2022年6月19日 (日曜日)

カナダの「バップなジャズ新盤」

「小粋なジャズ」を探し漁っては聴いている毎日だが、「小粋なジャズ」は、何も以前リリースされた既発盤ばかりがその対象では無い。新盤の中にも「小粋なジャズ」は存在する。あまり馴染みの無いジャズマンの新盤をピックアップして、「小粋なジャズ」として当たった時は、とにかく気分が良い。

Cory Weeds『Just Coolin'』(写真左)。2021年9月15日、バンクーバーの「Will and Norah’s house」での録音。ちなみにパーソネルは、Cory Weeds (ts), Tilden Webb (p), John Lee (b), Jesse Cahill (ds)。CELLAR LIVE レーベル のオーナーであり、カナダを代表するサックス奏者、コリー・ウィーズの19枚目となるリーダ―・アルバム。

コーリー・ウィーズ(Cory Weeds)。19枚目となるリーダー盤なので、大ベテランの域のサックス奏者で、カナダを代表するサックス奏者とのことだが、僕は知らなかった。ネット上にも彼のバイオグラフィーについて、まとまったものは見当たらず、本当に、カナダを代表するサックス奏者なのか、とも思うが、この新盤から出てくるテナーは確かなもの。
 

Cory-weedsjust-coolin

 
もともとこの盤も「ジャケ買い」が切っ掛け。このジャケットのイラストに妙に惹かれた。リーダーの名前に馴染みは無かったものの、なんか良い音が出てきそうなジャケじゃないですか。思わず「ポチ」。出てくる音は、何も味付けも癖も無い、ストレートで端正なテナー・サックス。この盤、リーダーのウィーズのテナーがフロント一管の「ワンホーン・カルテット」なので、ウィーズのサックスがズバッと前面に出てくる。

ミッド・テンポのスインギーな演奏がメイン。ファンクネスは希薄、アーバンでジャジーなオールド・スタイルなハードバップをベースに、ウィーズのテナーが、クールにライトにスインギーにテナーを吹き上げていく。リズム隊は堅実にジャジーなビートを供給し、ウィーズのテナーをしっかりとサポートする。何の変哲も無い、味のある、小粋でバップな演奏なんだが、これが意外と小気味良い。

カナダ・バンクーバーの「フランキーズ・ジャズクラブ」でのギグの為に集まったカルテット。その素晴らしい演奏を聴いた友人がサポートを申し出て、当アルバムのリリースが実現したと言う。その演奏内容の確かさ、メンバーの演奏テクニックの高さから、カナダ・ジャズのレベルの高さを垣間見る想いだ。聴いて楽しい「小粋なジャズ盤」。現代のバップなジャズを楽しめる好盤です。
 
 

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2022年6月15日 (水曜日)

レアで幻のアルト・サックス奏者

長年、Twitterを利用している。自らも定期的にツイートしているが、他のジャズ者の皆さんのツイートの中に、小粋なジャズ盤の紹介ツイートがあって、いつも楽しく拝見している。これは、という小粋なジャズ盤のご紹介があった時などは、いそいそと該当盤を探し当てて、早速聴いている。一度も聴いたことの無い初見の盤もあるし、昔、聴いたことがあるが、しばらく御無沙汰だった盤もある。

『Jenkins, Jordan and Timmons』(写真左)。1957年7月26日の録音。プレスティッジ・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、John Jenkins (as), Clifford Jordan (ts), Bobby Timmons (p), Wilbur Ware (b), Dannie Richmond (ds)。ハードバップ全盛期、デビューわずか1年で消えた、幻のアルト・サックス奏者、ジェンキンスが、テナーのジョーダン、ピアノのティモンズとの共同リーダーで、クリフォード・ジョーダンのテナー・サックスと2管フロントを構えたクインテット編成。

