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2018年12月10日 (月曜日)

テテの初期の傑作ライブ盤

テテ・モントリューは、スペインのカタロニア出身のジャズ・ピアニスト。生まれた時から盲目であったが、彼のプレイを聴くと判るが、とても盲目のピアニストとは思えない、速弾きで多弁なフレーズが得意中の得意。彼が盲目と知ったのは、彼のプレイに出会ってから15年も経った後だったが、盲目と知った時は思わず「絶句」した。1933年生まれなので、生きていれば85歳。しかしながら、1997年、64歳で鬼籍に入っている。

テテのピアノはハイ・テクニックで「多弁」。乗ってきたら、速いフレーズをガンガンに弾きまくる。ただ、テクニックが伴っているのと、紡ぎ出されるフレーズが流麗なので、あまり耳に付かない。タッチが確実なのでバラードの演奏については、アドリブ・フレーズがクッキリ浮かび出て、とても聴き易い。

Tete Montoliu『Body & Soul』(写真左)。1971年4月、ミュンヘン「ドミシル」でのライブ録音。1983年にドイツのジャズ・レーベル「Enja Records」からリリースされている。ちなみにパーソネルは、Tete Montoliu (p), George Mraz (b), Joe Nay (ds)。ピアノのテテはスペイン、ベースのムラーツはチェコ、ドラムのネイはドイツ。さすがは欧州ジャズ、多国籍ピアノ・トリオである。
 

Tete_body_soul

 
ソロ演奏とトリオ演奏の混成であるが、どちらも聴きどころ満載。テテ特有の多弁で流麗なフレーズが心ゆくまで楽しめる。とにかくテクニックに優れていて、速弾きが素晴らしい。揺らぎやミスタッチが皆無なのだ。テテって盲目なんです。このカッ飛んだ高速フレーズの正確さってどうよ、って驚くことしきり。この盤では、そんな速弾きをちょっと抑え気味で展開しているので、その凄みが倍増して聴き応え満点。

バックの演奏も聴きもの。ムラーツのベースは硬質で粘りがあって骨太なベース。鋼の様なしなりでブンブン胴鳴りをさせたウォーキング・ベースは迫力満点。ノイのドラムは多彩で堅実、丁寧だがダイナミック。ムラーツのベースもノイのドラムもテテの多弁で流麗な、迫力あるピアノに決して負けていない。

3者対等のピアノ・トリオ。その演奏の迫力たるや、素晴らしいものがある。録音した年は1971年。米国では商業ロックの台頭により、ジャズは混沌とした時代に入り、ポップス音楽としてのシェアを急速に落としていった頃。そんな時代に欧州ではこんなに内容のある純ジャズが演奏されていたんですね。ライブ会場の雰囲気も良く、少しマイルドになったテテのピアノがとても素敵に響きます。好盤です。

 
 
東日本大震災から7年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

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2018年11月23日 (金曜日)

ジャズ喫茶で流したい・134

ジャズ・ヴァイブのレジェンドと言えば、まずは「ミルト・ジャクソン(Milt Jackson)」。ジャジーでブルージーなヴァイブが身上で、テクニックは優秀、ファンクネス溢れるアドリブ・フレーズが最大の個性。伝説のカルテット、Modern Jazz Quartet(MJQ)の一員でも有名で、アーティステックでブルージーなヴァイブはMJQ、ファンクネス溢れる流麗なヴァイブはソロで、というのが定番。どちらが優秀ということでは無い。どちらもミルトの個性である。

そんなミルトの個性がふんだんに発揮された隠れ好盤がある。Milt Jackson & Ray Charles『Soul Brothers』(写真左)と『Soul Meeting』(写真右)。ソウル・ミュージックの大御所シンガー、レイ・チャールズとのコラボ盤である。『Soul Brothers』が1958年、『Soul Meeting』が1961年のリリースになる。このコラボ盤、ミルト・ジャクソンのヴァイブの個性を最大限に引き出しているのだ。

