2022年11月15日 (火曜日)

ジャズ喫茶で流したい・254

1950年代の米国のウエストコースト・ジャズのアルバムは一聴すれば直ぐに判る、独特の「音の傾向」を持っている。小粋に洒脱にアレンジされ、バンド・アンサンブルは小洒落ていて、クールで落ち着いている。どのウエストコースト盤も、そういう音の傾向を持っていて、少なくとも冒頭から1〜2曲聴けば、ウエストコースト盤か否かが判る。

ビ・バップの様にそのテクニックを披露するジャズでもなければ、熱くブロウするジャム・セッションなスタイルでも無い。ウエストコースト独特のラウンジ・ジャズ志向、もしくは、室内でじっくり聴く鑑賞音楽としてのジャズ、つまり「聴かせるジャズ」でる。アレンジは、東海岸のハードバップよりも精緻でアカデミックで、しっかりと音楽理論に則った、事前にしっかり準備されたアレンジが大多数である。

Bud Shank and Bob Cooper『Blowin' Country』(写真左)。1956年11月29日と1958年2月18日の2セッションからの選曲。ちなみにパーソネルは、Bud Shank (as, fl), Bob Cooper (ts, oboe), Claude Williamson (p), Don Prell (b), Chuck Flores (ds)。

西海岸ジャズの人気アルト奏者、バド・シャンクと、洒脱なテナー奏者、ボブ・クーパーが2管フロントのクインテット編成。CDリイシュー時には、5曲のボートラが追加されているが、ここでは、LP時代の10曲収録盤での聴き込み。
 

Bud-shank-and-bob-cooperblowin-country

 
冒頭の「Dinah」の前奏のアルトとテナーのユニゾン&ハーモニーを聴けば、これは直ぐに、ウエストコースト・ジャズの優秀盤だと感じる。どの曲にも施される小粋で洒脱なアレンジ。特に、シャンクのアルトとクーパーのテナーによる、ユニゾン&ハーモニー、チェイス、コール&レスポンス、対位法的な掛け合い等、とてもよくアレンジされていて、聴いていて気持ちが良い。

シャンクのアルト・サックスが絶好調で、とても良い音を出している。負けじとクーパーのテナー・サックスも魅力的なフレーズを吹き上げる。特に、バラード演奏における、シャンク&クーパーは絶品。「聴かせるジャズ」の面目躍如、情感豊かに、歌心豊かに、素敵な「聴かせる」フレーズを連発する。他にシャンクはフルート、クーパーはオーボエを吹いて、クインテットのジャジーな演奏に良いアクセントを付けている。

バックを司る、クロード・ウィリアムソンのピアノを核としたリズム・セクションも良い。特に、ウィリアムソンのピアノは、洒脱で小粋で味がある。ウエストコースト・ジャズの雰囲気を代表するピアノのパフォーマンスだろう。

良いウエストコースト盤です。本当に久し振りにこの盤を聴き直したのだが、実にウエストコーストしていて聴き応え抜群。ウエストコースト・ジャズの代表盤の1枚として良い優秀盤です。
 
 

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2022年7月30日 (土曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・17

この盤が「フリー・ジャズ」の原点だ、とするのには違和感がある。この盤を聴けば「フリー・ジャズがなんたるかが判る」なんてことは無い。そんなにジャズは単純なものでは無いし、甘いものでも無い。

作った本人からすれば、一応「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。それでなければ、旋律を持った「音楽的な演奏」が成立していない。しかし、作った本人が、この「ハーモロディクス理論」について、精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これは、決定的に困惑する。

Ornette Coleman『The Shape Of Jazz To Come』(写真左)。1959年5月22日の録音。邦題は『ジャズ来るべきもの』。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as), Don Cherry (cor), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)。仰々しい邦題。この盤以降は、皆、この盤に録音されているジャズをやるんだ、なんて誤解を生むような邦題である(笑)。

この盤を聴けば、少なくとも、それまでのジャズ、いわゆる、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏とは全く異なる雰囲気であることは判る。といって、コールマンに対して批判的な方々が言う「でたらめ」な演奏では無い。コード進行とリズム&ビートに乗った演奏であるところは、スイングやビ・バップ、ハードバップな演奏と変わらない。