ジョン・ジェンキンスは、幻のアルト・サックス奏者。リーダー作をブルーノートからもリリースしているので、アルト・サックスの腕前は確かなもの。癖の無いストレートで、少しファンクネスのかかったアルト・サックスが個性。しかし、1957年に録音活動を集中して行った後、デビューわずか1年でその活動は途絶え、唯一、逝去直前、1990年にクリフォード・ジョーダンのビッグバンドに参加したが、1962年以降は完全に引退状態。
 

Jenkins-jordan-and-timmons

 
そんなジョン・ジェンキンスの数少ないリーダー作(共同リーダー作ではあるが)の一枚がこの『Jenkins, Jordan and Timmons』。リズム隊が一流どころで固めているので、安定したハードバップな演奏を聴くことが出来る。ジェンキンスのアルト・サックスは、少しファンクネスのかかった、癖の無いストレートで明るいものなので、クリフォード・ジョーダンの無骨でブラック・ファンクなテナーとのバランスが良く、フロント2管の演奏はなかなかの出来。

リズム隊の要、ピアノのティモンズは「ファンキー・ピアノ」の代表格の一人だが、この盤では、こってこてファンキーなピアノをグッと押さえて、アーバンで小粋なバッキングに注力している。ベースのウエアはちょっと捻りの効いたベースで、当時のハードバップな演奏にちょっとした「新しい響き」を与え、リッチモンドのドラミングは堅実そのもの。1957年のハードバップな演奏としては水準以上のレベルで、こってこてハードバップな演奏をしっかりと楽しめる。

プレスティッジ・レーベルからのリリースなので、ジャケットはほとんど「やっつけ」。それでも、今の目で見れば、ちょっと味のあるデザインかな、とも思う(笑)。録音とマスタリングは、かの「ルディ・ヴァン・ゲルダー」が担当しているので、音はまずまず良い。歴史に残る名盤というものではありませんが、ハードバップな演奏を楽しく聴くことの出来る「隠れ好盤」として、良い感じのアルバムでした。
 
 

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2022年5月29日 (日曜日)

パイプオルガンとテナーのデュオ

ジャズは楽器を限定しない。旋律が奏でられるか、リズム&ビートが取れるか、でジャズ演奏に適応する。よって、ジャズの楽器選定には、この演奏形態はこれ、とか、この演奏トレンドの時はこれ、などという楽器の限定は全く無い。2人でやるジャズ「デュオ」においても、楽器を限定することは無い。

岩崎良子 & 竹内直『Meditation for Organ & Tenor Saxophone』(写真左)。2021年の作品。ちなみにパーソネルは、岩崎良子 Ryoko Iwasaki (Pipe Org), 竹内直 Nao Takeuchi (ts)。世にも珍しい、パイプ・オルガンとテナー・サックスによるデュオ演奏である。

ジャズにおいて、パイプ・オルガンを弾いたジャズマンは、ソロ演奏としてキース・ジャレットがいるが、以外にジャズでパイプ・オルガンを採用した盤を僕は知らない。

そもそもパイプ・オルガンは、教会やクラシック・コンサートホールに設置されている訳で、可搬性は全く無い。どこでも弾けるオルガンでは無い、加えて、演奏テクニックの難度が高い。よって、ジャズにおいてはなかなか採用されない楽器である。

岩崎はジャズ・ピアニストとパイプ・オルガン奏者の「二足の草鞋」を履くベテラン・キーボード奏者。竹内は「日本のコルトレーン」と評価も高いベテラン・サックス奏者。還暦を過ぎたベテランのジャズ・ミュージシャンが、異色のデュオに挑戦している。なお、収録曲は以下の通り。
 