ソウル・ミュージックの大御所シンガーのレイは、ピアノとアルト・サックスでの参戦がメイン。1958年の『Soul Brothers』では正にアコピとエレピ、そしてアルト・サックスでの参戦でボーカルは全く無い。いわゆる、ジャズメン、レイ・チャールズとして、ジャズ・ヴァイブのレジェンドであるミルトと対峙している。で、これがまた絶品で、レイのジャズメンとしての才能も類い希なものがあったのだ。
 

Milt_jackson_ray_charles  

 
1961年の『Soul Meeting』では、レイはアコピとボーカルでの参戦だが、ボーカルは全く控えめ。レイはピアニストとして、ミルトのヴァイブに対峙する。これがまた相性抜群で、二人の楽器演奏の底に流れる「ジャジー・ブルージー・ファンクネス」が共通の個性として共鳴し、増幅されるのだろう。2枚とも演奏される曲はブルースがメイン。こってこてファンキーでブルージーな演奏ばかりで思わずウットリ聴き惚れる。

そんな音環境での演奏である。ミルトのヴァイブもファンクネス全開。ソロ演奏での最大の個性である「ファンクネス溢れる流麗なヴァイブ」が炸裂している。決して、前に出るような派手なパフォーマンスでは無いんだが、クールに熱気溢れるアドリブ展開で、レイのブルージーなピアノに完全フィットするのだ。この二人、よほど相性が良かったんだろうなあ。聴いていてどこかウキウキしてくる。

バックのジャズメンも燻し銀のジャズ職人揃い。ギターにケニー・バレル、ドラムにコニー・ケイ、ベースにオスカー・ペティフォード。このギターメインのリズム・セクションが実に渋い。特に、ケニー・バレルの漆黒なファンキー・ギターは絶品。ミルトとレイの「ジャジー・ブルージー・ファンクネス」な個性に、しっかりと追従していて素晴らしい。この2枚、我が国ではあまり採り上げられませんが、お勧めの好盤です。

 
 

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2018年11月22日 (木曜日)

チェスナットのピアノ万華鏡

お気に入りのピアニストの一人に「サイラス・チェスナット(Cyrus Chestnut)」がいる。ゴスペル・フィーリングを湛えた温かさと、スウィンギーなリズム、王道を行く流麗なバップ・フレーズ、ハッピーでポジティヴなタッチが素敵なピアニスト。1963年1月、メリーランド州ボルチモアの生まれ。今年で55歳。脂の乗り切ったベテラン・ジャズメンである。

そんなチェスナットがユニークな内容のピアノ・トリオ盤をリリースした。Cyrus Chestnut『Kaleidoscope』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Cyrus Chestnut (p), Eric Wheeler (b), Chris Beck (ds)。2018年4月29日、NYでの録音。収録された曲名を見れば良く判るが、クラシックの名曲やスタンダード等、様々な音楽をジャズ・アレンジしたピアノ・トリオ作品である。

冒頭の「Golliwog’s Cakewalk」には、思わずニンマリ。ドビュッシーの「子供の領分」から、第6曲 「ゴリウォーグのケークウォーク」で、このコミカルでジャジーな旋律は有名なもの。専門的に言えば、西洋音楽とアフリカの黒人音楽の接触の初期の例。チェスナットはジャジーにスインギーに弾き回す。これが冒頭の1曲である。後が大いに期待出来る。
 

Kaleidoscope_cyrus_chestnut

 
チェスナットは過去のアルバムで、クラシックの名品やポップスの有名曲のカバーを収録しているが、この盤では、相当に気合いをいれて、カヴァーする曲を選曲している。目を惹くのが、サティの有名曲「Gymnopedie No. 1& No.3(ジムノペディ)」「Gnossienne No.1 (グノシエンヌ)」、モーツアルトの「Turkish  Rondo(トルコ行進曲)」など、こんなクラシック曲をジャズ化するの、とちょっと不安になるような選曲。これらをスカッとしたアレンジでジャズ化。