しかし、この盤では、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰まっている様に聴こえる。
 

Ornette-colemanthe-shape-of-jazz-to-come

 
当然、斬新に聴こえるし、革新的にも聴こえる。しかし、この盤はジャズの「イノベーション」では無い。従来のジャズに対する「アンチテーゼ」をベースに演奏した、当時のコンテンポラリーなジャズだと思う。

選ばれたコードは、いままでの伝統的なジャズが採用しないコードがてんこ盛りだし、リズムはスインギーな4ビートでは無い。無調志向の演奏もあるし、コードに基づかないユニゾン&ハーモニーの採用もある。それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやって、新しいジャズの音、響きを表現している様に感じる。

文字で書けば簡単に感じるが、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのって、ジャズマンとして、卓越した「自由度の高い」演奏テクニックと「それまでのジャズ」に対する卓越した知識が必要で、パーソネルを見渡すと、そういう意味で納得できるメンバーが厳選されている。

確かにこの盤に記録されている演奏は「ユニーク」。発想の転換であり、正論の裏を取った様な、一種「パロディー」の様な演奏である。これって、演奏自由度を最大限に発揮出来る「即興演奏」がメインのジャズだからこそ出来る、もしくは許される「技」である。

それまでの「伝統的」なジャズに無い、新しい響きを宿したジャズなので、ジャズのイノベーションに感じるのかもしれないが、今の耳で聴くと、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」であり、ましてや、フリー・ジャズの原点では無いだろう。

それでも、それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、をやるのは、録音当時、発想の転換であり、新しい響きのジャズを創造するという切り口では「アリ」だと思う。発想として面白いし、同業者のジャズマンとして、チャレンジのし甲斐のあるテーマだと僕は感じる。
 
 

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2022年6月28日 (火曜日)

猛暑の日々にラテン・ジャズ

先日、梅雨が明けた関東地方。梅雨明けしたら、しばらく暑い日が続くと言うが、それにしても暑い。暑過ぎる。連日の真夏日。朝からエアコンが無ければ、家の中でも過ごせない。これだけ暑いと思考も鈍る。もはや難しいジャズは聴きたくない。聴いて良く判る、聴いて楽しいジャズが良い。

『The Latin Jazz Quintet』(写真)。1960~61年、NYにて録音。ちなみにパーソネルは、Eric Dolphy (fl, b-cl, sax), Felipe Diaz (vib), Bobby Rodriges (b), Artur Jenkins (p), Tommy Lopez (congas), Luis Ramirez (timbales)。こってこてポップなラテン・ジャズ。しかし、フロント管に、エリック・ドルフィーが参加している異色盤である。

パーソネルを見て「なんなんだ、この盤」と思った。ドルフィー以外、ほとんど知らないメンバーばかり。タイトルから「ラテン・ジャズ」をやっている盤。しかも、ドルフィーがラテン・ジャズをやる、とな? これは途方も無い「駄盤」か、意外と面白い「異色盤」かのどちらかだ。しかし、この最近の酷暑で、難しいジャズは嫌だ。ということで、この不思議なラテン・ジャズ盤を聴くことにした。
 

The-latin-jazz-quintet_1

 
ドルフィーは独特に捻れたサックスを封印して、メンバーの一員として、調和の取れたパフォーマンス。しかし、サックスの基本が相当しっかりしているのだろう、良い音出している。フルートもバスクラも良い音出している。ラテン・ジャズの独特の旋律を、とても良い音で、とても良いブロウで吹き上げている。ドルフィーの全く違った、しかし別の優れた側面を聴いた様な気がして、不思議な高揚感にかられる。

収録曲が面白い。ラテン・ジャズの演奏でありながら、収録曲はジャズ・スタンダード曲がメイン。ラテン・ジャズの企画盤なので、ラテン・ミュージックのヒット曲などを選曲するのが常套手段だが、この盤は違う。ラテン・ジャズの企画盤なのに、収録された演奏は、ジャズ・スタンダードをラテン・ジャズ風にアレンジしたものばかり。これが聴いていて面白い。難しいことを考えること無く、ラテン・ジャズ風にアレンジするとこうなるのか、とあっけらかんと感心するばかりである。