Meditation-for-organ-tenor-saxophone

 
1.Goldbers Variations 【J.S.バッハ】
2.Wise one 【J.コルトレーン】
3.前奏曲とフーガイ短調 【J.S.バッハ】
4.My favorite things 【R・ロジャース】
5.Veni Emmanuel (久しく待ちにし) 【聖歌】
6.Naima 【J.コルトレーン】
7.Greensleeves 【聖歌】
8.Affter The Rain 【J.コルトレーン】
9.いと高きところにいます神にのみ栄光あれ 【J.Sバッハ】
10.Crescent 【J.コルトレーン】
11.Meditation for Organ 【A.ハイラー】
12.Amazing Grace 【聖歌】
 

バッハのジャズ化、聖歌のジャズ化、コルトレーンゆかりの曲のカヴァーがメイン。いずれも「スピリチュアルな」響きが独特な楽曲ばかり。パイプ・オルガンの雄壮で大らかな響きと、肉声の如く、エモーショナルな旋律を吹き上げるテナー・サックスの響きが思いのほかマッチして、スピリチュアルな雰囲気を増幅し、敬虔な雰囲気を醸し出す。

デュオ演奏をするのに、パイプ・オルガンである必然性は無いが、パイプ・オルガンもジャズに十分適応する楽器であることが良く判る。そして、管楽器との相性も良く、意外と「イケてる」デュオ演奏である。
 
 

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2022年5月27日 (金曜日)

また、コルトレーンの未発表音源

ジョン・コルトレーンの人気は未だ衰えない様だ。またまた「未発表音源」が発掘され、正式盤としてリリースされた。「John Coltrane奇跡のライブ音源発見」「音楽史を揺るがす大発見」と、宣伝のキャッチコピーは凄い表現を採用している。ちょっと大袈裟過ぎやしないか、と感じつつ、思わず訝しく思ってしまう(笑)。

John Coltrane『A Love Supreme : Live In Seattle』(写真左)。1965年10月2日、ワシントン州シアトル、ペントハウスでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane, Pharoah Sanders (ts). Carlos Ward (as), McCoy Tyner (p), Donald Rafael Garrett, Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds)。

コルトレーンの「黄金のカルテット」に、ファラオ・サンダース(ts) ~カルロス・ワード(as)~ドナルド・ギャレット(b) が加わった、計7名のセプテット編成。「至上の愛」は難度の高い曲と記憶するが、黄金のカルテットに3名のサポートを加えた7名編成で、分厚いアンサンブルが展開される。メンバーそれぞれの演奏力の高さが聴いて取れる。

演奏される『至上の愛』は、コルトレーンの生涯で、たった2回しか公のステージで演奏されなかったと伝えられる組曲。その組曲の幻の3回目のライヴ音源の発掘である。これまで『至上の愛』は、スタジオ盤と65年のフランスのジャズ・フェスティヴァルでのライヴ録音の2種類の演奏がリリースされていた。が、今回発掘されたシアトルでのライヴ演奏が録音されていたことは記録に残っていなかった、とのこと。

今回のライヴ盤の『至上の愛』は、4つのインタールードを挟み、4パートから成る組曲すべてが収録された貴重な音源。僕は、スタジオ録音盤の『至上の愛』しか聴いたことが無かったので、ライヴでの『至上の愛』は、スタジオ録音盤をどこまでライヴで再現しているか、が興味の中心だった。
 

John-coltranea-love-supreme-live-in-seat

 
スタジオ録音盤は、スタジオ録音であるが故、何度も取り直しが出来る。編集も比較的柔軟に対応出来る。よって、スタジオ録音盤の『至上の愛』は理路整然とした、リハーサルをしっかり積んだ、破綻の無い整った演奏だった。今の耳で聴けば、スピリチュアル性はしっかり担保されていたが、アヴァンギャルド性はちょっと後退気味な表現だった。

さて、今回のライヴ盤ではどうか。ちょっと録音が悪い分、大人しい感じの演奏に聴こえる。それでも、7人編成でこれだけ厚みのあるアンサンブルが取れるのは凄いこと。よくこれだけ難しい組曲を、ここまで理路整然とライヴ演奏出来るものだ、と感心する。さすがライヴ演奏だけあって、それぞれの演奏に個々の想いと個性が反映されていて、アヴァンギャルド性もしっかり担保されている。