9曲目の演奏には思わず声を上げて「あははっ」。曲名は「Smoke on the Water」。そう、伝説のハードロック・バンド、ディープ・パープルの人気曲である。前奏のリフが超有名で、その「チャッチャッチャー、チャッチャッチャチャー、チャッチャッチャー、チャチャー」をピアノで忠実にカヴァー。これがシンプルで実に良い。実際、昨年のオーストラリア公演で、聴衆の反応がとても良かったらしい。

とにかく、どの曲も素敵にアレンジされていて、聴いていて楽しい。何処かで聴いたことのあるフレーズが、あちらこちらに出てきて、思わずニンマリ、ニヤニヤ。あまりに優れたカヴァー曲ばかりなので、ちょっぴり「キワモノっぽい」香りもするが、そんな危惧も吹き飛ばしてしまう、チェスナットのドライブ感溢れるバップ・ピアノが素晴らしい。

 
 

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2018年11月13日 (火曜日)

今の時代の個性派な純ジャズ

以前から「ジャズは死んだ」とか「ジャズの進化は止まった」とか喧しいのだが、どうして、21世紀になっても、新しいジャズメンがどんどんとデビューしてくる。それも、旧来のジャズのコピーでは無く、今までに無い「新しい何か」を織り込んで、新しい雰囲気のジャズを聴かせてくれる。「ジャズは死んだ」なんてとんでもない(笑)。

Gerald Clayton『Tributary Tales』(写真左)。2017年の作品。ちなみにパーソネルは、Gerald Clayton (p), Ben Wendel (ts), Logan Richardson (as), Dayna Stephens (bs), Joe Sanders (b), Ben Wendel (bassoon), Justin Brown (ds), Henry Cole, Post Production (perc)。ほとんど知らない名前ばかりが並ぶが、テクニック優秀、将来有望な若手ジャズメンが中心。

リーダーのジェラルド・クレイトン(Gerald Clayton)はオランダの出身。1984年生まれ。2006年のセロニアス・モンク・ジャズ・ピアノ・コンペティションでは堂々の2位。クラーク・テリー、ラッセル・マローン、ロイ・ハーグローブなどと共演。ピアニストであり、アレンジャー&プロデューサーでもある、多彩な才能を持つ、今年で34歳の若手有望株である。
 

Tributary_tales1  

 
この『Tributary Tales』を聴けば、そのマルチなタレントを実感出来る。ピアノはリリカルで耽美的、系統としては「エヴァンス派」もしくは「メルドー派」。バズーンの音を活かした、ちょっとユニークなブラスのユニゾン&ハーモニーが聴きもの。この美しいアレンジとそれをバックにしたリリカルなピアノという構図は、ハービーの『Speak Like A Child』を彷彿とさせる。

基本は流麗なモード・ジャズ。そこにボーカルやコーラスを活かした「スピリチュアル」な雰囲気がユニーク。若干フリー・ジャズに走りそうになるところもスリリングで良い。演奏のスタイルは実にオーソドックスなもの。伝統的でメインストリームなジャズ。そこに時折「優しいスピリチュアルな響き」。耳に優しいニュートラルな響き。

ジェラルド・クレイトン4年ぶりの新作。聴きどころ満載。シンプルで自然な演奏が心地良い。決して思いっきり印象に残る個性では無いが、僕はクレイトンのアレンジャー&プロデューサーに魅力を感じた。自らのアレンジで自らのピアノをより美しく表現する。自作自演のピアニスト。寡作の人、であるが、次作が今から楽しむ。どんな「深化」を辿っていくのだろう。

 
 

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2018年10月29日 (月曜日)

ピアノ・トリオの代表的名盤・74

ジャズメンの評価の中で「弾きすぎる」とか「吹きすぎる」というものがある。どうも我々日本人独特の評価みたいなんだが、日本人のジャズ者の方々は、ジャズ演奏の「間」とか「奥ゆかしさ」を尊ぶきらいがある。音数を厳選し、決して多すぎず、最低限の音数でアドリブを展開する「間」と「奥ゆかしさ」。これを全てのジャズ演奏に適用したら、スッカスカの演奏になるものもあるとは思うんだが・・・。