全体の雰囲気は「ラウンジ・サウンド」風なんだが、演奏の基本がしっかりしているので、意外と聴き応えのある「ラテン・ジャズ」に仕上がっているのだから面白い。猛暑の日々に、肩肘張らずにリラックスして楽しんで聴けるジャズ。こういうジャズもたまには良い。
 
 

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2022年6月15日 (水曜日)

レアで幻のアルト・サックス奏者

長年、Twitterを利用している。自らも定期的にツイートしているが、他のジャズ者の皆さんのツイートの中に、小粋なジャズ盤の紹介ツイートがあって、いつも楽しく拝見している。これは、という小粋なジャズ盤のご紹介があった時などは、いそいそと該当盤を探し当てて、早速聴いている。一度も聴いたことの無い初見の盤もあるし、昔、聴いたことがあるが、しばらく御無沙汰だった盤もある。

『Jenkins, Jordan and Timmons』(写真左)。1957年7月26日の録音。プレスティッジ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、John Jenkins (as), Clifford Jordan (ts), Bobby Timmons (p), Wilbur Ware (b), Dannie Richmond (ds)。ハードバップ全盛期、デビューわずか1年で消えた、幻のアルト・サックス奏者、ジェンキンスが、テナーのジョーダン、ピアノのティモンズとの共同リーダーで、クリフォード・ジョーダンのテナー・サックスと2管フロントを構えたクインテット編成。

ジョン・ジェンキンスは、幻のアルト・サックス奏者。リーダー作をブルーノートからもリリースしているので、アルト・サックスの腕前は確かなもの。癖の無いストレートで、少しファンクネスのかかったアルト・サックスが個性。しかし、1957年に録音活動を集中して行った後、デビューわずか1年でその活動は途絶え、唯一、逝去直前、1990年にクリフォード・ジョーダンのビッグバンドに参加したが、1962年以降は完全に引退状態。
 

Jenkins-jordan-and-timmons

 
そんなジョン・ジェンキンスの数少ないリーダー作(共同リーダー作ではあるが)の一枚がこの『Jenkins, Jordan and Timmons』。リズム隊が一流どころで固めているので、安定したハードバップな演奏を聴くことが出来る。ジェンキンスのアルト・サックスは、少しファンクネスのかかった、癖の無いストレートで明るいものなので、クリフォード・ジョーダンの無骨でブラック・ファンクなテナーとのバランスが良く、フロント2管の演奏はなかなかの出来。

リズム隊の要、ピアノのティモンズは「ファンキー・ピアノ」の代表格の一人だが、この盤では、こってこてファンキーなピアノをグッと押さえて、アーバンで小粋なバッキングに注力している。ベースのウエアはちょっと捻りの効いたベースで、当時のハードバップな演奏にちょっとした「新しい響き」を与え、リッチモンドのドラミングは堅実そのもの。1957年のハードバップな演奏としては水準以上のレベルで、こってこてハードバップな演奏をしっかりと楽しめる。

プレスティッジ・レーベルからのリリースなので、ジャケットはほとんど「やっつけ」。それでも、今の目で見れば、ちょっと味のあるデザインかな、とも思う(笑)。録音とマスタリングは、かの「ルディ・ヴァン・ゲルダー」が担当しているので、音はまずまず良い。歴史に残る名盤というものではありませんが、ハードバップな演奏を楽しく聴くことの出来る「隠れ好盤」として、良い感じのアルバムでした。
 
 

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2022年5月 1日 (日曜日)

欧州の新しい響きの純ジャズ

雑誌Jazz Lifeの「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の記事を眺めていて、つくづく思うのは、現代では、意外と欧州でメインストリーム系の純ジャズが深化している様に感じる。本場米国では、どちらかと言えば、静的なスピリチュアル・ジャズや、ラップなどのストリート・ミュージックとの融合を目指したコンテンポラリー・ジャズが、新しいトレンドとなっている様だ。

Emile Parisien『Louise』(写真左)。2021年6月、仏アミアンでの録音。独の「現代の重要レーベル」ACT Musicからのリリース。ちなみにパーソネルは、Emile Parisien (ss), Theo Croker (tp), Roberto Negro (p), Manu Codjia (g), Joe Martin (b), Nasheet Waits (ds)。リーダーのエミール・パリジーンは、1982年生まれのフランス出身のサックス奏者。

