し出して、ソロイストのアドリブ・フレーズを活かし、オーケストラの演奏は、あくまでその惹き立て役に徹する。ジャズをアートとして捉え、オーケストラをあくまで、ジャズのインプロビゼーションの一部として見立てた、当時としては斬新なものであった。

この『Out of the Cool』を聴けば、それが良く判る。確かに、ギルのアレンジされたオーケストラに、ソロイストの演奏が惹き立てられ、演奏全体の雰囲気が実にクールに、実にアーティスティックに響く。

「ジャズ・オーケストラは、どれも画一的で面白くない」と思っている方は、是非とも、このアルバムを御一聴願いたいですね。ジャズ・オーケストラに対する印象が変わること請け合いです。
 
 
 
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2014年3月18日 (火曜日)

ニューヨークの溜息、日本の恋人

3月14日のブログ(左をクリック)で、Helen Merrill & Gil Evans『Collaboration』を採り上げた訳なんだが、早速、その元となった、Helen Merrill & Gil Evans『Dream Of You』(写真左)を久し振りに聴き返してみた。

改めて、この『Dream Of You』というアルバムは、「ニューヨークの溜息」と評され、今では大ベテランとなった女性ボーカリスト、ヘレン・メリルの秀作である。1956年7月と1957年2月の2回のセッションを収録している。

アレンジはGil Evans。そして、バック・バンドは、Oscar Pettiford (b), Hank Jones (p), Joe Morello (ds) のリズム・セクションをベースに、トランペットにはArt Farmerが名を連ねている。

ヘレン・メリルについて、ちょっと触れておこう。ヘレン・メリルはNY生まれ。両親はクロアチア人。1946年から1947年にかけて、ビッグバンドの一員として活動を始める。そして、1954年12月、初リーダー盤『Helen Merrill』、邦題『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』を録音。

この初リーダー盤には、トランペットにクリフォード・ブラウンが全面参加、クインシー・ジョーンズが編曲を担当。ヘレン・メリルの代表盤の一枚となった。特に「You'd Be So Nice To Come Home To」は名演中の名演として、つとに有名。

1960年11月、初の日本公演。1963年にも来日。1966年頃、結婚を機に日本に移住。幾枚か日本人ジャズメンとの共演盤をリリース。その後、離婚を経て、1972年には米国に帰国して音楽活動を停止するが、1976年に活動を再開。親日家であり、活動再開後は数多く来日、ライブ・コンサートを中心に活動している。「ニューヨークの溜息、日本の恋人」って感じですね。1930年生まれなので、今年で84歳になります。
 

Dream_of_you

 
このヘレン・メリルのキャッチフレーズ「ニューヨークの溜息」を、この『Dream Of You』では十二分に堪能出来ます。ミッド・テンポのメリハリのある曲が多く、ヘレン・メリルの歌唱が実に映える。当時、24歳の歌唱なので、声に張りがあって力がある。健康的なお色気も漂って、さすが、このアルバムでのヘレン・メリルは良い。

そして、そのヘレン・メリルの歌唱を更に際立たせるのが、ギル・エバンスのアレンジ。後のギル独特の音の重ね方と漂う様な音の展開は控えめなんですが、それでも、ちょっと聴くと、ギルのアレンジと判る強い個性。しかし、その強い個性をグッと押さえて、ヘレン・メリルの歌唱を際立たせるよう、一音一音に配慮が行き届いている。

それはそれで正解でしょう。なんせ、このアルバムって、ボーカリスト、ヘレン・メリルのリーダー盤ですからね。まずは、何はともあれ、ヘレン・メリルの歌唱が際立つのは当たり前と言えば当たり前。さすが、ギル・エバンス。プロフェッショナルな仕事をしっかりとしていますね。

ヘレン・メリルとギル・エバンスのコラボ盤なんですが、この盤は、あくまでヘレン・メリルの歌唱を愛でるのが中心のアルバムです。ギル・エバンスのアレンジは、あくまで歌伴のアレンジに徹しているということで、余り目立つことはありません。