僕は「弾きすぎ」と「吹きすぎ」については必要であれば良い、と思っている。とにかく目立ちたい、とにかく前へ出たいという「目立ちたがり」が故に、弾きすぎたり吹きすぎたりするのは、ジャズメンとして、というよりは、人としてどうか、と思うのだが、これは聴いていて五月蠅い。逆に必要な「弾きすぎ」「吹きすぎ」は耳に付かない。逆に爽快感さえ覚えることがある。

MIchel Camilo『Rendezvous』(写真)。1993年1月18〜20日のライブ録音。ちなみにパーソネルは、Michel Camilo (p), Dave Weckl (ds), Anthony Jackson (b)。超絶技巧のラテンジャズ・ピアニストとして高い人気を誇るMichel Camilo(ミシェル・カミロ)の爽快なライブ盤である。
 

Rendezvous_live  

 
カミロはカリブ海のドミニカ出身。カリプソやサルサからボサノヴァ、サンバといったラテン系の熱いリズムをベースに、オーソドックスなジャズ・ピアノの奏法にクラシック・ピアノのテクニックを融合した、端正かつ超絶技巧な疾走感溢れるピアノが個性。そんなカミロに、これまた端正かつ超絶技巧なベーシストのアンソニー・ジャクソンとドラマーのデイブ・ウェックルがバックから絡む。そう、このトリオ、明らかに調節技巧系の「弾きすぎ」ピアノ・トリオなのだ。

しかし、このカミロのピアノを聴いて「弾きすぎる」と評するなかれ。ラテンジャズの特質として、カリプソやサルサのダンサフルなリズムの必要条件として「弾きすぎる」疾走感とメリハリのあるビートは外せない。これが「間」や「奥ゆかしさ」を前提に展開したら、スカスカで間延びした、聴くに堪えないラテンジャズに成り果てる。ラテンジャズにとって「弾きすぎる」ほどの疾走感、爽快感は必要不可欠なのだ。

このライブ盤でのカミロの超絶技巧な「弾きすぎる」ピアノは決して耳に付かない。曲が終わる毎に爽快感が拡がる。アンソニーのベースもラインがとても美しく、弾きっぷりは骨太でソリッド。ウェックルのドラムは多弁で多彩なポリリズム。カミロのピアノとバランスと相性がバッチリで、適度なテンションの中、思いっきりかっ飛んだインタープレイが全編に渡って楽しめる。好盤である。

 
 

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2018年10月15日 (月曜日)

ジャズ喫茶で流したい・130

ビジネスの格言に「三方良し」という言葉がある。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。近江商人の心得で、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ、である。ジャズの「三方良し」は、というと「演奏良し」「アレンジ良し」「ジャケット良し」だろうか。

Igor Prochazka Trio『Easy Route』(写真左)。2008年のリリース。ちなみにパーソネルは、Igor Prochazka (p), Christian Perez (b), Federico Marini (ds)。IGOR PROCHAZKA =イゴール・プロハースカと読むらしい。ここでは「イゴール」で統一。チェコ出身、スペインを拠点に移して活躍中のピアニスト。この盤はイゴールのデビュー盤。

イゴールはこの盤に出会うまで、全く知らないピアニストであった。しかし、この盤は初めて聴いた時、ビックリした。まずは「誰やこれ」。そして「どの国のピアノ・トリオや」。聴けば聴くほど米国のジャズの音では無いことが明確になるんだが、音の適度なラフさが欧州南部かなあ、地中海沿岸かと思うんだが、イタリア・ジャズでは無い。
 

Easy_route_1  

 
チェコ出身でスペインが演奏拠点、と聞いて納得。この盤の面白いところは、欧州ジャズとは言いながら、4ビート・ジャズ一辺倒、モード・ジャズ一辺倒で無いところ。8ビートも積極導入しつつ、ソウルフルな雰囲気を醸し出すところもユニークで、ソウルフルな雰囲気は醸し出すくせに、ファンクネスは皆無、というところが如何にもスペイン・ジャズらしい。拘るところはトコトン拘るのだが、ええかげんなところは適度にええかげん。