リーダーのパリジーンとギターのマニュ・コジア(46歳)はフランス出身、ピアノのロベルト・ニグロ(40歳)はイタリア出身。ドラムのセオ・クロッカー(36歳)、ベースのジョー・マーティン(51歳)、ドラムのナシート・ウエィツ(50歳)は3人とも米国出身。欧州+米国の混成セクステットになる。年齢的にも中堅が中心の充実のセクステットである。
 

Emile-parisienlouise

 
このセクステットの表現する音世界は、従来は米国の新伝承派やM-BASE派がやっていたメインストリーム系の純ジャズ。加えて、その音は懐古趣味なものでは無く、21世紀の現在のメインストリーム系の純ジャズの響きをしっかりと反映して、最先端の「メインストリーム系の純ジャズ」なパフォーマンスが展開されている。

宣伝のキャッチに「現代のヨーロピアン・ジャズとアメリカン・ジャズが有機的に溶け合う、スリリングなグローバル・ジャズ」とあるが、これが実に「言い得て妙」。この盤に溢れるモーダルな音世界は、欧州ジャズの環境だからこそ、深化したものである。モード・ジャズの老舗、米国ジャズの伝統のパワーと、欧州で深化した純ジャズのスタイリッシュさが相互作用を引き起こして、新しい響きの純ジャズを展開している。

全9曲(うち組曲が3曲)聴き応えのある演奏ばかりで感心する。意外と我が国のジャズ・シーンでは注目度は低いみたいだが、この盤に詰まっている最新の「メインストリーム系の純ジャズ」は一聴に値する。もしかしたら、メインストリーム系の純ジャズの深化については、21世紀は「欧州ジャズ」が担うかもしれない。そんな予感がする優秀盤である。
 
 

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2022年4月17日 (日曜日)

ECM発マチェイ・オバラの新盤

欧州ジャズ・レーベルの老舗レーベルの「ECM(Edition of Contemporary Music)」。1969年、マンフレート・アイヒャーにより創設。以降、米国ジャズの基本となったハードバップとは一線を画する、欧州ジャズの特質を明確に宿した、即興演奏を旨とした「ニュー・ジャズ」をメインに活動した。

限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音が特徴で、ファンクネス皆無、透明度が高く、演奏のテクニックが高度な演奏が繰り広げられる。即興演奏を旨とするが、決して、フリー・ジャズに偏らない。というか、意外とフリー・ジャズ、アバンギャルド・ジャズは少数派。即興演奏を旨とするが、基本的にリズム&ビートはキープした中での、モーダルな演奏、無調な演奏がメイン。

新人ジャズマン、有望ジャズマンの発掘も積極的。特に、欧州各国における代表的ジャズマンの発掘に長けている。そんなECMレーベル、21世紀に入ってもその活動は順調で、毎年、コンスタントに新盤を一定数リリースし続けている。カタログに入っているアルバムも相当数に登っていて、最近ではカタログ番号順に聴き進めることは諦めた。カタログを見て、これは、と思った盤を聴くことにしている。

Maciej Obara『Three Crowns』(写真左)。2019年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Maciej Obara (as), Dominik Wania (p), Ole Morten Vagan (b), Gard Nilssen (ds)。リーダーのアルト・サックスとピアノがポーランド、ベースとドラムがノルウェー出身の混成カルテット。

いかにも、ECMレーベルらしい音世界に思わず聴き入ってしまう。限りなく静謐で豊かなエコーをはじめ、半世紀以上続くECM独特の音世界なのだが、演奏するメンバーが個性的なので飽きることは無い。
 

Three-crowns_maciej-obara

 
この盤のリーダー、マチェイ・オバラのアルト・サックスの音だって、ちょっと聴けば「ヤン・ガルバレクか?」と思うが、暫く聴き進めると、ガルバレクよりも音が少し明るく丸く暖かく、フリー&アバンギャルドな演奏にも長けているところがオバラ独特の個性。

オバラ作が6曲、Henryk Mikolaj Grecki(ヘンリク・ミコワジ・ゴレツキ)作が2曲。冒頭の「Three Pieces in Old Style (Part 1)」は漂う様な、ECMらしい繊細なバラードで、あまりの静謐さに「これはちょっと」と思うが、2曲目の「Blue Skies for Andy」の哀愁感溢れる、アグレッシヴでモーダルな演奏に俄然、聴く気が湧いてくる。現代の即興演奏に重点を置いたモード・ジャズの典型的な演奏が良い。ラストの「Mr. S」はしっとりとしたメロディーがキャッチャーな、自由度の高いバラード演奏。

