2019年12月 9日 (月曜日)

西海岸の幻の美人ピアニスト

Mode Labelの「西海岸の肖像画ジャケット」のシリーズ、ちょっと古風な肖像画の様な、やけにリアルな顔がアップのジャケットの他に、上半身の姿や全身の姿を描いたものもある。タッチが全く一緒なので確実に判別できる。今日は「上半身の姿」を描いたジャケットからの一枚。

『Joanne Grauer Trio』(写真左)。1957年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Joanne Grauer (p), Buddy Clark (b), Mel Lewis (ds)。女性ジャズ・ピアニスト、ジョアン・グラウアーがリーダーのトリオ編成。ジョアン・グラウアーは「幻の美人ピアニスト」と言われる。活動は長くは続かず、結局この一枚を残して消えたらしい。

しかし、このジョアンのピアノ、爽快である。明確なタッチと疾走感のあるアドリブ・フレーズ。端正なバップ・ピアノ。ファンクネスはほとんど感じないが、オフビートが明快で、マイナーなフレーズがアレンジ良く展開されるので、とてもジャジーに感じる。タッチが明確なので、初めて聴いた時は男性ピアニストだと思っていた。それほどまで、端正でダイナミックなピアノである。
 
 
Joanne-grauer-trio-1  
 
 
タッチやフレーズを聴いていると、なんとなく、ハンプトン・ホーズを想起する。ハンプトン・ホーズよりも端正で明確。破綻が全く無いところがジョアンの良いところ。アドリブ・フレーズはスケールが広く、ダイナミック。スローなバラード演奏については、繊細なタッチで紡ぎ上げるフレーズがなかなか良い。

バックのバディ・クラークのベースとメル・ルイスのドラムが小気味良い。リズム&ビートを確実に刻むだけ、かと思いきや、よくよく聴くと、いろいろと小粋なことをやっている。切れ味良く、趣味良く、ジョアンのピアノを鼓舞する。これがまた、このトリオ盤の聴きどころである。小粋なリズム隊。良い感じである。

エヴァ・ダイアナ(Eva Diana)による特徴あるイラストからも、その美貌が伝わってくる。このトリオ盤一枚だけで姿を消したらしいが、なんと、自己プロモ用の限定プレス盤で、2008年にカムバックしている(写真右)。その演奏内容は「エレピによるファンク・グルーヴな演奏」らしい。なんともはや、理解不能な美貌ピアニストである。
 
 
 
東日本大震災から8年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
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2019年12月 6日 (金曜日)

大江千里『Hmmm』は愛らしい

大江千里と言えば、1980年代から90年代にかけて、Jポップの人気シンガー・ソングライターで名を馳せた逸材である。ポップでお洒落な、和製AORな音作りで一世を風靡した。そんな大江千里が、50歳を目前にした2008年、日本国内での自身の音楽活動を休業し、ニューヨークに在住。2012年にはジャズ・ピアニストとしてのデビューを果たしたのである。

これにはビックリした。まず、そんなに簡単に、プロのジャズ・ピアニストになれる筈が無い。 明らかに無謀だ、と思った。確かにピアノは上手かった。それでも、途中から我流のピアノ。50歳を目前にして、ジャズ・ピアニストを目指すなんて、とハラハラして見守った。ジャズのデビュー盤『Boys Mature Slow』からハラハラしながら、ずっとリーダー作を聴いてきた。

大江 千里『Hmmm』(写真左)。ジャズ・ピアニスト転身後6枚目となるオリジナル・アルバムになる。今年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、Senri Oe (p), Ari Hoenig (ds), Matt Clohesy (b)。NYでも屈指の名ドラマー、アリ・ホーニグにオーストラリア出身でNYで活躍するベーシスト、マット・クロージーを迎えたトリオ編成。
 
 
Hmmm-ohe
 
 
聴いてみてまず一言で言うと「良いアルバム」である。そして「個性的」なアルバムである。大江千里とは意外と「曲者」である。ジャズ・ピアニストとして一筋縄ではいかない、戦略的に「独特の個性」を演出している。過去のジャズ・ピアニストの一流どころを研究はしているものの、全くフォローをしていない。過去のジャズ・ピアノをフォローせずして、独特の個性を表出する。

これが成立するんだからジャズは面白い。とにかくそれぞれの楽曲のテーマ部の旋律が心地良く、アドリブの展開は流麗で愛らしい。こういう心地良く愛らしい、ジャズ・ピアノのフレーズや展開を僕はあまり聴いた事がない。この大江千里の『Hmmm』を聴いて、ちょっとビックリした。こういう志向がまだジャズ・ピアノに残っていたんやなあ。