でも基本はバップなんですよね。そして、さすがに欧州ジャズ、流麗で爽やか。バックのリズム隊も堅実かつダイナミックで、ベースはしっかり胴を鳴らし、ドラムは変幻自在のリズムを叩き出す。幼い頃に受けた、クラシック音楽の教育にしっかりと裏付けられた高度な技術と欧州ジャズ独特の馴染みやすいメロディセンス。とにかく聴いていて心地良い。全7曲で録音時間35分が「あっと言う間」。

理屈抜きで、聴き応えのあるピアノ・トリオ盤です。ジャケットも抜群に良い感じ。真っ青な空、乾いた黄土色の大地、そしてオレンジ・イエローのアンティーク車。この3つの要素が「これしかない」と思えるくらい、絶妙なバランスで配置されている。このジャケットはしばらく、ぼ〜っと眺めていても飽きないなあ。この盤、メジャーではありませんが好盤。一聴の価値あり、です。

 
 

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2018年10月14日 (日曜日)

ベニー・グリーン盤で活を入れる

このところ、ここ千葉県北西部地方は天気が悪い。全国の天気予報を見ると、どうも西日本は概ね秋晴れが広がっているのに、関東地方だけが天気が悪い。よくよく振り返れば、先週からほとんど晴れ間を拝んだイメージが無い。これだけ曇天が続くと気が滅入る。気が滅入ると精神的に暗くなる。これでは人としての生活に支障をきたす訳で、なんとか気持ちを持ち上げたくなる。

そういう時は好きな音楽を聴く。子供の時からズッとそうしてきた。今では好きな、自分にとって耳当たりの良く、気持ちに活を入れる様なジャズが一番良い。ジャズの中ではやはりピアノ・トリオになる。自分のジャズ盤のカタログを見ていて、今日は「これだ」という盤をチョイスする。ということで、今回、目についてチョイスしたピアニストが「ベニー・グリーン(Benny Green)」。

ベニー・グリーンは1963年4月、NYC生まれ。今年で55歳になる。バリバリ中堅のハードバップ・ピアニスト。端正でタッチの明確な、加えてメロディアスなアドリブフレーズが個性の「パウエル派」ピアニストである。彼の指回し、フレーズの展開は「バド・パウエル」の影響を受けていて、現代のハードバップなパウエルって感じのピアノが爽快である。
 

Thats_right

 
今日の選盤は、The Benny Green Trio『That's Right』(写真左)。1992年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Benny Green (p), Christian McBride (b), Carl Allen (ds)。 ベースがマクブライド、ドラムがアレン、これはかなり強力な布陣。ピアノがどんな弾き回しをしても、柔軟に対応するテクニックの高さが魅力。

端正でタッチが明確なところは「総合力で勝負」するタイプかな、とも思ったが、速い指回しと流麗なアドリブ・フレーズは、底にファンクネスが色濃く漂い、左手のベースラインが実にブルージー。フレーズそのものに重力感があって、暫く聴けば「ベニー・グリーン」かな、と判る位、明確な個性。聴いていて、胸がスカッとする。

この盤でも、ビ・バップな雰囲気でテクニック溢れ、強いタッチでバリバリ弾きまくる。雰囲気がガラッと変わったな、と思ったら、今度はモーダルな雰囲気でバリバリ弾きまくる。変幻自在、硬軟自在な指回しに惚れ惚れする。我が国ではあまり人気が無いように感じるが、この人のアルバムにはバラツキが無い。どの盤でも、ピアニスト「ベニー・グリーン」を感じることが出来ます。僕のお気に入りのピアニストの一人です。

 
 

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2018年10月12日 (金曜日)