録音バランスもあまり良く無く、エルヴィンのドラムがやたら前面に出てくる。主役=リーダーのコルトレーンのサックスがちょっと引っ込み気味なのが残念だが、音的には、しっかりとコルトレーンしていて、『至上の愛』はやっぱりコルトレーン率いる黄金のカルテットの演奏に限るなあ、と改めて思ったりする。

ライヴ音源なので、エルヴィンのドラム、タイナーのピアノ、ギャリソンのベースのロングソロもしっかり収録されている。しかし、これだけ、思いっ切り強烈な個性を持ったジャズマン達が、コルトレーン・ミュージックの志向を汲んで、コルトレーンの音世界を表現するのだから恐れ入る。どれだけの演奏テクニックを持っているんだか、感心することしきり、である。

このライヴ盤は、コルトレーン入りの黄金のカルテットによる『至上の愛』のライヴ演奏が聴けるところに最大の価値がある。録音の音質、バランスの問題はあるにせよ、生きているうちに『至上の愛』のライヴ演奏が聴けたことは幸いであった。ペントハウスのショーを録音した故ジョー・ブラジルと、50年後にテープを発見したスティーブ・グリッグスの2人に「感謝」である。
 
 

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2022年5月11日 (水曜日)

「変わらない」という素敵な個性

Dexter Gordon(デクスター・ゴードン、愛称「デックス」)は、生涯、そのテナー・サックスのスタイル、奏法を変えなかった。そのスタイルを変えない、というところが最高の個性で、デックスのテナーは、どのリーダー作でも「大らかで誠実でどこか哀愁感漂う」テナーは変わらなかった。実に素敵な個性である。

Dexter Gordon『The Tower of Power!』(写真左)。1969年4月2日&4日、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Dexter Gordon (ts), James Moody (ts,track 1 only), Barry Harris (p), Buster Williams (b), Albert "Tootie" Heath (ds)。冒頭の「Montmartre」のみ、デックスとムーディーのダブル・テナー、他は、デックス1管フロントの「ワンホーン・カルテット」編成。

この録音時期には、デックスは欧州(主にパリとコペンハーゲン)に移り住んでいる(1976年には米国に戻っているが)。米国でのレーベル契約を、BlueNoteからPrestigeに切り替えていたため、この盤は、プレスティッジ・レーベルでの録音になっている。プレスティッジでの録音と聞くと、お得意の「ジャムセッション一発録り」を想起して、内容について不安になるが、この盤は大丈夫だ。
 

Dexter-gordonthe-tower-of-power

 
ピアノはバリー・ハリス、ベースはバスター・ウィリアムス、ドラムスはアルバート・ヒース。バックのリズム・セクションも純ジャズの人気が落ちてきた当時としてはかなり充実していて、デックスの好調さと併せて、実に気持ちの良いハードバップな演奏が繰り広げられている。

1曲だけだが、ジェームス・ムーディーとの2テナーでの演奏も良い雰囲気。ムーディーも男性的でよく歌うテナーが持ち味で、デックスとバトるかな、と思っていたら、実に相性の良いデュエットといった趣で、これがムーディーで聴き応え十分。ラストの「Those Were the Days」は「悲しき天使」の邦題で知られる当時のヒット曲。哀愁感溢れる美しいフレーズをデックスが情感豊かに吹き上げて、実に印象的。さすがデックスである。

「Stanley the Steamer」は、デックスの古いオリジナル曲だが、こういったシンプルなブルースを「大らかで誠実でどこか哀愁感漂う」テナーで吹き上げていくところなど、やはりさすがデックスである。この盤、デックスのリーダー作の中でも、あまり話題に上らない「地味盤」だが、出会ったら絶対に聴くべし、である。往年の良質なハードバップが、デックスのテナーがこの盤に詰まっている。
 