他、即興演奏に重点を置いた印象的なモード・ジャズをメインに、フリー・ジャズあり、アバンギャルド・ジャズあり、現代のコンテンポラリーな純ジャズの良いところがギッシリ詰まっている。ワニアのピアノはリリカル、バーガンのベースはテクニック優秀で重量感豊かでしなやか、ニッセンのドラムは柔軟かつ堅実。実に充実したカルテット演奏である。

タイトルの「Three Crowns」は、ポーランド南部のピエニィニ山脈のトルツェコロニー山脈の頂上にちなんだもの、とのこと。ジャケットも前衛的なECMらしいものでグッド。

実を言うと、僕はこのジャケットに惹かれてこの盤を聴くに至った、いわゆる「ジャケ買い」盤だった。しかし、聴いて感心することしきり、さすがECM、現代のコンテンポラリーな純ジャズのいいところを押し出してきた。現代の欧州ジャズの注目株である。
 

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2022年4月 2日 (土曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・1

以前から、我がバーチャル音楽喫茶『松和』では、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌で取り上げられることが滅多に無いジャズの優秀盤をピックアップして、「小粋なジャズ」と名付けて流しているのだが、この「小粋なジャズ」の対象になるジャズ盤って、結構あるから面白い。ネットの時代になって、海外でリリースされたジャズ盤の情報が入手出来る様になって、更にその数は増えているから楽しい。

Jerome Richardson with Tete Montoliu Trio『Groovin' High In Barcelona』(写真左)。1988年5月22日、スペイン・バルセロナの「Estudi Gema」での録音。ちなみにパーソネルは、Jerome Richardson (as, ss), Tete Montoliu (p), Reggie Johnson (b), Alvin Queen (ds)。ジェローム・リチャードソンのサックスがフロント1管のカルテット編成。

Jerome Richardson(ジェローム・リチャードソン)は、米国出身のサックス奏者。1920年11月生まれで、2000年6月、79歳で惜しくも逝去している。リーダー作は5枚程度と少ない。しかし、サイドマンとして参加したアルバムは相当数に登る。僕はこのサックス奏者の名前を、ファンク・フュージョンの人気バンド、Crusadersの『Street Life』での冒頭タイトル曲でのアルト・サックスの印象的なブロウで知った。
 

Groovinhigh-in-barcelona

 
Tete Montoliu(テテ・モントリュー)は、スペイン・バルセロナ出身の盲目のバップ・ピアニスト。欧州ジャズの中でのネオ・ハードバップなバップ・ピアノが見事で、僕の大好きなピアニストの1人だ。そんなテテのピアノが、この盤の冒頭1曲目の「A Child is Born」の前奏から炸裂する。タッチは硬質でアタックが強いが、右手のフレーズは変則的に流麗。独特の音の飛ばし方が堪らない。この盤全般に渡って、テテのピアノがリチャードソンのサックスを好サポートしている。

リチャードソンのサックスがとても良い。テクニックは確か、音は少し丸みがあって、ストレートで凄く聴き心地が良い。時々、引用のユーモアを交えながら、魅力的なフレーズを吹きまくっている。速いフレーズも、ゆったりとしたフレーズも淀みや揺らぎや迷いが無く、スッと真っ直ぐに吹き切るリチャードソンのサックスは爽快だ。テテのピアノとの相性も抜群で、欧州ジャズの「ネオ・ハードバップ」な演奏のレベルの高さを実感する。

ベースのレジー・ジョンソン、ドラムのアルヴィン・クイーンも好演につぐ好演で、このクインテットの演奏のスイング感とグルーヴ感は「癖になる」。切れ味良く、クールで透明感があって、端正で明確。そんな欧州ジャズのハードバップの良いところがグッと凝縮されたような優秀盤です。こういう盤を「小粋なジャズ」盤って言うんだろうな。何度聴いても味わい深く、聴く度に新しい発見があります。
 
 

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2022年3月31日 (木曜日)