この新盤、大江千里のJポップ時代に培った「流麗で愛らしいポップな感覚」とコンテンポラリーな純ジャズが見事に融合した、アーバンで小粋で、心地良く洒落た音世界を聴かせてくれる素晴らしい「仕業」である。僕はこの新盤に大江千里の「戦略性」を垣間見た気がしている。大江千里というジャズ・ピアニストは良い意味で「したたか」である。
 
 
 
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2019年12月 4日 (水曜日)

西海岸独特のピアノ・トリオ盤

Mode Labelの「西海岸の肖像画ジャケット」のシリーズ、ちょっと古風な肖像画の様な、やけにリアルな顔がアップのジャケットのシリーズの3作目になる。この人の名前は西海岸ジャズの名作『踊り子』『お風呂』の紙ジャケで、優秀なアレンジャーとして知った。米国西海岸ジャズにおけるアレンジャーの第一人者。そう「マーティ・ペイチ」。

マーティ・ペイチは、1925年1月23日米国オークランド生まれ。最初はジャズ・ピアニスト。M.C.テデスコに楽理を学び、アレンジャーとしても注目を浴び、ピアニストよりも、アレンジャーとしての活動が中心となっていった、米国西海岸ジャズらしい、変わり種のジャズマンである。

『Marty Paich Trio』(写真左)。1957年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Marty Paich (p), Red Mitchell (b), Mel Lewis (ds)。西海岸ジャズのファースト・コールなベーシスト、レッド・ミッチェルと、小粋かつ堅実なドラミングが身上のメル・ルイスを擁した堂々のピアノ・トリオ編成。
 
 
Marty-paich-trio-1  
 
 
マーティ・ペイチの、アレンジャーでは無い、ピアニストの側面にスポットライトを当てた、ピアニスト=ペイチの素敵な「ピアノ・トリオ」盤である。冒頭の「I Hadn't Anyone 'Til You」の愛らしいイントロのピアノの響きを聴くだけで、ペイチの、その趣味の良く愛らしい小粋なピアノが良く判る。

米国西海岸ジャズらしく「聴かせる、聴いて貰う」ジャズ・ピアノである。聴き耳を立てたくなる、じっくり聴き味わいたくなる演奏である。決して叩かない、決して高速フレーズは弾かない。聴き易く聴き応えのある「ミッド・テンポ」な演奏が心地良い。淡々とシンプルに流麗に弾き進めているが、以外と複雑なフレーズを織り込んでいる。テクニック度は高い。

収録されたどの曲もアレンジ良好。さすがアレンジの才人。とても趣味の良いピアノ・トリオ盤で、こんなピアノ・トリオ盤は東海岸ではちょっと見当たらない。西海岸ならではのピアノ・トリオ盤と言えるでしょう。ペイチのピアニストとしての力量を再認識出来る好盤です。ピアノ・トリオ者の方々に特にお勧め。
 
 
 
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2019年11月23日 (土曜日)

「キースのソロ」の個性の完成

キース・ジャレットのソロ・ピアノは「キースの専売特許」だと思っている。その特徴である「現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風。クリスタルでクリアで超絶技巧なクラシック・ピアノの様な展開」。この特徴は他のピアニストもフォローできると思うんだが、キースのソロについては「フォロワー」がいない。

キース自身もキース風のソロ・ピアノは自身の専売特許だと強く思っているらしく、キースの後進の「耽美的」ピアニストのソロ・ピアノについては手厳しい評価を表明、特に「ブラッド・メルドー」のソロ・ピアノについてはかなり辛口である。他のピアニストもキースにここまで言われてまで、同じテイストのソロ・ピアノはやろうと思わないのだろう。

加えて、このキースの専売特許である「ソロ・ピアノ」は、厳密に言って、僕は「ジャズ」だとは思っていない。即興演奏がメインなので、安易に「ジャズ」に分類されるが、どちらかと言えば「クラシック」と解釈して良いものだと感じている。キースがキースの個性で演奏する「クラシック風の即興ピアノ」。そのキースのソロ・ピアノの「完成」を感じるアルバムがこれ。
 