 

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2022年5月 6日 (金曜日)

フォーチュンの「トレーンの魂」

ジャズにおいて、テナー・サックスの最高峰と言えば「ジョン・コルトレーン&ソニー・ロリンズ」。ロリンズはまだ存命中だが、コルトレーンは、1967年7月、今から55年前、早々に鬼籍に入ってしまっている。

それでも、コルトレーンはテナー・サックスの改革者の1人として、未だにフォロワーは多数、現在、第一線で活躍しているテナー・マンは、必ず一度はコルトレーン・ライクなブロウにチャレンジしているはずである。

コルトレーンには存命中からフォロワーが多数いて、「ストレートなブロウのスタイルの踏襲」派、「フリー&スピリチュアル・ジャズへの傾倒」派、と大きく分けて2種類に分類されるだろう。どちらのフォロワーも、どこかで「コルトレーン・トリビュート盤」をリリースしていて、コルトレーン・ライクなブロウにチャレンジした成果を披露している。

Sonny Fortune『In The Spirit of John Coltrane』(写真)。1999年7月9ー10日の録音。邦題『コルトレーンの魂』。ちなみにパーソネルは、Sonny Fortune (sax), John Hicks (p), Santi Debriano (b), Ronnie Burrage (ds)。何故か良くわからないが、どこか過小評価されてきたサックス奏者、ソニー・フォーチュンの「コルトレーン・トリビュート盤」である。
 

In-the-spirit-of-john-coltrane_1

 
演奏曲はフォーチュン作が7曲、コルトレーン作が2曲。フォーチュンのオリジナルは、コルトレーン作の「Countdown」や「Moment's Notice」からコード進行を借用している様で、しっかりとコルトレーンの楽曲の影響下で書かれている。

収録曲全9曲の楽曲の全てが「コルトレーンの楽曲の雰囲気」で統一されているのはそのためだ。といって、フォーチュンのサックスは、コルトレーンの単なるコピーでは無いので、コルトレーンのリーダー作、といった感じは全くしない。

コルトレーンの音世界をフォーチュン独特のサックスで表現している。その成果は見事。やや軽めの切れ味の良いストレートなブロウ。シーツ・オブ・サウンドなど、高速ブロウでの確かなテクニック、バラード演奏時の歌心。フォーチュンならではのブロウは聴き応え十分。

ジョン・ヒックスのピアノ、サンティ・ディブリアーノのベース、そしてロニー・バラージのドラムによるリズム・セクションが大健闘。また、ゲスト・ミュージシャンも充実していて、コルトレーン作の「オーレ」には、ラシッド・アリとレジー・ワークマンが、フォーチュン作の「フォー・ジョン」にはバタ・ドラムスのスティーブ・ベリオとフリオ・コラッツォが加わっていて、素敵な演奏を繰り広げている。

ジャケ写については、現在、米国Shanachieから発売されている音源のジャケットはイラスト(写真左)、日本キングのパドルホイールから1999年に発売されたCDはフォーチュンの横顔のアップ(写真右)。どちらも雰囲気のある良いジャケです。
 
 

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2022年4月26日 (火曜日)

ゴルソンの小粋なライヴ盤です。

我がバーチャル音楽喫茶『松和』の本館は「ジャズ専門」。エヴァーグリーンな名盤ばかり聴いていても、「ジャズ耳」の感性の幅は広がらないので、最近では、知る人ぞ知る「小粋な優秀盤」をピックアップして聴く工夫をしている。そんな「小粋な優秀盤」の中には、40年以上に渡って「ジャズ者」をやってきた中で、聴いたことの無い盤があるのだから「ジャズ盤の裾野」は広い。

Benny Golson『Up Jumped Benny』(写真左)。1996年5月23日、スイスの「Jazz Club Uster」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Benny Golson (ts), Kevin Hays (p), Dwayne Burno (b), Carl Allen (ds)。