完全復活の狼煙『Inside Out』

キース・ジャレットのリーダー作の聴き直しは続く。1998年、闘病の末、慢性疲労症候群から復活したキース。その頃、リリースした盤はさすがにイマイチだったが、1999年7月のライブ録音『Whisper Not』で完全復活を感じさせてくれた。少しだけ単調に展開してしまう部分はあったが、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事であった。

そして、次がこのライブ盤である。Keith Jarrett『Inside Out』(写真左)。2000年7月26 & 28日、ロンドンの「Royal Festival Hall」でのライブ録音。改めて、パーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」である。この盤は全編78分のCD1枚ものである。

このライブ盤でのキースのパフォーマンスは申し分無い。リリカルで力強いタッチ、イマージネーション溢れるアドリブ・パフォーマンス、緩急自在のチェンジ・オブ・ペース。そして、復帰後、明らかに新しい個性である「ライトなスイング感」。昔の様に、社交ダンスを踊る様な「意識したスイング感」では無い。シンプルに自然に揺らぐ「平常心的なスイング感」。
 

Inside_out  

 
そして、特筆すべきは「スリリング感」。寄らば切れそうな、ハッと息を吞むような、カジュアルなスリリング感。決して、この「スリリング感」についてはキースは売り物にしていない。しかし、この盤で聴いて取れる様に、スダンターズのスリリング感は痛快である。アドリブ・パフォーマンスについては予測不可能。予測不可能を前提に印象的なアドリブ・パフォーマンスが展開される。

収録されたどの曲でも、この新たな個性を体験することが出来る。ほとんどフリーに近い自由度の高いアドリブ・パフォーマンスが見事。僕はこの盤で、キースの完全復活を確信した。他の二人、ベースのピーコック、ドラムのデジョネットも見事。親分のキースが完全復活〜絶好調である。二人のリズム隊も飛ばしに飛ばしまくる。久し振りの三者一体となった、即興性に富んだインタープレイである。

この『Inside Out』は、即興演奏の展開に重きを置いて演奏されているように感じる。それでも、先の『Whisper Not』で感じた「シンプルで判り易い」部分はこの盤でも継承されている。確かに、闘病後、キースは変わったと思う。このアルバムで重きを置いた「即興演奏の展開」についても、とてもシンプルで判り易い。爽快感すら感じるほどのシンプル度。シンプルなキースは凄みが増す。

 
 

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2018年10月11日 (木曜日)

病気からの復活を示す記録である

1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活したんだが、その頃のソロ・ピアノが『The Melody at Night, with You』(2014年3月30日のブログ)。これはキースの宅録のアルバム化であったが、かなり内省的でシンプルな展開。どれもがスローなテンポで終始しており、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂う感じで、どうにもこれが「復活作」なのか、と訝しく思ったものだ。

そこに出たのが、先日ご紹介した『Whisper Not』(2018年10月5日のブログ)。このスタンダーズ・トリオのライブ盤は素晴らしい出来だった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。これが、慢性疲労症候群という難病と闘った人の復帰後の演奏なのか、とビックリした。キースは本当に病気だったのか、と疑いたくなるような爽快な内容だった。

と、この復帰後ソロ作とスタンダーズ作との差がなかなか腹に落ちなかったのだが、そこにこの盤が登場した。Keith Jarrett『After The Fall』(写真左)。1998年11月の録音。先にご紹介した『Whisper Not』の9ヶ月ほど前のライブ録音になる。恐らく、闘病後復帰の程無い時期では無いかと思われる。復帰作とされるソロ・ピアノ盤『The Melody at Night, with You』の数ヶ月後のライブ・パフォーマンスなのではないか。このライブ盤のお陰で、やっぱりキースは重い病気と闘ってきたんだ、と確信することが出来た。

 
After_the_fall
 

さて、このライブ盤、録音が良く無い。ECMレーベルの録音とは思えない。音の周りにうっすら霧がかかったような、音の輪郭がハッキリしない、ノッペリとしたメリハリの無い録音。ピーコックのベースは躍動感に欠け、ディジョネットのドラムは切れ味に欠ける。これではスタンダーズの演奏の全てが悪いという印象になってしまうので、録音が良く無いことを念頭に置きながら、キースのパフォーマンスを確認することが必要になる。