ユッコの『Colorful Drops』

jazzLife誌の「Disc Grand Prix 年間グランプリ」の記事を読んでいて、久し振りに「ユッコ・ミラー」の名前に出会った。当音楽喫茶『松和』でも、2019年10月27日の記事で、この人の3rdアルバムを取り上げたことを思い出した。

このサックス奏者が出てきた時は、「我が国もここまできたか」とビックリするやら嬉しいやら。キャンディー・ダルファーを知った時、「ジャズもここまできたか」とビックリしたのだが、このユッコ・ミラー、和製キャンディー・ダルファーと形容するのがピッタリな、コンテンポラリーなジャズ・ロック&ジャズ・ファンクを得意としている。

そもそも「ユッコ・ミラー」とは何者か、である。エリック・マリエンサル、川嶋哲郎、河田健に師事。19歳でプロデビュー。 2016年9月、キングレコードからファーストアルバム「YUCCO MILLER」を発表し、メジャーデビュー。「サックスYouTuber」としても爆発的な人気を誇る、実力派サックス奏者である。確かに、彼女のサックスは正統派なもの。テクニックもブロウも確かなもの。決して、ヴィジュアル指向ではない。

ユッコ・ミラー(Yucco Miller)『Colorful Drops』(写真左)。2021年10月のリリース。ちなみにパーソネルは、ユッコ・ミラー (as, ss, vo, ewi), 岡聡志 (g), 半田彬倫 (key, vln, program), 須藤満, 岡田治郎 (b), 則竹裕之, 渡邊シン (ds)。ユッコ・ミラーの 4thアルバムである。ジャケットを見て引いてはいけない。正統派な、現代のジャズ・ロックとジャズ・ファンクがギッシリと詰まっている好盤である。
 

Colorful-drops_yucco-miller

 
冒頭のジャズ・ファンク「Smoky Light」を聴けば、ユッコ・ミラーは素姓確かなサックス奏者であることが良く判る。続く「New Experience」はアップテンポの難曲なのだが、ユッコ・ミラーは元気一杯の明るいブロウを披露する。これが実に良い。3曲目のスローなファンク・チューン「Be Myself」では、大らかな吹き回しの中に、そこはかとなく漂う哀愁感に耳が引かれる。

ユッコ・ミラーのサックスは、音がしっかり出て淀みが無い。速いフレーズは流麗に、ゆったりしたフレーズは情感豊かに吹き上げる。聴いていて耳に付かない、聴き心地の良い音はしっかりと印象に残る。ジャズ・ファンクの中にそこはかとなく漂う「マイナーな哀愁感」は、ユッコ・ミラー独特の個性。僕は「日本人らしいなあ」としみじみと聴いた。

6曲目の「Stream」のユッコと半田のピアノとのデュエットも哀愁メロディー・オンリーで訴求し、8曲目のジャズ・スタンダード曲「Fly Me to the Moon」のボサノバ基調のカヴァーも秀逸。ユッコのボーカルも味があって良い。

先に書いたが「ジャケットを見て引いてはいけない」。正統派な、現代のジャズ・ロックとジャズ・ファンクがギッシリと詰まっている好盤である。フュージョン・ジャズ者の方々には一聴をお勧めしたい盤ですね。
 
 

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2022年3月30日 (水曜日)

今の耳には優秀なハードバップ

1960年代前半のジャズ・シーンって、面白かったんだろうな、と思う。ハードバップが成熟し、その成熟したハードバップを基に「ジャズの多様化」の時代になったのが1960年代前半。コマーシャルな面に力点を置いたのが「ファンキー・ジャズ」「ソウル・ジャズ」で、LPやEP(ジュークボックス)での売上に貢献した。アーティステックな面に力点を置いたのが「モード・ジャズ」「フリー・ジャズ」で、様々な「実験的なチャレンジ」が行われていた。

『Jackie Mclean Quintet (Blue Note)』(写真左)。1962年6月14日の録音。 ブルーノートの4116番。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Kenny Dorham (tp), Sonny Clark (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのマクリーンのアルト・サックスとケニー・ドーハムのトランペットがフロント2管のクインテット編成。