録音当時、67歳のテナー・サックス奏者、ベニー・ゴルソンがリーダー、リズム・セクションを担う、ピアノのケヴィン・ヘイズ(録音当時28歳)、ベースのドウェイン・ブルーノ(録音当時26歳)、ドラムのカール・アレン(録音当時35歳)。大ベテランのゴルソンに、当時若手トップクラスのリズム隊のカルテット編成。

ゴルソンのテナー1管の「ワンホーン・カルテット」になる。ワンホーンなので、ゴルソンのテナー・サックスが心ゆくまで楽しめる。収録曲全7曲中、半数以上の4曲がゴルソンの曲。3曲がミュージシャンズ・チューン。自作曲もその他の曲も、ゴルソンのアレンジが「映える」曲である。
 

Up-jumped-benny_benny-golson

 
ゴルソンのテナー・サックスには、以前はあまり良い印象は持っていなかった。特に、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャースの音楽監督として参加していた時のゴルソンのテナーが、何か掴み所の無い「ウネウネ」したテナーで、その印象が強くて、後にゴルソンのリーダー諸作をしっかりと聴き進めるまでは、その印象は変わらなかった。

が、このスイスのライブ盤では、まずまず溌剌としたテナー・サックスが聴ける。ソロはちょっとゴツゴツしていて、流麗とは言い難いが、力感のある骨太なサックスで、「ゴルソン・ハーモニー」の優れたアレンジの後押しを受けて、意外と良い感じで響いている。バックのリズム隊は実に優秀で、適度なテンションの下、ゴルソンの癖のあるテナーをしっかりサポートし、しっかり鼓舞している。

この盤、聴いて思うのは、やっぱりゴルソン作の名曲って良いね。「I Remember Cliford」「Whisper Not」「Gypsy Jingle Jangle」の4曲。いずれも素晴らしい曲。今ではかなりのゴルソン曲がスタンダード曲化している。

このスイスのライブ盤、肩肘張らずに、ゴルソンをメインとするワンホーン・カルテットの演奏をじっくり楽しめる、なかなかの「小粋な優秀盤」である。
 
 

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2022年4月 6日 (水曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・5

ズート・シムス(Zoot Sims)は、玄人好みのサックス奏者である。というのも、コマーシャルなところが全く無いので、内容の良いリーダー作についても、ジャズ盤紹介本やジャズ雑誌にその名が上がることが少ない。ズートの正式盤については「駄盤無し」なのだが、我が国ではどうにもマイナーな扱いに甘んじているのが、実に歯がゆい思いがする。

Zoot Sims『Zoot at Ease』(写真)。1973年5月と8月、NYの「A&R Recording Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Zoot Sims (ts, ss), Hank Jones (p), Milt Hinton (b), Grady Tate, Louis Bellson (ds)。リーダーのズート・シムズのサックス1管がフロントのカルテット編成。いわゆる、ズートの「ワンホーン・カルテット」である。収録曲の中に「Rosemary's Baby(ローズマリーの赤ちゃん)」なんかが入っているのが、いかにも1970年代の録音らしい。

収録曲を眺めてみると、ハンク・ジョーンズ作の8曲目「Beach In The A.M.」以外は、ほぼスタンダード曲。しかも、この盤はズートの「ワンホーン・カルテット」。ズートのサックス奏者としての力量が露わになる内容である。しかも、録音年は1970年代。純ジャズの冷遇時代の中での録音である。ジャズ風のイージーリスニングになっていないか、聴くまでは不安だった。
 