 
Vienna-concert  
 
 
Keith Jarrett『Vienna Concert』(写真左)。1991年7月13日、ウィーンの「Vienna Staatsoper」でのライブ録音。収録されたパフォーマンスは40分を超える「Vienna, Part 1」、25分を超える「Vienna, Part 2」の2つ。この2つのパフォーマンスは、キースのソロ・ピアノの特徴である「現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風。クリスタルでクリアで超絶技巧なクラシック・ピアノの様な展開」がバッチリと反映されている。

ジャズの要素はほとんど感じられない。あるのは、唯一無二で複雑で自意識過剰な、キースのキースによるキースの為のソロ・パフォーマンスのみ。極上の即興のクラシック。キースにしか許されていないソロ・パフォーマンスのみが展開される。このライブ盤では、このキース特有のソロ・パフォーマンスのみが収録されている。前作『Paris Concert』のアンコールの様な、ジャジーなソロ・パフォーマンスは微塵も無い。

キースの、自身のソロ・ピアノに対する揺るぎの無い自信を感じる。ジャズ者の聴衆にすら迎合することのない、圧倒的なキースのキースによるキースの為のソロ・パフォーマンス。彼のソロ・ピアノに対するセンスと美意識、そして、それを支える比類無きテクニックを強烈に感じさせてくれる。キースのソロ・ピアノ盤の中でも屈指の内容である。
 
 
 
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2019年11月22日 (金曜日)

「キースのソロ」の個性と発展

いつもどこかに散りばめられているグルービーなリズム&ビートはどこへやら。現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風。クリスタルでクリアで内省的で、超絶技巧なクラシック・ピアノの様な展開。演奏自体は完全即興演奏なので、その「即興演奏」の部分で、このライブ盤でのキースのソロ・ピアノは辛うじて「ジャズ」の範疇に留まる。『Dark Intervals』で固まった、キースのソロピアノの方向性。

Keith Jarrett『Paris Concert』(写真左)。1988年10月17日、Salle Pleyelでのライブ録音。僕が、キースのソロピアノの方向性を決定付けたポイントと感じている『Dark Intervals』の次のソロピアノ盤である。収録曲、というか収録パートは3つ。「October 17, 1988」と「The Wind」「Blues」。いよいよ、『Dark Intervals』で固めたソロピアノの演奏の方向性のお披露目である。

最初のパート「October 17, 1988」が、現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風である。暗く重い出だし。徐々にポジティヴな展開に変化しつつ、穏やかでリリカルで静的な展開に着地し、最終的に昇華され浄化されるようなラスト。途中、左手のビートが活躍する展開はあるが、ビートの質は「均一ビート」。ジャジーなオフビートでは無い。
 
 
Paris-concert-keith-jarrett  
 
 
最初のパート「October 17, 1988」は純粋にジャズと解釈するのには、ちょっと無理がある。演奏が「即興」なので、音楽のジャンルに分類するのには「ジャズ」しかない、という感じで、このキースのソロ・パフォーマンスは「ジャズ」とされるが、どちらかと言えば「クラシック」と解釈して良いと思う。もともと、キースはクラシック・ピアニストとしても相当の実力を持っているので、意外と「言い得て妙」だと思うのだが。

しかし、2つ目のパート「The Wind」は、ジャズ・スタンダード曲。ミュージシャンズ・チューン。このパフォーマンスはどこを取っても「ジャズ」。ピアノの響きと展開はまだ「クラシック」の傾向が強いが、右手の即興フレーズはしっかりと「ジャズ」化している。そして、ラストのパート「Blues」で一気に、ソロピアノのパフォーマンスはジャズになる。これが絶妙なのだ。この「Blues」には、いつもどこかに散りばめられているグルービーなリズム&ビートが戻って来ている。

このライブ盤の収録された頃は、キースのソロ・パフォーマンスはまだ「ジャズ」だと解釈されていた。そこに現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシックな演奏。この即興クラシックな演奏はまだまだ聴く方からすると「毒」がある。その「毒」を中和する役割を担ったのが、この「Blues」。メインディッシュの後のデザートの様な味わい。この『Paris Concert』は収録されたパフォーマンスのバランスがとても良い。キースのソロピアノの代表作の一枚として良いと思う。 
 
 
 
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2019年11月21日 (木曜日)

デュークのピアノの個性を愛でる

デューク・エリントンはビッグバンドの主宰者で有名だが、実はピアノニストとしても優れた才能の持ち主である。ピアニストとして参加して、優れたアルバムを多く残している。しかし、昔は、このデュークのピアノ盤がなかなか入手出来なかったという状況もあって、なかなかポピュラーな存在にならなかった様に感じる。