実はこの盤、ブルーノートお得意の「内容が良いのに何故かお蔵入りになった」盤の一枚である。4116番というカタログ番号まで用意されていたのに、録音当時はお蔵入り、その後、BN-LAのシリーズで、1967年の未発表と併せて『Hipnosis』(写真右)というタイトルの2枚組の中で発表されている。パーソネルを見渡すと「聴いてみたい」と触手が伸びる面子で、再発され、その後、順調にCDりいしゅーされたことを素直に喜びたい。
 

Jackie-mclean-quintet-blue-note

 
内容的には「成熟したハードバップ」である。フロントのマクリーンもドーハムも好調。長年、手慣れた「ハードバップ」のマナーの中で、バリバリ吹きまくっている。ソニー・クラーク以下のリズム隊もフロントのブロウに合わせて、「成熟したハードバップ」風のリズム&ビートを供給する。ファンキーでも無ければ、モードでも無い。ひたすら「ハードバップ」な演奏を繰り広げる。

そんな中で、ピアノのソニー・クラーク(以下、ソニクラと略す)が良い味を出している。このひたすら「ハードバップ」な演奏の中に、そこはかとなくマイナーでファンキーな雰囲気を醸し出しているのが、ソニクラのピアノだ。転がる様な流麗な右手が、フロントの2管を刺激する。負けずに流麗で疾走感溢れるブロウが、ソニクラのピアノに引き出される。

1960年代前半は「ジャズの多様化」の時代。セールスを追求するなら、モード・ジャズ(新主流派)やジャズ・ロック、ファンキー&ソウル・ジャズのいずれかでないと厳しかった時代。リアルタイムでこの「成熟したハードバップ」風の好盤をリリースするには、セールス的に厳しい、という判断があったのでは無いか。今の耳には優秀な「成熟したハードバップ」盤。1990年代、単独リイシューされて良かったと思う。
 
 

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2022年3月14日 (月曜日)

マクリーン独特のモード&フリー

ジャキー・マクリーン(Jackie Mclean)は進化するジャズマンだった。1950年代前半にNYに出てきて、いきなり、マイルスらにいじられ、鍛えられ、ハードバップ時代を代表するアルト・サックス奏者の1人になった訳だが、マクリーンはハードバップに安住すること無く、コマーシャルに走ること無く、当時のジャズの先進的な演奏スタイルに敢然と挑戦していった。

Jackie Mclean『Let Freedom Ring』(写真左)。ブルーノートの4106番。1962年3月19日の録音。ちなみにパーソネルは、Jackie McLean (as), Walter Davis, Jr. (p), Herbie Lewis (b), Billy Higgins (ds)。マクリーンのアルト・サックスがフロント1管の「ワン・ホーン・カルテット」。マクリーンのアルト・サックスのパフォーマンスが堪能出来る演奏編成。

前作『A Fickle Sonance』で、部分的に「少しフリーキーで自由度の高いモーダルな吹奏」にチャレンジしていたのだが、今回の『Let Freedom Ring』では、全面的に、時々フリーに、時々アブストラクトに傾きつつ、限りなく自由度の高いモーダルな演奏にチャレンジいている。マクリーンの吹奏には迷いが無く、確信に満ちた「フリー若しくはモーダル」な演奏は爽快である。
 

Let-freedom-ring

 
冒頭の「Melody for Melonae」を聴けば、それが良く判る。いきなり、アブストラクトにモーダルに力強くアルト・サックスを吹きまくるマクリーン。良く聴けば、コルトレーンのモード、オーネット・コールマンのフリーを上手く吸収して、マクリーンならではの「モード&フリー」な演奏を繰り広げている。

マクリーンの「モード&フリー」は、あくまで、軸足をハードバップに残しつつ、限りなく自由度の高い演奏を求めて「モード&フリー」な展開にチャレンジしている。この「軸足をハードバップに残しつつ」の部分が、マクリーン独特の感覚で、この『Let Freedom Ring』の4曲には、そのマクリーン独特の「モード&フリー」な演奏が詰まっていて、しかもそれが成功している。

バックのリズム隊、特に、ウォルター・ビショップJrのピアノの、マクリーン独特の「モード&フリー」な演奏に対する適応力にはちょっとビックリ。もともと能力に高いピアニストである。バックに回った時のサポートには、その能力の高さを再認識する。このリズム隊の健闘も含め、バンド全体が、マクリーン独特の「モード&フリー」な演奏に邁進している様は聴き応え十分である。
 
 

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