Zoot-at-ease_zoot-sims

 
が、それは杞憂であった。この盤のズートのサックスは力強くて流麗、説得力抜群の吹きっぷりで、これぞズート、ズートのサックスはこれやないと、と感じて嬉しくなる。アレンジも優秀で、このアレンジのお陰で、ズートのサックスの魅力が倍増している。冒頭のアップテンポの「Softly, As In A Morning Sunrise」や7曲目のスイング感抜群「My Funny Valentine」など、手垢の付いた「どスタンダード曲」が、先読みできない優れたアレンジに乗って、新たな魅力を持った楽曲として甦っている。

しかし、ズートのサックスって良いなあ。バックのリズム隊も「渋い」メンバー揃い。ピアノのハンク、ベースのヒントン、ドラムのテイト、もしくはベルソン。ハードバップ時代から第一線で活躍してきた「強者」ばかり。決して、1950年代のハードバップ時代を踏襲したものではない、1970年代ならではの新しい感覚のアレンジに乗って、収録曲に並んでいるスタンダード曲に新しい魅力を加えている。

ズートのリーダー作に駄盤無し。結構な数のリーダー作がありながら、我が国では、玄人好みのサックス奏者、マイナーな扱いになっているのが不思議でならない。ズート・シムスとスタン・ゲッツとを比較して、「ズートには人気盤が無い」などという暴論もあるが、比較するのも意味が無いし、人気盤の有無など「何をか言わんや」である。ズートはズート。今回、この盤を聴いて、今一度、ズートのリーダー作の聴き直しを進めてみよう、という気になった。
 
 

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2022年4月 4日 (月曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・3

ハービー・ハンコックが主宰してヒットしたグループ「V.S.O.P.」の余波だったのか、1970年代終わりから、徐々にメインストリーム指向の純ジャズの録音が復活し出した。特に、日本発のレーベルはその機会を捉え、米国に渡って、ベテラン・ジャズマン中心に、意外と小粋な「ハードバップ盤」を録音・リリースしている。

Benny Golson Quintet Feat. Curtis Fuller『One More Mem'ry』(写真左)。August 19 and 20 1981年8月19, 20日、LAの「A&M Studios」での録音。ちなみにパーソネルは、Benny Golson (ts), Curtis Fuller (tb), Bill Mays (ac-p, el-p), Bob Magnusson (ac-b, el-b), Roy McCrdy (ds)。ゴルソンのテナー・サックスとフラーのトロンボーンがフロント2管のクインテット編成。

渋いテナー・サックス奏者&コンポーザー/アレンジャーのベニー・ゴルソンが、1959年から1962年にかけて、ジャズ・グループ「The Jazztet(ジャズテット)」を組んでいた相棒カーティス・フラーを迎えて、日本の「Baystate」に吹込んだハードバップ盤。1981年というフュージョン・ジャズ全盛期に吹き込まれたハードバップ盤で、聴き易さに重点を置いた録音になっている。

タップリとかかったエコーがちょっと気持ち悪いが、そこそこ良い音で録れている。さすが伝説の「ジャズテット」のフロントの2人、ユニゾン&ハーモニーがバッチリ填まっている。控えめではあるが、ゴルソン・ハーモニーもしっかり聴くことが出来て良好。さすがにゴルソン・ハーモニーは強烈で、聴けば直ぐにそれと判るハーモニーは素晴らしい個性である。
 

One-more-memry_golson_fuller

 
フラーのトロンボーンが好調である。良い音出している。この人のトロンボーンって、攻撃的では無くて、どこかホンワリ丸くて、中音域が充実した、実にほのぼのとしたトロンボーン。しかし、テクニックは抜群で、速く難度の高いフレーズもいとも容易く吹き切ってしまう。この盤でのフラーは何時になく「力強い」。ちょっとマッチョなトロンボーンに驚く。

加えて、ゴルソンのテナーが力強い。豪快で骨太でストレートに吹き上げる。こんなに力感溢れるテナーを吹く人だったっけ。1950年代の吹奏は「うねうねテナー」なんて揶揄されていた時もあるんで、この1981年の録音時のゴルソンのテナーの力強さにはビックリした。録音当時、ゴルソンは52歳。脂の乗りきったベテランの時期で、一番、充実していた頃なのかもしれない。