Duke Ellington『Money Jungle』(写真左)。1962年9月17日の録音。ちなみにパーソネルは、Duke Ellington (p), Charles Mingus (b), Max Roach (ds)。ハードバップが成熟、ジャズが多様化に舵を切った時代に、デューク・エリントンが、ビ・バップ時代からのレジェンド級の大物2名を従えて、堂々のピアノ・トリオである。

事前知識として、ミンガスのベースとローチのドラムを採用して、デュークはピアノ・トリオを組んだ、ということは判ったんだが、何故ミンガスとローチだったのか。他のベースと他のドラムでは駄目だったのか。それはデュークのピアノの個性を聴いたら、何となく理解出来る。
 
 
Money-jungle-1  
 
 
デュークのピアノは「ゴツゴツ硬派なバップ・ピアノ」である。硬派で指の回る、音符が適度に多いセロニアス・モンク、とでも形容したら良いのか。雄々しい太い硬質な音。いわゆる「バップな」音。そんな「バップな」ピアノには、バップなベースとバップなドラムが良く似合う。ここではバップなベースは「チャールズ・ミンガス」、バップなドラムは「マックス・ローチ」。

とにかく、デュークのピアノの個性がビンビンに伝わってくる好盤。とにかくユニークなデュークのピアノ。それまでの、そして、それからの他のジャズ・ピアノには全く類似の無い、唯一無二のデュークのピアノの個性。そんなデュークのピアノには、やはりデューク作のオリジナル曲が良く似合う。

このピアノ・トリオ盤は、デュークの、デュークによる、デュークの為のピアノ・トリオ盤。デュークのピアノをフィーチャーし、デュークのピアノが一番聴こえてきて、デュークのピアノが一番楽しめる盤である。ミンガスのベースとローチのベースは、デュークのピアノの個性を更に惹き立たせる為に存在する。
 
 
 
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2019年11月15日 (金曜日)

節目となるソロ・パフォーマンス

順調にキース・ジャレットのソロ・ピアノ盤の聴き直しは進んでいる。1980年代に入って、キースの活動は多様化していく。1983年には、ピアノ・トリオ「スタンダーズ」を旗揚げ、クラシック・ピアノの世界にも進出し、ソロの活動もピアノや様々な楽器を用いての多重録音など、様々な形式、形態にチャレンジしている。1980年代半ば以降は、活動のベースは「スタンダーズ」の世界。合間合間にソロ・ピアノという活動が定着していく。

Keith Jarrett『Dark Intervals』(写真左)。1987年4月11日の録音。我が国の東京は「サントリー・ホール」でのライブ録音。もちろん、ECMレーベルからのリリース。録音エンジニアは及川公生。この日本における公演で、キースはソロ・ピアノのコンサートとして、記念すべき100回目を迎えることとなった。意外と歴史的に節目となるソロ・パフォーマンスである。

さて、このライブ盤は、キースのソロ・ピアノ盤の歴史を振り返ると、以降のキース・ジャレットのソロ・パフォーマンスの方向性を決定付けた内容であることが判る。キースの中でどういう心境の変化があったのか判らないが、確かにパフォーマンスの方向性は変わった。それまでのアメリカン・フォーキーで、ゴスペルチックな雰囲気も織り交ぜたアメリカン・ルーツ音楽をベースとした、躍動的でポジティブで外向的な展開が、この日本でのライブ盤で、ガラッと正反対に変わっている。
 
 
Dark-intervals-1  
 
 
現代音楽風で内省的、ピアノの響き、リズム&ビートはクラシック風。ただし、演奏自体は完全即興演奏なので、その「即興演奏」の部分で、このライブ盤でのキースのソロ・ピアノは辛うじて「ジャズ」の範疇に留まっている。明らかに意図的にジャズのリズム&ビートを排除しているように聴こえる。ただ、即興演奏のイマジネーションはバリエーション豊か。次から次への新しい展開が湧き出てくる。

冒頭の「Opening」に度肝を抜かれる。心揺さぶられる、決して穏やかでは無い、まるで読経の様な祈りの様な、うねるような「重低音」の響き。このビートはジャジーっぽさ皆無。当時のキースの「グルジェフへの傾倒」が良く判る。 2曲目の「Hymn」以降、ジャズっ気の希薄な、西洋宗教的な薄暗く荘厳な音世界。タイトルの「Dark Intervals」は言い得て妙なのが判る。