その録音の悪さを割り引いても、このライブ盤のキースの演奏はまだまだ本調子では無い。『The Melody at Night, with You』に通じる、仄かに沈鬱な雰囲気も底に漂うほど内省的で、指回しも明らかに切れ味が不足している。アドリブ展開もイマージネーションと閃きが不足気味で、キース独特の手癖でごまかしてしまうような、ちょっと平凡なフレーズも見え隠れする。これはどう聴いても、このライブでのキースは本調子では無い。まだまだ復調していない。逆に7ヶ月後の『Whisper Not』の素晴らしさが際立つ。

なぜ、今年の3月になって、『Whisper Not』のリリース後、18年経った今にこのライブ音源をアルバム化した理由が判らない。コルトレーンの名曲「Moment's Notice」などはもうヨレヨレ。まだまだ長いアドリブ展開は難しい時期だったようである。ジャズ者である我々に、闘病後に奇跡的復活を遂げた「人間キース」を感じて欲しかったのだろうか。僕はこの盤を「キースの病気からの復活を示すドキュメンタリー」と捉えている。

 
 

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2018年10月 8日 (月曜日)

ホレス・パーランの不運な好盤

ブルーノートの総帥、アルフレッド・ライオンは、是が非でもパーランに良いデビューをさせたかった。1960年はパーランのリーダー作デビューの年には、4枚のリーダー作がリリースされている。2枚は純粋なピアノ・トリオ。1枚は、2管フロントのクインテット。そして、最後の1枚がこのコンガ入りの変則ピアノ・トリオ。

ただ、なかなか上手くいかなかったのか、デビュー翌年の1961年に2枚のリーダー作がリリースされたが、次の1962年はリーダー作のリリースが無く、1963年の1枚がブルーノート・レーベル最後のリリースとなっている。以来、2018年9月25日のブログ(左をクリック)でご紹介した『Arrival』のリリース年である1973年まで、なんと10年間、沈黙したのである。

そのブルーノート・レーベル最後のリーダー作が、Horace Parlan『Happy Frame of Mind』。1963年2月15日の録音。ブルーノートの4134番。ちなみにパーソネルは、Horace Parlan (p), Johnny Coles (tp), Booker Ervin (ts), Grant Green (g), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。トランペットとテナー、そしてギターをフロントに据えたセクステット構成。
 

Happy_frame_of_mind  

 
セクステット構成と言えば、ジャズからしてかなり重厚な編成になる。音の厚みはかなりのものになるが、主役のピアノが前面に出る機会はトリオ構成に比べてかなり減る。しかし、収録曲6曲中、パーラン作の曲は2曲のみ。パーランの作曲能力をアピールする訳でも無く、パーランのピアノの個性を前面に押し出すことも無く、なんともはや中途半端なプロデュースである。ただ、この盤でもパーランのピアノの個性は良く判る。

右手の転がる様なフレーズのストロークが短く、この短いストロークを連続させることで流麗なイメージを創り出している。左手のブロックコードは、右手の流麗なフレーズに向けたアクセントとして響く。パーランのピアノは申し分無い。何故、もっとトリオ構成でリーダー作を出さなかったのだろう。バックのジャズメンも良い音出している。間の使い方が絶妙なコールズのトランペット、独特なフレーズで個性的なテナーのアーヴィン、そして、グリーンのシンプルでパキパキなファンキー・ギター。

ハードバップとして流麗で良い雰囲気でまとめられてはいる。ハードバップ好きからすると聴いて楽しめる盤ではあるが、突出した特徴や個性が希薄な分、地味な存在に甘んじている不運な盤である。ホレス・パーランというピアニストをメジャーな存在に押し上げるにはちょっと弱いかな。この盤以降、パーランのリーダー作はブルーノートからのリリースは途絶え、10年間の冬眠に入るのだ。

 
 

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