超有名曲「Five Spot After Dark」の再演も収録されている。フラーとゴルソンの力強い吹き回しのお陰で、オリジナルとは違った印象を受ける。力強く切れ味鋭い「ファイブ・スポット・アフター・ダーク」。オリジナルは、ちょっと霞がかかったような、深夜でアーバンな雰囲気が特徴だったのだが、今回の再演はその逆、とも言える力強さ。さしずめ「1980年代版アフター・ダーク」である。でも、内容は端正で熱演。出来は上々だと思う。

ピアノとベース、そしてドラムのリズム隊が、如何にも1980年代って感じで、若干、緩急・抑揚・陰影に乏しいところがあるが(特にエレ楽器にそれが言える)、ゴルソンとフラーの力強い吹き回しが断然上回っていて気にならない。当時の日本発レーベルでの録音としては、内容良好なものだと言える。ジャケットはイマイチだけど...。「小粋なジャズ」として、時々聴くのにうってつけの内容。好盤です。
 
 
 

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2022年4月 3日 (日曜日)

最近出会った小粋なジャズ盤・2

Ben Webster(ベン・ウェブスター)は、スイング時代からハードバップ時代を経て、1960年代のジャズ多様化の時代まで、長く活躍したテナー・サックス奏者であった。彼のテナーのスタイルは、ジョニー・ホッジスに影響を受けた、しっかりヴィブラートを効かせた完璧な「オールド・スタイル」。生涯、彼はこのテナーのスタイルを変えることは無かった。

ジャズ界は、サックスのスタイルについては、1950年代には「チャーリー・パーカー」、1960年代には「ジョン・コルトレーン」といった強烈なスタイリストが出現したが、スイング時代からの「オールド・スタイル」を貫いたが故、1950年代のハードバップ時代にも、1960年代のジャズ多様化の時代にも、ウェブスターは独特なポジションを確保し続けた。

Ben Webster『In A Mellow Tone』(写真左)。1965年5月14日, 15日、英国はロンドンの「Ronnie Scott's Club」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ben Webster (ts), Alan Branscombe (p), Lennie Bush (b), Jackie Dougan (ds)。ベン・ウェブスターのテナーがフロント1管の「ワン・ホーン・カルテット」。サイドメンは、皆、クラブの地元の英国のジャズ・ミュージシャン達である。
 

In-a-mellow-tone_ben-webster

 
ウェブスターのテナーは「オールド・スタイル」。とにかく「渋くてクール」。若い時にはピンと来なかった「渋さ」が実に心地良い。「I Got Rhythm」で好調に飛ばすウェブスターも、「Old Folks」のユッタリとした、情感豊かなウェブスターも基本的に「渋くてクール」。タイトル曲「In a Mellow Tone」のスイング感も抜群に心地良い。モダン・ジャズの「心地良い」部分が、このライヴ盤に散りばめられている。

地元英国のリズム・セクションも好演している。ブランズコムのピアノがとてもモダンで良い。タッチも明確、フレーズは淀みなく、正統派なもの。ブッシュのベースも素姓は確か。ピッチが合った流麗なロング・ソロは印象的。ドゥーガンのドラムは、このライヴ・パフォーマンスの「肝」。ウェブスターのサックスを支え、鼓舞し、リズム隊の要として、ジャジーでブルージーな「リズム&ビート」を叩き出している。

録音当時56歳。脂の乗りきったベテラン・ジャズマン、ウェブスターの好演。モダンでジャジーでブルージーなウェブスターのテナーが心ゆくまで楽しめる好ライヴ盤。英国のリズム隊も好演で、実に聴き応えがある。聴いていて「ああ、ジャズってええなあ」とつくづく思ってしまう。こういう盤を「小粋なジャズ」盤と言うのだろう。
 
 

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