そこが良いんですけどね。でも、良い雰囲気の女性ボーカル盤です。春を迎えつつある、この季節にピッタリですね。
 
 
 
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2014年3月14日 (金曜日)

ビッグバンド・ジャズは楽し・26

ジャズには「再会セッション」なんて言葉もあるが、このアルバムは、そんな言葉を超越している。『Dream Of You』(写真右)というアルバムで共演して以来、30年を経過してリメイクしたアルバムである。

そのアルバムとは、Helen Merrill & Gil Evans『Collaboration』(写真左)。1987年8月の録音。ヘレン・メリルとギル・エバンスとの共演は『Dream Of You』というアルバムでのセッションで、1957年2月以来のことになる。つまり、30年ぶりの共演になる。

しかも、この再会セッション『Collaboration』の収録曲がふるっている。『Dream Of You』の7曲目「You're Lucky to Me」が、このリメイク盤『Collaboration』では、1曲目の「Summertime」に代わっただけで、『Collaboration』の「Summertime」以外の11曲は、33年前の『Dream Of You』の収録曲と同じ。惜しいかな、収録された曲の曲順はちょっと違うんだけどね。

アルバムの作りとしては、ギル・エバンスが編曲した、ギル・エバンス・オーケストラをバックにして、ヘレン・メリルが唄いまくるという、1957年の『Dream Of You』と同じコンセプト。しかし、ギルのアレンジとオーケストラの演奏は全く違う。『Collaboration』の収録時の1987年の最先端をいくアレンジとオーケストラの演奏。

そんなモダンなジャズ・オーケストラの演奏をバックに、「ニューヨークの溜息」ヘレン・メリルが唄いまくる。ヘレンは1930年生まれなので、この『Collaboration』を録音した時は57歳。もうジャズ・ボーカリストとして、ベテラン中のベテランである。このアルバムでは、実に余裕のある、滋味溢れる歌声を聴かせてくれる。
 

Helen_gil_collaboration

 
しっとりとしたバラード曲が多いので、ちょっと地味な印象を受けるかもしれない。メリハリに欠けるという印象を持たれるかもしれない。しかし、ギル・エバンスの歌伴アレンジを活かし、愛でるには、このしっとりとしたバラード曲が、ゆったりとした余裕のある展開が絶対に必要なのだ。これはこれで正解なのである。

加えて、僕はジャズ・オーケストラとしては、このギル・エバンス・オーケストラの音が大好きなのだが、このヘレン・メリルとの共演盤でも、ギルのアレンジ、ギル・エバンス・オーケストラの演奏は、全く揺るぎが無い。ヘレン・メリルとの共演だからといって、ヘレンに迎合しているところの微塵も無い。ギル・エバンス、我が道を行くである。ギル・エバンス・オーケストラの音としては、全く申し分無い。

そのギル・エバンス、我が道を行く、というアレンジとオーケストラの演奏に相対して、ヘレン・メリルもこれまた、ヘレンの個性全開の、ヘレン・メリル、我が道を行く、という歌唱を聴かせてくれる。ギル・エバンスのアレンジに、オーケストラの演奏に迎合しているところの微塵も無い(笑)。

そうなれば、アルバム全体の演奏と歌唱は、バラバラな散漫な印象になりそうなんだが、そうならないところに、ギル・エバンスとヘレン・メリルの職人気質と意気軒昂さを感じる。この『Collaboration』での、ギルとメリルの再会セッションは爽快であり、健気である。

非常に充実した内容ではあるが、ジャズ・オーケストラをバックにしたジャズ・ボーカル盤としては、個性的で異色な響きを併せ持つ、唯一無二なアルバムである。このアルバム全編に渡る「個性的で異色な響き」をどう感じるかで、このアルバムの評価は変わるでしょうね。僕はこのアルバムの音世界、好きです。
 
 
 
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