いつもどこかに散りばめられているグルービーなリズム&ビートは鳴りを潜め(そこが良かったんだが)、クリスタルでクリアで内省的で、超絶技巧なクラシック・ピアノの様な展開。しかし、この東京公演の追加公演ではスタンダード・ナンバーのみで構成されたのだから、キースの頭の中は判らない。しかし、正式なアルバムとしてのソロ・ピアノは、この『Dark Intervals』を境に方向性は変わり、この方向性を踏襲することとなる。そういう意味でこの盤は「キース者」として必聴。
 
 
 
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2019年11月14日 (木曜日)

どこを切っても「ベノワ節」です

ジャケットの写真を見て、この人、幾つになったのかな、とまず思った。デヴィッド・ベノワ(David Benoit)。1953年生まれなので、今年で66歳。そうか66歳か。ちょっと歳を取り過ぎている雰囲気が気になる。ここは現在の「姿形」の写真を使わなかった方が良かったのでは、と下世話に思う。

『David Benoit and Friends』(写真左)。今年8月のリリース。デイヴィッド・ベノワが豪華ゲストを迎えたスムース・ジャズ盤である。パーソネルを見渡すと、 Dave Koz, Marc Antoine, Rick Braun, Vincent Ingala, Lindsey Webster 等々、スムース・ジャズの「手練れ達」がずらりと名を並べる。

ここまで優秀なメンバーを集めると、演奏のテクニックと表現力については申し分無い。あとはリーダーの統率力と演奏のアレンジである。まあ、この優秀なメンバーを生かすも殺すも「統率力とアレンジ」次第ということだが、ベノワ翁については全く問題無い。この盤の冒頭の「Ballad Of Jane Hawk」を聴くだけで直ぐ判る。
 
 
David-benoit-and-friends-1  
 
 
この盤、徹頭徹尾、どこを切っても「ベノワ節」満載。ちょっと懐かしさを感じる、フォーキーでネーチャーで印象的なフレーズの数々。シュッとした透明度の高い「深めのエコー」。歩くテンポがメインの「ベノワ・ビート」。演奏全体の雰囲気は明快に「スムース・ジャズ」。クロスオーバーでもフュージョンでも無い。このベノワの音世界こそ「スムース・ジャズ」である。

ベノワのキーボードは完璧に「スムース・ジャズ」の響き。そんなベノワのキーボードにディヴ・コーズのサックスが映える。リンジー・ウェブスターの艷やかなヴォーカルがもそこはかと無くファンキーでビューティフル。マーク・アントワンの「スムースな」アコギが実にムーディー。そこに少し聴くだけで判る、ベノワ独特のアレンジ。

 
ラストのコールドプレイの「Viva La Vida」が絶品。ベノワのアルバムを聴いていると「スムース・ジャズ」もええなあ、と思う。ベノワのスムース・ジャズは「硬派で骨太」。軟弱なところ、聴き手に迎合するところは全く無い。ベノワのスムース・ジャズは「プロの技」。聴き応え十分。我が国で人気がイマイチなのが不思議なくらいである。
 
 
 
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2019年11月12日 (火曜日)

邦題「ブレゲンツ・コンサート」

このソロ・コンサートのライブ音源については、1980年のアナログ時代、このコンサートの数日後のミュンヘンでのソロ・コンサートも含めたLP3枚組の大作としてリリースされた。当然、値が張る。しかも、時代は「フュージョン・ジャズ」の全盛期。このLP3枚組の大作はあまり注目されていなかった様な思い出がある。そして、2000年にCD化された時、このLP3枚組の音源から「ブレゲンツ」でのコンサートだけが収録された。

Keith jarrett『Concerts』(写真左)。1981年5月28日、オーストリアのブレゲンツでのライブ録音。邦題は「ブレゲンツ・コンサート」。確かに、プレゲンツでのライブ音源のみなので、邦題については理解出来る。しかし、原題の「Concerts」の最後の「s」には疑問が残る。なんせ、ブレゲンツは単一、同日のソロ・コンサートのみで構成されているですから、ちょっとECMはいい加減でしたね(笑)。

さて、冗談はさておき、この「ブレゲンツ・コンサート」である。キースのソロ・パフォーマンスには珍しく、メジャー・キーを多く採用したフレーズが、バリエーション豊かに出てくるので、アルバム全体の雰囲気はポジティヴで明るい。タッチが温かく、フレーズの展開が外向的。若干、アメリカン・フォーキーな雰囲気も見え隠れし、キースの「真の本質」がまだまだこの辺りでは滲み出ている。
 
 
Conserts-keith-jarrett  
 
 
即興演奏の部分は、それまでの「フェイシング・ユー」や「ケルン」「サンベア・コンサート」などのポジティヴでちょっと明るい、外向的なパフォーマンスがメインで、躍動感もあり、聴いていて単純に「楽しい」。キースの専売特許である「演奏中の唸り」についても、このライブ盤の収録の頃から、ソロ・パフォーマンスでも出てきたみたい。まあ、このライブ盤では、キースの「唸り声」はあまり気にならない。

そして、アンコールの「ハートランド」が絶品である。この演奏については、事前に作曲されたものらしく、完全な即興演奏ではないのだが、そんな事は全く気にならないし、拘る気にもならない。それほど、この「ハートランド」は素晴らしい。このラストのパフォーマンスだけでもこの単品「プレゲンツ・コンサート」は「買い」だろう。

2013年になって、LP3枚組のオリジナル編成にて、CDリイシューされた。『Concerts: Bregenz/Munchen』である。このCD3枚組のリイシューによって、プレゲンツからミュンヘンまでのオリジナル音源が再現されたことになる。しかし、2000年のブレゲンツ単体のCDを持っている者としては、プレゲンツだけだぶるんですよね。ECMのリイシューってたまにこういうことをするから、困ったものである。
 
 
 
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2019年11月11日 (月曜日)

西海岸ジャズの「ビ・バップ」

米国西海岸ジャズの好盤の聴き直しを進めている。もともと、我が国では米国西海岸ジャズはマイナーな存在で、1980年代までは、ほぼ忘れ去られた状態になっていた。ほんの少しだけ、米国西海岸ジャズの超有名盤がジャズ盤紹介本に載るだけ。アート・ペッパー、シェリー・マン、ジェリー・マリガンくらいが、僕たち、ジャズ者初心者が知っていた米国西海岸ジャズのジャズマンの名前である。

『The Gerald Wiggins Trio』(写真左)。1956年10月、Holly Woodでの録音。ちなみにパーソネルは、Gerald Wiggins (p), Joe Comfort (b), Bill Douglas (ds)。米国西海岸ジャズの人気ピアニスト、ジェラルド・ウィギンスがリーダーのピアノ・トリオ編成。日本では全く名が知られていないジェラルド・ウィギンス。僕はこの盤で、ウィギンスを知った。
 
このトリオ盤でのウィギンスのピアノは、米国西海岸ジャズの個性の本流からは外れている。米国西海岸ジャズの個性は「ほど良くアレンジされた、お洒落で粋、メロディアスで聴き心地の良いジャズ」。しかし、この盤の演奏は「ビ・バップ」。超絶技巧なテクニックで高速フレーズを繰り出す、東海岸でのモダン・ジャズの発祥と言われる「ビ・バップ」。それがここにある。
 
 
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ビ・バップといっても、1940年代後半から1950年代初頭の東海岸でのビ・バップとはちょっと雰囲気が異なる。東海岸のビ・バップは、超絶技巧なテクニックを全面に押しだした、そのテクニックの粋を尽くした「力業」の競い合い。フレーズの流れより、閃きによるフレーズのユニークさが優先。しかし、このウィギンスの、この米国西海岸のビ・バップは少し趣きが異なる。
 
東海岸のビ・バップとの大きな違いは「整っている」こと。閃きによるフレーズのユニークさよりも流れる様な、滑らかで、テクニックだけに耳を傾ける事が出来る、そんな「練られた」アドリブ・フレーズ。閃きによる「バラツキ」とは全く無縁の、即興ではあるが、恐らく事前にしっかりイメージされたアドリブ・フレーズ。そして、再び聴きたくなるような、小粋で印象的なフレーズの数々。よく考えられた、鑑賞に耐えうる「印象に残る」フレーズ。
 
録音年は1956年。演奏としては「ハードバップ」を選択しそうなものだが、ここでウィギンスは敢えて「ビ・バップ」を選択している。この盤を聴いて判るのは、西海岸ジャズだって、東海岸と比べて遜色の無いビ・バップは出来るんだ、ということ。そういう面からも、東海岸と西海岸はその実力において拮抗していたことが判る。日本の東海岸ジャズ偏重の傾向に「もの申す」、痛快なビ・バップ風のピアノ・トリオ盤である。
 
 
 
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